CDが売れなくなって久しい,と言われます。ダウンロード配信全盛なので実態がつかみづらいのですが,以前に比べて目ぼしいヒット曲がない,というのは厳然たる事実だと思います。そうなると,どうしても40代以上の人は「昔は良かった」的な郷愁をもって「昔のヒット曲は良かった」と思いたくなるのも,致し方ないところがあります。

 今から振り返ると,1970年代後半~1990年代は,良質なヒット曲がたくさん生まれた時代だと言えるでしょう。カラオケでは今でも,この頃の曲がよく歌われていますが,懐かしさだけではないはずです。テレビではよく,19XX年のヒット曲,というような振り返り方がよくされるので,たまにそういうのを見ていると「19XX年ってすごいヒット曲がたくさんある」と思ったりするものです。

 では,本当にすごい年,いわゆる当たり年は何年なのか? 芸人・タレントの爆笑問題・田中裕二は,ラジオ番組で「1979年最強説」というのを唱えたことがあります。1979年はどんなヒット曲があったのでしょうか?

1979年の年間チャート>

 確かに最強と言えそうなヒット曲の数々。錚々たるメンバーが揃っています。

【アイドル的】
山口百恵,ピンク・レディー,沢田研二,西城秀樹,郷ひろみ
【演歌】
(ブレイク)小林幸子,渥美二郎,牧村三枝子
(安定)千昌夫,五木ひろし
【ニューミュージック】
ゴダイゴ,サザン,さだまさし,アリス,ツイスト,八神純子
【スマッシュヒット】
水谷豊,岸田智史,ジュディ・オング,桑名正博

 幅広いジャンルが共存共栄しているのが1970年代の特徴ですが,この年は他の年にも増してどのジャンルからもバランスよく大ヒットが生まれ,とても華やかなヒットチャートになっています。この年の主なポイントを挙げてみます。

<アイドル勢ビッグヒット少ない>

 西城秀樹「YOUNG MAN」以外はさほど上位にランクされていません。山口百恵「いい日旅立ち」は後世に残る大名曲ですが,年間ベスト10には入っていません。ピンク・レディーは前年の1978年が全盛期で,この年は急激に衰退期に入っていきました。いわゆる常連組にビッグヒットが少ないということは,他のアーティストがビッグヒットを飛ばしたということなので,当たり年によくある現象と言えます。

<ニューミュージック勢台頭>

 ゴダイゴツイスト(世良公則),八神純子あたりは,当時よく聞いたなぁという方が多いのではないでしょうか。今は「歌謡曲」「J-POP」という言葉で一括りにされてしまいますが,当時,フォークの後に出てきた,バンドやシンガーソングライターによる音楽は「ニューミュージック」と呼ばれ,サザンユーミン(荒井由実,松任谷由実)がその代表格でした。ゴダイゴや八神純子は,今聞いても全く色あせない,独創的できらびやかな音楽を世に送り出し,フォーク出身のさだまさしアリスは今でも精力的に活動を続けています。このように「今でも通用する」「今も活躍している」アーティストやヒット曲が多いほど,当たり年という印象になるのです。

<ブレイク演歌が3曲>

 小林幸子「おもいで酒」,渥美二郎「夢追い酒」,牧村三枝子「みちづれ」と,この年は苦節を経て売れた演歌が3曲も出ました。1年に3曲も出たのはおそらくこの年だけでしょう。しかも,どの曲も今でも歌い継がれる大名曲ですよね。

<印象的なスマッシュヒット>

 水谷豊「カリフォルニア・コネクション」,岸田智史「きみの朝」,ジュディ・オング「魅せられて」,桑名正博「セクシャルバイオレットNo.1」…どの曲も,すぐに歌詞やメロディが思い浮かぶものばかり。ここに挙げた方々はその後も活躍されてはいますが,ビッグヒットという点でいえば1曲だけ。「これしかないけどこれがすごい」というアーティストの曲って,いつまでも印象が残りますよね。常連組の曲に交じって,こういったスマッシュヒットがちりばめられると,当たり年という印象が強くなります。

 こうやって書いていると,確かにこの頃の歌謡界って活気があったんだなぁと改めて思います。テレビの音楽ランキング番組の金字塔である「ザ・ベストテン」(TBSテレビ)が定着して高視聴率をとるようになり,「YOUNG MAN」が満点の9999点(レコード売上,ラジオ総合チャート,有線放送,はがきリクエストの4チャートが全て1位)を初めて(そして唯一)獲得するという現象が起こったのがこの年。家族そろってテレビを見て,ヒット曲をみんなが知ってて口ずさむ(カラオケはまだありません)…今から振り返るとそんな時代だったなぁと思います。

 なるほど確かに1979年は素晴らしいですが,私が過去40年間のヒットチャートから最強の年を挙げるとすれば,この年ではありません。1979年を超えるものすごい当たり年は…(続く