前回と前々回は,フィギュアスケート女子シングル選手のFS(Free Skating,フリースケーティング)のジャンプ構成をチェックしました。今回は男子シングルの有力選手をチェックしていきます。まずは 羽生結弦 選手から。

figureSkateScoreHanyu

 4回転は 4Lo, 4S, 4T×2本の計4本。今シーズンから「4回転2本飛べるのは1種類」というルールになりましたので,優勝争いに必要な4回転の種類・本数は,3種類3本,3種類4本,4種類4本あたりになるでしょう。4種類5本も可能性としてはありますが,今シーズンは様々なルール改定があったシーズンなので,そこまで無理してくる選手はいないようです。

 4回転の中でも 羽生 選手の目玉は 4T+3Aシークエンスジャンプでしょう。シークエンスジャンプとは,連続ジャンプの第2ジャンプとして A (アクセルジャンプ)を付けるものです。第1ジャンプを右脚(リバースジャンパーは左脚)で着氷した後,後向きから前向きに体の向きを変える際に軸足を左脚(リバースジャンパーは右脚)に変え,すぐに A を飛びます。軸足を変える動作が入るので,連続ジャンプではなくシークエンスジャンプという扱いになり,基礎点が各ジャンプの基礎点合計の 0.8 倍になります。

 +2A のシークエンスジャンプは女子ではたまに見かけますが,+3A のシークエンスジャンプは史上初だと思います。点数が 0.8 倍になるのがもったいないので,プログラムに組み込む選手はほとんどいませんし,普通に飛ぶのさえ難しい 3A を第2ジャンプに持ってくることは,まずあり得ません。これは 3A高い完成度で飛ぶことができ,新しいことに挑戦し続ける 羽生 選手らしい選択だと思います。今シーズンは,勝負よりも自分が演じたいことを優先しているそうで,だからこそ点数面では損なシークエンスジャンプでも入れたかったのでしょう。実は,羽生 選手は今までのエキシビションやアイスショーの中で,4T+3A+3A というものすごいジャンプをたびたび披露しており,2013年のグランプリファイナル(福岡)を現地観戦した際にこのジャンプを観たときは,4回転が3本続いたのかと思うほどの大迫力でした。なので,4T+3A はチャレンジというよりは,プログラムの流れの中にどう入れていくかが 羽生 選手にとっての課題だと思います。

 このシークエンスジャンプも含め,3つの連続ジャンプを全てボーナスタイムに入れているのもすごいです。連続ジャンプを演技の後の方に持ってくると,失敗したときリカバーできないというリスクがあります。羽生 選手はこの構成を成功させる自信があるでしょうし,失敗できないという緊張感が逆に高い完成度につながる,という気持ちもあると思います。演技時間の前半は4回転,後半は連続ジャンプでずっと見どころが続くプログラムになっていると思います。

 ジャンプ構成表をよく見ると,3Lz を入れていないことがわかります。羽生 選手は 4Lz も成功させていますから Lz が苦手ということはありません。昨シーズン,4Lz の練習でケガをしましたので,今シーズンは無理をしなかったと見るべきでしょう。ケガの快復が順調なら,3Lo の代わりに 3Lz を入れてくるかもしれません。

 続いては,宇野昌磨 選手のジャンプ構成です。

figureSkateScoreUno

 4回転は 羽生 選手同様の3種類4本(4F,4S,4T×2本)。今シーズンはケガを抱えていたため,4S を入れない試合も多かったですが,世界選手権では入れてくると思います。公式戦成功世界初の 4F が武器ですが,4T が安定しているので2本入れ,4F は1本を確実に決める,という作戦のようです。個人的には 4F からの連続ジャンプや,ボーナスタイムの 4F も見てみたいところです。

 この表では,F が得意な 宇野 選手が 3F を入れてないように見えますが,3F は連続ジャンプの +1Eu+3F で使っています。これは +1Eu+3S の亜種で,得意だからこそ連続ジャンプの第3ジャンプに持ってきているのです。ここで使わずに済んだ 3S は 3S+3T で使っていますが,これが最後のジャンプなので,この連続ジャンプも鍵を握ります。

 しかしながら,+1Eu+3F を除けば,以下に示すように実はかなり堅実な構成です。

  • 4回転→3回転の連続ジャンプを入れていない (宇野 選手は 4T+2T)
  • ボーナスタイムは全て第1ジャンプが3回転
  • 3Lz や 3Lo を避け 3S を入れている

 ジャンプでは失敗リスクを抑えて GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)を高めて勝負する戦略であることがうかがえます。とはいえ,ジュニア時代 3A に苦労していたことを思うと,3A がこれだけの得点源になっていることは素晴らしいです。3A をボーナスタイムに置けるからこそ,4回転を先にこなすことで失敗のリスクを抑えることができるのです。

 最後は,羽生,宇野 両選手と優勝争いをする米国の2選手を見てみましょう。

figureSkateScoreChen

figureSkateScoreZhou

 両選手とも 4Lz4F を両方組み込み,羽生,宇野 両選手より高い基礎点を持っています。ネイサン・チェン 選手は,あまり得意ではない 3A を1本にしているものの,連続ジャンプに基礎点が高い +3T 2本と +1Eu+3S を使い,これら3回を全てボーナスタイムに持ってくることでスコアを高めています。一流の男子選手は 4T と 3A を2本ずつ入れるのが定石ですが,チェン 選手は 3A 1本という弱みを +3T を2本入れることでカバーしているわけです。4回転ジャンプの安定感は抜群で,基礎点が高い 4Lz,4F に始まり,4T と +3T が2本ずつという,3A 1本パターンの王道とも言える,見事なジャンプ構成だと思います。

 チェン 選手を上回る基礎点を持ち,4回転を4種類入れているのが ヴィンセント・ジョウ 選手です。チェン 選手を超えている要因は,3A を2本入れていることと,3連続ジャンプに 宇野 選手と同じ +1Eu+3F を使っていることです。点数の面でもったいないのは 3A+2T で,これを 3A+3T にすれば基礎点が80点を超える計算になります。ただ,4回転4本に 3A も2本となると,+3T を2本入れるのは体力的にかなり厳しいので,やむを得ないところでしょう。目玉は 4Lz+3T ですね。実際にプログラムに組み込まれるジャンプの中で最も基礎点が高いので,これが成功するとスコアの面でも気持ちの面でも大きなプラスになる連続ジャンプです。ジョウ 選手は回転不足が多いので,回転不足を出さないことが鍵になりますが,この基礎点の高さが脅威であることは確かです。

 上述した4選手と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が優勝および表彰台争いを繰り広げることになると思います。全てのジャンプが良い出来であれば,皆FSで 200 点を取る力があります。今シーズン初の 200 点を誰が記録するのかも楽しみです。