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三原舞依

フランス大会で決まるグランプリファイナル進出者

《追記》 サモドゥロア 選手(ロシア)のファイナル進出の可能性に全く言及しておりませんでした。後付けですが,修正いたしました。実は テネル 選手(米)にも可能性がありこちらも書き損ねておりましたが,条件が複雑になり過ぎるので省略したままといたします。 (2018/11/27)

 今週末のフィギュアスケートグランプリシリーズ(以下,GP)フランス大会は,出場選手に関して見どころが多いのですが,フランス大会の結果によってグランプリファイナル進出者が決まるので,特に進出者の候補が多い女子に関して,結果が進出者をどう変えるのか見てみます。

 女子で既にファイナル進出が決定しているのは,宮原知子 選手,ザギトワトゥクタミシェワ の両ロシア選手の3名です。残り3枠を争うのは,既に2戦を終えている 坂本花織 選手,サモドゥロア 選手(ロシア)と,フランス大会に出場する 紀平梨花三原舞依 の両日本人選手,さらに メドベージェワコンスタンティノワ の両ロシア選手の6名に絞られたと見てよいでしょう。

 ファイナル進出の可能性があるフランス大会出場各選手について,自力で進出するための条件は以下のとおりです。

【紀平 選手】 4位以上
【三原 選手】 優勝
【メドベージェワ 選手】 1位 or 2位でスコアが 213.42 以上
【コンスタンティノワ 選手】 1位 or 2位

 他力本願で進出する条件はかなり複雑です。上記4選手がトップ4に入る前提で表にまとめてみました。緑色の網掛けファイナル進出者赤の網掛け順位同点でスコア次第となるケースです。表の並び順は,まず メドベージェワ 選手の順位の順に並べ,さらに コンスタンティノワ 選手の順位の順に並べています。

1位2位3位4位スコア条件
メドコン紀平三原


メドコン三原紀平


メド紀平コン三原コン≧213.76,未満⇒坂本
メド三原コン紀平コン≧213.76,未満⇒坂本
メド紀平三原コン
坂本
メド三原紀平コン
坂本
コンメド紀平三原メド≧213.42,未満⇒坂本
コンメド三原紀平メド≧213.42,未満⇒坂本
紀平メドコン三原コン≧213.76,未満⇒坂本
三原メドコン紀平メド≧213.42,未満⇒坂本
紀平メド三原コン
坂本
三原メド紀平コンメド≧213.42,未満⇒坂本
コン紀平メド三原
坂本
コン三原メド紀平
坂本
紀平コンメド三原
坂本
三原コンメド紀平


紀平三原メドコン
坂本サモ
三原紀平メドコン
坂本
コン紀平三原メド
坂本
コン三原紀平メド
坂本
紀平コン三原メド
坂本
三原コン紀平メド


紀平三原コンメド(省略)
坂本サモ
三原紀平コンメドコン≧213.76,未満⇒坂本

 最も可能性が高い順位は,1.紀平 2.メド 3.三原1.メド 2.紀平 3.三原 でしょう。これなら 坂本 選手はファイナルに進出できます。また,表を見ると,かなりの組み合わせで 坂本 選手は進出できることがわかると思います。詳しく見ると,坂本 選手が進出できない条件が発生する確率は低いと考えられるので,坂本 選手のファイナル進出はかなり濃厚と見ていいと思います。ただ,紀平・三原 両選手が3位以下となり,ロシア勢の1-2フィニッシュを許してしまうと,坂本 選手の進出は難しくなります。紀平 選手は,自身のファイナル進出はほぼ確実ですが,上位に入ることで 坂本 選手をアシストしてほしいです。

 日本選手にとって最も良い結果は,1.紀平 2.三原 3.メド1.三原 2.紀平 3.メド,つまり日本勢の1-2フィニッシュです。これ後者が実際に起これば,日本は 宮原,紀平,三原,坂本 の4選手進出となります。メドベージェワ 選手は今季,本調子ではありませんので,この順位は狙える順位です。紀平 選手が2戦目も覚醒し続けるのか,三原 選手が完璧な演技で逆転のファイナル進出を手繰り寄せるのか,フランス大会が本当に楽しみです。

NHK杯の見どころ:女子シングルはハイレベル

 今季は,五輪のあった昨季とは打って変わって,のんびりと観戦している私ですが,明日から始まるNHK杯は,リアルタイムにクリアな映像で観戦できるので例年楽しみに観ています。今季,特に観てほしい選手がいるので,紹介がてら展望してみたいと思います。

 NHK杯は,グランプリシリーズ(以下GP)というシーズン前半の主要大会6連戦の1つ(今季は4番目)です。グランプリシリーズでは,開催国のランク1位の選手は原則として出場することになっています。ですから,女子シングルは 宮原知子 選手が出場します。宮原 選手はGP初戦のアメリカ大会で優勝し,中2週という理想的な間隔で母国大会に出場します。

 例年,シーズン序盤はジャンプの回転不足が目立っていましたが,今季から回転不足の判定がさらに厳格化されることから,オフにジャンプの抜本的な矯正を行ったようです。その成果が早くも表れており,アメリカ大会のフリースケーティング(FS:Free Skating)では全てのジャンプを回転不足なしで決めました。こうなれば,元来美しいスケートをする 宮原 選手の出来ばえ点は高くなりますので,今季のルール改定が 宮原 選手に有利に働くことは間違いありません。3位以内に入れば,グランプリファイナルへの出場権を手にしますが,本人は当然母国での優勝を狙っているでしょう。

 しかし,宮原 選手が優勝候補筆頭,と簡単には言えないほど,手強いライバルが出場してきます。しかも,トリプルアクセル(3A)ジャンプを飛べる選手が2人もいるのです。その一人が,紀平梨花 選手です。おそらく,NHK杯の結果により,一気に脚光を浴びることになると思います。フィギュアスケートファンの間では既に知られた存在ですが,紀平 選手は昨季までジュニアの大会に出場しており,NHK杯がシニアデビューとなります。

 なんといっても 紀平 選手の武器は 3A。しかもただ飛べるというレベルではありません。トリプルアクセル→トリプルトウループ(3A+3T)の連続ジャンプを綺麗に着氷する技術を持っています。あの 浅田真央 さんでも,連続ジャンプは2本目がダブルトウループ(3A+2T)であり,3A+3T は大会でトライしたことすらありません。国際大会で 3A+3T を初めてそして現在唯一成功させているのが 紀平 選手なのです。このジャンプができることで,3A 単独ジャンプと併せ,FSで 3A を2本入れることができるのですが,もちろんこれも彼女だけです。

 非常に完成度が高い 3A なのでそこばかりに注目が集まってしまうのですが,女子では苦手な人が多いルッツ(Lz)ジャンプも得意で,3Lz もFSで2本入れています。そのため,シニアデビューにもかかわらずシニア女子の中で基礎点が群を抜いて高いのです。FSで3回転ジャンプを8本入れる,いわゆる「8トリプル」に成功するかどうかも注目点です。また,表現力も既にジュニア離れしたものを持っているので,ジャンプだけの選手ではなく,トータルバランスに優れた素晴らしい資質を持っています。

 シニアデビュー,母国開催,他のシニアデビュー選手の活躍(山下真瑚 選手がカナダ大会で2位)など,気合いが入る材料は揃っています。昨季の全日本選手権で3位に入り,既に実力は証明済みなのですが,全日本選手権は他の選手の五輪代表選考が注目され,年齢的に出場資格がなかった 紀平 選手のことはあまり取り上げられなかったところがありました。ぜひ,このNHK杯で 紀平梨花 の名を知らしめてほしいと願っています。

 もう一人の 3A を飛ぶ選手が トゥクタミシェワ 選手(ロシア)です。2週間前のカナダ大会では,ショートプログラム(SP:Short Program)で 3A を成功させ優勝しました。なぜか五輪の翌シーズンに調子が良く,ソチ五輪直後の2014/15シーズン(グランプリファイナル,ヨーロッパ選手権,世界選手権の3冠)を思い出す好調ぶりです。彼女はシニアデビューシーズンにいきなりGP2連勝という鮮烈なデビューを飾ったのですが,そんな彼女ももう8シーズン目で,もはやベテランの風格が漂います。3A を見事に操るシニアデビューの 紀平 選手に,華々しかった自分のデビューを重ねているかもしれませんが,トゥクタミシェワ 選手の 3A もほとんど 2A と変わらない態勢から飛ぶ素晴らしいジャンプであり,2選手の 3A が同じ大会でしかも日本で観られるのは,本当に貴重なことだと思います。

 この3人が表彰台を占める可能性が高いのですが,三原舞依 選手も今季GP初戦で張り切っていると思います。三原 選手は2シーズン前シニアデビューでブレイクしましたが,昨季は波に乗り切れず五輪出場を逃してしまいました。ですから,今季は今後の4年間に向けたスタートとして期するものがあると思います。紀平 選手や トゥクタミシェワ 選手は好不調の差があるタイプなので,彼らが不調だと 三原 選手が表彰台に食い込む可能性は大いにあると思います。

 女子シングルはとても楽しみなメンバーが揃いましたが,男子シングルにも少しだけ触れておきたいと思います。宇野昌磨 選手は普通にやれば優勝なので何の心配もありません。他の選手の中で注目は 山本草太 選手です。彼は昨季大ケガから復活し,今季は万全の状態でシーズンを迎えています。ケガを経て,スケートに力強さと表現力が備わってきていますので,今季どこまで素晴らしいスケートを魅せてくれるのか,とても楽しみです。

 SPは金曜の夕方~夜なので,リアルタイムの観戦は難しい方が多いと思いますが,FSは土曜の夕方~夜なので,ぜひリアルタイムで観ていただきたいです。特に女子シングルは,すごいスコアやハイレベルな戦いが観られるかもしれません。私もがっつりリアルタイムで観戦したいと思います。


女子シングル2枠代表選考を振り返る 【スポーツ雑誌風】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 フィギュアスケートの女子シングル平昌五輪代表は,宮原知子,坂本花織 の2選手に決定した。宮原 選手は日本女王の貫録でつかみ取り,坂本 選手は,競馬に例えるなら4コーナーから一気の末脚で馬群から抜け出した。4年間を支えてきた大エースと,シニアデビュー組の2人という,2枠としてはなかなか良い陣容となった。五輪の代表選考は,今シーズンの内容が大きく関わってくるが,4年間の集大成という位置付けでもあるので,この4年間を追いながら代表決定までのドラマを振り返りたい。

◆ソチ五輪後

 ソチ五輪の女子シングル代表だった3選手は,鈴木明子 が引退,浅田真央 が休養,村上佳菜子 が現役続行も成績停滞と,一気に世代交代の機運が高まった。そこに名乗りを上げたのは,宮原知子本郷理華 だった。宮原 は,ソチ五輪の翌シーズン(2014年)から全日本選手権を4連覇。本郷もソチ五輪の翌シーズン(2015年)から世界選手権に3年連続で出場。4年間の実績で代表を選ぶなら,この2人が選ばれていただろう。そのくらい2人は,この4年間の日本フィギュアスケート界を支えた。

 浅田 が1年間の休養を経て2015/16シーズンに復帰を果たし,復帰シーズンにもかかわらずGP(グランプリ)ファイナルにも世界選手権にも出場した,見事な復帰だった。さすが 浅田,これなら平昌五輪でも勝負できるのでは,そう思ったのも束の間,翌2016/17シーズンはケガもあって精彩を欠き,五輪シーズンを前に潔く身を引いた。

 その2016/17シーズン(昨シーズン)に台頭したのが,シニアデビューの 三原舞依樋口新葉 だ。2人は全日本選手権の表彰台に乗り,宮原 と共に四大陸選手権と世界選手権の代表になった。しかし,シーズン後半,2人の明暗は分かれた。三原 は,平昌五輪のリンクで開催された四大陸選手権で優勝,世界選手権はSP(Short Program,ショートプログラム)で出遅れながらFS(Free Skating,フリースケーティング)で巻き返し5位に入賞した。一方,樋口 は四大陸選手権,世界選手権ともに8位入賞さえも逃し,平昌五輪の代表枠をまさかの2枠に落としてしまった。これは,宮原 のケガの快復が間に合わず世界選手権を欠場したことが響いたが,樋口 はあと1つミスが少なければ3枠を確保できる順位に上がれただけに,日本にとってはあまりに厳しい世界選手権の結果だった

◆樋口新葉

 樋口 にとっては,自分の演技によって五輪代表枠を2枠に落としたことが,代表決定の局面で自分の首を絞めてしまった。しかし逆の見方をすれば,その責任を感じながらも,代表選考の最後の選択肢までよく残ったと見ることもでき,この健闘は大いに称えられるべきである。世界選手権の失意の後,国別対抗戦にも駆り出されたのを見て,国別対抗戦の結果によっては 樋口 が潰れてしまうのではないかと,私はかなり本気で心配したが,国別対抗戦で 樋口 は日本史上最高スコアのFSを披露し,それまでのもやもやを吹き飛ばしてシーズンを終えた。悔しさと成長を手にした 樋口 の五輪シーズンには期待と不安が入り混じっていた

 今シーズンに入ると,樋口 は前哨戦のロンバルディア杯でスコア217点の好スタートを切った。GPシリーズに入っても210点台を連発し,ロシア大会3位,中国大会2位と2戦続けて表彰台に乗った。シリーズ2戦とも表彰台に乗った日本女子選手は 樋口 だけだ。しかし,これだけの好成績にもかかわらず,GPファイナル進出を(中国大会の4週間後の)シリーズ最終戦(アメリカ大会)まで待たされたことが,ファイナルや全日本選手権までの調整を難しくしたのかもしれない。ロシア大会でミスを1つ減らして2位になるか,中国大会で GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)や PCS(Program Component Score,演技構成点)を1点強プラスして優勝するか,どちらかができていれば中国大会の時点でファイナル進出が確定していた。こういう1ミス・1点の重みを,今シーズンの 樋口 は痛感したに違いない。

 また,ファイナル進出が決定したのは,アメリカ大会で 宮原 が優勝,坂本 が2位に入り,他のファイナル進出候補選手の順位を下げてくれたおかげだった。もし彼らが上位に入らなければ,樋口 はファイナルに進出できなかっただろう。日本選手にサポートしてもらう形でファイナルに進出した 樋口 は,ここで表彰台に乗るか,乗れなくても良いスコアが出せれば,代表選考の際の印象はかなり違っていたはずだが,もらったチャンスを生かすことができなかった。昨シーズンの四大陸選手権,世界選手権に続き国際一線級大会3連続不発となり,この時点で,大舞台に弱い 樋口 を五輪代表にするのは酷だと私は感じた。結局,樋口 が平昌五輪代表を逃し,樋口 のファイナル進出をアシストした 宮原 と 坂本 が代表になったところに,勝負のあやを感じずにはいられない。

 樋口 はシニアデビューの昨シーズン,しきりに「大人の演技をしたい」「表現力を強化したい」と言い続け,ジャンプ等の技術向上と表現力強化の両立を図ろうとしていたが,私はシーズン開始時からその戦略に不安を抱いていた。四大陸選手権と世界選手権で崩れたときには,嫌な予感が当たってしまったと思ったのだが,今シーズンの PCS が伸びたのは昨シーズンの表現力の強化が実を結んだとも言えるので,その戦略の善し悪しは安易には評価できない。しかし,五輪代表落選の現実は,戦略を見直す良い機会になる。樋口 はもっと技術点重視で臨むべきであると私は今でも考えており,ぜひ今シーズンには間に合わなかった 3A(トリプルアクセルジャンプ)をすぐにでも習熟させて,プログラムに華やかさを加えてほしいと願っている。3A 導入の効果は,飛べることのすごさだけではなく,他のジャンプが楽に飛べるようになったり,プログラムに組み込むジャンプの選択肢が広がることにある。このことは,浅田真央 や 紀平梨花 が証明している。3A は必ず 樋口 を強くすると私は信じている。

◆三原舞依

 昨シーズンの四大陸選手権は平昌五輪のリンクの予行,世界選手権は平昌五輪の枠取りという点で,例年より重要度が高かった。そんな2大会で好成績を上げ,さらに国別対抗戦で218点という日本史上最高レベルのスコアを出したこともあり,三原 は平昌五輪代表に相応しいと私は強く感じていた。なので,三原 が代表を逃したことは残念でならない。だが,今シーズン当初から嫌な予感はあった。GPシリーズの対戦カードが厳しかったのだ。三原 は中国大会とフランス大会に出場したが,この2大会は出場者のレベルが他の大会より高かった。とはいえ,両大会とも ザギトワ(ロシア)が出場したので優勝は難しいとしても,両大会で2位ならファイナルに進出でき,これは 三原 の実力ならさほど難しくないミッションのように思われた。

 だが現実は,2大会とも200点を超えながら4位に終わった。2大会とも200点以上を記録した選手で表彰台に立てなかったのは 三原 だけであり,対戦カードの不運に見舞われた。安定した成績を残しながら,代表選考の選択肢にも上がらなかったのは意外としか言いようがないが,今シーズンで1戦でも,SPとFSが両方ノーミスで210点を超えるスコアを出していれば,違った展開になったかもしれない。そこまで突き抜けられなかった原因は,SPでずっとミスが出続けたことだった。SPはタンゴという 三原 には不向きなジャンルにチャレンジし,FSと全く違う世界を魅せることで表現の幅をアピールする作戦だったのかもしれないが,結果論で言えば五輪シーズンに採る戦略としてはリスクが大きかった。三原 はプログラムを体にしみこませ,完全に自分のものになると完成度が上がっていく。昨シーズンの後半はそれがハマったが,今シーズンはタンゴがなかなか体に入り込まなかったのではないか。三原 がタンゴを消化しきれていない,という意見は観る側のブロガーなどからも上がっていたし,ひょっとすると全日本選手権でSPを昨シーズンのプログラムに戻すかもしれないと私は思っていたが,そこまでの荒療治は行われなかった。

 練習ではノーミスで通せていたそうだが,それが大会で発揮できない。そのもどかしさが,全日本選手権ではまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒という形で出てしまった。練習でできることが本番でなぜかできないという状況は,原因がどこにあるのかわからず,昨シーズンの成功体験とのギャップもあり,モヤモヤしたままシーズンが進んでいったと思う。これがシニアデビュー2年目のジンクスだったのだろう。樋口 も 三原 も,直近2シーズン,日本女子をリードしたにもかかわらず,五輪代表落選という形で課題が突き付けられるのは酷だが,若くしてこのような大きな経験ができたことは必ず今後に生きてくるだろう。2シーズンの活躍が評価され,三原 は四大陸選手権,樋口 は世界選手権の代表に選出された。彼らなら気持ちを切り替えて再スタートを切ってくれることだろう。

◆宮原知子

 宮原 が無事に平昌五輪の代表になり,関係者はホッと胸をなでおろしたことだろう。ソチ五輪後の4年間,全日本選手権を勝ち続け,世界ランキング1位に君臨したこともある 宮原 が,五輪に出場できなければあまりに気の毒だからだ。宮原 は,

  • 2015年 世界選手権:2位
  • 2015年 GPファイナル:2位
  • 2016年 世界選手権:5位
  • 2016年 GPファイナル:2位

と,非常に安定した成績を残していたが,2017年1月に股関節骨折が発覚し,昨シーズン後半は休養を余儀なくされた。昨シーズンは五輪プレシーズンというだけで重圧がかかる上に日程も過密で,四大陸選手権が平昌五輪のリンクでの開催なので出場必須な上に,その翌週に札幌でアジア大会に出場するという,厳しすぎる日程だった。これらを乗り切るために練習過多になったとしても不思議ではない。結局 宮原 は「五輪会場の経験」「アジア大会の盛り上げ」「世界選手権の2年ぶりのメダル獲得」「五輪3枠の維持」これらを何一つ果たすことができず,宮原 陣営は責任を感じていたと思う。ただ,もしアジア大会後に骨折していたら,平昌五輪の出場は絶望的だっただろう。今思えばギリギリのタイミングでのケガだったと言える。

 ケガからの復帰が11月のNHK杯までずれこんだとき,不安はかなり大きかったことだろう。宮原 は豊富な練習量で演技の完成度を上げていく選手なので,ケガが長引き追い込んだ練習ができないことを不安視する声はあった。しかし,復帰後の演技は今までの 宮原 選手とは一味違っていた。今までは,求められる振付を100%実施するという感じだったが,復帰後は,身体の使い方に躍動感が増し,表現が力強くなった印象を受けた。スケートができる喜びにあふれ,休養中にスケート以外で吸収したことが表現に生かされているように感じた。復帰2戦目のアメリカ大会は,ノーミスというレベルではなく完璧な出来で,その演技は神々しさに満ちていた。ここで完璧な演技ができたことで,練習量や試合勘の不安は完全に払拭され,自信を得たに違いない。これで五輪代表入りは間違いないと私は確信した。GPファイナルは,メドベージェワ(ロシア)欠場による繰り上げ出場だったため本気を出さず,全日本選手権にきっちりとピークを持っていった。

 怪我の功名という言葉は,正に 宮原 に当てはまる。練習をハードに追い込まなくても良い演技ができるという経験が得られ,休養を経て表現力が上がったこれらの武器を手に入れた 宮原 は今まで以上に強い。ケガの不安がある メドベージェワ,まだ若く経験値が少ない ザギトワ らが脅威を感じる存在になるだろう。

◆坂本花織

 シンデレラガール,ダークホース,ライジングスター,様々な表現で驚きをもって迎えられた 坂本 の五輪代表選出。だが,GPシリーズをじっくり観戦していた方は,坂本 がポッと出ではないことをご存知だろう。GPシリーズのベストスコアランキング7位,今シーズンの世界ランキング7位と,十分に世界で戦える力を身に付けてきた。全日本選手権の4週間前のアメリカ大会で一気に覚醒したのは,それまでの豊富な実戦経験が花開いたものだった。GPシリーズ前の前哨戦に(多くの選手が1戦のところ)2戦出場。全日本選手権のシード権を持っていなかったため,出場権を得るために国内大会にも出場した。ノーシードでの2位とはお見事であり,マラソンの 川内優輝 ばりに大会に出続けて実戦経験を積んだことが奏功した。

 アメリカ大会の前まで 坂本 のスコアは200点未満が続いていたが,アメリカ大会で一気に世界の一線級である210点に到達した。物事の成長は直線的ではなく階段状である,とよく言われるが,坂本 のスコアの成長はその好例である。なかなか200点の壁を越えられずもがいたと思うが,めげずに実戦をこなしたことで,ちょうどアメリカ大会でジャンプアップできたのだろう。この時の演技は完璧で,特にFSの「アメリ」が素晴らしかった。この演技が全日本選手権でもできれば優勝も夢ではない,本当にそう思うほどだった。それにしても,アメリカ大会でのジャンプアップは,絶妙なタイミングだった。もっと早くスコアが出ていれば,慢心や重圧が生じたかもしれないし,アメリカ大会でスコアが伸びなければ,全日本選手権の好成績がまぐれだと受け取られたかもしれない。全日本選手権でスコア213点を出したことで,2大会連続で210点超えとなりアメリカ大会を上回ったことは,安定と成長を印象付け,五輪代表入りの大きな決め手となったに違いない。

 たまたま直近2大会でスコアが出ただけという見方もできるのだが,樋口 とどちらが代表に相応しいか個人的に検討したブログ記事を書いたとき,様々な観点を書けば書くほど 坂本 が相応しいという気持ちに私は傾いていった。重要な大会(昨季の四大陸選手権・世界選手権,今季のGPファイナル・全日本選手権)の成績が(ノーミス演技を勝ちと考えたとき)樋口:0勝4敗,坂本:1勝0敗であり,この観点では比較しづらいのだが,これだけ大舞台に弱く,2枠に落とした主たる要因だった 樋口 を五輪代表には推しづらかった。一方で,坂本 の経験値が 樋口 より少ないのは事実であり,全日本選手権において,SPトップ&FS最終滑走という状況がなければ,あるいは,もう少しジャンプがふらつくなどしてスコアが210点に届かなければ,坂本 の代表入りはなかったかもしれない。さらには,2人の直接対決は今シーズン1勝1敗(ロシア大会,全日本選手権)。正に「総合的な判断」によって 坂本 が選ばれたのだろう。

◆五輪代表選考のドラマ

 2シーズンに渡って活躍していた 樋口 ではなく,シニアデビューの 坂本 が選出されたことで,それなら始めから全日本選手権一発勝負でよかったのでは?という意見も見られる。わかりやすさという点では一理ある意見だとは思うが,優勝者以外は総合的判断という現在の方式を私は基本的に支持する。まぐれで上位に来た選手の代表入りを防げるのが一番大きな理由だが,他に,国際大会と国内大会の違い,好不調の出やすさ,といったことへの考慮が必要という理由もある。これらの詳細な説明はここでは割愛するが,現在の方式だったからこそ 樋口 が最後まで代表選考の選択肢に残ったのであり,これは妥当な選考過程だったと思う。

 ただ,1つ課題に思うことは,全日本選手権の前に全く代表内定が出ない点だ。現行の方式では,たとえGPファイナルで優勝しても代表が確約されないので,全日本選手権に全力を注がざるを得ない。これはピーキングを非常に難しくするし,GPシリーズからずっと頑張ってきた選手が代表入りすると,それまでの疲労により五輪にベストな状態で臨めないリスクがあると思う。私はGPファイナルのメダリスト(1~3位)は五輪代表内定にすべきだと考えている。もしそのような選考基準であれば,樋口 はGPファイナルの集中度がもっと高くなり,違った結果になったかもしれないと思うのだ。全日本選手権の権威を高めたい気持ちはわからなくもないが,国際大会の経験や成績は五輪で上位に入るために不可欠であり,GPファイナルに出場するにはGPシリーズで良い成績を継続する必要があることから,GPファイナルで内定を出すことは理にかなっていると思う。

 樋口 はGPファイナル6位ではあったが「GPファイナル出場者上位2名」という今回の選考基準を満たした。この基準はソチ五輪の時にはなかったもので,ソチ五輪では「GPファイナルメダリストのうち上位1名」という今回より厳しい基準があった。なぜ今回の基準になったのかについては,ソチ五輪の時の反省があると私は推察する。ソチ五輪の代表選考において,男子シングルの 織田信成 は,GPファイナルで3位に入ったにもかかわらず,羽生結弦 が優勝したため「GPファイナルメダリストのうち上位1名」という選考基準を満たさなかった。そして,織田 は全日本選手権で4位となり「全日本選手権2位・3位」という選考基準も満たさず,結局,代表選考の選択肢に残らなかったのだ。このシーズン,織田 は総じて好調だったので,「GPファイナル出場者上位2名」という選考基準があったら,当時ケガを抱えていた 高橋大輔 ではなく 織田 が選ばれた可能性が高く,結果論で言えば 織田 は五輪の銅メダルを獲れた可能性が十分にあった。今回,樋口 がこの選考基準を満たしたことが選考を悩ませる一因だったわけだが,そこにはこのような過去の反省が生かされていたのである。

 今回の五輪代表選考のドラマは,頑張り続けた 樋口 と急浮上した 坂本 という対照的な2人によって生み出された。樋口 は昨シーズンの世界選手権で2枠陥落の主因となったものの,その悔しさをバネに今シーズンはGPファイナルに出場し,終始,五輪代表争いをリードした。坂本 は国内大会などの地道な実戦がラスト2大会で結実し,全日本選手権で初めて大きな注目を浴びながら見事な演技を魅せた。恵まれているとはいい難い体格ながら高い実力を持ち,しかし肝心な大会でそれを出し切れない 樋口 に,私はもどかしく思いつつ自分を見ているような親近感を覚えた。高い素質がありながら今まで本格的な注目を浴びてこなかった 坂本 が平昌五輪の代表争いに急浮上する姿は,陰ながら応援してきた私としても望外の喜びだった。どちらが選出されても五輪代表に相応しい資質を備えている2人だからこそ,今までで最も難航したとされる五輪代表選考のドラマが生まれたのだと思う。

 五輪代表は 坂本 になったが,世界選手権代表は 坂本 ではなく 樋口 に割り当てられた。フィギュアスケートは,五輪のシーズンにも世界選手権を開催する珍しい形態が採られているが,五輪代表と世界選手権代表でメンバーが変わる例が今まであっただろうか。それだけ 樋口 の功績や実力が高く評価されたことの表れである。昨シーズン2枠に落とした借りを今シーズン返してこい,というメッセージにも読み取れ,見方によっては粋な計らいとも残酷とも解釈できるが,今の 樋口 ならやってくれる気がしている。樋口 本人が発した「倍返し」の物語の始まりに注目したい。

 年が明ければすぐに平昌五輪を迎える宮原メダル争いが目標だが,坂本 にそこまで求めることは無理があり,トップ5に入れば大健闘だ。順位よりも,2人にはミスなく GOE で大きな加点がつくような演技を期待したい。実は,過去のデータを調べてみると,新採点方式になった2006年以降,五輪でSPとFSの両方をノーミスで演技したシングルの日本選手は,男女共に1人もいないのだ。2006年トリノ五輪金メダルの 荒川静香 でさえ,FSで1つジャンプの抜けがあった。2010年バンクーバー五輪5位の 安藤美姫 も良い内容だったが,SPでジャンプの回転不足があった。間違いなく史上最高レベルの大会になるであろう平昌五輪で,宮原 と 坂本 には,ぜひ日本シングル史上初のノーミスを達成し,キスアンドクライで最高の笑顔を見せてほしい

涙の全日本選手権

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 五輪シーズンのフィギュアスケート全日本選手権。4年に一度の五輪が絡むので,どうしても張り詰めた空気に覆われてしまいますが,今年は特にいろいろな涙に彩られた大会だった気がします。

◆女子シングル

 FS(Free Skating,フリースケーティング)を終えた後の 宮原知子 選手の涙。この4年間の日本フィギュアスケート界を支え続けたプライド,ケガ明けの不安や恐怖,それに打ち勝った安堵感,それらが凝縮された瞬間でした。無事に平昌五輪代表になった今となっては,正に怪我の功名だったと思います。様々なエピソードが報じられていますが,スケートだけでなく,リハビリでも空いた時間の活動でも,黙々としかし着実に実行していたという話を聞くと,それらの努力が全て今大会のスケートに結実したのだなと思います。

 以前から定評のあった,動作に一切の無駄がなく研ぎ澄まされた表現は,今季のスケートアメリカで神々しさをまとい始め,もう今季はこのまま平昌五輪まで突き進む,そう私は確信しました。その確信どおり,今大会ではスコアを220点に乗せ,高らかに平昌五輪のメダル争いに名乗りを上げました。このスコアでもまだ,SP(Short Program,ショートプログラム)とFSの両方でジャンプの回転不足が1ヶ所ずつあり,他のジャンプでも GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)を伸ばせる余地がありますので,技術点の上乗せだけで225点,演技全体が完璧なら PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに伸びるので,トータル230点も見えてきました。このスコアを出せば確実にメダルに手が届きます。一度は諦めかけた平昌五輪を手繰り寄せた 宮原 選手には,きっと4年間の努力に対するご褒美がある,そう信じたくなる今大会の演技,そして涙でした。

 SPで 宮原 選手をわずかに上回りトップに立った 坂本花織 選手。プログラム「月光」は今までで一番の出来でした。思いのほか高い点数が出て,キスアンドクライで「わ~」と驚きながら存分に喜ぶ姿には,観ているこちらも嬉しくなりました。しかし,急に降って湧いたSPトップで,しかもFSは最終滑走。こうなる可能性を大会前にどれほど想定していたかわかりませんが,五輪シーズンでとてつもないプレッシャーがかかったと思います。

 FSは,冒頭の連続ジャンプで,セカンドジャンプが回転不足になり詰まってしまうあたり緊張が出ていましたが,その次のジャンプが膝を柔らかく使いながらふわっと着氷したのを観て,最後までミスなくできそうな予感がしました。実際にジャンプはミスなく入れることができましたが,「アメリ」というプログラムは最初から最後までパントマイムなどの細かいつなぎが満載で,前の大会に比べつなぎの表現に余裕がないように見えました。それでも 坂本 選手はそれなりに手応えを感じ,宮原 選手に勝てないまでもある程度迫る点数を期待していたようで,キスアンドクライでスコアが出たとき,坂本 選手は「あれっ」という表情を見せていました。スコアが140点にわずかに届かなかったのは,PCS の伸び悩み,冒頭ジャンプの回転不足,3Lz(トリプルルッツジャンプ)のエッジの問題で GOE 加点なし,の3つが原因でした。それでも,伸びしろを残しながらトータル213点を出したということは,GOE で加点された要素も多くあったということであり,ものすごい重圧を思えば見事な演技だったと思います。

 今大会の演技を観た関係者は,坂本 選手の舞台度胸と五輪までの伸びしろを高く評価したのでしょう。坂本 選手に平昌五輪代表の座がめぐってきました。代表争いに関する感想は別途記事を書きたいと思いますが,今大会の演技は 坂本 選手を選びたくなるような内容だったと言えるでしょう。

 年齢制限で平昌五輪の代表争いに巻き込まれなかった 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)旋風を巻き起こしなんと表彰台に乗りました。FSだけなら 宮原 選手に次ぐ2位という堂々たる成績で,SPの 3Lz が抜けなければトータルでも2位に入っていた計算です。ジュニアグランプリファイナルに続き 3A は絶好調で,3A+3T(連続ジャンプ:トリプルアクセル→トリプルトウループ)という大技を含め,SPとFS合わせて3本の 3A に成功。しかも単なる成功ではなく3本とも極めて質の高い美しい 3A でした。

 ですが,紀平 選手は 3A だけの選手ではありません。以前のブログ記事でも書きましたが,他のジャンプ,スピン,ステップ,PCS 全てがジュニア離れしています。今回のFSでは3回転ジャンプを8本入れる「8トリプル」に挑み,ジャンプの回転は全て認定されました(1つだけ着氷が乱れたジャンプがあり,その GOE が減点評価だったので「8トリプル成功」ではありません)。代表争いをしていた有力7選手が全員FSで1ヶ所以上回転不足があったことを考えると,回転不足がなかったというのは実はすごいことです。紀平 選手の8トリプルは 3A と 3Lz(トリプルルッツジャンプ)が2本ずつ入り,今大会のFSの技術点は 79.53 点。ちなみに技術点2位は 73.90 点(三原舞依 選手,5.63 点差),グランプリファイナルのFSの技術点トップでも 76.61 点(ザギトワ 選手(ロシア),2.92 点差)なので,この技術点がいかにすごいかがわかります。また PCS も,FSではジュニアの他の選手より3点以上高い 61.76 点を獲得し,スケーティング技術や芸術性でも評価が高いです。まだ15歳で既にこの完成度なので,今後の成長で PCS がもっと上がれば,世界チャンピオンを狙える逸材です。平昌五輪後は,紀平 選手の成長を楽しみたいと思います。

 紀平 選手のFS大躍進によって,4年連続の表彰台を逃してしまったのが 樋口新葉 選手でした。昨年まで3年連続で全日本選手権の表彰台に上り,今年もうまく乗り切るかと思ったのですが,五輪代表がかかる今年は,大舞台の弱さが今大会でも出てしまいました。SPとFSでジャンプが抜けるミスが1本ずつありましたが,これら以外のジャンプはきちんと入れましたし,表現などは気持ちが入っていて PCS は割と高い点数が出ていました。ミスを引きずることなく演技全体をまとめたという点では今シーズンの成長が表れていましたし,今までならこのくらいのスコアでも表彰台に上れたと思いますが,現在の日本のレベルでは2つミスをすればこういう結果になるということでしょう。代表発表時,舞台裏では悔し涙にくれたことと思いますが,これをバネにして今後,より強くなっていくことを期待しています。

 坂本 選手の代表入りを,悔しさと喜びと入り交じりながら受け止めているのが 三原舞依 選手でしょう。私は 三原 選手の逆転代表入りを願っていましたが,SPでまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒があり,SPの段階で同門後輩の 坂本 選手とかなりの差がついたことで代表入りはほぼ絶望的になってしまいました。それでもFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の穏やかで柔らかいスケーティングが素晴らしく,140点に乗せて意地を見せてくれました。演技終了直後の涙には,FSがうまくいったからこそのSPの悔しさ,壁を越えられなかったもどかしさも含まれているように感じました。今季は安定して200点台のスコアを出しながら210点を一度も超えられず,FSも10月のジャパンオープンで出した PCS 70 点,計 142 点に届きませんでした。やはりSPの出遅れのせいか,やや慎重な部分があったようにも感じました。

 SPのプログラム「リベルタンゴ」は今大会でもミスが出て,完成に至りませんでした。三原 選手にとってはチャレンジといえるジャンルで,大丈夫か?という声はシーズン当初からありましたが,結果から判断すればこの賭けは裏目に出たと言えるでしょう。SPの演技が体に入り込む前に今大会を迎え,失敗できないという重圧から,最後のジャンプである 2A のところで綻びになってしまったという感じでしょう。三原 選手はプログラムが体に入り込んでからどんどん完成度が上がっていくタイプで,だからこそ昨季はシーズン後半に好成績を残すことができました。タンゴは 三原 選手の体に入り込むのに時間がかかってしまったのではないでしょうか。今大会はトータルスコア210点超えが2人だけと,スコアの点ではけしてハイレベルではありませんでしたから,三原 選手にも十分チャンスがあっただけに,平昌五輪代表入りを逃したのは残念でなりません。

 本郷理華 選手のSP「カルミナ・ブラーナ」は本当に素晴らしかったですね。今季やや上向いてきたとはいえ,グランプリシリーズもパッとせず,今大会に賭けてきた気持ちが伝わってきました。今までの 本郷 選手の演技は,スケールの大きな演技ができる体格や技術を持ち合わせながら,表現面ではやや凡庸な印象が拭えないところがあったのですが,今大会のSPでは表現しようという意志が観ているこちらにも強く伝わってきました。そこには,4年間日本女子を支えてきたプライド,平昌五輪への強い想い,長久保 コーチの退任など周囲の状況の変化に打ち勝つ気持ち,そういった様々なものが体現されていましたし,観ている私たちもそれを共有したからこそ,強い感動があったのだと思います。FSはベストな演技にはなりませんでしたが,転倒しても全く気持ちを切らすことなく最後まで演じ切った姿には,本郷 選手の強さの一端を観た思いがしました。今大会のような表現の強さがあれば,本郷 選手は再び全盛期を迎えることができると思います。

 本田真凛,白岩優奈 両選手は,シニアデビューの洗礼を受けてしまった,いや,自らそこにハマってしまった印象を受けました。同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表にまで上り詰めた姿を見て,彼らが抱える思いを考えると複雑な気分になります。スケートアメリカで花開いた 坂本 選手を観て「よし自分たちも続くぞ」と彼らは思ったはずですが,今大会の2人からはそういう気持ちの強さが感じられず,ただただ緊張感に包まれていたように見えました。結果として,グランプリシリーズを上回る内容を示すことができませんでした。

 特に 本田 選手の心と体のコントロールが大丈夫なのか,ちょっと心配です。本田 選手のFSの演技を観ていて,逆転のためには開き直るしかない状況なのに,表現が前に出てこない感じがして,ちょっとおかしいと私は感じました。スポーツナビのコラムで 安藤美姫 さんは 本田 選手の演技について「心が離れているように感じた」と表現されていて,私の抱いた感覚はそういうことだったのかと腑に落ちました。逆転といってもほぼ不可能な状況でしたから,気持ちは全力を尽くそうと思っていても,身体が悟ってしまっていたのかもしれません。しかも,同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表の座をつかんだことで「自分にもできたはずなのに」という失意が大きくなっているかもしれません。本田 選手がメンタルダメージを負わないように,心のケアと今後に向けた動機付けに周囲が万全を期してほしいです。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,羽生結弦 選手不在でなかなかモチベーションを保つのが難しかったかもしれません。今大会でも 2A+4T(連続ジャンプ:ダブルアクセル→4回転トウループ)を試みるなど,自分に刺激を与えようとしていた気がします。ただ,五輪直前なのに,この場に及んでも何かを試している,というのはやや不安を感じます。この時期は,プログラムを固めてそれを成熟される段階だと思うからです。今大会も300点に届かず,平昌五輪が大丈夫なのか不安に感じている方もいると思いますが,ここは 宇野 選手を信じてみましょう。昨季の世界選手権の見事なピーキングを,平昌五輪でも実行してくれるはずです。

 田中刑事 選手は,実力どおりの代表入りとなりました。驚いたのは,PCS が88点も取れたことで,これは大きな自信になるでしょう。そして,田中 選手の代表入りは,羽生 選手の五輪連覇にとってかなりプラス材料になると思います。羽生 選手にとって,同期であり気心が知れた 田中 選手が近くにいてくれることで,ケガ明けの不安や連覇への重圧がかなり緩和されると思います。

 男子で最も涙を誘ったのは,山本草太 選手ですね。大けがからの復帰で,まだ難しいジャンプを入れられない状況の中,今できるベストの構成をほぼきちんとやり切りました。そして,表現面では以前よりもはるかに力強さが増していました。山本 選手は 本郷 選手と同門生ですから,彼も 長久保 コーチの退任に驚いたのではないかと思います。そういった環境変化,そしてケガ,それらを乗り越えて復帰した自分に今できる最高の演技を観ている皆さんに届けたい,そんな気持ちが強く強く表れる演技でした。多くの観客やテレビ観戦された皆さんが感涙されたと思いますが,それは単に復帰を祝しただけではなく,その強い気持ちがスケートの演技に乗って観る者の心に響いたのです。困難を乗り越え,強い気持ちと表現力を手に入れた 山本 選手の今後から目が離せません。


 全日本選手権の激闘が幕を閉じ,平昌五輪代表が決まり,年が明けるといよいよ五輪モードに突入します。選手の皆さんは,いったん緊張を解き,休息を取り,それぞれの次なる目標に備えてほしいです。今シーズンここまで,実に多くの感動がありました。選手の皆さんの素晴らしいパフォーマンスに,心から拍手を送ります。

どうなる?女子シングル五輪代表2枠

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 もうすぐ開催される全日本選手権の結果によって,平昌五輪の代表が決まります。注目はなんといっても,2枠しかない女子シングルがどうなるかでしょう。ありとあらゆるメディアで報じられていることではありますが,改めて選考基準を確認しましょう。

女子シングル選考基準
 下記①の1名。②~⑥から1名。計2名。
  ① 全日本選手権の優勝者
  ② 全日本選手権2位・3位
  ③ グランプリファイナル出場者上位2名
  ④ ワールドスタンディング上位3名
  ⑤ シーズンワールドランキング上位3名
  ⑥ シーズンベストスコア上位3名

 現時点で選考基準を満たす選手は③~⑥の該当者であり,坂本花織,樋口新葉,本郷理華,宮原知子 の各選手(五十音順)です。ここに,全日本選手権の2位と3位の選手を加えて2人目を選考することになります。

 2人目がどう選考されるかを考えてみますと,実際には,全日本選手権の2位か3位のどちらかが代表入りすることになると思います。4位以下が代表に入る可能性を考えると,以下のいずれかしかないと私は考えます。

  • [A] 上述の4選手に,白岩優奈,本田真凛,三原舞依 の各選手を加えた計7名の有力選手が誰も2位・3位に入らなかった場合
  • [B] 宮原 選手が2位と僅差で4位に入った場合
 宮原 選手は,全日本選手権を3連覇するなど過去3シーズン安定した成績を残し,今シーズンもケガ明けながら完全復調したので,2位に見劣りしない内容であれば代表入りすると思います。宮原 選手は実力も経験も,他の選手より明らかに上ですので,そのような選考をされても他の選手もみな納得するでしょう。逆に言えば,宮原 以外の選手(坂本,樋口,本郷)が4位以下になった場合,2位か3位ではなくその選手を代表入りさせるのは,選考理由が示せないと思います。樋口 選手は4位なら可能性がないとは言えませんが,大舞台に弱い上に全日本選手権でも表彰台を逃すとなれば,代表入りの理由が示しづらいでしょう。ゆえに,宮原 選手以外は,全日本選手権の表彰台が最低限の条件になると思います。

 上記[A]が現実に起こるとは思えません。そこで,全日本選手権の2位と3位から代表が決まると考えた場合に,有力7選手の組み合わせによってどのような選考が行われるかを予想してみます。2位が下表の縦軸の選手,3位が下表の横軸の選手になった場合,どちらが代表に選出されるかを私が予想した表を示します。

2位 \3位宮原樋口三原坂本本郷白岩本田
宮原知子--宮原宮原宮原宮原宮原宮原
樋口新葉宮原--樋口樋口樋口樋口樋口
三原舞依宮原??--三原三原三原三原
坂本花織宮原????--坂本坂本坂本
本郷理華宮原樋口三原??--本郷本郷
白岩優奈宮原樋口三原坂本??--白岩
本田真凛宮原樋口三原坂本??本田--

 表内の??は,どちらが選ばれるか予想がつかないことを意味します。一番悩ましいことになりそうなのは,下記の2ケースだと思います。

【2位:三原,3位:樋口

 2人ともシニアに上がって2年目。昨季の成績は 三原 が上,今季の成績は 樋口 が上ですが,以下の理由により,全日本選手権で上位になれば 三原 選手を推す意見が出そうです。

  • グランプリファイナルで 樋口 選手が(昨季の四大陸選手権と世界選手権に続き,三たび)大舞台の弱さを見せてしまった
  • 平昌五輪のリンクで開催された昨季の四大陸選手権で優勝した 三原 選手は,五輪のリンクと相性が良いと考えられる
  • 代表枠が2枠になってしまった昨季の世界選手権の成績は 三原 選手の方が上位である
  • 三原 選手の昨シーズン後半の安定感(シーズン前半よりスコアを伸ばした)

 世界選手権の成績に関しては多分に心情的な問題ですが,五輪の枠を減らす原因になった選手が五輪代表になり,3枠の可能性を残す好成績を上げた選手が代表になれないのは,なんだか腑に落ちないという声が出ても不思議ではありません。2人目は選考基準を満たした選手の中から「総合的に」判断することになっているので,上述の理由も加味されてよいことになります。一方で,樋口 選手の側に立つと,今季のハイレベルな成績は見事で,これを評価する声も当然あるでしょう。この状況では,選考する側はとても難しい判断を迫られます。

【2位:坂本,3位:三原

 同じコーチに指導を受ける同門生である2人が1つの椅子を争う状況は,胸が締め付けられる思いがいたします。しかしこれは,坂本 選手の成長によるものなので,喜ばしいことでもあります。今季の成績だけ見れば,グランプリシリーズ2戦平均スコア以外,全ての面で 坂本 選手が上回っていますので,坂本 選手が選ばれても全く異論はないところです。

 しかし 三原 選手は,昨季の五輪プレシーズンという非常に濃密な経験をしながら好成績を修めました。五輪という大きな重圧がかかる大会は,今季シニアデビューの 坂本 選手では心許なく,昨季の経験と実績がある 三原 選手の方が代表に相応しいという声が上がることと思います。先輩である 三原 選手が出場するのなら,坂本 選手としては譲りがいがあるというものでしょう。このケースも,選考する側にとってはなかなか悩ましいのではないかと思います。


 以下,代表選考に関する個人的な考えですが,シニアデビューの選手に五輪を託すのは,2枠という状況においてはあまりにも荷が重いと考えます。全日本選手権の優勝もしくは圧倒的な成績がない限り,代表に選ぶべきではないでしょう。この考えだと,樋口,本郷,三原,宮原 の各選手(五十音順)が代表候補になります。

 そして例年,代表選考においてはっきりしていないと感じるのは,代表は「好成績の選手」を選ぶのか「メダルを狙える選手」を選ぶのかという問題です。前者であれば,上述の4選手は誰でも相応しいと思いますが,後者であれば,宮原 選手以外はやや心許ない部分があると思います。その中でも,樋口 選手と 三原 選手のどちらを選ぶかとなれば,上述の理由により,個人的には 三原 選手を選ぶべきだと考えます。さて,はたして実際の選考はどうなるのでしょうか。私たちは見守るしかありません。

 ここからは,女子シングル有力選手の見どころをご紹介いたします。上表に記載した7名の有力選手を,表の記載順に紹介していきます。

宮原知子 選手】

 ケガ明けの心配はもうないと考えていいと思います。休養期間中にいろいろなものを吸収したことが奏功して,表現力に磨きがかかってきました。以前は振付の型どおりといった印象もありましたが,今季は表現したくて表現しているという雰囲気に満ち溢れています。グランプリファイナルでは,ジャンプの回転不足でスコアが伸びず5位に終わりましたが,メドベージェワ 選手(ロシア)欠場による繰り上げ出場でしたし,全日本選手権も控えていたことから,全力で臨まなかったと思われます。それでもスコアが213点でしたから,全てが完璧なら220~223点くらいは期待できると思います。

 SP(Short Program,ショートプログラム)の「SAYURI」,FS(Free Skating,フリースケーティング)の「蝶々夫人」,共に日本の凛とした女性を演じるという 宮原 選手にしか出せない世界観が素晴らしいプログラムです。ケガという辛い時期を乗り越えた 宮原 選手自身の道のりがプログラムの物語に重なって見えるのもグッとくるポイントです。初めから終わりまで,指先,目線,足先に至る全ての動きを堪能してほしいです。

 今季は,ケガ明け初戦から,NHK杯(日本大会)→アメリカ大会→ファイナル→全日本選手権 の4大会が全て中1週(2週間おき)のスケジュールなので,疲労の蓄積が全日本選手権の大事なときに出ないことを祈るばかりです。今まで3連覇していますので,五輪シーズンにこそ優勝して4連覇しなければ…という自身の内なる重圧とも戦うことになるでしょう。

 現実問題として,平昌五輪でメダル争いに自力で加われる日本選手は 宮原 選手だけです。その意味でも,全日本選手権をとにかく乗り切ってほしい,そう願う関係者は多いのではないでしょうか。

樋口新葉 選手】

 昨季の悔しさをバネにして,今季は目標だったファイナル出場を果たし,成長を見せてくれています。スケーティングに一段と力強さが増し,芸術性も増してきたことで,PCS(Program Component Score,演技構成点)の点数も上がってきました。プログラムのSP「ジプシーダンス」,FS「007・スカイフォール」共に,樋口 選手のスピード感や力強さが存分に生かされたプログラムで,十分に世界で勝負できるものになっていると思います。

 ただ,大舞台での弱さがまだ克服できていません。今季の調子ならファイナルでも表彰台が射程圏内でしたが,ミスが出てしまいました。今まで全日本選手権にはめっぽう強く,3年連続で表彰台に乗っていますが,五輪代表がかかる今年,今までと同じように良い演技ができるかどうかが問われます。

 現在の日本のフィギュアスケート界は,関西や名古屋のチームが強いですが,樋口 選手には東京代表として風穴を開けてほしい気持ちが個人的にあります。小さい身体で頑張る姿に,私はブログで時折厳しい言葉をかけてきましたが,それも心底応援していることの表れなのです。代表に選ばれた暁には,平昌五輪でこそ大舞台での弱さを克服して輝く姿を観たいと願っています。

三原舞依 選手】

 今季はグランプリシリーズ2戦とも200点を超え,シリーズ平均スコアのランキングは全選手中6位。常に完成度が高く安定感があるのが 三原 選手の最大の特徴です。特にFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の柔らかいスケーティングを生かした見事なプログラムで,三原 選手に本当によくフィットしていますので,完璧に演技できればトップスコアも期待できます。

 これだけ安定したスコアを出しながら,シリーズでは対戦カードに恵まれず2大会とも4位に終わり,ファイナルにも進出できず,世界ランキング等のポイントも伸びませんでした。そのため,冒頭の選考基準の③~⑥を満たすことができず,全日本選手権の表彰台が代表入りの絶対条件となります。本人は優勝しないと五輪に出場できない,くらいの気持ちで挑んでくると思いますが,その重圧に打ち勝つには,シリーズで完璧な演技ができなかったSP「リベルタンゴ」を完璧にできるかどうかが鍵になります。タンゴは 三原 選手の持ち味に合うとは言えないジャンルですが,最後に出場した大会から1ヶ月以上空きましたので,どこまで完成度を上げられたかに注目したいです。

 上述した 三原 選手の昨季の実績から考えると,三原 選手が平昌五輪の代表になるべきだと私は思っています。特に,昨季の四大陸選手権を優勝したことは,平昌五輪本番の会場と相性が良いという点で大きな意味があると思います。そのためにも,全日本選手権で優勝して,五輪代表の座をつかみとってほしいと切望しています。

坂本花織 選手】

 シニアデビュー組の中ではいち早くスコアを210点に乗せました。特にFS「アメリ」が秀逸なプログラムで,(アメリカ大会の感想を書いた自分のブログから引用しますが)ジャンプの質,ステップの最中にまで表現される細かいパントマイム,音楽とスケーティングの融合,全てがうまくハマったこの「アメリ」が持つ雰囲気は最高です。ジャンプの高さと幅が圧巻で,それでいて細かい表現力も持ち合わせる総合力の高さが持ち味です。また,リンク内外で明るく振る舞えることも魅力です。坂本 選手ならシニア1年目でも五輪の重圧に耐えられるかも…と思わせる雰囲気を持っている選手です。

 ただ,アメリカ大会は,前の大会から中4週空いていましたので,十分な調整ができる良いタイミングだったと言えます。他のシニアデビュー組の 本田真凛,白岩優奈 はどちらもグランプリシリーズが連闘(2週連続出場)という不利なスケジュールだったので,2戦目もスコアが伸びませんでしたが,坂本 選手と同様のスケジュールなら,彼らももっとスコアが伸びていた可能性はあります。アメリカ大会の好成績により,全日本選手権でこれを超えなければと自分自身で重圧をかけてしまう恐れもあります。

 頑張れば頑張るほど,同門生である 三原 選手と争うことになる難しさはありますが,切磋琢磨して素晴らしい演技ができれば,2人で平昌五輪出場という可能性もゼロではありません。シニア1年目での五輪出場が難しいことは選手本人が一番よくわかっていると思いますので,五輪を意識せずに無欲で臨めれば,サプライズが起きるかもしれません。

本郷理華 選手】

 初めて全日本選手権で観たとき,それまでの日本選手にはあまりいなかった,スケールの大きな演技に私は魅了され,それからずっと応援してきました。五輪プレシーズンの昨季に調子を崩し,今季少し持ち直してはいますが,調子の波が五輪にうまく合わないのは不運ですね。それでも,一昨季の活躍もあり,世界ランキング(ワールドスタンディング)は現在も9位に位置しています。特にSP「カルミナ・ブラーナ」は,日本選手では 本郷 選手にしかできないスケールの大きなプログラムで,とても見応えがあります。

 昨季,同門の先輩である 鈴木明子 さん振付のプログラムに挑戦しましたが,消化不良に陥ってしまいました。表現力やスケーティングの面でもう一段高いレベルに上る過程で壁に当たっている印象があります。また,長年指導を受けていた 長久保 コーチが突如退任する事態となり,周囲が落ち着かない状態になっているかと思います。そういった困難を乗り越え,開き直った演技ができるかが注目点です。

 本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の1人ですので,平昌五輪に出るべき存在だと思います。自身の成長より周囲のレベルアップが激しく,簡単な状況ではありませんが,4年間の集大成を魅せてほしいと願っています。

白岩優奈 選手】

 シニアデビュー組の中で個人的には一推しの選手です。演技全体に安定感があり,ふんわりした雰囲気が癒しを与えてくれるような存在で,これぞ女子スケーターという感じがします。レベル面では,他のシニアデビュー組とも対等に戦えるだけの実力を備えていますので,完璧な演技ができれば,他の選手次第で全日本選手権の表彰台も十分に可能性があります。

 ただ,坂本 選手はスケール感と明るい性格,本田 選手は芸術性とスター性という個性がはっきりしているのに対し,白岩 選手の個性はまだ前面に出てきていないかなと感じます。技術がしっかりしているので,経験を重ねれば自ずと個性がにじみ出てくるのではないかと思いますし,ちょうど北京五輪の頃に全盛期を迎えるような気がしています。

本田真凛 選手】

 グランプリシリーズは序盤の第2・3戦に割り当てられたこともあり,スコアがさほど伸びませんでしたが,ポテンシャルの高さは誰もが知るところです。また,ジュニア時代には大舞台の強さもありましたので,全日本選手権にきっちり照準を合わせてくるのではないかと思います。前の大会から1ヶ月半も空きますので,調整も十分できるでしょう。優勝だけを狙って,抜群の集中力と大舞台の強さを発揮できれば,手ごわい存在であることは確かです。

 逆に言えば,優勝以外はどの順位でも同じという考えで臨むと,1つミスが出た段階で集中力が切れ,ミスの連鎖になる可能性もあります。五輪代表争いを意識し過ぎず,とにかく最善を尽くすという無心で臨めるかどうかが鍵になるでしょう。


 ソチ五輪後を支えた 宮原,本郷。昨季シニアデビューの 樋口,三原。今季シニアデビューの 坂本,白岩,本田。これだけの逸材の中から2名しか平昌五輪に出場できないのは本当にもったいないですが,とにかく全日本選手権でベストな演技が披露され,その中から代表が選ばれてほしいと願っています。どんなドラマが生まれるか,しっかり見届けたいと思います。

三原 届かず,フェルナンデス 復調【フランス大会感想】

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 宇野昌磨 選手は,とりあえずグランプリファイナル進出を決めただけ,といった内容でしたが,大崩れはしていないので心配ないでしょう。中2週で地元・名古屋でのファイナルを迎えますが,ここは五輪本番の予行演習として本気で優勝を狙うと思います。フランス大会は,最悪でもこの程度のスコアは出るという確認ができたということではないでしょうか。

 ハビエル・フェルナンデス 選手が復活優勝を遂げました。とはいえ,FS(Free Skating,フリースケーティング)ではまだまだジャンプが揃わず,例年に比べて明らかに調整が遅れています。他の選手ならこの程度でも問題なしと言えますが,フェルナンデス 選手はシーズン前半でも大崩れしない選手だったので,五輪の表彰台に黄信号という印象は変わりません。今後の国内選手権~ヨーロッパ選手権で,どこまで整えてくるのかに注目していきたいです。

 ファイナルに出場できる可能性のある選手は,みな4位以下に沈みファイナル出場がほぼ消滅しました。期待していた ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,ジャンプがことごとく精彩を欠いた(←映像観ていませんので採点表を見た印象)ようで,シニアデビューのジャンプ構成のギャンブルが通じませんでした。チャンスが転がってきても,ファイナルに進出するのはなかなか容易ではないですね。

 三原舞依 選手は,SP(Short Program,ショートプログラム)のミスが響き,今大会も表彰台に届かず,ファイナル出場にも届きませんでした。2大会とも200点を超えたのに表彰台を逃すとは気の毒としか言いようがなく,この順位だけで不当に低い評価が与えられてしまう恐れがあることを私は危惧します。SPは 三原 選手の得意な路線とは言えないタンゴですが,かなり雰囲気ができてきましたし,FSは本人にとても合っていて,今大会でものびやかに滑っていたので,このまま細部を詰めていけば,ちょうど平昌五輪の頃に高い完成度に到達するのではないか,と期待できる内容だと思いました。

 ただ,今大会は優勝を狙っていたはずですが,技術のほかに気迫のようなものがもう少し必要だったかもしれません。SPでスピードが出過ぎてミスしてしまったせいか,FSではやや慎重な感じが見られ,PCS(Program Component Score,演技構成点)が64点にとどまりました。ジャパンオープン(10月)が70点だったことを思うと物足りません。樋口新葉 選手の気迫や,ザギトワ 選手の芯の強さのようなオーラが,グランプリシリーズの 三原 選手はやや弱かったと私は感じました。しかし,三原 選手は確かな技術や表現力で魅せていく選手であり,シーズンが進むにつれ演技が徐々に完成されていく中でそのオーラも強くなります。そのことは昨シーズンの四大陸選手権や世界選手権で証明済みです。なので,シリーズ2戦の内容で 三原 選手の力が表面的に判断されることがないよう願ってやみません。

 シリーズ2戦で 三原 選手より上位に入った 樋口,ラジオノワ,ソツコワ といった各選手は,日本やロシアという過酷な五輪代表選考争いの中で,気迫・技術の両面で強いものを持っていたことは確かだと思います。中でも今大会で2位に入った ソツコワ 選手は見事でした。正直なところ私は ソツコワ 選手は良くて3位だろうと予想していましたが,オズモンド 選手のミスを逃さず2位に食い込んでくるあたり,ロシア選手の逞しさを強く感じます。前大会のFSでいくつかあった回転不足を完全に解消し140点に乗せてきましたが,まだジャンプの着氷やつなぎの充実などに伸びしろがあります。FSのステップは,音楽に乗せて優雅に柔らかく,それでいてきっちりと1つ1つのターンを刻んでいくところが本当に素晴らしく,観ていて鳥肌が立ちましたね。

 ザギトワ 選手も,SPでつまづいたときはシニアデビューの洗礼かと思いましたが,FSは申し分ない内容であっさりと150点超え。FSの「ドン・キホーテ」は音楽が実にうまく構成されていますね。冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。プログラムがよくできているので,FSは今シーズンこのまま高い完成度を持続すると思います。

 今大会の ザギトワ,ソツコワ の両ロシア選手を観ていると「ピーキングを考えて」などと力加減に言及している自分が気恥ずかしくなってきます。おそらく彼らも100%のエネルギーでは臨んでいないはずですが,それでも高い完成度の演技を披露し,ザギトワ 選手はSPのミスをカバーすべく少しギアを上げたことで,驚異的なFSのスコアを出しました。「ノーミスというレベルではなく高い完成度を追求する」「それをシーズン前半から安定させシーズン中持続させる」という戦いをロシア女子は繰り広げており,安定感に欠ける ポゴリラヤ 選手や,わずかにミスが出た ラジオノワ 選手といった世界選手権メダリストたちが,代表争いから振り落とされそうになっています。

 スコアが拮抗している女子は特に,序盤からシーズンを通して完成度の高い演技ができるだけの技術,体力,コンディション調整力,そしてメンタルが必要な状況になっています。日本勢も十分に高い能力を持っていますが,互角に渡り合っていたのは昨季までの 宮原知子 選手くらいで,ロシア勢に比べ全ての面で少しずつ負けていて,中でも技術面は明確な差があると感じます。

 そんなロシア勢と戦う日本勢は,ここから全日本選手権と平昌五輪で100%の力を出せるようにギアを上げ,技術をはじめとするあらゆる面を高めていってほしいですね。そして,全日本選手権で疲弊することなく,その勢いを平昌五輪まで伸ばしていき,ロシア勢と素晴らしい勝負をしてほしいと思います。

フランス大会(フランス国際,グランプリシリーズ第5戦)プレビュー

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 ほとんどの選手がシリーズ2戦目になり,1戦目からどう伸びてくるか,グランプリファイナル進出がどうなるか,というところが注目点になります。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,よほどの大崩れがなければファイナル進出は間違いないので,今大会も調整の色合いが強くなるでしょう。ジャンプも 4S(4回転サルコウジャンプ)は入れず,4F,4Lo,4T(フリップ,ループ,トウループの各4回転ジャンプ)の3種類になりそうです。地元の名古屋で開催されるファイナルで,羽生結弦 選手が欠場するとなれば,堂々と優勝を狙える状況ですので,そこにピークを持ってくるため,今大会はとにかくミスなく全体を整えることを意識すると思います。トータル300点に乗せて,安定感をアピールしたいところでしょう。

 ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)は,中国大会まさかの6位でファイナルは絶望的ですが,優勝すればわずかに可能性が出てきます。とはいえ,ファイナル云々ではなく,自身の調子を上げることに尽きると思いますので,自国に近いフランスでどこまで戻せるかに注目したいです。1ミス程度で全体がうまくまとまれば復調したとみていいと思いますが,3ミス以上あるようだと五輪のメダルはかなり厳しくなるでしょう。

 今大会の男子は無風のはずが一変,ファイナル進出の鍵を握る大会になりました。アーロン(米),ビチェンコ(イスラエル),サマリン(ロシア),ヴィンセント・ジョウ(米)の各選手は,2位以内に入ればファイナル進出の可能性が出てくるので,かなり気持ちを入れて臨んでくるでしょう。中でも私は,ジョウ 選手が 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を武器に若さと勢いで上がってくると期待しています。もし ジョウ 選手がファイナルに出場することになれば,世代交代を印象付けるものになるでしょう。

◆女子シングル

 メンバー発表の時点から,このフランス大会が鍵を握ると予想していましたが,そのとおりの展開になっています。三原舞依,ザギトワ(ロシア),オズモンド(カナダ),ソツコワ(ロシア)の4選手の対戦は,今年のシリーズで最もハイレベルな戦いになると思います。三原 選手は優勝すればファイナル進出をほぼ手中にできるので,今大会に賭けていると思います。SP(Short Program,ショートプログラム)の「リベルタンゴ」がどこまで仕上がるかが注目点ですが,昨季経験したここ一番の集中力が今大会で出れば,優勝の可能性はかなりあると私は思っています。ものすごい完成度の演技が観られるのではないかとワクワクしています。

 ソツコワ 選手は2位以内ならファイナル進出確定ですが,3位だとほぼ無理なので,2位以内を狙うことになりますが,三原 選手の優勝よりも難しいミッションだと思います。ただ,カナダ大会がトータル200点に届かなかったこともあり評価があまり高くありませんが,今季のプログラムは ソツコワ 選手にピッタリはまっているので,ジャンプの回転不足が解消して完璧に演技できれば,トータル215点くらい届く力はあり,ドラマが起きるかもしれません。

 ザギトワオズモンド の両選手は3位以内でファイナル決定,4位でもほぼ大丈夫なので,大崩れさえなければファイナル進出はできます。しかし,2人とも前の大会でミスが出たので,今大会は全体をノーミスでまとめたいと考えているでしょう。2人がノーミスで演技すると,三原,ソツコワ の両選手が2人を超えるのはかなり困難でしょう。

 私は,三原,ザギトワ,オズモンド の3選手が220点近いスコアで僅差の勝負になると予想します。ソツコワ 選手も210点に届くのではないかと思います。210点で表彰台に乗れないという,とんでもなくレベルの高い大会になるのではと楽しみにしています。

樋口・三原 明暗,フェルナンデス 不調【中国大会感想】

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 男子シングルは,6強の2人,ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)を追い越して,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)が優勝をさらいました。SP(Short Program,ショートプログラム)にも入れた 4Lz(4回転ルッツジャンプ)が完璧に決まったのに加え他の要素も珠玉の出来で,スコアが100点を超えました。この貯金のおかげで,FS(Free Skating,フリースケーティング)でミスがあってもトータルでリードを守りました。

 コリヤダ 選手の 4Lz も,ジン 選手と同じように助走が少ないのに大きなジャンプで,とても見ごたえがあります。また,ジャンプのみならずスピンもステップも綺麗でありながら,振り付けに独特なものがあり,不思議な魅力がある選手です。名古屋のグランプリファイナルで生で観られる皆さんが羨ましいです。

 ジン 選手は,持ち味の4回転ジャンプが安定していませんね。2位だったのはラッキーでしたが,3A(トリプルアクセルジャンプ)が安定していたのが救いでした。男子でも意外と 3A に苦労する選手は多いので,3A が安定しているのは大崩れしにくいという点で大切です。FSで「スターウォーズ」を使うということで楽しみに観たのですが,正直なところやや期待外れという感想を持ちました。スターウォーズだとはっきりわかる音楽が最後のステップのところでやっと流れ,それまではスターウォーズらしさがあまり感じられない音楽でした。また,振り付けも音楽との一体感がさほど感じられず,このプログラムで PCS(Program Component Score,演技構成点)が伸ばせるのか,少し心配な気がします。ですが,ジャンプが全てきっちり入るとまた印象が変わるかもしれませんので,ジャンプの完成度が上がるのを待ちたいと思います。

 フェルナンデス 選手はかなり心配な状況ですね。ここ数年のグランプリシリーズでは,本調子ではなくても大ミスは少なく,表彰台どころか優勝を逃すこともまれだったので,明らかに例年より調整が遅れているようです。五輪本番はまだ先だから心配ない,と楽観することができないような状態であり,平昌五輪のメダル獲得にも黄信号が灯ったと考えざるを得ません。ファイナルで観られなくなりそうなのは残念な限りですが,その間に調子を戻すことを願っています。

 田中刑事 選手は,ケガ明けの影響はなさそうでした。SPのブルースナンバーはとてもいいですね。憂いを帯びた曲の方が,田中 選手の雰囲気に合っていると思います。FSもけっこうジャンプの抜けや転倒があった割には160点近い点数が出ているので,ベストな演技なら180点も狙えますね。代表3枠目の一番近い位置にいると言っていいと思います。

 シニアデビューで注目した ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,表彰台には乗れませんでしたが,攻めたジャンプ構成で魅せてくれました。FSでは 4Lz 2本(そのうち1本は後半)を含む3種類5本の4回転ジャンプを組み込み,さらに3連続ジャンプでは 宇野昌磨 選手と同じ,第3ジャンプに 3F(トリプルフリップジャンプ)を使うという,非常に意欲的なジャンプ構成です。4Lz は ジン 選手や コリヤダ 選手に負けない美しいジャンプで,特に着氷が綺麗ですね。ジャンプが全部揃うとかなり良いスコアが出るので,今後急成長する可能性が大いにあると思います。

 シリーズ最高の激戦となった女子シングルを制したのは アリーナ・ザギトワ 選手(ロシア)でした。SPで転倒しても優勝できるのですから,実力は本物でしょう。ジャンプを全て演技後半に入れ,3Lz+3Lo(3回転ルッツ→3回転ループの連続ジャンプ)といった超高難度ジャンプも組み込んでおり,基礎点は現役最強と思われます。私は技術力のあるスケーターが好きなんですが,ザギトワ 選手にはなぜかさほど魅かれません。FSで後半にジャンプが立て込んでいる感じに違和感を感じてしまいますね。とはいえ,シニアデビュー戦で優勝したのは見事ですし,今後の強敵になっていきそうです。

 ザギトワ 選手が転倒したことを思えば,樋口新葉 選手は今大会で彼女を破っておくべきでした。そうすればファイナル進出が確定しましたからね。でも,ほぼ完璧な演技での2位,しかもロシア大会から中1週しかなかったことを思えば,ミッションはクリアできたのではないでしょうか。今大会の演技は,すごく気持ちが乗っていたように見えました。シリーズ2試合目でプログラムが体になじんできたのでしょうね。とにかくプログラムはSP・FS共に 樋口 選手にとてもマッチしていますので,ファイナル(おそらく出場できるでしょう)や全日本選手権がすごく楽しみです。

 三原舞依 選手は不運でした。3位の ラジオノワ 選手とは1点未満の点差でしたからね。初戦の固さ(緊張よりも慎重さですね)があって,それがSPの連続ジャンプでの回転不足に出てしまった気がします。回転不足がなければ3位だったので,そこが悔やまれます。しかし,SP7位,総合4位という順位だけで 三原 選手を過小評価するようなことがあってはいけません。トータル200点超えて表彰台に乗れなかったのは 三原 選手が初めてですからね。本当なら 三原 選手が激戦を生み出すはずが,逆に激戦の犠牲者になってしまいました。SPのタンゴはまだまだ伸びしろがありますし,FSは本当に 三原 選手に合ったプログラムだということが今大会でもわかったので,次戦はかなりハイレベルなスコアになると思います。

 本田真凛 選手は,実力から考えれば2大会5位というのは上々の成績だと思います。今大会も,ファイナル進出はほぼ不可能という現実を見据えて,無理をせず演技全体を体に染み込ませていくことを意識していたように見えました。ピークを全日本選手権に持ってくればいいわけですからね。グランプリシリーズで爪痕を残したかったと思いますが,そんなに甘い世界ではないことを痛感したでしょう。こういう成績だとメディアがどう自分を扱うのかも見えてきます。チャレンジと継続性のバランス,周囲と自分のバランス,そういったものをこれからたくさん学んでいくと,本当の意味で強い選手になっていくと思います。

 中国大会は,戦前の予想どおり大激戦となりましたが,男子までこのような激戦・波乱になるとは思いませんでした。例年,ちょっとホッと一息つく大会だったのが一変,今季はグランプリシリーズの中でも大きな意味を持つ大会になるような気がします。

中国大会(中国杯,グランプリシリーズ第3戦)プレビュー

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◆男子シングル

 男子6強でシリーズに登場していない残り2人,ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が出場します。悔いの残る4位に終わったソチ五輪から4年間,フェルナンデス 選手は同門生の 羽生結弦 選手と共に男子シングルのトップスケーターに君臨し続けました。ミュージシャン・映画・演劇といったエンターテインメント系のプログラムを演じれば,圧倒的な表現力でその世界観を存分に魅せてくれます。フェルナンデス 選手は国内無敵なので国内選考に神経を使う必要がなく,例年徐々にスコアを上げていきますので,今季もグランプリシリーズは調整試合でしょう。とはいえ五輪シーズンなので,今大会の仕上がり具合で五輪への本気度がわかると思います。

 ジン 選手は,宇野昌磨 選手や ネイサン・チェン 選手(米),さらには 羽生結弦 選手をも4回転戦争に引きずり込んだ,4回転ジャンプの開拓者です。私が福岡で生観戦した4年前のグランプリファイナルのとき,ジュニアで出場した チェン 選手が4回転ジャンプに苦戦したのに対し,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4回転ジャンプを3本成功させたのが ジン 選手でした。彼の 4Lz(4回転ルッツジャンプ)は少ない助走で高さも幅もある,とても美しいジャンプで,これだけで ジン 選手を観る価値があります。しかし実際には表現力も豊かで,優しく時にコミカルな演技は,観る者に癒しを与えてくれるような気がします。どうも評価が不当に低いような気がしますが,世界選手権2年連続銅メダルが示すように大舞台に強く,ほぼ隣国で開催される五輪にうまくピーキングしてくると思います。ジン 選手も国内選考はさほど苦労しないので,今大会は調整試合ですが,自国なので気合いは入っていることでしょう。どんなプログラムでどんなジャンプ構成なのか,特にFSの「スターウォーズ」がとても楽しみです。

 田中刑事 選手ですが,ケガは問題ないと本人がコメントしていました。本当のところはともかく,どんな状況でもベストな演技を観たいですね。無良崇人 選手がもたついていますので,そういう敵の隙をきっちり突いていく図太さも求められます。

 他の選手で楽しみなのは,4Lz を習得し今季シニアデビューする ヴィンセント・ジョウ 選手(米)。今季は 羽生 選手をはじめ,4Lz を導入する選手が続出していますが,ジョウ 選手はとても質の高い 4Lz を飛ぶそうで,私はまだ観たことがないので早く観てみたいです。シニアデビューでハネる選手が出るとすれば,ジョウ 選手が筆頭候補と言えるでしょう。デビューですからエンジン全開で挑んでくると思いますので,フェルナンデス 選手と ジン 選手にどこまで迫れるか要注目です。

◆女子シングル

 シリーズ最強の対戦カードになりました。三原舞依ザギトワ(ロシア),トゥクタミシェワ(ロシア),デールマン(カナダ)の4選手が初戦を迎え,ここに早くもシリーズ2戦目となる 樋口新葉本田真凛ラジオノワ(ロシア)の3選手も登場。この7選手全員,トータル200点超え経験者(本田 選手はジュニアでの記録)というとんでもなく豪華な大会です。中国大会にこれだけ有力選手が集結したことが今までにあったでしょうか。こんなに見ごたえのある大会を,しかも時差がないのにテレビ朝日はなぜ生放送しないんだ!と思いますけどね。

 おそらく,この中から 三原,樋口,ザギトワ の3選手が表彰台に上がるでしょうが,順位がどうなるかはとても重要です。最も順位に敏感になるべきなのは 樋口 選手で,優勝ならグランプリファイナル出場がほぼ叶うと思いますが,2位だと微妙,3位だとほぼ絶望になります。ロシア大会から中1週というハードスケジュールですが,ファイナルまで中4週空きますし,移動時差も小さいので,優勝を狙って全力で臨むべきです。1度演じて注意すべきポイントもわかっているはずなので,全要素 GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)プラスの演技ができれば優勝も十分狙えます。

 三原 選手は,メドベージェワ 選手追撃の一番手になるのではないかと感じています。ジャパンオープンで観たFS(Free Skating,フリースケーティング)のプログラムは,伸びやかで清らかで,三原 選手の良い所を存分に引き出しています。プログラムが本人にとてもマッチしていて,表現力も完全にシニアレベルになっていますので,PCS(Program Component Score,演技構成点)が一気に上がっていきそうな予感がしています。今大会では着実な演技をしてトータル215点に到達できれば好スタートと言えると思いますが,シーズン序盤なので回転不足が出ないかが少し気がかりです。

 シニアデビューにして大きな注目を集めるのが,昨季ジュニアチャンピオンの ザギトワ 選手。同門生の メドベージェワ 選手と同様にジャンプの精度が高いので,安定して高得点を出せると思います。ただ,現時点では PCS がさほど高くないので,ミスが出ると意外にスコアが伸びないでしょう。ですから,三原・樋口 両選手が質の良い演技をすれば ザギトワ 選手の上に来る可能性は十分にあります。

 仲の良い トゥクタミシェワラジオノワ の2人のロシア勢がどこまで取り戻してくるのかも興味深いところですが,世界最高峰のレベルは2人の手の届かないところに行きつつある気がします。ただ,完璧な演技ができればスコアは付いてくると思いますので,2人の本気の演技を観られることを願っています。

 本田 選手はカナダ大会でシニアの厳しさを味わいました。連闘だからこそ,その悔しさを力に変えて,開き直って今までの自分を超えていくような演技ができれば,すごいことが起きるかもしれません。順位はともかく(私が勝手に設定した)超一流ラインであるトータル210点を出しておきたいところです。

 トータルスコア200点超えが,ロシア大会では3人,カナダ大会では1人でしたが,この中国大会では5~6人出る可能性があります。グランプリシリーズ序盤の緊張感も徐々に解けてくる頃なので,ハイレベルな争いを期待してよいと思います。

なぜ平昌五輪の女子は2枠なのか? 五輪でベストな演技をするには?

spnvLogo本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。過去のブログ記事から一部引用しました。


 シーズンの前哨戦が始まり,いよいよ五輪シーズンだなぁとワクワクしている方が多いのではないではないでしょうか。ただ,いざシーズンが始まってみると,シングル女子が2人しか平昌五輪に出場できない,いわゆる「女子2枠」問題が,わかっていたこととはいえ,やっぱり私たち観る側の心を締め付けてくる感じがあります。なぜ女子が2枠になってしまったのかを改めて振り返ると共に,2人の代表が五輪の大舞台でベストパフォーマンスができるにはどうすればよいのか,考えてみたいと思います。

◆ 女子が2枠になった理由

 五輪の出場人数は,直前の世界選手権の成績で決まります。各国上位2名の順位の合計が13以下ならば五輪の出場枠が3枠になります。昨季の世界選手権は,三原舞依 選手が5位,樋口新葉 選手が11位,合計で16だったため,日本の女子の出場枠が2枠になってしまったわけです。

 昨季の世界選手権を振り返ってみると,なかなかドラマティックな展開でした。三原舞依 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)で珍しくミスが出て15位と出遅れましたが,FS(Free Skating,フリースケーティング)はノーミスかつ完成度の高い演技で,一気に5位まで浮上しました。このFSは 三原 選手本人の談話のとおり,ソチ五輪の 浅田真央 選手の伝説のFSを彷彿とさせるものでした。深夜,リアルタイムで応援していた私は,三原 選手の素晴らしい演技に感涙し,197点まで伸ばしたのを見て,3枠の可能性十分にあり!と期待感を膨らませました。

 樋口新葉 選手は,結果論としてFSで1ミスまでは許される状況でした。しかし,演技の後半最初の 3Lz+3T(トリプルルッツとトリプルトウループの連続ジャンプ)の失敗(= 2Lz 単独になってしまった)と,最後にリカバーのために予定と違うジャンプに挑んだ 2A+3T(ダブルアクセルとトリプルトウループの連続ジャンプ)のセカンドジャンプの失敗によって,11位に沈みました。どちらかが成功していれば,8位に入り3枠を確保できただけに,実にもったいない結末でした。三原 選手のSP出遅れが 樋口 選手にも影響した面はあったかもしれませんが,結果論として 三原 選手の出遅れは無関係でした。三原 選手のSPが完璧だったとしても4位であり,この場合 樋口 選手は9位になる必要がありましたが,8位と9位のスコアの差はわずか0.2点しかなかったので,結局同じレベルの演技が必要だったのです。

 しかし,シニア1年目の両選手に責任を負わせるのは完全にお門違いです。こうなってしまった大きな要因は,日本のエースである 宮原知子 選手の欠場です。宮原 選手は,昨季の四大陸選手権とアジア大会が2週連続の開催であるにもかかわらず,その両方に出場を予定していましたが,これはエースに対する配慮が欠けていると言わざるを得ないものでした。例年なら四大陸選手権を回避する手もありますが,昨季の四大陸選手権は平昌五輪のリンクでの開催という重要な大会でした。ですから,アジア大会も日本開催で大事だったことはわかりますが,アジア大会には別の選手を出場させるよう調整すべきでした。宮原 選手はこの2つの大会を乗り切るため,練習過多になった可能性があります。国のトップスケーターが欠場すれば3枠が危ないのは,日本に限らずどの国も同じであり,もっともっと配慮が必要だったはずです。

 世界選手権の結果を受けて「日本女子のレベル低下」「力不足・経験不足」などと述べる関係者やマスコミがありましたが,上述からわかるようにそんなのは大嘘です。3枠を逃した原因は,トップスケーターである 宮原 選手の欠場と,ごく僅差で順位を獲れなかった不運なのです。欠場や僅差もレベル(実力)のうちだという意見もわかりますが,上述のようなコメントは全く的外れであり,選手への敬意を著しく欠いています。こういう浅薄な問題意識や,アジア大会に関する調整の問題を含めた(日本スケート連盟をはじめとする)運営側の無策が,3枠確保失敗の本質的原因ではないかと思わずにはいられません。

◆ 3枠は金メダルより重要だ

 2枠という現実をなんとか肯定的に捉えようとして「何枠でも好成績ならば良し」「厳しい戦いによりレベルが上がる」などのコメントを見かけますが,枠取りはそういうこととは別次元で考えるべき話ではないでしょうか。私が指摘するまでもないことですが,3枠を獲ることの意義として下記のようなことが挙げられるでしょう。

  • 何よりもまず,五輪や世界選手権は1人でも多くの選手が経験すべき大舞台です。
  • 同じ国でも様々なタイプの選手が演技を披露することで,フィギュアスケートの多様性や面白さが世間に伝わり,フィギュアスケートの普及や発展を促すと思うのです。
  • そして,最大の問題は2枠と3枠では選手への負担が格段に変わることです。選考の過酷さが全く違いますし,五輪本番でのプレッシャーの共有という点でも,2人より3人の方がはるかに心強いと思います。

 選手層が薄く2枠でやむを得ないという状況ならまだしも,現在の日本女子が2枠でよい理由などどこにもありません。世界が注目する五輪の場において,素晴らしい日本女子スケーターを2人しかお披露目できないのが,本当に悔しいです。今シーズンはさらに代表候補者が増えているという状況を考えると,3枠を確保することはメダルを獲ることよりもはるかに重要だったと,今更ながら思います。

 今シーズンはもうどうしようもありませんが,今後の五輪プレシーズンでは世界選手権での3枠確保を,運営側は最重要命題と考えて取り組んでほしいと思います。もちろん,毎シーズン3枠確保に尽力すべきだと思いますが,五輪を重要視しているのなら五輪プレシーズンの世界選手権だけでもあらゆる手を尽くすべきと考えます。

◆ 2枠でもベストパフォーマンスができるために

 平昌五輪は2枠という現実の中で,ベストな代表選考を行い,2人の代表選手がベストパフォーマンスができることを祈るしかありません。五輪の代表選考が熾烈を極め,国内の争いで疲弊して,平昌五輪で力を出せずに終わる…これが最悪のシナリオです。日本女子の実力ならそんなものは乗り越えられる,などという精神論はあまりにも無責任です。運営側には,五輪代表の2選手が,国内選考で疲弊することなく,五輪で最も実力を発揮できるような環境整備に本気・本腰で取り組んでもらいたい,そう強く強く願っております。

 では,実際にどんな策があるでしょうか。まず,代表選考に関して考えてみます。ここでできることは,選手の負担軽減の観点で選考基準を見直すことだと思います。現在の選考基準だと,グランプリシリーズで好成績を修めても代表が確約されないため,結局は全日本選手権が勝負どころになります。これでは,グランプリシリーズから全日本選手権までの3~4戦ずっと,例年より強い緊張感が続くことになり,シーズン前半でメンタルもフィジカルも疲弊し,平昌五輪でベストパフォーマンスを披露することは難しくなってしまうと思います。全日本選手権を乗り切れなければ五輪を乗り切れるはずがない,という意見もあるかもしれませんが,それこそ精神論です。1シーズンの中で,全日本選手権と五輪の2度のピーキングが無理であることは,過去の代表選手たちが身をもって示してくれているではありませんか。

 そこで,グランプリファイナルで所定の成績を修めた選手は,原則内定にすべきだと思います。そうすれば,その選手は全日本選手権でのピーキングを回避でき,余力を残して平昌五輪を迎えることができます。あるいは,選考基準の各要素(大会の順位や世界ランク等)をポイント化し,ポイントが最も高い人が代表になるという方法にすれば,ポイント次第では,全日本選手権で死力を尽くさなくても代表になれる状況が生じる可能性があり,これもピーキングを平昌五輪まで取っておくことにつながります。このような策は今からでも講じることが可能なものであり,運営側にぜひ考えてもらいたいところなのですが…。

 また,選手側のメンタルコントロールに関して,これはとても難しいこととは思うのですが,選手の皆さんには思い詰め過ぎないでほしいですね。もちろん,五輪出場はアスリートの大きな目標の1つとは思いますが,それを突き詰めるあまり,ケガをしたり,メンタル面で大きなダメージを負ってしまっては本末転倒です。女子選手はみな若く,宮原 選手でさえもまだ十代であり,4年後も十分にチャンスがあります。何が何でも平昌五輪出場をめざす,ではなく,無心で無理なくシーズンを戦った結果として五輪出場が舞い込む,というメンタルコントロールをしてほしいと願っています。でもこれは,あまりにも言うは易しですね…。

 続いて,代表2選手が決まった後の策について考えます。真っ先に思い付くのは平昌五輪の団体戦の戦略です。団体戦のレギュレーションがどうなるかわかりませんが,可能ならば団体戦用の第3の選手を起用すべきです。そうすれば,2選手のどちらかは団体戦に出場しなくてよくなります。そして,団体戦にも出場する選手には,個人戦にピークが来るように考えて団体戦に臨むことを公認すべきです。それを明確にしておかないと,選手はアスリートの本能で団体戦も全力で臨んでしまいます。はっきり言ってしまえば,団体戦のメダルはほぼ期待できませんので「参加することに意義がある」「団体戦は個人戦の最終調整として利用する」という割り切りが必要と思います。そういう策を打たずに建前に終始してしまえば,肝心な個人戦でのベストパフォーマンスは無理であり「二兎を追う者は一兎をも得ず」になってしまうでしょう。

 また,五輪の注目と重圧を2人で背負い込むことになりますので,それに対するメンタルコントロールが非常に重要になると考えます。そこで,代表決定直後から,例えば専属のメンタルトレーナーを付けるなど,メンタル面のサポートを実施すべきです。日本女子は,誰が選出されても五輪初出場になりますので,メンタル面の負荷が選手本人の想像を超えてくることは間違いありません。メンタルサポートの効用は多くのスポーツで実証されており,フィギュアスケートでも選手任せにせず,運営側としてできる施策を打つべきだと私は考えます。

 とまぁいろいろ書いてみましたが,所詮は個人の戯言。実現に至るとは思えないものばかり…。また,よく考えれば,これらは2枠でなくても3枠でも適用すべき方策ですね。それでも,2枠だからこそ思い切った策を講じてほしいと願わずにはいられません。1ファンである私の思いは,単純に五輪で2人しか観ることができないことがとても残念ですし,五輪出場者選考の過酷さを思うと,観るだけの側なのに胸がヒリヒリとしてきます。ライトなファンである私でさえこう思うのですから,熱心なファン,選手,運営関係者は,これからシーズンが進んでいくと,2枠という現実の重さを様々な場面で痛感することになるでしょう。何はともあれ,選手の皆さんには,負傷やメンタル疾患に陥ることなく,シーズンを通して悔いのない演技や戦いをしてほしいと願うばかりです。

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