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宇野昌磨 またも 羽生結弦 を超えられず 【世界フィギュア2019感想:男子シングル】

 フィギュアスケートの世界選手権。表彰台を逃した 宇野昌磨 選手は,母国開催で期待に応えられなかった自分を責め,打ちひしがれたことでしょう。順位は気にしないという今までのスタンスを変え「優勝する」「周囲の期待に応える」と宣言して臨んだ今シーズン。四大陸選手権では,コンディションが良くない中でFS(Free Skating,フリースケーティング)の今季最高得点を上げ,良い流れで世界選手権を迎えました。しかし,宇野 選手を象徴するジャンプである 4F が,SP(Short Program,ショートプログラム)もFSも共にミスになり,全体的に精彩を欠く演技になってしまいました。

 ケガの快復が思わしくなく,練習が十分に積めない状況だったとはいえ,それでも試合を成り立たせる力は四大陸選手権で確立したはずでしたが,母国開催,羽生結弦 選手との勝負などの様々なプレミアム感が,宇野 選手の正確さや冷静さを奪ったのかもしれません。SPで先行すれば,FSが今シーズン比較的良かったので,ライバルにプレッシャーをかけられたのですが,SPで ネイサン・チェン 選手(米)に先行を許す展開になってしまい,FSが完璧でなければ,という状況に追い込まれてしまいました。追い込まれたとき強い選手もいますが,今大会の 宇野 選手はその強さを発揮できませんでした。

 周囲の期待に応えると宣言したものの実力を発揮し切れなかったとなると,結果論としてこのアプローチは 宇野 選手に合っていなかったのかもしれません。出場する大会に優勝したい気持ちはどの選手も持っているでしょう。しかしそれを言葉にすると,気持ちが不十分な場合,自分が発した言葉の大きさに気持ちが負けてしまうことがあります。さらに練習不十分という状況が重なれば,言葉・心・体がうまくかみ合わず,何かしっくりこないまま試合を迎えてしまったのかもしれません。宇野 選手は今,言葉を発することの難しさを痛感していることでしょう。

 羽生 選手の生き様に触発される気持ちはとてもよくわかりますが,やっぱり 宇野 選手は,表向き順位に興味がない顔をしながら,内に秘めた闘志をスケートに凝縮させる,という姿が似合っているように思います。様々な心の動きを自身の中に封じ込め「五輪は他の大会と変わらなかった」と言い放った姿こそ 宇野 選手らしさだなと思うんです。この姿に戻るにせよ,今シーズンの姿勢を今後も貫くにせよ,今回の経験で 宇野 選手は,自分の心と体の奥深くにある高いレベルの闘争心を呼び起こし,来シーズンさらなる覚醒を魅せてくれると期待しています。

 宇野 選手との直接対決で今回も上位になった 羽生結弦 選手は,いかにして言葉を発するか,ケガを抱えながらいかに最高のパフォーマンスを発揮するか,これらを 宇野 選手に身をもって示すかのようでした。これまでの 羽生 選手は,ケガ明け4ヶ月ぶりの実戦での五輪2連覇が記憶に新しいですが,それ以外にも,東日本大震災の被災経験6分間練習での衝突事故からの復活など,極めて難しい状況を何度も乗り越えており,言葉の発信の仕方,気持ちモチベーションの高め方,身体の状態の見極め試合本番への調整力,こういったスキルが常人離れしたレベルにあります。

 今大会も昨年の平昌五輪と似たような状況になりましたが,母国開催ということもあり,高い集中力を発揮しました。FS前日の公式練習で 4Lo がうまく決まらず,氷上練習の後リンクの脇でイメージトレーニングをするという珍しい光景が見られましたが,これも 羽生 選手の傑出した調整能力を示すものでした。羽生 選手は,FSで最も重要なのは冒頭の 4Lo だと考え,4Lo を必ず成功させるという点に注力していました。他のジャンプにも不安はあったはずですが,鍵は 4Lo にあるという見極めと,それを成功させるための調整法(今回はイメージトレーニング)が見事だなぁと感嘆させられました。

 実際のFSでは見事に 4Lo を成功させて波に乗り,4S が回転不足になったもののミスはこれだけで,4T+3A のシークエンスジャンプも決まり,FSの得点が 200 点,SPとのトータル300 点に到達しました。しかし,演技をよく見ると,ジャンプの間のつなぎの部分や,ステップなどは全力で実施していないように見え,ジャンプを揃えることを第一に考えていたように感じました。これもまた,コンディションが万全ではない中で,スコアを最大にするために何が大事かを考えた結果ではないかと考察します。例えば,FSのステップはレベル3にとどまり,レベル4に比べ(基礎点と GOE 加点の合計で) 0.8 点落としていますが,4回転ジャンプで少し着氷が乱れただけでも2~3点下がることを考えれば,ジャンプに注力することは現実的な判断なのです。こういう戦略を自分自身で徹底的に考え抜き,それを実行できることが 羽生 選手の強さの秘訣でもあります。

 結局,今大会のシングル日本選手で表彰台に乗ったのは 羽生 選手だけであり,大舞台での 羽生 選手の強さが改めて浮き彫りになりました。しかし,ケガ明けの難しさがあった半面,出場した試合数が少なく,疲労の蓄積に関しては他の選手と条件が同じではありません。他の日本選手は 羽生 選手も出場したグランプリシリーズ2戦の後,グランプリファイナル,全日本選手権,四大陸選手権という,いずれも緊張感の高い試合に出場しているのですから,シーズン終盤の世界選手権でミスが出てしまうのもやむを得ないことなのです。今大会の結果は,もったいないなぁと思う反面,それを責める気に全くなれないのは,日本選手がどの試合も全力で取り組んでいることを観てきたからです。

 羽生 選手が他の選手と同じ大会に出場した上でこの成績を残したのであればもっと喜べたはずで,今回の世界選手権の結果はやや複雑な気持ちで受け止めています。ただ,それは 羽生 選手が一番わかっていることであり,だからこそ優遇措置で出場した世界選手権で結果を残そうと,全力を尽くした結果でもあります。ただ,スポーツ選手はまず試合に出ることが最も大事であり,自分責任の負傷による欠場は問題ありなのです。私はこの点において,シニアデビュー以来,主要大会の欠場がない 宇野 選手は素晴らしいと思いますし,だからこそ,今大会は 宇野 選手が 羽生 選手より上位に来るという結果も得てほしかったのです。来シーズンはシーズンをフルに戦ってもらい,羽生 vs 宇野 の対決を何度も観たいものです。

 その 羽生 選手を完全に上回ったのが ネイサン・チェン 選手でした。4回転ジャンプの安定感は抜群で,4Lz と 4F を両方決めたのは チェン 選手だけでしたし,苦手の 3A でもかなりの GOE 加点を得ていました。身体や手先の動きに余裕が感じられ,ジャンプだけでなく演技全体の躍動感がすごかったです。羽生 選手のような滑らかでしなやかなスケーティングとは異なり,チェン 選手は力強さや躍動感がありながらも力みの少ないスケーティングで,今大会は間違いなく チェン 選手史上最高の演技でした。PCS (Program Component Score,演技構成点)も 羽生 選手に迫る得点が出ており,仮に 羽生 選手や 宇野 選手が完璧でも歯が立たない内容でしたから,チェン 選手の完勝でした。羽生 選手も 宇野 選手も,来シーズンは基礎点を上げるための対策を迫られるでしょう。

 チェン 選手は昨シーズンの世界選手権でも優勝していますが,これは五輪直後なので割り引いて考える必要があり,今シーズンの世界選手権制覇によって,真の世界王者になったと言えるでしょう。それでも今シーズンはルール改定直後だったこともあり,4回転を3種類4本にして様子見だったところがあります。今後は,現在 チェン 選手にしかできない4回転5種類に挑んでほしいと思います。

 ソチ五輪以降,挑戦を受ける立場だった 羽生 選手が,ついに追いかける立場になりましたが,これは 羽生 選手が待ち望んでいたことだったと思います。追う立場になった 羽生 選手が,今後 4F や 4Lz,そして夢の 4A をどう切り開いていくのか,それともケガによってさらに追い込まれてしまうのか,本当に目が離せません。そして,宇野 選手もその流れに追随しながら,羽生 選手や チェン 選手を追い越す機会を虎視眈々と伺う,これが来シーズンの展開になるでしょう。

地の利を生かせず 表彰台は遠く 【世界フィギュア2019感想:女子シングル】

 私の予想(という名の願望)はことごとく外れ,女子シングルは一人も表彰台に乗れず,男子シングルは私が優勝を予想した 宇野昌磨 選手はメダルを逃し,苦戦を予想した 羽生結弦 選手が日本選手唯一のメダルを獲得しました。予想を外したからではなく,各選手の心情を思うと悔しい気持ちでいっぱいになってしまいます。

 女子シングルは,順位だけ見て日本選手の力不足という論評をするのは気の毒です。2位と5位のスコアは2点未満。1つミスすれば4点以上点数が変わる女子において,2点というのは差のうちに入りません。この点差でメダルを逃すのは,運が悪かったとしか言いようがなく,しかも5位の 坂本花織 選手は 222 点台,4位の 紀平梨花 選手に至っては 223 点台でもメダルが獲れませんでした。平昌五輪のとき 222 点台でメダリストになれなかった 宮原知子 選手を思い出してしまう状況です。なんとかしてメダリストになってもらいたかったですし,メダリストと同等のスコアを出したことには胸を張ってほしいです。

 しかし,だからこそ当の選手たちは悔しい思いをしているでしょう。メダルを逃す原因は自分たちのミスによるものだからです。ミスがなければ 紀平,坂本 両選手は表彰台に乗れました。2位の トゥルシンバエワ 選手(カザフスタン)と3位の メドベージェワ 選手(ロシア)は,SP(Short Program,ショートプログラム)もFS(Free Skating,フリースケーティング)もミスがありませんでした。ミスをするとスコアが低くなる,それが今シーズンのスコアルール改定の肝ですから,正にそのとおりの結果が出たわけです。

 紀平 選手は,生命線である 3A がSPとFSの計3本のうち1本しか成功しませんでした。これでは表彰台を逃すのも致し方ないことだと思います。シニアデビューシーズンは,ずっと活躍していたのに世界選手権で息切れすることがあり,過去には 宇野 選手や ネイサン・チェン 選手(米)もそれを経験しています。紀平 選手はその罠にハマることはないと私は思っていましたが,デビューシーズン大活躍の期待感に日本開催(しかも観客が1万人以上入るさいたまスーパーアリーナという大箱)が重なり,舞台が揃い過ぎたことが 紀平 選手を微妙に狂わせてしまったのかもしれません。

 坂本 選手はFSの 3F でミスが出ましたが,3F は 坂本 選手が最も得意な3回転ジャンプであり,めったにないミスによってメダルを逃したのですから,坂本 選手のショックは計り知れません。四大陸選手権では,3F の直前に飛ぶ 2A+3T+2T という,これまた得意かつ得点源のジャンプでのミスでメダルを逃していたので,今回はその 2A+3T+2T が成功したことで,ホッとした気持ち,あるいは得意なジャンプだからこそ失敗してはいけないという意識が出てしまい,平常心で 3F に入れなかったのかもしれません。SPが完璧と言っていい出来だっただけに,そのミス1つだけで表彰台をも逃すというのは,天国から地獄という言葉が大げさとは思えないほどの,あまりに厳しい結果でした。

 宮原 選手は,SPの回転不足が偶発的なものだったことをFSで証明しました。FSでは回転不足が全くない,技術面ではパーフェクトな演技でした。私は,SPの回転不足がFSに影響するというたいへん失礼な予想をしてしまったのですが,宮原 選手の修正能力に改めて感嘆いたしました。ただ,仮にSPの回転不足がなかったとしても,表彰台には乗れなかったと思います。今大会では,表現面が今までの 宮原 選手よりわずかに見劣りする感じがあり,PCS (Program Component Score,演技構成点)でやや差が出てしまったからです。PCS が低めだった要因は,日本開催の世界選手権への緊張と,回転不足を防ごうとジャンプへの意識がやや強くなってしまったことにあるのではないかと推察いたします。

 強力な布陣の日本選手を抑えて優勝したのは,実力を出し切った ザギトワ 選手(ロシア)でした。私は,今シーズンの苦難が世界選手権まで続くと予想しましたが,結果は逆でした。演技は完璧ではなかったものの,ミスなくきっちりまとめました。昨シーズンはクールで精密機械のような印象もありましたが,今大会はジャンプを絶対に決めるんだという,人としての強さが感じられるような演技でした。シーズンの不調を世界選手権で払しょくするシーンはここ数年の世界選手権ではなかったことであり,ザギトワ 選手の本当の強さを目の当たりにしました。

 ザギトワ 選手が所属する トゥトベリーゼ コーチのチームでは,メドベージェワ 選手が抜けたことで ザギトワ 選手が一枚看板として注目を集める一方で,ジュニア世界選手権の金・銀メダリストも在籍するなど,著しい若手の突き上げがあります。ザギトワ 選手は,世界選手権の成績によっては,五輪女王でありながら冷遇されかねない状況に追い込まれていたと言えます。今回の優勝によって早くも引退がありうるのでは,と推測する外国のメディアもあるようですが,ロシアの若手は4回転ジャンプの確率がかなり高く,彼らがシニアに上がってくると ザギトワ 選手でも厳しい戦いになることから,そのような報道が出るのでしょう。彼女はまだ16歳。引退がささやかれるとはあんまりだと思いますが,今シーズンを逃すと今後いつ金メダルが獲れるかわからない,そういう危機感が ザギトワ 選手にあったことは間違いないでしょう。

 2位に入った トゥルシンバエワ 選手は,SPが今までとは別人のように生き生きとした演技だったので,FSの 4S が成功するのではないかと私は予感していました。冒頭の 4S が成功したことでFSは完全に波に乗りました。こんなにしなやかで表現豊かな トゥルシンバエワ 選手を初めて観ました。PCS が1項目平均9点台に急伸したことで銀メダルを獲得しましたが,納得のスコアだったと思います。ブライアン・オーサー コーチに師事していた昨シーズンまでは,サイボーグ的な印象が拭えませんでしたが,今シーズンから トゥトベリーゼ コーチの元に戻り,トゥルシンバエワ 選手の気性の強さがハマったのでしょう。また,昨年暴漢に襲われ急逝した母国のソチ五輪銅メダリスト デニス・テン さんに捧げる気持ちの強さもあったと思います。彼女の素晴らしい演技には,テン さんのご加護があったようにも感じましたね。

 その トゥルシンバエワ 選手と入れ替わる形で,今シーズン,オーサー コーチの元に移った メドベージェワ 選手も,今シーズンの不調から甦り表彰台に乗りました。紀平,坂本 両選手のミスによって転がり込んできた銅メダルではありましたが,ギリギリで出場を決めた世界選手権で結果を出すのは,やはり並大抵のことではありません。このような形でシーズンを締め括り,今後の復活に向け大きな自信を得たと思います。

 表彰台に乗った3選手の演技で感じたことは,気持ちの強さが前面に出ていたことです。今までの彼らは,正確無比でミスが極めて少ないという演技の完成度で勝負してきました。ところが,今回の世界選手権は違いました。ジャンプの着氷でぐらついたりもしていたのですが,「絶対に成功させるんだ」という集中力でジャンプを飛んでいたように私の目には映りました。それは私の思い込みかもしれないのですが,そう感じずにはいられませんでした。

 きっと彼らは,背負っているものがとても大きかったんだと思います。五輪シーズンの絶頂から1シーズンで滑り落ちそうになっていた ザギトワ 選手。コーチを変えたことによる周囲の雑音を払いのけたかった トゥルシンバエワ,メドベージェワ の両選手。世界選手権で結果を出さなければ,今まで築いてきたものが崩れ落ちてしまう,そんな危機感が彼らを甦らせたのだと感じます。しかし,危機感だけで勝てるほど今のフィギュアスケートは甘くありません。追い込まれた状況でも優れたパフォーマンスを出せるだけの技術を持っているんですね。わずか2点のスコアの差,メダリストとメダルを逃した選手との差は,詰まるところその技術の差だということになるのです。

 日本の3選手は,そこまで大きなものを背負っていませんでした。母国開催で世界女王に「なりたい」という気持ちは強かったと思いますが,世界女王を「獲らねば」というほどではなかった。極限の緊張の中で,その差がミスという形で現れてしまったのかなと思います。日本開催に関しては,日本の観客は海外の選手にも分け隔てなく声援を送りますし,ザギトワ 選手や メドベージェワ 選手は日本が大好きですから,彼らが不利を感じることはほとんどなかったはずで,日本選手が母国開催という地の利をさほど享受できなかったと言えます。さいたまスーパーアリーナは世界的に見ても最も観客数が多い会場であり,会場の熱気がすごいことに加えて,試合が進むにつれて氷の状態が刻々と変わったそうです。大箱の緊張と氷の変化の両方に対応しなければならなかった点は,経験値が高い選手を利することになったかもしれません。

 なぜミスが出たのか,各陣営はよくわかっていると思います。紀平 選手は 3A の成功確率をもっと上げていくことに尽きるのですが,今シーズンのSPは,紀平 選手にとって 3A を飛びづらい音楽だったのではないかと私は推察しています。なので,来シーズン音楽が変われば状況は好転するでしょう。坂本 選手は,ここ2年間の全日本選手権では素晴らしい演技を見せていますので,緊張感がミスを誘発するという単純な話ではありません。全日本選手権のようなパフォーマンスを,国際大会でも披露するにはどうすればよいかを突き詰めていくことが求められます。

 今シーズンは五輪の翌シーズンであり,北京五輪はまだ先だからこの結果で十分,という考えがあるとしたら私は賛同しかねます。1年1年のグランプリファイナルや世界選手権の結果こそが競技スケーターにとって大切だと思うからです。五輪は4年に一度のお祭りであり,メダルを獲るにはそのときの好不調や運も関係してきます。五輪のメダリストが過度に評価されるのではなく,1年1年の実績が評価されるべきです。世界トップの大会(世界選手権,五輪シーズンは五輪)で ザギトワ 選手が2連覇,メドベージェワ 選手が4年連続表彰台に上ったことは,五輪のメダリストであることよりも輝かしい実績だと思います。日本選手は,母国開催のチャンスを生かせず表彰台を逃したことを,五輪で力を出せなかったことと同じくらい大事なこととして受け止めてほしいです。

 とはいえ,紀平,坂本 両選手がメダリストと同等の力を示したことも,紛れもない事実です。紀平 選手は,3A 以外のジャンプ・スピン・ステップが高い完成度だったことは素晴らしかったです。坂本 選手は,スケーティングが格段に美しくなり,FSでは PCS が1項目平均9点を超えました(坂本 選手にとって国際大会初)。PCS だけ見れば,メドベージェワ 選手より高い評価を受け,ザギトワ 選手に次ぐ2位でした。これは 坂本 選手にとってはとてつもなく大きな自信になったと思います。

 日本の選手たちは,これらの成果を糧としつつ,この悔しさがバネになることでしょう。母国開催のメダルを逃したことは苦い経験ではありますが「この経験があったから強くなれた」と言えるような活躍を来シーズン以降期待したいと思います。

世界フィギュア2019 ショートプログラムを終えて

 さいたまスーパーアリーナで開催中のフィギュアスケート世界選手権は,SP(Short Program,ショートプログラム)が終わりました。FS(Free Skating,フリースケーティング)はどうなるでしょうか?

◆女子シングル

 坂本花織 選手が素晴らしい演技を披露しました。スケーティングがとても柔らかく,ジャンプがプログラムに溶け込んでいました。FSも全日本選手権を超える演技になると私は確信しています。紀平梨花 選手がミスしたら 坂本 選手が優勝をさらう,という展開になってきました。世間では「ザギトワ 選手(ロシア)が逃げ切るか 紀平 選手が逆転か」という報じ方になっていますが,優勝候補の筆頭に 坂本 選手が躍り出たと私は思います。滑走順が ザギトワ 選手より前になったことも幸運ですね。坂本 選手が完璧なら,ザギトワ 選手がわずかな綻びを見せただけで逆転できると思います。

 紀平 選手は,3A の予定が 1A になり0点になった(←SPでは 2A 以外の2回転以下の単独ジャンプは0点)にもかかわらず,スコアが70点に乗ったのがせめてもの救いで,まだ逆転の目があります。FSで 3A を2本成功させることは優勝の絶対条件になりますが,FSのプログラム「A Beautiful Storm」は 紀平 選手にとてもフィットしていますし,開き直るしかない状況なので,完璧な演技になる可能性がかなり高いです。

 今大会は PCS (Program Component Score,演技構成点)が厳しめな印象があるので,スコア 160 点は難しいですが,158 点までは到達可能でしょう。その場合,ザギトワ 選手は 147 点,坂本 選手は 152 点で 紀平 選手より上位になりますが,この点数は2選手にとってかなり高く,これが 紀平 選手に逆転の目があると考える根拠です。ただ,今大会絶好調の 坂本 選手なら,全日本選手権で出した 152 点を国際大会である世界フィギュアでも出せると思いますので,坂本 選手の優勝の可能性が最も高いと上述したのです。

 宮原 選手は,ジャンプの回転不足が出てしまったのが厳しいですね。気をつけていたにもかかわらず回転不足を取られたことで,FSではジャンプをきちんと飛ばなければ,という重圧がかかってきます。修正能力の高い 宮原 選手ではありますが,FSでも回転不足やジャンプミスが出てしまいそうです。表彰台は限りなく厳しくなってきました。

 ザギトワ 選手は,全てが完璧なら上述した 147 点は超えられると思いますが,どこかでミスが出るか,ミスはなくても完璧とは言えない出来の場合,今シーズンの実績から考えると 147 点に及ばない可能性がかなりあります。SPが完璧だったことでやっと優勝争いに絡める状況になっただけであり,今シーズンの鬼門であるFSを完璧に演じられるかどうかは,まだまだ予断を許しません。表彰台はほぼ手中にしたと言えますが,優勝を手にするには,坂本,紀平 両選手のミスが出た状況で,ザギトワ 選手が完璧に演じることが条件になりそうです。

 優勝は僅差で 坂本 選手,2位と3位を 紀平 選手と ザギトワ 選手が争うと予想します。3選手の誰かがかなり崩れた場合,四大陸選手権から好調を維持する トゥルシンバエワ 選手(カザフスタン)が表彰台に乗る可能性が出てきました。SPの調子を見る限り,FSの 4S は成功の可能性が高いと思いますので,どこまで迫れるか楽しみです。

◆男子シングル

 羽生結弦 選手は,SPはミスなく演じられると予想していたのですが,やはりケガのブランクによる試合勘の弱さが出てしまいました。どんなに練習が順調でも,試合は別物だとよく言われますからね。追い込まれたときの 羽生 選手は強い,という過去の実績から逆転を期待したくなりますが,FSはSPよりもさらに正直に選手のコンディションが表れますので,厳しい戦いになると思います。FS演技時間後半の3つの連続ジャンプ,特に 羽生 選手にしかできない 4T+3A を成功させてほしいですね。

 宇野昌磨 選手は,リードを奪う絶好のチャンスだったにもかかわらず,羽生 選手に付き合ってしまいました。今シーズンのSPは 4T+3T に苦労していたのですが,今大会ではその前の 4F を失敗するという予期せぬ展開でした。ただ,そこですぐに切り替えてあえて 4T+2T を選択し踏みとどまりました。4T+3T を成功させた場合より4点ほど下げた形ですが,失敗すれば優勝は絶望的だったことを思えば,首の皮1枚つながったと言えます。今シーズンのFSは比較的良いですし,無心で集中し完璧な演技をしてスコア 200 点を出せれば奇跡の逆転の目も出てきます。ただ,その可能性は,女子の 紀平 選手の逆転優勝よりも難しいでしょう。

 ネイサン・チェン 選手(米)が今シーズンの好調さそのままに,SPで貯金を作りました。大舞台で力を出し切れないかも,とは言ってもSPを見る限りその可能性は低そうですし,羽生 選手と 13 点差,宇野 選手と 16 点差は,よほど大崩れしない限り追いつかれない点差です。ただ,4回転ジャンプは失敗すると一気に点数が減ってしまうので,2回大きなミスが出ると勝負はもつれます。しかし,その可能性はかなり低いでしょう。チェン 選手が優勝をほぼ手中にし,宇野,羽生 の両選手がわずかな可能性に賭ける,という展開です。

 素晴らしかったのは ジェイソン・ブラウン 選手(米)。大好きな日本で,やっと会心の演技ができました。ほとんど準備動作なく,流れの中で飛ぶジャンプの質が凄い。順位は二の次で,FSも完璧な演技を魅せてほしいと願っています。

世界フィギュア2019 プレビュー 【スポーツ雑誌風】

 さいたまスーパーアリーナで開催される,フィギュアスケート世界選手権の見どころと勝負の予想をスポーツ雑誌風に記します。


◆男子シングル

 優勝争いは,羽生結弦宇野昌磨ネイサン・チェン (米)の3選手が有力で,ヴィンセント・ジョウ (米),ボーヤン・ジン (金博洋,中国)らが表彰台を狙う。彼らの4回転ジャンプはSP(Short Program,ショートプログラム)で2本,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4本と横並び(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事参照)なので,本番の演技の完成度が勝敗を分ける。

 中でも最も優勝に近いのが 宇野昌磨 だ。世間の下馬評は 羽生 や チェン の声が多いかもしれないが,私は 宇野 に勝機ありと見ている。2月の四大陸選手権で,ケガを抱えながらFSの今シーズン世界最高得点を叩き出して優勝したことは,宇野 にとって大きな自信となり,主要国際大会6大会連続2位から脱したことで胸のつかえも取れただろう。今シーズンは,周囲の期待に応え勝ちにこだわる姿勢を貫いており,日本開催の地の利も生かし,初めて 羽生 を破って初優勝という大願成就を果たしたい気持ちは誰よりも強いだろう。安定感やピーキング能力はここ3シーズン発揮されており,SPとFSが両方ノーミスで実施できれば初の世界王者を手にするだろう。

 羽生 はケガ明け4ヶ月ぶりの実戦であり,ノーミスは可能かもしれないが,完成度の高い実施は難しいだろう。平昌五輪の再現を期待するファンは多いが,五輪という特別な舞台であり,過去のプログラムの再演だった 平昌 の状況とは異なり,今シーズンはプログラムを試合で滑る機会が少なかったので,いくら練習で好調だったとしても,いきなり世界選手権で完成度を高めるのは難しいと予想する。SPは大丈夫と思うが,FSは転倒や回転抜けが無ければ上出来と考えた方がよいだろう。

 チェン は今シーズン絶好調で,SPとFSを完璧に揃えた1月の全米選手権の出来が再現できれば間違いなく優勝できる。ただ チェン は,2017年の世界選手権,2018年の平昌五輪と2年続けてシーズン終盤の大舞台で優勝はおろかメダルさえも逃しており,大舞台で力を発揮する技術とメンタルが試される。不得手の 3A の出来が勝負を分けるかもしれない。

  • 私の順位予想 … 1位: 宇野,2位: チェン,3位: 羽生
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: チェン,2位: 羽生,3位: 宇野

◆女子シングル

 日本選手の表彰台独占という夢のような光景が見られるかもしれない。その可能性が60%くらいあると思う。スコアの観点では,紀平梨花 を ザギトワ (ロシア)が追いかけ,さらにその後ろに他の選手が僅差でひしめく状況(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事《日本選手ロシア選手》参照)だが,日本3選手の地力・地の利と,ロシア選手の今シーズンの停滞を考えると,日本選手の表彰台独占の可能性はけして贔屓目ではない。

 優勝候補の筆頭はもちろん 紀平梨花 である。技術点が抜群に高く,PCS (Program Component Score,演技構成点)も ザギトワ と肩を並べトップクラス。状況に応じて,ジャンプの難度を落としたり,その場で構成を変更する対応力も過去の試合で証明済みだ。日本開催が逆プレッシャーとなり,シーズンの最後に息切れという可能性もゼロではないが,今シーズンはSPとFSのどちらかにミスが出ており,この大舞台で両方ノーミスでの実施を強く誓っているはずだ。SP 80 点FS 160 点計 240 点という驚異的な得点を期待せずにはいられない。

 全日本を制した 坂本花織 は,優勝を狙うと公言している。これほどはっきり優勝を口にすることは珍しく,並々ならぬ決意がうかがえる。四大陸選手権で優勝を狙うもメダルを逃す経験をしたことで,無心で試合に臨むことの大切さを再認識できたことも好材料だ。完璧な演技ができれば GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)も PCS も高騰する可能性はあり,紀平 にミスが出れば 坂本 が女王の座を射止める可能性が高い。

 世界選手権の銀と銅のメダルを持つ 宮原知子 も,金メダルを渇望している。全日本選手権から3ヶ月,プログラム細部の精緻化と,ジャンプの回転不足の解消に取り組み,演技全体を研ぎ澄ませてきただろう。シーズン途中では細かいミスがあっても,世界選手権や五輪の大舞台で完成形を披露しシーズンベストを更新する,これが 宮原 の例年の姿だ。今シーズン,全日本選手権では若手2人の突き上げを受けているが,先輩のプライドにかけて,日本開催である今年の世界女王は是が非でも手にしたいところだ。ミスがないことにはもはや驚かないが,全てが完璧に演技できれば優勝に手が届くだろう。

 ここ数年,日本勢より力が上だったロシア勢だが,今シーズンは様相が異なる。五輪女王 ザギトワ,欧州女王 サモドゥロワ に加え,世界女王2連覇の実績を持つ メドベージェワ も参戦し,名前だけを見れば手強い相手に思える。しかし,今シーズンのロシア勢は完全に追う立場にいる。

 ザギトワ の不調は,五輪女王の重圧,身長の伸びなど様々に報じられているが,私が感じる要因は「FSの選曲」と「紀平 の急成長」である。ザギトワ のFSは「カルメン」。この曲は五輪で演じることを ザギトワ 自身が希望したものの,エテリ・トゥトベリーゼ コーチが賛同しなかったと言われている。五輪女王になったこともあり「カルメン」の採用を許したのだろうが,五輪女王とはいえまだ16歳,風格があるタイプではない ザギトワ にとって「カルメン」のスケール感を表現するには時期尚早という印象だ。ジャンプもどこか飛びづらそうに見えるのは,ジャンプが曲にうまくハマっていないからかもしれない。

 紀平 の急成長に関して,3A によって技術点を高めてくることは予期できても,PCS が自分に追いついたことは予想外だっただろう。グランプリファイナル完敗の衝撃(→本ブログ過去記事)の大きさは,その後のロシア選手権(5位)とヨーロッパ選手権(2位)が物語っている。ノーミスは当然で完璧な演技でなければ世界女王は取れない,という状況に追い込まれたことが ザギトワ の焦りを生み,演技の綻びをなかなか塞げずにいる。表彰台に乗れるかどうかの厳しい試合になると私は予想するが,今シーズンの不調を払拭する演技ができれば,当然優勝争いに加わってくる。

 むしろ,ネームバリューはロシア勢で最も低い サモドゥロワ が,表彰台の可能性としては最も高いと私は考える。シニアデビューの今シーズン,グランプリファイナルに出場(5位)し,ヨーロッパ選手権で ザギトワ を破って優勝したことで,世界選手権の切符をつかんだ。ヨーロッパ選手権は欧州各国では権威のある大会であり,ここでの優勝は我々が思う以上に大きな自信になっているはずだ。FSの「バーレスク」は サモドゥロワ によく合ったプログラムなので,完璧な演技なら,日本勢の表彰台独占を阻む役を担うかもしれない。

 直前の国内選考で出場をつかみ取った メドベージェワ は,大好きな日本での出場に安堵していると思うが,昨シーズンまでの実力は現在の彼女にはない。コーチを トゥトベリーゼ からロシア国外の ブライアン・オーサー に変更し,全く違う生活・練習環境に慣れるだけでも大変な作業なのに,さらにスケートも全てを一から再構築しているのだから,今回は出場できたことが奇跡的なのだ。私は,以前の メドベージェワ は PCS が高過ぎると感じていたので,現在のスコアは妥当な水準だと感じている。ここから再び頂上をめざしていく上で,今大会は メドベージェワ が何合目まで上ってきたかがわかる試合になる。だがもちろん,メドベージェワ 自身は出場だけで満足と思うはずがない。順位はともかく,完璧な演技で自身が進む道の正しさを証明してほしい。

 ここ数年の世界選手権を見ると,それまで順調だった選手が力を発揮できないことは時々あるのだが,不調だった選手が甦ることはほぼない。フィギュアスケートは現在の採点方式が導入されたことで,ネームバリューで戦える世界ではなくなった。ザギトワ や メドベージェワ の経験や舞台度胸は脅威だが,それでシーズンの不調をカバーできるほど甘くはない。仮に 紀平 選手が崩れた場合は,坂本,宮原 のどちらかが世界女王初戴冠となるだろう。

  • 私の順位予想 … 1位: 紀平,2位: 坂本,3位: 宮原
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: 紀平,2位: ザギトワ,3位: 宮原

ジャンプ戦略考察:男子シングル編

 前回と前々回は,フィギュアスケート女子シングル選手のFS(Free Skating,フリースケーティング)のジャンプ構成をチェックしました。今回は男子シングルの有力選手をチェックしていきます。まずは 羽生結弦 選手から。

figureSkateScoreHanyu

 4回転は 4Lo, 4S, 4T×2本の計4本。今シーズンから「4回転2本飛べるのは1種類」というルールになりましたので,優勝争いに必要な4回転の種類・本数は,3種類3本,3種類4本,4種類4本あたりになるでしょう。4種類5本も可能性としてはありますが,今シーズンは様々なルール改定があったシーズンなので,そこまで無理してくる選手はいないようです。

 4回転の中でも 羽生 選手の目玉は 4T+3Aシークエンスジャンプでしょう。シークエンスジャンプとは,連続ジャンプの第2ジャンプとして A (アクセルジャンプ)を付けるものです。第1ジャンプを右脚(リバースジャンパーは左脚)で着氷した後,後向きから前向きに体の向きを変える際に軸足を左脚(リバースジャンパーは右脚)に変え,すぐに A を飛びます。軸足を変える動作が入るので,連続ジャンプではなくシークエンスジャンプという扱いになり,基礎点が各ジャンプの基礎点合計の 0.8 倍になります。

 +2A のシークエンスジャンプは女子ではたまに見かけますが,+3A のシークエンスジャンプは史上初だと思います。点数が 0.8 倍になるのがもったいないので,プログラムに組み込む選手はほとんどいませんし,普通に飛ぶのさえ難しい 3A を第2ジャンプに持ってくることは,まずあり得ません。これは 3A高い完成度で飛ぶことができ,新しいことに挑戦し続ける 羽生 選手らしい選択だと思います。今シーズンは,勝負よりも自分が演じたいことを優先しているそうで,だからこそ点数面では損なシークエンスジャンプでも入れたかったのでしょう。実は,羽生 選手は今までのエキシビションやアイスショーの中で,4T+3A+3A というものすごいジャンプをたびたび披露しており,2013年のグランプリファイナル(福岡)を現地観戦した際にこのジャンプを観たときは,4回転が3本続いたのかと思うほどの大迫力でした。なので,4T+3A はチャレンジというよりは,プログラムの流れの中にどう入れていくかが 羽生 選手にとっての課題だと思います。

 このシークエンスジャンプも含め,3つの連続ジャンプを全てボーナスタイムに入れているのもすごいです。連続ジャンプを演技の後の方に持ってくると,失敗したときリカバーできないというリスクがあります。羽生 選手はこの構成を成功させる自信があるでしょうし,失敗できないという緊張感が逆に高い完成度につながる,という気持ちもあると思います。演技時間の前半は4回転,後半は連続ジャンプでずっと見どころが続くプログラムになっていると思います。

 ジャンプ構成表をよく見ると,3Lz を入れていないことがわかります。羽生 選手は 4Lz も成功させていますから Lz が苦手ということはありません。昨シーズン,4Lz の練習でケガをしましたので,今シーズンは無理をしなかったと見るべきでしょう。ケガの快復が順調なら,3Lo の代わりに 3Lz を入れてくるかもしれません。

 続いては,宇野昌磨 選手のジャンプ構成です。

figureSkateScoreUno

 4回転は 羽生 選手同様の3種類4本(4F,4S,4T×2本)。今シーズンはケガを抱えていたため,4S を入れない試合も多かったですが,世界選手権では入れてくると思います。公式戦成功世界初の 4F が武器ですが,4T が安定しているので2本入れ,4F は1本を確実に決める,という作戦のようです。個人的には 4F からの連続ジャンプや,ボーナスタイムの 4F も見てみたいところです。

 この表では,F が得意な 宇野 選手が 3F を入れてないように見えますが,3F は連続ジャンプの +1Eu+3F で使っています。これは +1Eu+3S の亜種で,得意だからこそ連続ジャンプの第3ジャンプに持ってきているのです。ここで使わずに済んだ 3S は 3S+3T で使っていますが,これが最後のジャンプなので,この連続ジャンプも鍵を握ります。

 しかしながら,+1Eu+3F を除けば,以下に示すように実はかなり堅実な構成です。

  • 4回転→3回転の連続ジャンプを入れていない (宇野 選手は 4T+2T)
  • ボーナスタイムは全て第1ジャンプが3回転
  • 3Lz や 3Lo を避け 3S を入れている

 ジャンプでは失敗リスクを抑えて GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)を高めて勝負する戦略であることがうかがえます。とはいえ,ジュニア時代 3A に苦労していたことを思うと,3A がこれだけの得点源になっていることは素晴らしいです。3A をボーナスタイムに置けるからこそ,4回転を先にこなすことで失敗のリスクを抑えることができるのです。

 最後は,羽生,宇野 両選手と優勝争いをする米国の2選手を見てみましょう。

figureSkateScoreChen

figureSkateScoreZhou

 両選手とも 4Lz4F を両方組み込み,羽生,宇野 両選手より高い基礎点を持っています。ネイサン・チェン 選手は,あまり得意ではない 3A を1本にしているものの,連続ジャンプに基礎点が高い +3T 2本と +1Eu+3S を使い,これら3回を全てボーナスタイムに持ってくることでスコアを高めています。一流の男子選手は 4T と 3A を2本ずつ入れるのが定石ですが,チェン 選手は 3A 1本という弱みを +3T を2本入れることでカバーしているわけです。4回転ジャンプの安定感は抜群で,基礎点が高い 4Lz,4F に始まり,4T と +3T が2本ずつという,3A 1本パターンの王道とも言える,見事なジャンプ構成だと思います。

 チェン 選手を上回る基礎点を持ち,4回転を4種類入れているのが ヴィンセント・ジョウ 選手です。チェン 選手を超えている要因は,3A を2本入れていることと,3連続ジャンプに 宇野 選手と同じ +1Eu+3F を使っていることです。点数の面でもったいないのは 3A+2T で,これを 3A+3T にすれば基礎点が80点を超える計算になります。ただ,4回転4本に 3A も2本となると,+3T を2本入れるのは体力的にかなり厳しいので,やむを得ないところでしょう。目玉は 4Lz+3T ですね。実際にプログラムに組み込まれるジャンプの中で最も基礎点が高いので,これが成功するとスコアの面でも気持ちの面でも大きなプラスになる連続ジャンプです。ジョウ 選手は回転不足が多いので,回転不足を出さないことが鍵になりますが,この基礎点の高さが脅威であることは確かです。

 上述した4選手と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が優勝および表彰台争いを繰り広げることになると思います。全てのジャンプが良い出来であれば,皆FSで 200 点を取る力があります。今シーズン初の 200 点を誰が記録するのかも楽しみです。

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