spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 羽生結弦 選手は,またしてもグランプリシリーズ初戦2位という結果でしたが,2位以内に入ればグランプリファイナル出場に支障はないので,全く問題ないでしょうね。4Lz(4回転ルッツジャンプ)の成功で盛り上がっていますが,個人的には 4T+1Lo+3S という4回転からの3連続ジャンプが入らなかったのが残念でした。次の日本大会(NHK杯)は間違いなくもっと良い仕上がりになるでしょう。2年前に歴代最高得点を記録した舞台ですし,日本の観客に良いものを見せたいという気持ちが強いと思いますので。

 ネイサン・チェン 選手(米)は,今回のFS(Free Skating,フリースケーティング)では5種類の4回転を入れてきませんでしたね。次の米国大会でお披露目となるのでしょう。それでも4回転4本をさらっと飛んでいてそれはそれですごいですが,チェン 選手の注目点は技術点ではなく PCS(Program Component Score,演技構成点)の方です。昨季は80~85点あたりでしたが,今大会では88点台を出し,羽生 選手との差を詰めてきています。実はこっちのスコアの差が詰まってくることで,勝負の局面で 羽生 選手がミスできる回数が少なくなり,プレッシャーを強めることができます。チェン 選手は今回の PCS に手ごたえを感じていると思います。

 ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)は,FSで3度の転倒にもかかわらず185点台で,PCS は90点が見えてきました。完璧な演技ができれば,6強に続くFSの200点を達成できそうです。プレスリーという王道のメドレーが上滑りしないのは,コリヤダ 選手の表現力の賜物でしょうね。

 驚きだったのは,モリス・クヴィテラシビリ 選手(ジョージア)。長身なのにジャンプがスマートで,スケーティングも滑らかで醸し出す雰囲気も良い。FSで4回転ジャンプを3本入れて250点に乗せ5位に入りましたが,実は 田中刑事 選手の欠場で代わりに出場した選手だったと聞いてビックリ。ワンチャンスをモノにしましたね。そして,エテリ・トゥトベリーゼ コーチと聞いて納得。ロシアの メドベージェワ,ザギトワ 両選手を指導している名コーチですね。今大会がきっかけになって,一気にブレイクしそうな予感満載です。クヴィテラシビリ…覚えづらいけど覚えておきましょう。

 樋口新葉 選手,3位ですか…。やっぱりミスがあると2位にはなれないですね。SP(Short Program,ショートプログラム)での回転不足と,FSのサルコウジャンプのミス(トリプルがダブルに)がなければ,カロリーナ・コストナー 選手(イタリア)と入れ替わっていたかもしれません。コストナー 選手がFSはそれほど仕上がっていないと予想していたのですが,ここまでの仕上がりとは驚きでした。相手に恵まれなかったという見方もできますが,やはりミスしているようではダメとスケートの神様に諭されている感じがします。

 昨季,樋口 選手は,ジャンプとの両立に苦しみながら PCS の引き上げに取り組んでいましたが,その成果が今大会FSの PCS 68 点(満点の85%)という形で現れました。プログラムも 樋口 選手に合っていて,特にFSの「007 スカイフォール」は 樋口 選手にとてもマッチしていると思いますので,完璧な演技ができればトータル220点に届くと思います。だからこそ,得意なはずのジャンプでミスしている場合ではないのです。ピークは全日本選手権に持っていくとして,グランプリシリーズで8割の力でもジャンプを決める技術とメンタルが求められます。3位に終わりファイナル進出はかなり難しく,しかも次の中国大会はシリーズで最も厳しい対戦カードですが,優勝すれば一転してファイナル進出が確実になるので,強い意気込みで臨んでほしいです。

 それにしても コストナー 選手の仕上がりの早さに驚きました。次の日本大会を見なければ本当の評価はできませんが,今季は4年ぶりのグランプリシリーズ出場ということで,グランプリシリーズも含め出場する大会全てで最高の演技をするつもりで臨んでいるのかもしれません。1年以上の出場停止処分を経験したことから,スケートができる喜びが演技に表れている気がします。FSは,ジャンプの難易度が低く,3回転+3回転の連続ジャンプもなく 3Lz(3回転ルッツジャンプ)も入れていないのに,140点出せるのは驚異的です。スコア度外視で…などと失礼なコメントをプレビューで書きましたが,ファイナルでも コストナー 選手の円熟味が最高潮に達した演技を観ることができそうです。

 メドベージェワ 選手(ロシア)は,FSでは衣装を黒に変え,ジャパンオープンのときより良い演技だったように思います。五輪の重圧が襲うのかどうか,周囲が固唾を飲んで見守っていますが,おそらくあっさり乗り越えてしまうでしょう。トータル250点にどこまで迫れるかがこれからの注目点になると思います。

 坂本花織 選手は,FS冒頭の得意な 3F(3回転フリップジャンプ)で転倒という珍しい姿に,シニアならではの空気に気圧されているんだと感じました。五輪シーズンというだけでもすごい雰囲気で,さらに日本女子2枠という圧が加わり息苦しいかもしれません。五輪出場をめざす渦に巻き込まれるのではなく,彼女らしい明るさを忘れず,無心でこの2ヶ月を戦い抜いてほしいです。

 私のロシア勢一推しの ラジオノワ 選手は,樋口 選手に押し出され表彰台を逃しました。うーむ,やはりプログラムが本人に合っていないと感じてしまいますね。昨季までなら多彩なジャンルへの挑戦という意味でそういうプログラムでもいいと思うのですが,今季はもっと現代的なポップナンバーで勝負してほしかったなぁと思います。ソチ五輪は年齢制限ギリギリアウトだったので,平昌五輪への想いは強いと思いますが,今のままではロシア代表入りも簡単ではないでしょう。

 大いに期待していた 長洲未来 選手(米)ですが,ベストの仕上がりには至りませんでした。回転不足が多くのジャンプで見られましたが,3A(トリプルアクセル)は着氷できているので,回転不足が解消すればノッてくると思います。両親の母国である日本大会に来てくれるので,そこでの巻き返しに期待したいです。

 シングルの全体的な結果としては,表彰台はほぼ実力どおりで,大きな波乱はなかったと言えるでしょう。ロシア大会をこんなにちゃんと観たのは私は初めてでしたが,羽生 選手の傍らに立つ謎の少年,エキシビションのシンクロスケーティングの見事さ,などスケート大国ならではの光景もあり,五輪シーズンが本当に始まったんだなぁと感じられる大会だったと思います。