フィギュアスケートのオフシーズンに入りましたが,選手として活躍した 小塚崇彦 さんがスケート靴に付ける刃(ブレード)を開発したというニュースが紹介されていました。
「ジャンプの高難度化など、演技は進化しているのに、ブレードの構造は昔から変わっていない。フィギュアスケートは道具の部分がおざなりだった感は否めません」 (中略)
「ブレードに左右されることなく、選手が安心して、集中できる環境を整えられればと思います」
このニュースに接した当初,私は「小塚 さんはコーチ指導,衣装,普及活動など,あらゆることに関心があるので,ブレード開発もその一環かな」くらいにしか受け取っていませんでした。しかし,きちんと記事を読んでみたら,けっこう抜本的な課題への取り組みだということがわかり,驚きました。
フィギュアスケートの刃の耐久性はあまり高くなく,男子は平均的には半年で刃の交換を余儀なくされている,と紹介した記事に書かれています。刃は消耗品なので,そのくらいの頻度で交換することはやむを得ないような気がするのですが,1ヶ月程度で刃が欠けてしまったり,それが試合本番で発生し試合の棄権に追い込まれるケースもあるとなると,スポーツ用具としてはかなり心許ない感じがします。また,フィギュアスケートは特に足の裏の感覚が大切だそうで,靴や刃を変えると感覚が変わってしまい,それまで練習で培ってきた感覚を再構築しなければならないのです。できれば少なくとも1年間は刃を交換せずに済ませたいそうですが,現状はそうなっていないようです。
フィギュアスケートがこれだけ人気のあるスポーツになってきたのに,道具の現状がけっこうお寒い状況とは,なんとも気の毒な話です。リンク,指導者,衣装,経済的負担といった問題は時々語られていますが,靴や刃のことはあまり取り上げられません。しかし,フィギュアスケートの最も重要な道具である靴や刃がこのような状況では,スポーツとしての質が高まっていきません。今までの選手をはじめとする当事者の皆さんは,そういうものだから仕方ない,と思っていたのかもしれませんが,他のスポーツの道具やウェアは,日本の技術力が多大な貢献をしていることを考えると,フィギュアスケートの靴や刃がもっと良くなる余地は大いにあるのではないでしょうか。
そう考えると,刃そのものを開発するという 小塚 さんのアプローチは,とっても彼らしい行動だと思います。刃の問題を選手として実感していたでしょうし,大学院ではフィギュアスケートの力学的特性みたいなことを研究していたと思いますので,その知識も今回の開発に生かされたことでしょう。世界レベルの実績を残した 小塚 さんが,このような開発を行うことは極めて意義があることと思いますし,様々な課題を克服した刃が開発されるという期待感が持てます。ぜひ,製品化や継続的な改善にも取り組んでいただき,多くの選手に行き渡ることを願っています。そうなれば,道具の優劣ではなく,スケート技術の優劣を競う本来の競技の姿に近づいていくことでしょう。