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ボーヤン・ジン(金博洋)

グランプリファイナル出場選手スコア比較:男子シングル編

 フィギュアスケートのグランプリファイナルに出場する選手のスコアの比較表を作ってみました。まずは男子シングルの6名。

FigureSkateScoreList2019GPFmen

▲▲▲ クリックしてご覧ください ▲▲▲

 男子は 羽生結弦 選手と ネイサン・チェン 選手の2強対決ですが,スコアを見ると他の選手も大きく離されてはいないことが分かります。特に,サマリン 選手は2強に並ぶスコアを取れるジャンプ構成になっています。ただし,今季,この構成を成功させたことは一度も無く,3連続ジャンプも 3Lz+3T+2Lo という非常に難しいジャンプなので,成功確率はなかなか上がらないでしょう。ですが,4Lz と 4F の両方を,SPにもFSにも組み込むという意欲的なジャンプ構成なので,ぜひ成功させてほしいと願っています。

 4Lz を飛べる選手が4人もいるのが驚きです。4Lz でスコアを稼げるからこそ,ファイナルに残れたと言えるでしょう。羽生 選手も 4Lz を飛べますが,ケガの原因にもなったジャンプなので,確実性が上がるまでは使わないと思います。どうしても 4Lz は失敗のリスクが高いですから,使わずに戦える 羽生 選手は別の強さを備えています。SPのボーナスタイムに注目すると,ボーナスタイムに連続ジャンプを入れているのは 羽生 選手と チェン 選手だけで,しかも2人とも 4T+3T です。4T の成功確率が高く,ボーナスタイムに入れられるほど自信を持っているこの2人の実力は,やはり飛び抜けています。

 ここからは,羽生 選手と チェン 選手の戦いに焦点を絞ります。FSでは チェン 選手が 4Lz を使うのに対し,羽生 選手は他の選手が誰も飛べない 4Lo を入れて独自性を出しています。これで1点の得点差が出るのですが,FSトータルでは 0.37 点しか差がありません。羽生 選手は 3A2本ともボーナスタイムに入れ,ボーナスタイムの3つのジャンプを全て連続ジャンプにするというチャレンジによって,点差を詰めています。羽生 選手はボーナス加点率が唯一 5% を超えており,演技後半にスコアを稼ぐ構成になっているのですが,連続ジャンプを後ろに持ってくると失敗したときリカバーができないので,非常に緊張感が高く,ジャンプに自信が無いと組めない構成です。

 一方,チェン 選手は難しい連続ジャンプ2つを前半に持ってきており,ボーナスタイムは +2T という軽めの連続ジャンプしか入れていません。前半で失敗しても後でリカバー可能にするリスク対策を採っているわけです。かといってボーナスタイムが楽なわけではありません。ボーナスタイムに4回転を2本入れているのは チェン 選手だけであり,4回転に自信があるからこそボーナスタイムに組み込んでスコアをアップさせているのです。

 2人が揃って今シーズン新たに挑戦しているジャンプがあります。3連続ジャンプを +1Eu+3F にする,いわゆるサードフリップです。これは +1Eu+3S の亜種で,最初に取り入れた 宇野昌磨 選手と ヴィンセント・ジョウ 選手(米)の2人しか実施していませんでした。羽生,チェン 両選手は共に 4T+1Eu+3F という,4回転に付ける大技に挑んでいます。ファイナルでは,このジャンプの成否が勝敗を大きく左右すると思います。

 さて,ついジャンプに注目しがちですが,このような比較表を眺めていると面白いことが見えてくるもので,FSのスピンに関して 羽生 選手と チェン 選手だけがコンビネーションスピンを2回入れています。コンビネーションスピンの方がスコアが高いので,どの選手も2回入れているのかと思いきや,他の選手は1回しか入れていません。このことから,この2人はスピンも得意なのだということが分かります。2人のコンビネーションスピンはとても華があり,完成度も高いので,得点源になっています。これもまた,2人の実力が抜きん出ている理由の1つですね。

 2人の対決はほぼ互角と考えていいでしょう。羽生 選手は 4Lo,チェン 選手は 3A の出来が鍵になりそうです。チェン 選手の 4S や 3A の調子が今一つならば,これらに代えて 4F を投入する可能性もあり,そうなれば 4Lz と 4F が同時に観られることになるので,これはこれで楽しみです。

 歴代最高得点にも期待がかかります。完璧な演技ならどのくらいのスコアになるか考えてみます。2人の技術点の基礎点は,ジャンプが全て成功してスピンやステップのレベルも全て最高だった場合,SPとFSの合計で約 140 点。これに技の出来栄え点(GOE: Grade Of Execution を基に算出)が加点されますが,GOE の平均が 3.5 の場合,出来栄え点は 140×3.5×10% = 49 点。よって,技術点はトータル 189 点。さらに PCS(Program Component Score,演技構成点)が満点の96%を獲得すればSPとFSの合計で 144 点で,トータルスコアは 333 点出る計算になります。現在の歴代最高得点(2018/19シーズン以降の現行ルール)は,チェン 選手が昨季の世界選手権で出した 323 点台ですから,十分に更新可能であることが分かると思います。2人揃って 330 点を超える大会になるかもしれませんね。

平昌五輪 男子シングル レポート 【スポーツ雑誌風】

 SP(Short Program,ショートプログラム)を終え,羽生結弦 が1位,宇野昌磨 が3位という好位置につけ,羽生 2連覇,日本勢1&2フィニッシュへの期待が否が応でも高まる中,FS(Free Skating,フリースケーティング)が始まった。

 第1グループから,ヴァシリエフス(ラトビア),ハン・ヤン(閻涵,中国),田中刑事 など,見応えあるメンバーが並ぶ。彼らが第1グループとは信じ難いが,それだけかつてないレベルの試合になった。世界選手権や五輪では,国別の出場枠(1ヶ国あたり最大3名)が設けられ,その分,多くの国の選手が出場する。競技普及の観点では大切なことだが,演技がトップレベルより見劣りする選手の出場が多くなってしまうのは,やむを得ないことだ。しかし,平昌五輪のFSに進出した24名は,誰もが250点以上出す力がある実力者揃いだった。この点は,ソチ五輪から大きく進化した点の1つだ。

 第2グループには,早くも ネイサン・チェン(米)が登場。団体戦で,米国のメダル獲得を確かなものにするべく,男子SPに起用されたが,全てのジャンプを失敗し失意の底に沈んだ。1週間後,勝負の個人戦SP。団体戦では冒頭のジャンプに 4F を選択したが,個人戦ではより難度の高い 4Lz に挑んだ。SP冒頭のジャンプが チェン の命運を左右すると思いながら観ていたが,4Lz を転倒しその選択は凶となった。冒頭のジャンプを失敗したことで,団体戦の悪夢が頭をもたげ,もう失敗が許されない極度の重圧に襲われたことだろう。SPでも全てのジャンプを失敗し,トップの 羽生 に29点もの差が生じてしまった。

 この状況に,多くの日本人の方々が,4年前のソチ五輪の 浅田真央 選手の姿を重ねたに違いない。あの時,浅田 選手のSPとFSは中1日空いていた。だが,チェン はSPから連日のFS。気持ちの切り替えが極めて難しい状況だったはずだ。しかし,人間は追い込まれると恐るべき力を発揮することがある。メダルの重圧から解放され,失うものがなくなった チェン は,8回のジャンプのうち4回転を6本入れ,見事に5本を成功させた。国内では「4回転5本成功」という報道がほとんどだが,失敗した1本も着氷が乱れただけで回転不足にはならなかったので,4回転ジャンプとして認定されており「4回転6本認定」でもあったのだ。6本が「認定」されたのは,公式記録上初めてではないかと思う。

 4回転6本は,金メダルへの秘策の選択肢として用意されていたとは思うが,ハイリスクであり採用は難しいと私は予想していた。メダルが絶望的になったことで爪痕を残すべく挑戦し,結果は 215 点台でFS自己ベストFSだけなら全選手中トップのスコアを記録した。トータルは 297 点となり,上位者が崩れればメダルの可能性が残るスコアだった。正に,ソチ五輪の 浅田真央 選手の復活劇を彷彿とさせる,地獄からの生還だった。ジャンプの成功に意識が強かったためか,出来ばえ点や演技構成点は チェン の好調時には及ばなかったが,SP時点の絶望を思えば,本当に素晴らしいパフォーマンスだった。

 続く第3グループ。私が注目したのは,ヴィンセント・ジョウ(米)と ミハイル・コリヤダ(ロシア)の2人。ヴィンセント・ジョウ はFSの基礎点が全選手中最も高い予定であることを本ブログで紹介したが,予想した構成どおり 4Lz に2回挑戦し,冒頭の 4Lz+3T を綺麗に成功,演技時間後半冒頭の単独 4Lz も良いジャンプだったが回転不足と判定された。結果として,基礎点合計トップは4回転ジャンプを6本入れた ネイサン・チェン に譲ったものの,4回転4種類5本を着氷し技術点だけで 110 点以上を稼いだ。今シーズンがシニアデビューであり,まだジャンプだけという印象の選手ではあるが,この若さで五輪で6位入賞を果たしたことは貴重な経験だ。今後トップレベルに到達するのを楽しみにしたい。

 ミハイル・コリヤダ は,団体戦のSPでまさかの8位に終わり,ロシアの団体戦が目標の金メダルではなく銀メダルに終わる主因となってしまった。さらにFSにも動員されたため,個人戦には強い疲労を抱えて臨まざるを得なかった。団体戦と個人戦の4回の演技全てに組み込んだ 4Lz は結局一度も成功せず,他のジャンプにもミスが出て,ベストな演技はできなかった。団体戦SPのショックから立ち直れないまま個人戦も終わってしまった印象で,8位に入賞したものの本当の実力はこんなものではない。今後,今回の五輪の苦い経験をどう強さに変えていくか,注目していきたい。

 最終グループ。SP上位4選手で最初に登場したのは,SP4位の ボーヤン・ジン(金博洋,中国)。大舞台に強く,直近の2年連続で世界選手権3位,1月の四大陸選手権に優勝して五輪を迎えた。その強さがSPでも発揮され,高さも幅もある 4Lz+3T を完璧に決め,自己ベストの 103 点台を記録した。ノーミスならばメダルが大きく近づくFS。演技時間前半は,3つのジャンプが完璧。後半は安定している 4T,得意な 3A へと続く流れ。これはノーミスの気配濃厚,そう思った後半冒頭の 4T でまさかの転倒。ジン の 4T 転倒は珍しく,五輪の重圧は大舞台に強い ジン にも及んだ。しかし,直後の同じ 4T をきちんと連続ジャンプにし,残りのジャンプも決めた。転倒を1回に留め,FS 194 点台,トータル 297 点台としたが,300 点には及ばず,上位3選手に重圧をかけるには至らなかった。それでも,シーズン途中にはケガで 4Lz が飛べない時期もあったことを思えば,メダルの可能性を残す演技は見事だった。

 そしていよいよ,SP上位3選手の先陣として 羽生結弦 が氷上へ。SPは,7つの要素(ジャンプ,スピン,ステップ)全ての GOE(Grade Of Execution,出来ばえ)評価が審判全員2以上という,非常に高い完成度でスコアが 111 点台に乗った。ネイサン・チェン が脱落し,FSで高いスコアを持つ 宇野昌磨 と7点差がついたことから,4Lo を回避しても大丈夫と判断したのだろう。FSは4回転2種類4本(4S,4T 2本ずつ)で臨んだ。演技前半の3本のジャンプは申し分なく,特に 4T は,全く無理のない回転からの柔らかい着氷で,完璧だった。さらに演技時間後半冒頭の 4S+3T も見事に成功。パーフェクト演技への期待感が一気に膨らんだが,次の 4T で着氷が乱れた。4T は前半が単独ジャンプだったので,ここでは連続ジャンプにする必要があったのだが,それができず減点(同種単独ジャンプ2本目は基礎点3割減)となった。

 しかし,次の 3A が 羽生 を救った。予定では 3A+2T だったが,4T に付ける予定だった連続ジャンプ +1Lo+3S をリカバーして 3A+1Lo+3S としたのだ。3A に絶対の自信を持つ 羽生 だからこそできるリカバープランを遂行し,ミスを最小限に食い止めた。そして,4ヶ月ぶりの実戦で心配された,FSを通し切る力が問われる最後の 3Lz では,かろうじて転倒は免れたものの着氷が大きく乱れた。羽生は 4Lz の練習でケガをしており,ルッツジャンプの不安がここで出てしまった。3A で +1Lo+3S をリカバーしたことで残っていた連続ジャンプ +2T を付けることもできなかった。

 それでも,演技を終えた 羽生 は,満足感に包まれていたようだった。「勝ったー!」(本人談)と叫び,右足や氷に手を当て,感謝の言葉を発した。着氷の乱れが2回あり,単独 4T の重複による減点と,+2T が付けられないミスはあったが,転倒しそうなところをこらえ,氷に手を付くこともなかった。FS 206 点台,トータル 317 点台は 羽生 の自己ベストより10点以上低いが,ソチ五輪よりははるかに良い内容で,しかもケガ明け久々の実戦であることを考えれば,十分に納得できる演技とスコアだった。

 これで,残る2人が金メダルに必要なFSのスコアは,ハビエル・フェルナンデス(スペイン)は 210 点台,宇野昌磨 は 213 点台となった。共に不可能ではないものの,今シーズンの調子を考えるとかなりハードルが高いスコアである。続いて登場した フェルナンデス は,普段より躍動感が抑え気味に見えたが,完璧な 4T から始まり,次の 4S でわずかに着氷が乱れ +3T を予定していた連続ジャンプが +2T になっても,次の 3A に +3T を付けてリカバーに成功し,金メダルが微笑みかけた。だが演技時間後半冒頭,4S の予定が2回転になり,金メダルがすり抜けていった。しかしミスはこれだけで,ジャンプの着氷の乱れもなく,プログラム全体の完成度は素晴らしかった。ジャンプの難度が4回転2種類3本と低めで,しかもそのうち1本が抜けてしまったので,FSのスコアが200点に届かずトータル 305 点台だったが,今シーズンベストスコアを出し フェルナンデス のメダルが確定した。今シーズンはやや低調で,メダル獲得が危うい状況だったことを思えば,ピーキングに長けた フェルナンデス の実力が発揮された結果だった。

 この時点で,日本選手の金メダルは決まった。それが 羽生 なのか 宇野 なのか。最終滑走の 宇野昌磨 は,他の選手の演技を全て観ていて,完璧な演技なら金メダルを獲れると思いながら演技に臨んだそうだ。冒頭の 4Lo は成否相半ばするジャンプ,これを決めて波に乗りたかったが,あえなく転倒。この時点で金メダルはほぼなくなり,宇野 は「笑えてきた」(本人談)。冒頭から転ぶなんてという苦笑いなのか,リラックスするための自己防衛反応なのか,いずれにせよ,この先ミスすればメダルも危なくなる状況で,笑みをたたえられる精神力は尋常ではない。ここから 宇野 の真骨頂である切り替えと粘り強さがいかんなく発揮されていく。

 転倒直後,世界で初めて 宇野 が成功させた,自身の代名詞ジャンプ 4F をきっちり決めて持ち直す。演技時間後半の 3A → 4T 2本 → 連続ジャンプ2回 という流れは,華麗だが難度が極めて高く,しかも最後の2回の連続ジャンプは失敗するとリカバーできない,緊張感の高い構成だ。2本の 4T。1本目は着氷が乱れたものの強引に +2T の連続ジャンプを付けた。これで2本目は単独ジャンプでよくなり,これを綺麗に決めた。続く 3A+1Lo+3F は,ほとんどの選手が3番目を 3S にするところ,フリップジャンプに絶対の自信を持つ 宇野 が 3S に替えて 3F を付ける3連続ジャンプ。そして最後に 3S+3T という +3T の連続ジャンプ。高難度の連続ジャンプを最後に2つ並べ,それらを見事に決めたことで,会場の盛り上がりは最高潮に達する。冒頭の転倒を忘れさせる安定した演技で,最終滑走を締め括った。

 FSの内容では 宇野 が フェルナンデス を上回ったことは確実。あとはSPの点数差 3.41 以上の差を付けられたか? スコア発表。FS 202 点台,トータル 306 点台。宇野 がフェルナンデス を上回った! この瞬間,羽生結弦 の五輪2連覇,羽生結弦 & 宇野昌磨 による日本勢1&2フィニッシュが現実となった

 全てが決まり,羽生結弦 は両手で顔を覆い,万感の涙を流した。同門生の フェルナンデス も銅メダルを獲得し,お互いの健闘を称え合うと,羽生 はまた涙。2人の万感の思いに接しても,実感が湧かずたたずむ 宇野。3選手の姿は,平昌五輪に全てを注ぎ込み,戦い終えた充実感に満ちていた。 (選手敬称略)

平昌五輪 男子シングル プレビュー

 羽生結弦 選手の2連覇と,宇野昌磨 選手との1&2フィニッシュに大いなる期待がかかる平昌五輪のフィギュアスケート男子シングル。有力選手の見どころや勝負における注目点を見ていきます。ジャンプ構成にも言及しますので,各選手のジャンプ構成をチェックしたい方は,本ブログ記事「男子シングル ジャンプ戦略比較」をご参照ください。

 以下,有力選手ごとに見ていきます。金メダルを獲る可能性が高いと私が思っている順です。

《凡例》 ◎:好材料 ▲:不安材料

羽生結弦 選手

 練習映像を見る限り,スケーティングは普通にできそうですね。SP(Short Program,ショートプログラム),FS(Free Skating,フリースケーティング),トータルの3つ全てで史上最高スコアを持っていますので,普通に演技ができれば金メダル候補筆頭なのは間違いありません。ただ,羽生 選手は今までに,シーズン中に4ヶ月の実戦ブランクを経験したことがありません。試合になると練習と全く別のアドレナリンが出るタイプのように思えるので,久々の試合かつ五輪ということでアドレナリンが出過ぎると,身体とのバランスを欠く恐れはあります。

 ジャンプ構成は,FSに4Lo を入れられるかどうかが注目点です。4Lo が入らないと,4回転ジャンプを4本(4S,4T 各2本)入れても案外スコアが低くなってしまいます(詳細は本ブログ記事「羽生結弦,ネイサン・チェン のジャンプどうなる?」へ)。前日練習で 4Lo を飛んでいましたので,おそらく入れる構成になると思います。

◎ プログラムが史上最高スコアの再演
◎ 昨年の四大陸選手権で今回のリンクを経験
◎ シーズンや団体戦の疲労蓄積が少ない
◎ SPは1番滑走(6分間練習直後)
五輪2連覇のモチベーション
◎ ソチ五輪ではFSで崩れたので,SPとFS両方ノーミスでこそ真の金メダルという意識
逆境を跳ね返してきた経験と強靭過ぎるメンタル
▲ 想像以上のメディアの狂騒
プログラムをまとめ上げるための持久力がどれほど戻ってきているか (町田樹 氏談)
▲ FSで 4Lo を入れられないと,点数的には他選手と接戦になる

宇野昌磨 選手

 現時点の不安材料が最も少ないですね。主要大会で優勝していないことを問題視する意見もありますが,羽生 選手が出場しない大会では気持ちが乗らなかったと見るべきで,ここ一番の集中力は昨年の世界選手権で実証済み。団体戦SPで他選手の相次ぐ転倒を引きずらなかったのは,宇野 選手特有の「鈍感力」の賜物と思います。羽生 選手が引き連れるメディアを見た他選手は動揺する可能性がありますが,宇野 選手にとっては慣れたものですし,鈍感力で気に留めないので,羽生 選手をめぐる狂騒は 宇野 選手の味方になる可能性さえあります。

 ジャンプ構成は,4S を諦め,演技時間前半に 4F,4Lo,後半に 4T,3A 2本ずつという確度の高い構成になりそうです。個人的には,4F を後半の最初に置いた方がプログラムが盛り上がるとは思いますが,状況次第ではこのような変更もあるかも。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
今シーズンの平均スコアはトップ
団体戦SPで100点超え
◎ 4F の安定感 (団体戦で転倒を免れたのも安定感のうち)
◎ 羽生 選手との久々の対戦でモチベーションアップ
▲ ステップがなかなかレベル4を取れない
▲ 団体戦の疲労 (他の団体戦出場選手よりは少ないか)
接戦を勝ち切る力があるか (無用な小ミスが出がち)
▲ 朝が苦手 (団体戦はたまたま乗り切れたのかも)

ハビエル・フェルナンデス 選手 (スペイン)

 もったいないミスで4位に終わったソチ五輪から4年。今までに世界選手権を2連覇し,五輪メダルを射程圏内にしています。しかし,昨年の世界選手権で3連覇と表彰台を逃して以降,今シーズンはくすぶり続けていて,未だに300点超えがありません。完璧な演技をして,ライバルのミスを待つ展開です。

 ジャンプ構成は,安定の4回転2種類3本。安定した 4S は フェルナンデス 選手が最も早く確立しましたが,演技時間後半の 4S が今シーズン安定していないので,これが入ると高得点が期待できます。また,3A もやや不安定なので,2本ある 3A の出来も注目点です。

◎ 今シーズン不調だったが徐々に取り戻している
◎ 団体戦に出場していない
◎ 4年間の五輪メダルへの渇望感
◎ 世界選手権2連覇のプライド
▲ 今シーズンFSで一度も完璧な演技ができていない
▲ 今回の会場が初経験
▲ 大舞台にやや弱い印象 (世界選手権は 羽生 選手のミスのおかげ)

ネイサン・チェン 選手 (米)

 団体戦SPの大過失をどう見るかですが,いくら団体戦と個人戦が別物とはいえ,あれだけのミスがあると個人戦への影響がないはずはありません。完璧に演技ができればよいのですが,演技の序盤でミスが出ると,団体戦の再現になってしまうのではないかという恐怖と戦わなければならず,そうなると要素をこなすことで精一杯になり,出来ばえ点や演技構成点が伸びない恐れがあります。わりと繊細な性格なのかなという印象もあり,注目度が高くメディア取材が非常に多い状況に耐えられるのかも気になります。

 ジャンプ構成をどうするかは,SPの出来や,羽生 選手の出方などを勘案して決めると思いますが,4回転5本にせよ6本にせよ,4Lz の扱いが注目点になります。4Lz が2本入ると,好調な証と言えると思います。

◎ 今回の会場で開催された昨年の四大陸選手権で優勝
◎ 今シーズン全勝の安定感 (特にSPは安定)
◎ 団体戦銅メダル獲得の安堵感
◎ 昨年,世界選手権で失速した経験から,ピーキングを強く意識
▲ 団体戦の疲労と嫌なイメージ
▲ 今シーズン,ジャンプ構成を固めなかった
▲ 出来ばえ点がなかなか伸びない
▲ 苦手な 3A の出来

ボーヤン・ジン 選手 (金博洋,中国)

 ケガもありシーズン序盤は精彩を欠いていましたが,先日の四大陸選手権で良い演技を魅せ,仕上げてきました。世界選手権は2年連続3位と,大舞台の強さは一級品。五輪メダルへの重圧が他の選手より小さいのも不気味。金メダルはなかなか難しいと思いますが,銀や銅なら案外可能性があると思います。

 助走が少なく美しい 4Lz は安定感抜群で,これが計算できるのも大きな武器。4T も 3A も安定していて,苦手なジャンプがないのも強み。全体が完璧なら演技構成点も伸びる可能性があるので,トータル310点くらいまで狙えます。もっと高得点を狙って 4Lz をFSに2本入れたら面白いと思いますが…。

◎ 昨年の四大陸選手権で今回の会場を経験
◎ 直前の四大陸選手権で優勝
◎ 4Lz,4T,3A 等ジャンプの安定感
◎ 大舞台での強さ
◎ メダル獲れなくて当然という気楽な立場
▲ 出来ばえ点と演技構成点が両方伸びないとメダル圏内に入れない

◆ 他の注目選手

 パトリック・チャン 選手(カナダ)や,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)もメダルを獲れる力を持っていますが,2選手とも,団体戦でSPとFSの両方に出場しましたので,体力面ではかなり不利です。メダリストは,上に挙げた5選手から決まると考えていいと思います。

 田中刑事 選手は8位入賞が現実的な目標になるでしょう。ほかには,FSで200点超えもありうる ヴィンセント・ジョウ 選手(米),かつての名選手 ランビエール コーチの愛弟子 デニス・ヴァシリエフス 選手(ラトビア),アジアから出場する,マイケル・クリスチャン・マルティネス 選手(フィリピン)と ジュリアン・イー・ジージエ 選手(マレーシア)に注目しています。

◆スコア比較とメダルの行方

 どのくらいのスコアが獲れそうかを知っておくと,観戦を楽しめると思いますので,有力選手のトータルスコア(SPとFSの合計点)を予想してみます。

《凡例》
*:可能性あり ◎:自己ベスト ★:今シーズンベスト

スコア羽生宇野フェチェ
330~
325~
320~
315~◎★
310~
305~
300~◎★
295~
290~
スコア羽生宇野フェチェ
  • 羽生 選手は,330点までは難しいかもしれませんが,完璧なら325点に届く可能性は十分にあります。
  • 宇野 選手は,完璧なら324点くらいまではあると思います。
  • フェルナンデス 選手(上表「フェ」)は過去最高が314点台で,そこにどれだけ迫れるかでしょう。
  • ネイサン・チェン 選手(上表「チェ」)は,自己ベストを超えて313点くらいまでは可能でしょう。全米選手権の315点は国際大会では難しいと思います。
  • ボーヤン・ジン 選手(上表「金」)は,先日の四大陸選手権の出来を再現すれば,305点くらいまで伸びると思います。

 全員ノーミスなら,1・2位:羽生宇野,3位:フェルナンデスチェン となるでしょう。この4選手の中から300点を割る選手が2人出てくると,ジン 選手がメダルを手にするでしょう。

 羽生・宇野 両選手が310点以上なら,フェルナンデス,チェン 両選手の超絶演技がない限り1&2フィニッシュが現実になるでしょう。羽生・宇野 両選手が複数のミスをし,スコアが310点を切るところまで下がれば,5選手がどんな順位にもなりうると思います。

 さぁ,いよいよ,明日(金)SP明後日(土)FSですね。SPは時間的にリアルタイムで観られない方が多いと思います(私もです…泣)が,FSは土曜日のお昼なので,リアルタイムで観戦し,歴史的瞬間を目の当たりにしましょう!

宮原 完全復活,坂本 覚醒【アメリカ大会感想】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 日本女子シングルにとっては,最高の大会になりました。まずは,なんといっても 宮原知子 選手の復活優勝。ミス・パーフェクトがこんなにも早く帰ってくるとは…と涙した方も多かったのではないでしょうか。コンディションが戻ってきて,スケートができることの喜びにあふれている気がしました。また,昨季より情感が強く表現されていて,休養している間に吸収したものの大きさを感じました。それを審判も感じ取ったのか,FS(Free Skating,フリースケーティング)の PCS(Program Component Score,演技構成点)が71点台に上がりました。しなやかで凛とした人物を描き出す「SAYURI」「蝶々夫人」の2つのプログラムは,ムダな動きが削ぎ落とされ洗練された表現力を持つ 宮原 選手だからこそのプログラムであり,今年初頭のケガからこれまでの彼女の努力に思いをはせると,さらに心に響いてきますね。

 このままのコンディションで全日本選手権を迎えてほしい,そう願うばかりですが,今大会の優勝でグランプリファイナルの補欠1番手になりましたので,ケガが報じられている メドベージェワ 選手が欠場すればファイナル出場が転がり込んできます。大会前からファイナル進出の可能性が消えていたことで,アメリカ大会でかなりギアを上げたと思うので,もしファイナルに出場できた場合,全日本選手権までのペース配分をどうするか,難しい判断を迫られそうです。しかし,今大会で自信を取り戻した 宮原 選手は,もうペース配分など関係ない高みに上ったかもしれず,補欠出場でファイナル制覇→全日本選手権優勝という完全復活シナリオも大いに期待してしまうほど,今大会の 宮原 選手の演技は神々しさに満ちたものでした。

 ブログのプレビュー記事で「優勝争いをするのでは」と予想した 坂本花織 選手が,期待以上の内容で本当に優勝争いに加わりました。特にFSの「アメリ」は,最後のジャンプのあたりで私は言葉を発することなくただただ画面の中の 坂本 選手を追い,最後のポーズのときには言いようのない感動に包まれました。ジャンプの質,ステップの最中にまで表現される細かいパントマイム,音楽とスケーティングの融合,全てがうまくハマったこのプログラムが持つ雰囲気は最高です。友人がジュニア時代から 坂本 選手を推していて,それで私も注目するようになったのですが,ロシア大会のときは今一つ「アメリ」の良さが実感できませんでした。でも今大会で完全にブレイクしましたね。スケール感と細かい表現の両立が 坂本 選手の個性になりそうです。

 200点超えどころか一気に210点に到達し,プログラムの秀逸さも考えれば全日本選手権で大金星の可能性さえ感じさせてくれる 坂本 選手の活躍は,同門生の 三原舞依 選手や,同じシニアデビュー組の 本田真凛,白岩優奈 といった選手たちを大いに刺激するはずです。宮原,坂本 両選手のアシストによってファイナル進出を果たした 樋口新葉 選手も,ファイナルにトップギアで挑むことでしょう。坂本 選手の今大会の大躍進により,女子シングルの代表争いはさらに高い次元に引き上がっていきそうです。

 坂本 選手と並ぶサプライズとなったのは,予定外出場でワンチャンスを生かした ブレイディ・テネル 選手(米)。テネル 選手が好調という話は耳にしていたのですが,観戦の機会がなく,グランプリシリーズ初出場となる今大会でようやく観ることができました。手足の長さは ポリーナ・エドモンズ 選手(米)を彷彿とさせ,華やかさは五輪出場断念となった グレイシー・ゴールド 選手(米)に比肩する,素晴らしい選手ですね。アメリカの女子シングル選手は誰も本調子に至っておらず,テネル 選手は代表争いに名乗りを上げたどころか,このままなら全米選手権を勝ってしまうような勢いと自信を得たと思います。

 男子について少しだけ。上位4位までの選手がグランプリファイナル進出を果たしましたが,ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)は,順位合計が ジェイソン・ブラウン 選手(米)と同じで,スコア合計がわずかに上回ったという薄氷の進出でした。4Lz(4回転ルッツジャンプ)を飛ばなかったところを見ると,コンディションが万全ではなかった可能性があります。FS(Free Skating,フリースケーティング)のプログラムが,少し見慣れてきたものの,良い音楽を生かし切れていない印象は拭えず,今後どこまで完成度を高められるのか,やや不安を感じます。

 ジン 選手が回避した 4Lz をFSで2本入れることを試したのが ネイサン・チェン 選手(米)でした。冒頭で 4Lz+3T(連続ジャンプ:4回転ルッツ→トリプルトウループ)を決め,演技時間後半の冒頭で単独の 4Lz を決めました。他のジャンプが乱れたために急遽試したものと思われますが,この選択肢もあるということを確認できたのは チェン 選手にとっては収穫だったと思います。4回転を5種類入れるのか,4種類で5~6本にするのかを模索していると思いますが,スコアだけを考えれば 4Lz 2本は強力な戦略になります。

 チェン 選手に関しては,ついジャンプの話題が中心になりますが,着々と PCS(Program Component Score,演技構成点)が上がってきているのは,ライバルたちには脅威でしょう。今大会では,つなぎの演技をとても丁寧に行っている印象がありましたし,スケーティングにも昨季のようなジュニア上がり感はなくなり,洗練されたものになってきている気がします。グランプリファイナルは,宇野昌磨 選手と チェン 選手の優勝争いという形になりそうですね。

 男子の有力選手がピリッとしなかったのに対し,女子は 宮原,坂本 両選手が珠玉の出来で,グランプリシリーズを見事に締めくくりました。これで6週連続のシリーズが終了し,来週はいよいよ名古屋で開催されるグランプリファイナルを迎えます。

アメリカ大会(スケートアメリカ,グランプリシリーズ第6戦)プレビュー

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


◆男子シングル

 グランプリファイナル進出の観点では,シリーズ1戦目で順位1位・2位を獲得した,ネイサン・チェン(米),ボーヤン・ジン(金博洋,中国),セルゲイ・ボロノフ(ロシア),アダム・リッポン(米)の4選手が順当にファイナルに進出できるかどうかが注目点です。このうち1人が脱落すると ジェイソン・ブラウン 選手(米)が,2人脱落するとさらに ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)が,各々ファイナル出場権を得ます。

 チェン 選手がロシア大会で優勝した後,様々な "まさか" が起こり,この状況が チェン 選手にどのような影響を及ぼすのか興味深いです。ファイナル優勝や平昌五輪金メダルの可能性が高まってきたことを,チャンスと捉えるか,プレッシャーに感じるか,今大会の一挙手一投足に注目が集まります。昨シーズンの,世界選手権で失速した同じ轍を踏まないように,今大会はマイペース調整になると思いますが,それでもトータル300点を超えて,安定感をアピールしたいところでしょう。

 ジン 選手もマイペース調整だと思いますが,中国大会はギリギリの2位という感じでちょっと危なかったですね。今大会は,もう少しミスを減らして,トータル280点くらいを狙ってくるのだと思いますが,FSの完成度が気になるところです。中国大会を観た印象では,FS(Free Skating,フリースケーティング)が「スター・ウォーズ」のサントラを使っている割にはややもったいない音楽の使い方になっていたので,プログラムとしてしっくりくるのかどうかが気になっています。元祖 4Lz(4回転ルッツジャンプ)ジャンパーとして,今大会をうまく乗り切って,ファイナルに出場してほしいと願っています。

 カナダ大会で最下位の屈辱を味わった 無良崇人 選手は,振付の指導をしてくれた,アイスダンスのソチ五輪金メダリスト チャーリー・ホワイト 選手の地元であるアメリカで,本来の力強いスケートを取り戻したいと燃えているでしょう。日本代表3枠目の可能性を示すためにも,完璧な演技を魅せてほしいです。

◆女子シングル

 樋口新葉 選手がファイナルに進出するには,ポリーナ・ツルスカヤ(ロシア),アシュリー・ワグナー(米)両選手以外の選手に今大会で優勝してもらわなければいけません。優勝争いの力を持つ ポゴリラヤ 選手(ロシア)がケガのため欠場となってしまいましたので,樋口 選手のファイナル進出をアシストできるのは,宮原知子坂本花織 の両日本選手となります。ケガ明けの 宮原 選手,シニアデビューの 坂本 選手共に,優勝はなかなかハードルが高いですが,自分が頑張るとライバルを利することになるとしても,名古屋開催のファイナルに日本女子選手不在では淋しいので,ぜひアシストしてほしいです。

 宮原 選手は,ファイナル進出がなくなり,全日本選手権前の貴重な試合の場として本大会の位置付けが大きくなりました。ここで完全復活をアピールしておきたいでしょうから,完成度はともかくミスのない演技をしたいと考えていると思います。逆にここでミスが出ると,全日本選手権で優勝が必要になりプレッシャーが強まってしまいます。本大会でどのような演技ができるかは,宮原 選手の代表入りを占う意味で大きな注目点です。

 今大会の 坂本 選手は優勝争いに加わるのではないかと私は予想しています。ロシア大会の後,国内の試合で試合勘を磨きコンスタントにスコアを出していますが,まだ200点に届いていません。日本女子のシニアデビュー組(本田真凛,白岩優奈)がグランプリシリーズで誰も200点を出していないこともあり,200点超えを目標に挑んでくると思います。ジャンプの質が高く,成功すれば GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)も取れるので,演技全体がうまくハマれば210点近いスコアも可能であり,そうなれば,宮原,ツルスカヤ,ワグナー の各選手と十分渡り合えると思います。

 優勝候補一番手は,こちらもシニアデビュー組の ツルスカヤ 選手でしょう。満を持してのデビュー戦となったNHK杯で表彰台に乗りましたが,今大会は優勝も狙える状況ですし,ファイナル進出もかかっていますので,NHK杯以上の演技をめざしてくるでしょう。優勝を狙って獲れるかどうか,メンタルも試される大会になりますが,崩れるとしても小ミスが1つあるかどうかでしょう。個人的には,彼女の高さも幅もあるジャンプやスケールの大きな演技は,メドベージェワ,ザギトワ 両選手より技術面では優れていると感じます。今大会で優勝すればその自信をもってファイナルに出場するので,さらに伸びてくる可能性が高いです。だからこそ,宮原 選手や 坂本 選手が完璧な演技をすることで彼女にプレッシャーをかけてほしいと思います。ツルスカヤ 選手が,自身と 樋口 選手のファイナル進出の命運を握ることになると思います。

 自国大会となる ワグナー 選手も,優勝すればファイナル進出となります。今季のプログラムは,2シーズン前の米国開催の世界選手権で銀メダルを獲ったときのSP(Short Program,ショートプログラム)とFSです。ワグナー 選手にピッタリのダンサブルで情熱的なプログラムなので,ベストな演技ができれば優勝できる可能性はあります。ただ,ワグナー 選手の今季の状況は恵まれており,今大会で強いアピールは必要なく,ファイナル出場もさほどこだわってはいないと思うので,平凡なスコアになっても不思議ではありません。いずれにせよ,ワグナー 選手最強のプログラムであることは間違いありませんので,スコアは気にせずとにかく楽しみながら観たいと思います。

樋口・三原 明暗,フェルナンデス 不調【中国大会感想】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 男子シングルは,6強の2人,ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)を追い越して,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)が優勝をさらいました。SP(Short Program,ショートプログラム)にも入れた 4Lz(4回転ルッツジャンプ)が完璧に決まったのに加え他の要素も珠玉の出来で,スコアが100点を超えました。この貯金のおかげで,FS(Free Skating,フリースケーティング)でミスがあってもトータルでリードを守りました。

 コリヤダ 選手の 4Lz も,ジン 選手と同じように助走が少ないのに大きなジャンプで,とても見ごたえがあります。また,ジャンプのみならずスピンもステップも綺麗でありながら,振り付けに独特なものがあり,不思議な魅力がある選手です。名古屋のグランプリファイナルで生で観られる皆さんが羨ましいです。

 ジン 選手は,持ち味の4回転ジャンプが安定していませんね。2位だったのはラッキーでしたが,3A(トリプルアクセルジャンプ)が安定していたのが救いでした。男子でも意外と 3A に苦労する選手は多いので,3A が安定しているのは大崩れしにくいという点で大切です。FSで「スターウォーズ」を使うということで楽しみに観たのですが,正直なところやや期待外れという感想を持ちました。スターウォーズだとはっきりわかる音楽が最後のステップのところでやっと流れ,それまではスターウォーズらしさがあまり感じられない音楽でした。また,振り付けも音楽との一体感がさほど感じられず,このプログラムで PCS(Program Component Score,演技構成点)が伸ばせるのか,少し心配な気がします。ですが,ジャンプが全てきっちり入るとまた印象が変わるかもしれませんので,ジャンプの完成度が上がるのを待ちたいと思います。

 フェルナンデス 選手はかなり心配な状況ですね。ここ数年のグランプリシリーズでは,本調子ではなくても大ミスは少なく,表彰台どころか優勝を逃すこともまれだったので,明らかに例年より調整が遅れているようです。五輪本番はまだ先だから心配ない,と楽観することができないような状態であり,平昌五輪のメダル獲得にも黄信号が灯ったと考えざるを得ません。ファイナルで観られなくなりそうなのは残念な限りですが,その間に調子を戻すことを願っています。

 田中刑事 選手は,ケガ明けの影響はなさそうでした。SPのブルースナンバーはとてもいいですね。憂いを帯びた曲の方が,田中 選手の雰囲気に合っていると思います。FSもけっこうジャンプの抜けや転倒があった割には160点近い点数が出ているので,ベストな演技なら180点も狙えますね。代表3枠目の一番近い位置にいると言っていいと思います。

 シニアデビューで注目した ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,表彰台には乗れませんでしたが,攻めたジャンプ構成で魅せてくれました。FSでは 4Lz 2本(そのうち1本は後半)を含む3種類5本の4回転ジャンプを組み込み,さらに3連続ジャンプでは 宇野昌磨 選手と同じ,第3ジャンプに 3F(トリプルフリップジャンプ)を使うという,非常に意欲的なジャンプ構成です。4Lz は ジン 選手や コリヤダ 選手に負けない美しいジャンプで,特に着氷が綺麗ですね。ジャンプが全部揃うとかなり良いスコアが出るので,今後急成長する可能性が大いにあると思います。

 シリーズ最高の激戦となった女子シングルを制したのは アリーナ・ザギトワ 選手(ロシア)でした。SPで転倒しても優勝できるのですから,実力は本物でしょう。ジャンプを全て演技後半に入れ,3Lz+3Lo(3回転ルッツ→3回転ループの連続ジャンプ)といった超高難度ジャンプも組み込んでおり,基礎点は現役最強と思われます。私は技術力のあるスケーターが好きなんですが,ザギトワ 選手にはなぜかさほど魅かれません。FSで後半にジャンプが立て込んでいる感じに違和感を感じてしまいますね。とはいえ,シニアデビュー戦で優勝したのは見事ですし,今後の強敵になっていきそうです。

 ザギトワ 選手が転倒したことを思えば,樋口新葉 選手は今大会で彼女を破っておくべきでした。そうすればファイナル進出が確定しましたからね。でも,ほぼ完璧な演技での2位,しかもロシア大会から中1週しかなかったことを思えば,ミッションはクリアできたのではないでしょうか。今大会の演技は,すごく気持ちが乗っていたように見えました。シリーズ2試合目でプログラムが体になじんできたのでしょうね。とにかくプログラムはSP・FS共に 樋口 選手にとてもマッチしていますので,ファイナル(おそらく出場できるでしょう)や全日本選手権がすごく楽しみです。

 三原舞依 選手は不運でした。3位の ラジオノワ 選手とは1点未満の点差でしたからね。初戦の固さ(緊張よりも慎重さですね)があって,それがSPの連続ジャンプでの回転不足に出てしまった気がします。回転不足がなければ3位だったので,そこが悔やまれます。しかし,SP7位,総合4位という順位だけで 三原 選手を過小評価するようなことがあってはいけません。トータル200点超えて表彰台に乗れなかったのは 三原 選手が初めてですからね。本当なら 三原 選手が激戦を生み出すはずが,逆に激戦の犠牲者になってしまいました。SPのタンゴはまだまだ伸びしろがありますし,FSは本当に 三原 選手に合ったプログラムだということが今大会でもわかったので,次戦はかなりハイレベルなスコアになると思います。

 本田真凛 選手は,実力から考えれば2大会5位というのは上々の成績だと思います。今大会も,ファイナル進出はほぼ不可能という現実を見据えて,無理をせず演技全体を体に染み込ませていくことを意識していたように見えました。ピークを全日本選手権に持ってくればいいわけですからね。グランプリシリーズで爪痕を残したかったと思いますが,そんなに甘い世界ではないことを痛感したでしょう。こういう成績だとメディアがどう自分を扱うのかも見えてきます。チャレンジと継続性のバランス,周囲と自分のバランス,そういったものをこれからたくさん学んでいくと,本当の意味で強い選手になっていくと思います。

 中国大会は,戦前の予想どおり大激戦となりましたが,男子までこのような激戦・波乱になるとは思いませんでした。例年,ちょっとホッと一息つく大会だったのが一変,今季はグランプリシリーズの中でも大きな意味を持つ大会になるような気がします。

中国大会(中国杯,グランプリシリーズ第3戦)プレビュー

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◆男子シングル

 男子6強でシリーズに登場していない残り2人,ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が出場します。悔いの残る4位に終わったソチ五輪から4年間,フェルナンデス 選手は同門生の 羽生結弦 選手と共に男子シングルのトップスケーターに君臨し続けました。ミュージシャン・映画・演劇といったエンターテインメント系のプログラムを演じれば,圧倒的な表現力でその世界観を存分に魅せてくれます。フェルナンデス 選手は国内無敵なので国内選考に神経を使う必要がなく,例年徐々にスコアを上げていきますので,今季もグランプリシリーズは調整試合でしょう。とはいえ五輪シーズンなので,今大会の仕上がり具合で五輪への本気度がわかると思います。

 ジン 選手は,宇野昌磨 選手や ネイサン・チェン 選手(米),さらには 羽生結弦 選手をも4回転戦争に引きずり込んだ,4回転ジャンプの開拓者です。私が福岡で生観戦した4年前のグランプリファイナルのとき,ジュニアで出場した チェン 選手が4回転ジャンプに苦戦したのに対し,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4回転ジャンプを3本成功させたのが ジン 選手でした。彼の 4Lz(4回転ルッツジャンプ)は少ない助走で高さも幅もある,とても美しいジャンプで,これだけで ジン 選手を観る価値があります。しかし実際には表現力も豊かで,優しく時にコミカルな演技は,観る者に癒しを与えてくれるような気がします。どうも評価が不当に低いような気がしますが,世界選手権2年連続銅メダルが示すように大舞台に強く,ほぼ隣国で開催される五輪にうまくピーキングしてくると思います。ジン 選手も国内選考はさほど苦労しないので,今大会は調整試合ですが,自国なので気合いは入っていることでしょう。どんなプログラムでどんなジャンプ構成なのか,特にFSの「スターウォーズ」がとても楽しみです。

 田中刑事 選手ですが,ケガは問題ないと本人がコメントしていました。本当のところはともかく,どんな状況でもベストな演技を観たいですね。無良崇人 選手がもたついていますので,そういう敵の隙をきっちり突いていく図太さも求められます。

 他の選手で楽しみなのは,4Lz を習得し今季シニアデビューする ヴィンセント・ジョウ 選手(米)。今季は 羽生 選手をはじめ,4Lz を導入する選手が続出していますが,ジョウ 選手はとても質の高い 4Lz を飛ぶそうで,私はまだ観たことがないので早く観てみたいです。シニアデビューでハネる選手が出るとすれば,ジョウ 選手が筆頭候補と言えるでしょう。デビューですからエンジン全開で挑んでくると思いますので,フェルナンデス 選手と ジン 選手にどこまで迫れるか要注目です。

◆女子シングル

 シリーズ最強の対戦カードになりました。三原舞依ザギトワ(ロシア),トゥクタミシェワ(ロシア),デールマン(カナダ)の4選手が初戦を迎え,ここに早くもシリーズ2戦目となる 樋口新葉本田真凛ラジオノワ(ロシア)の3選手も登場。この7選手全員,トータル200点超え経験者(本田 選手はジュニアでの記録)というとんでもなく豪華な大会です。中国大会にこれだけ有力選手が集結したことが今までにあったでしょうか。こんなに見ごたえのある大会を,しかも時差がないのにテレビ朝日はなぜ生放送しないんだ!と思いますけどね。

 おそらく,この中から 三原,樋口,ザギトワ の3選手が表彰台に上がるでしょうが,順位がどうなるかはとても重要です。最も順位に敏感になるべきなのは 樋口 選手で,優勝ならグランプリファイナル出場がほぼ叶うと思いますが,2位だと微妙,3位だとほぼ絶望になります。ロシア大会から中1週というハードスケジュールですが,ファイナルまで中4週空きますし,移動時差も小さいので,優勝を狙って全力で臨むべきです。1度演じて注意すべきポイントもわかっているはずなので,全要素 GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)プラスの演技ができれば優勝も十分狙えます。

 三原 選手は,メドベージェワ 選手追撃の一番手になるのではないかと感じています。ジャパンオープンで観たFS(Free Skating,フリースケーティング)のプログラムは,伸びやかで清らかで,三原 選手の良い所を存分に引き出しています。プログラムが本人にとてもマッチしていて,表現力も完全にシニアレベルになっていますので,PCS(Program Component Score,演技構成点)が一気に上がっていきそうな予感がしています。今大会では着実な演技をしてトータル215点に到達できれば好スタートと言えると思いますが,シーズン序盤なので回転不足が出ないかが少し気がかりです。

 シニアデビューにして大きな注目を集めるのが,昨季ジュニアチャンピオンの ザギトワ 選手。同門生の メドベージェワ 選手と同様にジャンプの精度が高いので,安定して高得点を出せると思います。ただ,現時点では PCS がさほど高くないので,ミスが出ると意外にスコアが伸びないでしょう。ですから,三原・樋口 両選手が質の良い演技をすれば ザギトワ 選手の上に来る可能性は十分にあります。

 仲の良い トゥクタミシェワラジオノワ の2人のロシア勢がどこまで取り戻してくるのかも興味深いところですが,世界最高峰のレベルは2人の手の届かないところに行きつつある気がします。ただ,完璧な演技ができればスコアは付いてくると思いますので,2人の本気の演技を観られることを願っています。

 本田 選手はカナダ大会でシニアの厳しさを味わいました。連闘だからこそ,その悔しさを力に変えて,開き直って今までの自分を超えていくような演技ができれば,すごいことが起きるかもしれません。順位はともかく(私が勝手に設定した)超一流ラインであるトータル210点を出しておきたいところです。

 トータルスコア200点超えが,ロシア大会では3人,カナダ大会では1人でしたが,この中国大会では5~6人出る可能性があります。グランプリシリーズ序盤の緊張感も徐々に解けてくる頃なので,ハイレベルな争いを期待してよいと思います。

フィギュアスケート2016-17シーズン本格化(続き)

 今週末からグランプリシリーズというフィギュアスケートの大会が始まり,本格的なフィギュアスケートのシーズンに入ります。そこで,前回に引き続き,今シーズンの見どころを,スポーツ雑誌風に展望してみたいと思います。


★ 宇野昌磨 と 金博洋(ボーヤン・ジン)の同世代対決は一段上の戦いに!

UnoShoma16Guiness 昨シーズン,シニアデビューすると一気にトップスケーターの仲間入りを果たし,グランプリファイナルでは史上初のシニアデビューシーズン表彰台に上がった 宇野昌磨。世界選手権では表彰台を逃したものの7位入賞を果たし,日本の世界選手権出場枠を2枠から3枠に戻したことは,シニアデビューのシーズンとして申し分のない成績だ。しかし,世界選手権でミスしたことがよほど悔しかったらしく,直後に出場したチームチャレンジカップがお祭り的な大会にも関わらず,4回転フリップジャンプを初めて演技に入れてそれを成功させるあたり,顔に似合わずなかなかの勝負師根性を見せてくれた。

BoyanJin15 シーズン最後のお祭り大会なのに,そこまで 宇野 を駆り立てたものは何なのか? その1つの要因が,同世代のライバルである 金博洋(ボーヤン・ジン)(CHN)への対抗心にあることは間違いない。男子シングルのスコア歴代トップ3は,羽生結弦ハビエル・フェルナンデス (ESP),パトリック・チャン (CAN)だが,4番手をご存じだろうか? それが宇野と同じく昨シーズンにシニアデビューした 金 なのである。4回転ルッツジャンプという現在最高難度のジャンプを完璧に飛び,ショートプログラム (SP: Short Program) とフリースケーティング (FS: Free Skating) 合わせて6本の4回転ジャンプを失敗なく入れるのが 金 の実力だ。昨シーズンの 羽生 は5本,宇野 は3本だったから,そのすごさがわかる。この技術力により,金 は昨シーズンの世界選手権で 宇野 より先に表彰台に上がったのだ。

 宇野 は4回転フリップを手に入れたことで存在感を出せるとは思うが,フリップはルッツより基礎点が低く,スコアで 金 に近づいたものの上回ることはそう容易ではない。金 の4回転ルッツは完成度が高く,宇野 の4回転フリップの成功確率よりずっと高い。また,PCS (Program Component Score,演技構成点) は 宇野 に及ばない 金 だが,逆に言えばそれだけ伸びしろがあるとも言える。宇野TES (Technical Element Score,技術点)で,PCS で各々昨シーズンからの上積みが期待できるが,冷静に見れば 金 優勢の状況は今シーズンも続くのである。だからこそ,宇野 は今シーズンこそ世界選手権の表彰台をめざして臨んでくるだろう。

 宇野 と 金 は,実績面ではまだまだだが実力だけなら既に チャン に並んでおり,今シーズンのグランプリシリーズで チャン の歴代スコアを超えることが大いに期待できる。同世代で切磋琢磨するこの2人が,グランプリシリーズ初戦のアメリカ大会でいきなり直接対決するが,スタートダッシュに成功するのはどちらか? グランプリファイナルで表彰台に上がるのはどちらか? そして,いつどんな状況で300点を超えてくるのか? ルッツ vs フリップの4回転対決も含めて,この2人の演技がシーズンを通してどう仕上がっていくのか,楽しみに観戦したい。


★ 樋口新葉 は大人の演技よりも勢いを大切にせよ!

HiguchiWakaba16WJ 全日本選手権2年連続表彰台に上がり,いよいよ今シーズンシニアデビューする 樋口新葉。ジャンプの質やスケーティングスタイルから,かつての名選手 伊藤みどり を思い出す方も多いと思う。伊藤 が素晴らしかったのは,自分の武器であるジャンプを極限まで追い求めたところだと私は思う。当時,正確さや優雅さに主眼が置かれていたフィギュアスケート界で,ジャンプのダイナミックさとスケーティングの躍動感で独自のポジションを築いた。当時の日本人の体格面の不利を,そういう面でカバーしなければならなかったのは確かだが,世界選手権を優勝するまでに至ったことは,自分の長所を前面に押し出すことの大切さを教えてくれた。

 樋口新葉 に 伊藤みどり を重ねて見てしまう私は,昔の 伊藤 の活躍を思い出しながら「新葉よ,今はジャンプを徹底的に鍛えよ!」と叫びたくなる。樋口 自身もジャンプが得意だと認めているし,ジャンプの質の高さは既に一級品である。ところが,最近の 樋口 は事あるごとに「芸術面も成長したい」「大人の滑りを見てほしい」と言い,プログラムもしっとりした内容のものを演じている。もちろん,フィギュアスケートは技術面と芸術面を併せ持つ競技であり,国内外の同世代には メドベージェワ (RUS)や 本田真凛 ら芸術面に秀でたスケーターが多いことから,自分も芸術面を引き上げなければ…と考えるのも致し方ないとは思う。

 だが,芸術面のスコアである PCS は,若いスケーターはそう簡単にスコアが上がらず,経験を積んで徐々に上がっていくものだ。メドベージェワ はシニアデビューの昨シーズンに高得点を出しているが,これは今までにはいなかった稀有な例だ。樋口 のような若い世代が,狙いすまして PCS を高得点化できるとは思えないのだ。しかも,樋口 は技術面に秀でているのだから,まずはそれを徹底的に鍛え上げて個性を発揮しつつ,TES で高得点を稼ぐのが正しい戦略ではないだろうか?

 技術を武器にトップスケーターに上り詰めた例はいくらでもある。上述の 金博洋 は,4回転ルッツを始めとするジャンプの技術で得点を伸ばし,PCS は一流にはほど遠いと筋違いの酷評を受けながら,トータルでは世界4位のスコアをたたき出している。メドベージェワ は若いのに芸術性が高いことに目がいきがちだが,SP では全てのジャンプを後半の時間帯に飛ぶなど,ジャンプ技術も非常に高いレベルにある。羽生結弦 だってシニアデビューの頃はジャンプやスピンの質が武器だったし,髙橋大輔 の若い頃は技術面が強かったが芸術面は平凡だった。しかし場数を踏むことで 羽生 も 髙橋 も芸術性が評価されるスケーターに成長したのである。

 彼らからわかることは,技術を極めれば芸術性は後から付いてくるということだ。だから,技術面で強みを持つ 樋口 は,まず TES をどんどん高めていけばいいのに,と思う。練習試合と言っていい先日のジャパンオープンという大会で,樋口は TES も PCS も平凡な点数しか出せなかった。10代中頃が直面する身体の成長との折り合いの問題はあると思うが,芸術性を意識するあまり得意の技術まで崩れてしまうような事態に陥ってほしくない。樋口 は世界に通用する技術力を備えているのだから,男子シングルの 金博洋 のように,PCS より TES で勝負する存在になるべきであり,樋口 陣営にはぜひそこを見据えた戦略を期待したい。トリプルアクセルを飛ぶ 紀平梨花 が現れた今,技術力勝負の戦略でさえも生半可なレベルでは世界のトップには入れない。樋口 の持ち味である勢いのあるジャンプやスピードといったスケーティング技術を伸ばし,これぞ 樋口新葉 だという個性と存在感を世界に示してほしいと願っている。

グランプリファイナル2015は超ハイレベル

 週末に開催されるグランプリファイナルは,10月から始まったグランプリシリーズ6戦の上位選手が出場するので,今シーズン好調な選手が集いレベルの高い演技が観られるという点で,私が大好きな大会です。今年のシングルは,男女ともベストメンバーが集まり,近年にないハイレベルな戦いになりそうです。シングルの出場選手を紹介します。(写真は,テレビ朝日のバナーから拝借しました/笑)

男子シングル】


GPF_Men
(左から,ジン,フェルナンデス,チャン,村上,宇野,羽生 の各選手)

羽生結弦

 先々週のNHK杯で歴代最高点を叩き出し,フィギュアスケート界を次のステージに引き上げました。史上初の3連覇を狙うプレッシャーや,NHK杯の疲労を心配する声がありますが,全然問題ないでしょう。昨年のファイナルを思い出してください。中国でのケガが癒え切らずNHK杯で表彰台を逃してから,わずか2週間で華麗なる復活を遂げ,そのときの神々しい姿が今でも目に焼き付いています。それを思えば,今年は昨年より状態が良いですし,今回は得点更新を狙わず優勝だけを考えて臨めば,かえって良い演技ができてあっさり得点更新となる可能性はけっこうあると思います。

・・・とここまで木曜日に書いたら,ショートプログラム(SP: Short Program)からやってくれたようですね! こうなると合計 330 点という無茶苦茶な期待をしてしまいますね。記録は二の次で勝ってくれさえすればよいものを…どこまで観る者をワクワクさせてくれるのでしょう,羽生結弦 っていう人は。

宇野昌磨

 とにかく今年は,SP,フリースケーティング(FS: Free Skating),共にプログラムが秀逸! 特に FS は後半のゾクゾク感がたまらないです。本来は,冒頭で4回転からの連続ジャンプを飛んで,後半の4回転は単独らしいのですが,冒頭が連続にならなくても,後半を連続ジャンプにして挽回するのが決まると,そこから最後のちょっとトリッキーな3連続ジャンプまで,鳥肌が立ちまくります。めざせ表彰台!

村上大介

 スケーティングが柔らかくて,観ていて癒されます。特に FS の YOSHIKI (X JAPAN) 作曲の楽曲は,フィギュア用に書き下ろされたのかと思うほど。演技以外では,アメリカに住んでいただけあって英語はネイティブなので,キスアンドクライで キャロル コーチとの会話がテレビの音声に乗るかどうかも楽しみ。同コーチの同門生である ゴールド 選手も出場していますし,リラックスしてミスなく演技すれば,出場選手全員が合計250点以上,という超ハイレベルな記録が観られるかも。

ハビエル・フェルナンデス (ESP)

 グランプリファイナルが2年連続で母国開催なので,今年こそ優勝したい気持ちがあるでしょうけど,オーサー コーチの同門生である 羽生 選手が無敵状態なので,勝負より演技の内容にこだわりたいところでしょう。SP も FS も,ジャンプやスピンなどの技術要素の間の "つなぎ" が満載で,最初から最後まで楽しめるのが見どころ。特に SP の「マラゲーニャ」は,本場スペイン人の フェルナンデス 選手が演じるとこんなに凄いのか,と感動必至です。

パトリック・チャン (CAN)

 SP の結果だけ見ると何が起きたのか心配になってしまいますが…もはや,チャン 選手は点数云々ではないです。羽生 選手と同じような柔らかさや優しさをたたえつつ,強さや緩急も併せ持つ究極のスケーティングの素晴らしさを堪能しましょう。

ボーヤン・ジン (CHN)

 私は2年前のグランプリファイナルを福岡で生観戦したのですが,そのときジュニアファイナルに出場した ジン 選手は,ただ1人 FS で3本の4回転ジャンプを完璧に飛んでいてとても印象に残っていたので,やっと出てきてくれたという感じですが,まさか4回転ルッツジャンプ(4Lz)を完全にものにしているとは驚きでした。SP と FS の冒頭に飛ぶ,高さも幅もすごい完璧な 4Lz を観られるだけでも価値があります。今度こそ,史上初 SP & FS 合計6本の4回転ジャンプを成功させて,歴史に名を刻んでほしいです。

女子シングル】


GPF_Women
(左から,浅田,宮原,ゴールド,ラジオノワ,メドベージェワ,ワグナー の各選手)

宮原知子

 私の中でも株急上昇中! 良い演技をしたい!というオーラが全身から発せられ,それでも気合先行にならず緻密な演技が紡げるところが素晴らしいです。NHK杯で 浅田 選手を破って優勝したことがとてつもない自信になって,さらに一皮むけそうな予感。ファイナル表彰台の確率はかなり高いです。演技全体が見どころですが,中でも 宮原 選手しかやらない逆回転スピンは,観ていてなんだか不思議な気分になれます。

浅田真央

 ファイナル独特の高揚感が 浅田 選手に力をくれることを祈りたいです。ミスなく演技すれば間違いなく優勝という高難度プログラムですが,復帰シーズンの疲労感はかなりのものだと思うので,あまり結果にこだわらず,ファイナルという場を楽しんで滑ってほしいですね。見どころは,トリプルアクセルジャンプよりもむしろ,その後に飛ぶフリップ→ループの3回転連続ジャンプ(3F+3Lo)。SP,FS 共に冒頭からこの2つのジャンプが続くので,これらのジャンプが完璧に成功すると後のジャンプにも連鎖して超高得点が出る可能性も。

エレーナ・ラジオノワ (RUS)

 今シーズンは ラジオノワ 選手の年になるのでは?と私は予測しています。ケガ明けの中国大会は今一つでしたが,母国ロシア大会で合計 210 点超えの完全復調。ロシア大会で FS を終えたときの涙に,追い込まれていた彼女の心情(ロシア女子フィギュア界のサバイバル)が垣間見えてとても印象的でした。今シーズンは比較的メロディアスな曲でオーソドックスな表現力をアピールする戦略っぽいですが,ヒップホップから王道バラードまでこなすジャンルの多彩さ,強さと柔らかさ,迫力と繊細さ,あらゆる表現力を発揮できる究極のオールラウンダー。2年前の福岡で生観戦したとき,エキシビションでその多彩さに圧倒されました。17歳にして3度目のファイナル出場で,貫録さえ感じられるスケートは,演技全体が必見です。

エフゲーニャ・メドベージェワ (RUS)

 2年前の福岡で,ジュニアファイナルに出場していたときは,綺麗なスケートはするもののそれほど印象には残りませんでした。ところが,今シーズンのシニア参戦初戦のアメリカ大会は衝撃的なデビューでした。SP の3本のジャンプを全て後半に持ってくるのは,まぁわかる作戦なのですが,その全てが手上げジャンプでしかも着氷が完璧,ジャンプ以外のスピンやつなぎもとても綺麗。迫力 vs 綺麗さ という軸で見ると,ロシア勢どころか世界的に見ても「綺麗さ」の最右翼にいると思います。細身で長身なので,とにかく綺麗なスケートを堪能できます。FS のミスがなければ優勝争いに加わってきます。

グレイシー・ゴールド (USA)

 ジャンプ,スピン,スケーティング,ルックス,どれをとっても華やかさが際立っています。FS はソチ五輪の 町田 選手でおなじみの「火の鳥」と,楽曲も華やか。正に華を添える存在ですが,今シーズン絶好調で点数も出ますので,彼女も優勝争いに加わってくるでしょう。

アシュリー・ワグナー (USA)

 SP はダンサブル,FS は鉄板の「ムーラン・ルージュ」と,アシュリー色全開のプログラム。点数度外視でただただ観ていたい存在ですが,今シーズンついに200点超えを果たすなど,休養シーズンを取らずに成長し続ける姿には感服。エキシビションでも通用するような SP のダンス満載の演技は観ていて本当に楽しいです。

【順位予想】

  • 男子: 1. 羽生 2. フェルナンデス 3. 宇野
  • 女子: 1. ラジオノワ 2. 宮原 3. ゴールド

 女子は予想が難しすぎます(笑)。おそらく上位4選手は合計点が 200~210 点の中にひしめく大混戦になると予想します。浅田 選手と ワグナー 選手が好調なら全員200点超えというすごいことが起きるかも。

NHK杯の楽しみ方:主な出場選手

 フィギュアスケートのNHK杯の主な出場選手や,順位争いの見どころをご紹介いたします。(写真はすべてNHK公式サイトの写真そのままです)

HanyuYuzuru_NHK2015羽生結弦

 言わずと知れた日本の,そして世界を代表する大エース。ショートプログラム(SP: Short Program),フリースケーティング(FS: Free Skating)の各々後半に4回転ジャンプを入れた構成に挑戦中。普通にやれば優勝できますが,SP,FS 共にすべての技術要素を転倒・手つき・抜けなく入れて内容も伴っていきたいところ。

MuraTakahito_NHK2015無良崇人

 力強い音楽のプログラムがハマるのですが,今シーズンは柔らかい世界観。力強いジャンプが決まると素晴らしい出来栄えなのですが,今シーズンは成功確率が低い。演技の幅を広げるとか緊張するとかはもう卒業して,円熟味を出していってほしい。日本の良い雰囲気が後押ししてくれることを祈ります。

BoyangJin_NHK2015ボーヤン・ジン (金博洋,CHN)

 テレビ朝日は中国選手を漢字読みするので キン・ハクヨウ って言われても誰!?って感じです(笑)。それはそうと ジン 選手は今年の目玉。4回転ルッツ(4Lz)という現在最高難度のジャンプを,いとも容易く飛び,しかも3回転トウループ(3T)ジャンプを付けたコンビネーションジャンプ(4Lz+3T)を中国大会の SP,FS の両方で成功させました。そして SP では4回転ジャンプを2本,FS では4本入れるというとんでもない構成で,成功すれば FS の技術点が100点を超えます。4回転連発は迫力があって,フィギュアスケートが新たな次元に入る予感がする演技なので,じっくり観た方がいいですよ!

AsadaMao_NHK2015浅田真央

 昨年1年間の休養から復帰したシーズンなのに,プログラム構成を過去最高難度にして挑むというファイターぶりに,アンチぎみだった私も感嘆。ついついトリプルアクセル(3A)ジャンプに注目してしまいますが,真の注目ポイントはその後に飛ぶ3回転フリップと3回転ループのコンビネーションジャンプ(3F+3Lo)。これが回転不足なく決まるかどうかで点数がかなり変わってきます。SP,FS 共にこのコンビネーションジャンプを3Aの直後に飛ぶので,このジャンプに注目しましょう。

MiyaharaSatoko_NHK2015宮原知子

 昨シーズンの全日本選手権優勝や世界選手権銀メダルをいい意味で忘れてしまう,求道者然とした姿が印象的で,内に秘めた負けず嫌いの精神は 浅田 選手に劣らないものを感じます。若者のひたむきさの中に,第一人者としての風格がにじみ出る綺麗なスケートなので,プログラム全体をくまなく観てほしいです。

ZijunLi_NHK2015ジジュン・リー (李子君,CHN)

 トップアイドルばりのルックスで,日本にもファンが多いですね。実はかなり負けず嫌いなようで,失敗した演技の後のニコリともせずじっと悔しさをかみしめた表情も,応援したくなる魅力を持っています。リー 選手の清楚なスケーティングは,点数度外視で,ただただ滑りを観てほしいです。

 ほかにも,男子では コフトゥン 選手(RUS),女子では ワグナー 選手(USA),長洲未来 選手(USA),ポゴリラヤ 選手(RUS)あたりが注目ですね。本来なら音楽感覚に優れたスケーティングをする ブラウン 選手(USA)も出場予定だったのですが,ケガで欠場となってしまったのは残念です。

 最後に,NHK杯の順位予想を書き添えておきたいと思います。

  • 男子: 1. 羽生 2. ジン(CHN) 3. コフトゥン(RUS)
  • 女子: 1. ワグナー(USA) 2. 浅田 3. 宮原  (敬称略)

 上記の紹介でも書いたように ジン 選手の4回転連発は,目の肥えた日本の観客にも好感を持って迎えられると思います。浅田 選手はノーミスならば優勝ですが,おそらく少しミスが出ると思います。注目だと上記で紹介した 3F+3Lo のコンビネーションジャンプが中国大会では回転不足と判定され減点されていますので,きっちり飛ぶための調整をしているところだと思います。NHK杯はその調整の場になる(=ミス覚悟で理想のジャンプを飛ぶ)と私は見ています。完成形はグランプリファイナルと年末の全日本選手権で披露されるのではないかと期待しています。ワグナー 選手は今シーズンとても調子がいいので,NHK杯は ワグナー 選手が優勝する可能性が高いと思います。

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