UnoShoma2017World フィギュアスケート世界選手権シングル男子は,羽生結弦 選手の劇的な優勝が話題の中心ですが,羽生 選手にあと一歩のところまで迫り銀メダルを獲ったのは,羽生 選手の同門生にして世界選手権3連覇を狙った ハビエル・フェルナンデス 選手(ESP)でも,安定した4種類の4回転ジャンプで 羽生 選手を四大陸選手権で破った ネイサン・チェン 選手(USA)でもなく,我らが日本の 宇野昌磨 選手でした。宇野 選手は今シーズン,本当にすごいことをやってのけたのですが,報道での扱いが小さいのが許せないので,ここでいろんな角度から取り上げたいと思います。

 世界選手権の演技がとても安定していました。ショートプログラム(SP: Short Program)が 104.86 点で2位,フリースケーティング(FS: Free Skating)も 214.45 点で2位,合計点 319.31 点も2位。FSの 210 点台達成は 羽生,フェルナンデス 両選手に続く3人目,合計の 319 点台は フェルナンデス 選手を超え,この上は 羽生 選手しかいません。SPとFS合わせて「転倒なく着氷した4回転ジャンプが6本」で「演技構成点(PCS: Program Component Score)が満点の90%(SP:45点,FS:90点)を超える」,この2つを今大会で同時に達成したのは 宇野 選手だけであり,技術面と芸術面の両方が極めて高いレベルで両立していたことを示す結果でした。FSの 3Lz(トリプルルッツジャンプ)で着氷の乱れがなければ,初めて 羽生 選手に勝って優勝していたという点ではもったいなかったですが,あと一歩のところまで追いつめた2位というのは,宇野 選手にとって,そして 羽生 選手にとっても,最高の結果だったと言っていいでしょう。羽生 選手を立てつつ,悔しさと満足感が両立するというあたりが 宇野 選手らしい結果だなと思います。

 好成績を残した1つの要因に,尋常でないメンタルの強さがあります。フィギュアスケーターは,自分の演技を行うまで音楽を聞いたりして自分の世界に入り込み,他人の演技を見ないものなのですが,宇野 選手は違います。今回の世界選手権では,以下のようなコメントを残しています。

「他の選手の演技を見ないようにしようとかではなくて、逆に見たいんです。それが自分の演技に影響するとは思わないし、うまい選手の演技は見たいと思うじゃないですか」

 これは,自分への自信に加え,自分や大会の雰囲気を客観視できているんだと思います。この境地に達するのは並大抵ではなく,弱冠19歳にしてこのメンタルコントロールを体得しているとは驚かされます。

 メンタルだけでなくフィジカルもすごくて,世界選手権に至る 宇野 選手の今シーズンの出場大会の多さは特筆すべきものがあります。グランプリシリーズ2戦,グランプリファイナル,全日本選手権,四大陸選手権,世界選手権と,出るべき主要大会に全て出場しているのに加え,四大陸選手権の翌週にアジア大会に出場,さらにグランプリシリーズの前と,アジア大会と世界選手権の間にも公式試合に出場しました。これら9大会全て表彰台に乗っているのがすごい! さらに,再来週には国別対抗戦がありますので,今シーズンはなんと10試合に出場するのです! 国別対抗戦の出場が発表されたとき,日本スケート連盟は(女子の枠取りの件と同様に)何も考えてないんだなと愕然としましたが,宇野 選手本人がそこはしっかり考えていると思うので,とにかくケガなく乗り切ってほしいと切望しています。

 四大陸選手権は,例年なら出場しない選手も多いのですが,今年は平昌五輪の会場で開催され,五輪のリンクを経験する点で重要度の高い大会でした。にもかかわらず,翌週のアジア大会にまで出場させられてしまったのは,アジア大会に全日本選手権の優勝者を出場させるという,日本スケート連盟と大会主催者との間で取り決めがあったかららしいのですが,アジア大会も少しミスはあったもののきちんと優勝して,開催国のメンツを保つことにも貢献しました。全日本選手権の優勝も,羽生 選手のインフルエンザ罹患による欠場によってお鉢が回ってきたものでしたが,宇野 選手の実力なら優勝して当然というプレッシャーと戦ったのは貴重な経験でした。このような過密日程を乗り越え,世界選手権で自己最高得点を30点も上乗せするという,驚異的な結果を残したのは本当に素晴らしかったです。世界選手権にピークを持ってくるだけでもすごいことなんですが,連戦を乗り越えての演技の出来栄えと高得点は,宇野 選手の並々ならぬ努力に対するスケートの神様からのご褒美のように感じました。

 そしてそして,さらに今シーズンがすごいのは,シーズン途中に新たな4回転ジャンプをプログラムに組み込んだことです。宇野 選手のFSの4回転ジャンプは,4F,4Lo,4T の3種類ですが,4Lo(4回転ループジャンプ)を入れたのは2月の四大陸選手権からです。もっと言えば,今では 宇野 選手の切り札になっている 4F(4回転フリップジャンプ)も,プログラムに組み込んだのは実質的には今シーズンから(正確には昨シーズン最終戦から)です。つまり,昨年の世界選手権と比べて,4回転ジャンプを2種類増やすという,とんでもないことをやってのけています。当初,今シーズンは 4F,4T の2種類を固めるつもりだったと思いますが,4回転ジャンプを4種類飛ぶ ネイサン・チェン 選手(USA)の出現が,宇野 選手に 4Lo の導入を急がせたのだと思います。

 シーズン途中の新ジャンプ導入は,ほとんど前例がありません。普通は,1年間同じプログラムを滑り熟成させていきますので,ジャンプの変更や順序組み換えでさえリスクが高くめったに行われないのです。シーズン途中で新しいジャンプ(しかも習得したての 4Lo)をプログラムに組み込むことは,ハイリスク・ハイリターンでありかなりの覚悟があったと思います。その勇気と技術が,世界選手権という大舞台でハイリターンを呼び込んだのでしょう。

 ネイサン・チェン 選手がシニアデビュー年でスタートダッシュを見せ,グランプリファイナルで 宇野 選手の3位を上回る2位に入ったときは,内心穏やかではなかったでしょう。四大陸選手権でも チェン 選手の後塵を拝しましたが,それでも慌てずに世界選手権で結果を残せたのは,昨年の世界選手権で満足いく演技ができずに悔しい思いをし,同じ轍は踏まないという強い気持ちを1シーズンずっと持ち続け,今年の世界選手権に照準を合わせていたからです。言うは易しですが,ここまで述べたような,あり得ないレベルの連戦,五輪プレシーズン,今年こそはというプレッシャーの中で,大会に出場し続けながら世界選手権にピークを持ってきて,実際に銀メダルを獲得したわけです。これだけの厳しいスケジュールやプレッシャーを乗り越えたことを思うと,今シーズンの最後についにつかみとった銀メダルには本当に感動しました。今後私は,今まで以上に 宇野 選手を応援しようと心に決めました。

 世界選手権での日本男子の1-2フィニッシュは,2014年の 羽生 & 町田 両選手以来ですが,2014年は五輪直後で有力選手が欠場する中での結果だったことを考えると,今回の 羽生 & 宇野 両選手の金&銀メダルには,計り知れない価値があります。例えて言うなら,今までは,マラソンの先頭を風を一身に受けて走る 羽生 選手を風よけにして,宇野 選手が追走してきた感じでしたが,今後はWエースとして2人で並走していくことになるでしょう。もう 宇野 選手に風よけは要りませんし,羽生 選手も並走する日本選手がいることで,気持ちに余裕が生まれると思いますので,2人で高め合いながら平昌五輪を迎えられそうです。

 このように,宇野 選手が世界選手権で銀メダルを獲ったことは,報じられているよりもはるかに大きなインパクトがあったと私は考えています。本人には強い自信が生まれ,周囲には強烈なアピールになったはずで,スケーターが 羽生 選手に抱く敬意と同じように「宇野 選手には負けてもしょうがない」と思わせる雰囲気が出てきたのではないかと感じます。平昌五輪の話は気が早いですが,宇野 選手は,フェルナンデス,チェン 両選手と銀メダルを争う構図になると私は予想していて,しかも2人より半歩リードし金メダルをも狙える位置にいると思います。ケガやスランプがなければ表彰台はほぼ確実で,五輪での日本男子1-2フィニッシュという大偉業の達成も十分ありうると思います。今から来シーズンが本当に楽しみになってきました。すごいことが起きる予感でワクワクしています。