フィギュアスケートのフリースケーティング(FS: Free Skating)では,男子は8回,女子は7回のジャンプを飛びます。ジャンプはスコアの半分以上に影響しますので,どのジャンプをプログラムに組み込むかが,フィギュアスケートの重要な戦略の1つになるわけです。ところが,よく観ている方の中には「3回転ジャンプがあるのに,女子の FS でダブルアクセルを2回飛んでるのはなぜだろう?」とか,なんでこのジャンプを選んでいるのかな?と思いながら観ている方もいると思います。そこで,ジャンプの種類がどのように決まるのか,そこにどんな戦略があるのかを,ざっくり紹介したいと思います。

 まず,ジャンプの用語や表記を整理します。

  • 【ジャンプの種類】 A =アクセル [8.5],Lz =ルッツ [6.0],F =フリップ [5.3],Lo =ループ [5.1],S =サルコウ [4.4],T =トウループ [4.3] ([  ]:3回転ジャンプの基礎点)
  • コンビネーションジャンプ」…2つ以上の連続ジャンプ,「ファーストジャンプ」「セカンドジャンプ」「サードジャンプ」…コンビネーションジャンプの中の1つ目,2つ目,3つ目のジャンプ
  • 本記事では,単独ジャンプやコンビネーションジャンプといった個々のジャンプ要素を「1」,単独ジャンプや "連続ジャンプの中の個々のジャンプ" を「1」と数えます。例えば,3連続ジャンプは1回で3本のジャンプを飛ぶことを表します。
  • 【表記例】 3A =トリプルアクセル,4F =4回転フリップ,3Lz+3T =トリプルルッツ→トリプルトウループのコンビネーションジャンプ
 FS におけるジャンプのルールは,以下のように規定されています。
  • [A] 男子は8回,女子は7回。
  • [B] アクセルジャンプを1本は必ず入れる。
  • [C] コンビネーションジャンプは3回まで。その中で3連続ジャンプは1回まで。よって,男子:8回・12本,女子:7回・11本までとなる。
  • [D] 3回転以上の同じ種類のジャンプは2本まで。その2本のうち1本は必ずコンビネーションジャンプに含める。(2A も2本までだが,2本とも単独ジャンプでも構わない)
  • [E] 2本飛ぶ3回転以上のジャンプの種類は2種類まで。
 [D] のルールにより,例えば 3Lz が得意な選手でも 3Lz は2本までしか飛べませんし,一方はコンビネーションにしなければならないので,例えば,3Lz+3T と 3Lz というような構成にする必要があります。

 [E] のルールはさらに悩ましい制約です。例えば,3Lz+3T, 3Lz, 3F+3T, 3F というジャンプ構成は不可能です。なぜなら,3Lz, 3F, 3T の3種類が2本ずつ入っているからです。2本飛んでいいのは2種類までなので,この例の場合,どれかを1本に減らす必要があります。

 上記のルールを総合すると,3A を飛べない大多数の女子選手は,FS で7回11本あるジャンプの中に,3回転ジャンプを5種類7本しか入れられません。よって残り4本のうち2本を 2A でカバーするのは必然的な選択になります。だから,女子は FS で 2A を2本飛んでいるのです。

 スコア戦略を紐解くために,具体的なジャンプ構成を例示します。3A を入れないケースでは,点数が高い Lz と F を2本ずつ飛び,コンビネーションジャンプも点数が高いものを組み入れると点数が高くなりそうです。考えられる典型的なジャンプ構成が下記です。

【パターンA】 3Lz★, 3F★, 3Lo, 2A★; +3T, +2T, +1Lo+3S 《基礎点:44.8》

 表記の見方を説明します。

  • 」はそのジャンプを2本飛ぶことを意味します。「」から始まるのはコンビネーションジャンプのセカンド&サードジャンプです。セカンド&サードジャンプはどのジャンプと組み合わせてもスコアは同じなので,これらを分離して書いています。例えば,"3Lz+3T と 3F" でも "3F+3T と 3Lz" でもスコアは同じなので,これらは "3Lz, 3F, +3T" と表しています。
  • 基礎点》は,ジャンプの回転数や種類に応じて与えられる点数です。実際には,演技後半の時間帯に実施した場合のボーナス点(基礎点が1.1倍になる),ジャンプの回転が不完全(回転不足やダウングレード)な場合の減点(回転不足だと基礎点が0.7倍になる),上述のルールに違反した場合の減点によって基礎点が変わりますが,これらを考えない点数を記しています。
 【パターンA】は 3Lz と 3F を2本ずつ入れ,3T と 3S をセカンド(サード)ジャンプで使うので,残る3回転ジャンプである 3Lo を単独ジャンプ(またはファーストジャンプ)に入れると,単独ジャンプとファーストジャンプが計5本となり,残りの2本が 2A になります。

 しかし,実際に【パターンA】を採用する選手はめったにいません。今季のトップ選手では ソツコワ 選手(RUS)だけがこの構成を採用しています。なぜなら,Lz と F の両方をきちんと飛べて(これを「Lz と F の飛び分けができる」なんて言います),かつ Lz と F の両方でコンビネーションジャンプを飛ぶというのは,女子にとってはとても難度が高いのです。ほとんどの女子選手は Lz と F の飛び分けが不得手なので,得意な方だけを2本にします。Lz が得意な選手なら【パターンA】の F を1本 Lo に変えると,

【パターンB】 3Lz★, 3F, 3Lo★, 2A★; +3T, +2T, +1Lo+3S 《基礎点:44.6》

になり,これなら点数もほとんど変わりません。これは今季 ポゴリラヤ 選手(RUS)が採用しています。ところが,+1Lo+3S 自体は点数が高いのですが,これを入れるとルールの制約上 +2T を入れざるを得なくなり,合計点が思ったほど高くなりません。実は +1Lo+3S よりも,+3T を2本入れる構成の方が合計点が高くなります。

【パターンC】 3Lz★, 3F, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2Lo 《基礎点:45.1》

 これは今季の 宮原知子 選手が採用していて,素晴らしいスコア戦略だなぁと感じます。多くのトップ選手は【パターンB,C】のどちらかの構成をベースに,3Lz の代わりに得意なジャンプを2本飛びます。現世界女王メドベージェワ 選手(RUS)でさえ,

【パターンD】 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T 《基礎点:43.9》

の構成です。Lz ではなく F を2本飛び,+2T+2Lo より点数の低い +2T+2T を入れているので,けして高いスコアではありません。彼女の強さは,基礎点ではなく出来栄え点(GOE: Grade Of Execution)と演技構成点(PCS: Program Component Score)にあると言えます。

 ところで,ここまで紹介したパターンは,スコアの差が1点程度で,大きな差ではありません。ですから「女子のジャンプ構成はほぼ上限まで来ていて,出来栄えの差が勝敗を分ける」と言われているのです。では,スコアを伸ばすにはさらにどのような策があるでしょうか。代表的な戦略を2つ紹介します。

 1つめは,セカンドジャンプに Lo を入れることです。+3T を +3Lo に変えれば +0.8点,+2T+2Lo を +2Lo+2Lo に変えれば +0.5点 と少なからぬプラスが得られます。しかし,セカンドジャンプの Lo は難度が高く,この戦略が使える選手はほとんどいません。ただ,今のジュニア世代は Lo のセカンドジャンプを習得している選手が多く,平昌五輪後は +3Lo を観る機会が増えそうです。

 もう1つは,言わずもがなの 3A です。これが飛べれば 2A を1本にすることができます。3A を飛ぶ 浅田真央 選手のジャンプ構成は,

【パターンE】 3A, 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A; +3Lo, +3T, +2Lo+2Lo 《基礎点:50.9》

で,メドベージェワ 選手(RUS)の【パターンD】より7点も高いのです。3A に加え,Lo のセカンドジャンプを2本入れていることが効いていて,この構成は今でも世界トップを独走しています。高難度なので失敗のリスクも高いですが,成功すると世界最高得点も狙える構成なので,ぜひ成功させてほしいです。

 このように 3A が入ると,点数面のメリットに加え,3回転ジャンプが6種類8本に増やせるので,ジャンプ構成の自由度が上がります。3A に挑戦する女子選手が増えてきているのは,話題性だけでなく,スコア戦略という側面もあるのです。

 さて,これが男子になると,3A や4回転ジャンプが加わってきますので,スコア戦略はさらに多様になります。男子のスコア戦略については,別の機会に考えてみたいと思います。

 以上,ジャンプに関する戦略の一端をご紹介しました。どんなジャンプ構成なのかを意識しながら観戦すると,また違ったフィギュアスケートの楽しみ方ができると思います。まずは「2本飛ぶのが Lz か F か?」や「3連続ジャンプは +1Lo+3S か +2T+2Lo か?」などに注目しながら観ると面白いと思います。