マイクを持てば酔っぱらい

~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

2020/21シーズン

世界選手権2021の明と暗

 かなり前の話題ですが,3月末に開催されたフィギュアスケート世界選手権の結果を振り返っておきます。世界的なコロナ禍の中,開催できたことが奇跡なので,順位は気にせず各選手の演技を堪能したい,と試合前は思っていたのですが,実際に結果が出てみるとやっぱり一喜一憂してしまいますね。

 良かったことは2つ。1つめは,北京五輪の出場枠を男女シングル共に3枠確保したこと。五輪の前年の世界選手権は,その成績によって各国から五輪に何人出場できるか(これを枠と呼んでいる)が決まるのですが,男女シングル両方とも3枠を決めたのは日本だけです。あのロシアでさえも,女子は3枠取りましたが男子は2枠ですし,3枠確保確実だった米国男子も世界選手権で選手の1人が不調で2枠になるというまさかの事態が起こりました(ただし,ロシア男子,米国男子共に今後3枠目を取れる可能性が残っています)。前回の平昌五輪では,日本女子シングルがまさかの2枠という事態に陥りました(→過去のブログ記事)ので,今回3枠を確保したことは素晴らしいことだと思います。あとは,北京五輪が開催できるのか,というところが気がかりですけどね。

 2つめは,鍵山優真 選手が日本チーム最上位の銀メダルを獲得したことです。初出場の世界選手権で,シニアデビューのシーズンに,コロナ禍で普段と異なる雰囲気の大会で,実力をきちんと出し切ったことは本当に素晴らしいです。しかも,羽生結弦 選手の世界選手権初出場(銅メダル)を超える成績。また,宇野昌磨 選手は国際試合では一度も 羽生 選手より上位になったことがない(全日本選手権では上位の実績あり)のですが,鍵山 選手はシニアデビューシーズンに 羽生 選手より上位を獲得。こういう巡り合わせというのは,好成績を収めたこと以上に,選手に大きな自信を与えるものだと思います。

 これで,北京五輪における ネイサン・チェン (米)対抗馬の一番手に 鍵山 選手が浮上したと私は考えています。一度の試合の成績でそこまで言えるのか,と思う方もいると思いますが,今回の世界選手権が五輪プレシーズンという極めて重要な時期の大会であり,そこで 羽生・宇野 両選手を上回る成績を収めたことで得られる自信は,とてつもなく大きいと思います。鍵山 選手は自信を得つつも,自分は日本で3番手だという思いが変わることはないでしょうから,自信と謙虚さが両立した状態で今年秋からの五輪シーズンを過ごしていくと思います。4回転ジャンプをもう1種類加えることができれば,チェン 選手の対抗馬どころか,金メダル争いができるレベルまで急成長する可能性も十分にあります。思い起こせばソチ五輪のシーズン。羽生 選手が急成長し,世界選手権3連覇中だった パトリック・チャン 選手(カナダ)にグランプリファイナルで初めて勝利し,その勢いで五輪の金メダルを獲得しました(→過去のブログ記事)。そんな奇跡を,今度は 鍵山 選手が チェン 選手相手に起こすのではないか,なんてことを想像するとワクワクが止まりません。

 明るい結果があった一方で,羽生結弦紀平梨花 の男女両エースの世界選手権の結果は,選手本人が一番深刻に受け止めているでしょう。2人の置かれている状況は,1年3ヶ月前のグランプリファイナル2019(→過去のブログ記事)から変わっていないどころか,むしろ後退しています。たしかに今回の世界選手権は非常に異質な大会ではありましたが,ライバルたちはそんな状況でもきちんと結果を残しています。両選手とも SP (Short Program,ショートプログラム)は良かったものの,FS (Free Skating,フリースケーティング)で大崩れしてしまいました。チェン 選手が珍しく SP でミスし,優勝も可能だった 羽生 選手は,終わってみれば 鍵山 選手にも敗れて3位。トゥルソワ 選手(ロシア)が SP で大崩れし,表彰台がほぼ確実だったはずの 紀平 選手はよもやの7位に終わりました。

 両選手が得意なはずの 3A (トリプルアクセル)ジャンプでミス続発,というのがとても気がかりです。羽生 選手が 4A (4回転アクセル),紀平 選手が 4S (4回転サルコウ)の練習に注力するあまり,3A に綻びが生じてしまったのだと思いますが,これには「試合勘の低下」という要因が大きく影響しているでしょう。今シーズンは10~11月のグランプリシリーズに出場できず(羽生 選手:当初から辞退,紀平 選手:出場予定試合が中止),試合経験を積めないまま,いきなり全日本選手権に臨む形になりました。全日本選手権は両選手ともなかなか内容が良かったので,それをさらに進化させれば世界選手権も好成績,と期待しましたが現実は厳しいものでした。

 両選手とも完璧主義の傾向が強く,例年であれば,シーズンを通してプログラムを仕上げていく途中に試合があり,そこで仕上がりを確認しながら全日本選手権や世界選手権にピークを持っていく,という戦い方をしています。ですから今シーズンの調整は難しかっただろうと思います。とはいえ,過去のシーズンでは,勝負所で結果を取りに行くようなことも両選手は何度となく実行してきましたので,例年と違う状況でもきっちり世界選手権に照準を合わせてくる,と私は思っていました。それができなかったということは,試合勘が低下していた証だと思います。羽生 選手はぜんそく発症,紀平 選手は時差調整の失敗などが敗因として言われていますが,それを世界選手権という大事な大会で起こしてしまうこと自体,試合勘が鈍っていることの表れだと思います。

 羽生 選手は全盛期の演技に到達できない自分との戦い紀平 選手は高得点ジャンプと結果へのこだわりを両立させるロシア選手との異次元の戦いを強いられています。羽生 選手は平昌五輪を最後に,直近3年間 ネイサン・チェン 選手に勝てていません。紀平 選手は,平昌五輪女王の ザギトワ 選手には勝利したものの,その後台頭してきた コストルナヤ,シェルバコワ,トゥルソワ のロシア3人娘には勝てていません。その戦績に加えて,今回の世界選手権の内容を考えると,残念ながら,羽生 選手に五輪3連覇を,紀平 選手に北京五輪金メダルを期待するのは酷ですし,もっと踏み込んで言えばメダル獲得さえもたいへん厳しい状況にある,と言わざるを得ません。

 2人の実力を思えば,五輪でのメダルを期待しない方が失礼でしょうし,マスコミもメダルは当然という報道をしていくでしょう。しかし,現実を直視して,冷静に応援することが求められているような気がしてなりません。まずは,今週開催される国別対抗戦で,羽生 選手と 紀平 選手が復調した姿を観たいです。世界選手権をメインディッシュに喩えるなら,国別対抗戦はデザートのようなもので,比較的プレッシャーが少ない試合なので,ここでベストな演技を披露し,良いイメージを得て五輪シーズンを迎えてほしいと,切に願っています。

世界フィギュア2021プレビュー

 いよいよ,フィギュアスケート世界選手権が始まります。昨年の世界選手権は中止され,今季のグランプリファイナルも開催されていませんので,全世界のトップスケーターが集う大会はグランプリファイナル2019以来,1年3ヶ月ぶりとなります。本来であれば,羽生結弦 選手の王者奪還なるか? 紀平梨花 選手の初優勝は? 北京五輪の出場枠3枠を確保できるか? などの話題で盛り上がりたいところですが,こういうご時世だと,勝負をあおる気持ちにはなかなかなれませんね。無事に開催され,選手の皆さんにはベストな演技をしてほしい,それを切に願うだけです。

 簡単に見所に触れておきたいと思います。男子はやはり 羽生結弦 vs ネイサン・チェン(米)の頂上決戦でしょう。今季の 羽生 選手のプログラムは SP(Short Program,ショートプログラム)も FS(Free Skating,フリースケーティング)も素晴らしく,個人的予想としては両方とも北京五輪に持っていくのではないかと思えるプログラムです。良い演技だった全日本選手権からさらに完成度を上げられれば,スコア 330 点もあり得ると思います。

 ただ,チェン 選手に勝って優勝する可能性は,正直なところかなり低いです。チェン 選手のジャンプの安定感や,羽生 選手とはまた違ったプログラム全体の構成力は,完全にチャンピオンであり,羽生 選手は今や追う立場にいます。羽生 選手に勝機があるとすれば,SP を完璧に演じて,チェン 選手に FS でミスできないというプレッシャーを与えることです。過去最高の名勝負が生まれることを期待しましょう。

 日本からは,羽生 選手に加え,宇野昌磨鍵山優真 の両選手も出場します。スイスで ランビエール コーチの指導を受け密かに優勝を狙う 宇野 選手。世界選手権初出場で世界にアピールしたい 鍵山 選手。2人のどちらかが表彰台に乗る可能性は大いにあり,彼らの演技もとても楽しみです。

 チェン 選手以外の他国の注目選手としては,ジェイソン・ブラウン(米),ヴィンセント・ジョウ(米),ボーヤン・ジン(金博洋,中国),コリヤダ(ロシア)の各選手が表彰台を争うことになるでしょう。

 続いて女子。紀平梨花坂本花織宮原知子 の日本勢 vs シェルバコワトゥルソワトゥクタミシェワ のロシア勢という,ここ数年続く構図が今回も当てはまります。FS に4回転ジャンプと 3A(トリプルアクセル)2本を入れる 紀平 選手は,SP も FS も完璧でスコアを 240 点台に乗せれば優勝が見えてくると思います。安定感と勝負度胸抜群の 坂本 選手,高い経験値と演技構成力を持つ 宮原 選手は,ロシア選手が崩れれば表彰台を狙えると思いますが,彼らの演技は唯一無二の魅力にあふれているので,スコアに関係なく堪能したいです。

 対するロシア勢は,4Lz(4回転ルッツ)を FS で2本入れ,総合力も高い シェルバコワ 選手が優勝候補筆頭です。4回転ジャンプを FS で4~5本入れてくる トゥルソワ 選手も,波に乗ったら手が付けられない爆発力を持っています。トゥクタミシェワ 選手は,競争が激烈なロシアで20代でも代表になる確かな技術と,彼女にしか表現できない成熟した雰囲気のスケーティングが素晴らしいです。昨季に大活躍した コストルナヤ 選手が代表を逃すという波乱がありましたが,強力な3選手であることに変わりはありません。

 コロナ禍の影響はフィギュアスケートにも直撃しており,今季の国際大会の多くが中止されたり,新型コロナウイルスに罹患した選手も出たりしました。ですから,予期せぬ波乱が起きる可能性は例年より高いとは思いますが,それに乗じて好成績を収めたとしてもあまり喜べるものではないでしょう。今回は,勝負のことはあまり考えずに,全ての選手の境遇や努力に思いをはせながら観戦したいと思います。

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