羽生結弦 選手の2連覇と,宇野昌磨 選手との1&2フィニッシュに大いなる期待がかかる平昌五輪のフィギュアスケート男子シングル。有力選手の見どころや勝負における注目点を見ていきます。ジャンプ構成にも言及しますので,各選手のジャンプ構成をチェックしたい方は,本ブログ記事「男子シングル ジャンプ戦略比較」をご参照ください。

 以下,有力選手ごとに見ていきます。金メダルを獲る可能性が高いと私が思っている順です。

《凡例》 ◎:好材料 ▲:不安材料

羽生結弦 選手

 練習映像を見る限り,スケーティングは普通にできそうですね。SP(Short Program,ショートプログラム),FS(Free Skating,フリースケーティング),トータルの3つ全てで史上最高スコアを持っていますので,普通に演技ができれば金メダル候補筆頭なのは間違いありません。ただ,羽生 選手は今までに,シーズン中に4ヶ月の実戦ブランクを経験したことがありません。試合になると練習と全く別のアドレナリンが出るタイプのように思えるので,久々の試合かつ五輪ということでアドレナリンが出過ぎると,身体とのバランスを欠く恐れはあります。

 ジャンプ構成は,FSに4Lo を入れられるかどうかが注目点です。4Lo が入らないと,4回転ジャンプを4本(4S,4T 各2本)入れても案外スコアが低くなってしまいます(詳細は本ブログ記事「羽生結弦,ネイサン・チェン のジャンプどうなる?」へ)。前日練習で 4Lo を飛んでいましたので,おそらく入れる構成になると思います。

◎ プログラムが史上最高スコアの再演
◎ 昨年の四大陸選手権で今回のリンクを経験
◎ シーズンや団体戦の疲労蓄積が少ない
◎ SPは1番滑走(6分間練習直後)
五輪2連覇のモチベーション
◎ ソチ五輪ではFSで崩れたので,SPとFS両方ノーミスでこそ真の金メダルという意識
逆境を跳ね返してきた経験と強靭過ぎるメンタル
▲ 想像以上のメディアの狂騒
プログラムをまとめ上げるための持久力がどれほど戻ってきているか (町田樹 氏談)
▲ FSで 4Lo を入れられないと,点数的には他選手と接戦になる

宇野昌磨 選手

 現時点の不安材料が最も少ないですね。主要大会で優勝していないことを問題視する意見もありますが,羽生 選手が出場しない大会では気持ちが乗らなかったと見るべきで,ここ一番の集中力は昨年の世界選手権で実証済み。団体戦SPで他選手の相次ぐ転倒を引きずらなかったのは,宇野 選手特有の「鈍感力」の賜物と思います。羽生 選手が引き連れるメディアを見た他選手は動揺する可能性がありますが,宇野 選手にとっては慣れたものですし,鈍感力で気に留めないので,羽生 選手をめぐる狂騒は 宇野 選手の味方になる可能性さえあります。

 ジャンプ構成は,4S を諦め,演技時間前半に 4F,4Lo,後半に 4T,3A 2本ずつという確度の高い構成になりそうです。個人的には,4F を後半の最初に置いた方がプログラムが盛り上がるとは思いますが,状況次第ではこのような変更もあるかも。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
今シーズンの平均スコアはトップ
団体戦SPで100点超え
◎ 4F の安定感 (団体戦で転倒を免れたのも安定感のうち)
◎ 羽生 選手との久々の対戦でモチベーションアップ
▲ ステップがなかなかレベル4を取れない
▲ 団体戦の疲労 (他の団体戦出場選手よりは少ないか)
接戦を勝ち切る力があるか (無用な小ミスが出がち)
▲ 朝が苦手 (団体戦はたまたま乗り切れたのかも)

ハビエル・フェルナンデス 選手 (スペイン)

 もったいないミスで4位に終わったソチ五輪から4年。今までに世界選手権を2連覇し,五輪メダルを射程圏内にしています。しかし,昨年の世界選手権で3連覇と表彰台を逃して以降,今シーズンはくすぶり続けていて,未だに300点超えがありません。完璧な演技をして,ライバルのミスを待つ展開です。

 ジャンプ構成は,安定の4回転2種類3本。安定した 4S は フェルナンデス 選手が最も早く確立しましたが,演技時間後半の 4S が今シーズン安定していないので,これが入ると高得点が期待できます。また,3A もやや不安定なので,2本ある 3A の出来も注目点です。

◎ 今シーズン不調だったが徐々に取り戻している
◎ 団体戦に出場していない
◎ 4年間の五輪メダルへの渇望感
◎ 世界選手権2連覇のプライド
▲ 今シーズンFSで一度も完璧な演技ができていない
▲ 今回の会場が初経験
▲ 大舞台にやや弱い印象 (世界選手権は 羽生 選手のミスのおかげ)

ネイサン・チェン 選手 (米)

 団体戦SPの大過失をどう見るかですが,いくら団体戦と個人戦が別物とはいえ,あれだけのミスがあると個人戦への影響がないはずはありません。完璧に演技ができればよいのですが,演技の序盤でミスが出ると,団体戦の再現になってしまうのではないかという恐怖と戦わなければならず,そうなると要素をこなすことで精一杯になり,出来ばえ点や演技構成点が伸びない恐れがあります。わりと繊細な性格なのかなという印象もあり,注目度が高くメディア取材が非常に多い状況に耐えられるのかも気になります。

 ジャンプ構成をどうするかは,SPの出来や,羽生 選手の出方などを勘案して決めると思いますが,4回転5本にせよ6本にせよ,4Lz の扱いが注目点になります。4Lz が2本入ると,好調な証と言えると思います。

◎ 今回の会場で開催された昨年の四大陸選手権で優勝
◎ 今シーズン全勝の安定感 (特にSPは安定)
◎ 団体戦銅メダル獲得の安堵感
◎ 昨年,世界選手権で失速した経験から,ピーキングを強く意識
▲ 団体戦の疲労と嫌なイメージ
▲ 今シーズン,ジャンプ構成を固めなかった
▲ 出来ばえ点がなかなか伸びない
▲ 苦手な 3A の出来

ボーヤン・ジン 選手 (金博洋,中国)

 ケガもありシーズン序盤は精彩を欠いていましたが,先日の四大陸選手権で良い演技を魅せ,仕上げてきました。世界選手権は2年連続3位と,大舞台の強さは一級品。五輪メダルへの重圧が他の選手より小さいのも不気味。金メダルはなかなか難しいと思いますが,銀や銅なら案外可能性があると思います。

 助走が少なく美しい 4Lz は安定感抜群で,これが計算できるのも大きな武器。4T も 3A も安定していて,苦手なジャンプがないのも強み。全体が完璧なら演技構成点も伸びる可能性があるので,トータル310点くらいまで狙えます。もっと高得点を狙って 4Lz をFSに2本入れたら面白いと思いますが…。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
◎ 直前の四大陸選手権で優勝
◎ 4Lz,4T,3A 等ジャンプの安定感
◎ 大舞台での強さ
◎ メダル獲れなくて当然という気楽な立場
▲ 出来ばえ点と演技構成点が両方伸びないとメダル圏内に入れない

◆ 他の注目選手

 パトリック・チャン 選手(カナダ)や,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)もメダルを獲れる力を持っていますが,2選手とも,団体戦でSPとFSの両方に出場しましたので,体力面ではかなり不利です。メダリストは,上に挙げた5選手から決まると考えていいと思います。

 田中刑事 選手は8位入賞が現実的な目標になるでしょう。ほかには,FSで200点超えもありうる ヴィンセント・ジョウ 選手(米),かつての名選手 ランビエール コーチの愛弟子 デニス・ヴァシリエフス 選手(ラトビア),アジアから出場する,マイケル・クリスチャン・マルティネス 選手(フィリピン)と ジュリアン・イー・ジージエ 選手(マレーシア)に注目しています。

◆スコア比較とメダルの行方

 どのくらいのスコアが獲れそうかを知っておくと,観戦を楽しめると思いますので,有力選手のトータルスコア(SPとFSの合計点)を予想してみます。

《凡例》
*:可能性あり ◎:自己ベスト ★:今シーズンベスト

スコア羽生宇野フェチェ
330~
325~
320~
315~◎★
310~
305~
300~◎★
295~
290~
スコア羽生宇野フェチェ
  • 羽生 選手は,330点までは難しいかもしれませんが,完璧なら325点に届く可能性は十分にあります。
  • 宇野 選手は,完璧なら324点くらいまではあると思います。
  • フェルナンデス 選手(上表「フェ」)は過去最高が314点台で,そこにどれだけ迫れるかでしょう。
  • ネイサン・チェン 選手(上表「チェ」)は,自己ベストを超えて313点くらいまでは可能でしょう。全米選手権の315点は国際大会では難しいと思います。
  • ボーヤン・ジン 選手(上表「金」)は,先日の四大陸選手権の出来を再現すれば,305点くらいまで伸びると思います。

 全員ノーミスなら,1・2位:羽生宇野,3位:フェルナンデスチェン となるでしょう。この4選手の中から300点を割る選手が2人出てくると,ジン 選手がメダルを手にするでしょう。

 羽生・宇野 両選手が310点以上なら,フェルナンデス,チェン 両選手の超絶演技がない限り1&2フィニッシュが現実になるでしょう。羽生・宇野 両選手が複数のミスをし,スコアが310点を切るところまで下がれば,5選手がどんな順位にもなりうると思います。

 さぁ,いよいよ,明日(金)SP明後日(土)FSですね。SPは時間的にリアルタイムで観られない方が多いと思います(私もです…泣)が,FSは土曜日のお昼なので,リアルタイムで観戦し,歴史的瞬間を目の当たりにしましょう!