今から14年前の2003年1月にNHKのど自慢に出場したことは,放送業界に憧れを抱いたことのある私にとっては,とても貴重な体験になりました。当時 Web に書き残した文章を載せて,改めて振り返っておこうと思います。


<オープニング>

 2003(平成15)年1月25日(土曜日),私にとっては,印西市(千葉県),伊勢原市(神奈川県)に次いで3度目の予選会出場。川崎駅から歩くこと約10分,教育文化会館大ホールに到着。人口100万都市だけあって,過去2回よりも会場が広い。ここが満杯の状態で歌ったら気持ちいいだろうなぁとわくわくしながら会場入り。

 バンドの音合わせが終わり,ディレクタが今日の段取りを説明。20番までの人たちがもう壇上の席に座る。そう,予選会では出番を待つ際,壇上の席に座り本番っぽさを体験できるのです。それにしてももう壇上に上げちゃうんだと思ったところで,のど自慢司会の宮川アナウンサー登場。場内が大拍手で一気にヒートアップします。さっきまでのもやっとした空気がいきなりピリッとするんですよ。いつも鳥肌が立つ瞬間です。

 のど自慢は今年で満57年(放送開始が昭和21年,終戦翌年ですよ),宮川アナが担当されてから満10年を迎えたそうです。恐るべき長寿番組,そして宮川アナも前任者が思い出せないくらいすっかりのど自慢の顔になられました。宮川アナの初回がここ川崎市だったそうで,川崎市10年ぶりで感慨もひとしおといったご様子。川崎はそんなに久しぶりなのか~と,そのときはふ~んというくらいでしたが,出場した今になって思えば実に幸運なことなのだなぁと思います。

 宮川アナの前説でいつもおなじみとなっているのが,応募がこんなにたくさん来てもうすでに出場する皆さんは選ばれた方々です!とやってボルテージを高めることと,合格の秘訣は私にもわからないのですといって笑いを取ることです。「大半の方は今日でおしまいです。どうぞご自分を出し切ってください」審査基準が明確ではないのど自慢,でも毎回キラリと光っている方が選ばれているのは確かです。私の場合にはさわやかに楽しく歌うのだ,と心に誓うのでありました。

 ハイビジョンで放送する予選会番組のオープニングを収録し,いよいよ予選会がスタート。サイト「LOVE LOVE のど自慢」の運営人のAさんも出場されるということもあり,始めの30人ほどを観ました。Aさんは歌詞に合った振り付けを入れていて,おもしろ枠でいける感じのキレはありました。放送をご覧になった方はお分かりと思いますが,本番出場のおもしろ 枠が「NAI NAI 16」と「黄色いさくらんぼ」ですから,相手が強すぎたのが不運でした。正直言って,最初の30名はキラリと光る人が少なくて,その中で通ったのは「あんたの花道」を歌われた女性の方(本番では20番目に歌い見事合格)だけでした。この方は歌もお上手だし舞台がパッと明るくなるような華をお持ちの方でした。この時間帯ではずばぬけて素晴らしかったです。ただ,そんな感じだったので順番が遅かった私は「これは後半チャンスありだな」とほくそ笑んでいたのですが,笑っていられたのはこのときだけだったのでした。

<自分の出番>

 自分の出番の前にカラオケルームで少しでも声出ししようと思ったのですが,3軒行って全部待ち(笑)。土曜の昼下がりにあんなに盛況とは読みが甘かったです。近くに公園などもなく,結局声出しできないままになりました。ちょっと不安でした。

 さらに,私が到着した200番前後から,続々光る人たちが登場。予選会開始直後の感じとは全然違っていて,誰が本番出場してもおかしくないようなステージとなっていたのです。北島三郎「まつり」は3人の方が歌われたのですが,みなそれぞれ個性的で甲乙つけがたい感じでしたし,中年男性2人組の「桃色吐息」は無理せず自分のキーでハモっていてかっこよかったです。また,赤と青の和装で「浪漫」を歌ったおそらく高校生の2人組も,歌の上手さも含めていい存在感を出していました。ほかにも,きっと当落線上だった方々がひしめいていたはずです。のちほど記しますが,ま行以降(下記※)の合格者が私を含めて7曲もあったんです。1人は86歳の優しきおじいちゃんですから特別としても,この時間帯のレベルの高さがおわかりいただけるでしょう。

(※)予選会の順番は,曲名の五十音順です。

 出番待ちのとき印象的だったのは,「眩暈」の女の子(本番では4番目に歌い見事合格)ですね。若いのにすごく落ち着いていて豊かな声の響きが素晴らしかった。「やっぱ好きやねん」の男性(本番では17番目に歌い見事合格)はフロンターレのユニフォームが鮮やかで,加えてすごく美声で私の大好きな声の持ち主でした。この2人は文句なく通ると思いましたが,ほかにも通りそうな方はたくさんいました。これは通らなくても仕方ないな,とにかく結果よりも自分の力を出すことを考えようと思うようになっていました。

 そうこうしているうちにあっという間に自分の順番です。

 「231番。夢伝説」(スターダスト・レビューの代表曲) イントロは短くすぐ歌い出す。

 「♪遠い・・・」 第一声。腹から声は出ているが,ちょっと喉声で押してしまっている。本調子じゃない。しかも伴奏がけっこううるさい。原曲のアレンジは最初のほうは静かなのに。伴奏に埋もれまいとしてますます喉声になりそう。でも高音で声がかすれたら終わりだ。腹も喉も使え。開き直った。「♪どこかで出会ったことのある・・・」 最初の最高音。何とか出ているが,かすれぎみ。「♪疑うこと忘れるほど・・・」 再び最高音。う,ちょっとヘロった。

 「ありがとうございました」 事務的な女性のテープ声。おしまいの合図で次の方にすぐマイクを譲り,舞台を静かに下りた。宮川アナやディレクタから呼び止められることもなく,ふ~っと息をついて席に戻る。本人としてはイマイチ,いやイマニくらいの出来だった。後ろの席の方から「上手かったよ~」と声をかけていただきましたが,この時点で「ダメだろうな…」とあきらめていたのでした。

 当日もそうですし,ここ最近ずっとカラオケに行っていなかったので,歌は本調子とはいえないものでした。「この忙しい中で挑戦するのに無理があったか…。でも今回は上手い人たちがたくさんいるから,落ちても悔いはない」と思いながら,念のため結果発表までいよう,そんな思いで,審査時間のイベントにはあまり目をくれず,襲ってきた眠気に身をゆだねていました。

<結果発表>

 6:30頃から結果発表が始まりました。あきらめてはいたものの,ドキドキするひとときです。24番,66番,108番,… 序盤はかなり飛ばされた。やはり後半有利の法則が今回も生きるのか。111番,113番(このあたり正確ではありません)… おっとこのあたりはけっこう呼ばれてるな。私がステージを見た方で通ったのは「まつり」から。

  • 「まつり」(北島三郎=ゲスト)…彼は歌の迫力という点で他の方より勝ってたもんなぁ
  • 「未来予想図II」(ドリカム)…正統派の上手さで選曲ベタ過ぎるのはどうかと思ったけど通過したなぁ
  • 「無法松の一生」(村田英雄)…人力車夫の衣装で太鼓のバチ持ってがんばったおやじさんだ
  • 「眩暈」(鬼束ちひろ)…彼女は上手かったもんなぁ
  • 「やっぱ好きやねん」(やしきたかじん)…フロンターレの彼だ,やったぁ
  • 「山」(北島三郎=ゲスト)…歌のリズムがめちゃめちゃだった杖ついたおじいちゃん,ベタなシルバー枠だなぁ

と,このあたりは印象が鮮明な方々が続く。立て続けにかなり呼ばれちゃったな。激戦だったから当然だろうけど,もうあと1人2人じゃないのか,と思ったそのとき。

 「231番,夢伝説を歌われた・・・」あ,俺だ。あ,あれっ。呼ばれたぞ。やったーーーー! まさかの予選突破で,嬉しいというより驚いた。それが呼ばれた瞬間の心境でした。

 周囲の方に「おめでとう。頑張って」と声をかけられ「ありがとうございます」と言いつつ足早に荷物を持って舞台へと上がりました。呼ばれると思ってなかったのでちょっと動きが遅くなり,予選突破者では私が最後に舞台に上がりました。私の後に呼ばれたのは民謡の方だけだったので,民謡を除くと私が最後に呼ばれたんですね。あの激戦の中よくひっかかった・・・これが偽らざる心境でした。でも何はともあれここに残った。いよいよのど自慢のステージに自分が立つ。そう思うと,予選会が終了となり,これからどんな段取りで明日を迎えるんだろうかと,客が引けた後の舞台上でどんどん気持ちが高まっていきました。