フィギュアスケートの世界選手権の開催が近づいてきました。今年は日本開催なので,日本勢の活躍に期待がかかります。そこで,出場選手がどんなジャンプを選んでいるのかを見ていこうと思います。

 私は,あくまでも「フィギュアスケートはスコアを競う競技である」という視点に立ち,スコア分析をこのブログの1つの柱にしています。そこで,各選手がFS(Free Skating,フリースケーティング)でどんなジャンプを飛ぶのかがわかる表を作成しました。まずは,宮原知子 選手のジャンプ構成表を見てください。

figureSkateScoreMiyahara

 表の見方を説明します。11.1 と書いてあるのが,どのジャンプを飛ぶのかを示しています。1.1 は数字のとおりスコアが 1.1 倍になるボーナスタイム(演技時間後半のラスト3回)のジャンプです。宮原 選手の場合,単独ジャンプは 3Lz, 3Lo, 3S, 2A (記号の説明は割愛します)を飛び,2A にボーナスが付きます。連続ジャンプ(表では「コンビネーションJump」と記載)は 3Lz+3T, 2A+3T, 3F+2T+2Lo を飛びます。

 表の右側の「回数」は,第1ジャンプ(単独ジャンプ,および連続ジャンプの最初のジャンプ)としてどのジャンプを何本飛ぶかを示し,整数部はトータルの本数,小数部はボーナスタイムの本数を示します。3Lz の回数 2.0 は「2本飛びボーナスタイムは無し」を表し,2A の回数 2.2 は「2本飛び,その2本ともボーナスタイムに飛ぶ」を表します。回数欄を縦に眺めると,宮原 選手の第1ジャンプは,3Lz と 2A が2本ずつ,3F, 3Lo, 3S が1本ずつで,そのうちボーナスタイムに飛ぶのは 3F (1本)と 2A (2本)であることがわかります。

 「基礎点内訳」は,ジャンプの基礎点を第1ジャンプごとに合計したものです。宮原 選手は 3Lz で 16.00 点,3F で 9.13 点を獲得することがわかります。「基礎点増分」は,基礎点内訳の点数から各ジャンプ1回分の基礎点を差し引いた値で,この値が大きいほどそのジャンプが得点源になっていることを示しています。宮原 選手の 3Lz を例にとると,3Lz が第1ジャンプになるのは 3Lz 単独 と 3Lz+3T の2回で,これらの基礎点合計は 3Lz の「基礎点内訳」に記載されている 16.00 点です。3Lz 1本の基礎点が 5.9 点なので,16.00 - 5.9 = 10.10 点が 3Lz の「基礎点増分」になります。宮原 選手の 3Lz は,単独ジャンプ1本の点数と比べて 10.10 点のプラスを得ているという計算になります。

 「ボーナス加点分」は,ボーナスによって通常のスコアから上乗せされた分を示します。これは,ボーナスが付くジャンプの基礎点の 10% です。表の下側の集計欄を見ると,宮原 選手はボーナス無しなら 44.3 点のところ,ボーナスによって 1.91 点が上乗せされ,合計で 46.21 点になることがわかります。

 では,宮原知子 選手のジャンプ構成を具体的に見てみましょう。3回転ジャンプで同じ種類を2本飛べるのは2種類までなので,3T を連続ジャンプ(第2ジャンプ)で2本使い,もう1種類を 3Lz にしています。第2ジャンプの 3T は 3Lz と 2A に付け,3連続ジャンプは 3F を使っています。

 宮原 選手の構成は,とても練られていると感じます。3Lz が得意な 宮原 選手ですが,2回の 3Lz のうち連続ジャンプは1回だけで,しかも2回ともボーナスタイムではありません。3連続ジャンプは 3F に付け,しかもボーナスタイムに持ってきています。3Lz に頼り過ぎず 3F とのバランスを示す構成になっています。

 2本飛ぶ3回転ジャンプ3Lz3T を使っていますが,この選択は実は,3A や +3Lo を入れないオーソドックスな構成において,スコアが最も高くなるのです。また,連続ジャンプの 3T を 3Lz と 2A に付けているのも素晴らしいです。2A は2本とも単独ジャンプにしても問題ないのですが,単独の 2A が2本入るとどうしても退屈な印象になりがちです。2A+3T を入れると華やかな印象になるほか,GOE 加点を最大 ±2.1 にすることができる(2A 単独や 2A+2T だと ±1.65)ので,わずかですがスコアが上がるのです。

 宮原 選手は 2A も得意なので,2A2本ともボーナスタイムに入れています。また,ボーナスタイムに連続ジャンプ2回入れることでスコアを上げています。オーソドックスなジャンプを選択しながらも,Lz と F のバランス,スコア戦略,得意なジャンプの配置などの策をうまく盛り込んでいる 宮原 選手のジャンプ構成は,理想的だと言っていいと思います。

 続いて,全日本女王の 坂本花織 選手のジャンプ構成表を見てみます。

figureSkateScoreSakamoto

 「基礎点増分」欄から,3F2A の依存度が高い構成であることが分かります。坂本 選手は Lz が苦手で F が得意なので,3Lz は単独ジャンプ1本のみで,3F は2本とも連続ジャンプにして,3F でスコアを稼ぐ作戦を採っています。女子選手は,Lz と F の一方が得意で他方は苦手という選手がけっこう多いので,Lz と F の一方に大きく依存するジャンプ構成は珍しくありません。

 ボーナスタイムに 2A+3T+2T という大技を持ってきているのも 坂本 選手の大きな特徴です。3連続ジャンプは,間に1回転を挟む +1Eu+3S タイプと,2回転を連続させる +2T+2Lo タイプの2種類が主流で,+3T+2T を入れている選手は珍しいです。しかもそれをボーナスタイムに入れているのは,2A が得意な 坂本 選手ならではのジャンプと言えます。

 ただし,スコア戦略の面ではこの大技はちょっともったいない感じになっています。坂本 選手の連続ジャンプが +3T+2T, +3T, +2T なのに対し,前述した 宮原 選手は +3T, +3T, +2T+2Lo なので,宮原 選手の方が 2Lo を使っている分だけスコアが高い(2Lo と 2T の基礎点差は 0.4)のです。この分を少しでもカバーするため,坂本 選手は,ボーナスタイム連続ジャンプ2回と(単独ジャンプでは苦手な 3Lz の次に基礎点が高い) 3Lo を持ってくることで,基礎点を2点以上上乗せしています。

 最後は,シニアデビューシーズンでの初出場初優勝を狙う 紀平梨花 選手です。

figureSkateScoreKihira

 なんといっても2本3A,そのうち1本の連続ジャンプが 3A+3T という大技,というのが圧巻です。そして,3A が2本あるにもかかわらず 3Lz2本あり,しかも両方とも連続ジャンプという,女子としてはとんでもないジャンプ構成です。3A と 3Lz でジャンプのスコアの7割以上を占めていますが,これは単純に基礎点が高いジャンプを多く入れた結果だと思います。

 つい 3A に注目しがちですが,実は 3Lz の安定感が大きな武器です。3A はどうしても失敗のリスクが高いですから,3Lz できっちりスコアを稼げる点が 紀平 選手の高得点を支えていると言えるでしょう。ちなみに,紀平 選手は F が苦手なわけではありません。Lz が非常に安定しているのでこのような構成にしているだけで,SP(Short Program,ショートプログラム)では 3Lz は単独ジャンプにして,3F+3T の連続ジャンプを入れています。

 ちょっと面白い特徴として,紀平 選手のジャンプには 2A がありません。7本ある第1ジャンプ全て3回転というのは,他の女子選手には見られない大きな特徴です。ほとんどの一流選手は 2A を2本入れますが,その2本をそのまま 3A に置き換えた構成です。紀平 選手のFSが壮大な雰囲気を感じるのは,2A が無いことも要因の1つかもしれません。

 ボーナス加点率が低いと感じられた方は,なかなか鋭いです。宮原,坂本 両選手の4%台に対し,紀平 選手は3%台で,これは有力選手の中では最も低いです。つまり,紀平 選手はボーナスタイムをあまり活用できていないということなのですが,基礎点が高い 3A がありますので,相対的にボーナス加点率が低くなるのはやむを得ない面があります。また,これは私の推測なんですが,昨シーズンまでのルールであれば 3Lz+2T にもボーナスが付くはずでしたが,今シーズンのルール改定によってボーナスがなくなってもプログラムを変えなかった,ということかもしれません。これでも,ザギトワ 選手(ロシア)に5点近い差をつけ,全シニア女子選手中トップの基礎点を持っていますので,これで十分という判断だったと思います。

 日本の3選手は,バランスとスコア戦略を両立する 宮原 選手,得意なジャンプを前面に出す 坂本 選手,世界一の基礎点を持つ 紀平 選手と,同じ7回11本のジャンプでもその内訳には各選手の個性がよく表れています。大技や得意なジャンプに注目がいきがちですが,単独ジャンプには苦手なジャンプが入っているので,これをどう乗り切るのかを見るのも注目点だと思います。宮原 選手は 3S,坂本 選手は 3Lz が各々苦手なので,ここも見どころです。紀平 選手はやはり 3A の出来が勝負を左右するでしょう。

 次のブログでは,優勝争いの相手となるロシア勢のジャンプ構成を見てみようと思います。