フィギュアスケートのグランプリ (GP) シリーズ6戦が終了し,グランプリファイナル (GPF) の出場選手が決定しました。GPシリーズを振り返りつつ,来週,大阪で開催される GPF の見所を考えてみようと思います。
男子シングルの GPF 出場選手は,鍵山優真,宇野昌磨 の日本選手に,ネイサン・チェン,ヴィンセント・ジョウ,ジェイソン・ブラウン の米国選手たち,そして コリヤダ 選手(ロシア)の6名になりました。この中で唯一,GPシリーズを2連勝したのが 鍵山優真 選手です。SP(Short Program,ショートプログラム)では100点超えを達成し,FS(Free Skating,フリースケーティング)も200点到達が見えるレベルまで上がってきました。実は現時点で 鍵山 選手が世界ランク1位になっているのです! 2020年の四大陸選手権や昨季の世界選手権の好成績,そしてGPシリーズ2連勝が効いています。いよいよ GPF で,宇野 選手や チェン 選手との今季初対決。どんな競演を魅せてくれるのか,とても楽しみです。
宇野昌磨 選手も好調です。4Lo(4回転ループジャンプ)も成功させ,4T(4回転トウループジャンプ)の安定感が戻りました。あとは先駆者として 4F(4回転フリップジャンプ)の確実性が戻ってくれば,GPF 優勝も十分にあり得る状況です。
GPシリーズで好調さが目立っていたのが ヴィンセント・ジョウ 選手です。ジョウ 選手は昨季の世界選手権で,SP で大崩れし FS に進めませんでした(∵ SP の上位24選手しか FS に出場できない)。これは ジョウ 選手の実力ではあり得ないことでしたが,このことで米国の男子シングルは,五輪出場枠を2枠しか確保できないという事態に陥りました。3枠目を得るためには,9月開催の試合で所定の成績を修める必要があったのですが,ジョウ 選手はその試合で優勝し,自らの手で米国の3枠目を確保しました。おそらく,ジョウ 選手は大きな責任を感じて,この試合に照準を合わせたのでしょう。シーズン序盤からコンディションを上げていったことがGPシリーズの好調さにもつながったのだと思います。4Lz(4回転ルッツジャンプ)と 4F を両方飛ぶことができ,3A(トリプルアクセルジャンプ)も苦にしないので,技術点では チェン 選手を超えるものを持っています。GPF で完璧な演技ができれば優勝もあり得ますので,ジョウ 選手の演技もとても楽しみです。
続いて,女子シングルを見ていきます。GPF 出場選手は,坂本花織 選手が,ワリエワ,トゥクタミシェワ,シェルバコワ,コストルナヤ,フロミフ の5人のロシア選手と対決する形になりましたが,日本1 vs ロシア5 の図式は2年前の GPF と同じであり,驚きはありません。むしろ,坂本 選手がよくぞ GPF に進んでくれた,というのが正直な感想です。トゥルソワ,ウサチョワ 両選手の負傷が無ければ全員ロシア勢になる可能性が高かったですから,大阪開催の GPF で地元の神戸が近い 坂本 選手が出場することになり,良かったなぁと思います。
今季の注目は何といっても ワリエワ 選手でしょう。私は映像を観たことがなかったので,今までは前評判を冷静に受け止めていましたが,実際に映像を観た今となっては,大絶賛するしかありません。4回転ジャンプを2種類3本入れるだけでも驚異ですが,さらに 3A もあり,それらのジャンプは単に飛ぶだけでなく GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)が高く付く完璧なジャンプなのです。さらに驚くことには,スケーティングや表現力もシニアデビューとは思えないほど卓越していて,FS では「ボレロ」という,音楽が単調で表現が難しい難曲を,プログラム全体としてしっかり魅せることができているのです。FS の PCS(Program Component Score,演技構成点)は既に76点台(満点の95%)に到達していますが,スコアが過大だとは全く感じません。4回転ジャンプ,3A,GOE,PCS,といったフィギュアスケートで戦う要素の全てを持ち合わせた全能スケーター,それが ワリエワ 選手です。負傷が無ければ,北京冬季五輪の金メダルは ワリエワ 選手で決まりでしょう。
GPシリーズのロシア大会で,ワリエワ 選手よりも大きな拍手を浴びていたのが,同じロシアの トゥクタミシェワ 選手です。大半の女子シングルスケーターが10代で引退を余儀なくされているロシアにあって,20代半ばで代表争いに加わっている トゥクタミシェワ 選手は本当に希有な存在です。惜しみない拍手を送ったロシアの観客は,彼女が五輪代表になってほしいと思っていることでしょう。トゥクタミシェワ 選手の,10代には出せない表現力と存在感は圧倒的ですが,ジャンプの技術も素晴らしいものがあります。3A の助走の短さと力みの無さは際立っていて,演技の中に 3A が溶け込んでいます。トゥクタミシェワ 選手は3度目の五輪代表争いになりますので,正に3度目の正直で代表の座をつかんでほしいと願っています。
いつもはシングル競技が話題の中心ですが,今季はペア競技で日本ペアの大躍進がありました。三浦璃来・木原龍一 組が GPF に進出しました! GPシリーズ2戦連続の表彰台で,昨季から一気にレベルアップした印象です。シングル選手として頑張っていた頃の 木原 選手を知っている方にとっては,感慨深いものがあるのではないでしょうか。三浦 選手は昨季までジャンプに難がありましたが,今季はジャンプが安定してきているのが,好成績の要因の1つだと思います。上位6組の中でどこまで戦えるのか,とても楽しみです。
シングルを総括すると,羽生結弦,紀平梨花,トゥルソワ の各選手を欠いた以外,ベストメンバーが集結した GPF になったと思います。たいへん見応えのある試合になるものと期待していましたが,新型ウイルスの変異種への対応として,外国からの入国を原則禁止とする措置が講じられたことから,GPF の開催はおそらく中止されてしまうでしょう。あまりに過剰な措置とも思いますが,中止されれば,日本やロシアの選手は年末の国内選手権に向けた調整に注力できるので,選手にとってはプラスになる点もあるでしょう。いよいよ,五輪代表を決める戦いが大詰めを迎えます。