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~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

2018/02

平昌五輪 女子シングル 感想

 フィギュアスケートの全競技が終わりました。今回も始まってみればあっという間でしたね。女子シングルは,6位までは実力どおりの順位に落ち着いたという結果でしたが,感動しつつもなんだかモヤモヤするなぁという方もいらっしゃるようです。私のブログでは,試合の結果に対して感想を述べるときには,順位に対する言及は極力しないよう努めているのですが,今回は世間でも議論を呼んでいる話題なので,やや踏み込んで書いてみようと思います。

 まずは,宮原知子 vs オズモンド (カナダ)の銅メダル争い。宮原 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)共に,ノーミスどころか着氷のぐらつきも全くない完全完璧な演技で,SP約 76 点,FS 146 点台,トータル 222 点台と,全てのスコアが自己ベストでした。五輪という大舞台で,しかもケガ明け復帰からわずか3ヶ月しか経っていないことを思えば,内容,スコア共にパーフェクトでした。応援していた多くの方々が感涙されたと思いますし,特に現役や OB/OG のスケーターから大絶賛されていますね。無駄な動きが一切ない,研ぎ澄まされた様式美が 宮原 選手の持ち味ですが,それに加え今シーズンは,今までよりもスケートの伸びやかさが増し,感情の発露も増えました。ケガが癒え,スケートができる喜びにあふれ,体重も増やし(これを言われるのはご本人は照れくさいでしょうね),宮原 選手のバージョンアップが五輪で結実しました。

 一方の オズモンド 選手は,今シーズンFSがなかなかまとまらず,私は失礼なことにミスが出ると予想しましたが,実際には見事にまとめました。3Lz のエッジ違反疑い(エッジ違反までは取られなかった)とステップアウトで少し綻びが出ましたが,それ以外は崩れることなく全てのジャンプを決めました。終わった瞬間,詳しい方なら「宮原 選手のメダルはなくなったな」と分かったと思いますが,それでも 152 点台という点数が出たときは,150 点を超えるような内容だったかな?と首をひねった方もいたと思いますし,私もその1人です。

 宮原 選手がメダルに届かなかった要因,すなわち オズモンド 選手との差について,何人かの専門家が言及していますが,結果論で言っているような印象で,腑に落ちる論評を見つけることがまだできていません。GOE(Grade Of Execution,出来ばえ点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)の両方で差がついたのですが,GOE に関しては,オズモンド 選手について「ジャンプの幅や着氷後の流れが良かった」という意見が多くありました。着氷後の流れについては私も同意しますが,ジャンプの幅の評価についてはやや疑問を感じます。幅で飛ぶ選手もいれば,高さや回転の速さで飛ぶ選手もいるわけで,高さや速さだって良い評価を受けるべきです。宮原 選手は回転の速さが素晴らしいので,その点はもっと評価されていいと思います。ただ 宮原 選手は,回転がギリギリで着氷後の流れがあまり出ないのは確かで,それが GOE の評価が高まらない理由だとすれば,そこについては同意せざるを得ないところです。

 もっと解せないのは PCS です。宮原 71.24 vs オズモンド 75.65。1項目平均では,宮原 8.90 vs オズモンド 9.45 (小数点第3位以下切り捨て)。こんなに差があるとは到底思えないというのが私の感想です。宮原 選手を贔屓目に見てしまう点を差し引いても,宮原 選手の方が上か,もっと僅差であるべきだと思います。オズモンド 選手のダイナミックさは確かに素晴らしく,9点台に値するとは思いますが,1項目平均 9.1 前後が妥当な水準ではないかと個人的には考えます。一方,宮原 選手の余計なものが削ぎ落とされた洗練された美は,PCS の5項目のうち「パフォーマンス」(Performance)や「音楽解釈」(Interpretation of the Music)の項目においてもっと評価されてよく,1項目平均 9.2 程度出るべきだと思います。宮原 選手のような洗練された美というのは,欧米勢が大半を占める審判の方々にはきっと本質的に理解できないのではないかという気がしてきますし,何かと動作が多いロシア勢と比べ「もっといろいろできるのにサボっている」みたいに思われているのでは?とさえ思ってしまいます。

 宮原 選手に五輪メダルを獲ってほしかった気持ちは強いですが,既に世界選手権とグランプリファイナルのメダルは手にしていますし,何より世界中のファンやスケーターから寄せられた称賛は,メダルよりもはるかに価値が高いです。宮原 選手はSPとFSが両方ノーミス(転倒・回転不足・回転抜け・レベル取りこぼし・出来ばえ点マイナス 全てなし)でしたが,これは ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手と計3人だけが達成しました。また,五輪でのSP・FS両方ノーミスは,現行の採点方式になった2006年トリノ五輪以降,日本男女シングル選手では初めて(現時点では唯一)の偉業です。こういったことで私たちは自分を納得させつつ,オズモンド 選手の銅メダルに拍手を贈りたいと思います。

 続いて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手の金メダル争いを見ていきます。ザギトワの勝因として,演技時間後半に全てのジャンプを入れたことを挙げる記事が多いですが,これは本質を突いているとは言えません。確かに最もわかりやすい ザギトワ 選手の特徴ではあるのですが,メドベージェワ 選手もSPでは全てのジャンプを後半に配置し,FSでも他の選手より多い後半5本という策を採っています。後半全ジャンプより重要なポイントは「ザギトワ 選手が 3A を入れないジャンプ構成としては最高の構成を組んでいる」ことと「メドベージェワ 選手のジャンプ構成はかなり難度が低い」ことです。

 両選手のFSのジャンプ構成を比べてみます。★印は2本入れることを表します。

  • ザギトワ: 3Lz★, 3F★, 3S, 2A★; +3T, +3Lo, +2T+2Lo
  • メドベージェワ: 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T

 ザギトワ 選手は 3Lz と 3F を2本ずつ入れていますが,まずこれが高難度です。Lz と F は一方が苦手な選手が多く,どちらかは1本にせざるを得ない選手が多い中,どちらも苦にせず2本ずつ入れられる ザギトワ 選手のジャンプ技術が素晴らしいのです。そしてもう1つの武器は +3Lo の連続ジャンプです。もちろん,これを飛べること自体がすごいのですが,+3Lo を入れるもっと重要な意義は,3A を入れない場合の最高得点となる構成を組むことができる点です(なぜ最高得点の構成になるかの説明は割愛します)。ザギトワ 選手の技術点が高いのは「演技時間後半に全てのジャンプを入れている」や「3Lz+3Lo が飛べる」ことよりも「技術点が高くなるようにジャンプ構成を組んでいる」ことが根本的な要因なのです。

 一方,メドベージェワ 選手は 3Lz が苦手なので1本しか入れず,また3連続ジャンプでは,一般的な +2T+2Lo より難度が低い +2T+2T を採用しています。これは,ザギトワ 選手だけでなく他のトップレベルの選手と比べても基礎点がやや低い構成です。基礎点では無理をせず,ジャンプの完成度を極限まで上げて高い GOE を得ることでカバーするのが メドベージェワ 選手の戦略です。

 技術点の点差は,今までなら PCS で メドベージェワ 選手が跳ね返すことができていたのです。ところが,五輪直前のヨーロッパ選手権で ザギトワ 選手の PCS が跳ね上がり,6~7点あった差が2~3点に詰まったのです。メドベージェワ 選手は PCS で跳ね返すことができなくなり,ザギトワ 選手のミスを待つか,究極の演技で PCS をFSで 79 点台(1項目平均 9.875 点以上)にするしかなくなりました。メドベージェワ 選手の PCS は77点台に留まり,FSも ザギトワ 選手と同点にするのが精一杯でした。とはいえ,PCS 77 点台は1項目平均 9.68 点であり,もう満点に近い点数です。ですから,ザギトワ 選手の金メダルに疑問を抱くことは「ザギトワ 選手の PCS 75 点台は高過ぎるのでは?」と思うことと等しいのですが,私の意見は「ザギトワ 選手の PCS は妥当」です。絶対値としては高過ぎると思うのですが,それは メドベージェワ 選手にも当てはまると思っているので,両選手の差はこの程度だと考えます。

 ザギトワ 選手は,SPの完成度が素晴らしかったです。動作がキビキビとしていて,メリハリが今までと段違いでした。SPの PCS を,ヨーロッパ選手権の 36.28 点から平昌五輪で 37.62 点まで引き上げましたが,この 1.34 点の上積みは,奇しくも メドベージェワ 選手との 1.31 点差とほぼ同じであり,ヨーロッパ選手権から1ヶ月弱の成長分が ザギトワ 選手に金メダルをもたらしたことになります。

 FSで7本のジャンプを全て演技時間後半に入れている点について,アシュリー・ワグナー 選手(米)が異を唱えて話題になりましたが,彼女らしくない言い掛かりに近い指摘だと感じました。もし後半のジャンプがプログラム全体に調和していないなら,審判がもっと PCS を低くするはずですが,実際には メドベージェワ 選手に迫る PCS が出ていますし,私もそれを妥当だと感じています。ザギトワ 選手のFSプログラム「ドン・キホーテ」は,構成が実によくできています。このプログラムの良さを,私は昨年のフランス大会の感想のブログ記事で下記のように記しました。

冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。

 フランス大会では,演技時間後半にジャンプが矢継ぎ早に入る箇所に,以前感じていた違和感がなくなり,しっくりくるようになってきたと私は感じました。その後,グランプリファイナル → ロシア選手権 → ヨーロッパ選手権 と大舞台で実戦経験を積む中で,後半のジャンプがプログラムによく溶け込むようになっていったと思います。平昌五輪では,最初の 3Lz に +3Lo を付けられず,2回めの 3Lz に付けてカバーしましたが,それにより「連続ジャンプ3回の重厚さ」から「単発ジャンプ4回の小気味よさ」へと続く流れが崩れました。それで PCS が 75 点台になりましたが,ジャンプが全て予定どおりで完璧だったら,PCS がさらに上がり,メドベージェワ 選手の歴代最高のトータルスコア(241 点台)が塗り替えられていたと予想します。

 結局のところ,ザギトワ 選手の勝因は「高い技術点を実行し演技構成点の不足を補おうとしたが,実戦経験を経て演技構成点が急伸し,技術力,芸術性,完成度がバランスよく揃った」ことなのです。神プログラムである「ドン・キホーテ」を手に入れ,完璧に遂行した ザギトワ 選手が金メダルを手にしたことを,私は心から称賛したいと思います。

 一方の メドベージェワ 選手は,直近3シーズン,頂点を維持し続けたにもかかわらず,ケガと若手の突き上げによってまさかの銀メダルに終わったことで,同情を集めているところもあるのかなと思います。私も,ソチ五輪後の4年間という視野で見れば,メドベージェワ 選手が金メダルに最も相応しいとは思いますが,肝心の五輪シーズンにケガをしてしまっては,金メダルを逃すのもやむを得ません。彼女自身,シニアデビューシーズンでいきなり世界女王に輝きましたから,ザギトワ 選手の飛躍に納得していると思います。

 私は,彼女の今シーズンのFSプログラム「アンナ・カレーニナ」が,ずっとしっくりきませんでした。シーズンが始まってからプログラムを変更したようですが,そうしたことが準備の面で響いたことは否めないでしょう。ヨーロッパ選手権や平昌五輪では,ある種の気迫のようなものが感じられ,私はその気迫を好意的に捉えていましたが,プログラム全体の完成度を上げ切る前に平昌五輪を迎えてしまったのかもしれません。個人的には,昨シーズンやその前に演じていた,抒情性の高いプログラムで主人公の内面をしっとりと表現する方が,メドベージェワ 選手らしさが出たのではないかと,結果論ですが思ってしまいました。

 とはいえ,この2人の息詰まる同門生対決は,後世に語り継がれる名勝負でした。ヨーロッパ選手権で,後輩の ザギトワ 選手から優勝という形で挑戦状を叩きつけられた メドベージェワ 選手は,ケガからの復帰で一息つくことも許されず,モチベーションも緊張感も極限の日々を過ごしたことと思います。そして,それは五輪直前に思わぬアドバンテージを手にした ザギトワ 選手も同じだったと思います。そんな極限の状態でも,ミスとは無縁の,GOE や PCS でスコアの小数点以下を争う,本当に異次元の戦いでした。2人が記録した 238~239 点台は,当然,五輪史上最高スコアであり,それに相応しい極めて完成度の高い感動的な演技でした

 最後に,坂本花織 選手に触れておきます。FSはジャンプをふわっと着氷していて余裕がありましたし,パントマイムもとても自然にできていて,これは神演技になる…と思った6つ目のジャンプ 3Lo でステップアウト。それでも,209 点台という200点超えのスコアで6位に入賞したのは見事でしたし,SPで自己ベストを出しFSを最終グループで演技することができたのは,貴重な経験になったと思います。全日本選手権の直前から急成長して代表の座をつかみ,四大陸選手権で優勝して良い流れで平昌五輪を迎えましたが,団体戦FSでは不本意な出来で,これで個人戦が不甲斐ない成績だと「なぜ 坂本 選手を代表にしたのか」という声が出かねないところでした。日本女子2枠という難しい状況の中で,本当に素晴らしい成績を残したと思います。

 1年前,坂本 選手が世界ジュニア選手権で表彰台に一緒に上った ザギトワ 選手が,今や世界一。その演技を観て,いろいろ思うところがあったのではないかと思います。現役の日本女子選手で2人しかいない五輪出場者の1人として,今後もっともっと成長して,世界一を争える選手になっていくのではないか,そんな大きな期待をしながら,坂本 選手を今後も応援していこうと思います。

LadiesMedalistPyeongchang2018

日本勢メダル濃厚:平昌五輪女子シングルSP終えて

 平昌五輪フィギュアスケート女子シングル。21(水)に行われたSP(Short Program,ショートプログラム)は,上位5選手がパーフェクトで自己ベストという,かつてないハイレベルな戦いになりました。その中に日本の2選手,宮原知子坂本花織 がいることは,とても嬉しいですね。

 ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手は完全に実力が飛び抜けていますので,日本選手の現実的な目標は銅メダルとなります。ライバルは,SP3位の オズモンド 選手(カナダ)と,6位の コストナー 選手(イタリア)に絞られたと考えていいと思います。2選手が絶好調なら銅メダルは彼らの争いになりますが,今シーズン,彼らのFS(Free Skating,フリースケーティング)はジャンプが揃ったことがなく,スコアが130点台にとどまることも珍しくありません。五輪に照準を合わせてきているとは思いますが,逆に五輪だからこそごまかしがきかずに苦手な技でミスが出るのが平昌五輪の傾向であり,おそらくミスが出てしまうでしょう。特に,オズモンド 選手は,滑走順が ザギトワ 選手の直後なのでとてもやりづらいと思いますし,日本選手が良い演技だった場合,オズモンド 選手にはかなりの重圧がかかるので,ノーミスはなかなか難しいと思います。

 ですから,宮原,坂本 両選手がノーミスなら彼らより上位に行く可能性が高いです。両選手は最も重圧のかかる全日本選手権でノーミスの演技を魅せ,日本の2枠という世界一狭き門をくぐり抜けてきましたので,ノーミスの可能性は極めて高いです。よって,両選手が銅メダルを争うという,嬉しいやら辛いやらという展開になると思います。

 両選手の基礎点はほぼ同じなので,SPの点数差と演技構成点の差で,宮原 選手が優位に立っています。ノーミスの演技ができれば銅メダルを手にできる可能性はかなり高いと思います。宮原 選手は,ソチ五輪後の4年間ずっと世界トップレベルを維持した数少ない選手の1人ですので,五輪メダリストになってほしいと多くの関係者が願っていると思います。

 ただし,宮原 選手に1つでもミスが出れば,坂本 選手が上位に来る可能性も十分にあります。坂本 選手は,単なるノーミスでは 宮原 選手を超えるのは難しいですが,全てが完璧であれば,出来ばえ点が多く加算され,演技構成点も今までより高くなることが見込まれるので,逆転できると思います。団体戦FSでは今一つだったので,個人戦では完璧にしたい気持ちが強いと思うので,完成度の高い演技を魅せてくれることでしょう。

 以前のブログでも指摘したのですが,現行の採点方式で,五輪でSPとFS両方ともノーミスを達成した日本選手は,今まで1人もいません。トリノ五輪金メダルの 荒川静香 選手も,FSで3回転の予定が2回転になるジャンプが1つだけあったのです。宮原,坂本 両選手にはぜひ日本選手初のノーミスを達成して,メダルを手にしてほしいと願っています。

 さて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手による金メダル争いは,SPで既に ザギトワ 選手がリードするというまさかの展開。ザギトワ 選手のSPは,気持ちが前面に出ていて,メリハリも今までより格段に良くなっていたので,82 点台という歴代最高スコアを記録するのは当然という演技でした。FSも同じ程度の出来なら ザギトワ 選手の方がスコアが高いので,このまま ザギトワ 選手が金メダルを獲る可能性が高く,メドベージェワ 選手はかなり追い込まれました。

 ただ,メドベージェワ 選手が全てを完璧に入れ,感情が前面に出る演技ができれば,出来ばえ点と演技構成点が伸び,ザギトワ 選手を上回る可能性もあります。ヨーロッパ選手権では,今までにないような,感情が表に出る演技が観られたので,それが再現できれば勝負の行方はもつれそうです。ザギトワ,メドベージェワ 両選手とも,少しの傷も許されない,究極の演技合戦になることは間違いなく,トータルスコアが 245 点に届く可能性さえあるかなと思います。

 平昌五輪のフィギュアスケートの1位と2位は,奇しくも「後輩が先輩を立てる」法則が成り立っています。男子シングルは日本勢の先輩である 羽生結弦 が,アイスダンスは同門生の先輩である ヴァーチュー & モイヤー 組(カナダ)が金メダルを獲りました。この法則に則れば,メドベージェワ 選手が優勝なんですが,女子シングルはその法則が崩れ,ザギトワ 選手が金メダルを手にする可能性が高い状況です。果たしてどうなるでしょうか?

平昌五輪 男子シングル レポート 【スポーツ雑誌風】

 SP(Short Program,ショートプログラム)を終え,羽生結弦 が1位,宇野昌磨 が3位という好位置につけ,羽生 2連覇,日本勢1&2フィニッシュへの期待が否が応でも高まる中,FS(Free Skating,フリースケーティング)が始まった。

 第1グループから,ヴァシリエフス(ラトビア),ハン・ヤン(閻涵,中国),田中刑事 など,見応えあるメンバーが並ぶ。彼らが第1グループとは信じ難いが,それだけかつてないレベルの試合になった。世界選手権や五輪では,国別の出場枠(1ヶ国あたり最大3名)が設けられ,その分,多くの国の選手が出場する。競技普及の観点では大切なことだが,演技がトップレベルより見劣りする選手の出場が多くなってしまうのは,やむを得ないことだ。しかし,平昌五輪のFSに進出した24名は,誰もが250点以上出す力がある実力者揃いだった。この点は,ソチ五輪から大きく進化した点の1つだ。

 第2グループには,早くも ネイサン・チェン(米)が登場。団体戦で,米国のメダル獲得を確かなものにするべく,男子SPに起用されたが,全てのジャンプを失敗し失意の底に沈んだ。1週間後,勝負の個人戦SP。団体戦では冒頭のジャンプに 4F を選択したが,個人戦ではより難度の高い 4Lz に挑んだ。SP冒頭のジャンプが チェン の命運を左右すると思いながら観ていたが,4Lz を転倒しその選択は凶となった。冒頭のジャンプを失敗したことで,団体戦の悪夢が頭をもたげ,もう失敗が許されない極度の重圧に襲われたことだろう。SPでも全てのジャンプを失敗し,トップの 羽生 に29点もの差が生じてしまった。

 この状況に,多くの日本人の方々が,4年前のソチ五輪の 浅田真央 選手の姿を重ねたに違いない。あの時,浅田 選手のSPとFSは中1日空いていた。だが,チェン はSPから連日のFS。気持ちの切り替えが極めて難しい状況だったはずだ。しかし,人間は追い込まれると恐るべき力を発揮することがある。メダルの重圧から解放され,失うものがなくなった チェン は,8回のジャンプのうち4回転を6本入れ,見事に5本を成功させた。国内では「4回転5本成功」という報道がほとんどだが,失敗した1本も着氷が乱れただけで回転不足にはならなかったので,4回転ジャンプとして認定されており「4回転6本認定」でもあったのだ。6本が「認定」されたのは,公式記録上初めてではないかと思う。

 4回転6本は,金メダルへの秘策の選択肢として用意されていたとは思うが,ハイリスクであり採用は難しいと私は予想していた。メダルが絶望的になったことで爪痕を残すべく挑戦し,結果は 215 点台でFS自己ベストFSだけなら全選手中トップのスコアを記録した。トータルは 297 点となり,上位者が崩れればメダルの可能性が残るスコアだった。正に,ソチ五輪の 浅田真央 選手の復活劇を彷彿とさせる,地獄からの生還だった。ジャンプの成功に意識が強かったためか,出来ばえ点や演技構成点は チェン の好調時には及ばなかったが,SP時点の絶望を思えば,本当に素晴らしいパフォーマンスだった。

 続く第3グループ。私が注目したのは,ヴィンセント・ジョウ(米)と ミハイル・コリヤダ(ロシア)の2人。ヴィンセント・ジョウ はFSの基礎点が全選手中最も高い予定であることを本ブログで紹介したが,予想した構成どおり 4Lz に2回挑戦し,冒頭の 4Lz+3T を綺麗に成功,演技時間後半冒頭の単独 4Lz も良いジャンプだったが回転不足と判定された。結果として,基礎点合計トップは4回転ジャンプを6本入れた ネイサン・チェン に譲ったものの,4回転4種類5本を着氷し技術点だけで 110 点以上を稼いだ。今シーズンがシニアデビューであり,まだジャンプだけという印象の選手ではあるが,この若さで五輪で6位入賞を果たしたことは貴重な経験だ。今後トップレベルに到達するのを楽しみにしたい。

 ミハイル・コリヤダ は,団体戦のSPでまさかの8位に終わり,ロシアの団体戦が目標の金メダルではなく銀メダルに終わる主因となってしまった。さらにFSにも動員されたため,個人戦には強い疲労を抱えて臨まざるを得なかった。団体戦と個人戦の4回の演技全てに組み込んだ 4Lz は結局一度も成功せず,他のジャンプにもミスが出て,ベストな演技はできなかった。団体戦SPのショックから立ち直れないまま個人戦も終わってしまった印象で,8位に入賞したものの本当の実力はこんなものではない。今後,今回の五輪の苦い経験をどう強さに変えていくか,注目していきたい。

 最終グループ。SP上位4選手で最初に登場したのは,SP4位の ボーヤン・ジン(金博洋,中国)。大舞台に強く,直近の2年連続で世界選手権3位,1月の四大陸選手権に優勝して五輪を迎えた。その強さがSPでも発揮され,高さも幅もある 4Lz+3T を完璧に決め,自己ベストの 103 点台を記録した。ノーミスならばメダルが大きく近づくFS。演技時間前半は,3つのジャンプが完璧。後半は安定している 4T,得意な 3A へと続く流れ。これはノーミスの気配濃厚,そう思った後半冒頭の 4T でまさかの転倒。ジン の 4T 転倒は珍しく,五輪の重圧は大舞台に強い ジン にも及んだ。しかし,直後の同じ 4T をきちんと連続ジャンプにし,残りのジャンプも決めた。転倒を1回に留め,FS 194 点台,トータル 297 点台としたが,300 点には及ばず,上位3選手に重圧をかけるには至らなかった。それでも,シーズン途中にはケガで 4Lz が飛べない時期もあったことを思えば,メダルの可能性を残す演技は見事だった。

 そしていよいよ,SP上位3選手の先陣として 羽生結弦 が氷上へ。SPは,7つの要素(ジャンプ,スピン,ステップ)全ての GOE(Grade Of Execution,出来ばえ)評価が審判全員2以上という,非常に高い完成度でスコアが 111 点台に乗った。ネイサン・チェン が脱落し,FSで高いスコアを持つ 宇野昌磨 と7点差がついたことから,4Lo を回避しても大丈夫と判断したのだろう。FSは4回転2種類4本(4S,4T 2本ずつ)で臨んだ。演技前半の3本のジャンプは申し分なく,特に 4T は,全く無理のない回転からの柔らかい着氷で,完璧だった。さらに演技時間後半冒頭の 4S+3T も見事に成功。パーフェクト演技への期待感が一気に膨らんだが,次の 4T で着氷が乱れた。4T は前半が単独ジャンプだったので,ここでは連続ジャンプにする必要があったのだが,それができず減点(同種単独ジャンプ2本目は基礎点3割減)となった。

 しかし,次の 3A が 羽生 を救った。予定では 3A+2T だったが,4T に付ける予定だった連続ジャンプ +1Lo+3S をリカバーして 3A+1Lo+3S としたのだ。3A に絶対の自信を持つ 羽生 だからこそできるリカバープランを遂行し,ミスを最小限に食い止めた。そして,4ヶ月ぶりの実戦で心配された,FSを通し切る力が問われる最後の 3Lz では,かろうじて転倒は免れたものの着氷が大きく乱れた。羽生は 4Lz の練習でケガをしており,ルッツジャンプの不安がここで出てしまった。3A で +1Lo+3S をリカバーしたことで残っていた連続ジャンプ +2T を付けることもできなかった。

 それでも,演技を終えた 羽生 は,満足感に包まれていたようだった。「勝ったー!」(本人談)と叫び,右足や氷に手を当て,感謝の言葉を発した。着氷の乱れが2回あり,単独 4T の重複による減点と,+2T が付けられないミスはあったが,転倒しそうなところをこらえ,氷に手を付くこともなかった。FS 206 点台,トータル 317 点台は 羽生 の自己ベストより10点以上低いが,ソチ五輪よりははるかに良い内容で,しかもケガ明け久々の実戦であることを考えれば,十分に納得できる演技とスコアだった。

 これで,残る2人が金メダルに必要なFSのスコアは,ハビエル・フェルナンデス(スペイン)は 210 点台,宇野昌磨 は 213 点台となった。共に不可能ではないものの,今シーズンの調子を考えるとかなりハードルが高いスコアである。続いて登場した フェルナンデス は,普段より躍動感が抑え気味に見えたが,完璧な 4T から始まり,次の 4S でわずかに着氷が乱れ +3T を予定していた連続ジャンプが +2T になっても,次の 3A に +3T を付けてリカバーに成功し,金メダルが微笑みかけた。だが演技時間後半冒頭,4S の予定が2回転になり,金メダルがすり抜けていった。しかしミスはこれだけで,ジャンプの着氷の乱れもなく,プログラム全体の完成度は素晴らしかった。ジャンプの難度が4回転2種類3本と低めで,しかもそのうち1本が抜けてしまったので,FSのスコアが200点に届かずトータル 305 点台だったが,今シーズンベストスコアを出し フェルナンデス のメダルが確定した。今シーズンはやや低調で,メダル獲得が危うい状況だったことを思えば,ピーキングに長けた フェルナンデス の実力が発揮された結果だった。

 この時点で,日本選手の金メダルは決まった。それが 羽生 なのか 宇野 なのか。最終滑走の 宇野昌磨 は,他の選手の演技を全て観ていて,完璧な演技なら金メダルを獲れると思いながら演技に臨んだそうだ。冒頭の 4Lo は成否相半ばするジャンプ,これを決めて波に乗りたかったが,あえなく転倒。この時点で金メダルはほぼなくなり,宇野 は「笑えてきた」(本人談)。冒頭から転ぶなんてという苦笑いなのか,リラックスするための自己防衛反応なのか,いずれにせよ,この先ミスすればメダルも危なくなる状況で,笑みをたたえられる精神力は尋常ではない。ここから 宇野 の真骨頂である切り替えと粘り強さがいかんなく発揮されていく。

 転倒直後,世界で初めて 宇野 が成功させた,自身の代名詞ジャンプ 4F をきっちり決めて持ち直す。演技時間後半の 3A → 4T 2本 → 連続ジャンプ2回 という流れは,華麗だが難度が極めて高く,しかも最後の2回の連続ジャンプは失敗するとリカバーできない,緊張感の高い構成だ。2本の 4T。1本目は着氷が乱れたものの強引に +2T の連続ジャンプを付けた。これで2本目は単独ジャンプでよくなり,これを綺麗に決めた。続く 3A+1Lo+3F は,ほとんどの選手が3番目を 3S にするところ,フリップジャンプに絶対の自信を持つ 宇野 が 3S に替えて 3F を付ける3連続ジャンプ。そして最後に 3S+3T という +3T の連続ジャンプ。高難度の連続ジャンプを最後に2つ並べ,それらを見事に決めたことで,会場の盛り上がりは最高潮に達する。冒頭の転倒を忘れさせる安定した演技で,最終滑走を締め括った。

 FSの内容では 宇野 が フェルナンデス を上回ったことは確実。あとはSPの点数差 3.41 以上の差を付けられたか? スコア発表。FS 202 点台,トータル 306 点台。宇野 がフェルナンデス を上回った! この瞬間,羽生結弦 の五輪2連覇,羽生結弦 & 宇野昌磨 による日本勢1&2フィニッシュが現実となった

 全てが決まり,羽生結弦 は両手で顔を覆い,万感の涙を流した。同門生の フェルナンデス も銅メダルを獲得し,お互いの健闘を称え合うと,羽生 はまた涙。2人の万感の思いに接しても,実感が湧かずたたずむ 宇野。3選手の姿は,平昌五輪に全てを注ぎ込み,戦い終えた充実感に満ちていた。 (選手敬称略)

羽生結弦,宇野昌磨 歴史的大偉業成す

 羽生結弦 選手の五輪2連覇宇野昌磨 選手の銀メダル,そして両選手による日本勢1&2フィニッシュ。選手,関係者の皆さん,応援した方々にとって,最上の結果になったと思います。私も,両選手のファン,そしてフィギュアスケートを少しだけ詳しく観てきた1人として,今日ほど嬉しい日はありません。

 私は,昨シーズンの世界選手権が終わった時点で,平昌五輪の1&2フィニッシュの可能性が高いことを予想しました(←本ブログ記事参照)。今シーズンが始まり,しばらくはその確信が続いていましたが,羽生 選手のケガによりその確信が大きく揺らぎました。羽生 選手は,グランプリファイナルも全日本選手権も欠場し,ケガの回復に関して不透明な状況が続きました。宇野 選手はシーズン序盤の2戦で300点超えを記録した後,平昌五輪前までの4戦は300点を超えられず,波に乗り切れない時期が続きました。そんな2人の状況から,1&2フィニッシュなど夢物語に過ぎないのか,という思いを抱くこともありました。ブログでは「羽生 選手は逆境に強い」「宇野 選手はピーキング能力が高い」と,1&2フィニッシュを信じる理由を書き記してきましたが,半ば精神論にすがっていたように思います。

 1&2フィニッシュが現実のものとなり,こんな劇的なシーンを目撃できるだけでも素晴らしいことですが,約1年もの間1&2フィニッシュの実現を信じ,ささやかながらそれを発信・共有し,ついに成就された喜びは,今までのスポーツ観戦の中で最高に気分が良い瞬間です。

 それにしても,この2人の実行力と精神力には,改めて驚嘆させられました。羽生結弦 選手が平昌五輪に全てを賭けることができたのは,五輪前後の環境の激変に身を置き,五輪がもたらす功罪の全てに向き合ってきたことで,2連覇が何をもたらすのかを誰よりも深く理解していたからだと思います。ですから,日本スポーツの歴史上でも十指に入るほどの期待や重圧を背負い,それを全て跳ね返し2連覇を果たした 羽生 選手に対しては,称賛の言葉を送りたくても相応しい言葉が見つかりません。ただただ「すごい」という感情が,私の心を埋め尽くしています。

 宇野昌磨 選手は,銀メダルを首にかけての放送局行脚の場で「羽生 選手が重圧を背負ってくれたから自分は楽だった」という趣旨の発言をしていました。まぁ,確かに国内2番手だしなぁ…ってそんなはずないです。羽生 選手にかかる期待の大きさを間近で感じ取り,しかしその 羽生 選手のケガによって 宇野 選手にもさらなる期待の目が向けられ,自身も世界ランク2位で金メダルさえ狙える実力を有する,そんな状況が「楽」なわけがありません。五輪も1つの試合として捉えるという 宇野 選手の思考は,言うは易しですが,競技ごとの世界大会とは別次元の華やかな五輪の場では,よほど強靭な精神力がなければそれを貫くことはできません。

 五輪を強く意識した 羽生結弦 と,五輪の意識を封じ込んだ 宇野昌磨。対照的に見える2人ですが,とてつもない精神力によって自分を保ち,スポーツ選手の最高栄誉の場において自身の実行力を十分に発揮したという点では,完全に共通しています。テレビに映る2人のメダリストから同じオーラを感じるのは,そんな共通のミッションを達成したからかもしれない。そんなことを感じながら,1&2フィニッシュの偉業を改めて実感しているところです。

figureSkateMenMedalistPyeongchang2018

平昌五輪 男子シングル SP終えFS展望

 今晩,SP(Short Program,ショートプログラム)の録画映像を観ました。明日も第1グループからしっかり観戦したいので,手短に。

 SPは,ネイサン・チェン 選手(米)を除く有力4選手は,ほぼ今シーズンの実力どおりの順位となりました。宇野昌磨 選手はもう少しスコアを伸ばしたかったところだとは思いますが,団体戦より良いスコアだったことを前向きに捉えたいです。

 羽生結弦 選手は,FS(Free Skating,フリースケーティング)の予定構成では4回転3種類5本(4Lo,4S×2,4T×2)となっているようですが,これは陽動作戦だと思われます。もはや陽動の相手である チェン 選手と点差がつきましたので,5本入れる必要は全くなく,4回転を4本に留めて 3A を2本飛ぶのが得策。変に4回転5本にこだわると,思わぬ落とし穴が待っていると私は思います。SPが良くてもFSが案外良くないのが最近の 羽生 選手の傾向。ケガ明けのFSはそんなに甘くないと思っておいた方がいいです。

 宇野昌磨 選手は,羽生 選手と7点差なので,予定どおりの構成だと 羽生 選手のミス待ちとなります。ミスの差が大ミス1個または小ミス2個なら 宇野 選手の金メダルもあります。ただ,羽生 選手がノーミスだと滑走前から逆転の目がほぼなくなるので,その場合に銀メダルで良しとするのか,牙をむいて 4S 追加の秘策を繰り出すのか,後者の可能性はかなり少ないとは思いますが注目点ではあります。団体戦出場の疲労がFSの後半に影響してくると思うので,後半の2本の 4T,そして最後の 3S+3T の出来が,メダルの色を変えることになると思います。

 ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)にはベストの演技を期待したいですが,羽生 選手の直後の滑走なので,羽生 選手が良い演技なら会場の熱気が,そうでもなければ微妙な空気が会場を支配し,どちらにしてもタフな状況です。もし ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)がパーフェクトだと,フェルナンデス 選手にもパーフェクトに近い演技が必要になりますが,今シーズンのFSの出来を考えるとかなり難しいミッションになるでしょう。

 この試合展開だと,大舞台に強い ボーヤン・ジン 選手が輝きを放つ可能性大。そして,ネイサン・チェン 選手には,ソチ五輪の 浅田真央 選手のような,地獄からの生還を魅せてほしい。

 私が思うFSの勝負の鍵は,4T3A,そして最後のジャンプ

 さぁ,歴史的瞬間を見届けよう。

平昌五輪 男子シングル プレビュー

 羽生結弦 選手の2連覇と,宇野昌磨 選手との1&2フィニッシュに大いなる期待がかかる平昌五輪のフィギュアスケート男子シングル。有力選手の見どころや勝負における注目点を見ていきます。ジャンプ構成にも言及しますので,各選手のジャンプ構成をチェックしたい方は,本ブログ記事「男子シングル ジャンプ戦略比較」をご参照ください。

 以下,有力選手ごとに見ていきます。金メダルを獲る可能性が高いと私が思っている順です。

《凡例》 ◎:好材料 ▲:不安材料

羽生結弦 選手

 練習映像を見る限り,スケーティングは普通にできそうですね。SP(Short Program,ショートプログラム),FS(Free Skating,フリースケーティング),トータルの3つ全てで史上最高スコアを持っていますので,普通に演技ができれば金メダル候補筆頭なのは間違いありません。ただ,羽生 選手は今までに,シーズン中に4ヶ月の実戦ブランクを経験したことがありません。試合になると練習と全く別のアドレナリンが出るタイプのように思えるので,久々の試合かつ五輪ということでアドレナリンが出過ぎると,身体とのバランスを欠く恐れはあります。

 ジャンプ構成は,FSに4Lo を入れられるかどうかが注目点です。4Lo が入らないと,4回転ジャンプを4本(4S,4T 各2本)入れても案外スコアが低くなってしまいます(詳細は本ブログ記事「羽生結弦,ネイサン・チェン のジャンプどうなる?」へ)。前日練習で 4Lo を飛んでいましたので,おそらく入れる構成になると思います。

◎ プログラムが史上最高スコアの再演
◎ 昨年の四大陸選手権で今回のリンクを経験
◎ シーズンや団体戦の疲労蓄積が少ない
◎ SPは1番滑走(6分間練習直後)
五輪2連覇のモチベーション
◎ ソチ五輪ではFSで崩れたので,SPとFS両方ノーミスでこそ真の金メダルという意識
逆境を跳ね返してきた経験と強靭過ぎるメンタル
▲ 想像以上のメディアの狂騒
プログラムをまとめ上げるための持久力がどれほど戻ってきているか (町田樹 氏談)
▲ FSで 4Lo を入れられないと,点数的には他選手と接戦になる

宇野昌磨 選手

 現時点の不安材料が最も少ないですね。主要大会で優勝していないことを問題視する意見もありますが,羽生 選手が出場しない大会では気持ちが乗らなかったと見るべきで,ここ一番の集中力は昨年の世界選手権で実証済み。団体戦SPで他選手の相次ぐ転倒を引きずらなかったのは,宇野 選手特有の「鈍感力」の賜物と思います。羽生 選手が引き連れるメディアを見た他選手は動揺する可能性がありますが,宇野 選手にとっては慣れたものですし,鈍感力で気に留めないので,羽生 選手をめぐる狂騒は 宇野 選手の味方になる可能性さえあります。

 ジャンプ構成は,4S を諦め,演技時間前半に 4F,4Lo,後半に 4T,3A 2本ずつという確度の高い構成になりそうです。個人的には,4F を後半の最初に置いた方がプログラムが盛り上がるとは思いますが,状況次第ではこのような変更もあるかも。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
今シーズンの平均スコアはトップ
団体戦SPで100点超え
◎ 4F の安定感 (団体戦で転倒を免れたのも安定感のうち)
◎ 羽生 選手との久々の対戦でモチベーションアップ
▲ ステップがなかなかレベル4を取れない
▲ 団体戦の疲労 (他の団体戦出場選手よりは少ないか)
接戦を勝ち切る力があるか (無用な小ミスが出がち)
▲ 朝が苦手 (団体戦はたまたま乗り切れたのかも)

ハビエル・フェルナンデス 選手 (スペイン)

 もったいないミスで4位に終わったソチ五輪から4年。今までに世界選手権を2連覇し,五輪メダルを射程圏内にしています。しかし,昨年の世界選手権で3連覇と表彰台を逃して以降,今シーズンはくすぶり続けていて,未だに300点超えがありません。完璧な演技をして,ライバルのミスを待つ展開です。

 ジャンプ構成は,安定の4回転2種類3本。安定した 4S は フェルナンデス 選手が最も早く確立しましたが,演技時間後半の 4S が今シーズン安定していないので,これが入ると高得点が期待できます。また,3A もやや不安定なので,2本ある 3A の出来も注目点です。

◎ 今シーズン不調だったが徐々に取り戻している
◎ 団体戦に出場していない
◎ 4年間の五輪メダルへの渇望感
◎ 世界選手権2連覇のプライド
▲ 今シーズンFSで一度も完璧な演技ができていない
▲ 今回の会場が初経験
▲ 大舞台にやや弱い印象 (世界選手権は 羽生 選手のミスのおかげ)

ネイサン・チェン 選手 (米)

 団体戦SPの大過失をどう見るかですが,いくら団体戦と個人戦が別物とはいえ,あれだけのミスがあると個人戦への影響がないはずはありません。完璧に演技ができればよいのですが,演技の序盤でミスが出ると,団体戦の再現になってしまうのではないかという恐怖と戦わなければならず,そうなると要素をこなすことで精一杯になり,出来ばえ点や演技構成点が伸びない恐れがあります。わりと繊細な性格なのかなという印象もあり,注目度が高くメディア取材が非常に多い状況に耐えられるのかも気になります。

 ジャンプ構成をどうするかは,SPの出来や,羽生 選手の出方などを勘案して決めると思いますが,4回転5本にせよ6本にせよ,4Lz の扱いが注目点になります。4Lz が2本入ると,好調な証と言えると思います。

◎ 今回の会場で開催された昨年の四大陸選手権で優勝
◎ 今シーズン全勝の安定感 (特にSPは安定)
◎ 団体戦銅メダル獲得の安堵感
◎ 昨年,世界選手権で失速した経験から,ピーキングを強く意識
▲ 団体戦の疲労と嫌なイメージ
▲ 今シーズン,ジャンプ構成を固めなかった
▲ 出来ばえ点がなかなか伸びない
▲ 苦手な 3A の出来

ボーヤン・ジン 選手 (金博洋,中国)

 ケガもありシーズン序盤は精彩を欠いていましたが,先日の四大陸選手権で良い演技を魅せ,仕上げてきました。世界選手権は2年連続3位と,大舞台の強さは一級品。五輪メダルへの重圧が他の選手より小さいのも不気味。金メダルはなかなか難しいと思いますが,銀や銅なら案外可能性があると思います。

 助走が少なく美しい 4Lz は安定感抜群で,これが計算できるのも大きな武器。4T も 3A も安定していて,苦手なジャンプがないのも強み。全体が完璧なら演技構成点も伸びる可能性があるので,トータル310点くらいまで狙えます。もっと高得点を狙って 4Lz をFSに2本入れたら面白いと思いますが…。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
◎ 直前の四大陸選手権で優勝
◎ 4Lz,4T,3A 等ジャンプの安定感
◎ 大舞台での強さ
◎ メダル獲れなくて当然という気楽な立場
▲ 出来ばえ点と演技構成点が両方伸びないとメダル圏内に入れない

◆ 他の注目選手

 パトリック・チャン 選手(カナダ)や,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)もメダルを獲れる力を持っていますが,2選手とも,団体戦でSPとFSの両方に出場しましたので,体力面ではかなり不利です。メダリストは,上に挙げた5選手から決まると考えていいと思います。

 田中刑事 選手は8位入賞が現実的な目標になるでしょう。ほかには,FSで200点超えもありうる ヴィンセント・ジョウ 選手(米),かつての名選手 ランビエール コーチの愛弟子 デニス・ヴァシリエフス 選手(ラトビア),アジアから出場する,マイケル・クリスチャン・マルティネス 選手(フィリピン)と ジュリアン・イー・ジージエ 選手(マレーシア)に注目しています。

◆スコア比較とメダルの行方

 どのくらいのスコアが獲れそうかを知っておくと,観戦を楽しめると思いますので,有力選手のトータルスコア(SPとFSの合計点)を予想してみます。

《凡例》
*:可能性あり ◎:自己ベスト ★:今シーズンベスト

スコア羽生宇野フェチェ
330~
325~
320~
315~◎★
310~
305~
300~◎★
295~
290~
スコア羽生宇野フェチェ
  • 羽生 選手は,330点までは難しいかもしれませんが,完璧なら325点に届く可能性は十分にあります。
  • 宇野 選手は,完璧なら324点くらいまではあると思います。
  • フェルナンデス 選手(上表「フェ」)は過去最高が314点台で,そこにどれだけ迫れるかでしょう。
  • ネイサン・チェン 選手(上表「チェ」)は,自己ベストを超えて313点くらいまでは可能でしょう。全米選手権の315点は国際大会では難しいと思います。
  • ボーヤン・ジン 選手(上表「金」)は,先日の四大陸選手権の出来を再現すれば,305点くらいまで伸びると思います。

 全員ノーミスなら,1・2位:羽生宇野,3位:フェルナンデスチェン となるでしょう。この4選手の中から300点を割る選手が2人出てくると,ジン 選手がメダルを手にするでしょう。

 羽生・宇野 両選手が310点以上なら,フェルナンデス,チェン 両選手の超絶演技がない限り1&2フィニッシュが現実になるでしょう。羽生・宇野 両選手が複数のミスをし,スコアが310点を切るところまで下がれば,5選手がどんな順位にもなりうると思います。

 さぁ,いよいよ,明日(金)SP明後日(土)FSですね。SPは時間的にリアルタイムで観られない方が多いと思います(私もです…泣)が,FSは土曜日のお昼なので,リアルタイムで観戦し,歴史的瞬間を目の当たりにしましょう!

町田樹 氏のテレビ東京出演が神解説だった件

MachidaTatsuki-Face 2/12(月) 夜8時過ぎ,たまたまテレビ東京を観ていたら,フィギュアスケーター 町田樹 氏が約30分に渡り,羽生結弦 選手の練習風景や団体戦に関して解説を行っていました。この解説が実に見事だったので,何が素晴らしかったのか私の文章力の範囲でお伝えしたいと思います。

 町田樹 氏は,2014年まで競技会現役を続け,ソチ五輪5位2014年世界選手権2位。ソチ五輪シーズンのプログラム「エデンの東」「火の鳥」は名作として多くのファンの心に刻まれており,私も大好きなプログラムです。ソチ五輪直後に日本で開催された2014年世界選手権は,それら2プログラムの集大成となり,羽生 選手との1&2フィニッシュの激闘を生み出しました。町田 氏はプログラムを「作品」と称し,コメントや解説で文学的表現がたびたび用いられることから「町田語録」なる言葉も生まれ,コアなファンが多いことで知られています。

 以下,町田 氏の解説での主なコメントを発言順に記していきます。一言一句同じではありませんが,ニュアンスは合っていると思います。

《凡例》

  • 下線(アンダーライン): 印象的な表現(町田 氏の発言をそのまま引用)
  • ⇒: 何が素晴らしいのか(私なりの分析)
  • ★: コメントを観た(聞いた)私の感想 【斜字体】

【これまでの印象を聞かれて】

早朝からの試合のため,タイムマネジメントが大変という印象

⇒ 「タイムマネジメント」という言葉に,研究者としての見識がにじむ。

★ この後の 町田 節への期待が高まりました。

【ケガ明けの 羽生 選手について】

羽生 選手の課題は,現時点で痛みがなければ技術面はすぐに戻ってくるはずです。問題は,プログラムをまとめ上げるための持久力がどれほど戻ってきているかです

⇒ 課題や観るべきポイントを,専門家ならではの視点で指摘。

★ ケガ明けとはそういうことなのか,と大いに納得

【羽生 選手の,平昌到着直後の練習で確認することを問われて】

氷の感触でしょう。今回の平昌五輪では建物の上層部が本番リンク,地下にこの練習リンクがあります。上下で,つまり本番リンクと練習リンクでは氷の質はあまり変わらないんじゃないかと推測しています。この氷の感触をつかめば上手く本番につなげられると思っていると思います

⇒ 会場の様子を具体的に描写し,練習リンクで練習することの意義を説明。

★ 会場や選手のことが具体的にわかり,競技への興味がアップ。

彼はよくイメージトレーニングをします。足の裏から得た氷の感触と,自分の脳内で想像する自分の動き統合してイメージ練習をするといったところではないでしょうか

⇒ 「足の裏」→「氷の感触」と「脳内」→「自分の動き」という対比する2つの表現が,身体の部位 → イメージの対象 という組み合わせの並列列挙。そして,これらを結び付けることを「統合」と表現。

★ 羽生 選手のイメージトレーニングがどのようなものか,ものすごく伝わってきました。言語化能力の高さに改めて脱帽

(羽生 選手の回復状況について)本人が何も言っていないのでわからないです
(練習の内容に関する踏み込んだ質問に対して)どうでしょうね? そこはわからないですね
(今後3日間の練習をどうするのか見えてくるものはあるかを問われて)今日の練習からだけでは,正直,何も判断できません

安易な断定や期待の助長をせず,ミスリードに加担しない姿勢を堅持

★ 「大丈夫です」「やってくれます」などの安易な言葉を言わないのが,むしろ好感を呼びます。

【アクセルが飛べているということは調子を取り戻しているのか?という質問に対して】

そうですね。ただし,アクセルは左足で踏み切りますので,例えばフリップやルッツは右足で強くトウを突きますから,それらのジャンプで痛みが出るか出ないかはアクセルからだけでは判断できない

⇒ ジャンプの種類の違いに触れ,ジャンプ練習が持つ意味に言及。

★ 今度から練習映像を見るときは,そういうところも見てみようと思いますね。ちょっと通になれた気分。

【団体戦男子SP(Short Program,ショートプログラム)の転倒の多さに関して】

ネイサン・チェン 選手は今シーズンSPでは大きなミスが1度もなかっただけに驚きましたよね。

⇒ 最近の演技状況を具体的に紹介しつつ,好調な選手が転倒したことを示し,その意外性を強調

今回はアメリカのテレビ放送のプライムタイムに合わせて競技を早朝から始める設定になったと聞いていますが,元選手の立場から発言させてもらえば,今回の競技スケジュールは到底受け容れられるものではない

⇒ 「到底受け容れられるものではない」という極めて強い表現で問題点を鋭く指摘。「選手は大変だ」といった評論家的な論評で済まさず,選手の立場に立って抗議

町田 氏の面目躍如。言い切る勇気に拍手喝采。アナウンサーに言葉の続きを遮られましたが,おそらく「アスリートファーストであるべき」と続けたかったんだと思います(あくまで私の推測です)。つい,提言・抗議の発言に注目が集まりがちですが,その前の「アメリカのテレビ放送のプライムタイムに合わせて」という言葉も,問題の背景を簡潔かつ正確に表現していて,しびれました。

練習は 6:30 から行われました

⇒ 具体的な時刻に言及。

★ ちょっとしたことですが「早朝から」よりも「6:30 から」と聞くと,選手の苦労が真に迫ってきますよね。

小林 強化部長からもオフィシャルのプレスリリースが出まして,選手全員,団体戦で得られた経験を糧に,個人戦に臨んでほしいという言葉もありました

⇒ フィギュアスケートの解説者が,スケート連盟の公式コメントをしっかりと伝えるシーンを,私は今まで見たことがありません。この手のコメントはアナウンサーに任せてしまいがち。公式コメントを伝えることで,それが自身の想いと合致していることや,自身の考えが偏ったものではないことが伝わります。

★ 公式コメントをきちんと伝えるという,町田 氏の解説者としての姿勢に感銘

【団体戦女子SPの 宮原知子 選手の回転不足に関する件】

物議をかもしていますが…私は昨日の女子SP全ての選手のジャンプのスロー映像を全部,慎重に,比較・検討した上で言うのですけれども,宮原さんのジャンプ,何も遜色はありません。自分の磨いてきた技術に自信をもって個人戦に突入していってほしいです

世間で盛り上がる議論から逃げずに,むしろ踏み込んだ見解を提示。しかも「何も遜色はありません」と,これまた強い表現で見事なジャンプだったことを断言。暗に,宮原 選手だけが回転不足を取られたことへの疑問を呈していますが,審判への批判ではなく,町田 氏個人の見解として述べています。

絶妙な表現で 宮原 選手を後押しし,応援者のもやもや感を晴らし,これまた拍手喝采。宮原 選手にとってとても心強いエールになったことでしょう。

宮原 選手の強さはプログラムを作品としてまとめ上げる力だと思うんですよね。たくましく自信を持って個人戦に臨んでほしい。怪我を乗り越えて,五輪の切符をつかんだ全日本選手権では,本当に,滑る喜びだとか,プログラムを演じる日本人女性としての強さみたいなものが満ち溢れていた。全日本の時の気持ちを思い起こして堂々と個人戦に臨んでいってほしい

作品の総合力を大切にする 町田 氏ならではのエール。

★ 「たくましく」「堂々と」という言葉には,気持ちを強く持つことが大事という 町田 氏の思いを感じました。

【ペアとアイスダンス】

木原選手の献身と,それに応える須崎選手の頑張り

⇒ キャッチフレーズ的にペアを組む2選手の特徴を紹介。簡潔な中に文学的香りが感じられる 町田 氏の言葉。

日本の場合はペアとアイスダンスそれぞれ1組で,団体戦のSPとFS全部を担っているので本当に体力的に厳しいです。団体戦以上に力強くカップル競技の二組を応援してほしい

団体戦の負担と,日本でのペアやアイスダンスへの注目度の低さを暗に指摘。

★ この2点は 町田 氏としても思うところが多いのではと感じた一幕。「力強く」という言葉にその思いが詰まっているように感じました。

村元(哉中)選手は,(クリス・)リード選手は傍らにいるのイメージです。(演技が進み)ここで 村元 選手の衣装が変形し満開の桜が立ち現れる。ステーショナルリフトは風に花びらが舞っているように見えませんか? このステーショナルリフトは今季世界でいちばん僕は好き(なリフト)です

⇒ 衣装が,桜色と緑色の混在から,桜色一色に変わるのですが,その様子を「桜が立ち現れる」と文学的表現で描写。「舞う様子を表現しています」ではなく「舞っているように見えませんか?」と視聴者に問いかけ

作品の世界観を語る 町田 氏は,本当に素晴らしい語り口でした。問いかけられて「なるほど~」と膝を打った方も多かったのではないでしょうか。この一連の解説にはぞくぞくしました

【村元 & リード 組の四大陸選手権メダル獲得について】

これは本当に凄いことです。アイスダンスとペアは日本に練習環境がほとんどありませんからね。両者ともに米国に渡って競技力を磨いている,ものすごい急成長しているカップルなので,ぜひ注目していただきたいと思います

⇒ 競技が抱える課題,競技者の努力に言及。単なる苦労話というトーンではなく,課題については厳しい口調

★ こういう話を聞くと,視聴者に応援心が芽生えますよね。そして,情に訴えるだけでなく,課題の解決を強く望む気持ちが表出していることも素晴らしい。

団体戦、何度も言いますように、選手たちは本当に身体に負荷がかかっています。出場した選手は、身体に疲労をかかえた状態で個人戦にこの後突入していくんですよね。ですから、ここに団体戦に出る人と出ない人の差が生まれてしまう。私は、団体戦と個人戦(の開催順序)を逆にしたらいいと思います。そうすると個人戦は元気な状態で臨めますし、団体戦に出る人たちも同じ疲労度の状態で臨めるので,イーブンの状態が作れるのかなと思うんです。団体戦に出場した選手は本当に大変な中頑張っているので,団体戦以上に個人戦を応援していただけたらと思います

⇒ 個人戦の出場を「突入」と表現。団体戦を個人戦の後に行うべきという,誰もが思っていることをきちんと提言。

団体戦を総括するコメントがとても素晴らしかったので,ここは全て発言のまま引用しました。町田 氏もソチ五輪の団体戦経験者(FS(Free Skating,フリースケーティング)出場)だからこそ,団体戦の疲労が抜けない大変さを「突入」という言葉に込めているように感じます。開催順序に関しても,これだけはっきり提言した解説者は,日本では 町田 氏が初めてではないかと思います。開催順序入れ替えのメリットを明確に示していることも見事。


 実際の解説時間は約30分,途中にあおりVTRが入っていたので実質は25分くらいだと思いますが,この短い時間の中で「注目選手の見どころ」「プログラムの素晴らしさの紹介」「選手への敬意と応援」「具体的な情報や状況の紹介」「細かすぎる解説」「課題と提言」と,ありとあらゆる角度から幅広く言及していました。かといって,意欲空回りという雰囲気は全くなく,穏やかな声のトーンで,全般的に冷静かつ温かくコメントしていました。それでいてメリハリもあり,課題には厳しい口調で,選手への応援を求める際には温かくも力強くコメントしていました。

 スポーツの解説者というより,ニュースなどに出演する学者の専門家を見ているようでした。事実,推測,見解をきちんと分離して話し,安易な断定を避ける語り口は正に学者のそれであり,専門家としての信頼感と好感度を高めていたと思います。町田 氏は研究活動もしているので,このような雰囲気になることに違和感はないのですが,スポーツ解説者がこのような雰囲気を醸し出すことは,とても新鮮に感じられました。

 そして,とりわけ出色だったのは,発せられた言葉の的確さ・美しさ・強さ。町田語録と言われるだけあり語彙は豊富ですが,競技者現役の頃は一歩間違うと,漫才師 サンドイッチマン が言うところの「ちょっと何言ってるかわかんない」になりかねない危うさを私は感じていました。しかし,今回の解説は,羽生 選手のイメージトレーニングの件や,村元 & リード 組のプログラム解説では,言葉の紡ぎ方が素晴らしかったですし,全体的に,言葉の1つ1つが逐一的確で,気持ちよく解説を聞くことができました。スポーツ解説も,言葉によってここまで印象を高めることができるんですね。何といっても,力強く喝破した「到底受け容れられるものではない」「何も遜色はありません」がハイライトでした。

 解説が終わった瞬間,テレビの前で「すごい!すごい!」と私は大絶賛。競技経験者の蓄積と,研究者としての見識が,いかんなく発揮された見事な解説に感動しました。解説に感動ってそんな大げさな…と思うかもしれませんが,Twitter(私はやってませんが…)などでも絶賛の嵐で,放送当日に五輪関連の検索急上昇ワードにもなっていたようです。フィギュアスケートの解説では,織田信成 氏の実況解説がなかなか良いなぁと思いながら観ていますが,ここまですごいと思ったのは 町田 氏が初めてです。他競技を含めると,サッカーの 中村憲剛 選手(川崎フロンターレ)によるイングランド・プレミアリーグの実況解説以来の感動でしたね。

 次の出演は 2/25(日) のテレビ東京系列だそうです。このときにはフィギュアスケートは全ての結果が出ていますので,総括としてどんなコメントを発してくれるのか,今からとても楽しみです。

羽生結弦,ネイサン・チェン のジャンプどうなる?

 フィギュアスケートのプログラムは,1年間同じ構成を熟成させていくのが普通なので,どのジャンプをどの順番で飛ぶのかはわかっていることが多いのですが,今シーズンは,五輪に向けてジャンプの難度を上げたり落としたりする選手が多く,ジャンプ構成がどうなるか予想が難しくなっています。

 宇野昌磨 選手や ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)は,本人のコメントや四大陸選手権の内容から,難度を落とすことが確定的な状況です。一方で,予想が難しいのが,ケガ明けの 羽生結弦 選手と,今シーズン,毎試合のように構成を変えてきた ネイサン・チェン 選手(米)です。この2人について,可能性が高い構成のパターンを,前回の記事に載せたジャンプ比較表の別表にまとめましたので,考察してみたいと思います。比較表を以下に再掲しておきます(クリックで拡大表示されると思います)。

FigureSkateScoreList2018Men

 羽生結弦 選手のジャンプ構成で,私が最も可能性が高いと考える構成(以下「第1パターン」)は,比較表の上表と,下表の1行目に書いた,4回転3種類4本(4Lo,4S×2,4T)です。これは,FS(Free Skating,フリースケーティング)史上最高得点を記録した2017年世界選手権と同じ構成です。この時の最高の演技を再現すれば勝てると 羽生 陣営が考えているのではないか,というのが予想の根拠です。4Lo は入れないという世間の予想もありますが,SP(Short Program,ショートプログラム)では 4Lo を回避しても,FSでは入れてくると私は思います。

 4Lo を回避するならば,比較表の下表2行目の構成(以下「第2パターン」)になると思います。4回転は2種類4本です。2種類3本でも戦えるとは思いますが,基礎点がかなり落ちることと,本人のプライドを考えると,4回転4本は譲らないと思います。この第2パターンは,個人的には避けてほしいと思う構成ですね。なぜかと言うと,4回転が同じ本数なのに,基礎点が第1パターンより5点ほど下がってしまい,さらに 3A が1本しか飛べないからです。

 4回転の本数が変わらないのに,4Lo を回避しただけで5点も下がることを不思議に思う方もいると思います。表を見ていただくとわかるように,第1パターンから第2パターンへの変更点は,4Lo → 4T と 3A → 3Lo です。4S と 4T を2本ずつにすると,前回の記事でも紹介した「3回転以上の同じジャンプ2本入れられるのは2種類まで」というルールにより,3A が1本しか飛べなくなるので,3A を1本減らして 3Lo に変えざるを得ないのです。3A → 3Lo によって基礎点が3点以上減ってしまうのが地味に痛いです。

 そして,3A は 羽生 選手が世界一美しく飛べるジャンプであり,成功すれば高い出来ばえ点が得られるジャンプなので,これが1本しか飛べないのはもったいないです。3A は2本入れるべきであり,第2パターンはそれができないので,個人的に避けてほしいと思っているわけです。

 オーサー コーチが「4回転5本もあるかも」と発言していたので,4Lz なしで4回転5本のジャンプ構成を考えてみたのが比較表の下表3行目(以下「第3パターン」)ですが,これは絶対に避けてほしい構成と力説したいです。4回転ジャンプを第1パターンより1本増やしたのに,基礎点は第1パターンより2点しか増えません。第1パターンから第3パターンへの変更点は 3A → 4T ですが,得意な 3A を減らして5本目の4回転を入れるというのは,ハイリスク・ローリターンでメリットが少なすぎます。

 上述のようなスコア戦略は私でもわかるのですから,羽生 陣営は当然理解していると思います。「4回転5本かも」という オーサー コーチの発言は,ネイサン・チェン 陣営に「4回転を6本入れないとダメかな」と考えさせる陽動作戦だと思いたいです。私の意見は,4Lo が入れられるなら4回転3種類4本(第1パターン),4Lo が難しいなら第1パターンから 4Lo → 3Lo に落とす構成が良いと思います。後者は4回転が2種類3本で,トータル330点の史上最高得点を出した2015年グランプリファイナルの構成と同じものです。第1パターンより基礎点が7点ほど低いので他選手と接戦にはなると思いますが,十分に勝算のあるジャンプ構成です。もし 4Lo が不調ならば,4回転の本数や難度の高さなどの「名」は捨てて,五輪2連覇の偉業という「実」を獲ってほしいですね。

 続いて,ネイサン・チェン 選手のジャンプ構成を考えてみます。私が最も可能性が高いと考える構成が,比較表の上表と,下表4行目(以下「第1パターン」)に示したもので,ほとんど実戦に入れていない 4Lo を除く,4回転4種類5本です。第1パターンだと,比較表の上表からわかるように 羽生 選手や 宇野昌磨 選手との基礎点の差は約8点ですが,この差では出来ばえ点や演技構成点を加えると 羽生・宇野 両選手に勝てません。しかし,チェン 選手のミスが両選手より1つ少なければ,勝てる可能性は大いにあります。本当はもっと基礎点を上げたいのですが,後述するようになかなか難しく,この第1パターンはかなり現実的な選択肢だと思います。

 第1パターンには大きな弱点があります。チェン 選手は 3A が苦手なのですが,第1パターンでは 3A を2本飛ぶことになります。できれば 3A は1本で済ませたいのが チェン 選手の本音でしょう。そこで,4回転の本数を変えずに 3A を減らしたのが,比較表の下表5行目(以下「第2パターン」)です。第1パターンからの変更点は,4S → 4Lz と 3A → 3F で,2本入れるジャンプを 3A から 4Lz に変え,成功確率の低い 4S を削ります。4Lz 2本は負荷が高いですが,今シーズン実戦でも試しており,基礎点も高くなるので,第2パターンが採用される可能性は大いにあります。

 4Lz を2本にすると,前回の記事でも紹介した「2本のうち少なくとも1本は連続ジャンプにしなければならない」というルールにより,4Lz の連続ジャンプが必要になります。そこで第2パターンは,4Lz+3T の連続ジャンプと 4Lz の単独ジャンプを両方とも前半に飛ぶ想定にしています。これで 3A を1本にすることはできるのですが,第1パターンより基礎点がわずかですが減ってしまいます。4Lz を2本入れているのに基礎点が下がるとあっては,この構成は採用しづらいと思います。2本入れるジャンプの種類を 4Lz ではなく 4F にする選択もありますが,成功確率は上がる代わりに基礎点がさらに1点以上減りますので,4回転3種類5本であれば,4Lz を2本入れる選択になると思います。

 結局,チェン 選手がもっと基礎点を上げようとすると,4回転の本数を増やして6本にするしかありません。6本にした構成が比較表の下表6行目(以下「第3パターン」)です。基礎点を上げるなら 4Lz を2本にすべきですが,6本もの4回転ジャンプを飛ぶとなると成功確率が重要なので,4F を2本にすると予想しました。そのうち1本を後半に入れたのは,4S を後半にするよりも少しでも基礎点を上げられて,4F でも単独ジャンプなら後半の成功確率も高く,第1パターンからの変更点が少ない(3A を 4F に変えるだけでよい)ので,合理的な戦略として考えました。しかし,4回転6本は チェン 選手でさえも実戦で一度も成功したことがない,超ハイリスクな戦略です。ライバルたちが4回転4本で完成度重視の戦略を採ることが濃厚な中,無理して6本入れる戦略が功を奏するかどうかは,個人的には疑問を感じます。よって,第3パターンを採用する可能性は極めて低いと私は予想します。

 ネイサン・チェン 選手のジャンプ構成のベースは第1パターンの4回転4種類5本で,スコアの状況,当日のコンディション,失敗のリカバーの必要性等に応じて,その場で後半の 3A を 4F(4Lz,4S もOK)に変更する,というのが一番手強いプランかなと思います。この場合の注目点は,成功確率が高くない 4S の成否,苦手な 3A の出来ばえ,そして後半に飛ぶ2本の 4T の出来ばえといったあたりだと思います。

 ここでは,ジャンプ構成を考察してきましたが,羽生結弦 選手はケガ明け4ヶ月ぶりの実戦ネイサン・チェン 選手は団体戦失敗からの切り替えという,より基本的な課題を抱えています。これらの課題がジャンプ構成の決断を悩ませるとは思いますが,ぜひ最適なジャンプ構成を選択・遂行し,素晴らしい演技を魅せてほしいと願っています。

男子シングル ジャンプ戦略比較

 フィギュアスケート男子シングルの勝敗は,ジャンプの難易度とその成否が大きなウェイトを占めます。フィギュアスケートはジャンプだけで成り立つものではありませんが,現在の採点はジャンプが大きな比重を占めており,その事実から目を背けることはできません。そこで,各選手がどのジャンプを飛ぶのかをあらかじめ知っておけば,観戦や順位予想をより楽しむことができると思います。

 SP(Short Program,ショートプログラム)はスコアの差がさほどつかないので,FS(Free Skating,フリースケーティング)に注目します。有力選手間で比較できるように,表にまとめてみました。下記画像をクリックすると,表が拡大表示されると思います。

FigureSkateScoreList2018Men

 以下の説明では,スコアの計算方法が既知であることを前提とし,記号や用語を多用いたしますので,そのあたりを把握したい方は,本ブログ記事「フィギュアスケートのスコアはどのように決まる?」をご参照ください。

 この表の見方を,羽生結弦 選手を例に説明いたします。

 表内の1や2の数字は,どのジャンプを何本飛ぶかを示します。上段(白い行)が演技時間前半に,下段(水色の行)が演技時間後半に飛ぶことを表します。3連続ジャンプは1回しか飛ばないので,飛ぶジャンプに★印を付けています。

 「4回転」「3回転(トリプル)」「2回転」の列は,メインジャンプ(単独ジャンプと,連続ジャンプの1本目)を表します。男子のFSは8回のジャンプを入れますので,メインジャンプが8本あります。羽生 選手のメインジャンプは,演技時間前半に 4Lo, 4S, 3F を,演技時間後半に 4S, 4T, 3A(2本), 3Lo を入れていることがわかります。また,2連続ジャンプの2本目は +3T と +2T を両方後半に入れ,3連続ジャンプは +1Lo+3S を後半に入れていることがわかります。

 羽生 選手のジャンプの基礎点87.53 点で,その中で後半のジャンプの点数は元の基礎点が 1.1 倍されて 59.73 点 となります。これは全てのジャンプが成功した場合の点数で,回転不足やエッジ違反等があるとここから減点されます。羽生 選手の後半の点数の割合は,59.73 / 87.53 = 68.2% で,これは有力選手の中で最も高い割合です。羽生 選手はジャンプや体力に自信があるので,後半に難易度の高いジャンプを多く組み込んで 1.1 倍の恩恵を最大限に生かそうとしているのです。羽生 選手は,4回転2本,3A 2本を後半に入れ,連続ジャンプは3回とも後半に入れています。

 ジャンプの点数だけだと数字の善し悪しがわかりづらいと思うので,スピン,ステップ,コレオも加えた全要素の基礎点がどのくらいになるのかも記載しています。右端の基礎点合計は,スピンとステップが全てレベル4の場合の点数で,羽生 選手の基礎点合計103.43 点です。これに出来ばえ点が加算されたものが技術点となり,さらに演技構成点が加わってトータルスコアとなります。2017年の世界選手権で 羽生 選手が記録したFSの史上最高得点は,下記のようになります(点数はいずれも小数点以下省略)。

 基礎点 103 点 + 出来ばえ点 23 点 (= 技術点 126 点)
  + 演技構成点 97 点 = 223 点

 なお,この表は私の予想で記載しています。羽生 選手はおそらく,上述した史上最高得点のときと同じ構成で臨むと私は予想していますが,先日,オーサー コーチが「4Lo を入れるかどうか悩み中」という趣旨の発言をしていたので,私の予想が外れる可能性があります。そこで,考えられそうなジャンプの種類を何パターンか考えて,表を分けて記載しました。これについては次回のブログで考えてみます

 この表は,基礎点の高い順に並べています。羽生 選手の基礎点が一番高いわけではなく,上に4選手もいることに驚く方もいると思います。羽生 選手はジャンプの質が極めて高く,またプログラム全体の完成度も非常に高いので,出来ばえ点や演技構成点が他の選手より5~20点ほど上積みできます。逆の見方をすると,他の選手は 羽生 選手にそれだけ引き離されてしまうので,基礎点を上げて対抗しているのです。

 ですが,そこに安住しない 羽生 選手は,今シーズン当初,さらに 4Lz を加える予定でした。3Lz が 4Lz に差し替わると7点高くなりますので,4Lz が加われば基礎点でも ネイサン・チェン 選手(米)並みの点数になったわけです。実際には 4Lz の練習でケガをしましたので,平昌五輪では 4Lz は入れない構成になるでしょう。

 他の選手を見ていきましょう。宇野昌磨ボーヤン・ジン(金博洋,中国)の両選手は,羽生 選手を上回ってはいるもののほとんど差がありません。上回っている理由は 宇野 選手が 4F,ジン 選手が 4Lz という高難度ジャンプを持っているからです。今シーズン当初,宇野 選手は 4S を,ジン 選手は 4Lo を加えていたので,それならあと5~7点ほど基礎点が高くなったのですが,自身のジャンプの完成度や,ケガ明けの 羽生 選手がジャンプ難度を落とすであろう点を勘案して,宇野 選手も ジン 選手もそれらのジャンプを諦め,羽生 選手と同じ4回転3種類4本に落ち着きそうです。4回転ジャンプの本数が同じなら,スコアに大きな差はつきません。

 ネイサン・チェン 選手も,平昌五輪本番のジャンプ構成の予想が難しいのですが,最も可能性があるのは4回転4種類5本ではないかと予想します。1月の全米選手権では 4Lz を飛ばず,9(金)の団体戦SPでも 4F を使いましたが,チェン 選手が勝つためには,他の選手より多い4種類5本は絶対条件であり,そのために 4Lz を入れざるを得ないと思います。ただ,チェン 選手はいろいろなジャンプ構成が考えられるので,その戦略については次回のブログで考えてみます

 上述の4選手よりも基礎点が高いのは,今シーズン,シニアデビューで五輪出場を果たす ヴィンセント・ジョウ 選手(米)です。ジョウ 選手も4回転4種類5本ですが,4Lz2本飛び,しかも1本は後半に入れています。また,3連続ジャンプに(+1Lo+3S の亜種である)+1Lo+3F を使うことにより,点数を約1点引き上げています。このジャンプは F(フリップジャンプ)が得意な 宇野 選手も採用していますが,難度が高く,有力選手ではこの2人しか飛んでいません。ジョウ 選手は4回転ジャンプの成功率が高くなく,回転不足も多いことから,メダル争いの候補とは見られていませんが,全部のジャンプが揃えばFS 200 点も達成可能なプログラムであり,ダークホースになる可能性もあります。4Lz を2本飛ぶだけあって,4Lz の美しさは ボーヤン・ジン 選手に比肩するものを持っていますので,そこも見どころです。

 全体の傾向を見てみましょう。全選手が 3A を2本入れています。アクセルジャンプ必須というルールがあるので,トップクラスの男子なら 3A を入れるのは当然なのですが,2本入れるのもまたルールの制約によるものです。FSでは「3回転以上の同じジャンプ2本入れられるのは2種類まで」で,その同じジャンプに関して「2本のうち少なくとも1本連続ジャンプにしなければならない」というルールがあります。この2種類を両方4回転にしたいところですが,このルールのハードルはかなり高いです。よって,2本飛ぶ4回転ジャンプは1種類になり,もう1種類は(点数を高めるため)必然的に 3A になるのです。

 アクセルジャンプは他のジャンプより難しく苦手だったり不安定だったりする選手がけっこういるので,2本飛ぶ 3A は,実は4回転と同じくらい鍵を握るジャンプです。4回転を複数本飛ぶのもなかなか大変なのに,3A にも気を遣わなければならないとすれば,ミスの確率は高まってしまいます。羽生,宇野,ボーヤン・ジン の各選手は 3A を得意としていますが,ネイサン・チェン 選手は苦手,フェルナンデス 選手はやや不安定です。4回転に加え,3A の成否にも注目してみましょう。

 前半/後半のジャンプの配分は,戦略の練りどころです。本数を3回/5回に配分するのはほぼ共通していますが,種類の配分は選手により特徴が出ます。羽生宇野 両選手は,

  • 4回転: 前半に2本入れつつ後半にも2本残す
  • 3A: 2本とも後半
  • 連続ジャンプ: 全て後半

という,似た特徴を持っています。これは後半に難しいジャンプを多く入れることで,スコアを高めプログラムの盛り上がりを持ってくる戦略であり,4S,4T,3A の安定感があってこそ可能な戦略です。一方,ボーヤン・ジン 選手は 3A+1Lo+3S という3連続ジャンプを前半に置き,難度の高いジャンプを先に飛ぶというオーソドックスな戦略を採っています。この戦略は失敗に対するリスク対策にもなっており,前半の連続ジャンプに失敗しても,後半のジャンプのどれかを連続ジャンプに変更すればリカバーすることができます。逆に,羽生・宇野 両選手のような後半に重きを置く戦略は,成功したときのスコアが高い反面,失敗するとリカバーが難しいためスコアが思いのほか下がるというリスクがあります。

 連続ジャンプの種類はほぼ同じですね。2連続ジャンプの2本目は +3T と +2T,3連続ジャンプは +1Lo+3S 系が主流です。スコア戦略やルール上の制約から,男子はこのパターンに落ち着きます。ネイサン・チェン 選手は,今シーズン当初は +2T+2Lo を使っていましたが,途中から +1Lo+3S に変えました。スコアを少しでも高めたいからだと思います。

 こうやって選手のジャンプを比較すると,各選手の得意・不得意や,戦略が見えてきます。各選手がなぜこのジャンプ構成なのか?といったあたりも,男子シングルが始まる 16(金) までにブログで分析してみようと思っています。

羽生結弦,宇野昌磨 の軌跡を振り返る

 平昌五輪を観戦する際に,今までの軌跡を改めて振り返ることで,選手たちのドラマに思いを馳せたいと思います。今までの本ブログの記事の中から私が選んだものへのリンクを張っておきますので,これらをお読みいただいて,より強く応援してもらえたらと思います。

 以下,記事名が記事本文へのリンク,その下の斜字体はブログ記事の一部引用です。

◆ 羽生結弦 選手

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世界選手権で3年ぶり2回目の優勝を飾った 羽生結弦 選手。 (中略) 勝ち方や他の選手の内容を考えると,ケガや極度のスランプさえなければ,五輪連覇確実と私は今から断言したいと思います。

◆ 宇野昌磨 選手

◎ 宇野 選手に言及した(タグ付けした)記事 ⇒ 記事一覧

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