マイクを持てば酔っぱらい

~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

2013/14シーズン(ソチ五輪)

世界フィギュア選手権2014:男子シングルやりました!

点差わずか0.33。羽生選手と町田選手が生み出した,日本フィギュア史上最高のドラマティックな大激闘!

ショートプログラム(Short Program)。町田選手の「エデンの東」。初めて観た瞬間にここまで心を掴まれたプログラムは今までありませんでした。個々の演技要素の流れと音楽が見事にマッチしているのです。以来,今季ずっと町田選手を応援し続け,観るたびにどんどん完成度が上がっていき,世界フィギュアでついに驚異の自己ベストを記録。羽生選手とチャン選手(CAN)しか到達していない98点台を叩き出しました。最後のスピンのときから観ている私は鳥肌が立ち続け,演技が終わったときテレビの前でまるで観客かのようにしばらくの間拍手を止められませんでした。演技が終わりガッツポーズをせずに余韻を味わう町田選手の姿は美しかった。技術的にも芸術的にも完璧。町田選手が演技のことを「作品」と称する意味を私は初めて心から理解できたような気がしました。

羽生選手は,明らかに普段と違う雰囲気をたたえていました。五輪金メダリストで迎える大会。しかもチャン選手は不在。勝って当たり前という試合ほど難しいことはありません。滑り出してからもふーっと息を吐きリラックスしようとしている姿に嫌な予感を感じた瞬間,4回転トーループジャンプを転倒。まさかの追う展開となりますが,彼の凄さは,失敗を引きずらないこと。その後のジャンプをきっちりまとめて,町田選手と7点差に留めたことが大激闘の伏線になりました。

フリースケーティング(Free Skating)。町田選手の「火の鳥」はこれまた名プログラム。今大会は2年間演じ続けた集大成です。今季は私が福岡で生観戦したグランプリファイナル,さらに続く全日本と,ミスのない演技ができていたのですが,どちらも成功させることに必死という状態でした。ソチ五輪では4回転ジャンプにミスが出てメダルを逃すことになります。何としても最後は完成度の高い演技を…町田選手はそう強く望んでいたはずです。そして実際に,前半の3つのジャンプとステップシークエンスまでは,緊張感と冷静さが高い次元で融合している,そう感じさせてくれる内容でした。後半は着氷がぐらつくなどヒヤッとするところはありましたが,今までのような「こなすだけで精一杯」という雰囲気ではなく,気持ちの余裕そして強さが感じられるような演技でした。世界フィギュアでは演技がミスなくできれば満足と言っていいと思うのですが,今大会の「火の鳥」は表現をも追求した演技になっていたと思います。審判もそれに呼応するかのように高い得点を出し,184点台という自己ベストを達成しました。

その町田選手を競馬で喩えると「ハナ差で差し切った」のが,2001-02年シーズンのヤグディン選手以来2人目となる同一シーズン3冠を達成した羽生選手でした。けして楽にとれた3冠めではありませんでしたが,それでもきちんと結果を手にするのが,彼の強さであり凄みでもあります。しかし,この僅差は少し予想外でした。羽生選手が4回転サルコウジャンプを含む全ての技術要素を成功させたのを見て,私は195点を予想しましたが,実際には191点台に留まり,4回転サルコウを失敗したグランプリファイナルでの自己ベスト193点台を超えられませんでした。今大会では個々の演技要素の出来ばえがさほど良くなく,出来ばえを評価するGOE(Grade Of Execution)の点数を積めなかったようです。追う立場で勝ちにこだわったことで,演技の細かい部分の完成度を上げられなかったということでしょう。とはいえ,この状況で自己ベストに近い点数を出せるのですから,やはり羽生選手は強靭なメンタルの持ち主であると改めて思います。

五輪直後の世界フィギュアは,例年どうしてもレベルが低くなりがちです。しかし今回は,五輪での演技ミスや日本開催といった状況があり,羽生選手にも町田選手にも高いモチベーションが維持されました。その結果は,両選手ともソチ五輪の優勝得点を上回る合計282点台を出しました。しかも,2004年以降現行の採点制度になってから,1位と2位の点差0.33は史上最小,6.97点差からの逆転は最大点差だそうです。ホームアドバンテージをしっかり生かして,日本男子史上初の1-2フィニッシュを達成し,このドラマティックな激闘を生み出した2人のスキルとモチベーションは,本当に素晴らしいと思います。2人揃ってのインタビューで見せてくれた言葉のかけ合いは,ライバル同士が持つ刺激と尊敬に満ちあふれ,爽やかで清々しく,じんわり心が温かくなる光景でした。羽生一強時代到来かと思われましたが,あと1年は町田選手が共に戦ってくれる存在になりそうで,羽生選手にとっても大いにプラスに働きそうです。

その意味でも,町田選手の今年の成長と世界フィギュアの結果は,特筆すべきものと思います。初出場,しかも五輪直後の世界フィギュアで,SPとFSが共に自己ベスト,しかも今までを合計17点上回る…本当にとてつもなく凄いことを町田選手はやってのけました。どうしても羽生選手に注目が集まってしまいますが,今年の町田選手の軌跡と2つの名プログラムを,私は強く心に刻みたいと思います。

羽生結弦への大いなる期待

 伝説の序章を,私たちは目撃しているのか。

 羽生選手が,ソチ五輪唯一の金メダルを獲得しました。金メダリストということで,帰国後いろいろな場所に連れ回されないか心配でしたが,案外早く練習拠点のカナダに戻りました。これで,世界フィギュアにもあまり悪影響が出ずに済みそうです。羽生選手には,2002年のヤグディン選手(RUS)以来となる同一シーズン三大大会制覇(グランプリファイナル,五輪,世界選手権)がかかっていますので,早くリンクに戻ってくれてホッとしています。

 羽生選手が世界ジュニアを制した頃から,友人に勧められチェックし始めました。ジャンプのスキルの高さ,女子のような柔らかい表現,中世的な風貌が,今までの日本人にいないタイプでしたし,ジュニアからシニアに上がり成長の過程にあったので観るたびに演技が良くなっていく楽しみがありました。シニア1年目からトップ選手に十分対抗できる力を見せ,五輪3枠の一角に食い込めるだろうという期待が高まっていきました。

 そんな矢先,東日本大震災が発生します。羽生選手が被災しとても苦労したことは,いろいろなところで語られているとおりですが,私が驚いたのは,震災を経て彼の発言が劇的に変化したことでした。震災前は,高校生らしい若くて邪気のない発言が多かったのですが,震災後は別人のように大人びた雰囲気をたたえ,周囲への感謝と自身の情熱をよどみなく語るようになっていました。環境はここまで人を変えることができるんだ,と感心しつつも,大震災はそれだけ人の心に刻みつけられるものなのだ,と考えさせられることでもありました。

 その後,羽生選手はブライアン・オーサーコーチに師事するという驚くべき選択をします。あのキム・ヨナを育てたオーサーコーチを選択したことに対して,世間ではかなり嫌悪感や反感が出ました。日本人にとってその選択だけはないんじゃないか,と思う気持ちは致し方ないところです。ただ,五輪の結果だけ見ればこの選択は大正解だったことになります。オーサーコーチは,キム選手同様,羽生選手にも見事な戦略を立ててくれました。よくよく考えると,これだけきちんとした戦略を立て,技術的指導もしっかりしているコーチが他にいるでしょうか。国内のコーチは戦略面で物足りないですし,ロシアのコーチは戦略や考え方が古い(浅田選手に対するタラソワコーチの戦略がその最たる例)。オーサーコーチは,選手時代に五輪の金メダルを獲得することができませんでした。おそらく,人生経験の中で金メダルの重要性を痛感していたのでしょう。教え子を2大会連続で金メダルに導いたことは,大変な偉業です。羽生選手がオーサーコーチに師事する幸運があったことを,私たちも素直に喜びたいと思います。

 ソチ五輪で羽生選手は金メダルを手にするだろうと予想はしていましたが,正直なところ銀メダルでも十分だと思っていました。まだ羽生選手は若いですし,この4年間の功績からすると金メダルを取るべきなのはチャン選手(CAN)だったからです。現に,羽生選手はフリーではミスが多く,チャン選手が普通にできれば金メダルを獲れる状況ができましたが,チャン選手もフリーでミスを頻発しチャンスを自ら逃してしまいました。今季グランプリファイナルから始まった,羽生選手の急速な追い上げにチャン選手が屈した格好になり,一気に羽生選手の天下になったということができます。

 五輪金メダリストともなれば,世間の注目度も急上昇してきます。フィギュアフリークにとどまらないライトなファンも増えるでしょう。そして,ファンが増えればどうしても熱狂的なファンが出てくるでしょう。熱狂的なファンは,応援してくれるありがたい存在ですが,時に度を越してしまうこともあります。髙橋選手や浅田選手の熱狂的なファンの中には,他の選手への態度に問題がある(声援を送らない,過度に非難する)人がいることも事実です。羽生選手にはそのような変に熱狂的なファンが増えないことを祈るばかりです。そして,ファンが増えても自信過剰にならず,華麗さと謙虚さを高い次元で融合させ,発言にも気を配り,ファンを魅了していってほしいと思います。

 ライバルの状況を見ると,これから実力が伸びそうな選手は限られており,4年後の平昌五輪まで男子フィギュア界が羽生選手を中心に進んでいくことは間違いありません。おそらく羽生本人は,五輪2連覇~3連覇を夢に描いているでしょうし,それに向けて毎シーズン常にトップ争いをすることを考えていると思います。この先,世界フィギュアを何回勝てるか,点数が合計300点を超えてどこまで伸びていくのか,それを目の当たりにできる私たちはとても幸運です。とてつもない強さを見せ続け,世界のトップに君臨する日本人スケーターの出現を,私は期待して見守りたいと思います。

町田選手,髙橋選手,五輪お疲れ様

 町田選手,5位入賞おめでとうございます。今年の好調ぶりや,プログラムの素晴らしさを思えば,銅メダルを取ってほしかったです。しかし,世界フィギュア未経験でメダルが取れるほど,五輪は甘い場所ではなかったということなのでしょう。ただ,フリーでは冒頭4回転の転倒を引きずらない粘り強い演技により,ショート11位からの追い上げは見事でした。この悔しさはぜひ世界フィギュアで晴らしてほしいと思います。

 それでも,2年前は世界と戦えるレベルになかったところから,お世辞抜きでメダルが狙えると評されるところまで成長した姿には,とても感動しました。町田語録で存在感を発揮し,団体戦のフリー出場者では最高の成績を残し,前回五輪に続く日本男子全員入賞に貢献しました。町田って誰?って思ってた皆さんも,やっぱり日本男子陣はすごいんだなって思ってくれたことでしょう。

 髙橋選手,申し訳ないのですが私はおめでとうという言葉をかける気持ちが起こりません。今回の成績や今季の戦いについて猛省してほしいと思っています。私が生観戦した今季グランプリファイナルの出場を楽しみにしていたのですが,欠場してしまったことで髙橋選手への応援熱が弱くなってしまいました。日本開催の大会や全日本を控えた肝心な時期に怪我をすることがそもそも問題です。ただ,怪我はやむを得ないこと,その後の立ち居振る舞いに髙橋選手らしさが感じられなかったことの方が私には残念でした。怪我が治りきらない状況での全日本で,不安オーラ全開,演技後の憔悴,代表決定時の申し訳なさそうな笑顔,それらは日本を引っ張ってきた第一人者として振る舞ってきた今までの彼の姿ではありませんでした。私はこの姿を見て髙橋選手が代表に選出されるべきではないと感じていました。そして,ソチでは精神的支柱でもなく,怪我も完治せず,結果も6位。この結果はある程度予感されたものだったと言えるでしょう。

 しかし,それで髙橋選手の功績が色褪せるものではありません。世界ジュニア優勝,五輪メダル,世界フィギュア優勝,グランプリファイナル優勝,これらの日本男子初はすべて髙橋選手によるものです。日本男子を世界レベルに引き上げたのは紛れもなく彼の開拓の賜物であり,羽生選手の金メダルも当然その歴史に導かれたものです。髙橋選手が強くなるにつれ,いつしかスケーティングの芸術性を高め,日本の第一人者としてメディアに発信していく姿には,たびたび感動させてもらいました。髙橋選手はまだ進退迷っているようですが,今年の世界フィギュアは日本開催。大勢のファンに見守られ,花道に相応しいのではないかと私は思います。

ソチ五輪フィギュアスケート女子シングル総括

 金メダル争いは,男子とは違い,ミスのないレベルの高いものでした。ソトニコワ選手(RUS)は,これまでフリーで崩れる印象があったのですが,今回はリプニツカヤ選手(RUS)が今一つだったためか,母国に金メダルをもたらそうという使命感と,リプニツカヤが急に注目されたことへのライバル心が,とても良い方向に出たように思います。点が出過ぎとの批判についてはそう思うところもありますが,相対的に一番良かったのは間違いないと思います。ソトニコワ選手が点数出過ぎなら,キム選手(KOR)にも同じことが言えると思いますし,キム選手は4年前のバンクーバー五輪では点数を取る側でしたが,今回は取られる側になってしまったのも数奇なものを感じます。それにしても,ソトニコワ選手がここまでメンタルが強いとは思いませんでした。ここで得た自信を今後どのように生かしていくのか,とても楽しみです。

 他の選手にも触れておきたいと思います。鈴木選手は,ベストの演技とは言えませんでしたが,五輪2大会連続入賞は,浅田選手,キム選手と3人だけの偉業です。鈴木選手の演技は,点数争いを忘れさせてくれる清らかさに満ち溢れていました。村上選手は,浅田選手のショックに付き合ってしまった感じがしました。ああいうときこそ,空気を読まない天真爛漫さが出るといいと思います。

 リプニツカヤ選手は,団体戦の疲労を乗り越えてくれると期待していましたが,さすがに五輪は彼女にとっても特別な空気だったようです。それでも,合計200点を超えてきたあたり,只者ではありません。演技構成点も急速に伸びてきましたし,今後のフィギュア界で主役になっていくと思います。世界フィギュアでは完璧に決めて優勝争いをしてほしいです。

 ゴールド選手(USA)は,全米選手権の勢いそのままに,五輪でもとても良い演技でした。もっと演技構成点が出てもよかったと思いますし,この数ヶ月で急速に演技の完成度が上がってきました。来季以降,ワグナー選手(USA)に代わって米国を引っ張っていく存在になると思います。

3月には完璧に…浅田真央

 このスケーターはどこまでドラマを作るのか。

 浅田選手は,フリーでどん底から起死回生の演技を見せました。ショートが最悪の出来となり,フリーでも精彩を欠くだろうと正直私は思っていましたが,浅田選手を信じられなかった自分がとても恥ずかしいです。あのどん底の状況を乗り越え,全てのジャンプを綺麗に着氷して自己ベストを更新し,合計200点近くまで伸ばしたことは本当に素晴らしかったですし,浅田選手の本当の芯の強さを見たような気がしました。フリーが終わった瞬間,彼女が感極まる姿には,浅田真央ファンではない私もグッとくるものがありました。彼女が抱えていたあまりにも大きな重圧,そしてそれを良い形で下ろすことができた安堵感。良い演技の後に涙を見せる浅田選手を私は初めて見ました。

 しかし,これほどのフリーができたからこそ,感動だけで終わらせてはいけないと思います。6位は浅田選手の実力からすれば惨敗です。もし,同じ点数でもショートが良くてフリーが悪かったら,今回のような賞賛はされなかったのではないでしょうか。そう思うと,どん底のショートから復活して感動,で終わらせるわけにはいきません。フリーであれだけの演技ができたということは,ショートが悪かった原因はメンタルだったということになるでしょう。第一線で8年間もやってきたのに「直前の大歓声にのまれて緊張した」という理由は,同様の状況だった団体戦の経験が活かせなかったということであり,納得できません。何か経験値では補えない問題が起きていたわけですから,それをきちんと検証して,他の選手や指導者の皆さんに還元してもらいたいと思います。

 もちろん,ショートが良かったらメダルが取れたのでは,という単純な話ではありません。実際,ショートが78点だったとしても,金メダルはとれない点数でした。しかし,メダル争いの中であの演技をしてほしかった。そうすれば,感動もより大きかったし,演技構成点ももっと取れたし,ライバルたちにプレッシャーをかけられたはずで,結果として金メダルをとれた可能性はかなりあったのです。五輪はあくまでお祭りですから,メダルが取れなくてもかまわないと思うのですが,浅田選手はこの4年間ずっと第一線で活躍しており,そういう選手が五輪のメダルを手にすべきだと思うのです。きっと,彼女は内心ではものすごく悔いていると思います。取材では「恩返しができた」と前向きなコメントを発していますが,負けず嫌いな彼女が今回の成績や演技に心底満足しているはずがありません。

 ぜひ,今季の完成形を来月の世界フィギュアで見せてほしいと思います。五輪では全てのジャンプを綺麗に着氷できたものの,回転不足が2つ出てしまいました。回転不足を出さずに全てのジャンプがクリアにできれば,日本の会場という地の利も手伝って,フリー148点も夢ではないでしょう。完璧なショートで77点,合計225点。これで今季最高スコアになります。浅田選手の演技にはこのくらいの価値があると信じています。今度こそ,完璧に。その先に,日本人最多3度目の優勝が待っています

ソチ五輪フィギュアスケート女子シングル順位予想

 いよいよ女子が始まりました。願望的順位予想と見どころを記してみます。
  1. 浅田真央
  2. リプニツカヤ (RUS)
  3. 鈴木明子
 浅田選手は,ノーミスなら間違いなく金メダルです。しかし,転倒しなかったとしても,抜け(パンク),回転不足,両足着氷など、減点になるミスのリスクはいくらでもありますので,どれだけミスなく演技できるか,そしてミスを恐れないメンタルを持っているか,が勝敗を左右します。また,ミスしてもすぐ気持ちを切り替えてミスを連鎖させないことも重要です。全日本や五輪団体戦では精彩を欠いていましたが,どちらもピークを持ってくる必要がない試合であり,この2試合は参考になりませんが,他の選手はメンタルが強いだけに,金メダルを意識し過ぎないことを祈るばかりです。

 トリプルアクセルをフリーで1回にしたのは大正解だと思います。ミスのリスク低減はもとより,後続の演技への余力ができるので,個々の技の出来映えや全体の印象が良くなると思います。浅田選手はとかくトリプルアクセルが取り上げられがちですが,本来は総合力のスケーター。全てのジャンプ,スピン,ステップ,そして全体の流れの素晴らしさを堪能したいと思います。この4年間,女子シングルで最も活躍したのは浅田選手ですから,そのご褒美がもたらされるでしょう。

 リプニツカヤ選手(RUS)は,ここへ来て急に金メダル候補かのような扱われ方をしていますが,私は昨年末から金・銀は浅田選手とリプニツカヤ選手だと見ていました。今季グランプリファイナルで生観戦したとき,その演技の素晴らしさに一気に引き込まれました。グランプリファイナルの演技構成点が,浅田選手とリプニツカヤ選手で8点も差があったのですが,その場で観た限りそんなに差があるとは思えませんでした。ですから,五輪団体戦で出た得点は,やっと私の実感どおりになった感じがしています。ジュニア上がりだから,15歳だから,などと過小評価しても,実際に演技が良いですし,団体戦で現実に点数が出ているのですから,有力な金メダル候補なのは間違いありません。グランプリファイナルでは,他の選手がミス続出の中,1人ノーミスで収めており,メンタルも強靭ではないかと予想します。ショートプログラムでは滑走順にも恵まれました。個人種目まで金メダルを持っていかれてはたまりませんが,手ごわい相手となりそうです。金・銀は合計220点に迫る争いとなるでしょう。

 鈴木選手は,全日本を再現できれば,銅メダルが十分に狙えます。例年,鈴木選手はプログラムが素晴らしいのですが,プログラムに恵まれているというよりも,曲を解釈して自分の世界を構成することがとても上手だと思います。全日本では神が下りてきましたが,五輪でも再び神が下りてくることを祈りましょう。

 キム選手(KOR)は,ショートプログラムは首位争いをすると思いますが,フリーは後半でミスが出る可能性が高く,銅メダルさえも厳しいと思います。メディアは対決の構図を煽っていますが,浅田選手やリプニツカヤ選手の敵にはならないと見ています。浅田選手だけをマークしていればよかったところに,リプニツカヤ選手が浮上してきたことが,キム選手のメンタルに微妙な影響を及ぼすと思います。1人ではなく2人が相手になる分,ミスが許されない気持ちが強くなり,それがミスを誘発する可能性が高いでしょう。

 その他,村上選手,コストナー選手(ITA),ゴールド選手(USA),ソトニコワ選手(RUS)が合計200点を超える力を持っています。村上選手やゴールド選手は,ショートプログラムが良ければ一気に気持ちが乗ってくると思います。コストナー選手は団体戦の印象から演技構成点がとても高くなると思います。ソトニコワ選手の情報が飛び交っていないのも不気味です。リプニツカヤ選手に気を取られていると,ソトニコワ選手が不意打ちで抜け出す可能性もあります。男子同様,銅メダル争いがとても面白くなりそうです。

 個人的にはワグナー選手(USA)にも頑張ってほしい。あと,李(リー)選手(CHN)の可憐さにも注目です。

ソチ五輪フィギュアスケート男子シングル総括(後編)

 金メダル争いは,正に魔物との闘いになりました。

 羽生選手が最終グループ3番手で登場。冒頭の4回転サルコウジャンプは,練習ではほとんど決まっているのに,試合ではずっと決めることができていませんでしたが,五輪でもダメでした。転倒の仕方がほとんど今季グランプリファイナルと同じでした。でもこの転倒はよくあること。問題は3つめのトリプルフリップジャンプで着氷が乱れた(採点では転倒扱い)ところ。見た瞬間「あ,とうとう魔物が来たな」と感じずにはいられませんでした。後で見返すと,6分間練習から顔面蒼白な感じで,メンタルが強い羽生選手といえども重圧を感じていたんだなということがうかがえました。

 ステップも,とにかく動作をしているといった感じで,いつもの手先まで行き届いた表現は影を潜めていました。大崩れしてしまうのか,一瞬そんなことが私の頭をよぎった気がします。しかし,後半最初のトリプルアクセル→トリプルトウループのコンビネーションジャンプが鮮やかに決まったことで,息を吹き返した気がしました。後半の残りのジャンプをミスなくまとめて,ミスは2つにとどめた,そう思いました。

 ところが,フリーの得点は178点台。私が生観戦した今季グランプリファイナルは,ミスが4回転サルコウの転倒だけで192点台。確かにこのときのフリーは良かったですが,それにしても点数が低い。後で採点表を見てわかったのですが,3-1-3回転の3連続ジャンプが3回転-1回転のシークエンスジャンプの判定になっていました。これはテレビ解説者の本田武史氏が指摘したとおりで,3連続ジャンプの3つめに入る前にちょっとした "ため" を作ったことで連続が途切れたと評価されたらしいのです。これはとても厳しい判定だと思いましたが,点数が5点以上減る大きなミスです。つまり,ミスが3つあったことになっていたわけです。

 この時点では,勝負の女神はチャン選手(CAN)に微笑んでいたはずです。私はチャン選手がミス2つまでならチャン選手勝利,3つで微妙,4つでは羽生選手勝利と踏んでいました。続いてチャン選手の演技が始まり,冒頭の完璧な4回転-3回転のコンビネーションジャンプはさすがでした。が,それも束の間,次の単独4回転で手をつき,さらにトリプルアクセルも着氷が乱れました。調子が完全には戻っていない,これは羽生選手にツキがあるかも,と思い始めました。でも,チャン選手のこの4年間を思うと,残りをミスなく決めて金メダルを持っていってほしい,という気持ちも私の中では同居していました。

 ここまでミス2つ。後半,3-1-3回転の3連続ジャンプが3-1-2回転になるミス。ただこのミスは小さいものなので,残りがうまくいけばチャン選手に有利なはず。続く3つの3回転ジャンプを全て決めて,残りがダブルアクセルジャンプだけになった時点で,もうチャン選手の勝利は確実と思いました。ただ,最後はチャン選手が苦手なアクセルジャンプなので一応注目して見ていたら…最後の最後に着氷が乱れる痛恨のミスが出ました。「うあーっ」と私は思わず声を上げました。結果はご存じのとおり,フリーだけでも羽生選手を上回ることができませんでした。チャン選手は自らチャンスを逃し,金メダルが羽生選手のもとに戻っていきました。

 この2人の闘いは,たしかにミスの闘いでした。しかし,合計280点は五輪史上最高であり,4回転ジャンパー初の金メダリストが誕生したことは,たいへん素晴らしいことです。羽生選手とチャン選手は,1週間前に団体戦のショートプログラムにも出場しており,疲労があるのはやむを得ないことです。ミスの多さを批判するのは,今回の五輪においては不適当と思いますし,批判するなら,その矛先は団体戦を個人種目の前に実施した運営側に向けられるべきです。このような厳しい状況の中で,2人ともショートとフリー合わせて4回転ジャンプを3つ飛び,全て回転不足なく認定されています(羽生選手の4回転サルコウは回転成立で転倒という扱い)。団体戦も含めれば4つ飛んでいるのです。4回転だけが全てではありませんが,とても体力的な負担が大きい4回転を何度も入れたプログラム構成で勝負した彼らに対し,過去の五輪に劣らない名勝負であったと賛辞を贈りたいと思います。

ソチ五輪フィギュアスケート男子シングル総括(前編)

 フリープログラムは,ほぼ全員に魔物が襲った,そんな大会になりました。

 銅メダルに輝いたテン選手(KAZ)だけが魔物を退けました。大きなミスがなく,技術点(技の難易度と出来栄え)だけ見れば羽生選手と僅差の2位で,チャン選手より良かったのです。五輪の舞台では,とにかく技をミスなく入れることが大切だ,ということを改めて示してくれたと思います。私の予想で名前を挙げるのがためらわれるほど今季は絶不調でしたが,昨季世界選手権2位の自信と,第3グループ1番滑走がこの結果を引き寄せたのかもしれません。しかし,合計255点での銅メダルは幸運というほかありません。それだけ他のスケーターが総崩れだったということがわかります。

 第3グループ最終滑走の町田選手は,172点を取ればテン選手を超える状況でした。今季グランプリファイナルでは170点を出しており,全ての技ができれば到達可能な点数でした。ですから,最初の4回転ジャンプの失敗さえなければ銅メダルを手にしていたことになります。ただ,4回転に失敗はつきものなので,むしろショートプログラムで3回転ジャンプが2回転になったことの方が残念でした。それでも,フリーで大きなミスは1つだけで,技術点だけならテン選手と僅差の3位という,素晴らしい内容でした。私が生観戦した今季グランプリファイナルでも,ショートプログラム6位からフリーで4位まで挽回し,そのときのフリーは,何が何でも成功させるという気迫がみなぎり,とても感動しました。五輪でもそれに近い気迫と確かな技術を見せてもらえたと思います。

 最終グループ第1滑走のフェルナンデス選手(ESP)は,ショートプログラム3位だったので,普通の出来なら問題なく銅メダルを手に入れられるはずでした。冒頭,4回転を2つ飛んだところまでは完全に銅メダルが見えていました。しかし,その後大きなミスが2つ出てしまいました。後半最初の4回転サルコウジャンプが3回転になったのが1つめ,そしてこのミスが2つめを誘発します。最後のジャンプで3回転サルコウを飛んだのですが,これが同じ単独ジャンプを2回飛んではいけないというルールに抵触し,最後のジャンプが0点になってしまいました。これで,テン選手の点数をわずかに下回ってしまいました。これまで,4回転サルコウが3回転になることはほとんどなかったので,3回転になったときの対応策を取り損ねてしまったのでしょう。最後のジャンプを3回転トウループにでもしておけばよかったわけですが,それよりも4回転サルコウを転倒してもいいから飛んでおくべきでした。このような無効ジャンプは,演技の本質とは違うので本当にもったいないことです。手にしかけていた銅メダルがこぼれていってしまいました。

 続いて登場した髙橋選手は,4回転を1度だけに変更したので,銅メダルを視野に入れているなと感じたのですが,4回転だけでなくトリプルアクセルのコンビネーションジャンプでも大きな失敗があったので,メダルには届きませんでした。おそらく,昨年のヒザの怪我からの回復が十分ではなく,とても勝負できる状態ではなかったと思いますが,それでもミスした2つ以外のジャンプはきちんと入れることができて,ステップや曲との親和性などは多くの皆さんの心に響くものになりました。「今やれるものとしてはかなり良い出来だった」これが髙橋選手の偽らざる気持ちだったのではないか,とどこかホッとした笑顔を見て私は感じました。

後編に続く)

ソチ五輪フィギュアスケート男子シングル順位予想

 スポーツ観戦ネタも時々このブログに登場します。

 まずは,ソチ五輪のフィギュアスケート・男子シングルの順位予想をしてみたいと思います。予想というより願望ですね。
  1. 羽生結弦
  2. パトリック・チャン (CAN)
  3. 町田樹
 羽生選手は,全日本2連覇,今季グランプリファイナル優勝,そして先日の五輪団体戦でも見事なショートプログラム(SP)を演じてくれました。全日本や五輪団体戦を観る限り,彼には五輪初出場の重圧をはねのけるメンタリティーがあると確信できます。五輪団体戦では,ステップの動きなど細かいところを "流して" 演じている感じでしたから,きっちり演じればSP100点は確実です。フリー200点,合計300点というものすごいことが起こるかもしれません。ブライアン・オーサーが選手としては金メダルを取れませんでしたが,コーチとして五輪2連覇を果たす気配が濃厚です。

 チャン選手は,世界フィギュア3連覇中ですが,絶好調時と比べると少し調子が上がりきっていないかなと感じます。五輪団体戦もあまり良くなかったですが,どの選手もそこにピークを持ってきていないのでアテにはなりません。それより,今季グランプリファイナルで羽生選手に負けたことが,彼の自信をほんの少し揺らがせているような気がします。グランプリファイナルを私は現地福岡で生観戦しましたが,チャン選手のフリーは全ての要素を成功させてはいましたが,どこか窮屈そうな演技だと感じられました。一方,羽生選手は転倒した4回転サルコウ以外はどの要素も良い出来栄えで,結局,全ての要素を成功させたチャン選手が,4回転サルコウを転倒した羽生選手に負けてしまったのです。このことから,チャン選手は全ての要素を成功させるだけでなく,出来栄えもかなり良いものにしないと勝つことが難しいと感じているはずです。このことが,チャン選手の危機感を呼び起こして良い方向に向かうと私は思っていたのですが,カナダ選手権や五輪団体戦を観る限りでは,重圧をぬぐい切れていない印象を持ちました。でも,この4年間牽引してきたのはチャン選手ですから,ベストな演技をしてほしいと願っています

 町田選手は,SP「エデンの東」,フリー「火の鳥」両方ともプログラムが本当に素晴らしいです。彼は深い深い愛情を持ってプログラムを表現しようとしており,表現に没入することによって重圧をはねのけているとも言われています。現実的に考えても,羽生・チャンの2強を除くと,銅メダルには270点(SP:90点,フリー:180点)が目安と私は考えていて,町田選手なら十分に達成可能な点数です。五輪団体戦のフリーでは3位でしたが,2度目の4回転が成功していれば逆転していました。つまり完璧な演技をすれば十分メダルに手が届きます。「火の鳥」が開会式で使用されたことも,町田選手の快演を後押ししてくれそうな気がします。

 その他,上位争いをしそうな選手は,髙橋大輔,フェルナンデス(ESP),レイノルズ(CAN),プルシェンコ(RUS)あたりでしょう。レイノルズは,五輪団体戦でフリーを演じ,4回転を3度成功させました。一度成功体験ができたのは大きいと思いますので,台風の目になると思います。髙橋選手にはもちろん頑張ってほしいんですよ。ですが,SPは佐村河内問題に巻き込まれ,フリーはビートルズの曲のアレンジが私の感性と全く合わず,応援ムードになりきれない自分がいます。この状況で髙橋選手がメダルを取ったら,引退までフィギュア界が熱狂に包まれることは間違いありません。

(おまけ:冷静な予想。1.羽生,2.C,3.F)
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