マイクを持てば酔っぱらい

~平昌五輪期間中フィギュアスケート集中発信~

五輪2連覇でも満たされぬ 羽生結弦 【スポーツ雑誌風】

 平昌五輪の狂騒から2カ月。羽生結弦 の金メダルは劇的だった。ケガ明けぶっつけ本番,4回転ジャンプの種類も限定的という,これ以上ない「設定」(本人談)で獲った金メダルには確かな価値がある。しかし,2ヶ月が経っても,五輪2連覇のすごさが私の心に響いてこない。とても冷静に受け止めている自分がいる。

HanyuYuzuruPyeongChang2018

 世界選手権の欠場は,そう思わせる要因の1つだ。結局,ケガしたことで,NHK杯,グランプリファイナル,全日本選手権,さらには五輪団体戦まで回避し,ケガが癒えない状態でどうにか平昌五輪の金メダルは獲れたものの,世界選手権も欠場せざるを得なかった。平昌五輪のときだけ,瞬間的に熱狂が生まれたが,その後は穏やかな時間が流れている。全日本選手権欠場ながら特例での五輪出場や,団体戦回避という「優遇」がなされ,正々堂々の戦いとは言い難いものになってしまったし,もし金メダルを逃していたら,どれだけの非難が巻き起こったかわからない。だからこそ 羽生 は金メダルを獲るしかなかったのだ。

 この経緯を 羽生 は十分理解していたのだろう。五輪直後こそ多くの取材に応えていたが,その後の発言は聞こえてこない。五輪2連覇を達成はしたものの,表舞台でその栄光にひたる時間が長くなるのは許されないことを,羽生 は誰よりも感じとっていたに違いない。五輪2連覇の真の価値を 羽生 が享受するには,もう少し時間が必要なのだろう。

 もう1つ,私がもやもやするのは,ソチ五輪からの4年間,羽生 が圧倒的な強さを示せなかったことである。ソチ五輪シーズンの急成長と,ライバルたちの動向から,この4年間は 羽生 の独走が予感された。しかし実際のところは,毎シーズン前半のグランプリファイナルでは昨シーズンまで優勝し続けた(今シーズンはケガの影響で出場資格なし)が,シーズン締めくくりの世界選手権では,ソチ五輪直後は薄氷の優勝,そしてその後の2シーズンは ハビエル・フェルナンデス (スペイン)に連覇されて2位に終わり,昨シーズンやっと3年ぶりに優勝した。

 世界選手権は1位か2位であり,さらに2015-16シーズンには 330 点台という歴代最高得点を記録し,この記録は現在でも破られていない。世界ランキングもずっと1位に君臨し続けた。これらは十分に素晴らしい戦績だが,世界選手権を4連覇するだろうと勝手に期待した私からすると,物足りなさを感じてしまうのだ。また,この4年間,ケガや故障なしで過ごしたシーズンは1度もなく,アスリートとして最も大事なコンディション維持の面では,ずっと課題を抱えてきた。

 肝心な今シーズンに大きなケガに見舞われた要因の1つは,4回転ジャンプの種類や回数の急激な増加である。4回転ジャンプの精度や完成度が高い若手選手の台頭を受けて,羽生 は 4Lo や 4Lz(4回転ループ&ルッツジャンプ)に挑戦したが,今シーズンのケガは 4Lz の練習のときに起こった。羽生 は 4Lz を五輪シーズンになってプログラムに組み込んできたが,五輪シーズンに新たなジャンプを導入するのはリスクが大きい,ということを改めて示すものとなった。結局,ケガで 4Lo や 4Lz を使えず,4S と 4T(4回転サルコウ&トウループジャンプ)だけで平昌五輪の金メダルを手にしたのは,ケガの功名というよりは,やや消化不良感が否めないものだった。

 とはいえ,平昌五輪の戦いぶりは,羽生結弦 という選手が「逆境をエネルギーに変える能力がいかに傑出しているか」を示すものだった。東日本大震災でリンクの被災を経験。4年前,中国激突事故から1ヶ月後のグランプリファイナルをシーズンベストで優勝。このように何度も逆境を乗り越えた経験はあったが,それを五輪という究極の舞台で魅せたことは,圧巻としか言いようがないものだった。

 だがそれは「他の幸せを捨てる」(本人談)ことで達せられたことだった。五輪という大舞台に向けた逆境の乗り越え方がこれだったのだろう。ケガの回復状況が思わしくない中で,五輪という極めて特殊な大会の勝利を手繰り寄せるには「敵は自分」「自分が納得する演技をすれば結果は後から付いてくる」といった美しく理想を追究するアプローチは通用しない。羽生 は,歴代最高得点保持者のプライドを捨て「他者より0.01点上回ればよい」という現実的な戦いを思い描いたのではないだろうか。そしてこの考えは,昨シーズンから実践してきたことだったと私は推察している。

 ソチ五輪の翌年から2年間,世界選手権で優勝を逃した頃の 羽生 は,自分にとって最高の演技で優勝したいという思いにとらわれ,自分を追い込んでしまっていたように思う。昨シーズン,3年ぶりに世界選手権を優勝できたのは,他者に勝てばいいんだという現実的な考えを実践したからではないかと私は感じた。そしてこの成功体験が,平昌五輪にも生かされたのではないかと思う。

 その境地に達していなければ,4Lo を飛べない不安に押しつぶされたに違いない。4回転ジャンプが 4S と 4T だけでも十分戦えると考え,五輪直前はこの2種類のジャンプの回復に重点を置いていたはずだ。このジャンプが安定すれば,SP(Short Program,ショートプログラム)で先行して逃げ切るパターンでも,FS(Free Skating,フリースケーティング)で逆転するパターンでも大丈夫と考えたのだろう。結果はSP先行逃げ切りの形になった。

 各種インタビューを総合すると,FSのジャンプ構成は 羽生 自身が当日の朝に最終決断したそうだ。普通は,コーチと相談したり,コーチが決めたりすると思うのだが,難しい状況の中で自ら決断したとは驚きである。しかし,これだけの難しい状況の中でそれができるのが 羽生 なのだ。自分ができることを冷静に見極めたことが,上々の演技の実施になり,会場に熱狂の渦を生み,他の選手のミスを誘った。これほど会心の戦いは 羽生 史上最高と言って間違いない。それを負傷3ヶ月後の復帰戦,しかも五輪で遂行したのだから,羽生 の逆境への強さは,もう神の領域に到達したとしか言いようがない。

 ドラマティックな五輪2連覇ではあったが,自己ベストには10点以上及ばず,他者のミスによって獲れた金メダルでもあった。難しい状況の中で優勝をつかみ取ったという意味では価値ある金メダルだが,グランプリファイナル→全日本選手権→五輪団体戦 というステップをきちんと経て獲ってこそ本物であり,厳しい言い方をすれば「ただ五輪の金メダルだけを獲った」という,結果だけを手にしたような形になった。羽生 は五輪2連覇は手にしたものの,手にする過程には納得していないのではないか,心の中は満たし切れていないのではないか,そう私は察している。

 この4年間,羽生結弦 はライバルのスケーターよりも,自分の身体や気持ちと戦っていたように思う。次々と見舞われるケガや故障により,自分との戦いに集中せざるを得ず,ライバルとの戦いという本来の形にはなかなか至らなかった。しかし,宇野昌磨 や ネイサン・チェン (米)が 羽生 と互角に戦える実力を付けてきた今後の4年間は,羽生 にとって今までの4年間よりもはるかに厳しい戦いになるだろう。しかし,この厳しくしびれる戦いを 羽生 は待ち望んでいたはずだ。まずはケガを治し,ライバルとのハイレベルな戦いを1試合ずつ,1シーズンずつ,故障なく過ごしてほしい。それがさらに 羽生結弦 を強くし,その積み重ねの先に,五輪3連覇への挑戦が待ち受けているだろう。 (選手敬称略)

退職,そして腕一本で勝負

 本日付けで26年間務めた会社を退職いたします。退職後は,フリーランスで,ソフトウェアのある専門技術に関する適用推進活動(セミナー講師,書籍/記事執筆,コンサルティング等)に携わろうと考えています。

 フリーランスって,業界内でネームバリューが高い人,企業で要職を歴任した人,定年退職等キャリアを完了した人,副業が本業を超えちゃった人,そんな人たちがなるイメージだと思います。しかし私はそのどれにも当てはまりません。本業の仕事やお客様を受け継いだ,本業の傍ら着々と準備をしてきた,なんてこともありません。完全に0からの挑戦であり,傍目には無謀な挑戦にしか見えないと思います。

 何の勝算もなく挑戦するわけではありません。その専門技術に関して,今までに様々な経験を積み,日本人初(現時点では唯一)となる資格を取得し,業界内には普及の余地がまだ十分にあり,適用のサポートを必要とする組織や個人が多くいるはずだという感触はあります。ですが,本当にビジネスとして成り立つかどうかは,ふたを開けてみなければわかりません。リスクを取った先にあるのが,引く手あまたで大忙しとなれば理想的ですが,閑古鳥が鳴き生活が立ち行かなくなる危険性の方がむしろ大きいと思っています。

 でも,だからこそ,安定の大企業を退職し,退路を断ちました。独りで立ち向かってこそ見えてくる景色があり,人生を賭けるからこそ自分の仕事が確固たるものになると思うのです。これから取り組む仕事には人生を賭ける価値がある,そう信じているので,不安や恐れはありません。自分が本当にどれだけできるのか,ただただ楽しみです。後になって今日を振り返ったとき,お気楽なこと言ってあの後坂道を転げ落ちたぞ,とならないように,自分が持っているスキルを総動員して,頭と体をフルに使って,世間の荒波に飲み込まれずもがきながらも波をつかまえて,安定した生活と老後を送れるだけの稼ぎを上げられるよう,一生懸命頑張りたいと思います。

樋口新葉,友野一希 大躍進! 【世界選手権2018感想】

 五輪直後のフィギュアスケート世界選手権は,わりと退屈な大会になるのがお約束でしたが,今年の世界選手権は違いました。スコアは低調でしたが,番狂わせやドラマがあって,良い大会だったなぁと思います。

HiguchiWakaba2018WC 女子シングルでは 樋口新葉 選手がSP(Short Program,ショートプログラム)でミスしたのを見て,またしても大舞台で力を発揮できない悪癖が出るのかととても心配でしたが,今回は乗り越えました。FS(Free Skating,フリースケーティング)の 樋口 選手は,躍動感が素晴らしかったです。FSの 145 点に驚きはありませんが,PCS(Program Component Score,演技構成点)が 70 点に乗ったのは,今後に向けて大きな収穫だったと思います。他の選手が振るわなかったことで2位となり,五輪直後のチャンスをうまく生かして世界選手権銀メダリストの称号を手に入れました。

 例年の五輪直後は休養などを取る選手が多く,世界選手権の出場選手のレベルが下がりがちですが,今年はそんなことはありませんでした。ケガを抱える メドベージェワ 選手と,元々五輪だけで世界選手権の代表になっていない 坂本花織 選手以外,五輪に出場した主要選手が揃いました。樋口 選手は五輪に出場していませんので,彼らと条件が同じではありませんが,樋口 選手は五輪代表落選から立ち直るという厳しい道を歩んできましたから,今回の成績は胸を張れますね。とはいえ,やっぱり五輪直後の世界選手権ですし,スコアは平凡。世界選手権銀メダリストの称号を自信に変えて,来季以降長くトップレベルに君臨してほしいと願っています。

 宮原知子 選手も見事に3位に入りました。回転不足があったり転倒があったりしましたが,最高の演技を魅せた平昌五輪の後ということを考えれば,大崩れしなかったのがすごいです。ケガ明けでシーズンに出遅れながらも,きっちり責任を果たした 宮原 選手に,スケートの神様が,平昌五輪で獲れなかったメダルをここで授けてくれたような,そんな気がしました。

TomonoKazuki 男子シングルは何といっても 友野一希 選手。代役の代役(羽生結弦 選手欠場,補欠の 無良崇人 選手引退)でベストスコアが 230 点台だった選手が,一気に 256 点まで伸ばしてなんと5位入賞! 来年の世界選手権(日本開催)の日本出場枠3枠確保に貢献しました。友野 選手は11月のNHK杯で良い演技をして,それ以来私も注目していました。彼は「やってやろう」という雰囲気があって,大舞台に強い感じがしますね。

 FSは,冒頭の 4S(4回転サルコウジャンプ)で着氷が乱れましたが,それでも +2T(ダブルトウループジャンプ)を付けて連続ジャンプにしたので,次の 4S が単独ジャンプで良くなり,これを決めたことで波に乗りました。もし冒頭の 4S に +2T を付けなかったら,次の 4S を連続ジャンプにしないといけないので失敗する可能性はかなり高かったと思います。なので冒頭に連続ジャンプを入れたのは良い判断だったと思います。さらに,友野 選手は 3A(トリプルアクセルジャンプ)が安定しているのが素晴らしかったです。3A は2本とも連続ジャンプで,しかも +3T と +2T+2Lo という難しい2つを両方 3A に付けるというのは,それだけ 3A に自信がある証です。今シーズンはシニアデビューの年で,ビギナーズラック的な面もあったと思いますが,上述のように技術面もしっかりしており,かつメンタルも強そうなので,来シーズン本格的にどこまで戦えるのか,とても楽しみです。

 宇野昌磨 選手は靴の調整に失敗して,さらに足を痛めた中で,それでも2位を獲るあたりは強いなぁと感じさせてくれる結果でした。4回転ジャンプで3回転倒して普通なら心が折れるところですが,最後の3つの連続ジャンプを全て成功させるあたりに,宇野 選手の真骨頂を観ました。男子シングルで平昌五輪と世界選手権で両方表彰台に乗ったのは 宇野 選手だけなので,この安定感は高く評価されていいと思います。しかし,思い返すと,グランプリファイナル,四大陸選手権,平昌五輪,世界選手権の4大会連続銀メダルなんですよね。五輪までの3大会は優勝のチャンスが十分にありましたし,今回の靴の調整失敗やケガも選手としては反省すべき点です。性格が弟キャラなのはよしとしても,成績まで弟キャラではもったいないです。来年の日本開催の世界選手権に優勝を取っておいた,そう信じたいと思います。

 ネイサン・チェン 選手(米)は,見事に平昌五輪の雪辱を果たしました。平昌五輪は本当に地獄だったと思いますし,五輪のFSで超絶演技をしても「あれはSP失敗で開き直ったからこそできた」という評価になってしまうので,SPとFSを両方揃えたい気持ちは人一倍強かったと思います。他の選手が転倒祭り状態の中,強いメンタリティーと技術で,FSで平昌五輪を超えるスコア 219 点を記録したことは,世界チャンピオンに値するものでした。ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国),ヴィンセント・ジョウ 選手(米),また女子シングルでは アリーナ・ザギトワ 選手(ロシア)らが大崩れし,五輪からコンディションを維持する難しさをまざまざと思い知らされた一方で,チェン 選手や 樋口新葉 選手のように悔しさがバネになり,結果を残した選手の強さには本当に感動しました。

 悔しさからの復活に涙,ケガに耐える演技に涙,大崩れに涙。五輪直後の,過酷でドラマティックな世界選手権でした。

平昌五輪 男子シングル スコア分析:羽生結弦 は薄氷の勝利だった

 平昌五輪のフィギュアスケート男子シングルは,羽生結弦 選手が2連覇を達成しました。ケガ明けの2連覇という美談がどうしても目立ってしまいますが,どのようにして勝利を手繰り寄せたのか,そのスコア戦略や実際のスコアに言及する記事はほとんどありません。フィギュアスケートはスコアを争う競技なので,スコア戦略に着目して,羽生 選手の金メダルの要因を考えてみたいと思います。

 まず,主な選手に関する,FS(Free Skating,フリースケーティング)でのジャンプ構成やスコアの内訳を比較表にまとめましたのでご覧ください。下記画像をクリックすると,拡大表示されると思います。

FigureSkateScoreList2018MenResult

 この表は,本ブログ記事「男子シングル ジャンプ戦略比較」で作成した表を発展させたもので,技術点の高い順に一覧にしています。表の見方を,羽生 選手のデータを例にとって説明します。

 「4回転」「3回転(トリプル)」「2回転」の列は,メインジャンプ(単独ジャンプと,連続ジャンプの1本目)の本数を表します。上段(白い行)は演技時間前半,下段(水色の行)は後半に入れたジャンプの本数を示しています。羽生 選手のメインジャンプは,前半に 4S,4T,3F,後半に 4S,4T,3A,3Lz,3Lo を入れたことがわかります。「2連続」「3連続」の列は,連続ジャンプを表します。羽生 選手は2連続ジャンプで +3T(実際の組み合わせは 4S+3T)を後半に飛び,+2T は予定していたものの実際には飛べませんでした。3連続ジャンプは,+1Lo+3S(実際の組み合わせは 3A+1Lo+3S)を入れたことがわかります。

 「ジャンプBV」の列は,ジャンプで取るべき基礎点を表し,羽生 選手は 82.09 点を取れるはずだったことを示しています。そのうち,後半のジャンプで取る点数が 55.99 点で,それは全体の 68.2% であることがわかります。

 「スピン」の列は,実施するスピンの種類を表します。Sはシットスピン,Cはキャメルスピン,Co はコンビネーションスピンを表し,その前にF(フライング)とC(チェンジフット,足換え)の一方あるいは両方が付きます。

 「基礎点合計」の列は,ジャンプ・スピン・ステップ全て合わせた基礎点について,完全に実施できれば取れる点数(表の「完全」欄),そこから取りこぼした点数(表の「損失」欄),実際に獲得した点数(表の「実際」欄)を表します。羽生 選手は,完全に実施できれば 97.99 点の基礎点を取れるところ,5.43 点を取りこぼし,実際に獲得した基礎点は 92.56 点だったことを示しています。

 「基礎点損失詳細」の列は,基礎点を取りこぼした理由を記しています。羽生 選手の場合,以下の取りこぼしがありました。

  • 2本目の 4T を連続ジャンプにできなかったため,同種ジャンプの単独ジャンプが2本になり,2本目の基礎点が70%になった。この分の損失点数は,10.3(4T 基礎点)×1.1(後半ボーナス)×0.3(損失分は30%)= 3.40 点
  • +2T の連続ジャンプをどこにも付けることができなかった。この分の損失点数は,1.3(2T の基礎点)×1.1(後半ボーナス)= 1.43 点
  • ステップ(記号 StSq)が,レベル4を取れずレベル3になった。この分の損失点数は,3.3(レベル3基礎点)-3.9(レベル4基礎点)= 0.6 点

 これらの取りこぼし点数の合計が 5.43 点になるわけです。そして,表内のピンクの網掛けは,この取りこぼし箇所がどの要素なのかを示しています。×が付いている要素は,予定どおり実施できなかったことを表します。

 残りの列は「GOE による加点」「技術点」「演技構成点」「減点」「総得点」を表します。スコアの計算方法を知りたい方は,本ブログ記事「フィギュアスケートのスコアはどのように決まる?」をご参照ください。羽生 選手は,GOE の加点 16.99 点が基礎点に加算され,技術点が 109.55 点となり,演技構成点 96.62 点との合計で総得点 206.17 点を獲得しました。

 では具体的に,羽生 選手の戦略と,実際に何が起きたかを見ていきます。羽生 選手は,SP(Short Program,ショートプログラム)でトップに立ち,フェルナンデス 選手に 4.1 点差,宇野昌磨 選手に 7.5 点差をつけました。この点差なら,確実な演技をすれば勝てると考え,4Lo を回避して 4S と 4T を2本ずつ入れる構成にしたのだと思います。この構成は,私は事前に,本ブログ記事「羽生結弦,ネイサン・チェン のジャンプどうなる?」で,あまり好ましくない構成だと指摘していました。4回転4本は後半の体力が心配なので,4回転を3本にして 3A を2本にする方が得策だと私は思っていました。

 ですから,後半の 4T で着氷が乱れ,連続ジャンプにできなかったのを観て「だから 3A にしておけばよかったのに」と私は地団駄を踏みました。4T の失敗により基礎点が70%(7.93 点)になり,3A の基礎点(9.35 点:演技時間後半)よりも低くなってしまったからです。転倒なしで4回転が4本認定されたとはいえ,4本目はスコア上の貢献が小さかったのです。もしここで転倒していれば,今回のスコアから GOE で -2 点,転倒減点が -1 点,転倒によって全体の完成度が下がるので演技構成点で -2 点の可能性があり,計5点程度落としていたと思います。転倒しなかったので結果オーライですが,転倒していたらさらに僅差になり,他の選手の出来次第では危なかったと言えます。

 ただ,このあたりは 羽生 選手自身も十分に吟味したはずです。あえて 3A を1本にしたのは,4S や 4T でどれか1本回転が抜けてダブル(2回転)になってしまった場合に,後半の 3Lo を 3A に変えて基礎点を上げるリカバーを考えていたからだと思います。後半のしかも遅い時間に 4S や 4T をリカバーするのは,今回の 羽生 選手の状態では不可能でしたが,3A ならかなり遅い時間でも飛べると考えていたと思います。初めから 3A を2本入れると,良いリカバープランが組めないので,これらのことを総合的に考えて 3A を1本にしたのだと思います。

 3A の2本目というリカバープランは発動せずに済みましたが,4T+1Lo+3S が入れられなかった点は,3A+1Lo+3S を決めてリカバーしました。これは 3A が得意な 羽生 選手ならではの,プランどおりのリカバーだったと思います。このリカバーによって残った +2T は最後まで入れられませんでしたが,この損失は 1.43 点と小さなものでしたから,3A+1Lo+3S のリカバーが金メダルを引き寄せたと言っていいと思います。

 GOE の加点が 16.99 点というのは他の選手と比べればかなり多いですが,過去に 23 点もの加点を得たことがある 羽生 選手としてはやや物足りない点数です。着氷が乱れたジャンプが2回ありましたから致し方ないことですが,基礎点の5点以上の取りこぼしも合わせて,FSのスコアはけして高い点数ではありませんでした。結果は11点差がつきましたが,転倒していたら金メダルはなかった,と言っていい内容だったと思います。

 それでも,ケガ明け久々の実戦でありながら転倒なく演技を終えたことで,すごい演技だという印象を観客に与え,会場内の大歓声を生み出すことに成功しました。スコアよりも,会場の興奮や熱狂が 羽生 選手こそ王者に相応しいという雰囲気を醸成したと思います。直後に演技した フェルナンデス 選手(スペイン)や,演技を観ていた 宇野昌磨 選手が,その雰囲気に多少なりとも影響を受けたことは否めないでしょう。

 実際に,トータル 317 点台となった 羽生 選手は,ほぼ金メダルを手中に収めてはいましたが,わずかながら フェルナンデス 選手や 宇野 選手にもチャンスがありました。フェルナンデス 選手は,演技時間後半冒頭の 4S の回転抜けが全てでした。これで基礎点を約10点失っていますし,4S が綺麗に飛べれば GOE で2点の加点を得る可能性は十分にありますので,これらの12点があれば 羽生 選手との点差を埋められたのです。シーズン当初の不調を考えれば,よくこの1ミスで収めたという見方ができるのですが,その不調が五輪でも埋めきれなかったのは,フェルナンデス 選手の本来の実力を考えるともったいなかったと思います。

 宇野 選手は,基礎点の取りこぼしはほとんどなかったのですが,GOE 加点があまり得られなかったことと転倒減点が響きました。冒頭の 4Lo で転倒しましたが,4回転ジャンプで転倒すると GOE が自動的に -4 点になってしまうので,GOE 加点が伸びないのです。もし 4Lo が成功していれば,転倒減点 -1 がなくなり,GOE も +2 点の加点は可能なので,今回のスコアに7点ほど上乗せできました。羽生 選手が帰国後「宇野 選手の 4Lo が成功しても自分が勝つことはわかっていた」という趣旨の発言をしましたが,7点上乗せしても 羽生 選手との11点差は埋まらないので,この発言は的を射ています。

 ただ,それはあくまで今回のスコアに 4Lo の成功を当てはめた場合の話であって,他の要素も出来が良ければさらに GOE が上がり,ステップやスピンのレベルの取りこぼしもなかったかもしれませんし,ミスがなければ演技構成点もさらに上がったはずです。つまり,宇野 選手の演技全体が素晴らしければ,あと4点が埋まっても不思議ではありませんでした。宇野 選手が「ベストの演技をすれば勝てると思っていた」と発言したのはそういうことであり,4Lo が成功すればその後の演技も素晴らしいものになった可能性はあったわけです。4Lo の失敗によって 羽生 選手の金メダルが決まった形になりましたが,宇野 選手が 4Lo も含め全ての要素が成功していたら,どちらが金メダルなのかという点で最後の得点発表はもっと盛り上がったでしょう。

 ただ,もしそれで 宇野 選手が金メダルを獲ったら,それはそれで釈然としない雰囲気になった可能性もあったわけで,宇野 選手は実にわきまえた順位に収まったと言えるでしょう。羽生 選手がギリギリのところで転倒しなかったことが,会場の熱狂を生み,それが フェルナンデス 選手に 4S の回転抜けを起こさせ,宇野 選手の 4Lo 転倒につながった…正に 羽生 選手の五輪に全てを注ぎ込んだ執念の演技が,その後登場した2人のわずかな綻びを呼び込んだ,と言える戦いだったのではないかと思います。

 SPを完璧にしFSで逃げ切る。これが,今回の 羽生 選手が置かれた状況で打った最善手であり,これをきちんと遂行することでライバルのミスを誘いました。4回転ジャンプの種類を 4S と 4T に絞ったことは,ケガでやむを得なかったとはいえ,本当にプライドを捨てて勝利だけを獲りにいく戦略でした。羽生 選手がこれほどまでに勝負に徹した試合は今までなかったと思います。平昌五輪で魅せた勝負強さには 羽生結弦 というスケーターの神髄が凝縮されている,そう強く感じたのでありました。

平昌五輪 女子シングル 感想

 フィギュアスケートの全競技が終わりました。今回も始まってみればあっという間でしたね。女子シングルは,6位までは実力どおりの順位に落ち着いたという結果でしたが,感動しつつもなんだかモヤモヤするなぁという方もいらっしゃるようです。私のブログでは,試合の結果に対して感想を述べるときには,順位に対する言及は極力しないよう努めているのですが,今回は世間でも議論を呼んでいる話題なので,やや踏み込んで書いてみようと思います。

 まずは,宮原知子 vs オズモンド (カナダ)の銅メダル争い。宮原 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)共に,ノーミスどころか着氷のぐらつきも全くない完全完璧な演技で,SP約 76 点,FS 146 点台,トータル 222 点台と,全てのスコアが自己ベストでした。五輪という大舞台で,しかもケガ明け復帰からわずか3ヶ月しか経っていないことを思えば,内容,スコア共にパーフェクトでした。応援していた多くの方々が感涙されたと思いますし,特に現役や OB/OG のスケーターから大絶賛されていますね。無駄な動きが一切ない,研ぎ澄まされた様式美が 宮原 選手の持ち味ですが,それに加え今シーズンは,今までよりもスケートの伸びやかさが増し,感情の発露も増えました。ケガが癒え,スケートができる喜びにあふれ,体重も増やし(これを言われるのはご本人は照れくさいでしょうね),宮原 選手のバージョンアップが五輪で結実しました。

 一方の オズモンド 選手は,今シーズンFSがなかなかまとまらず,私は失礼なことにミスが出ると予想しましたが,実際には見事にまとめました。3Lz のエッジ違反疑い(エッジ違反までは取られなかった)とステップアウトで少し綻びが出ましたが,それ以外は崩れることなく全てのジャンプを決めました。終わった瞬間,詳しい方なら「宮原 選手のメダルはなくなったな」と分かったと思いますが,それでも 152 点台という点数が出たときは,150 点を超えるような内容だったかな?と首をひねった方もいたと思いますし,私もその1人です。

 宮原 選手がメダルに届かなかった要因,すなわち オズモンド 選手との差について,何人かの専門家が言及していますが,結果論で言っているような印象で,腑に落ちる論評を見つけることがまだできていません。GOE(Grade Of Execution,出来ばえ点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)の両方で差がついたのですが,GOE に関しては,オズモンド 選手について「ジャンプの幅や着氷後の流れが良かった」という意見が多くありました。着氷後の流れについては私も同意しますが,ジャンプの幅の評価についてはやや疑問を感じます。幅で飛ぶ選手もいれば,高さや回転の速さで飛ぶ選手もいるわけで,高さや速さだって良い評価を受けるべきです。宮原 選手は回転の速さが素晴らしいので,その点はもっと評価されていいと思います。ただ 宮原 選手は,回転がギリギリで着氷後の流れがあまり出ないのは確かで,それが GOE の評価が高まらない理由だとすれば,そこについては同意せざるを得ないところです。

 もっと解せないのは PCS です。宮原 71.24 vs オズモンド 75.65。1項目平均では,宮原 8.90 vs オズモンド 9.45 (小数点第3位以下切り捨て)。こんなに差があるとは到底思えないというのが私の感想です。宮原 選手を贔屓目に見てしまう点を差し引いても,宮原 選手の方が上か,もっと僅差であるべきだと思います。オズモンド 選手のダイナミックさは確かに素晴らしく,9点台に値するとは思いますが,1項目平均 9.1 前後が妥当な水準ではないかと個人的には考えます。一方,宮原 選手の余計なものが削ぎ落とされた洗練された美は,PCS の5項目のうち「パフォーマンス」(Performance)や「音楽解釈」(Interpretation of the Music)の項目においてもっと評価されてよく,1項目平均 9.2 程度出るべきだと思います。宮原 選手のような洗練された美というのは,欧米勢が大半を占める審判の方々にはきっと本質的に理解できないのではないかという気がしてきますし,何かと動作が多いロシア勢と比べ「もっといろいろできるのにサボっている」みたいに思われているのでは?とさえ思ってしまいます。

 宮原 選手に五輪メダルを獲ってほしかった気持ちは強いですが,既に世界選手権とグランプリファイナルのメダルは手にしていますし,何より世界中のファンやスケーターから寄せられた称賛は,メダルよりもはるかに価値が高いです。宮原 選手はSPとFSが両方ノーミス(転倒・回転不足・回転抜け・レベル取りこぼし・出来ばえ点マイナス 全てなし)でしたが,これは ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手と計3人だけが達成しました。また,五輪でのSP・FS両方ノーミスは,現行の採点方式になった2006年トリノ五輪以降,日本男女シングル選手では初めて(現時点では唯一)の偉業です。こういったことで私たちは自分を納得させつつ,オズモンド 選手の銅メダルに拍手を贈りたいと思います。

 続いて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手の金メダル争いを見ていきます。ザギトワの勝因として,演技時間後半に全てのジャンプを入れたことを挙げる記事が多いですが,これは本質を突いているとは言えません。確かに最もわかりやすい ザギトワ 選手の特徴ではあるのですが,メドベージェワ 選手もSPでは全てのジャンプを後半に配置し,FSでも他の選手より多い後半5本という策を採っています。後半全ジャンプより重要なポイントは「ザギトワ 選手が 3A を入れないジャンプ構成としては最高の構成を組んでいる」ことと「メドベージェワ 選手のジャンプ構成はかなり難度が低い」ことです。

 両選手のFSのジャンプ構成を比べてみます。★印は2本入れることを表します。

  • ザギトワ: 3Lz★, 3F★, 3S, 2A★; +3T, +3Lo, +2T+2Lo
  • メドベージェワ: 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T

 ザギトワ 選手は 3Lz と 3F を2本ずつ入れていますが,まずこれが高難度です。Lz と F は一方が苦手な選手が多く,どちらかは1本にせざるを得ない選手が多い中,どちらも苦にせず2本ずつ入れられる ザギトワ 選手のジャンプ技術が素晴らしいのです。そしてもう1つの武器は +3Lo の連続ジャンプです。もちろん,これを飛べること自体がすごいのですが,+3Lo を入れるもっと重要な意義は,3A を入れない場合の最高得点となる構成を組むことができる点です(なぜ最高得点の構成になるかの説明は割愛します)。ザギトワ 選手の技術点が高いのは「演技時間後半に全てのジャンプを入れている」や「3Lz+3Lo が飛べる」ことよりも「技術点が高くなるようにジャンプ構成を組んでいる」ことが根本的な要因なのです。

 一方,メドベージェワ 選手は 3Lz が苦手なので1本しか入れず,また3連続ジャンプでは,一般的な +2T+2Lo より難度が低い +2T+2T を採用しています。これは,ザギトワ 選手だけでなく他のトップレベルの選手と比べても基礎点がやや低い構成です。基礎点では無理をせず,ジャンプの完成度を極限まで上げて高い GOE を得ることでカバーするのが メドベージェワ 選手の戦略です。

 技術点の点差は,今までなら PCS で メドベージェワ 選手が跳ね返すことができていたのです。ところが,五輪直前のヨーロッパ選手権で ザギトワ 選手の PCS が跳ね上がり,6~7点あった差が2~3点に詰まったのです。メドベージェワ 選手は PCS で跳ね返すことができなくなり,ザギトワ 選手のミスを待つか,究極の演技で PCS をFSで 79 点台(1項目平均 9.875 点以上)にするしかなくなりました。メドベージェワ 選手の PCS は77点台に留まり,FSも ザギトワ 選手と同点にするのが精一杯でした。とはいえ,PCS 77 点台は1項目平均 9.68 点であり,もう満点に近い点数です。ですから,ザギトワ 選手の金メダルに疑問を抱くことは「ザギトワ 選手の PCS 75 点台は高過ぎるのでは?」と思うことと等しいのですが,私の意見は「ザギトワ 選手の PCS は妥当」です。絶対値としては高過ぎると思うのですが,それは メドベージェワ 選手にも当てはまると思っているので,両選手の差はこの程度だと考えます。

 ザギトワ 選手は,SPの完成度が素晴らしかったです。動作がキビキビとしていて,メリハリが今までと段違いでした。SPの PCS を,ヨーロッパ選手権の 36.28 点から平昌五輪で 37.62 点まで引き上げましたが,この 1.34 点の上積みは,奇しくも メドベージェワ 選手との 1.31 点差とほぼ同じであり,ヨーロッパ選手権から1ヶ月弱の成長分が ザギトワ 選手に金メダルをもたらしたことになります。

 FSで7本のジャンプを全て演技時間後半に入れている点について,アシュリー・ワグナー 選手(米)が異を唱えて話題になりましたが,彼女らしくない言い掛かりに近い指摘だと感じました。もし後半のジャンプがプログラム全体に調和していないなら,審判がもっと PCS を低くするはずですが,実際には メドベージェワ 選手に迫る PCS が出ていますし,私もそれを妥当だと感じています。ザギトワ 選手のFSプログラム「ドン・キホーテ」は,構成が実によくできています。このプログラムの良さを,私は昨年のフランス大会の感想のブログ記事で下記のように記しました。

冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。

 フランス大会では,演技時間後半にジャンプが矢継ぎ早に入る箇所に,以前感じていた違和感がなくなり,しっくりくるようになってきたと私は感じました。その後,グランプリファイナル → ロシア選手権 → ヨーロッパ選手権 と大舞台で実戦経験を積む中で,後半のジャンプがプログラムによく溶け込むようになっていったと思います。平昌五輪では,最初の 3Lz に +3Lo を付けられず,2回めの 3Lz に付けてカバーしましたが,それにより「連続ジャンプ3回の重厚さ」から「単発ジャンプ4回の小気味よさ」へと続く流れが崩れました。それで PCS が 75 点台になりましたが,ジャンプが全て予定どおりで完璧だったら,PCS がさらに上がり,メドベージェワ 選手の歴代最高のトータルスコア(241 点台)が塗り替えられていたと予想します。

 結局のところ,ザギトワ 選手の勝因は「高い技術点を実行し演技構成点の不足を補おうとしたが,実戦経験を経て演技構成点が急伸し,技術力,芸術性,完成度がバランスよく揃った」ことなのです。神プログラムである「ドン・キホーテ」を手に入れ,完璧に遂行した ザギトワ 選手が金メダルを手にしたことを,私は心から称賛したいと思います。

 一方の メドベージェワ 選手は,直近3シーズン,頂点を維持し続けたにもかかわらず,ケガと若手の突き上げによってまさかの銀メダルに終わったことで,同情を集めているところもあるのかなと思います。私も,ソチ五輪後の4年間という視野で見れば,メドベージェワ 選手が金メダルに最も相応しいとは思いますが,肝心の五輪シーズンにケガをしてしまっては,金メダルを逃すのもやむを得ません。彼女自身,シニアデビューシーズンでいきなり世界女王に輝きましたから,ザギトワ 選手の飛躍に納得していると思います。

 私は,彼女の今シーズンのFSプログラム「アンナ・カレーニナ」が,ずっとしっくりきませんでした。シーズンが始まってからプログラムを変更したようですが,そうしたことが準備の面で響いたことは否めないでしょう。ヨーロッパ選手権や平昌五輪では,ある種の気迫のようなものが感じられ,私はその気迫を好意的に捉えていましたが,プログラム全体の完成度を上げ切る前に平昌五輪を迎えてしまったのかもしれません。個人的には,昨シーズンやその前に演じていた,抒情性の高いプログラムで主人公の内面をしっとりと表現する方が,メドベージェワ 選手らしさが出たのではないかと,結果論ですが思ってしまいました。

 とはいえ,この2人の息詰まる同門生対決は,後世に語り継がれる名勝負でした。ヨーロッパ選手権で,後輩の ザギトワ 選手から優勝という形で挑戦状を叩きつけられた メドベージェワ 選手は,ケガからの復帰で一息つくことも許されず,モチベーションも緊張感も極限の日々を過ごしたことと思います。そして,それは五輪直前に思わぬアドバンテージを手にした ザギトワ 選手も同じだったと思います。そんな極限の状態でも,ミスとは無縁の,GOE や PCS でスコアの小数点以下を争う,本当に異次元の戦いでした。2人が記録した 238~239 点台は,当然,五輪史上最高スコアであり,それに相応しい極めて完成度の高い感動的な演技でした

 最後に,坂本花織 選手に触れておきます。FSはジャンプをふわっと着氷していて余裕がありましたし,パントマイムもとても自然にできていて,これは神演技になる…と思った6つ目のジャンプ 3Lo でステップアウト。それでも,209 点台という200点超えのスコアで6位に入賞したのは見事でしたし,SPで自己ベストを出しFSを最終グループで演技することができたのは,貴重な経験になったと思います。全日本選手権の直前から急成長して代表の座をつかみ,四大陸選手権で優勝して良い流れで平昌五輪を迎えましたが,団体戦FSでは不本意な出来で,これで個人戦が不甲斐ない成績だと「なぜ 坂本 選手を代表にしたのか」という声が出かねないところでした。日本女子2枠という難しい状況の中で,本当に素晴らしい成績を残したと思います。

 1年前,坂本 選手が世界ジュニア選手権で表彰台に一緒に上った ザギトワ 選手が,今や世界一。その演技を観て,いろいろ思うところがあったのではないかと思います。現役の日本女子選手で2人しかいない五輪出場者の1人として,今後もっともっと成長して,世界一を争える選手になっていくのではないか,そんな大きな期待をしながら,坂本 選手を今後も応援していこうと思います。

LadiesMedalistPyeongchang2018

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