spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 いよいよ今週末,グランプリシリーズが開幕を迎え,本格的なフィギュアスケートの五輪シーズンに突入する。6週連続のグランプリシリーズ,そこから2週間後のグランプリファイナル,さらに2週間後の全日本選手権,同時期のロシア国内選手権…目が離せない大会が続き,あっという間に年末を迎え日本代表が決まる。羽生結弦 選手の五輪2連覇への挑戦,日本女子シングルの2枠をめぐる熾烈な代表争いなど,かつてないほど見どころ満載の今シーズン。まずは,グランプリシリーズ全体としての見どころを探っていこう。

 今季は,例年と開催順序が大きく異なっている。

《昨季》 米 → カナダ → ロシア → フランス → 中国 → 日本
 (ちなみに2季前と3季前は,米→カナダ→中国→ロシア→フランス→日本)
【今季】 ロシア → カナダ → 中国 → 日本 → フランス → 米

 例年,北米から始まり,日本(NHK杯)でグランプリファイナル出場者が決定する,という流れだったが,今季はロシアから始まり米国で終わるという流れになり,北米2大会とヨーロッパ2大会が各々中3週空くことになった。なぜ開催順序が変わったのか,私はその事情を全く知らないが,この開催順序がどのような影響を与えるのか,興味深いところだ。

 まず明らかに言えることは,日本選手とロシア選手が自国の大会に出場するケースで,調整が楽になるという点だ。昨季の場合,日本大会に出場する日本選手は,日本大会 → グランプリファイナル → 全日本選手権 が各々中1週であり,4週間で3大会(しかもいずれも気が抜けない大会)に出場した。昨季の日本大会に出場した 羽生結弦 選手や 宮原知子 選手は,実に過酷な1ヶ月を送っていた。また,ロシア大会に出場するロシア選手は,日本大会以外の出場だとグランプリシリーズが中1週または2週連続となり,日本大会に出場すれば,ロシア国内選手権が全日本選手権と同時期なので,4週間で3試合という日本選手同様の状況になっていた。

 今季はこの不利から解放される。ロシア大会と日本大会に出場する 羽生 選手と メドベージェワ 選手(ロシア)は,グランプリシリーズ2戦~ファイナル~国内選手権の間隔中2週→中3週→中1週 になる。絶対王者&女王の2人が無理のないローテーションで臨めるメリットは大きい。練習拠点のカナダではなくロシアを選択した 羽生 選手には五輪シーズンへの意気込みを感じるし,大好きな日本に来られる メドベージェワ 選手も気分よく年内を戦えるだろう。一方,日本大会に出る 宮原 選手はもう1つが米国大会であり,日本→米国→ファイナル→全日本 の4戦が全て中1週なので,負傷明けでこのスケジュールを乗り切れるのかが注目点だ。ただし,今季のグランプリファイナルの開催地は名古屋なので,移動の負荷が米国のときだけなのは救いだ。

 もう1つ言えることは,北米2大会(米,カナダ)と欧州2大会(ロシア,フランス)の各々の間隔が空くことで,欧米選手の調整が楽になる点だ。昨季まで,北米とヨーロッパは各々2週連続だったので,米&カナダ,ロシア&フランスという選択はしづらかったが,今季はその選択がしやすい状況になり,近場で調整したい欧米選手には朗報のはずだ。ところが,北米の選手が米&カナダの2大会に出場,または欧州の選手がロシア&フランスの2大会に出場,というケースが有力選手では極めて少ない。チェン,ワグナー の米国女子2選手が北米2大会に出場する程度で,ロシア&フランスの出場に至っては(欧州以外の選手を含めても)有力選手が全くいないという,やや不思議な状況が生じている。つまり,北米や欧州の開催時期分散を活かす欧米選手がほとんど現れなかったのである。

 開催順序という点では,例年の,米国で華やかに幕を開け日本が最後にビシっと締める,という流れと異なり,今季は(個人的には例年ひと息ついていた)ロシア大会から始まるのが新鮮で,日本大会が中盤での盛り上がりを生み,米国で華やかに締めるという流れが,観ている側にやや不思議な感覚を与えそうだ。そして,それが五輪シーズンの特別感を高めてくれそうな気がする。

 出場選手の面で考えると,初戦のロシア,3戦目の中国,5戦目のフランスの各大会が鍵になりそうだ。ロシア大会は,何と言っても初戦から絶対王者&女王が登場してくることと,初戦がハイレベルならばシリーズ全体がヒートアップすることは間違いないので,各選手がどこまで仕上げてくるかに注目したい。中国大会は,男子6強である 羽生結弦,宇野昌磨,ハビエル・フェルナンデス(スペイン),ネイサン・チェン(米),ボーヤン・ジン(金博洋,中国),パトリック・チャン(カナダ)が初戦を終え各選手の状態がわかることと,日本女子3選手(三原舞依,樋口新葉,本田真凛)の直接対決が注目点だ。フランス大会は,大会の結果でグランプリファイナル出場の行方がかなり見えてくることから注目度が高くなり,特に女子の 三原舞依オズモンド(カナダ),ザギトワソツコワ(いずれもロシア)の4選手対決は,6大会の中でも屈指の好カードになるだろう。もちろん,4戦目の日本大会(NHK杯)も,宮原 選手の復帰初戦や,男子の チャン,ブラウン(米),女子の メドベージェワ,コストナー(イタリア)ら超一流選手の来日,等の話題で大いに盛り上がることは間違いない。

 最後に総合的な注目点を挙げる。男子は,上述した6強がどういう仕上がりを見せてくるのか,はたまたそこに割って入る選手が現れるのか。女子は,史上最高の激戦を経て メドベージェワ 選手1強に迫り,崩す選手が誰なのか,そして日本選手の熾烈な争いも目が離せない。そして,今季急成長を遂げる選手が現れるかも楽しみだ。振り返れば,一昨季の メドベージェワ 選手や昨季の 三原 選手の大活躍をシーズン前に予想できた人は少なかったはずで,同様の現象が今季も起きる可能性は十分にある。また,一昨季の 宇野 選手や昨季の チェン 選手が魅せてくれた,ジュニア時代の実績を引っ提げてのシニア初年度の躍動を,本田真凛,坂本花織,白岩優奈,ザギトワ ら今季シニアデビューの各選手にも期待したい。