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2019/11

グランプリファイナル出場選手スコア比較:男子シングル編

 フィギュアスケートのグランプリファイナルに出場する選手のスコアの比較表を作ってみました。まずは男子シングルの6名。

FigureSkateScoreList2019GPFmen

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 男子は 羽生結弦 選手と ネイサン・チェン 選手の2強対決ですが,スコアを見ると他の選手も大きく離されてはいないことが分かります。特に,サマリン 選手は2強に並ぶスコアを取れるジャンプ構成になっています。ただし,今季,この構成を成功させたことは一度も無く,3連続ジャンプも 3Lz+3T+2Lo という非常に難しいジャンプなので,成功確率はなかなか上がらないでしょう。ですが,4Lz と 4F の両方を,SPにもFSにも組み込むという意欲的なジャンプ構成なので,ぜひ成功させてほしいと願っています。

 4Lz を飛べる選手が4人もいるのが驚きです。4Lz でスコアを稼げるからこそ,ファイナルに残れたと言えるでしょう。羽生 選手も 4Lz を飛べますが,ケガの原因にもなったジャンプなので,確実性が上がるまでは使わないと思います。どうしても 4Lz は失敗のリスクが高いですから,使わずに戦える 羽生 選手は別の強さを備えています。SPのボーナスタイムに注目すると,ボーナスタイムに連続ジャンプを入れているのは 羽生 選手と チェン 選手だけで,しかも2人とも 4T+3T です。4T の成功確率が高く,ボーナスタイムに入れられるほど自信を持っているこの2人の実力は,やはり飛び抜けています。

 ここからは,羽生 選手と チェン 選手の戦いに焦点を絞ります。FSでは チェン 選手が 4Lz を使うのに対し,羽生 選手は他の選手が誰も飛べない 4Lo を入れて独自性を出しています。これで1点の得点差が出るのですが,FSトータルでは 0.37 点しか差がありません。羽生 選手は 3A2本ともボーナスタイムに入れ,ボーナスタイムの3つのジャンプを全て連続ジャンプにするというチャレンジによって,点差を詰めています。羽生 選手はボーナス加点率が唯一 5% を超えており,演技後半にスコアを稼ぐ構成になっているのですが,連続ジャンプを後ろに持ってくると失敗したときリカバーができないので,非常に緊張感が高く,ジャンプに自信が無いと組めない構成です。

 一方,チェン 選手は難しい連続ジャンプ2つを前半に持ってきており,ボーナスタイムは +2T という軽めの連続ジャンプしか入れていません。前半で失敗しても後でリカバー可能にするリスク対策を採っているわけです。かといってボーナスタイムが楽なわけではありません。ボーナスタイムに4回転を2本入れているのは チェン 選手だけであり,4回転に自信があるからこそボーナスタイムに組み込んでスコアをアップさせているのです。

 2人が揃って今シーズン新たに挑戦しているジャンプがあります。3連続ジャンプを +1Eu+3F にする,いわゆるサードフリップです。これは +1Eu+3S の亜種で,最初に取り入れた 宇野昌磨 選手と ヴィンセント・ジョウ 選手(米)の2人しか実施していませんでした。羽生,チェン 両選手は共に 4T+1Eu+3F という,4回転に付ける大技に挑んでいます。ファイナルでは,このジャンプの成否が勝敗を大きく左右すると思います。

 さて,ついジャンプに注目しがちですが,このような比較表を眺めていると面白いことが見えてくるもので,FSのスピンに関して 羽生 選手と チェン 選手だけがコンビネーションスピンを2回入れています。コンビネーションスピンの方がスコアが高いので,どの選手も2回入れているのかと思いきや,他の選手は1回しか入れていません。このことから,この2人はスピンも得意なのだということが分かります。2人のコンビネーションスピンはとても華があり,完成度も高いので,得点源になっています。これもまた,2人の実力が抜きん出ている理由の1つですね。

 2人の対決はほぼ互角と考えていいでしょう。羽生 選手は 4Lo,チェン 選手は 3A の出来が鍵になりそうです。チェン 選手の 4S や 3A の調子が今一つならば,これらに代えて 4F を投入する可能性もあり,そうなれば 4Lz と 4F が同時に観られることになるので,これはこれで楽しみです。

 歴代最高得点にも期待がかかります。完璧な演技ならどのくらいのスコアになるか考えてみます。2人の技術点の基礎点は,ジャンプが全て成功してスピンやステップのレベルも全て最高だった場合,SPとFSの合計で約 140 点。これに技の出来栄え点(GOE: Grade Of Execution を基に算出)が加点されますが,GOE の平均が 3.5 の場合,出来栄え点は 140×3.5×10% = 49 点。よって,技術点はトータル 189 点。さらに PCS(Program Component Score,演技構成点)が満点の96%を獲得すればSPとFSの合計で 144 点で,トータルスコアは 333 点出る計算になります。現在の歴代最高得点(2018/19シーズン以降の現行ルール)は,チェン 選手が昨季の世界選手権で出した 323 点台ですから,十分に更新可能であることが分かると思います。2人揃って 330 点を超える大会になるかもしれませんね。

NHK杯感想:羽生結弦 紀平梨花 冷静にグランプリファイナル進出 【スポーツ雑誌風】

 女子シングル。わずかな綻びがあったとはいえ良い内容でSP(Short Program,ショートプログラム)をまとめた 紀平梨花 だったが,驚異の85点台をたたき出した コストルナヤ (ロシア)に6点差をつけられ,内心穏やかではなかったはずだ。目の前の勝負だけを考えるなら,FS(Free Skating,フリースケーティング)での4回転ジャンプ投入を焦るところだが,マスコミには4回転あるぞとリップサービスをしつつも,紀平 陣営は冷静だった。4回転を入れずに,しかし GPF(グランプリファイナル)に向けた宣戦布告をFSで仕掛けてきた。FSのジャンプ構成を見てみよう。

【紀平梨花 NHK杯 FS】 3S 3A+2T 3F 3A / 3F+3T 2A+2T+2Lo 3Lo

《凡例》 A:アクセル,Lz:ルッツ,F:フリップ,Lo:ループ,S:サルコウ,T:トウループ,Eu:オイラー
     /:ここから右はボーナスタイム(基礎点 1.1 倍)

 今までは,3A を最初の2つのジャンプに入れていた。高難度のジャンプを最初に飛ぶのは当然の選択だ。しかし,NHK杯FSのジャンプは,最初に 3S から入る上述の構成を試し,2つの 3A を完成度高く決めて見せた。 3A に関する以下の記録は,女子では史上初である。

  • 最初の 3A が2回目のジャンプ
  • 3A を4回目のジャンプで飛ぶ
  • 2本の 3A の間に別のジャンプが入る

 最初の 3S は当然,将来入れる 4S への布石だ。4S → 3A+2T → 3A だと飛ぶ方も体力が要るし,プログラム全体で見ると頭でっかち過ぎる。そこで,3つめのジャンプでワンクッション置き,4つめに 3A を入れたと考えられる。これで前半の4つのジャンプはとてもきらびやかなものになる。

 4S を解禁し,さらにケガの影響で控えていた Lz (ルッツ)が戻ると,以下のようなジャンプ構成が予想できる。

【紀平梨花 FS 将来予想】 4S 3A+2T 3Lz 3A / 3Lz+3T 3F+1Eu+3S 3Lo

 鳥肌が立つ素晴らしいジャンプ構成だ。4回転と 3A の同時成功はもちろん女子史上初の快挙になる。4S 投入によって余った 3S は3連続ジャンプに使うことができるので,3連続ジャンプの基礎点も上がる。また,Lz と F を両方難なく飛び分けられる 紀平 だからこそ,Lz を2本使いつつ,3連続ジャンプを F に付けることができる。

KihiraRikaJumpCompare2019

 NHK杯では,4S も 3Lz も飛ばない構成で,伸びしろも残しながらFSで 150 点を超えてみせた。上述の将来構成はNHK杯よりも基礎点が10点高い。そして,この重厚なジャンプ構成が成功すれば PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに引き上がるだろう。ロシアのシニアデビュー3人娘(コストルナヤ,シェルバコワ,トゥルソワ)と十分戦える状況になるのだ。このような将来への可能性を示せたという点において,NHK杯はたいへん価値ある2位と考えていいだろう。

 2週間後の GPF で上述のジャンプ構成が披露されるかどうかは未知数だが,焦りは禁物だ。GPF は,その構成に着々と近づく姿を見せて,ロシア勢にプレッシャーを与えられれば,既に GPF 女王の称号を得ている 紀平 が順位にこだわる必要は無い。紀平 陣営の真のターゲット,それは3月の世界選手権なのだから。

 とはいえ,コストルナヤ の完成度の高さが現実の脅威であることは間違いない。3A をSP,FS計3本入れ,ジャンプ構成でも 紀平 と真っ向勝負を挑んでいる。PCS も,シニアデビューながら既に 紀平 とほぼ互角のスコアを得ている。3A は高さと回転姿勢が素晴らしく,紀平 と同等かそれ以上の完成度がある。今季の コストルナヤ は,昨季までの綺麗さに力強さが加わった印象があり,その体力や筋力が,3A の安定と細部まで行き届いた表現を生んでいるように感じられる。4回転ジャンプを武器とする トゥルソワ や シェルバコワ ほどの活躍は難しいのではないかという私の予想は外れ,ジャンプの安定度と PCS の高評価から考えると,コストルナヤGPF 優勝の筆頭候補と言うべき存在になった。NHK杯では,FSの伸びしろを残しながらもトータル 240 点を記録しており,GPF で PCS の上乗せができればトータル 245 点に届く可能性がある。

 GPF の女子シングルは,紀平梨花,ロシア3人娘(コストルナヤシェルバコワトゥルソワ),ザギトワ (ロシア),テネル (米)が競演する。230 点でも表彰台を逃す可能性があるという,極めてハイレベルな大会になる。この6選手を一度に観られる2週間後が今から待ち遠しい。

 男子シングル。SPがほぼ完璧だった 羽生結弦 に歴代最高得点の期待がかかったが,その達成は GPF までお預けとなった。FS後半最初のジャンプである 4T+1Eu+3F は 羽生 といえども難易度が非常に高い。後半の4回転,4回転からの3連続,今季から取り入れたサードフリップ(=3連続ジャンプの3本目が 3S ではなく 3F)という3つのハードルが重なるからだ。かなり質の良い 4T が必要なことから,ジャンプの入りに慎重になってしまったのかもしれない。これが 2T になってしまったことでスコアは伸びなかったが,その後の 4T+3T3A+1Eu+3Sリカバー羽生 の冷静さと好調さを示すものだった。4回転からの連続ジャンプと 3A からの3連続ジャンプ,これらを最後の2つとして成功させるなど並大抵のことではなく,それだけ心技体が充実していた証だと思う。

 実は,グランプリシリーズを2連勝し負傷も無いのは 羽生 史上初めてのことだ。2戦連続 300 点超えも初。今までで最高のシーズン前半を送っていると言えるのだ。今シーズンこそ,世界選手権までケガ無く活躍してほしいと切に願っている。

 GPF では,宇野昌磨 との対戦が叶わなかったのは寂しいが,ネイサン・チェン (米)との対戦が実現する。グランプリシリーズのスコアだけを見れば 羽生 が優勢に見えるが,グランプリシリーズの チェン は明らかに本気を出しておらず,ファイナルに向けて万全の調整をしてくるだろう。NHK杯から中1週しかない 羽生 は日程面ではハンデを負うが,NHK杯 → GPF → 全日本 と2週間おきに大会があるこのサイクルに日本選手は慣れているし,羽生 はこのサイクルの中で何度も GPF を制してきたので,全く問題ないだろう。羽生 の3年ぶり5度目の制覇か,チェン の3連覇か,2人の頂上対決が今からとても楽しみだ。

NHK杯プレビュー:羽生結弦 紀平梨花 出場

 今週末は,フィギュアスケート グランプリシリーズ6戦目の日本大会。今年は 札幌 開催となるNHK杯です。出場選手の面でも,グランプリファイナル進出者が決まるという意味でも,とても楽しみな大会です。細かく書く時間が取れませんので,普通の新聞記事レベルになってしまいますが,見どころを書いておきます。

 男子シングルは,なんといっても絶好調の 羽生結弦 選手が観られることが楽しみです。前回のカナダ大会もかなり良い演技でしたが,それを超えて,平昌五輪後の新採点ルールにおける最高得点記録が達成されるかもしれません。2015年,長野 開催のNHK杯で当時の最高得点を塗り替え,初めてトータル300点台を記録した,あの再現を否応なく期待してしまいますが,今シーズンの 羽生 選手ならやってくれそうな予感がします。くれぐれも(平昌五輪シーズンのように)張り切りすぎてケガなんてことだけはないように…。

 他の日本選手は,山本草太島田高志郎 の2選手。2人とも期待の若手で,とても良い演技をするので,ぜひ観てほしいです。出場が前半グループになると思うので,放送の早い時間に登場してきますのでお見逃し無く!

 海外勢では,卓越した表現力を持ち熱烈な日本通の ジェイソン・ブラウン 選手(米)と,昨シーズンから頭角を現し,スケーティングが抜群の エイモズ 選手(フランス)が楽しみです。順当なら,彼らと 羽生 選手が表彰台に上るでしょう。

 女子シングルは,当然,紀平梨花 選手を応援します。SP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)合わせて3本3A(トリプルアクセル)を綺麗に入れた上で,プログラム全体の完成度が高ければ優勝間違いなし…と全く言い切れなくなってしまった今シーズン。紀平 選手以外にも3Aを3本入れる選手が現れました。ロシアの若手3人娘の1人,コストルナヤ 選手の3Aは単に飛べるというレベルではなく,高さが高くとても見栄えがする,質の高い3Aです。また,PCS(Program Component Score,演技構成点)も既にFSで72点(満点の90%)に迫るスコアを出しており,3Aと PCS の両面で 紀平 選手と戦える力を持っています。紀平 選手は多彩な表現力が大きな魅力ですが,コストルナヤ 選手は力強さと美しさが共存するというこれまた希有な魅力を持っていますので,この2人の対決はたいへん楽しみです。

 ここに,平昌五輪女王にして現世界女王の ザギトワ 選手(ロシア)も加わるのですから,この3選手のうち誰かは銅メダル以下という,とんでもなくハイレベルな大会になります。ザギトワ 選手は今シーズン絶好調とは言えませんが,大好きな日本で初のNHK杯出場なので,モチベーションは高いと思います。3選手が良い演技をした場合,トータル230点でも銅メダルという驚異的なことが起きるかもしれません。

 男女ともシングルは金曜日にSP,土曜日にFSが行われ,女子SPの前半以外はNHKの地上波で放送されます。特に男子は,どちらも夜7時半からのゴールデンタイムに実施されますので,前半グループからしっかりと観ていただくことをお勧めします。

 フィギュアスケートはどうしてもシングルに注目が行きがちですが,今年も楽しみなのはアイスダンス。昨年に引き続き,パパダキスシゼロン 組(フランス)が出場してくれます。技術,芸術性,完成度,存在感,全てが圧倒的で異次元。アイスダンスはシングルに比べると物足りなく感じられる方もいるかもしれませんが,彼らを観るとアイスダンスの魅力がわかると思います。彼らが来日してくれて,彼らの映像を生放送で鮮明に観ることができるのは本当に貴重です。金曜日のSP,土曜日のFS共に午後0時台という昼間の実施で,かつBS放送ですが,ぜひ観ていただきたいです。

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