私は「絶対音感」を持っています。絶対音感の定義はいろいろあるようですが,ここでは「楽器で鳴らされた1つの音を聞くと,それがドレミ…のどれなのかを当てられる能力」とします。有名な音としては,NHK の時報『ピ・ピ・ピ・ポーン』は「」の音です。「君が代」の正式な調(ハ長調)だと,♪きみが~よ~は の部分は レドレミソミレ ですね。一般的な救急車のサイレン音『ピーポーピーポー』は シソシソ で,自分の前を通り過ぎるとドップラー効果で音程が下がり シ♭ソ♭シ♭ソ♭ に聞こえます。こんな感じで,音程を持つ音を聞くとどんな音程かわかるのが絶対音感です。

 敏感な人になると,ちょっとした生活音などにも音程を感じてしまうなんて人もいるようですが,私はそこまでではありません。音程をわかりたいと意識を向けると音程がわかる,という程よいレベルです。ただ,耳なじみの曲が何らかの理由で通常と違う音程だったりすると,意識を向けなくても必ずわかります。カラオケでは,歌いやすいように原曲とは違うキーに調整されていることが多いですが,それで聞いていると自分が知っているキーと違うので違和感を感じます。キーが原曲と合っていると,ピタッとハマっている感じになり心地いいのです。カラオケの歌本や端末には,原曲キーに合わせるにはいくつキーを動かせばよいか記載されていますが,私はそれを見なくても知っている曲であれば原曲キーに合わせることができます。キーを1つずつ動かしていって,原曲と同じキーになるとピタッとハマる感覚になり,これが原曲キーだとわかります。

 私は幼少期に,楽器を習ったり音楽に関する特別な教育(リトミックとか)を受けたことはありません。なので,なぜ絶対音感を獲得できたのか全くわかりませんし,他の人も皆,自分と同じように音程を当てられると思っていました。ある時,他の人は音程を当てる能力を持ってないんだということがわかり,これが世に言う絶対音感なんだと気づきました。

 私は,ピアノの白鍵の音(#や♭が付かない音)の方が素早く判別できます。特にドとソは鳴った瞬間すぐにわかります。一方,ピアノの黒鍵の音(#や♭が付く音)は判断までに少し時間がかかることがあります。例えば,ド#の音が鳴ると,私の頭の中では「すぐわからないってことは白鍵の音じゃないな。鳴っている音を少し低くするとドになるから,これはド#だ」という思考回路で音程がわかります。全部の音が瞬時に判別できるのではなく,頭の中に音程がしっかり刻まれている音とそうでない音がある感じです。ドやソを中心に,白鍵の音の判別速度が速いということは,幼稚園や小学校のオルガンやピアノの音によって絶対音感が形成されていったのかなと自分では考えています。その頃に歌う愛唱歌は,ハ長調,ヘ長調,ト長調(コード表記ではC,F,G)が多いですよね。白鍵の音程の判別が早く,黒鍵が遅い理由がそこにあるんじゃないか,と思っています。

 絶対音感があると,楽器を鳴らしたり楽譜を見たりせずに音程がわかるので,それを生かして曲の音の高さを調べたのが,ヒット曲音域データベースというサイトです。ここに掲載した全ての曲について,最低音と最高音を自分で調べています。ただし,常に音程がきっちり判別できるわけではありません。時々,音程が判別しづらい場合があって,例えば「ドにも聞こえるしド#にも聞こえる」というようなことがあるのです。

 音の高さは音波の周波数によって決まりますが,NHK の時報でおなじみの「ラ」の音の周波数は 440Hz と国際標準で定められています。市販のキーボード等の電子楽器のほとんどは,この国際標準に則った周波数の音源が各鍵盤に割り当てられているため,キーボードで鳴る音は音程の判別に迷うことがほとんどありません。ですが,この国際標準に強制力はないので,実際にはラの音が 440Hz ではないケースが珍しくありません。音楽制作者や演奏家が 440Hz ではない周波数を用いることもありますし,アナログ音源をCD収録した場合などは 440Hz ではないケースも多いと思います。このようなケースで「ドにも聞こえるしド#にも聞こえる」ようなことが起きるのです。

 音程が判別しづらいのは,音源側の理由だけではなく,私の絶対音感の感度の問題もあります。先日,ラの音(周波数 440Hz)を聞いたところ,私の脳内にあるラの音よりもわずかですが音が高いと感じたんです。ということは,私が絶対音感として記憶している音程はやや低めということになります。逆に言えば,音の周波数が少し大きくなるだけで,半音高く聞こえたり,どちらの音かわかりづらくなるわけです。

 具体例として「My Revolution」(渡辺美里)のサビの歌詞である

わかりはじめた マイレボリューション

の所は,メロディーを階名(相対的な音程の関係性)で示すと,

 どどどどどどど れーどしどーどー (※意図的にひらがなで記載)

です。「マイ」の所で「れ」に上がるわけですね。この音程を私は,

 ラ♭ラ♭ラ♭ラ♭ラ♭ラ♭ラ♭ シ♭ーラ♭ソラ♭ーラ♭ー
 (変イ長調,コード:A♭)

だと理解していますが,時々,

 ラララララララ シーラソ♭ラーラー
 (イ長調,コード:A)

なのでは?と感じることがあるのです。公表されている譜面などを見ると,ラ♭~の音程で合っているようですが,「My Revolution」の音程がやや高め(アナログ音源からCD化されているからだと推察)なことと,私の絶対音感がやや低めなために,サビの最初の音がラ♭とラの中間くらいに聞こえて,もしかしてラかな?と思う感じなのです。こんなふうに,絶対音感と言ってもけして「絶対」なものではなく,個人差はかなりあるのではないかと思います。

 絶対音感とは,「定規無しで長さがわかる」とか「秤無しに重さがわかる」という感じに似ています。便利ではありますが,それが芸術性とは無関係であることが,この喩えからわかると思います。定規無しで長さがわかっても,それでデザインが良くなるわけではありませんよね。同様に,絶対音感を持つからといって音楽性が高いわけではありません。絶対音感を身に付けようと躍起になるのは全く意味がないので,止めた方がいいと思います。ただ,絶対音感は不要ですが「相対音感」は音楽をやるなら必須の能力でしょう。相対音感も定義があいまいな言葉ですが,任意の音を「ど」に決めたとき,どれみふぁそらしど…の音を正しく捉えられる能力のことです。絶対音感の訓練の結果として相対音感が身に付くなら,むしろその方が良いと思います。

 相対音感を体得する早道は,メロディーを習得する(音をとる)際に「階名」を使うことでしょうね。階名は上述の「My Revolution」でも書きましたが,別の曲の例として「デカメロン伝説」(少年隊)を見てみましょう。この曲の冒頭に,

 どれみらーみれど らしどみーどらそ

という歌詞がありますが,これは,どれみ…を適当に並べたのではなく,この部分の階名になっているのです。階名とは,調(コード)に関係なく相対的な音程の関係性を表したもので,逆説的な言い方をすれば,その曲をハ長調(またはイ短調)に移調した場合の音程です。この部分の実際の音程は,

 ソラシミーシラソ ミファ#ソシーソミレ
 (ト長調,コード:G)

ですが「どれみらーみれど」の方がメロディーとしてスーッと頭に入ってくると思います。あらゆる音楽を階名で捉えると,相対音感の良い訓練になると思います。

 最後に階名クイズを書いておきましょう。下記は各々,何の曲の階名でしょうか?

① みみふぁそそふぁみれ どどれみみーれれ

② そーどーしどれーどれみみふぁみら れれどーどどしーらしどー

③ らーどーれーどーれ れれそふぁみれみ みーそーらーれーど そそみそそーらー

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<答え> (このすぐ下の行をマウスで選択するとはっきり表示されると思います)
①第九の合唱パート ②大きな古時計 ③残酷な天使のテーゼ