spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 シーズン前半のハイライト,グランプリファイナルの開催が迫ってきました。五輪シーズンのファイナルは,五輪直前に有力選手が一堂に会する唯一の大会なので,例年にない盛り上がりを見せます。今年は名古屋での開催ということで,テレビ観戦しやすいのも嬉しいですね。

 私はこのグランプリファイナルが,世界選手権よりも好きです。国別の人数枠がなく,最強レベルの6人が集いますし,6人なので試合時間が短いのも集中できてよいのです。振り返れば,4年前のファイナルも,今年と同じように五輪直前に日本で開催されました。私は開催地の福岡で生観戦する幸運に恵まれ,同時開催のジュニアファイナルも,またペアやアイスダンスも,もちろんエキシビションも,全ての競技を観戦しました。この観戦経験により,私のスケート観戦熱はさらに高まりました。

 4年前,私が観たかった 髙橋大輔 選手が急遽欠場となりガッカリしましたが,繰り上げ出場した 織田信成 選手が3位に入る素晴らしい内容でした。織田 選手はその2週間後の全日本選手権直後に引退されたので,福岡で観ることができたのはとても幸運でした。今年は,羽生結弦,ハビエル・フェルナンデス(スペイン)の両選手がまさかのファイナル進出ならず,さらに メドベージェワ 選手(ロシア)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が直前で欠場となってしまいました。それでも見応えのあるメンバーが集まり,繰り上げ出場も 宮原知子 選手と ジェイソン・ブラウン 選手(米)という豪華さ。王者と女王が不在でも,生観戦される方は各選手の演技に魅了されることと思います。

◆男子シングル

 直近4回の五輪直前のファイナル優勝者を見てみると,

  • ヤグディン 選手(ロシア):2002年ソルトレーク五輪 金メダル
  • ランビエール 選手(スイス):2006年トリノ五輪 銀メダル
  • ライサチェック 選手(米):2010年バンクーバー五輪 金メダル
  • 羽生結弦 選手:2014年ソチ五輪 金メダル

というように,男子はファイナルの成績がそのまま五輪に直結しています。なので,五輪を占う意味でも注目なのですが,やはり,宇野昌磨 選手と ネイサン・チェン 選手(米)の一騎打ちと考えていいと思います。2人ともかなり本気でファイナルを勝ちに来ると私は予想します。2人は国内選手権で大崩れしなければ代表入りは確実なので,国内選手権よりもファイナルに注力することができますし,大きな国際大会で成績を上げておけば,五輪に自信を持って臨めるからです。

 勝ちたい気持ちがより強いのは,開催地の名古屋が練習拠点の 宇野昌磨 選手でしょう。自国というだけでなく自身の拠点の街で開催されることは幸運かつ貴重なことなので,否が応でも気持ちは昂るでしょう。前回のフランス大会から中2週,長距離移動も苦手な時差もなし,羽生 選手不在のため堂々と優勝が狙える,と好条件が揃っています。技術面では,FS(Free Skating,フリースケーティング)で 4S(4回転サルコウジャンプ)を加えた4回転ジャンプ4種類5本の構成が成功するかどうかが注目点です。SP(Short Program,ショートプログラム)もFSも完璧なら 羽生 選手の歴代最高得点超えが観られるかもしれません。

 一方,前回のアメリカ大会から中1週の チェン 選手は,長距離移動もありタイトなスケジュールですが,次の全米選手権まで中3週あるので,ファイナルは全力で臨めるでしょう。シリーズ2戦共にトータル300点に届かなかったことと,アメリカ大会で高難度構成を実施できなかったことから考えると,五輪で実施したい構成の最終案をファイナルで試すと考えられます。個人的には,FSで4回転ジャンプ5種類を見たいところですが,4Lo(4回転ループジャンプ)が安定しないようで,試合で使えるめどが立たなければ 4Lo をあきらめ,4Lz を2本入れる構成にする可能性もあると思います。スコア戦略で見れば 4Lz 2本の方が脅威ですから,どちらの構成にするか,あるいはさらに違う構成にするのか,これが最大の注目点でしょう。

 2人の勝負は,全て成功なら 宇野 選手が5~10点リードする力を持っていますので,1ミス差までなら 宇野 選手,2ミス差以上だと チェン 選手が勝つだろうと思います。シリーズ2戦とは打って変わって,完成度がかなり高い演技になると予想します。

 銅メダルは,普通に演技できれば コリヤダ 選手(ロシア)だと思いますが,ミスがいくつか出ると,ジャンプが非常に安定している ボロノフ 選手(ロシア)がさらっていくでしょう。また,リッポン,ブラウン の両アメリカ勢も虎視眈々と表彰台を狙っているでしょう。特に,ブラウン 選手が完璧ならどこまでスコアが伸びるのかを観てみたいです。

◆女子シングル

 絶対女王 メドベージェワ 選手(ロシア)の欠場によって,出場者全員に優勝のチャンスがあります。グランプリシリーズのベストスコアは,出場6選手が7.2点差の中にひしめき合い,ソツコワ 選手(ロシア)以外の5選手はわずか3.5点差の中に入っているのです。これはもうほぼ横一線といっていい状況であり,演技個々の要素の完成度とプログラム全体の質,すなわち GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)が勝敗を分けることになるでしょう。

 私は 宮原知子 選手が他の選手をわずかにかわして優勝するのではないかと予想します。アメリカ大会の完全復活で,全ての不安が期待に変わりました。アメリカ大会にかなりエネルギーを使いましたので,急遽出場となったファイナルにうまく調整できるのかという声がありますが,アメリカ大会の出来が大いなる自信になり,根詰めて練習しなくても状態をキープできることがわかった 宮原 選手は,フルパワーを出さなくてもかなり高い完成度を発揮する,言わば「勢いで乗り切る」感じになると私は見ています。アメリカ大会から全日本選手権まで,ゾーンに入りっぱなしの 宮原 選手が観られることを期待しましょう。

 宮原 選手が出場してくれることで,気持ちが楽になるのが 樋口新葉 選手です。開催国唯一の女子シングル選手という立場から解放されるので,思い切って演技ができると思います。シリーズ2戦に匹敵するかそれ以上の好成績を,ファイナルと全日本選手権でも残せるかが注目点ですが,まずはファイナルで,ミスなく GOE である程度加点が付くような良い演技をして表彰台に乗りたいでしょう。完璧な演技ができれば優勝も射程圏内です。表彰台に乗るか,213点以上のスコアを出せば,代表の座がかなり近づくと思います。

 強敵となるのは,ザギトワ 選手(ロシア)です。SPとFSが両方綺麗に演技できれば間違いなく優勝ですが,シリーズ2戦ではミスがあったりジャンプの着氷がやや乱れたりしていました。観客満杯で五輪直前の熱気に包まれる大舞台の雰囲気は,シリーズ2戦とは全く違うものであり,シニアで初めて味わう雰囲気の中で高い技術力を発揮するのか,雰囲気に気圧されてしまうのか,大舞台での強さが問われる大会になります。日本選手と同じように年内に国内選手権がありますので,このファイナルをどんな形で乗り切るのかも重要になってくると思います。表彰台に乗れば,彼女もまた代表入りが大きく近づくでしょう(IOC のロシア出場禁止決定で,フィギュアスケート選手がどうなるのかは気がかりですね…)。

 もう一人の強敵は,コストナー 選手(イタリア)ですね。10代全盛の女子シングル界において,30歳でファイナルに出場する力量を維持しているのがもうすごいです。今季のプログラムは彼女史上最も自身に合ったプログラムだと思いますし,スコアも付いてきています。見どころはやはりスケーティングでしょう。一蹴りでスーッと伸びていくムダのないスケーティングは圧倒的です。順位など気にならない存在ですが,そういうコメントが失礼になるほど,優勝争いを左右する一人になることは間違いありません。

 昨季に続いてのファイナル出場となる オズモンド(カナダ),ソツコワ(ロシア)両選手は出来・不出来の波がありますが,その差が以前よりずっと小さくなってきて安定感が出てきました。出来が良ければ表彰台や優勝争いに絡んでくるでしょう。とにかく6選手の実力が拮抗しているので,どんな順位になっても全く不思議ではありません。

 この6選手のプログラムは,選手自身によく合った素晴らしいものになっています。凛とした 宮原 選手,強さと速さの 樋口 選手,キビキビした ザギトワ 選手,しっとりと魅せる コストナー 選手,華やかな オズモンド 選手,可憐で優雅な ソツコワ 選手。実に六者六様で,フィギュアスケートの多様性を存分に感じられると思います。

◆アイスダンス,ジュニアファイナル女子シングルも注目

 これらは地上波では放送されませんが,BSでは観ることができると思います。アイスダンスは,私が大好きな生ける伝説の テッサ・ヴァーチュー & スコット・モイヤー 組(カナダ)と,若いのに妖艶な雰囲気がすごすぎる ガブリエラ・パパダキス & ギヨーム・シゼロン 組(フランス)の直接対決が,とんでもなくハイレベルな戦いになり,そこに日本人血筋の兄妹である シブタニ 組(米)がどこまで食い下がるか,という展開になると思います。

 グランプリファイナルは,ジュニアのファイナルが併催されるのが独特で,将来の名選手を先取りできる楽しみがあります。私が4年前に福岡で観戦したときは,田中刑事,ボーヤン・ジン,ネイサン・チェン,メドベージェワ,ソツコワ といった選手がジュニアファイナルに出場していて,彼らはとても印象に残りました。

 今年のジュニアファイナルは,女子の 紀平梨花 選手が,他の5選手がみなロシア勢の中一人で立ち向かいます。彼女は先日の国内大会で,FSで 3A(トリプルアクセルジャンプ)を2本決め,しかも 3A+3T+2T(トリプルアクセル→トリプルトウループ→ダブルトウループ)の3連続ジャンプという大技に成功しました。3A からの3連続ジャンプは 浅田真央 さんも飛んだことがないすごいジャンプで,これを国際大会で決めれば史上初となりますので,このジャンプを決めて表彰台に乗れるかどうかに注目したいと思います。