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ザギトワ

グランプリファイナル出場選手スコア比較:女子シングル編

 フィギュアスケートのグランプリファイナル出場選手のスコア比較表の女子シングル編です。昨シーズンから勢力図がガラッと変わりましたが,変わったのは顔ぶれだけではなく,ジャンプ構成も昨季とは全く違っています。

FigureSkateScoreList2019GPFladies

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 SPは,どの選手も当然のように 3Lz と 3F を入れています。紀平 選手が 3Lo を使っているのはケガの影響で回避しているだけです。女子のSPは4回転が禁止されているので,3A を持っている 紀平 選手と コストルナヤ 選手は有利になります。そこで少しでもスコアの差を埋めるために,トゥルソワ 選手や シェルバコワ 選手は連続ジャンプの2本目を +3Lo にする,いわゆるセカンドループを入れています。しかもそれを 3Lz と組み合わせてボーナスタイムに入れることで,ボーナスを最大化しています。セカンドループは彼らの同門(エテリ・トゥトベリーゼ コーチ)の先輩である ザギトワ 選手の得点源ですが,この3人はFSでもセカンドループをボーナスタイムに入れています。セカンドループが使えるとスコア戦略上たいへん有効ですが,失敗や回転不足のリスクが高く,ボーナスタイムに組み込むということは,それだけジャンプに自信を持っていることの表れです。

 FSに目を移すと,まさかの 4Lz が表記されています。男子でも数人しかプログラムに入れられない大技を飛ぶ選手が,女子2人もいるとは驚くばかりです。シェルバコワ 選手はなんと2本入れる構成です。2本入れると言うことは,1本は連続ジャンプにしなければなりませんが,それが 4Lz+3T という超大技です。そして彼女の 4Lz はただ飛んでいるのではなく,とても綺麗です。彼女は Lz が得意なようで,3Lz も2本入れて完全に Lz を武器にしたジャンプ構成になっています。

 そして,驚異の4回転4本,うちボーナスタイム1本という,羽生 選手並みの構成を組む トゥルソワ 選手。この比較表を見ると,166 点というFS歴代最高得点を獲ったのもうなずけるところです。3Lz をボーナスタイムに2本入れ,そのうち1本はセカンドループの連続ジャンプという,4回転以外でもスコアを最大化するものすごいプログラムです。PCS(Program Component Score,演技構成点)がそこまで高くない彼女にとっては,圧倒的な技術点で勝ちをつかむという,若手らしい戦術と言えます。

 その2人と共に今シーズン,シニアデビューを果たした コストルナヤ 選手は,完成度の高い 3AFSでも2本入れ,紀平 選手と同等のジャンプ構成を組んでいます。SP歴代最高得点を記録し,トータルでも歴代最高まであと1点に迫りました。4回転が無くても,GOE(Grade Of Execution,出来栄え評価)や PCS が高く,完成度はロシアのシニアデビュー3人娘の中で頭一つ抜けています。

 この3人,そして実績十分の ザギトワ 選手も含め,4人のロシア勢と戦う 紀平 選手は,このうち2人を上回らなければ表彰台に立つ(=3位以内)ことができません。なんとしてもロシア勢の表彰台独占は阻止したいところです。ただ,紀平 選手の現状のジャンプ構成では,彼らを上回るのはとても難しいでしょう。競い合う可能性が最も高い シェルバコワ 選手との間に,基礎点で 12 点もの差がありますので,GOE と PCS を高めてもその差は埋まらず,相手のミス待ちになってしまいます。

 そこで,リスクを承知の上で,Lz を回避しつつ戦える状況を作るために,紀平 選手はFS4S を入れることになるでしょう(比較表には 4S を入れた構成を記載)。3S を 4S に代えると,余った 3S を3連続ジャンプ(+1Eu+3S)に充てることができるので3連続ジャンプのスコアも上がり,現状より基礎点が7点上がるのです。これで シェルバコワ 選手との基礎点の差が5点以内になり,GOE と PCS の上積みによる逆転の確率が高まります。基礎点で負けていた コストルナヤ 選手にも,4S 投入によって基礎点が上回ることになるので,GOE と PCS が同じならスコアが上になります。トゥルソワ 選手とはまだ開きがありますが,彼女の 4S は今季成功率が低く,さらにもう1つミスがあればスコアが争える状況になります。4S 投入により,個人的な感覚として 紀平 選手が表彰台に立つ確率が,現状の 20% から 50% に上がる感じがします。

 私は先日まで,紀平 選手は焦って4回転を入れるべきでないと考えていました。しかし,このスコア比較表を見ながら,考えが変わってきました。コストルナヤ 選手は4回転を,トゥルソワ 選手は 3A を,近いうちに実戦投入するのではないかという予想も出てきています。さすがにファイナルでの投入はないと思いますが,ヨーロッパ選手権での投入はあり得る話です。そうなると,4回転と 3A を同時に成功させる最初の女子スケーターは誰か,という記録面の関心が高まってきます。フィギュアスケートの記録は公式の国際試合で成功した場合に成立します。紀平 選手がファイナルで4回転を入れなかった場合,次の機会は来年の四大陸選手権になりますが,これはヨーロッパ選手権より後に開催されるので,コストルナヤ 選手や トゥルソワ 選手がヨーロッパ選手権で4回転と 3A を同時に成功すると,彼らが最初のスケーターとして記録されます。紀平 選手自身はこんなことは意識していないと思いますが,3A の開拓者として4回転との同時成功を達成する最初のスケーターになってほしいのです。その意味でも,ファイナルではぜひ 4S と 3A をFSで成功させてほしいです。

 比較表には,紀平 選手のいくつかのパターンを付記しました。現状は 3Lz を回避していることで昨季よりもスコアが下がっていますが,3Lz が復活してさらに 4S も加わると,基礎点が シェルバコワ 選手に並び,トゥルソワ 選手とも10点差以内に迫ります。今シーズンの世界選手権(3月)までにこの構成を仕上げれば,昨季獲れなかった世界女王が現実的に狙えます。シニアデビュー3人娘を抑えて世界女王に輝けば,これほど価値あるタイトルはありません。先々にはこのような楽しみも広がります。

 ですが,まずはファイナルで風穴を開けてほしいところです。ファイナルのスコアがどのくらいになるかを予測します。

トゥルソワ 選手が全て成功の演技】
 基礎点 123 点+出来栄え点 24 点(GOE 平均 2 を仮定)+ PCS 100 点(満点の83%)= 247 点

紀平 選手が良質な演技】
 基礎点 109 点+出来栄え点 27 点(GOE 平均 2.5 を仮定)+ PCS 108 点(満点の90%)= 244 点

 トゥルソワ 選手が全てのジャンプを揃えるのは至難の業ですし,紀平 選手にとっても上述の GOE や PCS はそう簡単ではありません。優勝争いは歴代最高得点(241点台)超えをめざす,極めてハイレベルな勝負になりそうです。テネル 選手が完璧な演技なら,全員が 220 点を超えることもけして絵空事ではありません。間違いなく,今までで最も難易度と完成度の高いグランプリファイナル女子シングルが観られることでしょう。

NHK杯プレビュー:羽生結弦 紀平梨花 出場

 今週末は,フィギュアスケート グランプリシリーズ6戦目の日本大会。今年は 札幌 開催となるNHK杯です。出場選手の面でも,グランプリファイナル進出者が決まるという意味でも,とても楽しみな大会です。細かく書く時間が取れませんので,普通の新聞記事レベルになってしまいますが,見どころを書いておきます。

 男子シングルは,なんといっても絶好調の 羽生結弦 選手が観られることが楽しみです。前回のカナダ大会もかなり良い演技でしたが,それを超えて,平昌五輪後の新採点ルールにおける最高得点記録が達成されるかもしれません。2015年,長野 開催のNHK杯で当時の最高得点を塗り替え,初めてトータル300点台を記録した,あの再現を否応なく期待してしまいますが,今シーズンの 羽生 選手ならやってくれそうな予感がします。くれぐれも(平昌五輪シーズンのように)張り切りすぎてケガなんてことだけはないように…。

 他の日本選手は,山本草太島田高志郎 の2選手。2人とも期待の若手で,とても良い演技をするので,ぜひ観てほしいです。出場が前半グループになると思うので,放送の早い時間に登場してきますのでお見逃し無く!

 海外勢では,卓越した表現力を持ち熱烈な日本通の ジェイソン・ブラウン 選手(米)と,昨シーズンから頭角を現し,スケーティングが抜群の エイモズ 選手(フランス)が楽しみです。順当なら,彼らと 羽生 選手が表彰台に上るでしょう。

 女子シングルは,当然,紀平梨花 選手を応援します。SP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)合わせて3本3A(トリプルアクセル)を綺麗に入れた上で,プログラム全体の完成度が高ければ優勝間違いなし…と全く言い切れなくなってしまった今シーズン。紀平 選手以外にも3Aを3本入れる選手が現れました。ロシアの若手3人娘の1人,コストルナヤ 選手の3Aは単に飛べるというレベルではなく,高さが高くとても見栄えがする,質の高い3Aです。また,PCS(Program Component Score,演技構成点)も既にFSで72点(満点の90%)に迫るスコアを出しており,3Aと PCS の両面で 紀平 選手と戦える力を持っています。紀平 選手は多彩な表現力が大きな魅力ですが,コストルナヤ 選手は力強さと美しさが共存するというこれまた希有な魅力を持っていますので,この2人の対決はたいへん楽しみです。

 ここに,平昌五輪女王にして現世界女王の ザギトワ 選手(ロシア)も加わるのですから,この3選手のうち誰かは銅メダル以下という,とんでもなくハイレベルな大会になります。ザギトワ 選手は今シーズン絶好調とは言えませんが,大好きな日本で初のNHK杯出場なので,モチベーションは高いと思います。3選手が良い演技をした場合,トータル230点でも銅メダルという驚異的なことが起きるかもしれません。

 男女ともシングルは金曜日にSP,土曜日にFSが行われ,女子SPの前半以外はNHKの地上波で放送されます。特に男子は,どちらも夜7時半からのゴールデンタイムに実施されますので,前半グループからしっかりと観ていただくことをお勧めします。

 フィギュアスケートはどうしてもシングルに注目が行きがちですが,今年も楽しみなのはアイスダンス。昨年に引き続き,パパダキスシゼロン 組(フランス)が出場してくれます。技術,芸術性,完成度,存在感,全てが圧倒的で異次元。アイスダンスはシングルに比べると物足りなく感じられる方もいるかもしれませんが,彼らを観るとアイスダンスの魅力がわかると思います。彼らが来日してくれて,彼らの映像を生放送で鮮明に観ることができるのは本当に貴重です。金曜日のSP,土曜日のFS共に午後0時台という昼間の実施で,かつBS放送ですが,ぜひ観ていただきたいです。

地の利を生かせず 表彰台は遠く 【世界フィギュア2019感想:女子シングル】

 私の予想(という名の願望)はことごとく外れ,女子シングルは一人も表彰台に乗れず,男子シングルは私が優勝を予想した 宇野昌磨 選手はメダルを逃し,苦戦を予想した 羽生結弦 選手が日本選手唯一のメダルを獲得しました。予想を外したからではなく,各選手の心情を思うと悔しい気持ちでいっぱいになってしまいます。

 女子シングルは,順位だけ見て日本選手の力不足という論評をするのは気の毒です。2位と5位のスコアは2点未満。1つミスすれば4点以上点数が変わる女子において,2点というのは差のうちに入りません。この点差でメダルを逃すのは,運が悪かったとしか言いようがなく,しかも5位の 坂本花織 選手は 222 点台,4位の 紀平梨花 選手に至っては 223 点台でもメダルが獲れませんでした。平昌五輪のとき 222 点台でメダリストになれなかった 宮原知子 選手を思い出してしまう状況です。なんとかしてメダリストになってもらいたかったですし,メダリストと同等のスコアを出したことには胸を張ってほしいです。

 しかし,だからこそ当の選手たちは悔しい思いをしているでしょう。メダルを逃す原因は自分たちのミスによるものだからです。ミスがなければ 紀平,坂本 両選手は表彰台に乗れました。2位の トゥルシンバエワ 選手(カザフスタン)と3位の メドベージェワ 選手(ロシア)は,SP(Short Program,ショートプログラム)もFS(Free Skating,フリースケーティング)もミスがありませんでした。ミスをするとスコアが低くなる,それが今シーズンのスコアルール改定の肝ですから,正にそのとおりの結果が出たわけです。

 紀平 選手は,生命線である 3A がSPとFSの計3本のうち1本しか成功しませんでした。これでは表彰台を逃すのも致し方ないことだと思います。シニアデビューシーズンは,ずっと活躍していたのに世界選手権で息切れすることがあり,過去には 宇野 選手や ネイサン・チェン 選手(米)もそれを経験しています。紀平 選手はその罠にハマることはないと私は思っていましたが,デビューシーズン大活躍の期待感に日本開催(しかも観客が1万人以上入るさいたまスーパーアリーナという大箱)が重なり,舞台が揃い過ぎたことが 紀平 選手を微妙に狂わせてしまったのかもしれません。

 坂本 選手はFSの 3F でミスが出ましたが,3F は 坂本 選手が最も得意な3回転ジャンプであり,めったにないミスによってメダルを逃したのですから,坂本 選手のショックは計り知れません。四大陸選手権では,3F の直前に飛ぶ 2A+3T+2T という,これまた得意かつ得点源のジャンプでのミスでメダルを逃していたので,今回はその 2A+3T+2T が成功したことで,ホッとした気持ち,あるいは得意なジャンプだからこそ失敗してはいけないという意識が出てしまい,平常心で 3F に入れなかったのかもしれません。SPが完璧と言っていい出来だっただけに,そのミス1つだけで表彰台をも逃すというのは,天国から地獄という言葉が大げさとは思えないほどの,あまりに厳しい結果でした。

 宮原 選手は,SPの回転不足が偶発的なものだったことをFSで証明しました。FSでは回転不足が全くない,技術面ではパーフェクトな演技でした。私は,SPの回転不足がFSに影響するというたいへん失礼な予想をしてしまったのですが,宮原 選手の修正能力に改めて感嘆いたしました。ただ,仮にSPの回転不足がなかったとしても,表彰台には乗れなかったと思います。今大会では,表現面が今までの 宮原 選手よりわずかに見劣りする感じがあり,PCS (Program Component Score,演技構成点)でやや差が出てしまったからです。PCS が低めだった要因は,日本開催の世界選手権への緊張と,回転不足を防ごうとジャンプへの意識がやや強くなってしまったことにあるのではないかと推察いたします。

 強力な布陣の日本選手を抑えて優勝したのは,実力を出し切った ザギトワ 選手(ロシア)でした。私は,今シーズンの苦難が世界選手権まで続くと予想しましたが,結果は逆でした。演技は完璧ではなかったものの,ミスなくきっちりまとめました。昨シーズンはクールで精密機械のような印象もありましたが,今大会はジャンプを絶対に決めるんだという,人としての強さが感じられるような演技でした。シーズンの不調を世界選手権で払しょくするシーンはここ数年の世界選手権ではなかったことであり,ザギトワ 選手の本当の強さを目の当たりにしました。

 ザギトワ 選手が所属する トゥトベリーゼ コーチのチームでは,メドベージェワ 選手が抜けたことで ザギトワ 選手が一枚看板として注目を集める一方で,ジュニア世界選手権の金・銀メダリストも在籍するなど,著しい若手の突き上げがあります。ザギトワ 選手は,世界選手権の成績によっては,五輪女王でありながら冷遇されかねない状況に追い込まれていたと言えます。今回の優勝によって早くも引退がありうるのでは,と推測する外国のメディアもあるようですが,ロシアの若手は4回転ジャンプの確率がかなり高く,彼らがシニアに上がってくると ザギトワ 選手でも厳しい戦いになることから,そのような報道が出るのでしょう。彼女はまだ16歳。引退がささやかれるとはあんまりだと思いますが,今シーズンを逃すと今後いつ金メダルが獲れるかわからない,そういう危機感が ザギトワ 選手にあったことは間違いないでしょう。

 2位に入った トゥルシンバエワ 選手は,SPが今までとは別人のように生き生きとした演技だったので,FSの 4S が成功するのではないかと私は予感していました。冒頭の 4S が成功したことでFSは完全に波に乗りました。こんなにしなやかで表現豊かな トゥルシンバエワ 選手を初めて観ました。PCS が1項目平均9点台に急伸したことで銀メダルを獲得しましたが,納得のスコアだったと思います。ブライアン・オーサー コーチに師事していた昨シーズンまでは,サイボーグ的な印象が拭えませんでしたが,今シーズンから トゥトベリーゼ コーチの元に戻り,トゥルシンバエワ 選手の気性の強さがハマったのでしょう。また,昨年暴漢に襲われ急逝した母国のソチ五輪銅メダリスト デニス・テン さんに捧げる気持ちの強さもあったと思います。彼女の素晴らしい演技には,テン さんのご加護があったようにも感じましたね。

 その トゥルシンバエワ 選手と入れ替わる形で,今シーズン,オーサー コーチの元に移った メドベージェワ 選手も,今シーズンの不調から甦り表彰台に乗りました。紀平,坂本 両選手のミスによって転がり込んできた銅メダルではありましたが,ギリギリで出場を決めた世界選手権で結果を出すのは,やはり並大抵のことではありません。このような形でシーズンを締め括り,今後の復活に向け大きな自信を得たと思います。

 表彰台に乗った3選手の演技で感じたことは,気持ちの強さが前面に出ていたことです。今までの彼らは,正確無比でミスが極めて少ないという演技の完成度で勝負してきました。ところが,今回の世界選手権は違いました。ジャンプの着氷でぐらついたりもしていたのですが,「絶対に成功させるんだ」という集中力でジャンプを飛んでいたように私の目には映りました。それは私の思い込みかもしれないのですが,そう感じずにはいられませんでした。

 きっと彼らは,背負っているものがとても大きかったんだと思います。五輪シーズンの絶頂から1シーズンで滑り落ちそうになっていた ザギトワ 選手。コーチを変えたことによる周囲の雑音を払いのけたかった トゥルシンバエワ,メドベージェワ の両選手。世界選手権で結果を出さなければ,今まで築いてきたものが崩れ落ちてしまう,そんな危機感が彼らを甦らせたのだと感じます。しかし,危機感だけで勝てるほど今のフィギュアスケートは甘くありません。追い込まれた状況でも優れたパフォーマンスを出せるだけの技術を持っているんですね。わずか2点のスコアの差,メダリストとメダルを逃した選手との差は,詰まるところその技術の差だということになるのです。

 日本の3選手は,そこまで大きなものを背負っていませんでした。母国開催で世界女王に「なりたい」という気持ちは強かったと思いますが,世界女王を「獲らねば」というほどではなかった。極限の緊張の中で,その差がミスという形で現れてしまったのかなと思います。日本開催に関しては,日本の観客は海外の選手にも分け隔てなく声援を送りますし,ザギトワ 選手や メドベージェワ 選手は日本が大好きですから,彼らが不利を感じることはほとんどなかったはずで,日本選手が母国開催という地の利をさほど享受できなかったと言えます。さいたまスーパーアリーナは世界的に見ても最も観客数が多い会場であり,会場の熱気がすごいことに加えて,試合が進むにつれて氷の状態が刻々と変わったそうです。大箱の緊張と氷の変化の両方に対応しなければならなかった点は,経験値が高い選手を利することになったかもしれません。

 なぜミスが出たのか,各陣営はよくわかっていると思います。紀平 選手は 3A の成功確率をもっと上げていくことに尽きるのですが,今シーズンのSPは,紀平 選手にとって 3A を飛びづらい音楽だったのではないかと私は推察しています。なので,来シーズン音楽が変われば状況は好転するでしょう。坂本 選手は,ここ2年間の全日本選手権では素晴らしい演技を見せていますので,緊張感がミスを誘発するという単純な話ではありません。全日本選手権のようなパフォーマンスを,国際大会でも披露するにはどうすればよいかを突き詰めていくことが求められます。

 今シーズンは五輪の翌シーズンであり,北京五輪はまだ先だからこの結果で十分,という考えがあるとしたら私は賛同しかねます。1年1年のグランプリファイナルや世界選手権の結果こそが競技スケーターにとって大切だと思うからです。五輪は4年に一度のお祭りであり,メダルを獲るにはそのときの好不調や運も関係してきます。五輪のメダリストが過度に評価されるのではなく,1年1年の実績が評価されるべきです。世界トップの大会(世界選手権,五輪シーズンは五輪)で ザギトワ 選手が2連覇,メドベージェワ 選手が4年連続表彰台に上ったことは,五輪のメダリストであることよりも輝かしい実績だと思います。日本選手は,母国開催のチャンスを生かせず表彰台を逃したことを,五輪で力を出せなかったことと同じくらい大事なこととして受け止めてほしいです。

 とはいえ,紀平,坂本 両選手がメダリストと同等の力を示したことも,紛れもない事実です。紀平 選手は,3A 以外のジャンプ・スピン・ステップが高い完成度だったことは素晴らしかったです。坂本 選手は,スケーティングが格段に美しくなり,FSでは PCS が1項目平均9点を超えました(坂本 選手にとって国際大会初)。PCS だけ見れば,メドベージェワ 選手より高い評価を受け,ザギトワ 選手に次ぐ2位でした。これは 坂本 選手にとってはとてつもなく大きな自信になったと思います。

 日本の選手たちは,これらの成果を糧としつつ,この悔しさがバネになることでしょう。母国開催のメダルを逃したことは苦い経験ではありますが「この経験があったから強くなれた」と言えるような活躍を来シーズン以降期待したいと思います。

世界フィギュア2019 ショートプログラムを終えて

 さいたまスーパーアリーナで開催中のフィギュアスケート世界選手権は,SP(Short Program,ショートプログラム)が終わりました。FS(Free Skating,フリースケーティング)はどうなるでしょうか?

◆女子シングル

 坂本花織 選手が素晴らしい演技を披露しました。スケーティングがとても柔らかく,ジャンプがプログラムに溶け込んでいました。FSも全日本選手権を超える演技になると私は確信しています。紀平梨花 選手がミスしたら 坂本 選手が優勝をさらう,という展開になってきました。世間では「ザギトワ 選手(ロシア)が逃げ切るか 紀平 選手が逆転か」という報じ方になっていますが,優勝候補の筆頭に 坂本 選手が躍り出たと私は思います。滑走順が ザギトワ 選手より前になったことも幸運ですね。坂本 選手が完璧なら,ザギトワ 選手がわずかな綻びを見せただけで逆転できると思います。

 紀平 選手は,3A の予定が 1A になり0点になった(←SPでは 2A 以外の2回転以下の単独ジャンプは0点)にもかかわらず,スコアが70点に乗ったのがせめてもの救いで,まだ逆転の目があります。FSで 3A を2本成功させることは優勝の絶対条件になりますが,FSのプログラム「A Beautiful Storm」は 紀平 選手にとてもフィットしていますし,開き直るしかない状況なので,完璧な演技になる可能性がかなり高いです。

 今大会は PCS (Program Component Score,演技構成点)が厳しめな印象があるので,スコア 160 点は難しいですが,158 点までは到達可能でしょう。その場合,ザギトワ 選手は 147 点,坂本 選手は 152 点で 紀平 選手より上位になりますが,この点数は2選手にとってかなり高く,これが 紀平 選手に逆転の目があると考える根拠です。ただ,今大会絶好調の 坂本 選手なら,全日本選手権で出した 152 点を国際大会である世界フィギュアでも出せると思いますので,坂本 選手の優勝の可能性が最も高いと上述したのです。

 宮原 選手は,ジャンプの回転不足が出てしまったのが厳しいですね。気をつけていたにもかかわらず回転不足を取られたことで,FSではジャンプをきちんと飛ばなければ,という重圧がかかってきます。修正能力の高い 宮原 選手ではありますが,FSでも回転不足やジャンプミスが出てしまいそうです。表彰台は限りなく厳しくなってきました。

 ザギトワ 選手は,全てが完璧なら上述した 147 点は超えられると思いますが,どこかでミスが出るか,ミスはなくても完璧とは言えない出来の場合,今シーズンの実績から考えると 147 点に及ばない可能性がかなりあります。SPが完璧だったことでやっと優勝争いに絡める状況になっただけであり,今シーズンの鬼門であるFSを完璧に演じられるかどうかは,まだまだ予断を許しません。表彰台はほぼ手中にしたと言えますが,優勝を手にするには,坂本,紀平 両選手のミスが出た状況で,ザギトワ 選手が完璧に演じることが条件になりそうです。

 優勝は僅差で 坂本 選手,2位と3位を 紀平 選手と ザギトワ 選手が争うと予想します。3選手の誰かがかなり崩れた場合,四大陸選手権から好調を維持する トゥルシンバエワ 選手(カザフスタン)が表彰台に乗る可能性が出てきました。SPの調子を見る限り,FSの 4S は成功の可能性が高いと思いますので,どこまで迫れるか楽しみです。

◆男子シングル

 羽生結弦 選手は,SPはミスなく演じられると予想していたのですが,やはりケガのブランクによる試合勘の弱さが出てしまいました。どんなに練習が順調でも,試合は別物だとよく言われますからね。追い込まれたときの 羽生 選手は強い,という過去の実績から逆転を期待したくなりますが,FSはSPよりもさらに正直に選手のコンディションが表れますので,厳しい戦いになると思います。FS演技時間後半の3つの連続ジャンプ,特に 羽生 選手にしかできない 4T+3A を成功させてほしいですね。

 宇野昌磨 選手は,リードを奪う絶好のチャンスだったにもかかわらず,羽生 選手に付き合ってしまいました。今シーズンのSPは 4T+3T に苦労していたのですが,今大会ではその前の 4F を失敗するという予期せぬ展開でした。ただ,そこですぐに切り替えてあえて 4T+2T を選択し踏みとどまりました。4T+3T を成功させた場合より4点ほど下げた形ですが,失敗すれば優勝は絶望的だったことを思えば,首の皮1枚つながったと言えます。今シーズンのFSは比較的良いですし,無心で集中し完璧な演技をしてスコア 200 点を出せれば奇跡の逆転の目も出てきます。ただ,その可能性は,女子の 紀平 選手の逆転優勝よりも難しいでしょう。

 ネイサン・チェン 選手(米)が今シーズンの好調さそのままに,SPで貯金を作りました。大舞台で力を出し切れないかも,とは言ってもSPを見る限りその可能性は低そうですし,羽生 選手と 13 点差,宇野 選手と 16 点差は,よほど大崩れしない限り追いつかれない点差です。ただ,4回転ジャンプは失敗すると一気に点数が減ってしまうので,2回大きなミスが出ると勝負はもつれます。しかし,その可能性はかなり低いでしょう。チェン 選手が優勝をほぼ手中にし,宇野,羽生 の両選手がわずかな可能性に賭ける,という展開です。

 素晴らしかったのは ジェイソン・ブラウン 選手(米)。大好きな日本で,やっと会心の演技ができました。ほとんど準備動作なく,流れの中で飛ぶジャンプの質が凄い。順位は二の次で,FSも完璧な演技を魅せてほしいと願っています。

世界フィギュア2019 プレビュー 【スポーツ雑誌風】

 さいたまスーパーアリーナで開催される,フィギュアスケート世界選手権の見どころと勝負の予想をスポーツ雑誌風に記します。


◆男子シングル

 優勝争いは,羽生結弦宇野昌磨ネイサン・チェン (米)の3選手が有力で,ヴィンセント・ジョウ (米),ボーヤン・ジン (金博洋,中国)らが表彰台を狙う。彼らの4回転ジャンプはSP(Short Program,ショートプログラム)で2本,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4本と横並び(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事参照)なので,本番の演技の完成度が勝敗を分ける。

 中でも最も優勝に近いのが 宇野昌磨 だ。世間の下馬評は 羽生 や チェン の声が多いかもしれないが,私は 宇野 に勝機ありと見ている。2月の四大陸選手権で,ケガを抱えながらFSの今シーズン世界最高得点を叩き出して優勝したことは,宇野 にとって大きな自信となり,主要国際大会6大会連続2位から脱したことで胸のつかえも取れただろう。今シーズンは,周囲の期待に応え勝ちにこだわる姿勢を貫いており,日本開催の地の利も生かし,初めて 羽生 を破って初優勝という大願成就を果たしたい気持ちは誰よりも強いだろう。安定感やピーキング能力はここ3シーズン発揮されており,SPとFSが両方ノーミスで実施できれば初の世界王者を手にするだろう。

 羽生 はケガ明け4ヶ月ぶりの実戦であり,ノーミスは可能かもしれないが,完成度の高い実施は難しいだろう。平昌五輪の再現を期待するファンは多いが,五輪という特別な舞台であり,過去のプログラムの再演だった 平昌 の状況とは異なり,今シーズンはプログラムを試合で滑る機会が少なかったので,いくら練習で好調だったとしても,いきなり世界選手権で完成度を高めるのは難しいと予想する。SPは大丈夫と思うが,FSは転倒や回転抜けが無ければ上出来と考えた方がよいだろう。

 チェン は今シーズン絶好調で,SPとFSを完璧に揃えた1月の全米選手権の出来が再現できれば間違いなく優勝できる。ただ チェン は,2017年の世界選手権,2018年の平昌五輪と2年続けてシーズン終盤の大舞台で優勝はおろかメダルさえも逃しており,大舞台で力を発揮する技術とメンタルが試される。不得手の 3A の出来が勝負を分けるかもしれない。

  • 私の順位予想 … 1位: 宇野,2位: チェン,3位: 羽生
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: チェン,2位: 羽生,3位: 宇野

◆女子シングル

 日本選手の表彰台独占という夢のような光景が見られるかもしれない。その可能性が60%くらいあると思う。スコアの観点では,紀平梨花 を ザギトワ (ロシア)が追いかけ,さらにその後ろに他の選手が僅差でひしめく状況(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事《日本選手ロシア選手》参照)だが,日本3選手の地力・地の利と,ロシア選手の今シーズンの停滞を考えると,日本選手の表彰台独占の可能性はけして贔屓目ではない。

 優勝候補の筆頭はもちろん 紀平梨花 である。技術点が抜群に高く,PCS (Program Component Score,演技構成点)も ザギトワ と肩を並べトップクラス。状況に応じて,ジャンプの難度を落としたり,その場で構成を変更する対応力も過去の試合で証明済みだ。日本開催が逆プレッシャーとなり,シーズンの最後に息切れという可能性もゼロではないが,今シーズンはSPとFSのどちらかにミスが出ており,この大舞台で両方ノーミスでの実施を強く誓っているはずだ。SP 80 点FS 160 点計 240 点という驚異的な得点を期待せずにはいられない。

 全日本を制した 坂本花織 は,優勝を狙うと公言している。これほどはっきり優勝を口にすることは珍しく,並々ならぬ決意がうかがえる。四大陸選手権で優勝を狙うもメダルを逃す経験をしたことで,無心で試合に臨むことの大切さを再認識できたことも好材料だ。完璧な演技ができれば GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)も PCS も高騰する可能性はあり,紀平 にミスが出れば 坂本 が女王の座を射止める可能性が高い。

 世界選手権の銀と銅のメダルを持つ 宮原知子 も,金メダルを渇望している。全日本選手権から3ヶ月,プログラム細部の精緻化と,ジャンプの回転不足の解消に取り組み,演技全体を研ぎ澄ませてきただろう。シーズン途中では細かいミスがあっても,世界選手権や五輪の大舞台で完成形を披露しシーズンベストを更新する,これが 宮原 の例年の姿だ。今シーズン,全日本選手権では若手2人の突き上げを受けているが,先輩のプライドにかけて,日本開催である今年の世界女王は是が非でも手にしたいところだ。ミスがないことにはもはや驚かないが,全てが完璧に演技できれば優勝に手が届くだろう。

 ここ数年,日本勢より力が上だったロシア勢だが,今シーズンは様相が異なる。五輪女王 ザギトワ,欧州女王 サモドゥロワ に加え,世界女王2連覇の実績を持つ メドベージェワ も参戦し,名前だけを見れば手強い相手に思える。しかし,今シーズンのロシア勢は完全に追う立場にいる。

 ザギトワ の不調は,五輪女王の重圧,身長の伸びなど様々に報じられているが,私が感じる要因は「FSの選曲」と「紀平 の急成長」である。ザギトワ のFSは「カルメン」。この曲は五輪で演じることを ザギトワ 自身が希望したものの,エテリ・トゥトベリーゼ コーチが賛同しなかったと言われている。五輪女王になったこともあり「カルメン」の採用を許したのだろうが,五輪女王とはいえまだ16歳,風格があるタイプではない ザギトワ にとって「カルメン」のスケール感を表現するには時期尚早という印象だ。ジャンプもどこか飛びづらそうに見えるのは,ジャンプが曲にうまくハマっていないからかもしれない。

 紀平 の急成長に関して,3A によって技術点を高めてくることは予期できても,PCS が自分に追いついたことは予想外だっただろう。グランプリファイナル完敗の衝撃(→本ブログ過去記事)の大きさは,その後のロシア選手権(5位)とヨーロッパ選手権(2位)が物語っている。ノーミスは当然で完璧な演技でなければ世界女王は取れない,という状況に追い込まれたことが ザギトワ の焦りを生み,演技の綻びをなかなか塞げずにいる。表彰台に乗れるかどうかの厳しい試合になると私は予想するが,今シーズンの不調を払拭する演技ができれば,当然優勝争いに加わってくる。

 むしろ,ネームバリューはロシア勢で最も低い サモドゥロワ が,表彰台の可能性としては最も高いと私は考える。シニアデビューの今シーズン,グランプリファイナルに出場(5位)し,ヨーロッパ選手権で ザギトワ を破って優勝したことで,世界選手権の切符をつかんだ。ヨーロッパ選手権は欧州各国では権威のある大会であり,ここでの優勝は我々が思う以上に大きな自信になっているはずだ。FSの「バーレスク」は サモドゥロワ によく合ったプログラムなので,完璧な演技なら,日本勢の表彰台独占を阻む役を担うかもしれない。

 直前の国内選考で出場をつかみ取った メドベージェワ は,大好きな日本での出場に安堵していると思うが,昨シーズンまでの実力は現在の彼女にはない。コーチを トゥトベリーゼ からロシア国外の ブライアン・オーサー に変更し,全く違う生活・練習環境に慣れるだけでも大変な作業なのに,さらにスケートも全てを一から再構築しているのだから,今回は出場できたことが奇跡的なのだ。私は,以前の メドベージェワ は PCS が高過ぎると感じていたので,現在のスコアは妥当な水準だと感じている。ここから再び頂上をめざしていく上で,今大会は メドベージェワ が何合目まで上ってきたかがわかる試合になる。だがもちろん,メドベージェワ 自身は出場だけで満足と思うはずがない。順位はともかく,完璧な演技で自身が進む道の正しさを証明してほしい。

 ここ数年の世界選手権を見ると,それまで順調だった選手が力を発揮できないことは時々あるのだが,不調だった選手が甦ることはほぼない。フィギュアスケートは現在の採点方式が導入されたことで,ネームバリューで戦える世界ではなくなった。ザギトワ や メドベージェワ の経験や舞台度胸は脅威だが,それでシーズンの不調をカバーできるほど甘くはない。仮に 紀平 選手が崩れた場合は,坂本,宮原 のどちらかが世界女王初戴冠となるだろう。

  • 私の順位予想 … 1位: 紀平,2位: 坂本,3位: 宮原
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: 紀平,2位: ザギトワ,3位: 宮原

ジャンプ戦略考察:女子シングルロシア選手編

 フィギュアスケートの世界選手権の開催が近づいてきました。そこで,出場選手がどんなジャンプを選んでいるのかを見ていこうということで,前回は女子シングル日本選手のFS(Free Skating,フリースケーティング)のジャンプ構成を紹介しましたが,今回は優勝争いの相手となるロシア選手のFSのジャンプ構成を見ていきましょう。

 まずは,平昌五輪女王 ザギトワ 選手です。

figureSkateScoreZagitova

 表の見方は前回の記事を参照してください。ザギトワ 選手の11本のジャンプは,平昌五輪のときと同じです。五輪のときは,全てのジャンプを演技時間後半に入れ7回のジャンプの基礎点を全て1.1倍にするという荒業でスコアを最大化しましたが,今シーズンのスコアルールの改定により,点数が1.1倍になるボーナスタイムは演技時間後半のうち最後の3回だけに制限されました。それでも,ザギトワ 選手のスコアを高める戦略は相変わらずで,連続ジャンプ2回と(単独ジャンプでは最も基礎点が高い) 3F をボーナスタイムに持ってきています。連続ジャンプを3回全て持ってきたかったと思いますが,それだと前半に単独ジャンプが続き退屈なので,前半に 3Lz+3T を入れてメリハリを付けたと考えられます。

 3Lz と 3F が2本ずつというのは ザギトワ 選手のジャンプ能力の高さを示しています。当ブログでたびたび話題にしていますが,女子選手は Lz と F の飛び分けに苦労する選手が多く,一方は得意でも他方は苦手という選手が多いのです。そういう選手は,得意な方を2本入れ,苦手な方は1本しか入れないのが通例です。ですから,3Lz と 3F を2本ずつ入れるのはなかなかできないことですし,3Lz と 3F は他のジャンプより基礎点が高いので,スコア戦略の面でもとても有効です。

 しかしながら 3Lz と 3F を2本ずつ入れただけでは,意外とスコアが伸びないのです。「3回転以上のジャンプで2本入れられるのは2種類まで」というルールがあるので,他の3回転ジャンプ(3Lo,3S,3T)が1本ずつしか入れられません。これだと2回ある2連続ジャンプを両方 +3T にすることができないので,2連続ジャンプの一方を +2T にせざるを得なくなります。+2T を使うくらいなら,3Lz か 3F を1本に減らして,+3T を2本入れた方がスコアが高くなるのです。そこで ザギトワ 選手は,3Lo を第1ジャンプではなく第2ジャンプに使う,つまり +3Lo を入れています。+3Lo は,単に +3T より点数が高いというだけではなく,3Lz と 3F を2本ずつ入れるメリットを生かすためでもあるのです。

 しかし,第2ジャンプを +3Lo にするのは非常に難易度が高いです。+3T は第1ジャンプを右脚(リバースジャンパーは左脚)で着氷した後,空中にある左脚(リバースジャンパーは右脚)のトウ(つま先)で氷を蹴って第2ジャンプを飛ぶので,ジャンプの推進力が得られます。一方,+3Lo は第1ジャンプを着氷した右脚エッジ(刃)で氷を蹴って第2ジャンプを飛ぶので,+3T より推進力が落ちます。なので,+3T よりも第1ジャンプをクリーンに着氷しないと +3Lo が失敗したり回転不足になる可能性が高いのです。その割に +3Lo は +3T より 0.7 点高いだけなので,そこまでリスクを負って +3Lo を入れる選手がほとんどいないのです。以前は 浅田真央 さん(ソチ五輪で 3F+3Lo)以外プログラムに入れる選手はいませんでしたが,最近は ザギトワ 選手のほかにも,テネル 選手(米)や何人かのジュニアの選手が取り入れています。

 3Lz と 3F の各2本投入,+3Lo の採用,この2つを同時に実行する ザギトワ 選手のジャンプ能力は極めて高く,3A を飛ばないという条件下で最高のスコアになるジャンプ構成を実現しています。あえて私見として難点を挙げるならば,平昌五輪では 2A+3T だった連続ジャンプを,今シーズンは 3Lz+3T にしていることです。これだと,3Lz は2本とも連続ジャンプ,2A は2本とも単独ジャンプなので,3Lz の依存度が高く,やや偏った構成になっているので,平昌五輪のジャンプ構成の方が,バランスが取れていて良かったなぁと感じます。とはいえ,今回の構成も超ハイレベルであり,世界選手権では完璧な演技を観たいと願っています。

 続いては,ヨーロッパ女王に輝いた サモドゥロワ 選手です。

figureSkateScoreSamodurova

 3F と 2A の依存度が高いという点で,坂本花織 選手と類似したジャンプ構成になっていますが,2A2本とも連続ジャンプで,しかも両方ともボーナスタイムに入れている点で,2A をより重視した構成です。連続ジャンプは3回転に付けようが 2A に付けようが基礎点は同じなので,ジャンプの難度を下げてもスコアは稼げるというなかなか巧みな戦略です。ただ,アクセルジャンプは男女を問わずさほど得意ではない選手が多く,しかも 2A+3T は第2ジャンプの方が回転数が多いというなかなか手ごわい連続ジャンプなので,2A を2本ともボーナスタイムの連続ジャンプにするには,2A に絶対の自信が必要です。サモドゥロワ 選手はアクセルジャンプが得意だということがよくわかりますね。

 最後は,滑り込みで世界選手権の出場を果たした メドベージェワ 選手です。

figureSkateScoreMedvedeva

 このジャンプ構成は,昨年末のロシア選手権で実施されたものですが,それ以前の大会とはジャンプ構成が異なっているので,世界選手権でもこれとは異なる構成になる可能性はありそうです。一見 +3Lo が目を引きますが,ジャンプの種類は平昌五輪とほとんど変わっておらず,2本あった +3T の1本が +3Lo に変わっただけです。

 メドベージェワ 選手も Lz が苦手なので,3F を2本にしています。連続ジャンプが 3F+2T+2T なんですが,+2T+2Lo が通例のところ,それより基礎点が 0.4 点低い +2T+2T を入れています。3S+3Lo は今シーズンのチャレンジですが,第1ジャンプは比較的飛びやすい 3S を使っています。ボーナスタイムは 2A+3T, 3F, 2A の3回ですが,2A が2本,2連続ジャンプ1回,3連続ジャンプなしという堅実な選択です。これらからわかることは,メドベージェワ 選手のジャンプは基礎点の高さに頼らず,全てのジャンプを確実に飛んで GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)を高める戦略を採っているということです。

 メドベージェワ 選手は,ジャンプを含む全ての要素を完璧に実施し,ミスがほとんどない印象がありますが,ジャンプが大得意というわけではなく,基礎点がさほど高くないジャンプの完成度を上げることを突き詰めた結果,ミスがないだけでなくジャンプが演技の中に溶け込み,GOE に加えて PCS (Program Component Score,演技構成点)も上がったことで,平昌五輪までは驚異的なスコアを出し続けてきました。今シーズンから指導する ブライアン・オーサー コーチは,このままの基礎点では今後は戦えないと考え,基礎点の高いジャンプを飛べるように,一からジャンプを見直しているのではないか,と私は推察しています。世界選手権は,その途上の姿を観ることになると思いますが,+3Lo 以外のチャレンジがあるかどうかも含めて,新たな理想をめざす メドベージェワ 選手に注目しましょう。

 ロシア 選手もジャンプに関しては三者三様で個性が表れています。開催国として地の利を生かす日本勢に対して,ロシア 選手がどこまで壁として立ちはだかるか。世界選手権は史上まれに見るハイレベルな大会になりそうです。

紀平梨花,グランプリファイナル制覇,次は全日本選手権 【スポーツ雑誌風】

KihiraRika2018GPF フィギュアスケート・グランプリファイナル(以下 GPF)開催から1週間。やっと感想が書ける時間が取れました。いや~,やってくれました,紀平梨花 選手! シニアデビューシーズンのファイナル優勝は 浅田真央 さん以来ですが,シリーズ3連勝(日本大会:NHK杯,フランス大会,GPF)は男女を通じて日本選手史上初の快挙となりました。書いてみたらかなりくどくなってしまった(笑)ので,雑誌記事アレンジにしてみます。


 FS(Free Skating,フリースケーティング)は,SP(Short Program,ショートプログラム)終了時に私が予想したとおり,3A(トリプルアクセルジャンプ)を1本綺麗に決めた 紀平梨花 が,FSだけ見ても ザギトワ (ロシア)に勝利し,SP・FS共に1位の完全優勝となった。正直なところ,3A が1本しか決まらなければ,FSでは負けてもSPの貯金で勝つ,と思っていたので,3A が1本なのにFSも勝てたのは驚きだった。

 3A を1本ミスしても勝ったということで,ザギトワ が本調子ではなかったからだと思っている方もいるかもしれないが,そうではない。ジャンプ・スピン等個々の要素の完成度を示す GOE(Grade Of Execution,出来ばえ)による加点の合計は,ザギトワ が 14.76 点。これは 紀平 の 14.56 点より高く,ザギトワ の今季のグランプリシリーズ2戦よりも高い加点だ。また,PCS(Program Component Score,演技構成点)も5項目平均9点台に乗せており,個々の要素および演技全体の完成度はけして悪くなかった。

 ザギトワ のFSでは,3Lz+3T(連続ジャンプ:トリプルルッツ→トリプルトウループ)の予定が 3Lz+1T になってしまったので,基礎点が 3.8 点減り,GOE 加点も 0.34 点しか得られなかった。グランプリシリーズ2戦では共に,3Lz+3T で 1.77 点の加点(GOE 平均= +3 )を得ているので,3Lz+3T が成功すれば 3.8+(1.77-0.34)= 5.23 点上乗せされる計算になる。しかし,GPF の ザギトワ はSP+FSトータルで 紀平 に 6.59 点の差をつけられており,その上乗せだけでは逆転できなかったのである(PCS が伸びれば逆転したかもしれないが 1.4 点の伸びが必要)。全要素成功の ザギトワ が,3A で1ミスの 紀平 に負ける計算であり,これは ザギトワ の調子云々ではなく,完全に力負けであることを示している。

 今後,ザギトワ が絶好調ならば,紀平 といい勝負になるだろう。しかし,それは 紀平 がほどほどの出来ならばの話で,紀平 も絶好調だと勝ち目がない,ということが今回の GPF ではっきりした。現在のジャンプ構成のままでは,ザギトワ は 紀平 のミス待ちにならざるを得ない。ザギトワ 陣営はなかなか策が打てない状況に陥ってしまったと言っていいだろう。

 この状況で思い出すのは,ケガから復帰した メドベージェワ (ロシア)が,シニアデビューの ザギトワ に力負けした,昨シーズンのヨーロッパ選手権だ。このとき,ザギトワ の PCS が急伸して メドベージェワ 先輩を追い抜いたが,今回の GPF でシニアデビューの 紀平 も PCS が急伸しており,「シニアデビュー選手が PCS を急伸して追い抜く」という点で類似しているのだ。1年前は追い抜く立場だった ザギトワ が,今度は追い抜かれる立場に立たされたわけだ。1年前の ザギトワ は,ヨーロッパ選手権の勢いそのままに,平昌五輪の金メダルを手にした。追い抜く者のエネルギーの強さを自ら体感した彼女が,追い抜かれた立場で今シーズンのこれからをどう巻き返していくのか,注目していきたい。

 ここまで ザギトワ 目線だったので,紀平 の目線で見ていこう。GPF という注目度の高い大会で,SP 82 点,FS 150 点で優勝を手にするという,最高の結果だったと思う。私はつい前回の記事で「FS 160 点もあるかも」などと煽ってしまったが,内心ではまず不可能だなと思っていた。ところが,GPF の 紀平 のFSのスコアは,失敗した 3A がもし成功していたら本当に 160 点に到達していたという内容だったので,本当に驚いた。160 点の可能性が十分に感じられる 150 点であり 紀平 陣営はかなり満足していると思う。

 ジャンプを1つミスしても 150 点とは,恐ろしいスコアである。しかもそのミスは,小ミスではなく大ミスだった。冒頭の 3A は不完全で,半回転以上回転が足りなかった。基礎点が減点される「回転不足」は,回転が90度(1/4回転)以上180度(半回転)未満の範囲で不足することを指すが,半回転以上回転が足りないと「ダウングレード」という判定になり,基礎点が 2A の点数しか得られない。しかも着氷の仕方も悪かったため GOE が最低評価になってしまい,ダウングレード & GOE 最低という,回転不足で転倒するよりも大きな減点になってしまった。これだけで,単独の 3A と比べ8点以上点数を落とすことになった。もっと正確に言えば,最初のジャンプは 3A+3T の予定だったので,12点ほど点数を落としたことになるのである。

 ミスの仕方が悪かったことから,普通ならかなり精神的なダメージを受けるところだが,ニュースでも報じられたように,ここから 紀平 が驚異的な修正対応力を発揮していく。次の 3A は,直前に失敗したのだからただ飛ぶだけでも尋常でない緊張感に襲われるはず。しかもこの 3A は「連続ジャンプにしたい」ではなく「連続ジャンプにしなければならない」ジャンプだった。もし単独ジャンプにしてしまうと「同じ種類の単独ジャンプは1回まで」というルールにより基礎点が 0.7 倍に減点され,それに伴って GOE 加点も小さくなってしまうからである。

 紀平 は 3A を飛び着氷したが,完璧な着氷ではなかったため,セカンドジャンプが予定の +3T ではなく +2T になった。テレビ中継を観た印象では,+3T を付けようと考えていたものの,身体が反射的に +2T を選んだように見えた。+3T を付けてリカバーしたいという気持ちが強すぎると,思考と動作がかみ合わずに失敗したり回転が抜けたりするものだが,ここで冷静に +2T を付けられるのが 紀平 の身体能力のすごさなのだ。このジャンプを失敗すれば優勝を逃していたので,このジャンプによって彼女自身,これでまだ勝負ができると思ったことだろう。

 次のハイライトが,ステップの後に飛ぶ演技時間後半最初の 3Lz からの連続ジャンプだった。セカンドジャンプの予定は +2T だったが,3A に +2T を付けたことから,ここは +3T にしなければならなかった。もしここも +2T にしてしまうと「同じ種類のジャンプは2本まで」というルールがあるので,後で飛ぶ3連続ジャンプのセカンドジャンプを3回転(3→3→2回転の3連続ジャンプ)にするリカバーが必要になるが,演技終盤の3連続ジャンプのセカンド3回転は,紀平 と言えどもリスクが高すぎる。この場面,3Lz+3T を絶対に成功させる必要があったのである。

 女子では苦手な選手も多い 3Lz を,比較的短い助走から重心を外側にかける正しい飛び方で踏み切り,幅のあるジャンプで綺麗に着氷。そのまま続けて高さのある +3T を飛び,着氷後もスーッと軌跡が伸びていった。これぞ 3A の次に難しい 3Lz も得意とする 紀平 の真骨頂。後半最初の 3Lz+3T が鮮やかに決まり,観客の拍手がひときわ大きくなったように感じた。この連続ジャンプの成功で,紀平 は優勝の目が出てきたと思っただろう。その後,点数が 1.1 倍になる3回のジャンプをきっちり決めたのも,紀平 のスタミナと,チャンスをつかむメンタルの強さの表れだった。ジュニアの頃は大崩れも珍しくなかったことを思うと,メンタルの急成長が今回の快挙を生んだ大きな要因だろう。

 演技が終わっても,紀平 には優勝の確信はなかったはずだ。SPの貯金を使ってギリギリで勝てるかどうか…そんな気持ちだったことだろう。ところが,発表された点数は 150 点台。FSでも ザギトワ を上回ったことは,望外の喜びだったと思う。FSでも決め手になったのは PCS。70 点(5項目平均 8.75)に届けば…という私の予想を超え,いきなり 72 点台に乗せた。72 点は PCS の評価項目5項目平均9点であり,スケーティングや表現力などの総合力が超一流であることを示すものだ。この点数は ザギトワ とほぼ同じ点数であり,SPとFSの両方で 紀平 の PCS が ザギトワ に肩を並べたことになった。

 PCS は客観的評価が難しく,実は審判も探り探り採点しているのではないだろうか。過去に記録した PCS が審判の頭にあり,進歩が感じられると PCS が上がっていくのだと思う。だから,同じ選手の PCS が試合によってコロコロ変わることはなく,一度高い PCS が出ると,短期間で急激に低下することはないと思われる。GPF で PCS を引き上げた 紀平 は,今後は悪くても5項目平均 8.75(SP 35 点,FS 70 点),良い演技なら9点(SP 36 点,FS 72 点)以上をコンスタントに記録していくと思う。

 この PCS の急伸こそ,一流選手が一堂に会する GPF に出場した 紀平 にとっての最大の収穫だ。今季,SPは5項目平均8点そこそこ,FSでも 8.5 点には届いていなかったレベルから,GPF で 8.8~9点に引き上がったのは,他の選手と同時に観た審判が 紀平 をトップレベルと認めざるを得なかったからだと思う。シニアデビューシーズンの GPF で(5項目平均)9点に乗せたのは,2015年の メドベージェワ 以来であり,紀平 が同等の評価を得たことはものすごいことだと感じる。ご存じのとおり,メドベージェワ はそこから一気に世界女王へと上り詰め,世界選手権2連覇,3年間全試合2位以内という驚異的な戦績を修めた。ということは,紀平 に世界女王や五輪でのメダル争いを今から期待することは,早すぎることではなくむしろ当然のことだと思うのだ。

 基礎点が最強でありながら GOE も高く PCS もトップクラスに到達。SP出遅れから逆転する爆発力(日本大会),3A を封印しても勝ち切れる総合力(フランス大会),極限での対応力と勝負度胸(GPF)。これだけの様々なドラマを生み出し,なおかつ勝ち運も持っているシニアデビュー選手。世界のフィギュアスケート関係者が驚嘆・絶賛し,ロシアのスケート界やメディアに脅威を与える選手。これが 紀平梨花 なのである。

 彼女は今,女子シングルに立ちはだかっていた重い扉を開け放った。五輪金メダリストで見ると,バンクーバー五輪 キム・ヨナ(韓国) 228 点から平昌五輪 ザギトワ 239 点まで,8年間でスコアは11点しか伸びていない。3A を飛ぶ選手は少なく,3→3回転の連続ジャンプが得点源という時代が長く続き,その間,スコアの飛躍的な上昇はなく,GOE や PCS を高めることが主な戦略だった。3A と 3→3回転連続ジャンプの両方を高い完成度で使いこなす 紀平 がその重い扉を開け,男子で起こったような技術開発やスコアの上昇が本格化しそうだ。紀平 の活躍が刺激となり,多くの女子選手が 3A や4回転ジャンプへの挑戦に踏み出している。紀平 自身も4回転の挑戦を明言し,他の選手が追いつく前にさらなる高みをめざそうとしている。北京五輪に向けて,女子シングルが競技の面で活性化することは間違いなく,紀平 はその象徴的な存在になるだろう。

 さて,今週末は全日本選手権である。日本大会(NHK杯)から始まった1ヶ月半にわたる 紀平 の快進撃の第一幕が,いよいよクライマックスを迎える。日本大会 → フランス大会 → GPF → 全日本 が同じ隔週の間隔で続き,良いリズムができているのではないかと思う。GPF を制覇した自信はとてつもなく大きく,周囲の注目度といったマイナス面などあっさり跳ね除けるだろう。昨年,紀平 は五輪代表選考の張り詰めた空気の中,全日本3位となり表彰台に上がっており,全日本独特の緊張感も経験済みだ。むしろ,シニアデビューの選手には負けられないと,他の選手たちの方がプレッシャーを感じているのではないか。トップスケーターへの階段を駆け上ってきた 紀平 が,デビュー4連勝でトップスケーターの頂に上り詰める可能性が極めて高い

 国内大会なので公式記録にはならないが,GPF でお預けとなったトータル 240 点という新歴代最高得点への期待もかかる。しかし,そこまで高望みするのではなく,そのスコアは世界選手権まで取っておくことにして,まずは練習チームの先輩である 宮原知子 が完璧な演技を披露し,2人で優勝争いを演じて「日本女子Wエースの誕生」…これが最高のシナリオだと私は思う。 (選手敬称略)

グランプリファイナル: 紀平梨花 の優勝は確実,トータル240点届く可能性大

 フィギュアスケート・グランプリファイナル(以下 GPF)の女子シングル。SP(Short Program,ショートプログラム)でついに完璧な演技を披露した 紀平梨花 選手が,ザギトワ 選手(ロシア)に 4.5 点の差をつけトップに立ちました。紀平 選手に失敗がなければ ザギトワ 選手を上回ることは十分予想できましたが,ザギトワ 選手がノーミスにもかかわらず 4.5 点も差をつけたのには驚きました。

 この点差の理由は,紀平 選手の GOE(Grade Of Execution,出来ばえ)加点の高さだけではありません。演技全体の評価である PCS(Program Component Score,演技構成点)が大きく影響しています。私は過去のブログで,

GPF は,結果もさることながら,錚々たる一流選手と同じ試合に出場することに意味があると私は考えています。他の選手と同時に見れば,審判は「他の選手と比べても遜色ないスケートだ」と感じると思うので,そうなると PCS が一気に伸びる可能性があると思っています。

と書きましたが,SPは正にそのとおりの展開になりました。グランプリシリーズ2戦のSPの PCS ベストスコアを比べると,

  •  紀平:32.19 (日本大会) vs ザギトワ:37.25 (ロシア大会) 《点差:5.06

ですが,今回の GPF の PCS は,

  •  紀平:35.15 vs ザギトワ:35.83 《点差:0.68

になりましたから,PCS の差を詰めた分がほぼSPの得点差になった計算になります。逆に言えば,紀平 選手の PCS の伸びがなければ,ここまで点差は開かなかったはずです。

 「2人の演技を同時に見たら,審判は 紀平 選手の PCS を引き上げる」という読みはSPで現実になりました。PCS の差を技術点で埋める戦略を採る 紀平 選手が,PCS をこれだけ詰められれば鬼に金棒です。これはFS(Free Skating,フリースケーティング)でも起きるでしょう。紀平 選手のFSの PCS は,良い演技ならば 70 点に届くと思います。これは,NHK杯から 2.5 点の上積みになる計算です。

 ザギトワ 選手が持つ新歴代最高点を超えるトータル 240 点に届くには,FSで 157.5 点が必要ですが,NHK杯の 紀平 選手のFSが 154.72 点なので,あと 2.8 点上積みすればよく,上述した PCS の上積み 2.5 点でほぼ埋めることができます。しかもFSは 紀平 選手が最終滑走。最終滑走で良い演技をすると PCS がさらに上がり,まさかのFS 160 点で圧勝という可能性すら出てきました。ものすごいシーンを観ることができるかもしれません。

 そこまで完璧でなくても,いくつかの状況を考え合わせると,既に ザギトワ 選手との勝負はついたも同然です。3A(トリプルアクセルジャンプ)を2本とも失敗すると苦しいですが,1本綺麗なジャンプが決まれば優勝すると思います。とにかく「4.5 点差」と「PCS の点差の拮抗」は驚異的で,ザギトワ 選手は,自身がノーミスで乗り切り,紀平 選手の大崩れを待つしかない状況に追い込まれたと言っていいでしょう。

 紀平 選手が優勝すれば十分すごいことなんですが,これだけのSPを観た後では,単なる優勝ではもったいないとつい贅沢な気持ちになりますね。完璧なFSと新歴代最高点で,紀平 時代の到来を告げてほしいと期待しています。日曜日の午前中には結果がわかりますので,すごい結果が出たら日曜夜のテレビ観戦を楽しみたいと思います。

平昌五輪 女子シングル 感想

 フィギュアスケートの全競技が終わりました。今回も始まってみればあっという間でしたね。女子シングルは,6位までは実力どおりの順位に落ち着いたという結果でしたが,感動しつつもなんだかモヤモヤするなぁという方もいらっしゃるようです。私のブログでは,試合の結果に対して感想を述べるときには,順位に対する言及は極力しないよう努めているのですが,今回は世間でも議論を呼んでいる話題なので,やや踏み込んで書いてみようと思います。

 まずは,宮原知子 vs オズモンド (カナダ)の銅メダル争い。宮原 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)共に,ノーミスどころか着氷のぐらつきも全くない完全完璧な演技で,SP約 76 点,FS 146 点台,トータル 222 点台と,全てのスコアが自己ベストでした。五輪という大舞台で,しかもケガ明け復帰からわずか3ヶ月しか経っていないことを思えば,内容,スコア共にパーフェクトでした。応援していた多くの方々が感涙されたと思いますし,特に現役や OB/OG のスケーターから大絶賛されていますね。無駄な動きが一切ない,研ぎ澄まされた様式美が 宮原 選手の持ち味ですが,それに加え今シーズンは,今までよりもスケートの伸びやかさが増し,感情の発露も増えました。ケガが癒え,スケートができる喜びにあふれ,体重も増やし(これを言われるのはご本人は照れくさいでしょうね),宮原 選手のバージョンアップが五輪で結実しました。

 一方の オズモンド 選手は,今シーズンFSがなかなかまとまらず,私は失礼なことにミスが出ると予想しましたが,実際には見事にまとめました。3Lz のエッジ違反疑い(エッジ違反までは取られなかった)とステップアウトで少し綻びが出ましたが,それ以外は崩れることなく全てのジャンプを決めました。終わった瞬間,詳しい方なら「宮原 選手のメダルはなくなったな」と分かったと思いますが,それでも 152 点台という点数が出たときは,150 点を超えるような内容だったかな?と首をひねった方もいたと思いますし,私もその1人です。

 宮原 選手がメダルに届かなかった要因,すなわち オズモンド 選手との差について,何人かの専門家が言及していますが,結果論で言っているような印象で,腑に落ちる論評を見つけることがまだできていません。GOE(Grade Of Execution,出来ばえ点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)の両方で差がついたのですが,GOE に関しては,オズモンド 選手について「ジャンプの幅や着氷後の流れが良かった」という意見が多くありました。着氷後の流れについては私も同意しますが,ジャンプの幅の評価についてはやや疑問を感じます。幅で飛ぶ選手もいれば,高さや回転の速さで飛ぶ選手もいるわけで,高さや速さだって良い評価を受けるべきです。宮原 選手は回転の速さが素晴らしいので,その点はもっと評価されていいと思います。ただ 宮原 選手は,回転がギリギリで着氷後の流れがあまり出ないのは確かで,それが GOE の評価が高まらない理由だとすれば,そこについては同意せざるを得ないところです。

 もっと解せないのは PCS です。宮原 71.24 vs オズモンド 75.65。1項目平均では,宮原 8.90 vs オズモンド 9.45 (小数点第3位以下切り捨て)。こんなに差があるとは到底思えないというのが私の感想です。宮原 選手を贔屓目に見てしまう点を差し引いても,宮原 選手の方が上か,もっと僅差であるべきだと思います。オズモンド 選手のダイナミックさは確かに素晴らしく,9点台に値するとは思いますが,1項目平均 9.1 前後が妥当な水準ではないかと個人的には考えます。一方,宮原 選手の余計なものが削ぎ落とされた洗練された美は,PCS の5項目のうち「パフォーマンス」(Performance)や「音楽解釈」(Interpretation of the Music)の項目においてもっと評価されてよく,1項目平均 9.2 程度出るべきだと思います。宮原 選手のような洗練された美というのは,欧米勢が大半を占める審判の方々にはきっと本質的に理解できないのではないかという気がしてきますし,何かと動作が多いロシア勢と比べ「もっといろいろできるのにサボっている」みたいに思われているのでは?とさえ思ってしまいます。

 宮原 選手に五輪メダルを獲ってほしかった気持ちは強いですが,既に世界選手権とグランプリファイナルのメダルは手にしていますし,何より世界中のファンやスケーターから寄せられた称賛は,メダルよりもはるかに価値が高いです。宮原 選手はSPとFSが両方ノーミス(転倒・回転不足・回転抜け・レベル取りこぼし・出来ばえ点マイナス 全てなし)でしたが,これは ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手と計3人だけが達成しました。また,五輪でのSP・FS両方ノーミスは,現行の採点方式になった2006年トリノ五輪以降,日本男女シングル選手では初めて(現時点では唯一)の偉業です。こういったことで私たちは自分を納得させつつ,オズモンド 選手の銅メダルに拍手を贈りたいと思います。

 続いて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手の金メダル争いを見ていきます。ザギトワの勝因として,演技時間後半に全てのジャンプを入れたことを挙げる記事が多いですが,これは本質を突いているとは言えません。確かに最もわかりやすい ザギトワ 選手の特徴ではあるのですが,メドベージェワ 選手もSPでは全てのジャンプを後半に配置し,FSでも他の選手より多い後半5本という策を採っています。後半全ジャンプより重要なポイントは「ザギトワ 選手が 3A を入れないジャンプ構成としては最高の構成を組んでいる」ことと「メドベージェワ 選手のジャンプ構成はかなり難度が低い」ことです。

 両選手のFSのジャンプ構成を比べてみます。★印は2本入れることを表します。

  • ザギトワ: 3Lz★, 3F★, 3S, 2A★; +3T, +3Lo, +2T+2Lo
  • メドベージェワ: 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T

 ザギトワ 選手は 3Lz と 3F を2本ずつ入れていますが,まずこれが高難度です。Lz と F は一方が苦手な選手が多く,どちらかは1本にせざるを得ない選手が多い中,どちらも苦にせず2本ずつ入れられる ザギトワ 選手のジャンプ技術が素晴らしいのです。そしてもう1つの武器は +3Lo の連続ジャンプです。もちろん,これを飛べること自体がすごいのですが,+3Lo を入れるもっと重要な意義は,3A を入れない場合の最高得点となる構成を組むことができる点です(なぜ最高得点の構成になるかの説明は割愛します)。ザギトワ 選手の技術点が高いのは「演技時間後半に全てのジャンプを入れている」や「3Lz+3Lo が飛べる」ことよりも「技術点が高くなるようにジャンプ構成を組んでいる」ことが根本的な要因なのです。

 一方,メドベージェワ 選手は 3Lz が苦手なので1本しか入れず,また3連続ジャンプでは,一般的な +2T+2Lo より難度が低い +2T+2T を採用しています。これは,ザギトワ 選手だけでなく他のトップレベルの選手と比べても基礎点がやや低い構成です。基礎点では無理をせず,ジャンプの完成度を極限まで上げて高い GOE を得ることでカバーするのが メドベージェワ 選手の戦略です。

 技術点の点差は,今までなら PCS で メドベージェワ 選手が跳ね返すことができていたのです。ところが,五輪直前のヨーロッパ選手権で ザギトワ 選手の PCS が跳ね上がり,6~7点あった差が2~3点に詰まったのです。メドベージェワ 選手は PCS で跳ね返すことができなくなり,ザギトワ 選手のミスを待つか,究極の演技で PCS をFSで 79 点台(1項目平均 9.875 点以上)にするしかなくなりました。メドベージェワ 選手の PCS は77点台に留まり,FSも ザギトワ 選手と同点にするのが精一杯でした。とはいえ,PCS 77 点台は1項目平均 9.68 点であり,もう満点に近い点数です。ですから,ザギトワ 選手の金メダルに疑問を抱くことは「ザギトワ 選手の PCS 75 点台は高過ぎるのでは?」と思うことと等しいのですが,私の意見は「ザギトワ 選手の PCS は妥当」です。絶対値としては高過ぎると思うのですが,それは メドベージェワ 選手にも当てはまると思っているので,両選手の差はこの程度だと考えます。

 ザギトワ 選手は,SPの完成度が素晴らしかったです。動作がキビキビとしていて,メリハリが今までと段違いでした。SPの PCS を,ヨーロッパ選手権の 36.28 点から平昌五輪で 37.62 点まで引き上げましたが,この 1.34 点の上積みは,奇しくも メドベージェワ 選手との 1.31 点差とほぼ同じであり,ヨーロッパ選手権から1ヶ月弱の成長分が ザギトワ 選手に金メダルをもたらしたことになります。

 FSで7本のジャンプを全て演技時間後半に入れている点について,アシュリー・ワグナー 選手(米)が異を唱えて話題になりましたが,彼女らしくない言い掛かりに近い指摘だと感じました。もし後半のジャンプがプログラム全体に調和していないなら,審判がもっと PCS を低くするはずですが,実際には メドベージェワ 選手に迫る PCS が出ていますし,私もそれを妥当だと感じています。ザギトワ 選手のFSプログラム「ドン・キホーテ」は,構成が実によくできています。このプログラムの良さを,私は昨年のフランス大会の感想のブログ記事で下記のように記しました。

冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。

 フランス大会では,演技時間後半にジャンプが矢継ぎ早に入る箇所に,以前感じていた違和感がなくなり,しっくりくるようになってきたと私は感じました。その後,グランプリファイナル → ロシア選手権 → ヨーロッパ選手権 と大舞台で実戦経験を積む中で,後半のジャンプがプログラムによく溶け込むようになっていったと思います。平昌五輪では,最初の 3Lz に +3Lo を付けられず,2回めの 3Lz に付けてカバーしましたが,それにより「連続ジャンプ3回の重厚さ」から「単発ジャンプ4回の小気味よさ」へと続く流れが崩れました。それで PCS が 75 点台になりましたが,ジャンプが全て予定どおりで完璧だったら,PCS がさらに上がり,メドベージェワ 選手の歴代最高のトータルスコア(241 点台)が塗り替えられていたと予想します。

 結局のところ,ザギトワ 選手の勝因は「高い技術点を実行し演技構成点の不足を補おうとしたが,実戦経験を経て演技構成点が急伸し,技術力,芸術性,完成度がバランスよく揃った」ことなのです。神プログラムである「ドン・キホーテ」を手に入れ,完璧に遂行した ザギトワ 選手が金メダルを手にしたことを,私は心から称賛したいと思います。

 一方の メドベージェワ 選手は,直近3シーズン,頂点を維持し続けたにもかかわらず,ケガと若手の突き上げによってまさかの銀メダルに終わったことで,同情を集めているところもあるのかなと思います。私も,ソチ五輪後の4年間という視野で見れば,メドベージェワ 選手が金メダルに最も相応しいとは思いますが,肝心の五輪シーズンにケガをしてしまっては,金メダルを逃すのもやむを得ません。彼女自身,シニアデビューシーズンでいきなり世界女王に輝きましたから,ザギトワ 選手の飛躍に納得していると思います。

 私は,彼女の今シーズンのFSプログラム「アンナ・カレーニナ」が,ずっとしっくりきませんでした。シーズンが始まってからプログラムを変更したようですが,そうしたことが準備の面で響いたことは否めないでしょう。ヨーロッパ選手権や平昌五輪では,ある種の気迫のようなものが感じられ,私はその気迫を好意的に捉えていましたが,プログラム全体の完成度を上げ切る前に平昌五輪を迎えてしまったのかもしれません。個人的には,昨シーズンやその前に演じていた,抒情性の高いプログラムで主人公の内面をしっとりと表現する方が,メドベージェワ 選手らしさが出たのではないかと,結果論ですが思ってしまいました。

 とはいえ,この2人の息詰まる同門生対決は,後世に語り継がれる名勝負でした。ヨーロッパ選手権で,後輩の ザギトワ 選手から優勝という形で挑戦状を叩きつけられた メドベージェワ 選手は,ケガからの復帰で一息つくことも許されず,モチベーションも緊張感も極限の日々を過ごしたことと思います。そして,それは五輪直前に思わぬアドバンテージを手にした ザギトワ 選手も同じだったと思います。そんな極限の状態でも,ミスとは無縁の,GOE や PCS でスコアの小数点以下を争う,本当に異次元の戦いでした。2人が記録した 238~239 点台は,当然,五輪史上最高スコアであり,それに相応しい極めて完成度の高い感動的な演技でした

 最後に,坂本花織 選手に触れておきます。FSはジャンプをふわっと着氷していて余裕がありましたし,パントマイムもとても自然にできていて,これは神演技になる…と思った6つ目のジャンプ 3Lo でステップアウト。それでも,209 点台という200点超えのスコアで6位に入賞したのは見事でしたし,SPで自己ベストを出しFSを最終グループで演技することができたのは,貴重な経験になったと思います。全日本選手権の直前から急成長して代表の座をつかみ,四大陸選手権で優勝して良い流れで平昌五輪を迎えましたが,団体戦FSでは不本意な出来で,これで個人戦が不甲斐ない成績だと「なぜ 坂本 選手を代表にしたのか」という声が出かねないところでした。日本女子2枠という難しい状況の中で,本当に素晴らしい成績を残したと思います。

 1年前,坂本 選手が世界ジュニア選手権で表彰台に一緒に上った ザギトワ 選手が,今や世界一。その演技を観て,いろいろ思うところがあったのではないかと思います。現役の日本女子選手で2人しかいない五輪出場者の1人として,今後もっともっと成長して,世界一を争える選手になっていくのではないか,そんな大きな期待をしながら,坂本 選手を今後も応援していこうと思います。

LadiesMedalistPyeongchang2018

日本勢メダル濃厚:平昌五輪女子シングルSP終えて

 平昌五輪フィギュアスケート女子シングル。21(水)に行われたSP(Short Program,ショートプログラム)は,上位5選手がパーフェクトで自己ベストという,かつてないハイレベルな戦いになりました。その中に日本の2選手,宮原知子坂本花織 がいることは,とても嬉しいですね。

 ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手は完全に実力が飛び抜けていますので,日本選手の現実的な目標は銅メダルとなります。ライバルは,SP3位の オズモンド 選手(カナダ)と,6位の コストナー 選手(イタリア)に絞られたと考えていいと思います。2選手が絶好調なら銅メダルは彼らの争いになりますが,今シーズン,彼らのFS(Free Skating,フリースケーティング)はジャンプが揃ったことがなく,スコアが130点台にとどまることも珍しくありません。五輪に照準を合わせてきているとは思いますが,逆に五輪だからこそごまかしがきかずに苦手な技でミスが出るのが平昌五輪の傾向であり,おそらくミスが出てしまうでしょう。特に,オズモンド 選手は,滑走順が ザギトワ 選手の直後なのでとてもやりづらいと思いますし,日本選手が良い演技だった場合,オズモンド 選手にはかなりの重圧がかかるので,ノーミスはなかなか難しいと思います。

 ですから,宮原,坂本 両選手がノーミスなら彼らより上位に行く可能性が高いです。両選手は最も重圧のかかる全日本選手権でノーミスの演技を魅せ,日本の2枠という世界一狭き門をくぐり抜けてきましたので,ノーミスの可能性は極めて高いです。よって,両選手が銅メダルを争うという,嬉しいやら辛いやらという展開になると思います。

 両選手の基礎点はほぼ同じなので,SPの点数差と演技構成点の差で,宮原 選手が優位に立っています。ノーミスの演技ができれば銅メダルを手にできる可能性はかなり高いと思います。宮原 選手は,ソチ五輪後の4年間ずっと世界トップレベルを維持した数少ない選手の1人ですので,五輪メダリストになってほしいと多くの関係者が願っていると思います。

 ただし,宮原 選手に1つでもミスが出れば,坂本 選手が上位に来る可能性も十分にあります。坂本 選手は,単なるノーミスでは 宮原 選手を超えるのは難しいですが,全てが完璧であれば,出来ばえ点が多く加算され,演技構成点も今までより高くなることが見込まれるので,逆転できると思います。団体戦FSでは今一つだったので,個人戦では完璧にしたい気持ちが強いと思うので,完成度の高い演技を魅せてくれることでしょう。

 以前のブログでも指摘したのですが,現行の採点方式で,五輪でSPとFS両方ともノーミスを達成した日本選手は,今まで1人もいません。トリノ五輪金メダルの 荒川静香 選手も,FSで3回転の予定が2回転になるジャンプが1つだけあったのです。宮原,坂本 両選手にはぜひ日本選手初のノーミスを達成して,メダルを手にしてほしいと願っています。

 さて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手による金メダル争いは,SPで既に ザギトワ 選手がリードするというまさかの展開。ザギトワ 選手のSPは,気持ちが前面に出ていて,メリハリも今までより格段に良くなっていたので,82 点台という歴代最高スコアを記録するのは当然という演技でした。FSも同じ程度の出来なら ザギトワ 選手の方がスコアが高いので,このまま ザギトワ 選手が金メダルを獲る可能性が高く,メドベージェワ 選手はかなり追い込まれました。

 ただ,メドベージェワ 選手が全てを完璧に入れ,感情が前面に出る演技ができれば,出来ばえ点と演技構成点が伸び,ザギトワ 選手を上回る可能性もあります。ヨーロッパ選手権では,今までにないような,感情が表に出る演技が観られたので,それが再現できれば勝負の行方はもつれそうです。ザギトワ,メドベージェワ 両選手とも,少しの傷も許されない,究極の演技合戦になることは間違いなく,トータルスコアが 245 点に届く可能性さえあるかなと思います。

 平昌五輪のフィギュアスケートの1位と2位は,奇しくも「後輩が先輩を立てる」法則が成り立っています。男子シングルは日本勢の先輩である 羽生結弦 が,アイスダンスは同門生の先輩である ヴァーチュー & モイヤー 組(カナダ)が金メダルを獲りました。この法則に則れば,メドベージェワ 選手が優勝なんですが,女子シングルはその法則が崩れ,ザギトワ 選手が金メダルを手にする可能性が高い状況です。果たしてどうなるでしょうか?

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