スケートカナダで,予想以上に点数が低く「おやっ?」と思いながら観戦した方もいたことと思います。特に 羽生結弦 選手のショートプログラム(SP)の73点台は,彼の実力からすれば考えられないほど低い点数です。ところが,なぜこのような点数になったのか,テレビ放送ではほとんど説明してくれませんでした。

 フィギュアスケートでは,ジャンプやスピンなど技の1つ1つに難易度や出来栄えに応じた点数が付けられ,その合計が技術点(Technical Element Score)になります。ところが,せっかくジャンプを飛んだのに,その点数が0点になってしまうことが時々起こります。これは「ジャンプはこういう種類を何回まで飛んでよい」という規定があり,それに違反した場合,そのジャンプが飛ばなかったことになってしまうというものです。

 例えば,ショートプログラムでは「アクセルジャンプではない単独ジャンプは3回転でなければならない(男子は4回転も可)」という規定があります。スケートカナダで 羽生 選手は,4回転トウループジャンプの予定が2回転になってしまいましたので,このジャンプは0点となったわけです。今までは,このように失敗した場合でも実施したジャンプの点数は加算されていて,2回転トウループは4回転よりずっと点数が低いですが,わずかでも点数が加算されていたわけです。しかし,今シーズンは規定違反のジャンプは(実施ジャンプの点数を加算せず)0点という規定になったらしく,羽生 選手は2回転トウループジャンプの点数も入らずに0点扱いになったというわけです。

 ほかに,ショートプログラムでは「同じ種類のジャンプを2回以上飛んではいけない」という規定もあります。当然,選手はこの規定を理解した上でジャンプの構成を決めますので,ジャンプが予定どおりできればまずこの規定に触れることはありません。この規定に触れるのは,やはり失敗した場合です。スケートカナダの 羽生 選手は,最後のコンビネーションジャンプが 3回転ルッツ+3回転トウループ の予定でしたが,2回目のジャンプが不完全で,結局 3回転ルッツ+2回転トウループ になってしまいました。その前のジャンプで4回転が失敗して2回転トウループになっていたので,2回転トウループが2回目になり,このコンビネーションジャンプも0点となってしまいました。

 私は当初,3回転+2回転のコンビネーションジャンプが規定違反なのかと勘違いしていましたが,そうではないようです。羽生 選手の場合,同じジャンプを2回飛ぶという規定違反が適用されてしまったとのことです。同じジャンプを何度も飛べない(ショートプログラムは2回以上NG,フリースケーティング(FS)は3回以上ほぼNG)という規定は,ソチ五輪でフェルナンデス選手(ESP)も引っかかってしまった不運がありましたが,得意ジャンプを固められてしまうことを避ける意味では,まぁわからないではない規定だと思います。

 問題は最初の例で説明した「規定違反のジャンプは(実施ジャンプの点数を加算せず)0点」という規定の方です。これがあることで,今まで以上に点数が低く抑えられるケースが出てくると思います。例えば,3回転ルッツが2回転になる,コンビネーションジャンプの2つ目のジャンプが1回転になる,というような失敗をすると,得点源のジャンプが0点になってしまい,これまでより2~3点低い点数になることもあり得ます。これが今シーズンの大会にどう影響してくるか,注目して観ていきたいと思います。

 詳細な採点規定は,下記サイトで細かく説明してくださっています。私も勉強させていただきました。深謝。

◎フィギュアスケート ショートプログラムのジャンプのルール Invalid elementとは
http://kokolog.net/2804.html

◎フィギュアスケート研究所 ルール解説
http://tororinnao.info/04rule/00top.html