内村&加藤の1&2なるか?と期待しながら観た体操男子個人総合加藤凌平 選手は終わってみれば11位でしたが,平行棒と鉄棒がいつもどおりの出来なら表彰台に届いていました。予選,団体とずっと張りつめてきて,個人総合の最後の2種目で体が限界点に達してしまったのでしょう。それでも,メダルを意識する戦いができたことは,東京五輪に向けて良いモチベーションになると思います。テレビなどではどうも 加藤 選手の扱いが小さいように思えてなりませんが,加藤 選手のすごさをわかっている人はたくさんいると思います。団体,個人総合と本当に素晴らしい戦いを見せてくれました。

 内村航平 選手の個人総合金メダルは,わずかな可能性しかない中での劇的な大逆転劇でした。平行棒の着地が少し動いてしまったときには,銀メダルもやむを得ないかなと観ている私も思ってしまいました。その状況であの鉄棒の演技。着地が止まった瞬間,内村 選手に正に神が宿ったような印象を受けました。着々と他の選手を引き離して,鉄棒のときは余裕の点差,というのが例年の個人総合のパターンですが,今回は完璧な演技が必要な点差という近年にはなかった状況でした。しかしそれでも勝つのが 内村 選手のすごさ。点数の差はわずか 0.099。1つのわずかな演技の乱れが勝敗を左右する戦いだったのですが,それが合計92点台というハイレベルな状況下で起こったことも素晴らしかったですね。

 銀メダルの ベルニャエフ 選手(UKR)は,鉄棒以外の5種目で15点以上を揃えました。内村 選手はあん馬とつり輪が14点台だったので,ベルニャエフ 選手がいかにすごかったかがわかります。ところが,内村 選手は残りの4種目が全て15.5点を超えるという,これまた近年にないハイレベルな点数だったのです。床と鉄棒は15.5点を超えることは珍しくありませんが,跳馬と平行棒も同時にこのレベルに来ることは驚異的です。団体の疲労感は確実にあったはずですが,団体優勝の充実感と,ベルニャエフ 選手の素晴らしい演技が,内村 選手の能力を引き出したと言えるでしょう。

 内村 選手は,内心ではこのようなしびれる戦いを待ち望んでいたと思います。体操の世界の流れは,種目別スペシャリストを重視し個人総合は軽視される傾向とも言われていました。しかしこの8年間,内村 選手がトップに君臨し続けたことで,オールラウンダーこそ体操選手の鏡,という原点回帰が起こっているように感じます。例年の世界選手権では,合計90点台を出せば銅メダルが取れていましたが,リオ五輪では90点以上が6人も出ました。内村 選手は個人総合からの引退を示唆する発言をしていますが,ベルニャエフ 選手や 加藤 選手ら後進の選手たちが高いレベルになってきたことが,このような思いを抱かせたのでしょう。内村 選手には,これからは得意種目に絞ることで,少しでも長く体操選手生活を続けてもらうことが良いのではないか,と個人的には思います。ただ,次は東京五輪ですから,体操界がそれを許すかどうかはわかりません。やっぱり個人総合に出てくれ,という流れになれば,東京五輪でも個人総合の雄姿を観ることになるかもしれませんね。

 リオ五輪体操男子の団体と個人総合は,内村航平 ウォッチャーで良かったと心の底から思える,幸せと感動に包まれた素晴らしいものでした。予選から立ち直った団体決勝の見事な戦い,個人総合の大逆転劇,これらの出来事が生ける 内村航平 伝説のメインページに書き加わりました。生ける伝説をリアルタイムで目撃し,五輪の悲願達成を共に喜べる幸せを,しばらくの間かみしめたいと思います。