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2019/20シーズン

グランプリファイナル2019感想:羽生・紀平 打ちひしがれる完敗

 フィギュアスケートの今年のグランプリファイナルは,羽生結弦 選手が2位,紀平梨花 選手が4位に入りました。これはほぼ実力どおりの順位であり,さらに上位を狙ったものの健闘したと言える順位ではあります。しかし内容は点数差以上に完敗でした。来年3月の世界選手権に向け,両選手とも大きな課題を抱えてしまいました。

 羽生 選手も 紀平 選手も,自分たちがめざしていたレベルの演技構成をライバルに完璧に遂行され,歴代最高得点(2018/19シーズン以降の新採点規則)を塗り替えられてしまいました。自分では不可能なほど高度な演技構成だったり,奇策がハマったりしたのであれば,今回は仕方ないと諦めがつきますが,優勝選手は男女共に,彼らと同等レベルの演技構成を,極めて高い完成度で実施しており,自分たちがやりたかったことをやられてしまったのです。こういう負け方はかなりダメージがあると思います。

 まずは,ネイサン・チェン 選手(米)と 羽生結弦 選手の男子シングルから見ていきましょう。FS(Free Skating,フリースケーティング)の演技構成が,大会前に本ブログで紹介した構成よりもグレードアップしていましたので,当日の演技構成と,スコアの結果にどう表れたのかを表にまとめました。他の男子選手には申し訳ありませんが,チェン・羽生 両選手に絞りました。

表: 演技構成表 - グランプリファイナル2019 男子シングル
(各表はクリックしてご覧ください)
FigureSkateScoreList2019GPFmen2

表: 得点結果分析表 - グランプリファイナル2019 男子シングル
FigureSkateScoreResult2019GPFmen

 羽生 選手はFSで2年ぶりに 4Lz を実戦投入して4回転ジャンプを4種類5本にしてきましたが,これは今シーズン初で,過去にもほとんど実施したことがない構成であり,SP(Short Program,ショートプログラム)で点数を離されたことでギャンブルをせざるを得なくなりました。表の中で,3A の所に 1.6 という数字が出てきますが,これは 3A+3A というシークエンスジャンプの点数を表現しています。本来は 2 であるところを,シークエンスジャンプは点数が 0.8 倍になるので,2×0.8=1.6 となります。

 一方,羽生 選手の構成アップを予想した チェン 選手も,4Lz と 4F を同時投入し同じく4回転4種類5本にしてきましたが,チェン 選手は過去に4回転5本の構成を何度も実施しています(平昌五輪は4回転6本)ので,今シーズン初とはいっても経験値が全然違いました。苦手な 3A を1本にして,2連続ジャンプを2回とも +3T にするという盤石なスコア戦略も見事でした。

 観戦された方の中には,羽生 選手が チェン 選手にトータル 40 点以上も離されたことについて,点数が開きすぎでは?と感じた方もいたと思います。しかし,得点結果分析表を見ると,技術点に関して,基礎点だけでなく GOE(Grade Of Execution,出来栄え)加点でも大きく差がついたことが分かります。2018/19シーズン以降の新採点規則では,GOE 加点は基礎点に対する比率として点数化されるので,基礎点が下がると GOE 加点も下がります。羽生 選手は,演技後半のボーナスタイムでミスが相次ぎ,基礎点が下がってしまったことで GOE 加点も伸び悩みました。GOE 加点が武器である 羽生 選手が,チェン 選手に GOE 加点だけでトータル 20 点も差をつけられたのは屈辱的だったと思います。

 羽生 選手のFSは,演技前半は 4Lo も 4Lz も素晴らしい出来で,大逆転が期待できる内容でした。しかし,4Lo と 4Lz を同時投入したツケが演技後半に噴出。やはり急なジャンプ構成の変更は,羽生 選手を持ってしても極めて困難なミッションでした。それを見届けてからリンクに立った チェン 選手は,精神的な余裕もあってか,ジャンプに全く淀みがない完璧な内容で,4回転5本の先駆者としての凄みさえ感じられました。最高でトータル 333 点と見ていた私の予想を超え,基礎点が上がったこともあって 335 点という歴代最高得点に到達しました。

 チェン 選手の演技構成と完成度は,羽生 選手でも遂行可能なレベルのものでした。それなら,羽生 選手が絶好調ならば次の機会には競った戦いができる … 羽生 本人がそのようにコメントしましたし,報道もそのようなトーンが多いですが,あまりにも楽観的だと私は思います。今回の内容を,今までの蓄積として披露し完璧だった チェン 選手と,蓄積不十分なままギャンブルを仕掛け跳ね返された 羽生 選手。この差は非常に大きいです。しかも,羽生 選手はコンディションも万全でありながら敗れてしまった。昨季の世界選手権の負けは,羽生 選手がケガ明けだったという言い訳ができますが,今回の負けは完全なる力負けです。羽生 選手の「点差ほどの差は無い」というコメントは,本心ではないはずです。聡明な 羽生 選手は,自分がやるべき内容を チェン 選手に完璧に遂行されたという,今回の負けの意味を強く理解した上で,自分を発奮させるためにそう言うしかなかったのだと思います。そのくらい,羽生 選手は強い危機感を抱いていると思います。

 しかし,この差を埋めるのは簡単ではありません。PCS(Program Component Score,演技構成点)でも チェン 選手は 羽生 選手と肩を並べており,今回のファイナルで GOE も同等レベルに達しました。こうなると基礎点の勝負になってくるのですが,4回転5本の安定感が高い チェン 選手を上回るには,単に 4A を入れればよいという話では収まりません。4A を入れても4回転5本ではさほど基礎点を引き上げることはできず,4A の失敗リスクが付いて回ります。かといって 4A 入り4回転6本は体力的に無理な構成でしょう。4A はとても魅力的ですが,4A が チェン 選手に勝つ武器になると考えているようでは,この先 チェン 選手に勝てないままだと思います。4Lz が復活した今なら4回転4本と 3A 2本でも十分勝負できますので,足下をしっかり固めて世界選手権を迎えてほしいです。

 続いて,ロシアのシニアデビュー3人娘と 紀平梨花 選手の女子シングルを振り返ります。こちらも男子シングル同様,2つの表を載せます。

表: 演技構成表 - グランプリファイナル2019 女子シングル
FigureSkateScoreList2019GPFladies2

表: 得点結果分析表 - グランプリファイナル2019 女子シングル
FigureSkateScoreResult2019GPFladies

 演技構成をシーズン中よりも引き上げた選手が続出しました。トゥルソワ 選手はSPで 3A に,FSで4回転5本の構成にトライしました。シェルバコワ 選手はFSで 4F を入れ4回転3本にチャレンジしました。そして,紀平 選手はFSで 4S を実戦で初めて投入しました。転倒してしまいましたが,回転は認められたので,女子史上初めて 4S と 3A の基礎点を同時に獲得しました。

 しかし,優勝したのはシーズン中と同じ構成で完璧な演技を実施した コストルナヤ 選手でした。4回転が無くても,3A 3本で歴代最高得点を記録しました。この勝ち方に対して最も悔しい思いをしているのは,演技構成が同等の 紀平 選手でしょう。昨季のグランプリファイナルは,3A を武器に初出場で初優勝をさらいましたが,今回はその武器を持っているだけではダメで,演技の完成度を伴っていた コストルナヤ 選手が優勝を手にしました。得点結果分析表を見ると分かるように,コストルナヤ 選手の勝因,そして 紀平 選手の敗因は GOE です。ジャンプの失敗があった 紀平 選手の GOE 加点率はわずか 8% しかなく,これでは 29% という高い GOE 加点率の コストルナヤ 選手に太刀打ちすることはできません。

 今回のファイナルで実は評価を上げたのが シェルバコワ 選手です。FSでは新たに 4F を入れてきましたが,大きな失敗はこの 4F の転倒だけで,他の演技要素はとても良い出来でした。PCS も素点平均が8点台後半に乗り,トータル 240 点を記録しました。高難度ジャンプと表現力のバランスが良く,今後 4F が安定し PCS も伸びてくれば,トータル 250 点を最初に記録する選手になると思います。

 紀平 選手は本来の力を出し切れなかったとは言え,これだけの差がついてしまうと,今までと同じ演技構成では勝ち目が乏しくなります。今回初めて実戦投入した 4S は,スコアとモチベーションを共にアップさせる意味で大切なジャンプになってくるでしょう。先日の記事でも指摘したように,4S が安定し 3Lz が飛べるようになって初めて,ロシア3人娘と戦う土俵に乗ることができると思います。ザギトワ 選手(ロシア)が競技会を欠場するというニュースが飛び込んできた今となっては,紀平 選手が3人娘に対抗できる唯一の存在になるでしょう。今回の悔しさをバネに,全日本選手権や世界選手権でどんな演技を魅せてくれるのか,紀平 選手の巻き返しに期待したいと思います。

グランプリファイナル出場選手スコア比較:女子シングル編

 フィギュアスケートのグランプリファイナル出場選手のスコア比較表の女子シングル編です。昨シーズンから勢力図がガラッと変わりましたが,変わったのは顔ぶれだけではなく,ジャンプ構成も昨季とは全く違っています。

FigureSkateScoreList2019GPFladies

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 SPは,どの選手も当然のように 3Lz と 3F を入れています。紀平 選手が 3Lo を使っているのはケガの影響で回避しているだけです。女子のSPは4回転が禁止されているので,3A を持っている 紀平 選手と コストルナヤ 選手は有利になります。そこで少しでもスコアの差を埋めるために,トゥルソワ 選手や シェルバコワ 選手は連続ジャンプの2本目を +3Lo にする,いわゆるセカンドループを入れています。しかもそれを 3Lz と組み合わせてボーナスタイムに入れることで,ボーナスを最大化しています。セカンドループは彼らの同門(エテリ・トゥトベリーゼ コーチ)の先輩である ザギトワ 選手の得点源ですが,この3人はFSでもセカンドループをボーナスタイムに入れています。セカンドループが使えるとスコア戦略上たいへん有効ですが,失敗や回転不足のリスクが高く,ボーナスタイムに組み込むということは,それだけジャンプに自信を持っていることの表れです。

 FSに目を移すと,まさかの 4Lz が表記されています。男子でも数人しかプログラムに入れられない大技を飛ぶ選手が,女子2人もいるとは驚くばかりです。シェルバコワ 選手はなんと2本入れる構成です。2本入れると言うことは,1本は連続ジャンプにしなければなりませんが,それが 4Lz+3T という超大技です。そして彼女の 4Lz はただ飛んでいるのではなく,とても綺麗です。彼女は Lz が得意なようで,3Lz も2本入れて完全に Lz を武器にしたジャンプ構成になっています。

 そして,驚異の4回転4本,うちボーナスタイム1本という,羽生 選手並みの構成を組む トゥルソワ 選手。この比較表を見ると,166 点というFS歴代最高得点を獲ったのもうなずけるところです。3Lz をボーナスタイムに2本入れ,そのうち1本はセカンドループの連続ジャンプという,4回転以外でもスコアを最大化するものすごいプログラムです。PCS(Program Component Score,演技構成点)がそこまで高くない彼女にとっては,圧倒的な技術点で勝ちをつかむという,若手らしい戦術と言えます。

 その2人と共に今シーズン,シニアデビューを果たした コストルナヤ 選手は,完成度の高い 3AFSでも2本入れ,紀平 選手と同等のジャンプ構成を組んでいます。SP歴代最高得点を記録し,トータルでも歴代最高まであと1点に迫りました。4回転が無くても,GOE(Grade Of Execution,出来栄え評価)や PCS が高く,完成度はロシアのシニアデビュー3人娘の中で頭一つ抜けています。

 この3人,そして実績十分の ザギトワ 選手も含め,4人のロシア勢と戦う 紀平 選手は,このうち2人を上回らなければ表彰台に立つ(=3位以内)ことができません。なんとしてもロシア勢の表彰台独占は阻止したいところです。ただ,紀平 選手の現状のジャンプ構成では,彼らを上回るのはとても難しいでしょう。競い合う可能性が最も高い シェルバコワ 選手との間に,基礎点で 12 点もの差がありますので,GOE と PCS を高めてもその差は埋まらず,相手のミス待ちになってしまいます。

 そこで,リスクを承知の上で,Lz を回避しつつ戦える状況を作るために,紀平 選手はFS4S を入れることになるでしょう(比較表には 4S を入れた構成を記載)。3S を 4S に代えると,余った 3S を3連続ジャンプ(+1Eu+3S)に充てることができるので3連続ジャンプのスコアも上がり,現状より基礎点が7点上がるのです。これで シェルバコワ 選手との基礎点の差が5点以内になり,GOE と PCS の上積みによる逆転の確率が高まります。基礎点で負けていた コストルナヤ 選手にも,4S 投入によって基礎点が上回ることになるので,GOE と PCS が同じならスコアが上になります。トゥルソワ 選手とはまだ開きがありますが,彼女の 4S は今季成功率が低く,さらにもう1つミスがあればスコアが争える状況になります。4S 投入により,個人的な感覚として 紀平 選手が表彰台に立つ確率が,現状の 20% から 50% に上がる感じがします。

 私は先日まで,紀平 選手は焦って4回転を入れるべきでないと考えていました。しかし,このスコア比較表を見ながら,考えが変わってきました。コストルナヤ 選手は4回転を,トゥルソワ 選手は 3A を,近いうちに実戦投入するのではないかという予想も出てきています。さすがにファイナルでの投入はないと思いますが,ヨーロッパ選手権での投入はあり得る話です。そうなると,4回転と 3A を同時に成功させる最初の女子スケーターは誰か,という記録面の関心が高まってきます。フィギュアスケートの記録は公式の国際試合で成功した場合に成立します。紀平 選手がファイナルで4回転を入れなかった場合,次の機会は来年の四大陸選手権になりますが,これはヨーロッパ選手権より後に開催されるので,コストルナヤ 選手や トゥルソワ 選手がヨーロッパ選手権で4回転と 3A を同時に成功すると,彼らが最初のスケーターとして記録されます。紀平 選手自身はこんなことは意識していないと思いますが,3A の開拓者として4回転との同時成功を達成する最初のスケーターになってほしいのです。その意味でも,ファイナルではぜひ 4S と 3A をFSで成功させてほしいです。

 比較表には,紀平 選手のいくつかのパターンを付記しました。現状は 3Lz を回避していることで昨季よりもスコアが下がっていますが,3Lz が復活してさらに 4S も加わると,基礎点が シェルバコワ 選手に並び,トゥルソワ 選手とも10点差以内に迫ります。今シーズンの世界選手権(3月)までにこの構成を仕上げれば,昨季獲れなかった世界女王が現実的に狙えます。シニアデビュー3人娘を抑えて世界女王に輝けば,これほど価値あるタイトルはありません。先々にはこのような楽しみも広がります。

 ですが,まずはファイナルで風穴を開けてほしいところです。ファイナルのスコアがどのくらいになるかを予測します。

トゥルソワ 選手が全て成功の演技】
 基礎点 123 点+出来栄え点 24 点(GOE 平均 2 を仮定)+ PCS 100 点(満点の83%)= 247 点

紀平 選手が良質な演技】
 基礎点 109 点+出来栄え点 27 点(GOE 平均 2.5 を仮定)+ PCS 108 点(満点の90%)= 244 点

 トゥルソワ 選手が全てのジャンプを揃えるのは至難の業ですし,紀平 選手にとっても上述の GOE や PCS はそう簡単ではありません。優勝争いは歴代最高得点(241点台)超えをめざす,極めてハイレベルな勝負になりそうです。テネル 選手が完璧な演技なら,全員が 220 点を超えることもけして絵空事ではありません。間違いなく,今までで最も難易度と完成度の高いグランプリファイナル女子シングルが観られることでしょう。

グランプリファイナル出場選手スコア比較:男子シングル編

 フィギュアスケートのグランプリファイナルに出場する選手のスコアの比較表を作ってみました。まずは男子シングルの6名。

FigureSkateScoreList2019GPFmen

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 男子は 羽生結弦 選手と ネイサン・チェン 選手の2強対決ですが,スコアを見ると他の選手も大きく離されてはいないことが分かります。特に,サマリン 選手は2強に並ぶスコアを取れるジャンプ構成になっています。ただし,今季,この構成を成功させたことは一度も無く,3連続ジャンプも 3Lz+3T+2Lo という非常に難しいジャンプなので,成功確率はなかなか上がらないでしょう。ですが,4Lz と 4F の両方を,SPにもFSにも組み込むという意欲的なジャンプ構成なので,ぜひ成功させてほしいと願っています。

 4Lz を飛べる選手が4人もいるのが驚きです。4Lz でスコアを稼げるからこそ,ファイナルに残れたと言えるでしょう。羽生 選手も 4Lz を飛べますが,ケガの原因にもなったジャンプなので,確実性が上がるまでは使わないと思います。どうしても 4Lz は失敗のリスクが高いですから,使わずに戦える 羽生 選手は別の強さを備えています。SPのボーナスタイムに注目すると,ボーナスタイムに連続ジャンプを入れているのは 羽生 選手と チェン 選手だけで,しかも2人とも 4T+3T です。4T の成功確率が高く,ボーナスタイムに入れられるほど自信を持っているこの2人の実力は,やはり飛び抜けています。

 ここからは,羽生 選手と チェン 選手の戦いに焦点を絞ります。FSでは チェン 選手が 4Lz を使うのに対し,羽生 選手は他の選手が誰も飛べない 4Lo を入れて独自性を出しています。これで1点の得点差が出るのですが,FSトータルでは 0.37 点しか差がありません。羽生 選手は 3A2本ともボーナスタイムに入れ,ボーナスタイムの3つのジャンプを全て連続ジャンプにするというチャレンジによって,点差を詰めています。羽生 選手はボーナス加点率が唯一 5% を超えており,演技後半にスコアを稼ぐ構成になっているのですが,連続ジャンプを後ろに持ってくると失敗したときリカバーができないので,非常に緊張感が高く,ジャンプに自信が無いと組めない構成です。

 一方,チェン 選手は難しい連続ジャンプ2つを前半に持ってきており,ボーナスタイムは +2T という軽めの連続ジャンプしか入れていません。前半で失敗しても後でリカバー可能にするリスク対策を採っているわけです。かといってボーナスタイムが楽なわけではありません。ボーナスタイムに4回転を2本入れているのは チェン 選手だけであり,4回転に自信があるからこそボーナスタイムに組み込んでスコアをアップさせているのです。

 2人が揃って今シーズン新たに挑戦しているジャンプがあります。3連続ジャンプを +1Eu+3F にする,いわゆるサードフリップです。これは +1Eu+3S の亜種で,最初に取り入れた 宇野昌磨 選手と ヴィンセント・ジョウ 選手(米)の2人しか実施していませんでした。羽生,チェン 両選手は共に 4T+1Eu+3F という,4回転に付ける大技に挑んでいます。ファイナルでは,このジャンプの成否が勝敗を大きく左右すると思います。

 さて,ついジャンプに注目しがちですが,このような比較表を眺めていると面白いことが見えてくるもので,FSのスピンに関して 羽生 選手と チェン 選手だけがコンビネーションスピンを2回入れています。コンビネーションスピンの方がスコアが高いので,どの選手も2回入れているのかと思いきや,他の選手は1回しか入れていません。このことから,この2人はスピンも得意なのだということが分かります。2人のコンビネーションスピンはとても華があり,完成度も高いので,得点源になっています。これもまた,2人の実力が抜きん出ている理由の1つですね。

 2人の対決はほぼ互角と考えていいでしょう。羽生 選手は 4Lo,チェン 選手は 3A の出来が鍵になりそうです。チェン 選手の 4S や 3A の調子が今一つならば,これらに代えて 4F を投入する可能性もあり,そうなれば 4Lz と 4F が同時に観られることになるので,これはこれで楽しみです。

 歴代最高得点にも期待がかかります。完璧な演技ならどのくらいのスコアになるか考えてみます。2人の技術点の基礎点は,ジャンプが全て成功してスピンやステップのレベルも全て最高だった場合,SPとFSの合計で約 140 点。これに技の出来栄え点(GOE: Grade Of Execution を基に算出)が加点されますが,GOE の平均が 3.5 の場合,出来栄え点は 140×3.5×10% = 49 点。よって,技術点はトータル 189 点。さらに PCS(Program Component Score,演技構成点)が満点の96%を獲得すればSPとFSの合計で 144 点で,トータルスコアは 333 点出る計算になります。現在の歴代最高得点(2018/19シーズン以降の現行ルール)は,チェン 選手が昨季の世界選手権で出した 323 点台ですから,十分に更新可能であることが分かると思います。2人揃って 330 点を超える大会になるかもしれませんね。

NHK杯感想:羽生結弦 紀平梨花 冷静にグランプリファイナル進出 【スポーツ雑誌風】

 女子シングル。わずかな綻びがあったとはいえ良い内容でSP(Short Program,ショートプログラム)をまとめた 紀平梨花 だったが,驚異の85点台をたたき出した コストルナヤ (ロシア)に6点差をつけられ,内心穏やかではなかったはずだ。目の前の勝負だけを考えるなら,FS(Free Skating,フリースケーティング)での4回転ジャンプ投入を焦るところだが,マスコミには4回転あるぞとリップサービスをしつつも,紀平 陣営は冷静だった。4回転を入れずに,しかし GPF(グランプリファイナル)に向けた宣戦布告をFSで仕掛けてきた。FSのジャンプ構成を見てみよう。

【紀平梨花 NHK杯 FS】 3S 3A+2T 3F 3A / 3F+3T 2A+2T+2Lo 3Lo

《凡例》 A:アクセル,Lz:ルッツ,F:フリップ,Lo:ループ,S:サルコウ,T:トウループ,Eu:オイラー
     /:ここから右はボーナスタイム(基礎点 1.1 倍)

 今までは,3A を最初の2つのジャンプに入れていた。高難度のジャンプを最初に飛ぶのは当然の選択だ。しかし,NHK杯FSのジャンプは,最初に 3S から入る上述の構成を試し,2つの 3A を完成度高く決めて見せた。 3A に関する以下の記録は,女子では史上初である。

  • 最初の 3A が2回目のジャンプ
  • 3A を4回目のジャンプで飛ぶ
  • 2本の 3A の間に別のジャンプが入る

 最初の 3S は当然,将来入れる 4S への布石だ。4S → 3A+2T → 3A だと飛ぶ方も体力が要るし,プログラム全体で見ると頭でっかち過ぎる。そこで,3つめのジャンプでワンクッション置き,4つめに 3A を入れたと考えられる。これで前半の4つのジャンプはとてもきらびやかなものになる。

 4S を解禁し,さらにケガの影響で控えていた Lz (ルッツ)が戻ると,以下のようなジャンプ構成が予想できる。

【紀平梨花 FS 将来予想】 4S 3A+2T 3Lz 3A / 3Lz+3T 3F+1Eu+3S 3Lo

 鳥肌が立つ素晴らしいジャンプ構成だ。4回転と 3A の同時成功はもちろん女子史上初の快挙になる。4S 投入によって余った 3S は3連続ジャンプに使うことができるので,3連続ジャンプの基礎点も上がる。また,Lz と F を両方難なく飛び分けられる 紀平 だからこそ,Lz を2本使いつつ,3連続ジャンプを F に付けることができる。

KihiraRikaJumpCompare2019

 NHK杯では,4S も 3Lz も飛ばない構成で,伸びしろも残しながらFSで 150 点を超えてみせた。上述の将来構成はNHK杯よりも基礎点が10点高い。そして,この重厚なジャンプ構成が成功すれば PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに引き上がるだろう。ロシアのシニアデビュー3人娘(コストルナヤ,シェルバコワ,トゥルソワ)と十分戦える状況になるのだ。このような将来への可能性を示せたという点において,NHK杯はたいへん価値ある2位と考えていいだろう。

 2週間後の GPF で上述のジャンプ構成が披露されるかどうかは未知数だが,焦りは禁物だ。GPF は,その構成に着々と近づく姿を見せて,ロシア勢にプレッシャーを与えられれば,既に GPF 女王の称号を得ている 紀平 が順位にこだわる必要は無い。紀平 陣営の真のターゲット,それは3月の世界選手権なのだから。

 とはいえ,コストルナヤ の完成度の高さが現実の脅威であることは間違いない。3A をSP,FS計3本入れ,ジャンプ構成でも 紀平 と真っ向勝負を挑んでいる。PCS も,シニアデビューながら既に 紀平 とほぼ互角のスコアを得ている。3A は高さと回転姿勢が素晴らしく,紀平 と同等かそれ以上の完成度がある。今季の コストルナヤ は,昨季までの綺麗さに力強さが加わった印象があり,その体力や筋力が,3A の安定と細部まで行き届いた表現を生んでいるように感じられる。4回転ジャンプを武器とする トゥルソワ や シェルバコワ ほどの活躍は難しいのではないかという私の予想は外れ,ジャンプの安定度と PCS の高評価から考えると,コストルナヤGPF 優勝の筆頭候補と言うべき存在になった。NHK杯では,FSの伸びしろを残しながらもトータル 240 点を記録しており,GPF で PCS の上乗せができればトータル 245 点に届く可能性がある。

 GPF の女子シングルは,紀平梨花,ロシア3人娘(コストルナヤシェルバコワトゥルソワ),ザギトワ (ロシア),テネル (米)が競演する。230 点でも表彰台を逃す可能性があるという,極めてハイレベルな大会になる。この6選手を一度に観られる2週間後が今から待ち遠しい。

 男子シングル。SPがほぼ完璧だった 羽生結弦 に歴代最高得点の期待がかかったが,その達成は GPF までお預けとなった。FS後半最初のジャンプである 4T+1Eu+3F は 羽生 といえども難易度が非常に高い。後半の4回転,4回転からの3連続,今季から取り入れたサードフリップ(=3連続ジャンプの3本目が 3S ではなく 3F)という3つのハードルが重なるからだ。かなり質の良い 4T が必要なことから,ジャンプの入りに慎重になってしまったのかもしれない。これが 2T になってしまったことでスコアは伸びなかったが,その後の 4T+3T3A+1Eu+3Sリカバー羽生 の冷静さと好調さを示すものだった。4回転からの連続ジャンプと 3A からの3連続ジャンプ,これらを最後の2つとして成功させるなど並大抵のことではなく,それだけ心技体が充実していた証だと思う。

 実は,グランプリシリーズを2連勝し負傷も無いのは 羽生 史上初めてのことだ。2戦連続 300 点超えも初。今までで最高のシーズン前半を送っていると言えるのだ。今シーズンこそ,世界選手権までケガ無く活躍してほしいと切に願っている。

 GPF では,宇野昌磨 との対戦が叶わなかったのは寂しいが,ネイサン・チェン (米)との対戦が実現する。グランプリシリーズのスコアだけを見れば 羽生 が優勢に見えるが,グランプリシリーズの チェン は明らかに本気を出しておらず,ファイナルに向けて万全の調整をしてくるだろう。NHK杯から中1週しかない 羽生 は日程面ではハンデを負うが,NHK杯 → GPF → 全日本 と2週間おきに大会があるこのサイクルに日本選手は慣れているし,羽生 はこのサイクルの中で何度も GPF を制してきたので,全く問題ないだろう。羽生 の3年ぶり5度目の制覇か,チェン の3連覇か,2人の頂上対決が今からとても楽しみだ。

NHK杯プレビュー:羽生結弦 紀平梨花 出場

 今週末は,フィギュアスケート グランプリシリーズ6戦目の日本大会。今年は 札幌 開催となるNHK杯です。出場選手の面でも,グランプリファイナル進出者が決まるという意味でも,とても楽しみな大会です。細かく書く時間が取れませんので,普通の新聞記事レベルになってしまいますが,見どころを書いておきます。

 男子シングルは,なんといっても絶好調の 羽生結弦 選手が観られることが楽しみです。前回のカナダ大会もかなり良い演技でしたが,それを超えて,平昌五輪後の新採点ルールにおける最高得点記録が達成されるかもしれません。2015年,長野 開催のNHK杯で当時の最高得点を塗り替え,初めてトータル300点台を記録した,あの再現を否応なく期待してしまいますが,今シーズンの 羽生 選手ならやってくれそうな予感がします。くれぐれも(平昌五輪シーズンのように)張り切りすぎてケガなんてことだけはないように…。

 他の日本選手は,山本草太島田高志郎 の2選手。2人とも期待の若手で,とても良い演技をするので,ぜひ観てほしいです。出場が前半グループになると思うので,放送の早い時間に登場してきますのでお見逃し無く!

 海外勢では,卓越した表現力を持ち熱烈な日本通の ジェイソン・ブラウン 選手(米)と,昨シーズンから頭角を現し,スケーティングが抜群の エイモズ 選手(フランス)が楽しみです。順当なら,彼らと 羽生 選手が表彰台に上るでしょう。

 女子シングルは,当然,紀平梨花 選手を応援します。SP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)合わせて3本3A(トリプルアクセル)を綺麗に入れた上で,プログラム全体の完成度が高ければ優勝間違いなし…と全く言い切れなくなってしまった今シーズン。紀平 選手以外にも3Aを3本入れる選手が現れました。ロシアの若手3人娘の1人,コストルナヤ 選手の3Aは単に飛べるというレベルではなく,高さが高くとても見栄えがする,質の高い3Aです。また,PCS(Program Component Score,演技構成点)も既にFSで72点(満点の90%)に迫るスコアを出しており,3Aと PCS の両面で 紀平 選手と戦える力を持っています。紀平 選手は多彩な表現力が大きな魅力ですが,コストルナヤ 選手は力強さと美しさが共存するというこれまた希有な魅力を持っていますので,この2人の対決はたいへん楽しみです。

 ここに,平昌五輪女王にして現世界女王の ザギトワ 選手(ロシア)も加わるのですから,この3選手のうち誰かは銅メダル以下という,とんでもなくハイレベルな大会になります。ザギトワ 選手は今シーズン絶好調とは言えませんが,大好きな日本で初のNHK杯出場なので,モチベーションは高いと思います。3選手が良い演技をした場合,トータル230点でも銅メダルという驚異的なことが起きるかもしれません。

 男女ともシングルは金曜日にSP,土曜日にFSが行われ,女子SPの前半以外はNHKの地上波で放送されます。特に男子は,どちらも夜7時半からのゴールデンタイムに実施されますので,前半グループからしっかりと観ていただくことをお勧めします。

 フィギュアスケートはどうしてもシングルに注目が行きがちですが,今年も楽しみなのはアイスダンス。昨年に引き続き,パパダキスシゼロン 組(フランス)が出場してくれます。技術,芸術性,完成度,存在感,全てが圧倒的で異次元。アイスダンスはシングルに比べると物足りなく感じられる方もいるかもしれませんが,彼らを観るとアイスダンスの魅力がわかると思います。彼らが来日してくれて,彼らの映像を生放送で鮮明に観ることができるのは本当に貴重です。金曜日のSP,土曜日のFS共に午後0時台という昼間の実施で,かつBS放送ですが,ぜひ観ていただきたいです。

フィギュアスケートスコア計算説明図 2019/20シーズン版

 スコアの算出方法を1枚の図にまとめた「フィギュアスケートスコア計算説明図」の今シーズン版です。

FigureSkateScoreStructureV2.1

 昨シーズンとほぼ変わっていません。変更点は,ジャンプの回転不足またはエッジ違反があった場合の減点がやや緩和されたことです。

  • 昨シーズン: 基本点数 × 0.75 (25% 減点)
  • 今シーズン: 基本点数 × 0.820% 減点)

 回転不足とエッジ違反が同時に発生したジャンプの点数は,基本点数の 0.6 倍で,これは昨シーズンと変わりません。減点が緩和されるのは,回転不足だけ,エッジ違反だけという場合です。

 以下,説明図に沿ったスコア算出ロジックを説明します。 (2018/19シーズンに掲載したものを再掲)


 スコアの骨格は,説明図の右側に縦に書かれた式で表されます。

  総得点 = 技術点 + 演技構成点 - 減点

 以下,この3つがどのように算出されるかを,説明図の言葉を追いながら説明していきます。図中記号 A を,以下 [A] と表記します。

◆技術点

 技術点は,ジャンプ,スピン,ステップといった個々の技(これを「要素」と呼ぶ)の難易度や出来ばえを評価したスコアです。

[A] 基本点数

 技術点は,要素を1つずつ点数付けし,それらを合計したものです。要素の種類やレベルは審判が判定しますが,各要素の点数(説明図では「基本点数」と呼ぶ。筆者造語)は,その難易度に応じてあらかじめ定められています。各要素の基本点数を図の左側に記しています。

 ジャンプは,回転数踏み切り方の種類(記号で書くと A,Lz,F,Lo,S,T)によって点数が決まります。連続ジャンプ(コンビネーションジャンプ)は,各々のジャンプの点数を合計した点数になります。ジャンプシークエンスとは,あるジャンプの後すぐにアクセルジャンプを飛ぶもので,各々のジャンプの合計の 0.8 倍の点数が与えられます。

 スピンの点数は,スピンの種類付加要素レベルによって決まります。付加要素とは,スピンに入る際に跳ねるような動作を入れる「フライング」,スピンの途中で軸足を換える「足換え」のことを指し,1つのスピンでその両方が実施されることもあります。レベルは,その定義が決められており,実施されたスピンに対して審判がレベルを判定します。

 ステップは,レベルによって点数が変わります。レベルの定義が決められており,審判がレベルを判定する点はスピンと同様です。

 振付の自由な表現要素である「コレオグラフィックシークエンス」(略称:コレオ)は基本点数が固定で,出来ばえ評価が選手によって変わります。

 通常は,基本点数がそのまま基礎点[F]になります。ただし,以下のようなケースでは基礎点が上下します。

[B] ペナルティ

回転不足(アンダーローテーション:Under Rotation)
 正しい回転より90度(角度)以上回転が少ない場合,回転不足と判定され基礎点[F]が本来の点数の 0.8 倍に減点されます。ちなみに,180度以上少ないとダウングレード(Down Grade)といって1回転少ないジャンプの基礎点になります。

《例: 3A (トリプルアクセルジャンプ)》

  • 回転OK: 8.0 点
  • 回転不足: 6.4 点 (= 8.0 × 0.8)
  • ダウングレード: 3.3 点 (= 2A の点数)

エッジ違反(エッジエラー:Edge Error,エッジ誤り:Wrong Edge)
 ジャンプの踏み切りの際に,Lz(ルッツ)はスケートの刃を体の外側に倒す(アウトサイドエッジ),F(フリップ)は体の内側に倒す(インサイドエッジ)のが正しい飛び方です。これらの体の倒し方(エッジの使い方)をにしてしまうと基礎点[F]が本来の点数の 0.8 倍に減点されます。

回転不足とエッジ違反が同時に発生した場合は,基礎点[F]が本来の点数の 0.6 倍に減点されます。

【改定点】 昨シーズンはこれらの減点は 0.75 倍でしたが,やや緩和されました。

[D] ジャンプ後半実施

 演技時間の後半に実施するジャンプのうち,SP(Short Program,ショートプログラム)では最後の1回FS(Free Skating,フリースケーティング)では最後の3回に対して,基礎点[F]1.1 倍に加点されます。このボーナスはジャンプにだけ適用されます。

《例》 3A: 8.8 点 (=8.0×1.1)

[E] 同種単独ジャンプ重複
 FSでは,3回転以上の同じジャンプを2回飛ぶ場合,少なくとも1回は連続ジャンプにするというルールがあります。しかし,転倒や着氷の乱れ等で2回とも単独ジャンプになってしまった場合,2回目のジャンプの基礎点[F]0.7 倍に減点されるという,ペナルティの一種です。

[F] 基礎点(BV: Base Value)

 各要素の難易度をベースに,実施状況(上述の後半ボーナスやペナルティ)を加味したスコア。算出方法は,上述[A][E]をご参照ください。

[G][H][I] 出来ばえGOE: Grade Of Execution)

 各要素がどのくらい良い出来だったかを評価してスコアに反映します。9人の審判が各々 +5 ~ -5 の11段階で評価[G]し,最高点と最低点を除外した7人評価点を平均[H]し,評価±1ごとに 10% ずつ基礎点を加減するように出来ばえ点[I]を算出します。GOE 評価平均値が +5 ならば +50%,-5 ならば -50% となります。ただし,コレオは例外で,基本点数 3.0 に対して出来ばえ点は最大 ±2.5 となっています。

《出来ばえ点の計算例》

  • 評価対象要素: 3Lz(トリプルルッツジャンプ)
  • 審判9人の出来ばえ評価[G]3, 3, 3, 2, 2, 2, 1, 1, 0
  • 最高点(3)と最低点(0)を除外: 3, 3, 3, 2, 2, 2, 1, 1, 0
  • 平均点[H] = (3×2 + 2×3 + 1×2) / 7 = 2
  • 3Lz の点数[C]5.9 (回転不足,エッジ違反なし)
     ⇒ 出来ばえ点[I] = 5.9 × (2 × 0.1) = 1.18
 GOE という言葉は,+5 ~ -5 の評価点[G]を意味する場合と,出来ばえ点[I]を意味する場合があるので要注意です。Grade という言葉の意味からすると前者が真の GOE で,後者は「GOE による加点/減点」と呼ぶべきと考え,この説明図では前者を GOE としています。

 出来ばえ点がどの値に基づいて計算されるかについて,よく「基礎点の最大 50% の出来ばえ点が付く」というような説明がされますが,「基礎点」という言葉もまた,文脈によっていくつかの意味で使われるので,正確な点数を考えるときは要注意です。

  • 各要素に元々付与されている点数(説明図では「基本点数」[A]と呼ぶ。筆者造語)に,回転不足やエッジ違反の減点[B]を加味した点数(説明図では「実施点[C]と呼ぶ。筆者造語)が,出来ばえ点の算出に用いられます。すなわち,回転不足やエッジ違反があると,プラスの GOE でも出来ばえ点が伸び悩むことになります。
  • ジャンプの後半実施ボーナス[D]や,同種単独ジャンプ重複による減点[E]は,出来ばえ点には影響しません。これらは基礎点[F]の算出にのみ用いられます。
  • 説明図において「基礎点」という言葉は,要素の難易度をベースに,実施状況(後半ボーナスやペナルティ)を加味した,出来ばえ点を加算する直前のスコア[F]を意味します。説明図における「基本点数」や「実施点」のことを,試合中継やニュースで「基礎点」と表現される場合が多々ありますので,文脈に応じた解釈が必要です。

[J][K] 技術点TES: Technical Element Score)

 基礎点[F]出来栄え点[I]加算したものが各要素の技術点[J]で,これを全要素分合計したものが,演技全体の技術点[K]です。シングル競技では,SPの要素は7つ(ジャンプ3,スピン3,ステップ1),FSの要素は12個(ジャンプ7,スピン3,ステップ1,コレオ1)です。

◆演技構成点

 演技構成点は,演技全体の完成度を評価したスコアです。以下に説明する5つの評価観点(コンポーネント)があり,これらはよく,ファイブコンポーネンツ(5 components),あるいは単に「コンポーネンツ」と呼ばれています。

  1. Skating Skill(略記記号 SS)… スケート技術
     スケーティング全体の正確さと確実さを,下記の観点で評価します。
    ・ 深いエッジ,ステップおよびターンの利用
    ・ バランス,リズミカルな膝の動き,足運びの正確さ
    ・ 流れと滑り
    ・ パワー,スピード,加減速の多様な利用
    ・ あらゆる方向へのスケーティングの利用
    ・ 片足でのスケーティングの利用
  2. Transitions(同 TR)… つなぎ
     すべての要素をつなぐ,複雑なフットワーク,ポジション,動作が多様であることと,これらをはっきりとした目的を持って用いることを,「ある要素から別の要素への動作の連続性」「多様さ」「難しさ」「質」といった観点で評価します。
  3. Performance(同 PE)… パフォーマンス
     
    音楽と構成の意図を伝える際にスケーターの体の動き,感情の表現,知性の表出が十分にあることを,下記の観点で評価します。
    ・ 体の動き,感情の表現,知性の表出および投射
    ・ 身のこなしと動作の明確さ
    ・ 動作とエネルギーの多様さとめりはり
    ・ 個性/人柄
  4. Composition(同 CO)… 構成
     計画的,発展的,独創的な各種動作の構成に関して,下記の観点で評価します。
    ・ 目的(アイデア,コンセプト,ビジョン,雰囲気)
    ・ パターン/氷面の十分な利用
    ・ 空間の多次元的な利用と動作のデザイン
    ・ フレージングと形式(動作および部分が音楽のフレーズに合っていること)
    ・ 構成の独創性
  5. Interpretation of the Music(同 IN)… 音楽解釈
     音楽のリズム,特徴,内容を個性的に,創造的に,偽りなく,氷上の演技へ移し換えることを,下記の観点で評価します。
    ・ 音楽(タイミング)にあった動作とステップ
    ・ 音楽の特徴/感情の表現,およびはっきりと識別できるときにはリズムの表現
    ・ 音楽の細部とニュアンスを反映するフィネス(スケーターによる音楽の細部とニュアンスの動作を通じた技巧的かつ洗練された取り扱い)の利用

 上記説明はやや格式張っていますが,下線を引いた箇所と箇条書きの箇所は,国際スケート連盟(ISU)発行の「技術規程」の翻訳(日本スケート連盟発行)の表現を引用しています。

[L] 評価点

 上記5つの項目各々について,10点満点0.25点刻みで9人の審判(GOE の審判と同じ人)が採点します。

[M] 演技構成点(項目別)

 最高点と最低点を除外した7人評価点[L]平均した点数。テレビや新聞記事で解説者が「構成点が8点台後半」などと言った場合,8点台後半とはこの点数を指しています。この点数が9点台なら超一流の証で,世界で男女シングル各数名しかいません。

[N] 係数

 技術点[K]と演技構成点[O]の比率が,ほぼ1:1になるように調整するための係数で,女子SP: 0.8 倍女子FS: 1.6 倍男子FS: 2.0 倍と定められています。男子SPは,係数を適用しません(係数1倍)。

[O] 演技構成点PCS: Program Component Score)

 5項目の点数[M]を合計(満点は50点)し,演技種目に応じた係数[N]を掛け算した点数。演技構成点満点は,

  • 男子 SP: 50 点,FS: 100
  • 女子 SP: 40 点,FS: 80
です。係数が掛けられるため,同じ演技構成点でも種目により価値が異なり,例えばSPの演技構成点40点は,男子なら満点の8割ですが,女子は満点を表します。

◆減点[P]

 最も多い減点は転倒です。1回ごとに1点減点で,3~4回目は2点減点になります。例えば,3回転倒すると4点減点になります。他には,

  • 演技時間超過: 1点
  • 演技の開始姿勢を取るまでの準備時間超過: 1点
  • 衣装の一部がリンクに落下: 1点
などの減点があります。

◆総得点の見方

 係数[N]の調整の意味からわかるように,

  • 男子 SP:100 点,FS:200
  • 女子 SP:80 点,FS:160

満点に相当することになります。実際には,以前より難しいジャンプが入っているため技術点が上昇し,満点相当以上の点数が出ています。

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