いよいよ,フィギュアスケートの世界選手権が始まります。昨年の世界選手権は中止され,今季のグランプリファイナルも開催されていませんので,全世界のトップスケーターが集う大会はグランプリファイナル2019以来,1年3ヶ月ぶりとなります。本来であれば,羽生結弦 選手の王者奪還なるか? 紀平梨花 選手の初優勝は? 北京五輪の出場枠3枠を確保できるか? などの話題で盛り上がりたいところですが,こういうご時世だと,勝負をあおる気持ちにはなかなかなれませんね。無事に開催され,選手の皆さんにはベストな演技をしてほしい,それを切に願うだけです。
簡単に見所に触れておきたいと思います。男子はやはり 羽生結弦 vs ネイサン・チェン(米)の頂上決戦でしょう。今季の 羽生 選手のプログラムは SP(Short Program,ショートプログラム)も FS(Free Skating,フリースケーティング)も素晴らしく,個人的予想としては両方とも北京五輪に持っていくのではないかと思えるプログラムです。良い演技だった全日本選手権からさらに完成度を上げられれば,スコア 330 点もあり得ると思います。
ただ,チェン 選手に勝って優勝する可能性は,正直なところかなり低いです。チェン 選手のジャンプの安定感や,羽生 選手とはまた違ったプログラム全体の構成力は,完全にチャンピオンであり,羽生 選手は今や追う立場にいます。羽生 選手に勝機があるとすれば,SP を完璧に演じて,チェン 選手に FS でミスできないというプレッシャーを与えることです。過去最高の名勝負が生まれることを期待しましょう。
日本からは,羽生 選手に加え,宇野昌磨,鍵山優真 の両選手も出場します。スイスで ランビエール コーチの指導を受け密かに優勝を狙う 宇野 選手。世界選手権初出場で世界にアピールしたい 鍵山 選手。2人のどちらかが表彰台に乗る可能性は大いにあり,彼らの演技もとても楽しみです。
チェン 選手以外の他国の注目選手としては,ジェイソン・ブラウン(米),ヴィンセント・ジョウ(米),ボーヤン・ジン(金博洋,中国),コリヤダ(ロシア)の各選手が表彰台を争うことになるでしょう。
続いて女子。紀平梨花,坂本花織,宮原知子 の日本勢 vs シェルバコワ,トゥルソワ,トゥクタミシェワ のロシア勢という,ここ数年続く構図が今回も当てはまります。FS に4回転ジャンプと 3A(トリプルアクセル)2本を入れる 紀平 選手は,SP も FS も完璧でスコアを 240 点台に乗せれば優勝が見えてくると思います。安定感と勝負度胸抜群の 坂本 選手,高い経験値と演技構成力を持つ 宮原 選手は,ロシア選手が崩れれば表彰台を狙えると思いますが,彼らの演技は唯一無二の魅力にあふれているので,スコアに関係なく堪能したいです。
対するロシア勢は,4Lz(4回転ルッツ)を FS で2本入れ,総合力も高い シェルバコワ 選手が優勝候補筆頭です。4回転ジャンプを FS で4~5本入れてくる トゥルソワ 選手も,波に乗ったら手が付けられない爆発力を持っています。トゥクタミシェワ 選手は,競争が激烈なロシアで20代でも代表になる確かな技術と,彼女にしか表現できない成熟した雰囲気のスケーティングが素晴らしいです。昨季に大活躍した コストルナヤ 選手が代表を逃すという波乱がありましたが,強力な3選手であることに変わりはありません。
コロナ禍の影響はフィギュアスケートにも直撃しており,今季の国際大会の多くが中止されたり,新型コロナウイルスに罹患した選手も出たりしました。ですから,予期せぬ波乱が起きる可能性は例年より高いとは思いますが,それに乗じて好成績を収めたとしてもあまり喜べるものではないでしょう。今回は,勝負のことはあまり考えずに,全ての選手の境遇や努力に思いをはせながら観戦したいと思います。