カラオケで音域を意識する場面は,やっぱり「この曲は音が高い」とか「この曲は高いだけじゃなくて低い音もあって歌いづらい」というのが多いと思います。前者は音程の "高さ",後者は音程の "広さ" の問題ですから,音域DataBaseで音域を調べるとすると,その目的は音程が高い曲や広い曲を調べたいというケースが多いと思います。音域の高さや広さに関しては,もちろん興味深いことがいろいろあるのですが,音域を調べていて特に面白いと思ったのが,音域が "狭い" 曲でした。そこで,このテーマを取り上げようと思います。

 音域が "狭い" 曲を知ると何が嬉しいかというと,歌うのが苦手な人でも歌いやすい曲が見つかる,という点だと思います。高い音だけでなく低い音もうまく出ない人にとっては,音域が狭い曲の方が歌いやすいです。また,音域が広いと,低い音の後に急に高い音が続いたりその逆が起きたりする,いわゆる "音程が飛ぶ" 箇所が出てきて歌いづらいと感じるのですが,音域が狭ければ,音程が飛んでも音程の高低差が少ないので,その点でも歌いやすいと言えます。

 私が知っている中で一番音域が狭い曲が,アン・ルイスの「六本木心中」(リンク:音域DataBase)です。この曲のサビを書いてみると,

歌詞:さくらふぶ きに はらはらす がり

音程:ララソラファミレ ララソラファソレ

となりますが,このわずかなフレーズの中に「六本木心中」に出てくる全ての音が含まれています。つまり,この曲は レ・ミ・ファ・ソ・ラ5つの音しか使っていません。1オクターブでも音域としてはかなり狭いと言えるのですが,「六本木心中」は音域幅= 0:35(音域DataBaseの音域時間表記)で,これは1オクターブの半分ちょっとという狭さです。5つの音だけでこれだけの名曲が作れるのか,という驚きもありますし,音域が狭くて歌いやすいのに盛り上がる,というのはカラオケ好きにとってもありがたい曲だと思います。

 女性なら原曲キーのままで歌えると思いますし,男性でも声が高めの方なら原曲キーでいけると思います。男性で,石原裕次郎がちょうどいいというくらい低音の方は,原曲キーのまま1オクターブ下で歌うといいと思います。そこまで低音ではない方は,原曲キーから+5で調整して1オクターブ下で歌うと,音程が ソ・ラ・シb・ド・レ(b:フラット)になるのでちょうどよいと思います。

 「あれっ,六本木心中はもっと高い音もあるよ」という方,鋭いです! よく聞かれているバージョンは,曲の終わりの方で変則的なメロディが出てきます。2番が終わって間奏が入った後の,いわゆるリフレインと呼ばれる箇所です。

歌詞: うぬぼれな いで ことばじゃだ めさ

音程1:ララソラファミレ ララソラ ファソレ(通常メロディ)
音程2:ララソラファミレ ララドラ ド ラソ(変則 〃 )

 音程1は1番・2番のメロディで,音程2がリフレインのメロディですが,音程2だと「ド」が出てくるので,音域が レ~ラ に収まっていません。カラオケで歌うときは,こういう変則メロディにこだわらず音程1をリフレインでも歌う方が多いと思いますが,原曲に忠実な方や盛り上げたいときは音程2で歌うという方もいると思います。

 逆に「いや,こんな変則メロディ知らない」という方もいるかもしれません。私もそうでした。この変則メロディが自分の記憶の中になかったのですが,いつからか,この変則メロディを聞くようになり,手元のベスト盤アルバムでもこのメロディが入っていました。実は,音域を調べていてわかったことなのですが,「六本木心中」には音域が レ~ラ と レ~ド の2バージョンが存在するのです。

 同じ曲のバージョン違いはよくある話で,典型的なのはアルバムに違うバージョンが収録されるケースです。シングルで別バージョンが出る例はあまりありませんが,有名なところでは山根康広「Get Along Together」やプリンセス・プリンセス「世界でいちばん熱い夏」などの例があります。これらは別CD発売という形でリリースされ,販売上は別のCDとして扱われています。これに対し「六本木心中」は珍しい事情があって,ネットの複数の情報によると,シングル発売当初は,音域:レ~ラ のバージョン(初期Ver.)だったのですが,1か月後に音域:レ~ド のバージョン(後発Ver.)に差し替えられたそうです。レコードが別売ではなく差し替えという形だったので,販売上同じレコードとして扱われ,バージョンが変わったことが広くは知られませんでした。「六本木心中」は発売からかなり時間が経ってじわじわとヒットしたので,歌番組で曲が流れたときには後発Ver.がよく流れていたと思います。

 このような事情から,変則メロディを知っている人と知らない人がいるわけです。後発Ver.の レ~ド という音域も狭い方なのですが,初期Ver.は(音域DataBaseに現在登録されている曲の中で)音域が最も狭いという点でとても貴重な曲なので,音域DataBaseでは初期Ver.と後発Ver.の両方の音域を登録しています(リンク:音域DataBase)。どんな違いか気になる方は,下記アルバムで聞き比べてみましょう。音域以外にもいくつか違いがあります。

  • 初期Ver.:『WOMANISM I』
  • 後発Ver.:『WOMANISM COMPLETE BEST』

 商業的に発表されるような楽曲は,音域も高くて広くて…と思いがちですが,実は音域が1オクターブ未満というような曲が結構たくさんあって,調べていて驚きました。特に「六本木心中」は5音しか使っていないとは思えない曲のクオリティですよね。曲の良さは音域とは関係ないんだなぁ…と痛感されられる1曲です。今のところ,音域DataBaseではこの曲が一番音域が狭いですが,もっと狭い曲がないか,これからも探していきます。