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サモドゥロワ

世界フィギュア2019 プレビュー 【スポーツ雑誌風】

 さいたまスーパーアリーナで開催される,フィギュアスケート世界選手権の見どころと勝負の予想をスポーツ雑誌風に記します。


◆男子シングル

 優勝争いは,羽生結弦宇野昌磨ネイサン・チェン (米)の3選手が有力で,ヴィンセント・ジョウ (米),ボーヤン・ジン (金博洋,中国)らが表彰台を狙う。彼らの4回転ジャンプはSP(Short Program,ショートプログラム)で2本,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4本と横並び(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事参照)なので,本番の演技の完成度が勝敗を分ける。

 中でも最も優勝に近いのが 宇野昌磨 だ。世間の下馬評は 羽生 や チェン の声が多いかもしれないが,私は 宇野 に勝機ありと見ている。2月の四大陸選手権で,ケガを抱えながらFSの今シーズン世界最高得点を叩き出して優勝したことは,宇野 にとって大きな自信となり,主要国際大会6大会連続2位から脱したことで胸のつかえも取れただろう。今シーズンは,周囲の期待に応え勝ちにこだわる姿勢を貫いており,日本開催の地の利も生かし,初めて 羽生 を破って初優勝という大願成就を果たしたい気持ちは誰よりも強いだろう。安定感やピーキング能力はここ3シーズン発揮されており,SPとFSが両方ノーミスで実施できれば初の世界王者を手にするだろう。

 羽生 はケガ明け4ヶ月ぶりの実戦であり,ノーミスは可能かもしれないが,完成度の高い実施は難しいだろう。平昌五輪の再現を期待するファンは多いが,五輪という特別な舞台であり,過去のプログラムの再演だった 平昌 の状況とは異なり,今シーズンはプログラムを試合で滑る機会が少なかったので,いくら練習で好調だったとしても,いきなり世界選手権で完成度を高めるのは難しいと予想する。SPは大丈夫と思うが,FSは転倒や回転抜けが無ければ上出来と考えた方がよいだろう。

 チェン は今シーズン絶好調で,SPとFSを完璧に揃えた1月の全米選手権の出来が再現できれば間違いなく優勝できる。ただ チェン は,2017年の世界選手権,2018年の平昌五輪と2年続けてシーズン終盤の大舞台で優勝はおろかメダルさえも逃しており,大舞台で力を発揮する技術とメンタルが試される。不得手の 3A の出来が勝負を分けるかもしれない。

  • 私の順位予想 … 1位: 宇野,2位: チェン,3位: 羽生
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: チェン,2位: 羽生,3位: 宇野

◆女子シングル

 日本選手の表彰台独占という夢のような光景が見られるかもしれない。その可能性が60%くらいあると思う。スコアの観点では,紀平梨花 を ザギトワ (ロシア)が追いかけ,さらにその後ろに他の選手が僅差でひしめく状況(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事《日本選手ロシア選手》参照)だが,日本3選手の地力・地の利と,ロシア選手の今シーズンの停滞を考えると,日本選手の表彰台独占の可能性はけして贔屓目ではない。

 優勝候補の筆頭はもちろん 紀平梨花 である。技術点が抜群に高く,PCS (Program Component Score,演技構成点)も ザギトワ と肩を並べトップクラス。状況に応じて,ジャンプの難度を落としたり,その場で構成を変更する対応力も過去の試合で証明済みだ。日本開催が逆プレッシャーとなり,シーズンの最後に息切れという可能性もゼロではないが,今シーズンはSPとFSのどちらかにミスが出ており,この大舞台で両方ノーミスでの実施を強く誓っているはずだ。SP 80 点FS 160 点計 240 点という驚異的な得点を期待せずにはいられない。

 全日本を制した 坂本花織 は,優勝を狙うと公言している。これほどはっきり優勝を口にすることは珍しく,並々ならぬ決意がうかがえる。四大陸選手権で優勝を狙うもメダルを逃す経験をしたことで,無心で試合に臨むことの大切さを再認識できたことも好材料だ。完璧な演技ができれば GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)も PCS も高騰する可能性はあり,紀平 にミスが出れば 坂本 が女王の座を射止める可能性が高い。

 世界選手権の銀と銅のメダルを持つ 宮原知子 も,金メダルを渇望している。全日本選手権から3ヶ月,プログラム細部の精緻化と,ジャンプの回転不足の解消に取り組み,演技全体を研ぎ澄ませてきただろう。シーズン途中では細かいミスがあっても,世界選手権や五輪の大舞台で完成形を披露しシーズンベストを更新する,これが 宮原 の例年の姿だ。今シーズン,全日本選手権では若手2人の突き上げを受けているが,先輩のプライドにかけて,日本開催である今年の世界女王は是が非でも手にしたいところだ。ミスがないことにはもはや驚かないが,全てが完璧に演技できれば優勝に手が届くだろう。

 ここ数年,日本勢より力が上だったロシア勢だが,今シーズンは様相が異なる。五輪女王 ザギトワ,欧州女王 サモドゥロワ に加え,世界女王2連覇の実績を持つ メドベージェワ も参戦し,名前だけを見れば手強い相手に思える。しかし,今シーズンのロシア勢は完全に追う立場にいる。

 ザギトワ の不調は,五輪女王の重圧,身長の伸びなど様々に報じられているが,私が感じる要因は「FSの選曲」と「紀平 の急成長」である。ザギトワ のFSは「カルメン」。この曲は五輪で演じることを ザギトワ 自身が希望したものの,エテリ・トゥトベリーゼ コーチが賛同しなかったと言われている。五輪女王になったこともあり「カルメン」の採用を許したのだろうが,五輪女王とはいえまだ16歳,風格があるタイプではない ザギトワ にとって「カルメン」のスケール感を表現するには時期尚早という印象だ。ジャンプもどこか飛びづらそうに見えるのは,ジャンプが曲にうまくハマっていないからかもしれない。

 紀平 の急成長に関して,3A によって技術点を高めてくることは予期できても,PCS が自分に追いついたことは予想外だっただろう。グランプリファイナル完敗の衝撃(→本ブログ過去記事)の大きさは,その後のロシア選手権(5位)とヨーロッパ選手権(2位)が物語っている。ノーミスは当然で完璧な演技でなければ世界女王は取れない,という状況に追い込まれたことが ザギトワ の焦りを生み,演技の綻びをなかなか塞げずにいる。表彰台に乗れるかどうかの厳しい試合になると私は予想するが,今シーズンの不調を払拭する演技ができれば,当然優勝争いに加わってくる。

 むしろ,ネームバリューはロシア勢で最も低い サモドゥロワ が,表彰台の可能性としては最も高いと私は考える。シニアデビューの今シーズン,グランプリファイナルに出場(5位)し,ヨーロッパ選手権で ザギトワ を破って優勝したことで,世界選手権の切符をつかんだ。ヨーロッパ選手権は欧州各国では権威のある大会であり,ここでの優勝は我々が思う以上に大きな自信になっているはずだ。FSの「バーレスク」は サモドゥロワ によく合ったプログラムなので,完璧な演技なら,日本勢の表彰台独占を阻む役を担うかもしれない。

 直前の国内選考で出場をつかみ取った メドベージェワ は,大好きな日本での出場に安堵していると思うが,昨シーズンまでの実力は現在の彼女にはない。コーチを トゥトベリーゼ からロシア国外の ブライアン・オーサー に変更し,全く違う生活・練習環境に慣れるだけでも大変な作業なのに,さらにスケートも全てを一から再構築しているのだから,今回は出場できたことが奇跡的なのだ。私は,以前の メドベージェワ は PCS が高過ぎると感じていたので,現在のスコアは妥当な水準だと感じている。ここから再び頂上をめざしていく上で,今大会は メドベージェワ が何合目まで上ってきたかがわかる試合になる。だがもちろん,メドベージェワ 自身は出場だけで満足と思うはずがない。順位はともかく,完璧な演技で自身が進む道の正しさを証明してほしい。

 ここ数年の世界選手権を見ると,それまで順調だった選手が力を発揮できないことは時々あるのだが,不調だった選手が甦ることはほぼない。フィギュアスケートは現在の採点方式が導入されたことで,ネームバリューで戦える世界ではなくなった。ザギトワ や メドベージェワ の経験や舞台度胸は脅威だが,それでシーズンの不調をカバーできるほど甘くはない。仮に 紀平 選手が崩れた場合は,坂本,宮原 のどちらかが世界女王初戴冠となるだろう。

  • 私の順位予想 … 1位: 紀平,2位: 坂本,3位: 宮原
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: 紀平,2位: ザギトワ,3位: 宮原

ジャンプ戦略考察:女子シングルロシア選手編

 フィギュアスケートの世界選手権の開催が近づいてきました。そこで,出場選手がどんなジャンプを選んでいるのかを見ていこうということで,前回は女子シングル日本選手のFS(Free Skating,フリースケーティング)のジャンプ構成を紹介しましたが,今回は優勝争いの相手となるロシア選手のFSのジャンプ構成を見ていきましょう。

 まずは,平昌五輪女王 ザギトワ 選手です。

figureSkateScoreZagitova

 表の見方は前回の記事を参照してください。ザギトワ 選手の11本のジャンプは,平昌五輪のときと同じです。五輪のときは,全てのジャンプを演技時間後半に入れ7回のジャンプの基礎点を全て1.1倍にするという荒業でスコアを最大化しましたが,今シーズンのスコアルールの改定により,点数が1.1倍になるボーナスタイムは演技時間後半のうち最後の3回だけに制限されました。それでも,ザギトワ 選手のスコアを高める戦略は相変わらずで,連続ジャンプ2回と(単独ジャンプでは最も基礎点が高い) 3F をボーナスタイムに持ってきています。連続ジャンプを3回全て持ってきたかったと思いますが,それだと前半に単独ジャンプが続き退屈なので,前半に 3Lz+3T を入れてメリハリを付けたと考えられます。

 3Lz と 3F が2本ずつというのは ザギトワ 選手のジャンプ能力の高さを示しています。当ブログでたびたび話題にしていますが,女子選手は Lz と F の飛び分けに苦労する選手が多く,一方は得意でも他方は苦手という選手が多いのです。そういう選手は,得意な方を2本入れ,苦手な方は1本しか入れないのが通例です。ですから,3Lz と 3F を2本ずつ入れるのはなかなかできないことですし,3Lz と 3F は他のジャンプより基礎点が高いので,スコア戦略の面でもとても有効です。

 しかしながら 3Lz と 3F を2本ずつ入れただけでは,意外とスコアが伸びないのです。「3回転以上のジャンプで2本入れられるのは2種類まで」というルールがあるので,他の3回転ジャンプ(3Lo,3S,3T)が1本ずつしか入れられません。これだと2回ある2連続ジャンプを両方 +3T にすることができないので,2連続ジャンプの一方を +2T にせざるを得なくなります。+2T を使うくらいなら,3Lz か 3F を1本に減らして,+3T を2本入れた方がスコアが高くなるのです。そこで ザギトワ 選手は,3Lo を第1ジャンプではなく第2ジャンプに使う,つまり +3Lo を入れています。+3Lo は,単に +3T より点数が高いというだけではなく,3Lz と 3F を2本ずつ入れるメリットを生かすためでもあるのです。

 しかし,第2ジャンプを +3Lo にするのは非常に難易度が高いです。+3T は第1ジャンプを右脚(リバースジャンパーは左脚)で着氷した後,空中にある左脚(リバースジャンパーは右脚)のトウ(つま先)で氷を蹴って第2ジャンプを飛ぶので,ジャンプの推進力が得られます。一方,+3Lo は第1ジャンプを着氷した右脚エッジ(刃)で氷を蹴って第2ジャンプを飛ぶので,+3T より推進力が落ちます。なので,+3T よりも第1ジャンプをクリーンに着氷しないと +3Lo が失敗したり回転不足になる可能性が高いのです。その割に +3Lo は +3T より 0.7 点高いだけなので,そこまでリスクを負って +3Lo を入れる選手がほとんどいないのです。以前は 浅田真央 さん(ソチ五輪で 3F+3Lo)以外プログラムに入れる選手はいませんでしたが,最近は ザギトワ 選手のほかにも,テネル 選手(米)や何人かのジュニアの選手が取り入れています。

 3Lz と 3F の各2本投入,+3Lo の採用,この2つを同時に実行する ザギトワ 選手のジャンプ能力は極めて高く,3A を飛ばないという条件下で最高のスコアになるジャンプ構成を実現しています。あえて私見として難点を挙げるならば,平昌五輪では 2A+3T だった連続ジャンプを,今シーズンは 3Lz+3T にしていることです。これだと,3Lz は2本とも連続ジャンプ,2A は2本とも単独ジャンプなので,3Lz の依存度が高く,やや偏った構成になっているので,平昌五輪のジャンプ構成の方が,バランスが取れていて良かったなぁと感じます。とはいえ,今回の構成も超ハイレベルであり,世界選手権では完璧な演技を観たいと願っています。

 続いては,ヨーロッパ女王に輝いた サモドゥロワ 選手です。

figureSkateScoreSamodurova

 3F と 2A の依存度が高いという点で,坂本花織 選手と類似したジャンプ構成になっていますが,2A2本とも連続ジャンプで,しかも両方ともボーナスタイムに入れている点で,2A をより重視した構成です。連続ジャンプは3回転に付けようが 2A に付けようが基礎点は同じなので,ジャンプの難度を下げてもスコアは稼げるというなかなか巧みな戦略です。ただ,アクセルジャンプは男女を問わずさほど得意ではない選手が多く,しかも 2A+3T は第2ジャンプの方が回転数が多いというなかなか手ごわい連続ジャンプなので,2A を2本ともボーナスタイムの連続ジャンプにするには,2A に絶対の自信が必要です。サモドゥロワ 選手はアクセルジャンプが得意だということがよくわかりますね。

 最後は,滑り込みで世界選手権の出場を果たした メドベージェワ 選手です。

figureSkateScoreMedvedeva

 このジャンプ構成は,昨年末のロシア選手権で実施されたものですが,それ以前の大会とはジャンプ構成が異なっているので,世界選手権でもこれとは異なる構成になる可能性はありそうです。一見 +3Lo が目を引きますが,ジャンプの種類は平昌五輪とほとんど変わっておらず,2本あった +3T の1本が +3Lo に変わっただけです。

 メドベージェワ 選手も Lz が苦手なので,3F を2本にしています。連続ジャンプが 3F+2T+2T なんですが,+2T+2Lo が通例のところ,それより基礎点が 0.4 点低い +2T+2T を入れています。3S+3Lo は今シーズンのチャレンジですが,第1ジャンプは比較的飛びやすい 3S を使っています。ボーナスタイムは 2A+3T, 3F, 2A の3回ですが,2A が2本,2連続ジャンプ1回,3連続ジャンプなしという堅実な選択です。これらからわかることは,メドベージェワ 選手のジャンプは基礎点の高さに頼らず,全てのジャンプを確実に飛んで GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)を高める戦略を採っているということです。

 メドベージェワ 選手は,ジャンプを含む全ての要素を完璧に実施し,ミスがほとんどない印象がありますが,ジャンプが大得意というわけではなく,基礎点がさほど高くないジャンプの完成度を上げることを突き詰めた結果,ミスがないだけでなくジャンプが演技の中に溶け込み,GOE に加えて PCS (Program Component Score,演技構成点)も上がったことで,平昌五輪までは驚異的なスコアを出し続けてきました。今シーズンから指導する ブライアン・オーサー コーチは,このままの基礎点では今後は戦えないと考え,基礎点の高いジャンプを飛べるように,一からジャンプを見直しているのではないか,と私は推察しています。世界選手権は,その途上の姿を観ることになると思いますが,+3Lo 以外のチャレンジがあるかどうかも含めて,新たな理想をめざす メドベージェワ 選手に注目しましょう。

 ロシア 選手もジャンプに関しては三者三様で個性が表れています。開催国として地の利を生かす日本勢に対して,ロシア 選手がどこまで壁として立ちはだかるか。世界選手権は史上まれに見るハイレベルな大会になりそうです。

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