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ソツコワ

女子シングルと,アイスダンスと,ジュニアファイナル女子と【グランプリファイナル感想(2),スポーツ雑誌風】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


◆女子シングル:樋口新葉 に平昌五輪を期待するのは酷

 女子シングルは予想どおりの大混戦となったが,アリーナ・ザギトワ(ロシア)の優勝は本命がきっちり獲ったという印象だ。グランプリシリーズ2戦とは緊張度が段違いの大舞台でも,ノーミスはもちろんのこと,かなりの完成度を披露したことで,平昌五輪の銀メダル候補の筆頭に立ったと考えてよいだろう(金メダル候補が メドベージェワ(ロシア)であることは言うまでもない)。15歳のファイナル制覇は 浅田真央 以来だが,浅田 が若さ溢れる演技だったのに対し,ザギトワ は若さを生かしてジャンプを演技時間後半に集めてはいるが,表現面では若さを武器にしていない。滑りがこなれてきて,シニア1年目とは思えない成熟した表現が随所に見られるようになり,ややエキゾチックな顔立ちが落ち着いた雰囲気をたたえる。技術面と芸術面が両立した,末恐ろしい15歳の出現である。

 シリーズのベストスコアが210点を下回っていた マリア・ソツコワ(ロシア)が,216点を出して2位に入ったことは,これぞロシア女子の勝負強さであり恐れ入った。私は,以前のブログ「グランプリシリーズ スコアランキング 女子シングル編」の中で ソツコワ について「レベルの高い試合になればそのレベルに追随するポテンシャルはある」と記したが,正にそのとおりの結果となった。もちろん,宮原知子 や オズモンド(カナダ)の演技が完璧なら結果は変わっていたと思うが,実際の結果がこうなった以上,これを勝負強いと評価すべきだろう。そして,ファイナルで216点という高いレベルのスコアを出したことで,メドベージェワ,ザギトワ に次ぐ3番手の地位を固め,ロシア代表入りにかなり近づいたと見てよいだろう。

 5位と6位に終わった日本選手だが,その評価は全く異なるものだ。宮原知子 は,FS(Free Skating,フリースケーティング)のジャンプの回転不足によりスコアが伸びなかったが,それでも213点を出しており,回転不足がなければ220点を超えていただろう。回転不足は,ケガ明け,繰り上げ出場,前の試合から中1週という状況を考えればやむを得ない面もあり,今回の演技は平昌五輪のメダル争いに加われるだけの力を示したと言える。NHK杯,スケートアメリカ,そして今大会の3試合で,試合勘を完全に取り戻し,芸術面では昨季と見違えるほどの豊かな表現力を魅せてくれた。個人的には,宮原 は代表当確としたい。

 一方の 樋口新葉 は,大舞台での弱さを三たび露呈してしまった。昨季の四大陸選手権,世界選手権,そして今回のファイナル。この3つの大会は,単に大きな国際大会というだけではない,大きな重圧のかかる大会だった。四大陸選手権は平昌五輪の本番リンクの予行,世界選手権は五輪出場枠の枠取り,ファイナルは自国開催でかつ五輪シーズンの代表選考へのアピール。今大会は昨季の反省を生かして同じ轍は踏まないものと期待したが,そうはならなかった。強い重圧に耐え高得点が求められる場面での失敗が3度目となると,平昌五輪では克服してくれるはずと期待したくても,その期待が単なる根性論になりかねないのである。

 失敗の内容もいただけない。私が一番問題だと感じるのは,得意な連続ジャンプである 3Lz+3T(トリプルルッツ→トリプルトウループ)でミスが出たことである。樋口 はこの連続ジャンプを得意にしており,演技時間の前半と後半の両方に計2回組み込んでいる。それほど自信を持っているジャンプなら,転倒,抜けはあってはならない。しかし,今大会の 樋口 は,後半のジャンプで回転が抜けて 2Lz(ダブルルッツ)になってしまい,連続ジャンプにすることもできなかった。しかもこのミスは,昨季の世界選手権でも起こしているのだ。得意なジャンプで同じミスを繰り返しているということは,「強い緊張を強いられる状況で起こしてしまうミス」の原因を取り除くことができていないことの表れである。

 仮に全日本選手権を乗り切って代表に選ばれたとしても,人生最大級の緊張と重圧が襲う平昌五輪で今の 樋口 が好成績を残せるとは考えにくい。それどころか,五輪でも期待を下回る成績だった場合,厳しい批判にさらされ,つぶれてしまいかねない。2016年,自国開催の世界選手権でSP(Short Program,ショートプログラム)トップからFSのミス多発で表彰台を逃し,おそらくはそのショックからうつ病を患い,平昌五輪を断念せざるを得なくなった ゴールド(米)は,この年の世界選手権では,豊富な経験,順調なコンディション調整,自国開催と好条件が揃っていながら,天国(SPトップ)から地獄(表彰台落ち)に突き落とされたことでメンタルを蝕まれてしまった。気持ちの強さには定評のある 樋口 でも,五輪の重圧で4度目の失敗をすれば ゴールド のような道をたどりかねない。2枠という日本女子代表の重圧を背負わせるには 樋口 はまだまだ若い。4年間かけて,強い重圧に対処できる技術とメンタルを身に付けてから,五輪の舞台で躍動する 樋口 を観たいと願っている。

◆アイスダンス2強対決

 アイスダンスは,今季初めて,テッサ・ヴァーチュー & スコット・モイヤー 組(カナダ)と ガブリエラ・パパダキス & ギヨーム・シゼロン 組(フランス)の2強対決となったが,SPとFS共に パパダキス & シゼロン 組の勝利だった。ヴァーチュー & モイヤー 組のFS「ムーラン・ルージュ」は,今までで最も情熱的な演技で,確かな技術にその情熱が彩りを添える素晴らしい内容だったが,モイヤー の黒子に徹する姿が好きな私としては,モイヤー が情熱的に表現する姿に新たな発見がありつつも,彼ららしさが若干薄れてしまっているような気がした。

 今までの高い技術に情熱がプラスされた ヴァーチュー & モイヤー 組に対し,パパダキス & シゼロン 組は,今までの高い芸術性に技術がプラスされたものとなった。SPは現代的なダンス,FSはクラシックの王道だが,どちらも パパダキス & シゼロン 組にしか出せない,優美で妖艶な雰囲気が会場を支配する,見事な演技だった。若くして既に完成されている高い芸術性に,技術が伴ってくればこれほど強いことはない。特に今季のFSのプログラムは,ピアノの旋律に乗せて音楽との調和が素晴らしく,さらに硬軟・緩急を自在に表現することで技術面もアピールできるものになっている,実に計算されたプログラムだ。昨季は,2シーズンの休養から復帰した ヴァーチュー & モイヤー 組の後塵を拝したが,このプログラムを五輪シーズンに手に入れた パパダキス & シゼロン 組は,ファイナル制覇で大いなる自信を得ただろう。逆に,ヴァーチュー & モイヤー 組が豊富な経験を元に,五輪までの間にどんな巻き返しを図るのか楽しみだ。平昌五輪のアイスダンスは,この2組の究極の戦いが観られるだろう。

◆ジュニア女子シングル:紀平梨花 は 3A だけでなく総合力がすごい

 年齢により平昌五輪の出場権がなく,代表入りの戦いに巻き込まれることなく力を蓄えている 紀平梨花 は,3A+3T(トリプルアクセル→トリプルトウループ)の連続ジャンプを国際大会で初めて成功させた女子選手として名を残すことになった。3A を飛べるだけでも素晴らしいのだが,3A の名手だった 浅田真央 でも 3A+2T までだったことを考えれば,このジャンプのすごさがわかる。しかも,ふらつきやよどみが全くない,素晴らしい完成度だったことも特筆に値する。単に飛べたというレベルではなく,見事な完成度を披露したことで,3A+3T と言えば 紀平 という印象を与えることができたと思われる。今後は,国内の試合では成功した3連続ジャンプ,3A の連続ジャンプ2回,3A+3Lo(トリプルループ)など様々な 3A の記録にトライしてほしい。

 3A+3T ばかりがどうしても注目される 紀平 だが,他のジャンプ,スピン,表現面等,演技全体の質の高さには目を見張るものがあった。3A 以外のジャンプも綺麗で,3Lz(トリプルルッツ)の連続ジャンプを2回入れるなど,3Lz も苦にしない。スピンは軸がしっかりしており,レベルの取りこぼしがなく GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)も取れている。そして,各演技要素が調っているだけでなく,全体の表現がジュニアの割にかなり洗練されていることにたいへん驚いた。手先や腕の使い方やステップの踏み方に,いい意味でジュニアっぽさがなく,プログラム全体が実によくまとまっているのだ。昨季,3A で注目を集め始めた頃は,いかにもジュニアというスケーティングだったが,1年で劇的に進化を遂げていると感じた。これは,今後の成長が非常に楽しみになってきた。シニアになってから 3A に取り組むと他のジャンプが崩れる選手もいるが,紀平 は早くから 3A に取り組んでいるため,そういう心配がない。また,芸術面の基礎もできあがっているので,シニアに上がっても見劣りすることがない。今持っているものを突き詰めていけば,技術と表現が両立した高い総合力を持つ,国内トップクラスの選手になる。そんなことを予感させる,素晴らしいファイナルでの演技だった。

 ただ,そんな 紀平 も表彰台は逃した。他の5選手は全員ロシア勢であり,当然のように表彰台を独占した。ロシアのジュニア女子を観ていると「シニアになったら成熟したスケーティングが必要」といった考えはピントがずれていると感じてしまう。ロシア選手はジュニアであっても表現力が高く,ジュニアであることに甘えていない。13歳くらいだと一生懸命感がやや感じられる選手もいるが,14歳以上はもうシニアのスケーターと何ら遜色がないのだ。ロシア選手を観ていると,ジュニアだからこのレベルでよし,といった妥協がなく,その年代から理想のスケーティングに邁進しているように見える。日本選手だと,本田真凛 は表現力が高いという評価だが,ロシアのジュニア選手のほとんどが同等かそれ以上のレベルの表現力を持っているのを観ると,本田 をそのように評価することにやや違和感を感じてしまう。早熟であれという意味ではなく,若い時から完成度や表現を高めていくことで,全盛期に早く到達しそれを長く維持することができるのではないかと思うのだ。実際に メドベージェワ や ラジオノワ といったロシア選手は,まだ10代だがもう全盛期を迎えている。日本のシニアデビュー組やジュニア選手を観ていると,この点でもどかしさを感じることがある。若さを武器にするのはよいが,言い訳にすることなく完成度や表現力の向上を当然のこととして取り組んでいってほしいと,ジュニアファイナルの演技を観ながら改めて感じた。

三原 届かず,フェルナンデス 復調【フランス大会感想】

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 宇野昌磨 選手は,とりあえずグランプリファイナル進出を決めただけ,といった内容でしたが,大崩れはしていないので心配ないでしょう。中2週で地元・名古屋でのファイナルを迎えますが,ここは五輪本番の予行演習として本気で優勝を狙うと思います。フランス大会は,最悪でもこの程度のスコアは出るという確認ができたということではないでしょうか。

 ハビエル・フェルナンデス 選手が復活優勝を遂げました。とはいえ,FS(Free Skating,フリースケーティング)ではまだまだジャンプが揃わず,例年に比べて明らかに調整が遅れています。他の選手ならこの程度でも問題なしと言えますが,フェルナンデス 選手はシーズン前半でも大崩れしない選手だったので,五輪の表彰台に黄信号という印象は変わりません。今後の国内選手権~ヨーロッパ選手権で,どこまで整えてくるのかに注目していきたいです。

 ファイナルに出場できる可能性のある選手は,みな4位以下に沈みファイナル出場がほぼ消滅しました。期待していた ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,ジャンプがことごとく精彩を欠いた(←映像観ていませんので採点表を見た印象)ようで,シニアデビューのジャンプ構成のギャンブルが通じませんでした。チャンスが転がってきても,ファイナルに進出するのはなかなか容易ではないですね。

 三原舞依 選手は,SP(Short Program,ショートプログラム)のミスが響き,今大会も表彰台に届かず,ファイナル出場にも届きませんでした。2大会とも200点を超えたのに表彰台を逃すとは気の毒としか言いようがなく,この順位だけで不当に低い評価が与えられてしまう恐れがあることを私は危惧します。SPは 三原 選手の得意な路線とは言えないタンゴですが,かなり雰囲気ができてきましたし,FSは本人にとても合っていて,今大会でものびやかに滑っていたので,このまま細部を詰めていけば,ちょうど平昌五輪の頃に高い完成度に到達するのではないか,と期待できる内容だと思いました。

 ただ,今大会は優勝を狙っていたはずですが,技術のほかに気迫のようなものがもう少し必要だったかもしれません。SPでスピードが出過ぎてミスしてしまったせいか,FSではやや慎重な感じが見られ,PCS(Program Component Score,演技構成点)が64点にとどまりました。ジャパンオープン(10月)が70点だったことを思うと物足りません。樋口新葉 選手の気迫や,ザギトワ 選手の芯の強さのようなオーラが,グランプリシリーズの 三原 選手はやや弱かったと私は感じました。しかし,三原 選手は確かな技術や表現力で魅せていく選手であり,シーズンが進むにつれ演技が徐々に完成されていく中でそのオーラも強くなります。そのことは昨シーズンの四大陸選手権や世界選手権で証明済みです。なので,シリーズ2戦の内容で 三原 選手の力が表面的に判断されることがないよう願ってやみません。

 シリーズ2戦で 三原 選手より上位に入った 樋口,ラジオノワ,ソツコワ といった各選手は,日本やロシアという過酷な五輪代表選考争いの中で,気迫・技術の両面で強いものを持っていたことは確かだと思います。中でも今大会で2位に入った ソツコワ 選手は見事でした。正直なところ私は ソツコワ 選手は良くて3位だろうと予想していましたが,オズモンド 選手のミスを逃さず2位に食い込んでくるあたり,ロシア選手の逞しさを強く感じます。前大会のFSでいくつかあった回転不足を完全に解消し140点に乗せてきましたが,まだジャンプの着氷やつなぎの充実などに伸びしろがあります。FSのステップは,音楽に乗せて優雅に柔らかく,それでいてきっちりと1つ1つのターンを刻んでいくところが本当に素晴らしく,観ていて鳥肌が立ちましたね。

 ザギトワ 選手も,SPでつまづいたときはシニアデビューの洗礼かと思いましたが,FSは申し分ない内容であっさりと150点超え。FSの「ドン・キホーテ」は音楽が実にうまく構成されていますね。冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。プログラムがよくできているので,FSは今シーズンこのまま高い完成度を持続すると思います。

 今大会の ザギトワ,ソツコワ の両ロシア選手を観ていると「ピーキングを考えて」などと力加減に言及している自分が気恥ずかしくなってきます。おそらく彼らも100%のエネルギーでは臨んでいないはずですが,それでも高い完成度の演技を披露し,ザギトワ 選手はSPのミスをカバーすべく少しギアを上げたことで,驚異的なFSのスコアを出しました。「ノーミスというレベルではなく高い完成度を追求する」「それをシーズン前半から安定させシーズン中持続させる」という戦いをロシア女子は繰り広げており,安定感に欠ける ポゴリラヤ 選手や,わずかにミスが出た ラジオノワ 選手といった世界選手権メダリストたちが,代表争いから振り落とされそうになっています。

 スコアが拮抗している女子は特に,序盤からシーズンを通して完成度の高い演技ができるだけの技術,体力,コンディション調整力,そしてメンタルが必要な状況になっています。日本勢も十分に高い能力を持っていますが,互角に渡り合っていたのは昨季までの 宮原知子 選手くらいで,ロシア勢に比べ全ての面で少しずつ負けていて,中でも技術面は明確な差があると感じます。

 そんなロシア勢と戦う日本勢は,ここから全日本選手権と平昌五輪で100%の力を出せるようにギアを上げ,技術をはじめとするあらゆる面を高めていってほしいですね。そして,全日本選手権で疲弊することなく,その勢いを平昌五輪まで伸ばしていき,ロシア勢と素晴らしい勝負をしてほしいと思います。

フランス大会(フランス国際,グランプリシリーズ第5戦)プレビュー

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 ほとんどの選手がシリーズ2戦目になり,1戦目からどう伸びてくるか,グランプリファイナル進出がどうなるか,というところが注目点になります。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,よほどの大崩れがなければファイナル進出は間違いないので,今大会も調整の色合いが強くなるでしょう。ジャンプも 4S(4回転サルコウジャンプ)は入れず,4F,4Lo,4T(フリップ,ループ,トウループの各4回転ジャンプ)の3種類になりそうです。地元の名古屋で開催されるファイナルで,羽生結弦 選手が欠場するとなれば,堂々と優勝を狙える状況ですので,そこにピークを持ってくるため,今大会はとにかくミスなく全体を整えることを意識すると思います。トータル300点に乗せて,安定感をアピールしたいところでしょう。

 ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)は,中国大会まさかの6位でファイナルは絶望的ですが,優勝すればわずかに可能性が出てきます。とはいえ,ファイナル云々ではなく,自身の調子を上げることに尽きると思いますので,自国に近いフランスでどこまで戻せるかに注目したいです。1ミス程度で全体がうまくまとまれば復調したとみていいと思いますが,3ミス以上あるようだと五輪のメダルはかなり厳しくなるでしょう。

 今大会の男子は無風のはずが一変,ファイナル進出の鍵を握る大会になりました。アーロン(米),ビチェンコ(イスラエル),サマリン(ロシア),ヴィンセント・ジョウ(米)の各選手は,2位以内に入ればファイナル進出の可能性が出てくるので,かなり気持ちを入れて臨んでくるでしょう。中でも私は,ジョウ 選手が 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を武器に若さと勢いで上がってくると期待しています。もし ジョウ 選手がファイナルに出場することになれば,世代交代を印象付けるものになるでしょう。

◆女子シングル

 メンバー発表の時点から,このフランス大会が鍵を握ると予想していましたが,そのとおりの展開になっています。三原舞依,ザギトワ(ロシア),オズモンド(カナダ),ソツコワ(ロシア)の4選手の対戦は,今年のシリーズで最もハイレベルな戦いになると思います。三原 選手は優勝すればファイナル進出をほぼ手中にできるので,今大会に賭けていると思います。SP(Short Program,ショートプログラム)の「リベルタンゴ」がどこまで仕上がるかが注目点ですが,昨季経験したここ一番の集中力が今大会で出れば,優勝の可能性はかなりあると私は思っています。ものすごい完成度の演技が観られるのではないかとワクワクしています。

 ソツコワ 選手は2位以内ならファイナル進出確定ですが,3位だとほぼ無理なので,2位以内を狙うことになりますが,三原 選手の優勝よりも難しいミッションだと思います。ただ,カナダ大会がトータル200点に届かなかったこともあり評価があまり高くありませんが,今季のプログラムは ソツコワ 選手にピッタリはまっているので,ジャンプの回転不足が解消して完璧に演技できれば,トータル215点くらい届く力はあり,ドラマが起きるかもしれません。

 ザギトワオズモンド の両選手は3位以内でファイナル決定,4位でもほぼ大丈夫なので,大崩れさえなければファイナル進出はできます。しかし,2人とも前の大会でミスが出たので,今大会は全体をノーミスでまとめたいと考えているでしょう。2人がノーミスで演技すると,三原,ソツコワ の両選手が2人を超えるのはかなり困難でしょう。

 私は,三原,ザギトワ,オズモンド の3選手が220点近いスコアで僅差の勝負になると予想します。ソツコワ 選手も210点に届くのではないかと思います。210点で表彰台に乗れないという,とんでもなくレベルの高い大会になるのではと楽しみにしています。

宇野昌磨 余裕,本田真凛 取りこぼし【カナダ大会感想】

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 宇野昌磨 選手の余裕がとても印象に残りました。6分間練習でなんでもないところでバタッと転倒したのを笑って受け流し,ジャンプの難度を落としたFS(Free Skating,フリースケーティング)の 3Lo(トリプルループジャンプ)でもたついても笑顔。4回転4本がきっちりとは入りませんでしたが,肝心の 4Lo(4回転ループジャンプ)や 3A+1Lo+3F(トリプルアクセル→シングルループ→トリプルサルコウの3連続ジャンプ)を綺麗に決め,PCS(Program Component Score,演技構成点)も90点超え。終わってみればトータル300点に届き余裕の優勝でした。本大会は,難度を落として全体の完成度を高めることに主眼を置き,確実に優勝するという作戦を無事に遂行しました。これで,次のフランス大会はもう少し,宇野 選手がよく言う「攻める」演技にトライできるでしょう。とにかく五輪シーズンとは思えないほど余裕を感じますし,順調な調整ができていると思います。

 パトリック・チャン 選手(カナダ)は珍しく大崩れしました。いつもカナダ大会はシーズン序盤相応に仕上げてきていたので,少し心配な状況です。FSの曲「ハレルヤ」は,チャン 選手でなくても他の選手でも良い曲という印象。もっと チャン 選手ならでは,というプログラムを観たいと感じましたね。

 代わりに ジェイソン・ブラウン 選手(米)が2位に入りました。6強の一角を崩し,グランプリファイナル出場にグッと近づきました。FS冒頭の 4T(4回転トウループジャンプ)を見る限り,もう4回転は捨てて全体の完成度を徹底的に高める戦略でいくべきなんじゃないかと思います。4回転なしのFSで190点を狙えるのは ブラウン 選手だけですからね。

 本田真凛 選手は,結果から見ればもったいなかったです。SP(Short Program,ショートプログラム)の失敗がなければ2位に入れましたからね。でも,最初から順調で肝心なときに落とし穴に遭うよりは良かったと考えるべきでしょう。SP失敗から切り替えてFSをまとめるという経験はできましたが,なぜSPは失敗してFSは乗り切れたのか,きちんと検証できるのか少し心配です。それはSP直後に発した言葉から感じました。

「今回はすごく練習したつもりだったけど、まだまだ甘かったのかなと思う」

 結果が出てから「甘かった」と言っています。これは,甘さの残る練習をやっていたことの表れですし,もし今回が良い結果だったらその甘い練習のまま今後を過ごすことになったでしょう。結果を練習の質に結びつけてしまう考え方は危険で,練習の臨み方や結果の検証の仕方をきちんと身に付けておかないと,結果オーライの考え方がしみついてしまいます。本田 選手がこの罠にハマらないようにコーチ陣が導かなければなりませんが,注目度の高い選手なのでコーチ陣も大変でしょうね。

 本郷理華 選手は,全盛期には及ばないものの,かなり調子が戻ってきたのが嬉しいですね。プログラムはとても良いものに巡り合えたと思うので,あとは回転不足を解消して,全体の完成度を上げていき,全日本選手権で勝負をかけてほしいです。

 ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)がきっちり自国大会の優勝を果たしました。昨季の世界選手権銀メダルで得た自信は本物ではないかと思います。PCS もほぼ9割(SP 36点,FS 72点)を取り安定しています。FSの曲「ブラックスワン」は,オズモンド 選手ならではとまでは言えずもっと合う曲があるとは思いますが,華やかなブラックスワンというのは独特な感じで,どう仕上がっていくか興味深いです。

 ロシア勢は明暗が分かれました。マリア・ソツコワ 選手は,昨季のジュニア上がりっぽい表現の拙さがなくなり,表現力が格段に上がりましたね。それは PCS がFSで8割(64点)を超えてきたことに現れています。ソツコワ 選手はジャンプ技術も高く,3Lz(3回転ルッツジャンプ)と 3F(3回転フリップジャンプ)をFSで2本ずつ入れているのは彼女くらいだと思います。今大会のFSは回転不足でスコアが伸びませんでしたが,とにかくプログラムが ソツコワ 選手にとてもよくマッチしたものになっていますので,ジャンプがきちんと入れば,トータル210点超えができると思います。

 一方,アンナ・ポゴリラヤ 選手は,年に1~2回あるFSの大崩れがまた出てしまいました。「ブラックスワン」の演目が オズモンド 選手と丸かぶりで,オズモンド 選手よりは合っていると思うものの,ポゴリラヤ 選手にはもっと壮大なスケールの演目が似合うと思います。それにしても,スコアに安定感がないと,大激戦のロシア代表入りはなかなか難しいでしょうね。稀有な雰囲気を持つスケーターなので,今後巻き返してほしいです。

 実力者が力を出し切れない状況の中,ベストとは言えないまでもきっちりまとめてきた アシュリー・ワグナー 選手(米)が3位に入りました。SP,FS共に過去に演じた代表作の再演で,SPはダンサブル,FSはきらびやかで,本当に素晴らしい演目です。ワグナー 選手もスコア度外視でよい選手の一人ですが,他の選手にミスが出ると表彰台にきっちり上がるのはさすがです。

 今大会の女子は,好不調で言えば不調の方にやや倒れた形になり,スコアのレベルは オズモンド 選手以外は平凡でした。ロシア大会で5位だった 坂本花織 選手のスコアはカナダ大会では2位ですからね。グランプリファイナルは各大会の順位によって決定されるので,こういう対戦のアヤに左右されます。五輪シーズンなので,シーズン序盤でももう少しレベルの高い戦いを観たかったところではありますが,五輪シーズンの緊張感や調整の難しさを改めて感じさせてくれたカナダ大会でした。

なぜ女子はダブルアクセルを2本飛ぶのか?:フィギュアスケートのジャンプ戦略

 フィギュアスケートのフリースケーティング(FS: Free Skating)では,男子は8回,女子は7回のジャンプを飛びます。ジャンプはスコアの半分以上に影響しますので,どのジャンプをプログラムに組み込むかが,フィギュアスケートの重要な戦略の1つになるわけです。ところが,よく観ている方の中には「3回転ジャンプがあるのに,女子の FS でダブルアクセルを2回飛んでるのはなぜだろう?」とか,なんでこのジャンプを選んでいるのかな?と思いながら観ている方もいると思います。そこで,ジャンプの種類がどのように決まるのか,そこにどんな戦略があるのかを,ざっくり紹介したいと思います。

 まず,ジャンプの用語や表記を整理します。

  • 【ジャンプの種類】 A =アクセル [8.5],Lz =ルッツ [6.0],F =フリップ [5.3],Lo =ループ [5.1],S =サルコウ [4.4],T =トウループ [4.3] ([  ]:3回転ジャンプの基礎点)
  • コンビネーションジャンプ」…2つ以上の連続ジャンプ,「ファーストジャンプ」「セカンドジャンプ」「サードジャンプ」…コンビネーションジャンプの中の1つ目,2つ目,3つ目のジャンプ
  • 本記事では,単独ジャンプやコンビネーションジャンプといった個々のジャンプ要素を「1」,単独ジャンプや "連続ジャンプの中の個々のジャンプ" を「1」と数えます。例えば,3連続ジャンプは1回で3本のジャンプを飛ぶことを表します。
  • 【表記例】 3A =トリプルアクセル,4F =4回転フリップ,3Lz+3T =トリプルルッツ→トリプルトウループのコンビネーションジャンプ
 FS におけるジャンプのルールは,以下のように規定されています。
  • [A] 男子は8回,女子は7回。
  • [B] アクセルジャンプを1本は必ず入れる。
  • [C] コンビネーションジャンプは3回まで。その中で3連続ジャンプは1回まで。よって,男子:8回・12本,女子:7回・11本までとなる。
  • [D] 3回転以上の同じ種類のジャンプは2本まで。その2本のうち1本は必ずコンビネーションジャンプに含める。(2A も2本までだが,2本とも単独ジャンプでも構わない)
  • [E] 2本飛ぶ3回転以上のジャンプの種類は2種類まで。
 [D] のルールにより,例えば 3Lz が得意な選手でも 3Lz は2本までしか飛べませんし,一方はコンビネーションにしなければならないので,例えば,3Lz+3T と 3Lz というような構成にする必要があります。

 [E] のルールはさらに悩ましい制約です。例えば,3Lz+3T, 3Lz, 3F+3T, 3F というジャンプ構成は不可能です。なぜなら,3Lz, 3F, 3T の3種類が2本ずつ入っているからです。2本飛んでいいのは2種類までなので,この例の場合,どれかを1本に減らす必要があります。

 上記のルールを総合すると,3A を飛べない大多数の女子選手は,FS で7回11本あるジャンプの中に,3回転ジャンプを5種類7本しか入れられません。よって残り4本のうち2本を 2A でカバーするのは必然的な選択になります。だから,女子は FS で 2A を2本飛んでいるのです。

 スコア戦略を紐解くために,具体的なジャンプ構成を例示します。3A を入れないケースでは,点数が高い Lz と F を2本ずつ飛び,コンビネーションジャンプも点数が高いものを組み入れると点数が高くなりそうです。考えられる典型的なジャンプ構成が下記です。

【パターンA】 3Lz★, 3F★, 3Lo, 2A★; +3T, +2T, +1Lo+3S 《基礎点:44.8》

 表記の見方を説明します。

  • 」はそのジャンプを2本飛ぶことを意味します。「」から始まるのはコンビネーションジャンプのセカンド&サードジャンプです。セカンド&サードジャンプはどのジャンプと組み合わせてもスコアは同じなので,これらを分離して書いています。例えば,"3Lz+3T と 3F" でも "3F+3T と 3Lz" でもスコアは同じなので,これらは "3Lz, 3F, +3T" と表しています。
  • 基礎点》は,ジャンプの回転数や種類に応じて与えられる点数です。実際には,演技後半の時間帯に実施した場合のボーナス点(基礎点が1.1倍になる),ジャンプの回転が不完全(回転不足やダウングレード)な場合の減点(回転不足だと基礎点が0.7倍になる),上述のルールに違反した場合の減点によって基礎点が変わりますが,これらを考えない点数を記しています。
 【パターンA】は 3Lz と 3F を2本ずつ入れ,3T と 3S をセカンド(サード)ジャンプで使うので,残る3回転ジャンプである 3Lo を単独ジャンプ(またはファーストジャンプ)に入れると,単独ジャンプとファーストジャンプが計5本となり,残りの2本が 2A になります。

 しかし,実際に【パターンA】を採用する選手はめったにいません。今季のトップ選手では ソツコワ 選手(RUS)だけがこの構成を採用しています。なぜなら,Lz と F の両方をきちんと飛べて(これを「Lz と F の飛び分けができる」なんて言います),かつ Lz と F の両方でコンビネーションジャンプを飛ぶというのは,女子にとってはとても難度が高いのです。ほとんどの女子選手は Lz と F の飛び分けが不得手なので,得意な方だけを2本にします。Lz が得意な選手なら【パターンA】の F を1本 Lo に変えると,

【パターンB】 3Lz★, 3F, 3Lo★, 2A★; +3T, +2T, +1Lo+3S 《基礎点:44.6》

になり,これなら点数もほとんど変わりません。これは今季 ポゴリラヤ 選手(RUS)が採用しています。ところが,+1Lo+3S 自体は点数が高いのですが,これを入れるとルールの制約上 +2T を入れざるを得なくなり,合計点が思ったほど高くなりません。実は +1Lo+3S よりも,+3T を2本入れる構成の方が合計点が高くなります。

【パターンC】 3Lz★, 3F, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2Lo 《基礎点:45.1》

 これは今季の 宮原知子 選手が採用していて,素晴らしいスコア戦略だなぁと感じます。多くのトップ選手は【パターンB,C】のどちらかの構成をベースに,3Lz の代わりに得意なジャンプを2本飛びます。現世界女王メドベージェワ 選手(RUS)でさえ,

【パターンD】 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T 《基礎点:43.9》

の構成です。Lz ではなく F を2本飛び,+2T+2Lo より点数の低い +2T+2T を入れているので,けして高いスコアではありません。彼女の強さは,基礎点ではなく出来栄え点(GOE: Grade Of Execution)と演技構成点(PCS: Program Component Score)にあると言えます。

 ところで,ここまで紹介したパターンは,スコアの差が1点程度で,大きな差ではありません。ですから「女子のジャンプ構成はほぼ上限まで来ていて,出来栄えの差が勝敗を分ける」と言われているのです。では,スコアを伸ばすにはさらにどのような策があるでしょうか。代表的な戦略を2つ紹介します。

 1つめは,セカンドジャンプに Lo を入れることです。+3T を +3Lo に変えれば +0.8点,+2T+2Lo を +2Lo+2Lo に変えれば +0.5点 と少なからぬプラスが得られます。しかし,セカンドジャンプの Lo は難度が高く,この戦略が使える選手はほとんどいません。ただ,今のジュニア世代は Lo のセカンドジャンプを習得している選手が多く,平昌五輪後は +3Lo を観る機会が増えそうです。

 もう1つは,言わずもがなの 3A です。これが飛べれば 2A を1本にすることができます。3A を飛ぶ 浅田真央 選手のジャンプ構成は,

【パターンE】 3A, 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A; +3Lo, +3T, +2Lo+2Lo 《基礎点:50.9》

で,メドベージェワ 選手(RUS)の【パターンD】より7点も高いのです。3A に加え,Lo のセカンドジャンプを2本入れていることが効いていて,この構成は今でも世界トップを独走しています。高難度なので失敗のリスクも高いですが,成功すると世界最高得点も狙える構成なので,ぜひ成功させてほしいです。

 このように 3A が入ると,点数面のメリットに加え,3回転ジャンプが6種類8本に増やせるので,ジャンプ構成の自由度が上がります。3A に挑戦する女子選手が増えてきているのは,話題性だけでなく,スコア戦略という側面もあるのです。

 さて,これが男子になると,3A や4回転ジャンプが加わってきますので,スコア戦略はさらに多様になります。男子のスコア戦略については,別の機会に考えてみたいと思います。

 以上,ジャンプに関する戦略の一端をご紹介しました。どんなジャンプ構成なのかを意識しながら観戦すると,また違ったフィギュアスケートの楽しみ方ができると思います。まずは「2本飛ぶのが Lz か F か?」や「3連続ジャンプは +1Lo+3S か +2T+2Lo か?」などに注目しながら観ると面白いと思います。

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