サッカー・ロシアワールドカップ。準々決勝で ベルギー が ブラジル を撃破したのを見ると,日本 は ベルギー とすごいゲームをしたのだということを改めて実感させられる。アディショナルタイムで決着するくらいの接戦だったことで,勝てたのではないかと評する有識者もいるが,たまたま試合展開がそうなっただけであって,ベルギー との力の差は歴然としていた。

 私は,ポーランド 戦があのような顛末になったとき,こういうサッカーをやると次のゲームでしっぺ返しが来るのではないかと嫌な予感がしていた。ポーランド 戦にやや後悔があったからこそ,ベルギー 戦では時間稼ぎをためらい,その結果あのカウンターをくらってしまったのだから,因果応報という気がしてならない。2戦続けてしたたかに戦う力は,今の日本代表には備わっていなかったのだ。

 ポーランド 戦でボール回しを始めたとき,私はガッカリした。もし セネガル が1点取ればグループリーグ敗退になってしまうからだ。他力本願という作戦は,成功すれば許されるが,失敗したら激しい後悔が残る。この作戦を擁護した人たちは,もし セネガル が同点に追いついていても,あの作戦は正しかったと言えただろうか? はっきり言って,結果論から擁護しているに過ぎないと思う。あの場面は,無理に攻めていく必要はないにしても,カウンターやミスに注意しながら隙があれば点を取りに行く,そういう試合運びをしてほしかった。もしそこで失点してしまうなら,それが実力だと思うしかない。カウンターをくらうリスクが高かったとのことだが,それはターンオーバーで起用した選手がうまく機能していなかったということだ。

 ポーランド 戦のターンオーバー(6選手入れ替え)は完全に失敗だった。主力を休ませることはできたが,最も休ませるべき 柴崎岳 を出場させたために,ベルギー 戦の後半でスタミナ切れし,岡崎慎司 は故障を再発させてしまった。これが,ベルギー 戦で有効な交代策を採れなかった要因となり,そのツケが ベルギー 戦の最後の最後に出てしまった。入れ替えは最大4人にとどめ,主力を後半早めに交代する,という策なら,失意の ポーランド を相手に負けることはなかったと私は思っている。

 しかし,薄氷のグループリーグ突破によって,ベルギー と戦うことができたことは 日本 にとって得難い経験になった。そして,ゲーム内容はそれ以上に貴重な経験になった。2点を先行したとき,日本 の多くのサポーターは「これで勝てる」というよりも「これで ベルギー が超本気になるけど大丈夫か」という気持ちになったのではないだろうか。そして,日本代表チームの監督もコーチも選手も,そう思ったのではないだろうか。このメンタルおよびマネジメントが,逆転を許した根本的な原因ではないかと私は考えている。

 これはゲーム前に書き残しておけばよかったと後悔しているのだが,日本 が ベルギー に勝つ最良のプランは,いかにして 2-0 というスコアを作れるかだと私は思っていた。ベルギー の得点能力は今回のワールドカップ参加国の中でもトップクラスであり,2点取られることは普通にあり得ると考えれば,日本が2点を取って初めて対等に戦えるのだ。そして 2-0 というスコアで後半の時間が過ぎていけば,ベルギー も焦ってきて1点以内に抑えられる可能性が高くなる。だから,スコアは 2-1 を目標にし,早い時間に2点取れたらさらに3点目を取って 3-2 で勝つことも考えるべきだった。

 前半を 0-0 でしのぎ,後半の早い時間に 2-0 になり最良の勝ちパターンになったはずが,どうやら 日本 チームはこの状況をあまり想定していなかったように見えた。0-0 か 1-1 で終盤を迎え,残り時間が少ない状況で勝ち越す,というプランを思い描いていたのではないだろうか。だが,もしその展開なら,日本 が勝ち越すより ベルギー が勝ち越す可能性の方が高いし,実際にもそうなってしまった。

 選手の談話でも「2点取った後の試合運びが中途半端だった」というような声があったが,再度ゲームを見直してみると,1点を返されるまでそれほど悪い試合運びではなかった。3点目を取りに行ったのは戦術の失敗と言う有識者もいるようだが,日本 の守備力では ベルギー 相手に2失点しない保証など全くないのだから,3点目を取りに行くのは当然の戦術ではないだろうか。攻撃か守備かという稚拙な2元論ではなく,失点しないことに通常より重きを置きながら得点を狙うべきだったのだ。よく考えればこれは 0-0 のときのサッカーと何も変わらない。2-0 になったときチームが「これで実質的に 0-0。ここからが本当の勝負だ」というメンタルだったら,結果は違っていたと思う。

 1失点目は取られ方がよくなかった。ふわっとした弾道のボールが運よくゴールに入ったのだが,傍目にはなぜあれが入ってしまうの?というようなゴールだった。あれは防ぎようがなかったという指摘が多いが,私は絶好調時の 川島永嗣 なら難なく防げたゴールのように感じた。ゴールになるヘディングが上がった瞬間,川島 はいったん小さく前にステップを踏んでおり,これがなければボールに手が届いたのではないだろうか。もったいない失点だったことは確かだ。

 こういうゴールはガクッと来てしまうもので,ベルギー の圧力を強く感じるメンタルになってしまったように見えた。どうも 日本 は「勝たなければいけないゲーム」になったときの心理的対処法が確立できていないと感じる。古くは2006年ドイツ大会の オーストラリア 戦がそうだし,今大会の コロンビア 戦も 1-0 になった後のゲーム運びは拙いものだった。2-0 が 2-1 になり,ベルギー は勢いがつき,追い上げられた 日本 は不安が出てしまった。これが 0-1 だったら,ここから何とかして同点に追いつくぞと開き直れたと思うのだが,2-1 の局面を 0-1 かのように振る舞うことができず,相手の圧力をまともに受けてしまった。かわす,いなすという考え方も必要だった場面であり,2-1 の状況をせめて後半35分くらいまで引っ張れていれば,相手も焦ってきて,そのまま勝ち切れた可能性が上がったはずだ。

 1失点目からわずか5分で2失点目を喫したところを見ると,結果論かもしれないが,1失点目の後すぐに 本田圭佑 を交代投入すべきだった。2-1 は私の考えでは実質負けている状況であり,早く手を打つ必要があったと思う。このタイミングで交代の手が打てなかったことも,2-0 から勝ち切るプランが描けていなかったと推察する理由の1つだ。攻撃的な交代か守備的な交代か,迷っている間に同点にされてしまった,という印象だった。これに関して,有効な交代策を打たなかったと指摘する有識者は多かったが,ではどんな策が有効だったかという点に言及する人はほとんどいなかった。唯一見たのは,高さで競り合える 植田直通 を投入せよ,というものだったが,ポーランド 戦にも出場させなかった 植田 を投入する選択は非現実的だ。ケガや不調で使えるコマがなかったのも事実で,交代で戦況を好転させることは ベルギー 戦においては難しかっただろう。仮に 2-1 の時点で交代しても,結果は同じだった可能性が高いとは思う。それでも,同じ後悔なら動いて後悔してほしかった。

 最後のカウンターは,あんなに鮮やかに決まる方が珍しい。ポーランドの レヴァンドフスキ があれほど簡単なカウンターのシュートを外すように,カウンターだって簡単ではない。だから,カウンターへの備えが不十分だったから負けた,というのは後付けの解説に過ぎない。実際に観戦していて,本田 がコーナーキックを蹴る時点で,カウンターの危険性を感じていた人はどのくらいいたのだろうか? その時点で感じていなかったのなら,備えが不十分だと指摘する資格はないだろう。あの状況でカウンターを仕掛けるチームの共通意識があり,あれだけのスピードでボールを運び,ルカク があの状況で冷静にスルーできる,ベルギー の技術を称えるしかないだろう。

 もしあの場面を反省するなら,むしろ,なぜ 本田 がゴールキーパーに簡単にキャッチされるようなコーナーキックを蹴ったのかに言及すべきだ。コロンビア 戦の成功体験が邪魔をしてしまったとの指摘もあったが,あの場面に限らず,高さのない 日本 の策としては,ニアに合わせるか,ファーから折り返すか,ショートコーナーで目先を変えるか,あたりではないだろうか。味方がニアに3人走りこんでいたのだから,ニアに合うキックを蹴れなかったことが大きな問題のように思う。

 最後のカウンターさえなければ…と悔やんでもどうにもならない。むしろ,ギリギリまで同点だったことが大健闘なのであり,2-3 の劇的な敗戦は 日本 に良い教訓をもたらしたと思うべきだ。もし延長戦に入っていたら,日本はスタミナが切れ,2-4 や 2-5 で負けていた可能性が高い。それよりはずっと良い結果だったと思いたい。

 決勝トーナメントで,得点,先制,複数得点,2点差リードは日本代表初の偉業である。そこで勝利まで得ようとは虫が良すぎる。一歩ずつしか階段は上れないのだ。強豪国の メキシコ でさえ7回連続で16強に進みながら,その間1度も8強に進めていないのだから。2ヶ月前に監督を変える荒療治でギャンブル的に臨んだ今大会でのこの結果は望外のものであり「感動をありがとう」と好意的な声が出るのも無理からぬことである。結局は力負け。高さという力に真っ向勝負しても勝ち目はなく,相手の力をどういなすか,出させないかという戦いが必要だったのだ。まだ,ベルギー に善戦したことで満足せざるを得ない実力なのだ。

 ベルギー 戦での,ベスト16とは思えないファウルの少なさは,ベルギー が次の ブラジル 戦で出場停止者を出さないために,厳しいファウルをしないように気をつけていたからと思う。また,日本 にはそこまで厳しいファウルをしなくても大丈夫とも思っていただろう。だから 日本 は攻撃が機能したし,前半を 0-0 で終えられたのだ。日本 がもっと強ければ,逆に ベルギー は警戒して,もっと厳しい戦いになったはずだ。つまり,日本 の前評判が低かったがゆえに,結果として接戦になっただけなのである。次のワールドカップでは,真の実力をつけ,相手国に厳しい戦術を用意させ,それでも勝利してベスト8に進む姿を見たい。 (選手敬称略)