いよいよグランプリシリーズが開幕し,フィギュアスケートの本格的なシーズンが始まりました。既に報じられているように,今シーズンは大きなルール改定が行われ,スコアの算出方法も大きく変わりました。本ブログでは,平昌五輪直前に,スコアの算出方法を1枚の図「フィギュアスケートスコア計算説明図」にまとめましたが,この図にも改定ルールを反映しました。
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(昨シーズンまでのスコア計算説明図はこちらをご覧ください)
そこで,何が改定されたのかを交えて,改めてスコアの算出方法を見ていこうと思います。
スコアの骨格は,説明図の右側に縦に書かれた式で表されます。
総得点 = 技術点 + 演技構成点 - 減点
以下,この3つがどのように算出されるかを,説明図の言葉を追いながら説明していきます。図中記号 A を,以下 [A] と表記します。
◆技術点
技術点は,ジャンプ,スピン,ステップといった個々の技(これを「要素」と呼ぶ)の難易度や出来ばえを評価したスコアです。
[A] 基本点数
技術点は,要素を1つずつ点数付けし,それらを合計したものです。要素の種類やレベルは審判が判定しますが,各要素の点数(説明図では「基本点数」と呼ぶ。筆者造語)は,その難易度に応じてあらかじめ定められています。各要素の基本点数を図の左側に記しています。
ジャンプは,回転数と踏み切り方の種類(記号で書くと A,Lz,F,Lo,S,T)によって点数が決まります。連続ジャンプ(コンビネーションジャンプ)は,各々のジャンプの点数を合計した点数になります。ジャンプシークエンスとは,あるジャンプの後すぐにアクセルジャンプを飛ぶもので,各々のジャンプの合計の 0.8 倍の点数が与えられます。
【改定点】 ジャンプの基本点数が変更され,特に4回転ジャンプは大きく点数が引き下げられました。
スピンの点数は,スピンの種類,付加要素,レベルによって決まります。付加要素とは,スピンに入る際に跳ねるような動作を入れる「フライング」,スピンの途中で軸足を換える「足換え」のことを指し,1つのスピンでその両方が実施されることもあります。レベルは,その定義が決められており,実施されたスピンに対して審判がレベルを判定します。
ステップは,レベルによって点数が変わります。レベルの定義が決められており,審判がレベルを判定する点はスピンと同様です。
振付の自由な表現要素である「コレオグラフィックシークエンス」(略称:コレオ)は基本点数が固定で,出来ばえ評価が選手によって変わります。
【改定点】 コレオの基本点数が引き上げられました。
通常は,基本点数がそのまま基礎点[F]になります。ただし,以下のようなケースでは基礎点が上下します。
[B] ペナルティ①回転不足(アンダーローテーション:Under Rotation)
正しい回転より90度(角度)以上回転が少ない場合,回転不足と判定され基礎点[F]が本来の点数の 0.75 倍に減点されます。ちなみに,180度以上少ないとダウングレード(Down Grade)といって1回転少ないジャンプの基礎点になります。
《例: 3A (トリプルアクセルジャンプ)》
- 回転OK: 8.0 点
- 回転不足: 6.0 点 (= 8.0 × 0.75)
- ダウングレード: 3.3 点 (= 2A の点数)
②エッジ違反(エッジエラー:Edge Error,エッジ誤り:Wrong Edge)
ジャンプの踏み切りの際に,Lz(ルッツ)はスケートの刃を体の外側に倒す(アウトサイドエッジ),F(フリップ)は体の内側に倒す(インサイドエッジ)のが正しい飛び方です。これらの体の倒し方(エッジの使い方)を逆にしてしまうと基礎点[F]が本来の点数の 0.75 倍に減点されます。
③回転不足とエッジ違反が同時に発生した場合は,基礎点[F]が本来の点数の 0.6 倍に減点されます。
【改定点】 今まではこれらの減点は 0.7 倍でしたが,やや緩和されました。
[D] ジャンプ後半実施演技時間の後半に実施するジャンプのうち,SP(Short Program,ショートプログラム)では最後の1回,FS(Free Skating,フリースケーティング)では最後の3回に対して,基礎点[F]が 1.1 倍に加点されます。このボーナスはジャンプにだけ適用されます。
《例》 3A: 8.8 点 (=8.0×1.1)
【改定点】 今までは演技時間後半の全てのジャンプに加点されていましたが,加点されるジャンプの回数が制限されました。
[E] 同種単独ジャンプ重複
FSでは,3回転以上の同じジャンプを2回飛ぶ場合,少なくとも1回は連続ジャンプにするというルールがあります。しかし,転倒や着氷の乱れ等で2回とも単独ジャンプになってしまった場合,2回目のジャンプの基礎点[F]が 0.7 倍に減点されるという,ペナルティの一種です。
[F] 基礎点(BV: Base Value)
各要素の難易度をベースに,実施状況(上述の後半ボーナスやペナルティ)を加味したスコア。算出方法は,上述[A]~[E]をご参照ください。
[G][H][I] 出来ばえ(GOE: Grade Of Execution)
各要素がどのくらい良い出来だったかを評価してスコアに反映します。9人の審判が各々 +5 ~ -5 の11段階で評価[G]し,最高点と最低点を除外した7人の評価点を平均[H]し,評価±1ごとに 10% ずつ基礎点を加減するように出来ばえ点[I]を算出します。GOE 評価平均値が +5 ならば +50%,-5 ならば -50% となります。ただし,コレオは例外で,基本点数 3.0 に対して出来ばえ点は最大 ±2.5 となっています。
《出来ばえ点の計算例》
- 評価対象要素: 3Lz(トリプルルッツジャンプ)
- 審判9人の出来ばえ評価[G]: 3, 3, 3, 2, 2, 2, 1, 1, 0
- 最高点(3)と最低点(0)を除外:
3, 3, 3, 2, 2, 2, 1, 1,0 - 平均点[H] = (3×2 + 2×3 + 1×2) / 7 = 2
- 3Lz の点数[C]は 5.9 (回転不足,エッジ違反なし)
⇒ 出来ばえ点[I] = 5.9 × (2 × 0.1) = 1.18
【改定点】 評価の幅が +3 ~ -3 の7段階から +5 ~ -5 の11段階になりました。また,出来ばえ点の計算方法が,従来の「GOE評価点の 1 / 0.7 / 0.5 倍」から「基礎点の XX%」に大きく変更されました。
GOE という言葉は,+5 ~ -5 の評価点[G]を意味する場合と,出来ばえ点[I]を意味する場合があるので要注意です。Grade という言葉の意味からすると前者が真の GOE で,後者は「GOE による加点/減点」と呼ぶべきと考え,この説明図では前者を GOE としています。
出来ばえ点がどの値に基づいて計算されるかについて,よく「基礎点の最大 50% の出来ばえ点が付く」というような説明がされますが,「基礎点」という言葉もまた,文脈によっていくつかの意味で使われるので,正確な点数を考えるときは要注意です。
- 各要素に元々付与されている点数(説明図では「基本点数」[A]と呼ぶ。筆者造語)に,回転不足やエッジ違反の減点[B]を加味した点数(説明図では「実施点」[C]と呼ぶ。筆者造語)が,出来ばえ点の算出に用いられます。すなわち,回転不足やエッジ違反があると,プラスの GOE でも出来ばえ点が伸び悩むことになります。
- ジャンプの後半実施ボーナス[D]や,同種単独ジャンプ重複による減点[E]は,出来ばえ点には影響しません。これらは基礎点[F]の算出にのみ用いられます。
- 説明図において「基礎点」という言葉は,要素の難易度をベースに,実施状況(後半ボーナスやペナルティ)を加味した,出来ばえ点を加算する直前のスコア[F]を意味します。説明図における「基本点数」や「実施点」のことを,試合中継やニュースで「基礎点」と表現される場合が多々ありますので,文脈に応じた解釈が必要です。
[J][K] 技術点(TES: Technical Element Score)
基礎点[F]に出来栄え点[I]を加算したものが各要素の技術点[J]で,これを全要素分合計したものが,演技全体の技術点[K]です。シングル競技では,SPの要素は7つ(ジャンプ3,スピン3,ステップ1),FSの要素は12個(ジャンプ7,スピン3,ステップ1,コレオ1)です。
◆演技構成点
演技構成点は,演技全体の完成度を評価したスコアです。以下に説明する5つの評価観点(コンポーネント)があり,これらはよく,ファイブコンポーネンツ(5 components),あるいは単に「コンポーネンツ」と呼ばれています。
- Skating Skill(略記記号 SS)… スケート技術
スケーティング全体の正確さと確実さを,下記の観点で評価します。
・ 深いエッジ,ステップおよびターンの利用
・ バランス,リズミカルな膝の動き,足運びの正確さ
・ 流れと滑り
・ パワー,スピード,加減速の多様な利用
・ あらゆる方向へのスケーティングの利用
・ 片足でのスケーティングの利用 - Transitions(同 TR)… つなぎ
すべての要素をつなぐ,複雑なフットワーク,ポジション,動作が多様であることと,これらをはっきりとした目的を持って用いることを,「ある要素から別の要素への動作の連続性」「多様さ」「難しさ」「質」といった観点で評価します。 - Performance(同 PE)… パフォーマンス
音楽と構成の意図を伝える際にスケーターの体の動き,感情の表現,知性の表出が十分にあることを,下記の観点で評価します。
・ 体の動き,感情の表現,知性の表出および投射
・ 身のこなしと動作の明確さ
・ 動作とエネルギーの多様さとめりはり
・ 個性/人柄 - Composition(同 CO)… 構成
計画的,発展的,独創的な各種動作の構成に関して,下記の観点で評価します。
・ 目的(アイデア,コンセプト,ビジョン,雰囲気)
・ パターン/氷面の十分な利用
・ 空間の多次元的な利用と動作のデザイン
・ フレージングと形式(動作および部分が音楽のフレーズに合っていること)
・ 構成の独創性 - Interpretation of the Music(同 IN)… 音楽解釈
音楽のリズム,特徴,内容を個性的に,創造的に,偽りなく,氷上の演技へ移し換えることを,下記の観点で評価します。
・ 音楽(タイミング)にあった動作とステップ
・ 音楽の特徴/感情の表現,およびはっきりと識別できるときにはリズムの表現
・ 音楽の細部とニュアンスを反映するフィネス(スケーターによる音楽の細部とニュアンスの動作を通じた技巧的かつ洗練された取り扱い)の利用
上記説明はやや格式張っていますが,下線を引いた箇所と箇条書きの箇所は,国際スケート連盟(ISU)発行の「技術規程」の翻訳(日本スケート連盟発行)の表現を引用しています。
[L] 評価点
上記5つの項目各々について,10点満点,0.25点刻みで9人の審判(GOE の審判と同じ人)が採点します。
[M] 演技構成点(項目別)
最高点と最低点を除外した7人の評価点[L]を平均した点数。テレビや新聞記事で解説者が「構成点が8点台後半」などと言った場合,8点台後半とはこの点数を指しています。この点数が9点台なら超一流の証で,世界で男女シングル各数名しかいません。
[N] 係数
技術点[K]と演技構成点[O]の比率が,ほぼ1:1になるように調整するための係数で,女子SP: 0.8 倍,女子FS: 1.6 倍,男子FS: 2.0 倍と定められています。男子SPは,係数を適用しません(係数1倍)。
[O] 演技構成点(PCS: Program Component Score)
5項目の点数[M]を合計(満点は50点)し,演技種目に応じた係数[N]を掛け算した点数。演技構成点の満点は,
- 男子 SP: 50 点,FS: 100 点
- 女子 SP: 40 点,FS: 80 点
◆減点[P]
最も多い減点は転倒です。1回ごとに1点減点で,3~4回目は2点減点になります。例えば,3回転倒すると4点減点になります。他には,
- 演技時間超過: 1点
- 演技の開始姿勢を取るまでの準備時間超過: 1点
- 衣装の一部がリンクに落下: 1点
◆総得点の見方
係数[N]の調整の意味からわかるように,
- 男子 SP:100 点,FS:200 点
- 女子 SP:80 点,FS:160 点
は満点に相当することになります。実際には,以前より難しいジャンプが入っているため技術点が上昇し,満点相当以上の点数が出ています。
今までの男子の過去最高点は,SP:112 点,FS:223 点で,共に 羽生結弦 選手が記録しています。ただし,今回のルール改定が大幅で,今までとの比較が意味をなさないため,スコアの記録はリセットされることになりました。羽生 選手のこれらの記録は,2017/18シーズンまでの歴史上の記録として残り,今後は,今シーズン以降で最も高いスコアが最高記録と呼ばれることになります。