世界選手権の成績により,平昌五輪フィギュアスケートシングル女子の日本の出場枠が2名になったことは,関係者にとっては本当に無念で悔しい結果だったと思います。1ファンである私の思いは,単純に2人しか観ることができないことがとても残念ですし,五輪出場者選考の過酷さを思うと,観るだけの側なのに胸がヒリヒリとしてきます。

 ところが,マスコミやスポーツライターの論調は「選手はよくやった」「日本のレベルが低下」「2枠でかえってレベルが上がる」など,全く論点が外れたものばかり。スポーツの競技性や勝敗の機微といった側面はほとんど報道せず,選手のアイドル性や薄っぺらいドラマ性に終始する有様。こういった馴れ合いと,競技者・指導者に丸投げの体質が,日本がこれだけ豊富な人財を擁しながら,五輪出場枠2枠という失態を招いた,ということを関係者は認識しているのでしょうか? 本記事では,強い言葉で今回の事態の問題点を指摘いたします。

MiharaMai このような状況でも,選手が頑張ったことは言うまでもありません。特に,三原舞依 選手の健闘は本当に称えられるべきです。単なるノーミスというレベルではなく完成度が伴った演技で,技術点(TES: Technical Element Score)は メドベージェワ 選手(RUS)を除けばトップの点数をたたき出したのです。三原 本人の談話のとおり,ソチ五輪の 浅田真央 選手の伝説のフリースケーティング(FS: Free Skating)を彷彿とさせるものでした。ショートプログラム(SP: Short Program)のときには,今までに感じたことのない緊張感が襲ったようですが,最低限の減点に留め,FS で完全に払しょくするあたり,三原 選手のメンタルと技術の高さには本当に感動しました。深夜,リアルタイムで応援していた人たちは,三原 選手の素晴らしい演技に感涙し,197点まで伸ばしたのを見て,もしかしたら3枠獲れるかもしれない,と期待感を抱いたのではないでしょうか?

 当然 樋口新葉 選手の演技に注目が集まりました。樋口 選手に枠取りの重圧を与えることは酷だとは思うのですが,それに応えられるだけの十分な実力を持っているからこそ,皆さんも期待したと思います。「順位が3つ届かなかった」という表面的な報道がされていますが,結果から見るととても僅差でした。演技の後半最初の 3Lz+3T の失敗(= 2Lz 単独になってしまった)さえなければ,もしくはこの失敗があっても,最後にリカバーのために挑んだ 2A+3T のセカンドジャンプが普通に飛べていれば8位に入り3枠を確保できたのです。つまり,三原 選手のベストパフォーマンスと他選手の停滞によって(私の直前分析よりもさらに条件が緩和され)完璧なパフォーマンスでなくても,1ミスに抑えればいいという状況だっただけに,本当にもったいなかったです。勝負事は僅差で決まるというスポーツの鉄則はここにも当てはまりました。ミス1つの差という結果に,樋口 陣営は重い重い責任を感じているかもしれません。私は,樋口新葉 選手に期待と不安を抱いていた1人として,彼女が負ってしまったであろうダメージがとても気がかりです。1人の有望選手がつぶれてしまうきっかけになりはしないかと案じています。

 三原・樋口 両選手(むろん 本郷理華 選手も)をこのような重圧にさらし,結果として3枠を逃す大失態を犯した日本スケート連盟に対して,私は強烈な失望と怒りを禁じ得ません。マスコミは「日本の総力やレベルの低下」のように報じ,小林芳子・日本スケート連盟フィギュア強化部長は「残念ながら世界についていけていない」「(出場者選考が)今まで以上にし烈になる。かえっていい選手が出てきてくれればいい」とまるで評論家のようなコメントを発しています。何でしょうか,このコメントは…。関係者各位の当事者意識があまりに欠落していて,嘆かわしい限りです。

 マスコミ報道の中にもひどいものがありました。三原 選手が SP でミスしたことを,実力不足,ひいては2枠の遠因かのように書いている記事を見て,私は怒り心頭に発しました。三原 選手が仮に SP もノーミスだった場合,総合4位になり 樋口 選手が9位でも3枠確保でしたが,8位と9位のスコアの差はわずか0.2点しかなく,三原 選手が4位か5位かは枠取りにほとんど影響がなかったのです。なのに,あれだけ素晴らしい FS を演じた 三原 選手に対して SP のミスをあげつらい的外れな指摘をするとは,選手に対するリスペクトが全く感じられない記事でした。マスコミがこの程度だから日本スケート連盟がだらしないままなのだ,と感じざるを得ないですね。

 かつて,浅田真央,安藤美姫,鈴木明子,村上佳菜子 ら各選手が活躍し,当然のように3枠を獲っていた頃と比べれば戦力ダウンしていることは事実ですが,今までが異常に強力だっただけで,現在でもロシアに次ぐ戦力があり,他国から羨望される人財を擁していることもまた事実です。宮原知子 選手の欠場が3枠喪失の大きな要因となってしまいましたが,国のトップスケーターが欠場すれば3枠が危ないのはどの国も同じであり,レベル低下など全く筋違いの論評です。今までの強力布陣の時代にあぐらをかき,状況の変化に対する対応が欠如し,トップスケーターである 宮原 選手のコンディション整備を怠った日本スケート連盟の怠慢が,3枠喪失の最大の原因です。このことをきちんと指摘するマスコミやライターが見当たらないように思うのは私だけでしょうか?

 2月の四大陸選手権アジア大会が2週連続開催にもかかわらず,その両方に全日本選手権の優勝者を出場させるという話が出たとき,今回の最悪な結末を予感した方も多かったのではないでしょうか。アジア大会に有名選手を出場させることは開催国である日本の責務だったとはいえ,四大陸選手権が五輪会場で開催されるという今年の重要性と,五輪プレシーズンの世界選手権が控えている状況を考えれば,日本スケート連盟はアジア大会主催者側と本気で打開策を考えるべきでした。どこまでこの件が話し合われたのかに関して私は把握していませんが,打開策が何もなかったのは事実です。この過密スケジュールと 宮原 選手のケガが無関係なはずがありません。結局,宮原 選手は「五輪会場の経験」「アジア大会の盛り上げ」「世界選手権の2年ぶりのメダル獲得」「五輪3枠の維持」これらを何一つ果たすことができませんでした。宮原 陣営も後悔と責任を強く感じていることでしょう。

 「3枠でも2枠でも出場選手の成績が良ければよし」とか「3人が出場すればメダルを獲る可能性が上がる」といった考えの方もいるようですが,枠取りはもっとスポーツの普遍的な側面で考える必要があると思います。

  • 何よりもまず,五輪や世界選手権は1人でも多くの選手が経験すべき大舞台です。
  • 同じ国でも様々なタイプの選手が演技を披露することで,フィギュアスケートの多様性や面白さが世間に伝わり,フィギュアスケートの普及や発展を促すと思うのです。
  • そして,最大の問題は2枠と3枠では選手への負担が格段に変わることです。選考の過酷さが全く違いますし,五輪本番でのプレッシャーの共有という点でも3人より2人の方がはるかに厳しいと思います。

 人財が乏しく2枠でやむを得ないという状況ならともかく,現在の日本が2枠でよい理由などどこにもありません。世界が注目する五輪の場において,素晴らしい日本女子スケーターを2人しかお披露目できないのが,本当に悔しいです。メダルを獲れないことよりも,出場枠が狭まることの方がずっとずっと辛く悔しいことだと思うのですが,3枠喪失の事態が現実となった今,報道等を見る限り,3枠確保が何より最優先事項であるという意識を持っている人が,もしかして関係者の中にあまりいなかったのかな?と感じてしまいます。

 五輪の出場者選考が熾烈を極め,国内の争いで疲弊して,平昌五輪で力を出せずに終わる…これが最悪のシナリオです。日本女子の実力ならそんなものは乗り越えられる,などという精神論はあまりにも無責任です。日本スケート連盟が今回の事態に陥った責任を取るには,来シーズン,五輪に出場する2選手が,国内選考で疲弊することなく,五輪で最も実力を発揮できるような環境整備を本気で本腰で実施すること,これしかありません。正直なところ,今の動きを見る限りそんなことができるとは到底思えませんが,関係者の1人でも多くの方が,3枠喪失をもっともっと重大なこととして捉え,五輪に向けて選手のためにできることは何なのかを徹底的に考えて実践していただきたい,そう強く強く願ってやみません