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2017年09月

なぜ平昌五輪の女子は2枠なのか? 五輪でベストな演技をするには?

spnvLogo本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。過去のブログ記事から一部引用しました。


 シーズンの前哨戦が始まり,いよいよ五輪シーズンだなぁとワクワクしている方が多いのではないではないでしょうか。ただ,いざシーズンが始まってみると,シングル女子が2人しか平昌五輪に出場できない,いわゆる「女子2枠」問題が,わかっていたこととはいえ,やっぱり私たち観る側の心を締め付けてくる感じがあります。なぜ女子が2枠になってしまったのかを改めて振り返ると共に,2人の代表が五輪の大舞台でベストパフォーマンスができるにはどうすればよいのか,考えてみたいと思います。

◆ 女子が2枠になった理由

 五輪の出場人数は,直前の世界選手権の成績で決まります。各国上位2名の順位の合計が13以下ならば五輪の出場枠が3枠になります。昨季の世界選手権は,三原舞依 選手が5位,樋口新葉 選手が11位,合計で16だったため,日本の女子の出場枠が2枠になってしまったわけです。

 昨季の世界選手権を振り返ってみると,なかなかドラマティックな展開でした。三原舞依 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)で珍しくミスが出て15位と出遅れましたが,FS(Free Skating,フリースケーティング)はノーミスかつ完成度の高い演技で,一気に5位まで浮上しました。このFSは 三原 選手本人の談話のとおり,ソチ五輪の 浅田真央 選手の伝説のFSを彷彿とさせるものでした。深夜,リアルタイムで応援していた私は,三原 選手の素晴らしい演技に感涙し,197点まで伸ばしたのを見て,3枠の可能性十分にあり!と期待感を膨らませました。

 樋口新葉 選手は,結果論としてFSで1ミスまでは許される状況でした。しかし,演技の後半最初の 3Lz+3T(トリプルルッツとトリプルトウループの連続ジャンプ)の失敗(= 2Lz 単独になってしまった)と,最後にリカバーのために予定と違うジャンプに挑んだ 2A+3T(ダブルアクセルとトリプルトウループの連続ジャンプ)のセカンドジャンプの失敗によって,11位に沈みました。どちらかが成功していれば,8位に入り3枠を確保できただけに,実にもったいない結末でした。三原 選手のSP出遅れが 樋口 選手にも影響した面はあったかもしれませんが,結果論として 三原 選手の出遅れは無関係でした。三原 選手のSPが完璧だったとしても4位であり,この場合 樋口 選手は9位になる必要がありましたが,8位と9位のスコアの差はわずか0.2点しかなかったので,結局同じレベルの演技が必要だったのです。

 しかし,シニア1年目の両選手に責任を負わせるのは完全にお門違いです。こうなってしまった大きな要因は,日本のエースである 宮原知子 選手の欠場です。宮原 選手は,昨季の四大陸選手権とアジア大会が2週連続の開催であるにもかかわらず,その両方に出場を予定していましたが,これはエースに対する配慮が欠けていると言わざるを得ないものでした。例年なら四大陸選手権を回避する手もありますが,昨季の四大陸選手権は平昌五輪のリンクでの開催という重要な大会でした。ですから,アジア大会も日本開催で大事だったことはわかりますが,アジア大会には別の選手を出場させるよう調整すべきでした。宮原 選手はこの2つの大会を乗り切るため,練習過多になった可能性があります。国のトップスケーターが欠場すれば3枠が危ないのは,日本に限らずどの国も同じであり,もっともっと配慮が必要だったはずです。

 世界選手権の結果を受けて「日本女子のレベル低下」「力不足・経験不足」などと述べる関係者やマスコミがありましたが,上述からわかるようにそんなのは大嘘です。3枠を逃した原因は,トップスケーターである 宮原 選手の欠場と,ごく僅差で順位を獲れなかった不運なのです。欠場や僅差もレベル(実力)のうちだという意見もわかりますが,上述のようなコメントは全く的外れであり,選手への敬意を著しく欠いています。こういう浅薄な問題意識や,アジア大会に関する調整の問題を含めた(日本スケート連盟をはじめとする)運営側の無策が,3枠確保失敗の本質的原因ではないかと思わずにはいられません。

◆ 3枠は金メダルより重要だ

 2枠という現実をなんとか肯定的に捉えようとして「何枠でも好成績ならば良し」「厳しい戦いによりレベルが上がる」などのコメントを見かけますが,枠取りはそういうこととは別次元で考えるべき話ではないでしょうか。私が指摘するまでもないことですが,3枠を獲ることの意義として下記のようなことが挙げられるでしょう。

  • 何よりもまず,五輪や世界選手権は1人でも多くの選手が経験すべき大舞台です。
  • 同じ国でも様々なタイプの選手が演技を披露することで,フィギュアスケートの多様性や面白さが世間に伝わり,フィギュアスケートの普及や発展を促すと思うのです。
  • そして,最大の問題は2枠と3枠では選手への負担が格段に変わることです。選考の過酷さが全く違いますし,五輪本番でのプレッシャーの共有という点でも,2人より3人の方がはるかに心強いと思います。

 選手層が薄く2枠でやむを得ないという状況ならまだしも,現在の日本女子が2枠でよい理由などどこにもありません。世界が注目する五輪の場において,素晴らしい日本女子スケーターを2人しかお披露目できないのが,本当に悔しいです。今シーズンはさらに代表候補者が増えているという状況を考えると,3枠を確保することはメダルを獲ることよりもはるかに重要だったと,今更ながら思います。

 今シーズンはもうどうしようもありませんが,今後の五輪プレシーズンでは世界選手権での3枠確保を,運営側は最重要命題と考えて取り組んでほしいと思います。もちろん,毎シーズン3枠確保に尽力すべきだと思いますが,五輪を重要視しているのなら五輪プレシーズンの世界選手権だけでもあらゆる手を尽くすべきと考えます。

◆ 2枠でもベストパフォーマンスができるために

 平昌五輪は2枠という現実の中で,ベストな代表選考を行い,2人の代表選手がベストパフォーマンスができることを祈るしかありません。五輪の代表選考が熾烈を極め,国内の争いで疲弊して,平昌五輪で力を出せずに終わる…これが最悪のシナリオです。日本女子の実力ならそんなものは乗り越えられる,などという精神論はあまりにも無責任です。運営側には,五輪代表の2選手が,国内選考で疲弊することなく,五輪で最も実力を発揮できるような環境整備に本気・本腰で取り組んでもらいたい,そう強く強く願っております。

 では,実際にどんな策があるでしょうか。まず,代表選考に関して考えてみます。ここでできることは,選手の負担軽減の観点で選考基準を見直すことだと思います。現在の選考基準だと,グランプリシリーズで好成績を修めても代表が確約されないため,結局は全日本選手権が勝負どころになります。これでは,グランプリシリーズから全日本選手権までの3~4戦ずっと,例年より強い緊張感が続くことになり,シーズン前半でメンタルもフィジカルも疲弊し,平昌五輪でベストパフォーマンスを披露することは難しくなってしまうと思います。全日本選手権を乗り切れなければ五輪を乗り切れるはずがない,という意見もあるかもしれませんが,それこそ精神論です。1シーズンの中で,全日本選手権と五輪の2度のピーキングが無理であることは,過去の代表選手たちが身をもって示してくれているではありませんか。

 そこで,グランプリファイナルで所定の成績を修めた選手は,原則内定にすべきだと思います。そうすれば,その選手は全日本選手権でのピーキングを回避でき,余力を残して平昌五輪を迎えることができます。あるいは,選考基準の各要素(大会の順位や世界ランク等)をポイント化し,ポイントが最も高い人が代表になるという方法にすれば,ポイント次第では,全日本選手権で死力を尽くさなくても代表になれる状況が生じる可能性があり,これもピーキングを平昌五輪まで取っておくことにつながります。このような策は今からでも講じることが可能なものであり,運営側にぜひ考えてもらいたいところなのですが…。

 また,選手側のメンタルコントロールに関して,これはとても難しいこととは思うのですが,選手の皆さんには思い詰め過ぎないでほしいですね。もちろん,五輪出場はアスリートの大きな目標の1つとは思いますが,それを突き詰めるあまり,ケガをしたり,メンタル面で大きなダメージを負ってしまっては本末転倒です。女子選手はみな若く,宮原 選手でさえもまだ十代であり,4年後も十分にチャンスがあります。何が何でも平昌五輪出場をめざす,ではなく,無心で無理なくシーズンを戦った結果として五輪出場が舞い込む,というメンタルコントロールをしてほしいと願っています。でもこれは,あまりにも言うは易しですね…。

 続いて,代表2選手が決まった後の策について考えます。真っ先に思い付くのは平昌五輪の団体戦の戦略です。団体戦のレギュレーションがどうなるかわかりませんが,可能ならば団体戦用の第3の選手を起用すべきです。そうすれば,2選手のどちらかは団体戦に出場しなくてよくなります。そして,団体戦にも出場する選手には,個人戦にピークが来るように考えて団体戦に臨むことを公認すべきです。それを明確にしておかないと,選手はアスリートの本能で団体戦も全力で臨んでしまいます。はっきり言ってしまえば,団体戦のメダルはほぼ期待できませんので「参加することに意義がある」「団体戦は個人戦の最終調整として利用する」という割り切りが必要と思います。そういう策を打たずに建前に終始してしまえば,肝心な個人戦でのベストパフォーマンスは無理であり「二兎を追う者は一兎をも得ず」になってしまうでしょう。

 また,五輪の注目と重圧を2人で背負い込むことになりますので,それに対するメンタルコントロールが非常に重要になると考えます。そこで,代表決定直後から,例えば専属のメンタルトレーナーを付けるなど,メンタル面のサポートを実施すべきです。日本女子は,誰が選出されても五輪初出場になりますので,メンタル面の負荷が選手本人の想像を超えてくることは間違いありません。メンタルサポートの効用は多くのスポーツで実証されており,フィギュアスケートでも選手任せにせず,運営側としてできる施策を打つべきだと私は考えます。

 とまぁいろいろ書いてみましたが,所詮は個人の戯言。実現に至るとは思えないものばかり…。また,よく考えれば,これらは2枠でなくても3枠でも適用すべき方策ですね。それでも,2枠だからこそ思い切った策を講じてほしいと願わずにはいられません。1ファンである私の思いは,単純に五輪で2人しか観ることができないことがとても残念ですし,五輪出場者選考の過酷さを思うと,観るだけの側なのに胸がヒリヒリとしてきます。ライトなファンである私でさえこう思うのですから,熱心なファン,選手,運営関係者は,これからシーズンが進んでいくと,2枠という現実の重さを様々な場面で痛感することになるでしょう。何はともあれ,選手の皆さんには,負傷やメンタル疾患に陥ることなく,シーズンを通して悔いのない演技や戦いをしてほしいと願うばかりです。

宇野昌磨:昨季の驚異的な活躍と,今季の華麗なる賭け

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。過去のブログ記事をベースに加筆しました。


 昨シーズンの活躍によって,平昌五輪の主役に躍り出た感のある 宇野昌磨 選手。えっ,主役は 羽生結弦 選手ではないのかって? もちろん,世間の注目は否応なく 羽生 選手に集まるでしょうが,五輪が終わる頃には 宇野 選手が本当の主役になっている可能性がかなり高いのです。私がそう考える理由を,昨季の驚異的な内容と,今季の立ち位置という観点で考察してみます。

◆ 怒涛の昨シーズンを振り返る

 昨季の世界選手権の演技は実に安定していました。SP(Short Program,ショートプログラム)が 104.86 点で2位,FS(Free Skating,フリースケーティング)も 214.45 点で2位,合計点 319.31 点も2位。FSの 210 点台達成は 羽生,フェルナンデス(スペイン)両選手に続く3人目,合計の 319 点台は フェルナンデス 選手を超え,この上は 羽生 選手しかいません。この大会で,

  • 転倒なく着氷した4回転ジャンプが,SPとFS合わせて6本
  • PCS(Program Component Score,演技構成点)が,SPとFS共に満点の90%(SP:45点,FS:90点)を超える

2つを同時に達成したのは 宇野 選手だけであり,技術面と芸術面の両方が極めて高いレベルで両立していたことを示す結果でした。FSの 3Lz(トリプルルッツジャンプ)で着氷の乱れがなければ,初めて 羽生 選手に勝って優勝していたという点ではもったいなかったですが,あと一歩のところまで追いつめた2位というのは,宇野 選手にとって(そして 羽生 選手にとっても)最高の結果だったと言っていいでしょう。羽生 選手を立てつつ,悔しさと満足感が両立するというあたりが 宇野 選手らしい結果だなと思います。

 好成績を残した1つの要因は,尋常でないメンタルの強さではないかと思います。フィギュアスケーターは,自分の演技を行うまで音楽を聞いたりして自分の世界に入り込み,他人の演技を見ないのが普通のようですが,宇野 選手は違います。今回の世界選手権では,以下のようなコメントを残しています。

「他の選手の演技を見ないようにしようとかではなくて,逆に見たいんです。それが自分の演技に影響するとは思わないし,うまい選手の演技は見たいと思うじゃないですか」

 こんなコメント,今まで聞いたことがありません。これは,自分への自信に加え,自分や大会の雰囲気を客観視できているんだと思います。この境地に達するのは並大抵ではなく,弱冠19歳にしてこのメンタルコントロールを体得しているとは驚かされます。

 さて,昨季はフィジカルコントロールでも特筆すべきものがありました。宇野 選手が昨季出場した大会を書き並べてみますと,

  • グランプリシリーズ2戦
  • グランプリファイナル
  • 全日本選手権
  • 四大陸選手権
  • 世界選手権
と,出るべき主要大会に全て出場しているのに加え,
  • 前哨戦(グランプリシリーズの前)
  • アジア大会 (しかも四大陸選手権の翌週!)
  • 公式試合 (アジア大会と世界選手権の間)

にも出場し,これら9大会全て表彰台! さらに,世界選手権後の「国別対抗戦」にも駆り出され,昨季はなんと10試合に出場しているのです。これだけの連戦を好成績でケガなく乗り切った 宇野 選手には,本当に恐れ入りました。

 四大陸選手権は,例年なら出場しない日本選手も多いのですが,昨季は平昌五輪の会場で開催され,五輪のリンクを経験する点で重要度の高い大会でした。にもかかわらず,翌週のアジア大会にまで出場させられてしまったのは,アジア大会に全日本選手権の優勝者を出場させるという,日本スケート連盟とアジア大会主催者との間で取り決めがあったかららしいのですが,アジア大会も少しミスはあったもののきちんと優勝して,開催国のメンツを保つことにも貢献しました。全日本選手権の優勝も,羽生 選手のインフルエンザ罹患による欠場によってお鉢が回ってきたものでしたが,宇野 選手の実力なら優勝して当然というプレッシャーと戦ったのは貴重な経験でした。こんな過密日程や優勝を求められる戦いを乗り越え,世界選手権で自己最高得点を30点も上乗せするという,驚異的な結果を残したのは本当に素晴らしかったです。世界選手権にピークを持ってくるだけでもすごいことなんですが,連戦を乗り越えての演技の出来栄えと高得点は,宇野 選手の並々ならぬ努力に対するスケートの神様からのご褒美のように感じました。

 そしてそして,さらに昨季がすごかったのは,シーズン途中に新たな4回転ジャンプをプログラムに組み込んだことです。宇野 選手のFSの4回転ジャンプは,4F,4Lo,4T の3種類ですが,4Lo(4回転ループジャンプ)を入れたのは今年2月の四大陸選手権からです。もっと言えば,今では 宇野 選手の切り札になっている 4F(4回転フリップジャンプ)も,プログラムに組み込んだのは昨年からです。つまり,前年の世界選手権と比べて4回転ジャンプを2種類増やすという,とんでもないことをやってのけています。当初,昨季は 4F,4T の2種類を固めるつもりだったと思いますが,4回転ジャンプを4種類飛ぶ ネイサン・チェン(米)選手の出現が,宇野 選手に 4Lo の導入を急がせたのだと思います。

 シーズン途中の新ジャンプ導入は,ほとんど前例がありません。普通は,1年間同じプログラムを滑り熟成させていきますので,ジャンプの変更や順序組み換えでさえリスクが高くめったに行われません。シーズン途中で新しいジャンプ(しかも習得したての 4Lo)をプログラムに組み込むことは,ハイリスク・ハイリターンでありかなりの覚悟があったと思います。その勇気と技術が,世界選手権という大舞台でハイリターンを呼び込んだのでしょう。

 チェン 選手が昨季のシニアデビュー年でスタートダッシュを見せ,グランプリファイナルで(宇野 選手の3位を上回る)2位に入ったときは,宇野 選手は内心穏やかではなかったでしょう。四大陸選手権でも チェン 選手の後塵を拝しましたが,それでも慌てずに世界選手権で結果を残せたのは,前年の世界選手権で満足いく演技ができずに悔しい思いをし,同じ轍は踏まないという強い気持ちを1シーズンずっと持ち続け,世界選手権に照準を合わせていたからです。言うは易しですが,ここまで述べたような,あり得ないレベルの連戦,五輪プレシーズン,今年こそはというプレッシャーの中で,大会に出場し続けながら世界選手権にピークを持ってきて,シーズンの最後についにつかみとった銀メダル。月並みな言葉ですが「すごい」としか言いようがありません。今後私は,今まで以上に 宇野 選手を応援しようと心に決めました。

 世界選手権での日本男子の1-2フィニッシュは,2014年の 羽生 & 町田 両選手以来ですが,2014年は五輪直後で有力選手が欠場する中での結果だったことを考えると,昨季(2017年)の 羽生 & 宇野 両選手の金&銀メダルには,計り知れない価値があります。例えて言うなら,今までは,マラソンの先頭を風を一身に受けて走る 羽生 選手を風よけにして,宇野 選手が追走してきた感じでしたが,今後はWエースとして2人で並走していくことになるでしょう。もう 宇野 選手に風よけは要りませんし,羽生 選手も,並走する日本選手がいることで気持ちに余裕が生まれ,2人で高め合いながら平昌五輪を迎えられそうです。

◆ 羽生結弦 を本当に脅かす存在へ

 このように昨季全体を考えれば,宇野 選手が世界選手権で銀メダルを獲ったことが,どれほど素晴らしくどれほど価値があるのかがわかります。驚異のシーズンを経ての銀メダルであることをライバルの選手たちも皆わかっていますから,スケーターが 羽生 選手に抱く敬意と同じように「宇野 選手には負けてもしょうがない」と思わせる雰囲気が出てきたのではないかと感じます。平昌五輪の 宇野 選手は,フェルナンデス,チェン 両選手と銀メダルを争う構図と思いきや,それどころか2人より半歩リードし金メダルをも狙える位置にいると思います。ケガやスランプがなければ表彰台はほぼ確実で,五輪での日本男子1-2フィニッシュという大偉業の達成も十分ありうると私は見ています。

 そう予想する理由の1つが,宇野 選手がチャレンジャー精神を持ち続けられる点です。これだけ好成績を上げても,宇野 選手は 羽生 選手に次ぐ国内2番手であり,他国の選手がその国のトップ選手として期待を背負うのに比べれば,プレッシャーが和らぎ,無欲無心で五輪に臨むことができるはずです。また,宇野 選手の年齢は五輪の時点で弱冠20歳。年齢的には次の北京五輪が本当の勝負所であり,今回は結果は二の次という気持ちで臨むことができるでしょう。これはソチ五輪のとき19歳だった 羽生 選手と状況が似ていますが,そのとき金メダル本命だった パトリック・チャン(カナダ)選手との力の差よりも,現在の 羽生 選手と 宇野 選手の差ははるかに詰まっています。ソチ五輪ではその差を一気に詰めた 羽生 選手が,今回は逆の立場になり 宇野 選手が迫ってくる重圧を強く感じているかもしれません。金メダルを当然視される 羽生 選手と,チャレンジャーの 宇野 選手の戦いとなれば,グランプリファイナル,全日本,五輪のどこかで,宇野 選手が初めて 羽生 選手を破って優勝するシーンを見ることができそうですし,五輪でそれが起きる可能性も大いにあるのです。

 チャレンジャー精神の象徴となりそうなのが,4回転ジャンプの戦略です。昨季,4回転ジャンプの種類を1種類から3種類に増やしたばかりで,しかも五輪シーズンの今季にもう1種類増やす計画ですから,これぞ華麗なる賭けです。増やすジャンプを 4Lz(4回転ルッツジャンプ)と 4S(4回転サルコウジャンプ)のどちらにするかが注目点ですが,この2つは難易度がかなり違いますので,同じ程度の成功率なら迷わず 4Lz を選択すべきでは,と思いたくなります。しかし,4S の選択は単に確実性を高める以外に,なかなか戦略的な意味があるのではないかと,私は深読みをしています。

 各選手の4回転ジャンプの種類を書き並べてみます。左から難易度の高い順になります。

羽生
4Lo4S4T
チェン4Lz4F
4S4T
宇野(S追加)
4F4Lo4S4T
宇野(Lz追加)4Lz4F4Lo
4T

 4Lz の追加は,4Lz と 4F を両方飛ぶという点で チェン 選手に肩を並べつつ,難易度の組み合わせでは チェン 選手を超え最強の構成になる,という点で素晴らしい選択です。しかし,4Lz は難易度の高いジャンプであり,中途半端な成功率では出来・不出来の波が大きくなってしまいます。チェン 選手はひょっとすると 4Lo を加えて5種類に挑んでくる可能性もあり,その競争に巻き込まれるのは今季に関しては得策ではありません。PCS が チェン 選手より高い 宇野 選手の陣営は,チェン 選手とのジャンプ競争を重視する必要はないと考えているかもしれません。

 一方,4S を追加すると,羽生 選手が飛ぶ種類のジャンプは全て飛べて,さらに 宇野 選手の切り札である 4F が加わる構成になります。これを深読みすると「羽生 選手を追い越して勝ちに行く」という意識の表れとも読み取れるのです。もちろんこれは,4回転ジャンプの種類という一面だけを見た話であり,総合的に見れば 羽生 選手が有利な状況は変わりありません。それでも,ある部分で 羽生 選手を上回る武器を持つことになり,これは 宇野 選手の意識やモチベーションに良い影響を与えるでしょう。個人的には今シーズン新たな4回転ジャンプを加える必要はないと思っていますが,もし加えるなら上述の見方ができる 4S の方が面白いかなと感じています。4Lz は来シーズン以降じっくり取り組んで,5種類制覇を チェン 選手と競い合うと盛り上がるんじゃないかな,と思います。

 …とかなんとか書いている間に,前哨戦であり現在開催中のロンバルディア杯のFSで 4S を見事に成功させたようですね。演技時間前半に 4Lo と 4S,後半に 4F と 4T(2本)で計5本。着氷の乱れがあったにもかかわらず,シーズン初戦で早くも昨季の世界選手権をわずかですが上回るスコアを叩き出しました。この構成のまま五輪に臨むかどうかはまだわかりませんが,無理に 4Lz を入れず 4S を加える戦略でも十分に戦えることが証明されたと考えてよいでしょう。次戦のジャパンオープンで,このジャンプ構成がどうなるかに注目したいと思います。

 そして,この 宇野 選手のロケットスタートは,五輪シーズンの高らかな号砲になるでしょう。おそらくこの時期の選手は,この時期の前哨戦の結果など気にせず自分のペースで調整するんだ,と気持ちを強く持っていると思います。しかし,ロンバルディア杯での 宇野 選手の完成度の高さを目の当たりにすれば,内心穏やかではいられず「このペースで大丈夫なのか」などと気持ちがグラグラ揺れ動いてもおかしくありません。また,闘争心に火がつき,思わず前哨戦から本気モードになってしまいペースを乱される選手が出てくるかもしれません。野球で言えばまだオープン戦の段階なのに,もうメンタルコントロールの戦いが始まってしまったように感じます。これを書いている私も,前哨戦なんてアテにならないと頭ではわかっていながら,宇野 選手の映像とスコアを見て,今シーズンものすごいドラマが生まれそうな予感で心がかき乱されています。

 昨季,そして今季初戦がこれほど順調だと,どうしても逆の見方をしてしまい,五輪までに息切れしてしまうのでは?と思う方もいるかもしれません。昨季のハードなシーズンの反動がどこかで出てこないか,という心配もありますよね。でもそこは,シニア1年目の教訓と2年目の自信を拠り所にして,フィジカルもメンタルもうまくピーキングしていくと思います。宇野 選手自身も「良すぎて逆に不安」とコメントしたと伝えられていますが,こういう素直な心境をさらっと言えるのですからメンタル面も良好と見てよさそうです。宇野昌磨 選手の初めての五輪シーズン,本当にすごいことを起こしてくれそうで今からワクワクが止まりません

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