マイクを持てば酔っぱらい

~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

2016/11

フィギュアスケートNHK杯はアイスダンスも必見

 金曜日から始まるフィギュアスケートのNHK杯。羽生結弦 選手と 宮原知子 選手が出場する男女シングルが注目されるのは当然なのですが,それ以外に注目してほしい競技が「アイスダンス」です。フィギュアスケートにはシングル競技とペア競技があり,シングルは日本に強い選手がいるので注目されますが,ペア競技は日本に強い選手がいないせいかテレビ放送もされず,あまり知らない方が多いと思います。ペア競技には「ペア」と「アイスダンス」があり,「ペア」がシングル同様,技の優劣を競うのに対して,「アイスダンス」は「氷上の社交ダンス」と言われ「ペア」で行うような大技はなく,スケーティング技術や芸術性を競う競技です。

 今年のNHK杯には,以下で紹介する2組が出場しますが,この2組のアイスダンスは技術の高さと芸術性を兼ね備えた本当に素晴らしいスケートを魅せてくれます。ジャンプも派手なリフトもないのにフィギュアスケートってこんなにすごいのか!と新たな魅力が発見できると思います。

VirtueMoir まず紹介したいのが,テッサ・ヴァーチュー & スコット・モイア 組(CAN)(NHK杯 Web サイトの選手紹介ページはこちら)。五輪王者で2大会連続メダル(バンクーバー:金,ソチ:銀)という実力派。ソチ五輪後2年間休養を取り,今シーズン復帰したばかりですが,グランプリシリーズのカナダ大会で優勝し,実力は健在です。私がアイスダンスを観始めてから初めて心をつかまれ,今でも私にとってのベストペアです。モイア 選手(男性)は,けっして目立つことなくそれでいて完璧な動きで ヴァーチュー 選手(女性)をサポートします。ヴァーチュー 選手は容姿端麗なのでついそちらに目を奪われますが,スケーティングは堅実さの中に華があり,派手な振り付けや演出をせずとも,滑れば自然に見事なダンスが展開され モイア 選手とのバランスが最高なのです。他のペアは,振り付けが鮮やかだったり,醸し出すムードが優雅だったり,男女どちらかがリードしていたりするのですが,ヴァーチュー & モイア 組は過度な味付けをしない素材勝負でありながら,スケーティング技術や男女バランスが素晴らしく,特に モイア 選手の黒子に徹する姿が私は大好きです。黒子ですがスケーティングが本当に見事で,スピード,動き,同調性,どれをとっても一切よどみがなく,次から次へと場面転換していく技術は,他の男性アイスダンススケーターと比較しながら観ていただくとそのレベルの高さがわかってもらえると思います。ソチ五輪シーズンの2013年グランプリファイナルで,私は彼らのアイスダンスを生観戦することができましたが,このときの感動は,正直なところ,羽生結弦 選手や 浅田真央 選手を超えるものがありました。

PapadakisCizeron そんな彼らが休養している間に,一気に世界No.1に駆け上がったのが,ガブリエラ・パパダキス & ギヨーム・シゼロン 組(FRA)(NHK杯 Web サイトの選手紹介ページはこちら)。ソチ五輪に出場さえ叶わなかった彼らが,その翌シーズンに急成長を遂げ,一気に世界選手権を初優勝したことはスケート界では奇跡とされています。アイスダンスはテレビ放送がありませんから,エキシビションの放送で初めて彼らの演技を観ることになりました。本当に驚きました。彼らが醸し出す雰囲気が当時 19歳 & 20歳 とは信じがたいほどの妖艶さをたたえ,一流のタンゴダンサーやバレエダンサーが乗り移ったようなスケーティング。観ている最中から鳥肌が止まらず「すごい,すごい」とテレビの前で絶賛してしまいました。2人のムードが目立ちますがスケーティングも完璧で,今後10年彼らの時代になると確信したものです。現に世界選手権を2連覇中の現世界王者です。

 この2組の直接対決が,グランプリファイナルや世界選手権以外の大会で,しかも日本で観られることは,本当に貴重なことだと思います。この2組の直接対決は事実上初めてで,同じ大会で観ることにより,実力が拮抗しているのか,思いのほか開きがあるのかもわかると思います。実は ヴァーチュー & モイア 組はベテランにもかかわらずコーチを変え,パパダキス & シゼロン 組と同じコーチになりましたので,同門対決でもあります。とはいえ勝敗は二の次で,この2組のダンスを純粋に楽しみたいと思います。

 アイスダンスの他の出場者は,日本のペアが2組出場しますし,2014年のソチ五輪直後の世界選手権を制した カッペリーニ & ラノッテ 組(ITA)など豪華なメンバーが集まりました。会場(札幌)で生観戦できる方々は羨ましい限りですが,幸いなことに大会がNHK杯なので,アイスダンスもテレビ放送があります。地上波ではありませんが NHK-BS で生放送してくれます。アイスダンスにもショートとフリーの2回の演技機会がありますが,フリー11/27(日)11:45~ なので,じっくりとテレビ観戦しようと思います。ぜひ,フィギュアスケートのアイスダンスの魅力に触れていただければと思います。

リスクマネジメントを政治にもスポーツにも

 私は仕事柄「リスクマネジメント」に接したり考えたりする機会が多いのですが,最近リスクマネジメントが大事だなぁと感じる機会がいろいろとあります。ITシステムの開発のような,期限までに仕事を完了するプロジェクト型の仕事では,プロジェクトを成功裡に完遂するための「プロジェクトマネジメント」という技法が知られています。その著名なガイドの1つである PMBOK (Project Management Body Of Knowledge) によると,マネジメントの対象は,時間,コスト,品質など様々ですが,その中でリスクを扱うのが「リスクマネジメント」です。ただし,リスクマネジメントの考え方は,プロジェクト型に限らずあらゆる活動で使えるものだと思います。

 プロジェクト進行中には,いろいろと予期せぬことが起こります。例えば,ITシステムやソフトウェアの開発では,システムやソフトウェアに関する要件がなかなか固まらなかったり,途中で要件が追加されたりすることが多いのですが,これらは予期せぬことの典型例です。予期せぬことというのは起こってから対処したのでは手遅れになることが多いですよね。そこで「こういうことが起こるかもしれないから,起こったときはこうアクションしよう」というふうに,あらかじめ身構えておけば,予期せぬこと(=リスク)に対して冷静に対処すること(=マネジメント)ができるというのがリスクマネジメントの要諦です。

 技法の中で体系化されていることの一例を紹介します。予期せぬことが実際に起こってしまった(これを「リスクの発現」と言います)場合に,それをどう処理するかについて「回避」「軽減」「転嫁」「受容」というパターンがあることが定義されています。例えば,ソフトウェアの要件を後から追加されるリスクに対して,

  • 回避 … 機能追加しない(業務改善等でカバーする)
  • 軽減 … 納期延長を前提に要件を受け入れる
  • 転嫁 … 開発中のソフトウェアではなく,別の既存のソフトウェアの機能で対応する(対象のプロジェクトから見ると,リスクが別のプロジェクトに転嫁されたことになる)
  • 受容 … 他の作業を調整して要件を受け入れる(納期や開発体制を変更しない)
というようなリスクへの対処法があるということです。このようなパターンが体系化されていることで,リスクへの対処法を(思い付きではなく)網羅的・体系的に検討できるのが,技法が確立されていることの意義です。

 そして,リスクが発現してから上記のような対策を考え始めたのでは手遅れなので,発現時の対策を前もって立てておく,あるいはリスクが発現しないようあらかじめ手を打っておくことがリスクマネジメントの肝です。これを実行するために,リスクマネジメントの一般的な手順(プロセス)が技法の中で体系化されています。

  • あらかじめリスクを洗い出して一覧化し,
  • リスクが発現する可能性や発現時の影響を検討しながら,
  • リスクへの事前対策および発現時の対策を立案する
というのがプロセスの骨格になります。

 このように文章で書いてしまうと「こんな手順は当たり前じゃないか」と思うかもしれませんが,実際の現場でリスクマネジメントを適切に実践できているプロジェクトは,驚くほど少ないと私は感じています。読者の皆さんも,ご自分が関わったプロジェクトや仕事において,定期的に「リスク対策会議」を開くなど,リスクをきちんと管理する仕事の進め方をしていたか?を考えてみていただければ,私と同じ感覚の方も多いと思います。リスクマネジメントと同類の活動に懸案(課題)管理がありますが,懸案管理ならどのプロジェクトも実施しているでしょう。リスクが発現するとそれが懸案になることが多いので,懸案管理≒リスクマネジメントだと思っている人がいるのですが,そうではなく,懸案管理は起きてしまったことに対処するのに対し,リスクマネジメントは起きる前から備えておくという点で,本質的に異なります。リスクマネジメントが実践されない理由として,

  • リスクが発現しなければ問題ないので,リスクが発現しないことを祈りながらプロジェクトを進めてしまう
  • あらかじめリスクを管理するのは面倒だし発現するかどうかもわからないので,問題が起きてから対処すればよいと考えてしまう
  • 将来のリスクよりも,目の前のToDoや懸案の処理に追われてしまう
といったことがあると思います。例えば,引っ越しのような個人的なプロジェクトならば,リスクマネジメントを実施しなくても問題が出てきたときに対処すれば何とかなってしまいますが,大規模なプロジェクトでそういう場当たり的な対応をすると,必ず問題が大きくなります。

 リスクマネジメントの巧拙は,ITプロジェクトのみならず,あらゆるジャンルのプロジェクトの成否にかなり大きく関わっているのではないかと個人的には思います。リスクは,考え始めれば限りなくリストアップできてしまうので,どこまで考えるか,たくさんあるリスクの中でどれを優先的に扱うか,対策をどう打つか(事前の対策と発現時の対策のバランス等)など,技法の中に答えがなく自分で解を見つけなければならないのです。特に最近は,世間を賑わわせている政治やスポーツの世界で,このリスクマネジメントがすごく重要なのではないか,と感じています。

 米国で トランプ 大統領が誕生しました。これに関連して,安倍 首相が大統領選挙期間中に クリントン 氏とだけ面会し トランプ 氏と面会しなかったことが話題になりました。また,安倍 首相が開票結果を聞いて外務省の人たちに「話が違うじゃないか」と突っ掛かった,なんて話が出ています。この話を聞いたとき,日本政府は トランプ 大統領が誕生するリスクをどう考えていたのか?というのが気になっています。

 リスクマネジメントをきちんと実施していたなら,「トランプ 氏が大統領になる確率はかなり低いから,事前に トランプ 氏と会う時間を作らなくてもいいだろう。もし トランプ 氏が当選したらその時点で面会する手配ができるように,国内の トランプ 人脈を確認しておこう」というような対策になるはずです。これは,トランプ 氏が大統領になるリスクを「受容」する策なので,実際にそうなれば「かなり可能性の低い方に転がったんだから仕方ない」と冷静に対処できるのです。ところが,いくつかの記事を総合すると,どうやら「トランプ 氏が大統領になるはずがない」と決めてかかっていたように思えます。トランプ 氏との面会手配も開票結果を受けて慌てて動いたように見えますよね。割と早く面会する機会を作れたので,懸案管理としては合格だと思いますが,慌てて動いたのが事実ならばリスクマネジメントとしては問題ありです。

 他にも,TPP 問題,在日米軍問題など,今後 トランプ 案件が目白押しです。国益を損なったり米国との不平等な関係に陥ったりする愚を避けるためには,米国がこう出てきたらこう対処する,というリスクマネジメントをぜひとも実践してもらいたいところです。本当のところ,国家行政のリスクマネジメントってどの程度行われているんでしょうかねぇ…。

 最近はスポーツの世界でもリスクマネジメントが役立つ場面が増えていると思います。サッカー解説者の元日本五輪代表監督 山本昌邦 氏の解説では「リスクマネジメント」という言葉がたびたび出てきます。例えば,サイドバックの選手が攻撃参加している場面で,相手のカウンター攻撃に備えたセンターバックやボランチの選手のポジショニングに関して「守備のリスクマネジメントが必要だ」などと解説してくれます。どんなリスクマネジメントになるかを考えると,

  • 相手のカウンター攻撃が脅威ならば,複数人数でしっかり対応できるようポジショニングする(=リスクの「回避」)
  • カウンター攻撃が脅威は感じないが要注意ならば,センターバックだけで対応する態勢をとる(=リスクの「軽減」)
  • カウンター攻撃が確率も精度も低いなら,特別なポジショニングはせず意識だけはしておく(=リスクの「受容」)
といったような選択肢があると思いますが,これらの対策はカウンター攻撃を受けた時(=リスクの発現時)ではなく,リスクに備えてあらかじめ講じておく対策ですから,懸案管理の領域ではなく,リスクマネジメントの領域になります。

 試合や大会で目標の成績を獲ることは,スポーツにおいて最もプロジェクトマネジメントが生かされる場面でしょう。勝つための戦略や戦術についてはよく論じられるところですが,実はリスクマネジメントも重要度が増しているのではないでしょうか。リオデジャネイロ五輪でシンクロナイズドスイミングの団体が久々にメダルを獲得しましたが,その裏で天気予報の専門家チームが活躍していた話をテレビで取り上げていました。専門家チームは,演技をするその瞬間にどのような気象の状況になるかの予測をコーチ陣に適宜連絡していました。屋外プールでの開催だったため,気象の影響が大きいことから天気予報チームがサポートしたようですが,素晴らしいと思ったのは,気象の状況によってどのような演技にするかの様々なプランが練られていたことです。気象が悪かったら仕方ない(=リスクの「受容」)とするのではなく,気象に応じた演技プランを立てる(=リスクの「回避」)というのは,これぞリスクマネジメントです。実際は,幸運にも通常の気象だったのでベストな演技プランを実行できたようですが,これは結果オーライではなく準備の賜物だったわけで,リスクマネジメントがメダル獲得に一役買った好例と言えるでしょう。

 政治でもスポーツでも,有能な指導者は,リスクマネジメントとして認識しているかどうかはともかく,リスクへの対策を的確に実施していると思います。リスクマネジメントが様々なプロジェクトや施策で実践されることで,日本がもっと良い国になっていくと言うと大げさかもしれませんが,そのくらい大事な考え方ではないかと思います。スポーツでメンタルコントロールの重要性が認識され,その専門家がスタッフに参画するようになりましたが,それと同じように,プロジェクトマネジメントやリスクマネジメントの専門家がスタッフに参画するようになると素晴らしいと思います。

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