先々週,四大陸選手権が行われ,シーズン終盤の状況が見えてきました。世界選手権がどんな大会になりそうか,気が早いですが今からスポーツ雑誌風に占ってみたいと思います。


【男子】

 優勝争いは,羽生結弦,宇野昌磨,ハビエル・フェルナンデス(ESP),ネイサン・チェン(USA)の4選手の争いになるだろう。

 その最右翼はやはり 羽生結弦 である。全員がベストな演技をした場合,SP (Short Program),FS (Free Skating) どちらも最高得点を出せるのは 羽生 であり,その意味で優勝に最も近いのは間違いない。ただ,気がかりなのは,FS 後半最初の4回転サルコウ+3回転トウループのコンビネーションジャンプが,四大陸選手権でもグランプリファイナルでも成功しなかったことだ(四大陸選手権では SP でもこのコンビネーションジャンプに失敗)。4回転ループを入れて4回転ジャンプの本数を増やしたことで,そのしわ寄せが演技後半のジャンプに及んでいるとの指摘もあるが,四大陸選手権では,予定していなかった "後半4回転トウループ2本" を成功させたことから,体力面の問題ではないことは明らかだ。おそらく,音楽の細部に敏感な 羽生 にとって,音楽の流れとジャンプがかみ合っていないことが問題なのだろう。あと1ヶ月でこのチューニングを完成させられるのか,FS 後半最初のコンビネーションジャンプが注目点だ。

 四大陸選手権は,平昌五輪と同じリンクを経験することが目的であり,順位は気にしていなかったはずだ。完全な演技ではなかったにもかかわらず チェン との差がほとんどなかったのは収穫だと感じているだろう。ピークを世界選手権に持っていくことは今シーズン最大のテーマ(別記事参照)であり,宇野 や チェン の実力や フェルナンデス の今季の調子を考えると,世界選手権は当然勝つべき大会である。逆に負けるようなことがあれば,平昌五輪に暗雲が漂うことになるだろう。

 グランプリファイナルに続き,四大陸選手権でも 羽生 と チェン の後塵を拝した 宇野昌磨 は,内心では悔しい想いを抱きながらも,それによってモチベーションが維持されるのは好材料だ。四大陸選手権では,SP でジャンプを全て成功させ初の100点台を達成,FS では4回転ループジャンプを成功させ,一歩一歩着実に進化している。4回転ループは 羽生 が先にプログラムに組み込んだこともあり,宇野 の4回転ループの成功はさほど話題になっていないが,実はかなり意味があると私は考えている。4回転ジャンプの種類を書き並べてみると,それが見えてくる。

  • 宇野: 4F, 4T, (4Lo)  (  ):四大陸選手権で追加
  • 羽生: 4Lo, 4S, 4T
  • チェン: 4Lz, 4F, 4S, 4T

 4回転ループを入れる前の 宇野 は,チェン が飛べるジャンプ2種類しか飛べていなかった。4回転フリップは 宇野 が最初に飛んだが,チェン がすぐに追いついてきたためアドバンテージを失ったのだ。しかし,4回転ループを入れたことで,チェン が飛べないジャンプを入れ,4回転ジャンプの組み合わせにオリジナリティーが生まれた。また,羽生 が飛べるジャンプを入れて 羽生 と同じ種類数になったことで「羽生 に肩を並べた」という印象を与えることができた。宇野 は4回転サルコウジャンプの導入も視野に入れているという。五輪シーズンにそこまで到達するかは未知数だが,もし到達すれば,羽生 が飛べるジャンプを全て入れた上でジャンプの種類数は超えるので「羽生超え」という印象を与えることになり,これは強烈なインパクトになる。

 私は,宇野 が4回転ジャンプを4種類にする必要はないと考える。4回転ループもシーズン途中から入れているものであり,まずは3種類の4回転ジャンプの精度を高めることが先決だろうし,五輪シーズンになってから新たなジャンプを入れるのはリスクが大きいので,五輪は現在の3種類で臨むべきだと思うし,それでも金メダル争いの勝機は十分にある。それに向けて,世界選手権では,チェン の華やかなジャンプ構成に惑わされることなく,現在のジャンプ構成の完成形を披露できれば,表彰台どころか優勝も十分にありうる

 ハビエル・フェルナンデス(ESP)は,今シーズンは昨季ほど素晴らしい出来ではないが,それでもヨーロッパ選手権をきっちり5連覇し,世界選手権は3連覇を狙う。4回転ジャンプを FS で4本以上入れる風潮が強くなる中,昨季同様4回転3本のまま高い完成度で勝負する戦略は実に手強い。宇野 や チェン が成長著しいとはいえ,フェルナンデス が 羽生 対抗の一番手であることは揺るがない。例年,世界選手権はきっちり仕上げてくるが,今季の調子,宇野 や チェン ら若手の台頭,3連覇への重圧を考えると,今年は少し難しい戦いを強いられるだろう。

 グランプリファイナル2位,全米選手権と四大陸選手権の優勝で,一気に注目を集める ネイサン・チェン(USA)。チェン の評価に関しては「羽生 危うし」「まだまだ 羽生 の域ではない」など両極端な論調が目立つが,どちらも的確ではない。SP と FS が失敗なく実施できた場合,羽生 は合計 320 点に届くが,チェン は合計 310 点程度で,これが出来栄えやミスによって上下することになる。この点数の差は実力が並んだとまでは言えないが,けして楽観もできない。

 チェン はジャンプだけでトータルプログラムとしては弱い,といった評価があるが,その見方は過小評価だ。バレエの心得がある チェン の表現力は大会のたびに良くなっており,芸術点に相当する PCS (Program Component Score) の点数もどんどん上がっている。羽生 や 宇野 を見慣れている我々にとって チェン の演技はたしかに物足りなく感じてしまうのだが,羽生 や 宇野 の表現力が超一流レベルなのであり,チェン の表現力も既に一流のレベルに到達している。世間の風評よりも PCS の差は小さいと思った方がよいだろう。

 チェン の4回転ジャンプは成功確率が高く,転倒や抜けの可能性はほとんどないが,GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)はさほど高くない。ジャンプの基礎点はたしかにすごいのだが,技術点にあたる TES (Technical Element Score) は GOE によってかなり上下するので,ジャンプの完成度も重要である。羽生 や 宇野 は,ジャンプの失敗・転倒があるものの,成功したときは完成度が高いので GOE が高くなるのだ。つまり,技術点の差は世間で報じられているような脅威とまでは言えないだろう。

 ソチ五輪プレシーズンの 羽生結弦 と パトリック・チャン(CAN)の差は,現在の 羽生 と チェン の差よりもっと開いていた。ということは,チェン が平昌五輪で金メダルをとっても何ら不思議ではないが,ソチ五輪では 羽生 よりも チャン のミスが多かっただけで,普通の出来なら チャン が金メダルだったことを忘れてはならない。このときの 羽生 は,10代でありながらシニア4年目であり,そこまでの積み上げがあったが,まだシニア1年目の チェン は,羽生 に追いつきそうに思えても,実はこの差を詰めるのが案外難しいことを,これから平昌五輪までの間に感じることになるだろう。その前哨戦となる世界選手権は チェン が 羽生 にどこまで迫れるかが注目点だが,チェン にとっては,技術面では GOE や PCS をどこまで高められるか,メンタル面では追う立場の勢いや重圧にどう向き合うか,その両面が問われる大会になる。

【女子】へ続く