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宇野昌磨

羽生結弦 の団体戦回避は,吉報か凶報か?

HanyuYuzuru_NHK2015 羽生結弦 選手が,平昌五輪のフィギュアスケート団体戦を回避して個人戦に専念する,との報道が入ってきました。団体戦に出場するのかしないのかは大きな注目点でしたので,それが判明したことで1つスッキリしましたね。さて,羽生 選手の団体戦の回避は,どう受け止めたらよいのでしょうか?

 これを考える上で,団体戦の主要な問題点を2点,以下に示します。

  • 団体戦の出場選手は,個人戦の出場選手が兼ねる(団体戦のみの出場は原則不可)
  • 個人戦より先に行われ,個人戦までの日程間隔が短い

 これをふまえて,羽生 選手の団体戦回避の善し悪しを考えてみます。

吉報1》 団体戦は個人戦との日程間隔が短すぎるので,団体戦出場によって疲労が残り,個人戦に支障が出る恐れがあります。団体戦を回避することは,コンディションの面では明らかにプラスです。

 ソチ五輪では,団体戦のSP(Short Program,ショートプログラム)に出場して良い演技をし,その勢いで個人戦の金メダルを獲ったと思っている方もいるかもしれませんが,そうではありません。個人戦のFS(Free Skating,フリースケーティング)ではミスを連発し,ライバルのミスによって転がり込んできた金メダルだったことを忘れてはいけません(←ソチ五輪の私のブログ記事をご参照ください)。

吉報2》 羽生 選手だけでなく,宇野昌磨 選手にとっても吉報です。羽生 選手が団体戦のSPに出場する場合,宇野 選手は①団体戦のFSに出場するか,②団体戦に出場しないかのいずれかになりますが,どちらも難しい状況がありました。

 ①の場合,SP出場より大きな負担になります。FSは滑走時間がSPより長く,さらに団体戦FSから男子シングル個人戦まで中3日しかありません。個人戦への影響は,団体戦SP出場よりもはるかに大きいのです。かといって②となると 羽生 選手が団体戦に出場して 宇野 選手が出場しないことになり「なぜ 宇野 選手を優遇するのか?」という批判の声が出る恐れがありました。

 羽生 選手の団体戦欠場により,おそらく 宇野 選手が団体戦SPに出場することになるでしょう。個人戦への影響はもちろんありますが,FSに出場するよりはずっと負担は小さいと思います。

凶報1】 羽生 選手が団体戦を欠場するということは,ケガがまだ回復し切っていないのではないかと心配してしまいます。羽生 選手は責任感が強く,団体戦のような国を背負う試合が好きでもありますので,コンディションに問題なければ団体戦に出場してくるはずだ,という見方はできます。こればかりは,実際の滑りを観るまでは何とも言えません。

凶報2】 久しぶりの実戦がいきなり五輪の舞台というぶっつけ本番になります。試合勘が大丈夫か,という心配はあるでしょう。

 11月のNHK杯の練習でケガをしましたので,実戦は10月下旬のロシア大会以来,約4ヶ月ぶりとなります。羽生 選手は今まで,シーズン途中で4ヶ月のブランクを経験したことはありません。今までにあった 羽生 選手の長めのブランクは,全日本選手権 → 世界選手権 の約3ヶ月間で,2014-15シーズンと2015-16シーズンがそうでした。両方とも,フェルナンデス 選手(スペイン)に敗れ2位になっていますが,大崩れしたスコアではありませんでした。2015-16シーズンは330点を記録したシーズンなので物足りなく感じますが,それでも295点は獲れています。このように3ヶ月間隔が空いたケースを見る限り,試合勘の問題はさほど重要視しなくてよいように思います。とはいえ,今回はケガのブランクなので,単純にそう言い切ることはできません。

 凶報ではないかという心配は尽きませんが,羽生 選手の団体戦回避は,全てが丸く収まる最善手のように思います。もし団体戦を SP:羽生,FS:宇野 で戦って,個人戦で 羽生 選手2連覇に対し 宇野 選手がメダルを逃すような事態になれば「宇野 選手を団体戦FSで使ったからメダルを逃した」という批判が出ることは避けられません。かといって,SPとFSの両方を 田中刑事 選手で乗り切るような露骨な選手温存は,他国から非難を浴びること必至です。団体戦は日本が提案して種目化されたと言われており,その日本が団体戦軽視と受け取られる行動はできないのです。

 男子シングル日本代表の選考順位は,第1代表:宇野,第2代表:田中 で,羽生 選手は特例措置による第3代表です。よって,SP:宇野,FS:田中 でも,最善の選手起用であるという説明が建前としては成り立つのです。そもそも,起用選手が 羽生 & 宇野 でも 宇野 & 田中 でも,団体戦のメダル獲得はほぼ不可能な状況なのです。よほどのハプニングがない限り,羽生 & 宇野 でも日本は4位が精一杯です。メダルの可能性がほぼない競技に世界ランク1位&2位の選手を起用し,個人戦に影響が出てしまっては愚の骨頂です。宇野 & 田中 の起用は,建前でも本音でも最善策と言えます。

 田中刑事 選手にとっても,団体戦への出場は良いモチベーションになると思います。日本の団体のメダル獲得の可能性は低いとはいえ,田中 選手の個人戦よりはずっと可能性が高いですし,もしメダル獲得のチャンスが巡ってくればFSの結果次第ということになるので,田中 選手にとっては重責を担う貴重な機会になると思います。

 逆に,もし 羽生 選手が団体戦SPに出場して成績が悪かった場合,団体戦には貢献できず,自身のスケートには悪いイメージが残ります。こうなると,調整のつもりが逆効果になりかねませんが,今回はこのリスクを避けることができたわけです。もちろん,宇野 選手がSPに出場しても同じリスクがあるのですが,宇野 選手は切り替える力が非常に高いので,団体戦でうまくいかない場合の個人戦への影響は,他の選手より小さいと思います。

 そして,羽生 選手の団体戦回避は,他の選手・陣営にいろいろ考えさせることにもなると思います。ケガの回復具合が今一つなのかと油断したり,個人戦専念は手強いと身構えたりしてくれれば,それだけで揺さぶりをかけていることになります。特に,ネイサン・チェン 選手(米)の陣営がどう動き,米国の団体戦の選手起用がどうなるかは,大いに注目したいところです。

 こうして見ていくと,羽生 選手のケガの回復具合にかかわらず,この策に行き着いたのではないかと考えることも,けして突飛なことではない気がします。実は 羽生 選手のケガが順調に回復しており,羽生 選手は団体戦に出場の意思があったものの,日本スケート連盟や オーサー コーチが説得したのだとしたら,これはなかなか強かな戦略だと思います。上述したようなロジックを,聡明な 羽生 選手ならすぐに理解するはずですから。ケガの回復具合がわからない今は,そんなふうにポジティブに捉えておいた方が,応援する側としては精神衛生上良いのではないかと思います。

 とにかく,全てが丸く収まったように私は思います。羽生・宇野 の1-2フィニッシュを予言している私としては,羽生 選手の団体戦回避によって,その確率は高まったと考えています

涙の全日本選手権

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 五輪シーズンのフィギュアスケート全日本選手権。4年に一度の五輪が絡むので,どうしても張り詰めた空気に覆われてしまいますが,今年は特にいろいろな涙に彩られた大会だった気がします。

◆女子シングル

 FS(Free Skating,フリースケーティング)を終えた後の 宮原知子 選手の涙。この4年間の日本フィギュアスケート界を支え続けたプライド,ケガ明けの不安や恐怖,それに打ち勝った安堵感,それらが凝縮された瞬間でした。無事に平昌五輪代表になった今となっては,正に怪我の功名だったと思います。様々なエピソードが報じられていますが,スケートだけでなく,リハビリでも空いた時間の活動でも,黙々としかし着実に実行していたという話を聞くと,それらの努力が全て今大会のスケートに結実したのだなと思います。

 以前から定評のあった,動作に一切の無駄がなく研ぎ澄まされた表現は,今季のスケートアメリカで神々しさをまとい始め,もう今季はこのまま平昌五輪まで突き進む,そう私は確信しました。その確信どおり,今大会ではスコアを220点に乗せ,高らかに平昌五輪のメダル争いに名乗りを上げました。このスコアでもまだ,SP(Short Program,ショートプログラム)とFSの両方でジャンプの回転不足が1ヶ所ずつあり,他のジャンプでも GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)を伸ばせる余地がありますので,技術点の上乗せだけで225点,演技全体が完璧なら PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに伸びるので,トータル230点も見えてきました。このスコアを出せば確実にメダルに手が届きます。一度は諦めかけた平昌五輪を手繰り寄せた 宮原 選手には,きっと4年間の努力に対するご褒美がある,そう信じたくなる今大会の演技,そして涙でした。

 SPで 宮原 選手をわずかに上回りトップに立った 坂本花織 選手。プログラム「月光」は今までで一番の出来でした。思いのほか高い点数が出て,キスアンドクライで「わ~」と驚きながら存分に喜ぶ姿には,観ているこちらも嬉しくなりました。しかし,急に降って湧いたSPトップで,しかもFSは最終滑走。こうなる可能性を大会前にどれほど想定していたかわかりませんが,五輪シーズンでとてつもないプレッシャーがかかったと思います。

 FSは,冒頭の連続ジャンプで,セカンドジャンプが回転不足になり詰まってしまうあたり緊張が出ていましたが,その次のジャンプが膝を柔らかく使いながらふわっと着氷したのを観て,最後までミスなくできそうな予感がしました。実際にジャンプはミスなく入れることができましたが,「アメリ」というプログラムは最初から最後までパントマイムなどの細かいつなぎが満載で,前の大会に比べつなぎの表現に余裕がないように見えました。それでも 坂本 選手はそれなりに手応えを感じ,宮原 選手に勝てないまでもある程度迫る点数を期待していたようで,キスアンドクライでスコアが出たとき,坂本 選手は「あれっ」という表情を見せていました。スコアが140点にわずかに届かなかったのは,PCS の伸び悩み,冒頭ジャンプの回転不足,3Lz(トリプルルッツジャンプ)のエッジの問題で GOE 加点なし,の3つが原因でした。それでも,伸びしろを残しながらトータル213点を出したということは,GOE で加点された要素も多くあったということであり,ものすごい重圧を思えば見事な演技だったと思います。

 今大会の演技を観た関係者は,坂本 選手の舞台度胸と五輪までの伸びしろを高く評価したのでしょう。坂本 選手に平昌五輪代表の座がめぐってきました。代表争いに関する感想は別途記事を書きたいと思いますが,今大会の演技は 坂本 選手を選びたくなるような内容だったと言えるでしょう。

 年齢制限で平昌五輪の代表争いに巻き込まれなかった 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)旋風を巻き起こしなんと表彰台に乗りました。FSだけなら 宮原 選手に次ぐ2位という堂々たる成績で,SPの 3Lz が抜けなければトータルでも2位に入っていた計算です。ジュニアグランプリファイナルに続き 3A は絶好調で,3A+3T(連続ジャンプ:トリプルアクセル→トリプルトウループ)という大技を含め,SPとFS合わせて3本の 3A に成功。しかも単なる成功ではなく3本とも極めて質の高い美しい 3A でした。

 ですが,紀平 選手は 3A だけの選手ではありません。以前のブログ記事でも書きましたが,他のジャンプ,スピン,ステップ,PCS 全てがジュニア離れしています。今回のFSでは3回転ジャンプを8本入れる「8トリプル」に挑み,ジャンプの回転は全て認定されました(1つだけ着氷が乱れたジャンプがあり,その GOE が減点評価だったので「8トリプル成功」ではありません)。代表争いをしていた有力7選手が全員FSで1ヶ所以上回転不足があったことを考えると,回転不足がなかったというのは実はすごいことです。紀平 選手の8トリプルは 3A と 3Lz(トリプルルッツジャンプ)が2本ずつ入り,今大会のFSの技術点は 79.53 点。ちなみに技術点2位は 73.90 点(三原舞依 選手,5.63 点差),グランプリファイナルのFSの技術点トップでも 76.61 点(ザギトワ 選手(ロシア),2.92 点差)なので,この技術点がいかにすごいかがわかります。また PCS も,FSではジュニアの他の選手より3点以上高い 61.76 点を獲得し,スケーティング技術や芸術性でも評価が高いです。まだ15歳で既にこの完成度なので,今後の成長で PCS がもっと上がれば,世界チャンピオンを狙える逸材です。平昌五輪後は,紀平 選手の成長を楽しみたいと思います。

 紀平 選手のFS大躍進によって,4年連続の表彰台を逃してしまったのが 樋口新葉 選手でした。昨年まで3年連続で全日本選手権の表彰台に上り,今年もうまく乗り切るかと思ったのですが,五輪代表がかかる今年は,大舞台の弱さが今大会でも出てしまいました。SPとFSでジャンプが抜けるミスが1本ずつありましたが,これら以外のジャンプはきちんと入れましたし,表現などは気持ちが入っていて PCS は割と高い点数が出ていました。ミスを引きずることなく演技全体をまとめたという点では今シーズンの成長が表れていましたし,今までならこのくらいのスコアでも表彰台に上れたと思いますが,現在の日本のレベルでは2つミスをすればこういう結果になるということでしょう。代表発表時,舞台裏では悔し涙にくれたことと思いますが,これをバネにして今後,より強くなっていくことを期待しています。

 坂本 選手の代表入りを,悔しさと喜びと入り交じりながら受け止めているのが 三原舞依 選手でしょう。私は 三原 選手の逆転代表入りを願っていましたが,SPでまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒があり,SPの段階で同門後輩の 坂本 選手とかなりの差がついたことで代表入りはほぼ絶望的になってしまいました。それでもFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の穏やかで柔らかいスケーティングが素晴らしく,140点に乗せて意地を見せてくれました。演技終了直後の涙には,FSがうまくいったからこそのSPの悔しさ,壁を越えられなかったもどかしさも含まれているように感じました。今季は安定して200点台のスコアを出しながら210点を一度も超えられず,FSも10月のジャパンオープンで出した PCS 70 点,計 142 点に届きませんでした。やはりSPの出遅れのせいか,やや慎重な部分があったようにも感じました。

 SPのプログラム「リベルタンゴ」は今大会でもミスが出て,完成に至りませんでした。三原 選手にとってはチャレンジといえるジャンルで,大丈夫か?という声はシーズン当初からありましたが,結果から判断すればこの賭けは裏目に出たと言えるでしょう。SPの演技が体に入り込む前に今大会を迎え,失敗できないという重圧から,最後のジャンプである 2A のところで綻びになってしまったという感じでしょう。三原 選手はプログラムが体に入り込んでからどんどん完成度が上がっていくタイプで,だからこそ昨季はシーズン後半に好成績を残すことができました。タンゴは 三原 選手の体に入り込むのに時間がかかってしまったのではないでしょうか。今大会はトータルスコア210点超えが2人だけと,スコアの点ではけしてハイレベルではありませんでしたから,三原 選手にも十分チャンスがあっただけに,平昌五輪代表入りを逃したのは残念でなりません。

 本郷理華 選手のSP「カルミナ・ブラーナ」は本当に素晴らしかったですね。今季やや上向いてきたとはいえ,グランプリシリーズもパッとせず,今大会に賭けてきた気持ちが伝わってきました。今までの 本郷 選手の演技は,スケールの大きな演技ができる体格や技術を持ち合わせながら,表現面ではやや凡庸な印象が拭えないところがあったのですが,今大会のSPでは表現しようという意志が観ているこちらにも強く伝わってきました。そこには,4年間日本女子を支えてきたプライド,平昌五輪への強い想い,長久保 コーチの退任など周囲の状況の変化に打ち勝つ気持ち,そういった様々なものが体現されていましたし,観ている私たちもそれを共有したからこそ,強い感動があったのだと思います。FSはベストな演技にはなりませんでしたが,転倒しても全く気持ちを切らすことなく最後まで演じ切った姿には,本郷 選手の強さの一端を観た思いがしました。今大会のような表現の強さがあれば,本郷 選手は再び全盛期を迎えることができると思います。

 本田真凛,白岩優奈 両選手は,シニアデビューの洗礼を受けてしまった,いや,自らそこにハマってしまった印象を受けました。同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表にまで上り詰めた姿を見て,彼らが抱える思いを考えると複雑な気分になります。スケートアメリカで花開いた 坂本 選手を観て「よし自分たちも続くぞ」と彼らは思ったはずですが,今大会の2人からはそういう気持ちの強さが感じられず,ただただ緊張感に包まれていたように見えました。結果として,グランプリシリーズを上回る内容を示すことができませんでした。

 特に 本田 選手の心と体のコントロールが大丈夫なのか,ちょっと心配です。本田 選手のFSの演技を観ていて,逆転のためには開き直るしかない状況なのに,表現が前に出てこない感じがして,ちょっとおかしいと私は感じました。スポーツナビのコラムで 安藤美姫 さんは 本田 選手の演技について「心が離れているように感じた」と表現されていて,私の抱いた感覚はそういうことだったのかと腑に落ちました。逆転といってもほぼ不可能な状況でしたから,気持ちは全力を尽くそうと思っていても,身体が悟ってしまっていたのかもしれません。しかも,同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表の座をつかんだことで「自分にもできたはずなのに」という失意が大きくなっているかもしれません。本田 選手がメンタルダメージを負わないように,心のケアと今後に向けた動機付けに周囲が万全を期してほしいです。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,羽生結弦 選手不在でなかなかモチベーションを保つのが難しかったかもしれません。今大会でも 2A+4T(連続ジャンプ:ダブルアクセル→4回転トウループ)を試みるなど,自分に刺激を与えようとしていた気がします。ただ,五輪直前なのに,この場に及んでも何かを試している,というのはやや不安を感じます。この時期は,プログラムを固めてそれを成熟される段階だと思うからです。今大会も300点に届かず,平昌五輪が大丈夫なのか不安に感じている方もいると思いますが,ここは 宇野 選手を信じてみましょう。昨季の世界選手権の見事なピーキングを,平昌五輪でも実行してくれるはずです。

 田中刑事 選手は,実力どおりの代表入りとなりました。驚いたのは,PCS が88点も取れたことで,これは大きな自信になるでしょう。そして,田中 選手の代表入りは,羽生 選手の五輪連覇にとってかなりプラス材料になると思います。羽生 選手にとって,同期であり気心が知れた 田中 選手が近くにいてくれることで,ケガ明けの不安や連覇への重圧がかなり緩和されると思います。

 男子で最も涙を誘ったのは,山本草太 選手ですね。大けがからの復帰で,まだ難しいジャンプを入れられない状況の中,今できるベストの構成をほぼきちんとやり切りました。そして,表現面では以前よりもはるかに力強さが増していました。山本 選手は 本郷 選手と同門生ですから,彼も 長久保 コーチの退任に驚いたのではないかと思います。そういった環境変化,そしてケガ,それらを乗り越えて復帰した自分に今できる最高の演技を観ている皆さんに届けたい,そんな気持ちが強く強く表れる演技でした。多くの観客やテレビ観戦された皆さんが感涙されたと思いますが,それは単に復帰を祝しただけではなく,その強い気持ちがスケートの演技に乗って観る者の心に響いたのです。困難を乗り越え,強い気持ちと表現力を手に入れた 山本 選手の今後から目が離せません。


 全日本選手権の激闘が幕を閉じ,平昌五輪代表が決まり,年が明けるといよいよ五輪モードに突入します。選手の皆さんは,いったん緊張を解き,休息を取り,それぞれの次なる目標に備えてほしいです。今シーズンここまで,実に多くの感動がありました。選手の皆さんの素晴らしいパフォーマンスに,心から拍手を送ります。

宇野昌磨 は大物か能天気か!?【グランプリファイナル感想(1),スポーツ雑誌風】

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 SP(Short Program,ショートプログラム)の 宇野昌磨 は,出だしからスケーティングの滑らかさと,音楽との調和が素晴らしく,3A(トリプルアクセルジャンプ)の直前までは「これは神演技になる!」というゾクゾク感に満ち満ちた演技だった。得意の 3A。着氷して成功を確信した瞬間,イーグルから股割きの形で転倒。観ているこちらが「えっ!?」と驚き,宇野 本人も苦笑いどころか照れ笑いするしかないような転倒だった。この転倒がなければSP史上最高スコアも可能だった名演技が,一転して微笑ましくなってしまうのは 宇野 の人柄のなせる業だが,勝負師という観点ではどうなのかとやや不安になる。本当の勝負どころは平昌五輪なんてことは重々承知なのだが,ファイナルという大きな大会で完璧な演技のチャンスが来たのだから,それをきっちり仕留めてほしかったとも思う。結果論だが,ここで仕留めておかなかったことが,優勝を逃す一因になったのだから。

 その点,ネイサン・チェン(米)のSPは,完璧とまでは言えないながらもノーミスできちんとまとめたのが,優勝への布石となった。シリーズ2戦に続く100点超えで安定感が出てきたSPは,チェン が音楽を見事に捉えていて,特にステップの端麗さと力強さは,これぞアメリカ選手という雰囲気にあふれていた。チェン にとっては,SPの安定感が優勝を呼び込んだということになるだろう。

 ただ,チェン はFS(Free Skating,フリースケーティング)が今季なかなか軌道に乗らず,ファイナルでもまだ軌道に乗せることができなかった。注目のジャンプ構成は,4Lo(4回転ループジャンプ)を入れた4回転5種類フルコースではなく,4Lz(4回転ルッツジャンプ)を2本入れるスコア重視の構成にトライした。4S(4回転サルコウジャンプ)が抜けて2回転になったことで,リカバーのために 3A を1本削って 4T(4回転トウループジャンプ)を飛んだ(結果はダウングレード判定)。そこまで4回転を詰めなくても…と思うが,おそらくこれは,4回転ジャンプが抜けた場合の代替策を忠実に実行した結果であろう。3A がそれほど得意ではない チェン にとっては,3A よりも 4T の方が成功確率が高く,スコアも高くなる。また,ジャンプの種類と本数の制約の問題も,2本飛ぶジャンプの種類が 3A から 4T に変わるだけなので,あれこれ考える必要がないという点でも優れた代替策だ。

 チェン の3連続ジャンプも変更された。今までは 4T+2T+2Lo(4回転トウループ→ダブルトウループ→ダブルループ)だったが,ファイナルでは 4T+1Lo+3S(4回転トウループ→シングルループ→トリプルサルコウ)を組み込んだ(結果はサードジャンプが2回転)。後者の方がスコアが高いので,これもスコア戦略の一環だろう。4Lz を2本入れることも含め,ジャンプの精度を考えながら効果的なスコア戦略を練ってきていることが分かる内容であり,単に4回転を多く入れているだけではないところがなかなか強かだ。

 チェン のスコアが伸び悩み,優勝の可能性が高かった 宇野 だったが,まさかの2位だった。わずか0.5点差であり,ミスのどれか1つでも防げていれば良かったわけで,いろいろもったいない点があったが,大きくは2点。1点目は,精度が高く安定していたはずの 4T が2本とも成功しなかったこと。他の4回転ジャンプは失敗してもやむを得ないが,4T は成功する前提でプログラムを構成しているはずなので,それが2本とも崩れてしまえば勝ち目はない。同じジャンプは少なくとも一方を連続ジャンプにしないと減点されてしまうので,4T を2本失敗したことでこの減点が適用され,さらに2本目の 4T は回転が全く足りずにダウングレード(3回転扱い)になってしまったので,それによる点数のロスも大きかった。

 2点目は,最後のジャンプを予定どおりの連続ジャンプにせず単独ジャンプにしてしまったことだ。宇野 は「キックアウトされると勘違いした」とコメントしていたが,キックアウトとは,同じ種類のジャンプを3本飛ぶと3本目の点数が加算されないルールのことである。だが,セカンドジャンプとして付ける予定だった 3T(トリプルトウループ)は1本も飛んでいなかったので,連続ジャンプにしても問題はなかった。この勘違いは 宇野 本人もわかっていて,ニュース記事などで言及されているが,実はもう1つ別の勘違いがあったのだ。それは,キックアウトで点数が入らないのは連続ジャンプの中の該当種類のジャンプだけ,というルールの誤認である。仮に 3T が3本目で0点になったとしても,ファーストジャンプの点数は残るので,キックアウトの判断に迷ったら,とりあえず連続ジャンプにしておけばよかったのだ。以前のルールでは,キックアウトは連続ジャンプ全体が0点になってしまっていたが,その後改定され,3本目になった種類のジャンプは0点だが,それ以外のジャンプの点数は残るようになった。そのことを 宇野 は忘れていて,連続ジャンプにすると丸ごと0点になる恐れがあると考えてしまい,単独ジャンプにしたのだと思う。これら2つの勘違いのうちどちらか一方でも気づいていれば連続ジャンプにできたはずで,これはとてももったいないミスであった。

 宇野 は,せっかくの地元・名古屋での開催でファイナル優勝を逃した。しかも,SPのタイムオーバーやFSの連続ジャンプ取りこぼしなど,凡ミスが勝敗を分けた結果なだけに,関係者は地団駄を踏む思いだと推察するのだが,当の 宇野 本人がなぜか悔しそうにしていない。本当は悔しくて仕方ないのにそれを見せたくなくてそう振る舞っているならよいのだが,あくまで全日本や五輪の前哨戦だから結果は気にしない,と本気で思っているとしたら少々心配になってくる。羽生結弦 不在のファイナルで優勝しても意味がない,と思っているなら結果を気にしない気持ちもわからないではないが,このファイナルは五輪直前の大会で,ましてや地元の街の開催となれば,優勝を狙わないにしても,転がってきたチャンスをモノにすれば,関係者や観客を喜ばせることができたのだから,ファイナルはもっと結果にこだわってもよかったのではないかと思う。

 しかし,宇野 がそこまで能天気とも思えないし,五輪シーズンの各大会の重要性は,五輪経験がなくてもよくわかっていると思う。考えてみれば,宇野 はシニアに上がってからの過去2シーズンでは,シーズン途中の試合の結果にはほとんど執着せず,むしろ「攻める気持ち」という言葉が頻繁に出ていたように,メンタルやプロセスにこだわっていたように思う。そんな 宇野 が,唯一結果にこだわった大会がある。世界選手権だ。一昨季は満足な演技ができず人目をはばからず涙を流し,昨季は自己ベストを30点更新して銀メダルを獲得した。これを思えば,今季も平昌五輪に照準を合わせ,ここまではどんな結果になろうと感情的にならずに冷静に受け止めようとしているのかもしれない。そうだとするなら,宇野 という選手は能天気を装ったとんでもない大物だ。昨季は,ファイナルも四大陸選手権も3位に甘んじながら,世界選手権でほぼ完璧な演技を魅せたではないか。今大会でも周囲をやや拍子抜けさせ,敵を油断させながら,平昌五輪に最高のピークで最高の成績をさらっていく … そんなシナリオが2ヶ月後に観られることを信じて,今大会の 宇野 の結果や振る舞いを受け止めたい。

グランプリファイナル プレビュー

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 シーズン前半のハイライト,グランプリファイナルの開催が迫ってきました。五輪シーズンのファイナルは,五輪直前に有力選手が一堂に会する唯一の大会なので,例年にない盛り上がりを見せます。今年は名古屋での開催ということで,テレビ観戦しやすいのも嬉しいですね。

 私はこのグランプリファイナルが,世界選手権よりも好きです。国別の人数枠がなく,最強レベルの6人が集いますし,6人なので試合時間が短いのも集中できてよいのです。振り返れば,4年前のファイナルも,今年と同じように五輪直前に日本で開催されました。私は開催地の福岡で生観戦する幸運に恵まれ,同時開催のジュニアファイナルも,またペアやアイスダンスも,もちろんエキシビションも,全ての競技を観戦しました。この観戦経験により,私のスケート観戦熱はさらに高まりました。

 4年前,私が観たかった 髙橋大輔 選手が急遽欠場となりガッカリしましたが,繰り上げ出場した 織田信成 選手が3位に入る素晴らしい内容でした。織田 選手はその2週間後の全日本選手権直後に引退されたので,福岡で観ることができたのはとても幸運でした。今年は,羽生結弦,ハビエル・フェルナンデス(スペイン)の両選手がまさかのファイナル進出ならず,さらに メドベージェワ 選手(ロシア)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)が直前で欠場となってしまいました。それでも見応えのあるメンバーが集まり,繰り上げ出場も 宮原知子 選手と ジェイソン・ブラウン 選手(米)という豪華さ。王者と女王が不在でも,生観戦される方は各選手の演技に魅了されることと思います。

◆男子シングル

 直近4回の五輪直前のファイナル優勝者を見てみると,

  • ヤグディン 選手(ロシア):2002年ソルトレーク五輪 金メダル
  • ランビエール 選手(スイス):2006年トリノ五輪 銀メダル
  • ライサチェック 選手(米):2010年バンクーバー五輪 金メダル
  • 羽生結弦 選手:2014年ソチ五輪 金メダル

というように,男子はファイナルの成績がそのまま五輪に直結しています。なので,五輪を占う意味でも注目なのですが,やはり,宇野昌磨 選手と ネイサン・チェン 選手(米)の一騎打ちと考えていいと思います。2人ともかなり本気でファイナルを勝ちに来ると私は予想します。2人は国内選手権で大崩れしなければ代表入りは確実なので,国内選手権よりもファイナルに注力することができますし,大きな国際大会で成績を上げておけば,五輪に自信を持って臨めるからです。

 勝ちたい気持ちがより強いのは,開催地の名古屋が練習拠点の 宇野昌磨 選手でしょう。自国というだけでなく自身の拠点の街で開催されることは幸運かつ貴重なことなので,否が応でも気持ちは昂るでしょう。前回のフランス大会から中2週,長距離移動も苦手な時差もなし,羽生 選手不在のため堂々と優勝が狙える,と好条件が揃っています。技術面では,FS(Free Skating,フリースケーティング)で 4S(4回転サルコウジャンプ)を加えた4回転ジャンプ4種類5本の構成が成功するかどうかが注目点です。SP(Short Program,ショートプログラム)もFSも完璧なら 羽生 選手の歴代最高得点超えが観られるかもしれません。

 一方,前回のアメリカ大会から中1週の チェン 選手は,長距離移動もありタイトなスケジュールですが,次の全米選手権まで中3週あるので,ファイナルは全力で臨めるでしょう。シリーズ2戦共にトータル300点に届かなかったことと,アメリカ大会で高難度構成を実施できなかったことから考えると,五輪で実施したい構成の最終案をファイナルで試すと考えられます。個人的には,FSで4回転ジャンプ5種類を見たいところですが,4Lo(4回転ループジャンプ)が安定しないようで,試合で使えるめどが立たなければ 4Lo をあきらめ,4Lz を2本入れる構成にする可能性もあると思います。スコア戦略で見れば 4Lz 2本の方が脅威ですから,どちらの構成にするか,あるいはさらに違う構成にするのか,これが最大の注目点でしょう。

 2人の勝負は,全て成功なら 宇野 選手が5~10点リードする力を持っていますので,1ミス差までなら 宇野 選手,2ミス差以上だと チェン 選手が勝つだろうと思います。シリーズ2戦とは打って変わって,完成度がかなり高い演技になると予想します。

 銅メダルは,普通に演技できれば コリヤダ 選手(ロシア)だと思いますが,ミスがいくつか出ると,ジャンプが非常に安定している ボロノフ 選手(ロシア)がさらっていくでしょう。また,リッポン,ブラウン の両アメリカ勢も虎視眈々と表彰台を狙っているでしょう。特に,ブラウン 選手が完璧ならどこまでスコアが伸びるのかを観てみたいです。

◆女子シングル

 絶対女王 メドベージェワ 選手(ロシア)の欠場によって,出場者全員に優勝のチャンスがあります。グランプリシリーズのベストスコアは,出場6選手が7.2点差の中にひしめき合い,ソツコワ 選手(ロシア)以外の5選手はわずか3.5点差の中に入っているのです。これはもうほぼ横一線といっていい状況であり,演技個々の要素の完成度とプログラム全体の質,すなわち GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)が勝敗を分けることになるでしょう。

 私は 宮原知子 選手が他の選手をわずかにかわして優勝するのではないかと予想します。アメリカ大会の完全復活で,全ての不安が期待に変わりました。アメリカ大会にかなりエネルギーを使いましたので,急遽出場となったファイナルにうまく調整できるのかという声がありますが,アメリカ大会の出来が大いなる自信になり,根詰めて練習しなくても状態をキープできることがわかった 宮原 選手は,フルパワーを出さなくてもかなり高い完成度を発揮する,言わば「勢いで乗り切る」感じになると私は見ています。アメリカ大会から全日本選手権まで,ゾーンに入りっぱなしの 宮原 選手が観られることを期待しましょう。

 宮原 選手が出場してくれることで,気持ちが楽になるのが 樋口新葉 選手です。開催国唯一の女子シングル選手という立場から解放されるので,思い切って演技ができると思います。シリーズ2戦に匹敵するかそれ以上の好成績を,ファイナルと全日本選手権でも残せるかが注目点ですが,まずはファイナルで,ミスなく GOE である程度加点が付くような良い演技をして表彰台に乗りたいでしょう。完璧な演技ができれば優勝も射程圏内です。表彰台に乗るか,213点以上のスコアを出せば,代表の座がかなり近づくと思います。

 強敵となるのは,ザギトワ 選手(ロシア)です。SPとFSが両方綺麗に演技できれば間違いなく優勝ですが,シリーズ2戦ではミスがあったりジャンプの着氷がやや乱れたりしていました。観客満杯で五輪直前の熱気に包まれる大舞台の雰囲気は,シリーズ2戦とは全く違うものであり,シニアで初めて味わう雰囲気の中で高い技術力を発揮するのか,雰囲気に気圧されてしまうのか,大舞台での強さが問われる大会になります。日本選手と同じように年内に国内選手権がありますので,このファイナルをどんな形で乗り切るのかも重要になってくると思います。表彰台に乗れば,彼女もまた代表入りが大きく近づくでしょう(IOC のロシア出場禁止決定で,フィギュアスケート選手がどうなるのかは気がかりですね…)。

 もう一人の強敵は,コストナー 選手(イタリア)ですね。10代全盛の女子シングル界において,30歳でファイナルに出場する力量を維持しているのがもうすごいです。今季のプログラムは彼女史上最も自身に合ったプログラムだと思いますし,スコアも付いてきています。見どころはやはりスケーティングでしょう。一蹴りでスーッと伸びていくムダのないスケーティングは圧倒的です。順位など気にならない存在ですが,そういうコメントが失礼になるほど,優勝争いを左右する一人になることは間違いありません。

 昨季に続いてのファイナル出場となる オズモンド(カナダ),ソツコワ(ロシア)両選手は出来・不出来の波がありますが,その差が以前よりずっと小さくなってきて安定感が出てきました。出来が良ければ表彰台や優勝争いに絡んでくるでしょう。とにかく6選手の実力が拮抗しているので,どんな順位になっても全く不思議ではありません。

 この6選手のプログラムは,選手自身によく合った素晴らしいものになっています。凛とした 宮原 選手,強さと速さの 樋口 選手,キビキビした ザギトワ 選手,しっとりと魅せる コストナー 選手,華やかな オズモンド 選手,可憐で優雅な ソツコワ 選手。実に六者六様で,フィギュアスケートの多様性を存分に感じられると思います。

◆アイスダンス,ジュニアファイナル女子シングルも注目

 これらは地上波では放送されませんが,BSでは観ることができると思います。アイスダンスは,私が大好きな生ける伝説の テッサ・ヴァーチュー & スコット・モイヤー 組(カナダ)と,若いのに妖艶な雰囲気がすごすぎる ガブリエラ・パパダキス & ギヨーム・シゼロン 組(フランス)の直接対決が,とんでもなくハイレベルな戦いになり,そこに日本人血筋の兄妹である シブタニ 組(米)がどこまで食い下がるか,という展開になると思います。

 グランプリファイナルは,ジュニアのファイナルが併催されるのが独特で,将来の名選手を先取りできる楽しみがあります。私が4年前に福岡で観戦したときは,田中刑事,ボーヤン・ジン,ネイサン・チェン,メドベージェワ,ソツコワ といった選手がジュニアファイナルに出場していて,彼らはとても印象に残りました。

 今年のジュニアファイナルは,女子の 紀平梨花 選手が,他の5選手がみなロシア勢の中一人で立ち向かいます。彼女は先日の国内大会で,FSで 3A(トリプルアクセルジャンプ)を2本決め,しかも 3A+3T+2T(トリプルアクセル→トリプルトウループ→ダブルトウループ)の3連続ジャンプという大技に成功しました。3A からの3連続ジャンプは 浅田真央 さんも飛んだことがないすごいジャンプで,これを国際大会で決めれば史上初となりますので,このジャンプを決めて表彰台に乗れるかどうかに注目したいと思います。

三原 届かず,フェルナンデス 復調【フランス大会感想】

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 宇野昌磨 選手は,とりあえずグランプリファイナル進出を決めただけ,といった内容でしたが,大崩れはしていないので心配ないでしょう。中2週で地元・名古屋でのファイナルを迎えますが,ここは五輪本番の予行演習として本気で優勝を狙うと思います。フランス大会は,最悪でもこの程度のスコアは出るという確認ができたということではないでしょうか。

 ハビエル・フェルナンデス 選手が復活優勝を遂げました。とはいえ,FS(Free Skating,フリースケーティング)ではまだまだジャンプが揃わず,例年に比べて明らかに調整が遅れています。他の選手ならこの程度でも問題なしと言えますが,フェルナンデス 選手はシーズン前半でも大崩れしない選手だったので,五輪の表彰台に黄信号という印象は変わりません。今後の国内選手権~ヨーロッパ選手権で,どこまで整えてくるのかに注目していきたいです。

 ファイナルに出場できる可能性のある選手は,みな4位以下に沈みファイナル出場がほぼ消滅しました。期待していた ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,ジャンプがことごとく精彩を欠いた(←映像観ていませんので採点表を見た印象)ようで,シニアデビューのジャンプ構成のギャンブルが通じませんでした。チャンスが転がってきても,ファイナルに進出するのはなかなか容易ではないですね。

 三原舞依 選手は,SP(Short Program,ショートプログラム)のミスが響き,今大会も表彰台に届かず,ファイナル出場にも届きませんでした。2大会とも200点を超えたのに表彰台を逃すとは気の毒としか言いようがなく,この順位だけで不当に低い評価が与えられてしまう恐れがあることを私は危惧します。SPは 三原 選手の得意な路線とは言えないタンゴですが,かなり雰囲気ができてきましたし,FSは本人にとても合っていて,今大会でものびやかに滑っていたので,このまま細部を詰めていけば,ちょうど平昌五輪の頃に高い完成度に到達するのではないか,と期待できる内容だと思いました。

 ただ,今大会は優勝を狙っていたはずですが,技術のほかに気迫のようなものがもう少し必要だったかもしれません。SPでスピードが出過ぎてミスしてしまったせいか,FSではやや慎重な感じが見られ,PCS(Program Component Score,演技構成点)が64点にとどまりました。ジャパンオープン(10月)が70点だったことを思うと物足りません。樋口新葉 選手の気迫や,ザギトワ 選手の芯の強さのようなオーラが,グランプリシリーズの 三原 選手はやや弱かったと私は感じました。しかし,三原 選手は確かな技術や表現力で魅せていく選手であり,シーズンが進むにつれ演技が徐々に完成されていく中でそのオーラも強くなります。そのことは昨シーズンの四大陸選手権や世界選手権で証明済みです。なので,シリーズ2戦の内容で 三原 選手の力が表面的に判断されることがないよう願ってやみません。

 シリーズ2戦で 三原 選手より上位に入った 樋口,ラジオノワ,ソツコワ といった各選手は,日本やロシアという過酷な五輪代表選考争いの中で,気迫・技術の両面で強いものを持っていたことは確かだと思います。中でも今大会で2位に入った ソツコワ 選手は見事でした。正直なところ私は ソツコワ 選手は良くて3位だろうと予想していましたが,オズモンド 選手のミスを逃さず2位に食い込んでくるあたり,ロシア選手の逞しさを強く感じます。前大会のFSでいくつかあった回転不足を完全に解消し140点に乗せてきましたが,まだジャンプの着氷やつなぎの充実などに伸びしろがあります。FSのステップは,音楽に乗せて優雅に柔らかく,それでいてきっちりと1つ1つのターンを刻んでいくところが本当に素晴らしく,観ていて鳥肌が立ちましたね。

 ザギトワ 選手も,SPでつまづいたときはシニアデビューの洗礼かと思いましたが,FSは申し分ない内容であっさりと150点超え。FSの「ドン・キホーテ」は音楽が実にうまく構成されていますね。冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。プログラムがよくできているので,FSは今シーズンこのまま高い完成度を持続すると思います。

 今大会の ザギトワ,ソツコワ の両ロシア選手を観ていると「ピーキングを考えて」などと力加減に言及している自分が気恥ずかしくなってきます。おそらく彼らも100%のエネルギーでは臨んでいないはずですが,それでも高い完成度の演技を披露し,ザギトワ 選手はSPのミスをカバーすべく少しギアを上げたことで,驚異的なFSのスコアを出しました。「ノーミスというレベルではなく高い完成度を追求する」「それをシーズン前半から安定させシーズン中持続させる」という戦いをロシア女子は繰り広げており,安定感に欠ける ポゴリラヤ 選手や,わずかにミスが出た ラジオノワ 選手といった世界選手権メダリストたちが,代表争いから振り落とされそうになっています。

 スコアが拮抗している女子は特に,序盤からシーズンを通して完成度の高い演技ができるだけの技術,体力,コンディション調整力,そしてメンタルが必要な状況になっています。日本勢も十分に高い能力を持っていますが,互角に渡り合っていたのは昨季までの 宮原知子 選手くらいで,ロシア勢に比べ全ての面で少しずつ負けていて,中でも技術面は明確な差があると感じます。

 そんなロシア勢と戦う日本勢は,ここから全日本選手権と平昌五輪で100%の力を出せるようにギアを上げ,技術をはじめとするあらゆる面を高めていってほしいですね。そして,全日本選手権で疲弊することなく,その勢いを平昌五輪まで伸ばしていき,ロシア勢と素晴らしい勝負をしてほしいと思います。

フランス大会(フランス国際,グランプリシリーズ第5戦)プレビュー

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 ほとんどの選手がシリーズ2戦目になり,1戦目からどう伸びてくるか,グランプリファイナル進出がどうなるか,というところが注目点になります。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,よほどの大崩れがなければファイナル進出は間違いないので,今大会も調整の色合いが強くなるでしょう。ジャンプも 4S(4回転サルコウジャンプ)は入れず,4F,4Lo,4T(フリップ,ループ,トウループの各4回転ジャンプ)の3種類になりそうです。地元の名古屋で開催されるファイナルで,羽生結弦 選手が欠場するとなれば,堂々と優勝を狙える状況ですので,そこにピークを持ってくるため,今大会はとにかくミスなく全体を整えることを意識すると思います。トータル300点に乗せて,安定感をアピールしたいところでしょう。

 ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)は,中国大会まさかの6位でファイナルは絶望的ですが,優勝すればわずかに可能性が出てきます。とはいえ,ファイナル云々ではなく,自身の調子を上げることに尽きると思いますので,自国に近いフランスでどこまで戻せるかに注目したいです。1ミス程度で全体がうまくまとまれば復調したとみていいと思いますが,3ミス以上あるようだと五輪のメダルはかなり厳しくなるでしょう。

 今大会の男子は無風のはずが一変,ファイナル進出の鍵を握る大会になりました。アーロン(米),ビチェンコ(イスラエル),サマリン(ロシア),ヴィンセント・ジョウ(米)の各選手は,2位以内に入ればファイナル進出の可能性が出てくるので,かなり気持ちを入れて臨んでくるでしょう。中でも私は,ジョウ 選手が 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を武器に若さと勢いで上がってくると期待しています。もし ジョウ 選手がファイナルに出場することになれば,世代交代を印象付けるものになるでしょう。

◆女子シングル

 メンバー発表の時点から,このフランス大会が鍵を握ると予想していましたが,そのとおりの展開になっています。三原舞依,ザギトワ(ロシア),オズモンド(カナダ),ソツコワ(ロシア)の4選手の対戦は,今年のシリーズで最もハイレベルな戦いになると思います。三原 選手は優勝すればファイナル進出をほぼ手中にできるので,今大会に賭けていると思います。SP(Short Program,ショートプログラム)の「リベルタンゴ」がどこまで仕上がるかが注目点ですが,昨季経験したここ一番の集中力が今大会で出れば,優勝の可能性はかなりあると私は思っています。ものすごい完成度の演技が観られるのではないかとワクワクしています。

 ソツコワ 選手は2位以内ならファイナル進出確定ですが,3位だとほぼ無理なので,2位以内を狙うことになりますが,三原 選手の優勝よりも難しいミッションだと思います。ただ,カナダ大会がトータル200点に届かなかったこともあり評価があまり高くありませんが,今季のプログラムは ソツコワ 選手にピッタリはまっているので,ジャンプの回転不足が解消して完璧に演技できれば,トータル215点くらい届く力はあり,ドラマが起きるかもしれません。

 ザギトワオズモンド の両選手は3位以内でファイナル決定,4位でもほぼ大丈夫なので,大崩れさえなければファイナル進出はできます。しかし,2人とも前の大会でミスが出たので,今大会は全体をノーミスでまとめたいと考えているでしょう。2人がノーミスで演技すると,三原,ソツコワ の両選手が2人を超えるのはかなり困難でしょう。

 私は,三原,ザギトワ,オズモンド の3選手が220点近いスコアで僅差の勝負になると予想します。ソツコワ 選手も210点に届くのではないかと思います。210点で表彰台に乗れないという,とんでもなくレベルの高い大会になるのではと楽しみにしています。

宇野昌磨 余裕,本田真凛 取りこぼし【カナダ大会感想】

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 宇野昌磨 選手の余裕がとても印象に残りました。6分間練習でなんでもないところでバタッと転倒したのを笑って受け流し,ジャンプの難度を落としたFS(Free Skating,フリースケーティング)の 3Lo(トリプルループジャンプ)でもたついても笑顔。4回転4本がきっちりとは入りませんでしたが,肝心の 4Lo(4回転ループジャンプ)や 3A+1Lo+3F(トリプルアクセル→シングルループ→トリプルサルコウの3連続ジャンプ)を綺麗に決め,PCS(Program Component Score,演技構成点)も90点超え。終わってみればトータル300点に届き余裕の優勝でした。本大会は,難度を落として全体の完成度を高めることに主眼を置き,確実に優勝するという作戦を無事に遂行しました。これで,次のフランス大会はもう少し,宇野 選手がよく言う「攻める」演技にトライできるでしょう。とにかく五輪シーズンとは思えないほど余裕を感じますし,順調な調整ができていると思います。

 パトリック・チャン 選手(カナダ)は珍しく大崩れしました。いつもカナダ大会はシーズン序盤相応に仕上げてきていたので,少し心配な状況です。FSの曲「ハレルヤ」は,チャン 選手でなくても他の選手でも良い曲という印象。もっと チャン 選手ならでは,というプログラムを観たいと感じましたね。

 代わりに ジェイソン・ブラウン 選手(米)が2位に入りました。6強の一角を崩し,グランプリファイナル出場にグッと近づきました。FS冒頭の 4T(4回転トウループジャンプ)を見る限り,もう4回転は捨てて全体の完成度を徹底的に高める戦略でいくべきなんじゃないかと思います。4回転なしのFSで190点を狙えるのは ブラウン 選手だけですからね。

 本田真凛 選手は,結果から見ればもったいなかったです。SP(Short Program,ショートプログラム)の失敗がなければ2位に入れましたからね。でも,最初から順調で肝心なときに落とし穴に遭うよりは良かったと考えるべきでしょう。SP失敗から切り替えてFSをまとめるという経験はできましたが,なぜSPは失敗してFSは乗り切れたのか,きちんと検証できるのか少し心配です。それはSP直後に発した言葉から感じました。

「今回はすごく練習したつもりだったけど、まだまだ甘かったのかなと思う」

 結果が出てから「甘かった」と言っています。これは,甘さの残る練習をやっていたことの表れですし,もし今回が良い結果だったらその甘い練習のまま今後を過ごすことになったでしょう。結果を練習の質に結びつけてしまう考え方は危険で,練習の臨み方や結果の検証の仕方をきちんと身に付けておかないと,結果オーライの考え方がしみついてしまいます。本田 選手がこの罠にハマらないようにコーチ陣が導かなければなりませんが,注目度の高い選手なのでコーチ陣も大変でしょうね。

 本郷理華 選手は,全盛期には及ばないものの,かなり調子が戻ってきたのが嬉しいですね。プログラムはとても良いものに巡り合えたと思うので,あとは回転不足を解消して,全体の完成度を上げていき,全日本選手権で勝負をかけてほしいです。

 ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)がきっちり自国大会の優勝を果たしました。昨季の世界選手権銀メダルで得た自信は本物ではないかと思います。PCS もほぼ9割(SP 36点,FS 72点)を取り安定しています。FSの曲「ブラックスワン」は,オズモンド 選手ならではとまでは言えずもっと合う曲があるとは思いますが,華やかなブラックスワンというのは独特な感じで,どう仕上がっていくか興味深いです。

 ロシア勢は明暗が分かれました。マリア・ソツコワ 選手は,昨季のジュニア上がりっぽい表現の拙さがなくなり,表現力が格段に上がりましたね。それは PCS がFSで8割(64点)を超えてきたことに現れています。ソツコワ 選手はジャンプ技術も高く,3Lz(3回転ルッツジャンプ)と 3F(3回転フリップジャンプ)をFSで2本ずつ入れているのは彼女くらいだと思います。今大会のFSは回転不足でスコアが伸びませんでしたが,とにかくプログラムが ソツコワ 選手にとてもよくマッチしたものになっていますので,ジャンプがきちんと入れば,トータル210点超えができると思います。

 一方,アンナ・ポゴリラヤ 選手は,年に1~2回あるFSの大崩れがまた出てしまいました。「ブラックスワン」の演目が オズモンド 選手と丸かぶりで,オズモンド 選手よりは合っていると思うものの,ポゴリラヤ 選手にはもっと壮大なスケールの演目が似合うと思います。それにしても,スコアに安定感がないと,大激戦のロシア代表入りはなかなか難しいでしょうね。稀有な雰囲気を持つスケーターなので,今後巻き返してほしいです。

 実力者が力を出し切れない状況の中,ベストとは言えないまでもきっちりまとめてきた アシュリー・ワグナー 選手(米)が3位に入りました。SP,FS共に過去に演じた代表作の再演で,SPはダンサブル,FSはきらびやかで,本当に素晴らしい演目です。ワグナー 選手もスコア度外視でよい選手の一人ですが,他の選手にミスが出ると表彰台にきっちり上がるのはさすがです。

 今大会の女子は,好不調で言えば不調の方にやや倒れた形になり,スコアのレベルは オズモンド 選手以外は平凡でした。ロシア大会で5位だった 坂本花織 選手のスコアはカナダ大会では2位ですからね。グランプリファイナルは各大会の順位によって決定されるので,こういう対戦のアヤに左右されます。五輪シーズンなので,シーズン序盤でももう少しレベルの高い戦いを観たかったところではありますが,五輪シーズンの緊張感や調整の難しさを改めて感じさせてくれたカナダ大会でした。

カナダ大会(スケートカナダ,グランプリシリーズ第2戦)プレビュー【スポーツ雑誌風】

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 例年だと,カナダを練習拠点にしている 羽生結弦 選手の初戦として盛り上がるが,今年 羽生 選手は本大会不参加。では平穏な大会なのか…といえばさにあらず。日本の主力選手参戦や,参加選手の豪華さで,盛り上がること間違いなしの大会になりそうだ。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手が初戦を迎える。前哨戦で自己ベスト更新というロケットスタートを見せており,今大会は結果よりも内容重視で臨むだろう。前哨戦では 4S(4回転サルコウジャンプ)を新たに加え,4回転は F,Lo,S,T(フリップ,ループ,サルコウ,トウループ)の4種類となった。この構成を固めるのか,それとも練習中という 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を試すのか,今大会はトライする余裕がある状況なので,どうするのか気になるところだ。

 FS(Free Skating,フリースケーティング)は得意のフリップジャンプを前面に押し出した構成になっている。4F(4回転フリップジャンプ)を演技後半に飛ぶのは 宇野 選手の自信の表れだ。また,3連続ジャンプでよく使われるのは +1Lo+3S という,第3ジャンプがサルコウジャンプになるものだが,宇野 選手は第3ジャンプにフリップジャンプを持ってきて +1Lo+3F という構成にしている。これも有力選手では 宇野 選手しか入れていない稀有な連続ジャンプで,しかも演技後半に入れているのだ。さらに 4T(4回転トウループジャンプ)2本も後半に入るので,後半4回転3本に3連続ジャンプもあるハイレベルな構成だ。本大会では,ジャンプが全部入るか,演技全体の完成度がどこまで高まるかに注目したい。

 無良崇人 選手は,普通に実力を出せれば間違いなく日本男子代表の3枠目に入れるはずだが,ここぞという場面での勝負弱さと,田中刑事 選手の成長によって,全く安泰とは言えない状況にある。アイスダンスのソチ五輪金メダリスト ホワイト 選手(米)の指導を受け,スケーティングや表現力が格段に上がった今,ジャンプの精度が上がれば代表入りはもちろん,五輪での入賞(8位以内)も可能な力がある。五輪シーズンのグランプリシリーズ2戦は,全日本選手権前の試合勘を作るという意味で重要であり,今大会でぜひ完成度の高い演技を魅せてほしい。高さのあるダイナミックな 3A(トリプルアクセルジャンプ)は必見だ。

 宇野 選手と優勝を争うのは,自国参加の パトリック・チャン 選手(カナダ)。例年このカナダ大会は強いので,今回も強さと美しさを兼ね備えた見事なスケーティングを魅せてくれるだろう。ただし チャン 選手のミスが多かった場合,ジェイソン・ブラウン 選手(米)が割って入ってくる可能性がある。ブラウン 選手は4回転ジャンプの習得が遅れたが,完成度の高さで十分に勝負できるので,シーズン序盤にどこまで仕上がっているか楽しみにしたい。

◆女子シングル

 本田真凛 選手がいよいよシニアのグランプリシリーズデビューを迎える。マスコミが盛り上げてくれるので私は静かに見守りたいが,実力的には表彰台に上れたら上出来といったところであり,結果が伴わなくてもガッカリしてはいけない。本田 選手は連闘(2週連続出場)だが,次の中国大会は大激戦必至なので,グランプリファイナル出場を狙うには,今大会で優勝か2位を獲っておきたい。本田 選手が自己ベストで210点超えの演技ができれば,不可能なミッションではない。本当に優勝するようなことになれば,一気に国内は盛り上がるだろう。

 注目点は,急遽変更したSP(Short Program,ショートプログラム)だろう。先日のジャパンオープンのエキシビションで披露されたが,競技会では初めての演技となるからだ。本人が音楽を絶賛し,曲目をしばらく明かさないなど,話題作りにはなったが,プログラムを観た個人的な感想は,ハードルを上げられた分だけ期待値相応という印象になってしまった。しかし,選手本人が惚れ込んでいるのは演技には確実にプラスになるので,高い完成度ならばSPでトップに立てるスコアが出ることも期待できる。

 日本からもう一人,本郷理華 選手が出場する。本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の一人で,五輪に出場してほしいと思うのだが,昨季の不調と周囲の成長で一転して厳しい立場に置かれている。だが,本来はジャンプが安定していて好不調の波が小さい選手なので,今季再び覚醒すれば十分にチャンスが出てくる。日本選手には少ない,スケール感のある演技ができる選手なので,今大会でベストな演技を魅せてくれることを期待したい。

 他国の優勝候補筆頭は,ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)。昨季,華麗なる復活を遂げ,世界選手権で銀メダルを獲り,いい流れで今季を迎える。品の良さとスピード感を併せ持つ演技が持ち味で,自国大会は負けられないと意気込んでくるだろう。ロシア勢の マリア・ソツコワアンナ・ポゴリラヤ の両選手も優勝争いに加わる可能性が高い。ソツコワ 選手は可憐なのにダイナミック,ポゴリラヤ 選手はモデルばりのスタイルと雰囲気をたたえドラマティックな演技が特徴。2人とも自分に合ったプログラムを手に入れたかが鍵。米国2強の カレン・チェンアシュリー・ワグナー の両選手も参戦する。チェン 選手は昨季覚醒したが,今季は米国トップを守る立場でどうなるか。ワグナー 選手は例年グランプリシリーズに強く,有力選手が隙を見せると上位を奪うだろう。

 以上で挙げた7選手は皆,表彰台に上がれる実力があるが,今後の中国大会やフランス大会ほどハイレベルな大会とは言えない。なぜなら,この7選手は好不調の波が大きかったり,シーズンにより好不調の差があったりするからだ。だからこそ,今大会は誰もが優勝を狙える大会であり,その点で考えればシリーズ一番の激戦になる予感がする。

宇野昌磨:昨季の驚異的な活躍と,今季の華麗なる賭け

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 昨シーズンの活躍によって,平昌五輪の主役に躍り出た感のある 宇野昌磨 選手。えっ,主役は 羽生結弦 選手ではないのかって? もちろん,世間の注目は否応なく 羽生 選手に集まるでしょうが,五輪が終わる頃には 宇野 選手が本当の主役になっている可能性がかなり高いのです。私がそう考える理由を,昨季の驚異的な内容と,今季の立ち位置という観点で考察してみます。

◆ 怒涛の昨シーズンを振り返る

 昨季の世界選手権の演技は実に安定していました。SP(Short Program,ショートプログラム)が 104.86 点で2位,FS(Free Skating,フリースケーティング)も 214.45 点で2位,合計点 319.31 点も2位。FSの 210 点台達成は 羽生,フェルナンデス(スペイン)両選手に続く3人目,合計の 319 点台は フェルナンデス 選手を超え,この上は 羽生 選手しかいません。この大会で,

  • 転倒なく着氷した4回転ジャンプが,SPとFS合わせて6本
  • PCS(Program Component Score,演技構成点)が,SPとFS共に満点の90%(SP:45点,FS:90点)を超える

2つを同時に達成したのは 宇野 選手だけであり,技術面と芸術面の両方が極めて高いレベルで両立していたことを示す結果でした。FSの 3Lz(トリプルルッツジャンプ)で着氷の乱れがなければ,初めて 羽生 選手に勝って優勝していたという点ではもったいなかったですが,あと一歩のところまで追いつめた2位というのは,宇野 選手にとって(そして 羽生 選手にとっても)最高の結果だったと言っていいでしょう。羽生 選手を立てつつ,悔しさと満足感が両立するというあたりが 宇野 選手らしい結果だなと思います。

 好成績を残した1つの要因は,尋常でないメンタルの強さではないかと思います。フィギュアスケーターは,自分の演技を行うまで音楽を聞いたりして自分の世界に入り込み,他人の演技を見ないのが普通のようですが,宇野 選手は違います。今回の世界選手権では,以下のようなコメントを残しています。

「他の選手の演技を見ないようにしようとかではなくて,逆に見たいんです。それが自分の演技に影響するとは思わないし,うまい選手の演技は見たいと思うじゃないですか」

 こんなコメント,今まで聞いたことがありません。これは,自分への自信に加え,自分や大会の雰囲気を客観視できているんだと思います。この境地に達するのは並大抵ではなく,弱冠19歳にしてこのメンタルコントロールを体得しているとは驚かされます。

 さて,昨季はフィジカルコントロールでも特筆すべきものがありました。宇野 選手が昨季出場した大会を書き並べてみますと,

  • グランプリシリーズ2戦
  • グランプリファイナル
  • 全日本選手権
  • 四大陸選手権
  • 世界選手権
と,出るべき主要大会に全て出場しているのに加え,
  • 前哨戦(グランプリシリーズの前)
  • アジア大会 (しかも四大陸選手権の翌週!)
  • 公式試合 (アジア大会と世界選手権の間)

にも出場し,これら9大会全て表彰台! さらに,世界選手権後の「国別対抗戦」にも駆り出され,昨季はなんと10試合に出場しているのです。これだけの連戦を好成績でケガなく乗り切った 宇野 選手には,本当に恐れ入りました。

 四大陸選手権は,例年なら出場しない日本選手も多いのですが,昨季は平昌五輪の会場で開催され,五輪のリンクを経験する点で重要度の高い大会でした。にもかかわらず,翌週のアジア大会にまで出場させられてしまったのは,アジア大会に全日本選手権の優勝者を出場させるという,日本スケート連盟とアジア大会主催者との間で取り決めがあったかららしいのですが,アジア大会も少しミスはあったもののきちんと優勝して,開催国のメンツを保つことにも貢献しました。全日本選手権の優勝も,羽生 選手のインフルエンザ罹患による欠場によってお鉢が回ってきたものでしたが,宇野 選手の実力なら優勝して当然というプレッシャーと戦ったのは貴重な経験でした。こんな過密日程や優勝を求められる戦いを乗り越え,世界選手権で自己最高得点を30点も上乗せするという,驚異的な結果を残したのは本当に素晴らしかったです。世界選手権にピークを持ってくるだけでもすごいことなんですが,連戦を乗り越えての演技の出来栄えと高得点は,宇野 選手の並々ならぬ努力に対するスケートの神様からのご褒美のように感じました。

 そしてそして,さらに昨季がすごかったのは,シーズン途中に新たな4回転ジャンプをプログラムに組み込んだことです。宇野 選手のFSの4回転ジャンプは,4F,4Lo,4T の3種類ですが,4Lo(4回転ループジャンプ)を入れたのは今年2月の四大陸選手権からです。もっと言えば,今では 宇野 選手の切り札になっている 4F(4回転フリップジャンプ)も,プログラムに組み込んだのは昨年からです。つまり,前年の世界選手権と比べて4回転ジャンプを2種類増やすという,とんでもないことをやってのけています。当初,昨季は 4F,4T の2種類を固めるつもりだったと思いますが,4回転ジャンプを4種類飛ぶ ネイサン・チェン(米)選手の出現が,宇野 選手に 4Lo の導入を急がせたのだと思います。

 シーズン途中の新ジャンプ導入は,ほとんど前例がありません。普通は,1年間同じプログラムを滑り熟成させていきますので,ジャンプの変更や順序組み換えでさえリスクが高くめったに行われません。シーズン途中で新しいジャンプ(しかも習得したての 4Lo)をプログラムに組み込むことは,ハイリスク・ハイリターンでありかなりの覚悟があったと思います。その勇気と技術が,世界選手権という大舞台でハイリターンを呼び込んだのでしょう。

 チェン 選手が昨季のシニアデビュー年でスタートダッシュを見せ,グランプリファイナルで(宇野 選手の3位を上回る)2位に入ったときは,宇野 選手は内心穏やかではなかったでしょう。四大陸選手権でも チェン 選手の後塵を拝しましたが,それでも慌てずに世界選手権で結果を残せたのは,前年の世界選手権で満足いく演技ができずに悔しい思いをし,同じ轍は踏まないという強い気持ちを1シーズンずっと持ち続け,世界選手権に照準を合わせていたからです。言うは易しですが,ここまで述べたような,あり得ないレベルの連戦,五輪プレシーズン,今年こそはというプレッシャーの中で,大会に出場し続けながら世界選手権にピークを持ってきて,シーズンの最後についにつかみとった銀メダル。月並みな言葉ですが「すごい」としか言いようがありません。今後私は,今まで以上に 宇野 選手を応援しようと心に決めました。

 世界選手権での日本男子の1-2フィニッシュは,2014年の 羽生 & 町田 両選手以来ですが,2014年は五輪直後で有力選手が欠場する中での結果だったことを考えると,昨季(2017年)の 羽生 & 宇野 両選手の金&銀メダルには,計り知れない価値があります。例えて言うなら,今までは,マラソンの先頭を風を一身に受けて走る 羽生 選手を風よけにして,宇野 選手が追走してきた感じでしたが,今後はWエースとして2人で並走していくことになるでしょう。もう 宇野 選手に風よけは要りませんし,羽生 選手も,並走する日本選手がいることで気持ちに余裕が生まれ,2人で高め合いながら平昌五輪を迎えられそうです。

◆ 羽生結弦 を本当に脅かす存在へ

 このように昨季全体を考えれば,宇野 選手が世界選手権で銀メダルを獲ったことが,どれほど素晴らしくどれほど価値があるのかがわかります。驚異のシーズンを経ての銀メダルであることをライバルの選手たちも皆わかっていますから,スケーターが 羽生 選手に抱く敬意と同じように「宇野 選手には負けてもしょうがない」と思わせる雰囲気が出てきたのではないかと感じます。平昌五輪の 宇野 選手は,フェルナンデス,チェン 両選手と銀メダルを争う構図と思いきや,それどころか2人より半歩リードし金メダルをも狙える位置にいると思います。ケガやスランプがなければ表彰台はほぼ確実で,五輪での日本男子1-2フィニッシュという大偉業の達成も十分ありうると私は見ています。

 そう予想する理由の1つが,宇野 選手がチャレンジャー精神を持ち続けられる点です。これだけ好成績を上げても,宇野 選手は 羽生 選手に次ぐ国内2番手であり,他国の選手がその国のトップ選手として期待を背負うのに比べれば,プレッシャーが和らぎ,無欲無心で五輪に臨むことができるはずです。また,宇野 選手の年齢は五輪の時点で弱冠20歳。年齢的には次の北京五輪が本当の勝負所であり,今回は結果は二の次という気持ちで臨むことができるでしょう。これはソチ五輪のとき19歳だった 羽生 選手と状況が似ていますが,そのとき金メダル本命だった パトリック・チャン(カナダ)選手との力の差よりも,現在の 羽生 選手と 宇野 選手の差ははるかに詰まっています。ソチ五輪ではその差を一気に詰めた 羽生 選手が,今回は逆の立場になり 宇野 選手が迫ってくる重圧を強く感じているかもしれません。金メダルを当然視される 羽生 選手と,チャレンジャーの 宇野 選手の戦いとなれば,グランプリファイナル,全日本,五輪のどこかで,宇野 選手が初めて 羽生 選手を破って優勝するシーンを見ることができそうですし,五輪でそれが起きる可能性も大いにあるのです。

 チャレンジャー精神の象徴となりそうなのが,4回転ジャンプの戦略です。昨季,4回転ジャンプの種類を1種類から3種類に増やしたばかりで,しかも五輪シーズンの今季にもう1種類増やす計画ですから,これぞ華麗なる賭けです。増やすジャンプを 4Lz(4回転ルッツジャンプ)と 4S(4回転サルコウジャンプ)のどちらにするかが注目点ですが,この2つは難易度がかなり違いますので,同じ程度の成功率なら迷わず 4Lz を選択すべきでは,と思いたくなります。しかし,4S の選択は単に確実性を高める以外に,なかなか戦略的な意味があるのではないかと,私は深読みをしています。

 各選手の4回転ジャンプの種類を書き並べてみます。左から難易度の高い順になります。

羽生
4Lo4S4T
チェン4Lz4F
4S4T
宇野(S追加)
4F4Lo4S4T
宇野(Lz追加)4Lz4F4Lo
4T

 4Lz の追加は,4Lz と 4F を両方飛ぶという点で チェン 選手に肩を並べつつ,難易度の組み合わせでは チェン 選手を超え最強の構成になる,という点で素晴らしい選択です。しかし,4Lz は難易度の高いジャンプであり,中途半端な成功率では出来・不出来の波が大きくなってしまいます。チェン 選手はひょっとすると 4Lo を加えて5種類に挑んでくる可能性もあり,その競争に巻き込まれるのは今季に関しては得策ではありません。PCS が チェン 選手より高い 宇野 選手の陣営は,チェン 選手とのジャンプ競争を重視する必要はないと考えているかもしれません。

 一方,4S を追加すると,羽生 選手が飛ぶ種類のジャンプは全て飛べて,さらに 宇野 選手の切り札である 4F が加わる構成になります。これを深読みすると「羽生 選手を追い越して勝ちに行く」という意識の表れとも読み取れるのです。もちろんこれは,4回転ジャンプの種類という一面だけを見た話であり,総合的に見れば 羽生 選手が有利な状況は変わりありません。それでも,ある部分で 羽生 選手を上回る武器を持つことになり,これは 宇野 選手の意識やモチベーションに良い影響を与えるでしょう。個人的には今シーズン新たな4回転ジャンプを加える必要はないと思っていますが,もし加えるなら上述の見方ができる 4S の方が面白いかなと感じています。4Lz は来シーズン以降じっくり取り組んで,5種類制覇を チェン 選手と競い合うと盛り上がるんじゃないかな,と思います。

 …とかなんとか書いている間に,前哨戦であり現在開催中のロンバルディア杯のFSで 4S を見事に成功させたようですね。演技時間前半に 4Lo と 4S,後半に 4F と 4T(2本)で計5本。着氷の乱れがあったにもかかわらず,シーズン初戦で早くも昨季の世界選手権をわずかですが上回るスコアを叩き出しました。この構成のまま五輪に臨むかどうかはまだわかりませんが,無理に 4Lz を入れず 4S を加える戦略でも十分に戦えることが証明されたと考えてよいでしょう。次戦のジャパンオープンで,このジャンプ構成がどうなるかに注目したいと思います。

 そして,この 宇野 選手のロケットスタートは,五輪シーズンの高らかな号砲になるでしょう。おそらくこの時期の選手は,この時期の前哨戦の結果など気にせず自分のペースで調整するんだ,と気持ちを強く持っていると思います。しかし,ロンバルディア杯での 宇野 選手の完成度の高さを目の当たりにすれば,内心穏やかではいられず「このペースで大丈夫なのか」などと気持ちがグラグラ揺れ動いてもおかしくありません。また,闘争心に火がつき,思わず前哨戦から本気モードになってしまいペースを乱される選手が出てくるかもしれません。野球で言えばまだオープン戦の段階なのに,もうメンタルコントロールの戦いが始まってしまったように感じます。これを書いている私も,前哨戦なんてアテにならないと頭ではわかっていながら,宇野 選手の映像とスコアを見て,今シーズンものすごいドラマが生まれそうな予感で心がかき乱されています。

 昨季,そして今季初戦がこれほど順調だと,どうしても逆の見方をしてしまい,五輪までに息切れしてしまうのでは?と思う方もいるかもしれません。昨季のハードなシーズンの反動がどこかで出てこないか,という心配もありますよね。でもそこは,シニア1年目の教訓と2年目の自信を拠り所にして,フィジカルもメンタルもうまくピーキングしていくと思います。宇野 選手自身も「良すぎて逆に不安」とコメントしたと伝えられていますが,こういう素直な心境をさらっと言えるのですからメンタル面も良好と見てよさそうです。宇野昌磨 選手の初めての五輪シーズン,本当にすごいことを起こしてくれそうで今からワクワクが止まりません

宇野昌磨 の世界選手権銀メダルのとてつもない価値

UnoShoma2017World フィギュアスケート世界選手権シングル男子は,羽生結弦 選手の劇的な優勝が話題の中心ですが,羽生 選手にあと一歩のところまで迫り銀メダルを獲ったのは,羽生 選手の同門生にして世界選手権3連覇を狙った ハビエル・フェルナンデス 選手(ESP)でも,安定した4種類の4回転ジャンプで 羽生 選手を四大陸選手権で破った ネイサン・チェン 選手(USA)でもなく,我らが日本の 宇野昌磨 選手でした。宇野 選手は今シーズン,本当にすごいことをやってのけたのですが,報道での扱いが小さいのが許せないので,ここでいろんな角度から取り上げたいと思います。

 世界選手権の演技がとても安定していました。ショートプログラム(SP: Short Program)が 104.86 点で2位,フリースケーティング(FS: Free Skating)も 214.45 点で2位,合計点 319.31 点も2位。FSの 210 点台達成は 羽生,フェルナンデス 両選手に続く3人目,合計の 319 点台は フェルナンデス 選手を超え,この上は 羽生 選手しかいません。SPとFS合わせて「転倒なく着氷した4回転ジャンプが6本」で「演技構成点(PCS: Program Component Score)が満点の90%(SP:45点,FS:90点)を超える」,この2つを今大会で同時に達成したのは 宇野 選手だけであり,技術面と芸術面の両方が極めて高いレベルで両立していたことを示す結果でした。FSの 3Lz(トリプルルッツジャンプ)で着氷の乱れがなければ,初めて 羽生 選手に勝って優勝していたという点ではもったいなかったですが,あと一歩のところまで追いつめた2位というのは,宇野 選手にとって,そして 羽生 選手にとっても,最高の結果だったと言っていいでしょう。羽生 選手を立てつつ,悔しさと満足感が両立するというあたりが 宇野 選手らしい結果だなと思います。

 好成績を残した1つの要因に,尋常でないメンタルの強さがあります。フィギュアスケーターは,自分の演技を行うまで音楽を聞いたりして自分の世界に入り込み,他人の演技を見ないものなのですが,宇野 選手は違います。今回の世界選手権では,以下のようなコメントを残しています。

「他の選手の演技を見ないようにしようとかではなくて、逆に見たいんです。それが自分の演技に影響するとは思わないし、うまい選手の演技は見たいと思うじゃないですか」

 これは,自分への自信に加え,自分や大会の雰囲気を客観視できているんだと思います。この境地に達するのは並大抵ではなく,弱冠19歳にしてこのメンタルコントロールを体得しているとは驚かされます。

 メンタルだけでなくフィジカルもすごくて,世界選手権に至る 宇野 選手の今シーズンの出場大会の多さは特筆すべきものがあります。グランプリシリーズ2戦,グランプリファイナル,全日本選手権,四大陸選手権,世界選手権と,出るべき主要大会に全て出場しているのに加え,四大陸選手権の翌週にアジア大会に出場,さらにグランプリシリーズの前と,アジア大会と世界選手権の間にも公式試合に出場しました。これら9大会全て表彰台に乗っているのがすごい! さらに,再来週には国別対抗戦がありますので,今シーズンはなんと10試合に出場するのです! 国別対抗戦の出場が発表されたとき,日本スケート連盟は(女子の枠取りの件と同様に)何も考えてないんだなと愕然としましたが,宇野 選手本人がそこはしっかり考えていると思うので,とにかくケガなく乗り切ってほしいと切望しています。

 四大陸選手権は,例年なら出場しない選手も多いのですが,今年は平昌五輪の会場で開催され,五輪のリンクを経験する点で重要度の高い大会でした。にもかかわらず,翌週のアジア大会にまで出場させられてしまったのは,アジア大会に全日本選手権の優勝者を出場させるという,日本スケート連盟と大会主催者との間で取り決めがあったかららしいのですが,アジア大会も少しミスはあったもののきちんと優勝して,開催国のメンツを保つことにも貢献しました。全日本選手権の優勝も,羽生 選手のインフルエンザ罹患による欠場によってお鉢が回ってきたものでしたが,宇野 選手の実力なら優勝して当然というプレッシャーと戦ったのは貴重な経験でした。このような過密日程を乗り越え,世界選手権で自己最高得点を30点も上乗せするという,驚異的な結果を残したのは本当に素晴らしかったです。世界選手権にピークを持ってくるだけでもすごいことなんですが,連戦を乗り越えての演技の出来栄えと高得点は,宇野 選手の並々ならぬ努力に対するスケートの神様からのご褒美のように感じました。

 そしてそして,さらに今シーズンがすごいのは,シーズン途中に新たな4回転ジャンプをプログラムに組み込んだことです。宇野 選手のFSの4回転ジャンプは,4F,4Lo,4T の3種類ですが,4Lo(4回転ループジャンプ)を入れたのは2月の四大陸選手権からです。もっと言えば,今では 宇野 選手の切り札になっている 4F(4回転フリップジャンプ)も,プログラムに組み込んだのは実質的には今シーズンから(正確には昨シーズン最終戦から)です。つまり,昨年の世界選手権と比べて,4回転ジャンプを2種類増やすという,とんでもないことをやってのけています。当初,今シーズンは 4F,4T の2種類を固めるつもりだったと思いますが,4回転ジャンプを4種類飛ぶ ネイサン・チェン 選手(USA)の出現が,宇野 選手に 4Lo の導入を急がせたのだと思います。

 シーズン途中の新ジャンプ導入は,ほとんど前例がありません。普通は,1年間同じプログラムを滑り熟成させていきますので,ジャンプの変更や順序組み換えでさえリスクが高くめったに行われないのです。シーズン途中で新しいジャンプ(しかも習得したての 4Lo)をプログラムに組み込むことは,ハイリスク・ハイリターンでありかなりの覚悟があったと思います。その勇気と技術が,世界選手権という大舞台でハイリターンを呼び込んだのでしょう。

 ネイサン・チェン 選手がシニアデビュー年でスタートダッシュを見せ,グランプリファイナルで 宇野 選手の3位を上回る2位に入ったときは,内心穏やかではなかったでしょう。四大陸選手権でも チェン 選手の後塵を拝しましたが,それでも慌てずに世界選手権で結果を残せたのは,昨年の世界選手権で満足いく演技ができずに悔しい思いをし,同じ轍は踏まないという強い気持ちを1シーズンずっと持ち続け,今年の世界選手権に照準を合わせていたからです。言うは易しですが,ここまで述べたような,あり得ないレベルの連戦,五輪プレシーズン,今年こそはというプレッシャーの中で,大会に出場し続けながら世界選手権にピークを持ってきて,実際に銀メダルを獲得したわけです。これだけの厳しいスケジュールやプレッシャーを乗り越えたことを思うと,今シーズンの最後についにつかみとった銀メダルには本当に感動しました。今後私は,今まで以上に 宇野 選手を応援しようと心に決めました。

 世界選手権での日本男子の1-2フィニッシュは,2014年の 羽生 & 町田 両選手以来ですが,2014年は五輪直後で有力選手が欠場する中での結果だったことを考えると,今回の 羽生 & 宇野 両選手の金&銀メダルには,計り知れない価値があります。例えて言うなら,今までは,マラソンの先頭を風を一身に受けて走る 羽生 選手を風よけにして,宇野 選手が追走してきた感じでしたが,今後はWエースとして2人で並走していくことになるでしょう。もう 宇野 選手に風よけは要りませんし,羽生 選手も並走する日本選手がいることで,気持ちに余裕が生まれると思いますので,2人で高め合いながら平昌五輪を迎えられそうです。

 このように,宇野 選手が世界選手権で銀メダルを獲ったことは,報じられているよりもはるかに大きなインパクトがあったと私は考えています。本人には強い自信が生まれ,周囲には強烈なアピールになったはずで,スケーターが 羽生 選手に抱く敬意と同じように「宇野 選手には負けてもしょうがない」と思わせる雰囲気が出てきたのではないかと感じます。平昌五輪の話は気が早いですが,宇野 選手は,フェルナンデス,チェン 両選手と銀メダルを争う構図になると私は予想していて,しかも2人より半歩リードし金メダルをも狙える位置にいると思います。ケガやスランプがなければ表彰台はほぼ確実で,五輪での日本男子1-2フィニッシュという大偉業の達成も十分ありうると思います。今から来シーズンが本当に楽しみになってきました。すごいことが起きる予感でワクワクしています。

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