本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です
日本女子シングルにとっては,最高の大会になりました。まずは,なんといっても 宮原知子 選手の復活優勝。ミス・パーフェクトがこんなにも早く帰ってくるとは…と涙した方も多かったのではないでしょうか。コンディションが戻ってきて,スケートができることの喜びにあふれている気がしました。また,昨季より情感が強く表現されていて,休養している間に吸収したものの大きさを感じました。それを審判も感じ取ったのか,FS(Free Skating,フリースケーティング)の PCS(Program Component Score,演技構成点)が71点台に上がりました。しなやかで凛とした人物を描き出す「SAYURI」「蝶々夫人」の2つのプログラムは,ムダな動きが削ぎ落とされ洗練された表現力を持つ 宮原 選手だからこそのプログラムであり,今年初頭のケガからこれまでの彼女の努力に思いをはせると,さらに心に響いてきますね。
このままのコンディションで全日本選手権を迎えてほしい,そう願うばかりですが,今大会の優勝でグランプリファイナルの補欠1番手になりましたので,ケガが報じられている メドベージェワ 選手が欠場すればファイナル出場が転がり込んできます。大会前からファイナル進出の可能性が消えていたことで,アメリカ大会でかなりギアを上げたと思うので,もしファイナルに出場できた場合,全日本選手権までのペース配分をどうするか,難しい判断を迫られそうです。しかし,今大会で自信を取り戻した 宮原 選手は,もうペース配分など関係ない高みに上ったかもしれず,補欠出場でファイナル制覇→全日本選手権優勝という完全復活シナリオも大いに期待してしまうほど,今大会の 宮原 選手の演技は神々しさに満ちたものでした。
ブログのプレビュー記事で「優勝争いをするのでは」と予想した 坂本花織 選手が,期待以上の内容で本当に優勝争いに加わりました。特にFSの「アメリ」は,最後のジャンプのあたりで私は言葉を発することなくただただ画面の中の 坂本 選手を追い,最後のポーズのときには言いようのない感動に包まれました。ジャンプの質,ステップの最中にまで表現される細かいパントマイム,音楽とスケーティングの融合,全てがうまくハマったこのプログラムが持つ雰囲気は最高です。友人がジュニア時代から 坂本 選手を推していて,それで私も注目するようになったのですが,ロシア大会のときは今一つ「アメリ」の良さが実感できませんでした。でも今大会で完全にブレイクしましたね。スケール感と細かい表現の両立が 坂本 選手の個性になりそうです。
200点超えどころか一気に210点に到達し,プログラムの秀逸さも考えれば全日本選手権で大金星の可能性さえ感じさせてくれる 坂本 選手の活躍は,同門生の 三原舞依 選手や,同じシニアデビュー組の 本田真凛,白岩優奈 といった選手たちを大いに刺激するはずです。宮原,坂本 両選手のアシストによってファイナル進出を果たした 樋口新葉 選手も,ファイナルにトップギアで挑むことでしょう。坂本 選手の今大会の大躍進により,女子シングルの代表争いはさらに高い次元に引き上がっていきそうです。
坂本 選手と並ぶサプライズとなったのは,予定外出場でワンチャンスを生かした ブレイディ・テネル 選手(米)。テネル 選手が好調という話は耳にしていたのですが,観戦の機会がなく,グランプリシリーズ初出場となる今大会でようやく観ることができました。手足の長さは ポリーナ・エドモンズ 選手(米)を彷彿とさせ,華やかさは五輪出場断念となった グレイシー・ゴールド 選手(米)に比肩する,素晴らしい選手ですね。アメリカの女子シングル選手は誰も本調子に至っておらず,テネル 選手は代表争いに名乗りを上げたどころか,このままなら全米選手権を勝ってしまうような勢いと自信を得たと思います。
男子について少しだけ。上位4位までの選手がグランプリファイナル進出を果たしましたが,ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)は,順位合計が ジェイソン・ブラウン 選手(米)と同じで,スコア合計がわずかに上回ったという薄氷の進出でした。4Lz(4回転ルッツジャンプ)を飛ばなかったところを見ると,コンディションが万全ではなかった可能性があります。FS(Free Skating,フリースケーティング)のプログラムが,少し見慣れてきたものの,良い音楽を生かし切れていない印象は拭えず,今後どこまで完成度を高められるのか,やや不安を感じます。
ジン 選手が回避した 4Lz をFSで2本入れることを試したのが ネイサン・チェン 選手(米)でした。冒頭で 4Lz+3T(連続ジャンプ:4回転ルッツ→トリプルトウループ)を決め,演技時間後半の冒頭で単独の 4Lz を決めました。他のジャンプが乱れたために急遽試したものと思われますが,この選択肢もあるということを確認できたのは チェン 選手にとっては収穫だったと思います。4回転を5種類入れるのか,4種類で5~6本にするのかを模索していると思いますが,スコアだけを考えれば 4Lz 2本は強力な戦略になります。
チェン 選手に関しては,ついジャンプの話題が中心になりますが,着々と PCS(Program Component Score,演技構成点)が上がってきているのは,ライバルたちには脅威でしょう。今大会では,つなぎの演技をとても丁寧に行っている印象がありましたし,スケーティングにも昨季のようなジュニア上がり感はなくなり,洗練されたものになってきている気がします。グランプリファイナルは,宇野昌磨 選手と チェン 選手の優勝争いという形になりそうですね。
男子の有力選手がピリッとしなかったのに対し,女子は 宮原,坂本 両選手が珠玉の出来で,グランプリシリーズを見事に締めくくりました。これで6週連続のシリーズが終了し,来週はいよいよ名古屋で開催されるグランプリファイナルを迎えます。