金曜日から始まるフィギュアスケートのNHK杯。羽生結弦 選手と 宮原知子 選手が出場する男女シングルが注目されるのは当然なのですが,それ以外に注目してほしい競技が「アイスダンス」です。フィギュアスケートにはシングル競技とペア競技があり,シングルは日本に強い選手がいるので注目されますが,ペア競技は日本に強い選手がいないせいかテレビ放送もされず,あまり知らない方が多いと思います。ペア競技には「ペア」と「アイスダンス」があり,「ペア」がシングル同様,技の優劣を競うのに対して,「アイスダンス」は「氷上の社交ダンス」と言われ「ペア」で行うような大技はなく,スケーティング技術や芸術性を競う競技です。
今年のNHK杯には,以下で紹介する2組が出場しますが,この2組のアイスダンスは技術の高さと芸術性を兼ね備えた本当に素晴らしいスケートを魅せてくれます。ジャンプも派手なリフトもないのにフィギュアスケートってこんなにすごいのか!と新たな魅力が発見できると思います。
まず紹介したいのが,テッサ・ヴァーチュー & スコット・モイア 組(CAN)(NHK杯 Web サイトの選手紹介ページはこちら)。五輪王者で2大会連続メダル(バンクーバー:金,ソチ:銀)という実力派。ソチ五輪後2年間休養を取り,今シーズン復帰したばかりですが,グランプリシリーズのカナダ大会で優勝し,実力は健在です。私がアイスダンスを観始めてから初めて心をつかまれ,今でも私にとってのベストペアです。モイア 選手(男性)は,けっして目立つことなくそれでいて完璧な動きで ヴァーチュー 選手(女性)をサポートします。ヴァーチュー 選手は容姿端麗なのでついそちらに目を奪われますが,スケーティングは堅実さの中に華があり,派手な振り付けや演出をせずとも,滑れば自然に見事なダンスが展開され モイア 選手とのバランスが最高なのです。他のペアは,振り付けが鮮やかだったり,醸し出すムードが優雅だったり,男女どちらかがリードしていたりするのですが,ヴァーチュー & モイア 組は過度な味付けをしない素材勝負でありながら,スケーティング技術や男女バランスが素晴らしく,特に モイア 選手の黒子に徹する姿が私は大好きです。黒子ですがスケーティングが本当に見事で,スピード,動き,同調性,どれをとっても一切よどみがなく,次から次へと場面転換していく技術は,他の男性アイスダンススケーターと比較しながら観ていただくとそのレベルの高さがわかってもらえると思います。ソチ五輪シーズンの2013年グランプリファイナルで,私は彼らのアイスダンスを生観戦することができましたが,このときの感動は,正直なところ,羽生結弦 選手や 浅田真央 選手を超えるものがありました。
そんな彼らが休養している間に,一気に世界No.1に駆け上がったのが,ガブリエラ・パパダキス & ギヨーム・シゼロン 組(FRA)(NHK杯 Web サイトの選手紹介ページはこちら)。ソチ五輪に出場さえ叶わなかった彼らが,その翌シーズンに急成長を遂げ,一気に世界選手権を初優勝したことはスケート界では奇跡とされています。アイスダンスはテレビ放送がありませんから,エキシビションの放送で初めて彼らの演技を観ることになりました。本当に驚きました。彼らが醸し出す雰囲気が当時 19歳 & 20歳 とは信じがたいほどの妖艶さをたたえ,一流のタンゴダンサーやバレエダンサーが乗り移ったようなスケーティング。観ている最中から鳥肌が止まらず「すごい,すごい」とテレビの前で絶賛してしまいました。2人のムードが目立ちますがスケーティングも完璧で,今後10年彼らの時代になると確信したものです。現に世界選手権を2連覇中の現世界王者です。
この2組の直接対決が,グランプリファイナルや世界選手権以外の大会で,しかも日本で観られることは,本当に貴重なことだと思います。この2組の直接対決は事実上初めてで,同じ大会で観ることにより,実力が拮抗しているのか,思いのほか開きがあるのかもわかると思います。実は ヴァーチュー & モイア 組はベテランにもかかわらずコーチを変え,パパダキス & シゼロン 組と同じコーチになりましたので,同門対決でもあります。とはいえ勝敗は二の次で,この2組のダンスを純粋に楽しみたいと思います。
アイスダンスの他の出場者は,日本のペアが2組出場しますし,2014年のソチ五輪直後の世界選手権を制した カッペリーニ & ラノッテ 組(ITA)など豪華なメンバーが集まりました。会場(札幌)で生観戦できる方々は羨ましい限りですが,幸いなことに大会がNHK杯なので,アイスダンスもテレビ放送があります。地上波ではありませんが NHK-BS で生放送してくれます。アイスダンスにもショートとフリーの2回の演技機会がありますが,フリーは 11/27(日) の 11:45~ なので,じっくりとテレビ観戦しようと思います。ぜひ,フィギュアスケートのアイスダンスの魅力に触れていただければと思います。