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宮原知子

地の利を生かせず 表彰台は遠く 【世界フィギュア2019感想:女子シングル】

 私の予想(という名の願望)はことごとく外れ,女子シングルは一人も表彰台に乗れず,男子シングルは私が優勝を予想した 宇野昌磨 選手はメダルを逃し,苦戦を予想した 羽生結弦 選手が日本選手唯一のメダルを獲得しました。予想を外したからではなく,各選手の心情を思うと悔しい気持ちでいっぱいになってしまいます。

 女子シングルは,順位だけ見て日本選手の力不足という論評をするのは気の毒です。2位と5位のスコアは2点未満。1つミスすれば4点以上点数が変わる女子において,2点というのは差のうちに入りません。この点差でメダルを逃すのは,運が悪かったとしか言いようがなく,しかも5位の 坂本花織 選手は 222 点台,4位の 紀平梨花 選手に至っては 223 点台でもメダルが獲れませんでした。平昌五輪のとき 222 点台でメダリストになれなかった 宮原知子 選手を思い出してしまう状況です。なんとかしてメダリストになってもらいたかったですし,メダリストと同等のスコアを出したことには胸を張ってほしいです。

 しかし,だからこそ当の選手たちは悔しい思いをしているでしょう。メダルを逃す原因は自分たちのミスによるものだからです。ミスがなければ 紀平,坂本 両選手は表彰台に乗れました。2位の トゥルシンバエワ 選手(カザフスタン)と3位の メドベージェワ 選手(ロシア)は,SP(Short Program,ショートプログラム)もFS(Free Skating,フリースケーティング)もミスがありませんでした。ミスをするとスコアが低くなる,それが今シーズンのスコアルール改定の肝ですから,正にそのとおりの結果が出たわけです。

 紀平 選手は,生命線である 3A がSPとFSの計3本のうち1本しか成功しませんでした。これでは表彰台を逃すのも致し方ないことだと思います。シニアデビューシーズンは,ずっと活躍していたのに世界選手権で息切れすることがあり,過去には 宇野 選手や ネイサン・チェン 選手(米)もそれを経験しています。紀平 選手はその罠にハマることはないと私は思っていましたが,デビューシーズン大活躍の期待感に日本開催(しかも観客が1万人以上入るさいたまスーパーアリーナという大箱)が重なり,舞台が揃い過ぎたことが 紀平 選手を微妙に狂わせてしまったのかもしれません。

 坂本 選手はFSの 3F でミスが出ましたが,3F は 坂本 選手が最も得意な3回転ジャンプであり,めったにないミスによってメダルを逃したのですから,坂本 選手のショックは計り知れません。四大陸選手権では,3F の直前に飛ぶ 2A+3T+2T という,これまた得意かつ得点源のジャンプでのミスでメダルを逃していたので,今回はその 2A+3T+2T が成功したことで,ホッとした気持ち,あるいは得意なジャンプだからこそ失敗してはいけないという意識が出てしまい,平常心で 3F に入れなかったのかもしれません。SPが完璧と言っていい出来だっただけに,そのミス1つだけで表彰台をも逃すというのは,天国から地獄という言葉が大げさとは思えないほどの,あまりに厳しい結果でした。

 宮原 選手は,SPの回転不足が偶発的なものだったことをFSで証明しました。FSでは回転不足が全くない,技術面ではパーフェクトな演技でした。私は,SPの回転不足がFSに影響するというたいへん失礼な予想をしてしまったのですが,宮原 選手の修正能力に改めて感嘆いたしました。ただ,仮にSPの回転不足がなかったとしても,表彰台には乗れなかったと思います。今大会では,表現面が今までの 宮原 選手よりわずかに見劣りする感じがあり,PCS (Program Component Score,演技構成点)でやや差が出てしまったからです。PCS が低めだった要因は,日本開催の世界選手権への緊張と,回転不足を防ごうとジャンプへの意識がやや強くなってしまったことにあるのではないかと推察いたします。

 強力な布陣の日本選手を抑えて優勝したのは,実力を出し切った ザギトワ 選手(ロシア)でした。私は,今シーズンの苦難が世界選手権まで続くと予想しましたが,結果は逆でした。演技は完璧ではなかったものの,ミスなくきっちりまとめました。昨シーズンはクールで精密機械のような印象もありましたが,今大会はジャンプを絶対に決めるんだという,人としての強さが感じられるような演技でした。シーズンの不調を世界選手権で払しょくするシーンはここ数年の世界選手権ではなかったことであり,ザギトワ 選手の本当の強さを目の当たりにしました。

 ザギトワ 選手が所属する トゥトベリーゼ コーチのチームでは,メドベージェワ 選手が抜けたことで ザギトワ 選手が一枚看板として注目を集める一方で,ジュニア世界選手権の金・銀メダリストも在籍するなど,著しい若手の突き上げがあります。ザギトワ 選手は,世界選手権の成績によっては,五輪女王でありながら冷遇されかねない状況に追い込まれていたと言えます。今回の優勝によって早くも引退がありうるのでは,と推測する外国のメディアもあるようですが,ロシアの若手は4回転ジャンプの確率がかなり高く,彼らがシニアに上がってくると ザギトワ 選手でも厳しい戦いになることから,そのような報道が出るのでしょう。彼女はまだ16歳。引退がささやかれるとはあんまりだと思いますが,今シーズンを逃すと今後いつ金メダルが獲れるかわからない,そういう危機感が ザギトワ 選手にあったことは間違いないでしょう。

 2位に入った トゥルシンバエワ 選手は,SPが今までとは別人のように生き生きとした演技だったので,FSの 4S が成功するのではないかと私は予感していました。冒頭の 4S が成功したことでFSは完全に波に乗りました。こんなにしなやかで表現豊かな トゥルシンバエワ 選手を初めて観ました。PCS が1項目平均9点台に急伸したことで銀メダルを獲得しましたが,納得のスコアだったと思います。ブライアン・オーサー コーチに師事していた昨シーズンまでは,サイボーグ的な印象が拭えませんでしたが,今シーズンから トゥトベリーゼ コーチの元に戻り,トゥルシンバエワ 選手の気性の強さがハマったのでしょう。また,昨年暴漢に襲われ急逝した母国のソチ五輪銅メダリスト デニス・テン さんに捧げる気持ちの強さもあったと思います。彼女の素晴らしい演技には,テン さんのご加護があったようにも感じましたね。

 その トゥルシンバエワ 選手と入れ替わる形で,今シーズン,オーサー コーチの元に移った メドベージェワ 選手も,今シーズンの不調から甦り表彰台に乗りました。紀平,坂本 両選手のミスによって転がり込んできた銅メダルではありましたが,ギリギリで出場を決めた世界選手権で結果を出すのは,やはり並大抵のことではありません。このような形でシーズンを締め括り,今後の復活に向け大きな自信を得たと思います。

 表彰台に乗った3選手の演技で感じたことは,気持ちの強さが前面に出ていたことです。今までの彼らは,正確無比でミスが極めて少ないという演技の完成度で勝負してきました。ところが,今回の世界選手権は違いました。ジャンプの着氷でぐらついたりもしていたのですが,「絶対に成功させるんだ」という集中力でジャンプを飛んでいたように私の目には映りました。それは私の思い込みかもしれないのですが,そう感じずにはいられませんでした。

 きっと彼らは,背負っているものがとても大きかったんだと思います。五輪シーズンの絶頂から1シーズンで滑り落ちそうになっていた ザギトワ 選手。コーチを変えたことによる周囲の雑音を払いのけたかった トゥルシンバエワ,メドベージェワ の両選手。世界選手権で結果を出さなければ,今まで築いてきたものが崩れ落ちてしまう,そんな危機感が彼らを甦らせたのだと感じます。しかし,危機感だけで勝てるほど今のフィギュアスケートは甘くありません。追い込まれた状況でも優れたパフォーマンスを出せるだけの技術を持っているんですね。わずか2点のスコアの差,メダリストとメダルを逃した選手との差は,詰まるところその技術の差だということになるのです。

 日本の3選手は,そこまで大きなものを背負っていませんでした。母国開催で世界女王に「なりたい」という気持ちは強かったと思いますが,世界女王を「獲らねば」というほどではなかった。極限の緊張の中で,その差がミスという形で現れてしまったのかなと思います。日本開催に関しては,日本の観客は海外の選手にも分け隔てなく声援を送りますし,ザギトワ 選手や メドベージェワ 選手は日本が大好きですから,彼らが不利を感じることはほとんどなかったはずで,日本選手が母国開催という地の利をさほど享受できなかったと言えます。さいたまスーパーアリーナは世界的に見ても最も観客数が多い会場であり,会場の熱気がすごいことに加えて,試合が進むにつれて氷の状態が刻々と変わったそうです。大箱の緊張と氷の変化の両方に対応しなければならなかった点は,経験値が高い選手を利することになったかもしれません。

 なぜミスが出たのか,各陣営はよくわかっていると思います。紀平 選手は 3A の成功確率をもっと上げていくことに尽きるのですが,今シーズンのSPは,紀平 選手にとって 3A を飛びづらい音楽だったのではないかと私は推察しています。なので,来シーズン音楽が変われば状況は好転するでしょう。坂本 選手は,ここ2年間の全日本選手権では素晴らしい演技を見せていますので,緊張感がミスを誘発するという単純な話ではありません。全日本選手権のようなパフォーマンスを,国際大会でも披露するにはどうすればよいかを突き詰めていくことが求められます。

 今シーズンは五輪の翌シーズンであり,北京五輪はまだ先だからこの結果で十分,という考えがあるとしたら私は賛同しかねます。1年1年のグランプリファイナルや世界選手権の結果こそが競技スケーターにとって大切だと思うからです。五輪は4年に一度のお祭りであり,メダルを獲るにはそのときの好不調や運も関係してきます。五輪のメダリストが過度に評価されるのではなく,1年1年の実績が評価されるべきです。世界トップの大会(世界選手権,五輪シーズンは五輪)で ザギトワ 選手が2連覇,メドベージェワ 選手が4年連続表彰台に上ったことは,五輪のメダリストであることよりも輝かしい実績だと思います。日本選手は,母国開催のチャンスを生かせず表彰台を逃したことを,五輪で力を出せなかったことと同じくらい大事なこととして受け止めてほしいです。

 とはいえ,紀平,坂本 両選手がメダリストと同等の力を示したことも,紛れもない事実です。紀平 選手は,3A 以外のジャンプ・スピン・ステップが高い完成度だったことは素晴らしかったです。坂本 選手は,スケーティングが格段に美しくなり,FSでは PCS が1項目平均9点を超えました(坂本 選手にとって国際大会初)。PCS だけ見れば,メドベージェワ 選手より高い評価を受け,ザギトワ 選手に次ぐ2位でした。これは 坂本 選手にとってはとてつもなく大きな自信になったと思います。

 日本の選手たちは,これらの成果を糧としつつ,この悔しさがバネになることでしょう。母国開催のメダルを逃したことは苦い経験ではありますが「この経験があったから強くなれた」と言えるような活躍を来シーズン以降期待したいと思います。

世界フィギュア2019 プレビュー 【スポーツ雑誌風】

 さいたまスーパーアリーナで開催される,フィギュアスケート世界選手権の見どころと勝負の予想をスポーツ雑誌風に記します。


◆男子シングル

 優勝争いは,羽生結弦宇野昌磨ネイサン・チェン (米)の3選手が有力で,ヴィンセント・ジョウ (米),ボーヤン・ジン (金博洋,中国)らが表彰台を狙う。彼らの4回転ジャンプはSP(Short Program,ショートプログラム)で2本,FS(Free Skating,フリースケーティング)で4本と横並び(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事参照)なので,本番の演技の完成度が勝敗を分ける。

 中でも最も優勝に近いのが 宇野昌磨 だ。世間の下馬評は 羽生 や チェン の声が多いかもしれないが,私は 宇野 に勝機ありと見ている。2月の四大陸選手権で,ケガを抱えながらFSの今シーズン世界最高得点を叩き出して優勝したことは,宇野 にとって大きな自信となり,主要国際大会6大会連続2位から脱したことで胸のつかえも取れただろう。今シーズンは,周囲の期待に応え勝ちにこだわる姿勢を貫いており,日本開催の地の利も生かし,初めて 羽生 を破って初優勝という大願成就を果たしたい気持ちは誰よりも強いだろう。安定感やピーキング能力はここ3シーズン発揮されており,SPとFSが両方ノーミスで実施できれば初の世界王者を手にするだろう。

 羽生 はケガ明け4ヶ月ぶりの実戦であり,ノーミスは可能かもしれないが,完成度の高い実施は難しいだろう。平昌五輪の再現を期待するファンは多いが,五輪という特別な舞台であり,過去のプログラムの再演だった 平昌 の状況とは異なり,今シーズンはプログラムを試合で滑る機会が少なかったので,いくら練習で好調だったとしても,いきなり世界選手権で完成度を高めるのは難しいと予想する。SPは大丈夫と思うが,FSは転倒や回転抜けが無ければ上出来と考えた方がよいだろう。

 チェン は今シーズン絶好調で,SPとFSを完璧に揃えた1月の全米選手権の出来が再現できれば間違いなく優勝できる。ただ チェン は,2017年の世界選手権,2018年の平昌五輪と2年続けてシーズン終盤の大舞台で優勝はおろかメダルさえも逃しており,大舞台で力を発揮する技術とメンタルが試される。不得手の 3A の出来が勝負を分けるかもしれない。

  • 私の順位予想 … 1位: 宇野,2位: チェン,3位: 羽生
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: チェン,2位: 羽生,3位: 宇野

◆女子シングル

 日本選手の表彰台独占という夢のような光景が見られるかもしれない。その可能性が60%くらいあると思う。スコアの観点では,紀平梨花 を ザギトワ (ロシア)が追いかけ,さらにその後ろに他の選手が僅差でひしめく状況(→ジャンプの分析:本ブログ過去記事《日本選手ロシア選手》参照)だが,日本3選手の地力・地の利と,ロシア選手の今シーズンの停滞を考えると,日本選手の表彰台独占の可能性はけして贔屓目ではない。

 優勝候補の筆頭はもちろん 紀平梨花 である。技術点が抜群に高く,PCS (Program Component Score,演技構成点)も ザギトワ と肩を並べトップクラス。状況に応じて,ジャンプの難度を落としたり,その場で構成を変更する対応力も過去の試合で証明済みだ。日本開催が逆プレッシャーとなり,シーズンの最後に息切れという可能性もゼロではないが,今シーズンはSPとFSのどちらかにミスが出ており,この大舞台で両方ノーミスでの実施を強く誓っているはずだ。SP 80 点FS 160 点計 240 点という驚異的な得点を期待せずにはいられない。

 全日本を制した 坂本花織 は,優勝を狙うと公言している。これほどはっきり優勝を口にすることは珍しく,並々ならぬ決意がうかがえる。四大陸選手権で優勝を狙うもメダルを逃す経験をしたことで,無心で試合に臨むことの大切さを再認識できたことも好材料だ。完璧な演技ができれば GOE (Grade Of Execution,出来ばえ点)も PCS も高騰する可能性はあり,紀平 にミスが出れば 坂本 が女王の座を射止める可能性が高い。

 世界選手権の銀と銅のメダルを持つ 宮原知子 も,金メダルを渇望している。全日本選手権から3ヶ月,プログラム細部の精緻化と,ジャンプの回転不足の解消に取り組み,演技全体を研ぎ澄ませてきただろう。シーズン途中では細かいミスがあっても,世界選手権や五輪の大舞台で完成形を披露しシーズンベストを更新する,これが 宮原 の例年の姿だ。今シーズン,全日本選手権では若手2人の突き上げを受けているが,先輩のプライドにかけて,日本開催である今年の世界女王は是が非でも手にしたいところだ。ミスがないことにはもはや驚かないが,全てが完璧に演技できれば優勝に手が届くだろう。

 ここ数年,日本勢より力が上だったロシア勢だが,今シーズンは様相が異なる。五輪女王 ザギトワ,欧州女王 サモドゥロワ に加え,世界女王2連覇の実績を持つ メドベージェワ も参戦し,名前だけを見れば手強い相手に思える。しかし,今シーズンのロシア勢は完全に追う立場にいる。

 ザギトワ の不調は,五輪女王の重圧,身長の伸びなど様々に報じられているが,私が感じる要因は「FSの選曲」と「紀平 の急成長」である。ザギトワ のFSは「カルメン」。この曲は五輪で演じることを ザギトワ 自身が希望したものの,エテリ・トゥトベリーゼ コーチが賛同しなかったと言われている。五輪女王になったこともあり「カルメン」の採用を許したのだろうが,五輪女王とはいえまだ16歳,風格があるタイプではない ザギトワ にとって「カルメン」のスケール感を表現するには時期尚早という印象だ。ジャンプもどこか飛びづらそうに見えるのは,ジャンプが曲にうまくハマっていないからかもしれない。

 紀平 の急成長に関して,3A によって技術点を高めてくることは予期できても,PCS が自分に追いついたことは予想外だっただろう。グランプリファイナル完敗の衝撃(→本ブログ過去記事)の大きさは,その後のロシア選手権(5位)とヨーロッパ選手権(2位)が物語っている。ノーミスは当然で完璧な演技でなければ世界女王は取れない,という状況に追い込まれたことが ザギトワ の焦りを生み,演技の綻びをなかなか塞げずにいる。表彰台に乗れるかどうかの厳しい試合になると私は予想するが,今シーズンの不調を払拭する演技ができれば,当然優勝争いに加わってくる。

 むしろ,ネームバリューはロシア勢で最も低い サモドゥロワ が,表彰台の可能性としては最も高いと私は考える。シニアデビューの今シーズン,グランプリファイナルに出場(5位)し,ヨーロッパ選手権で ザギトワ を破って優勝したことで,世界選手権の切符をつかんだ。ヨーロッパ選手権は欧州各国では権威のある大会であり,ここでの優勝は我々が思う以上に大きな自信になっているはずだ。FSの「バーレスク」は サモドゥロワ によく合ったプログラムなので,完璧な演技なら,日本勢の表彰台独占を阻む役を担うかもしれない。

 直前の国内選考で出場をつかみ取った メドベージェワ は,大好きな日本での出場に安堵していると思うが,昨シーズンまでの実力は現在の彼女にはない。コーチを トゥトベリーゼ からロシア国外の ブライアン・オーサー に変更し,全く違う生活・練習環境に慣れるだけでも大変な作業なのに,さらにスケートも全てを一から再構築しているのだから,今回は出場できたことが奇跡的なのだ。私は,以前の メドベージェワ は PCS が高過ぎると感じていたので,現在のスコアは妥当な水準だと感じている。ここから再び頂上をめざしていく上で,今大会は メドベージェワ が何合目まで上ってきたかがわかる試合になる。だがもちろん,メドベージェワ 自身は出場だけで満足と思うはずがない。順位はともかく,完璧な演技で自身が進む道の正しさを証明してほしい。

 ここ数年の世界選手権を見ると,それまで順調だった選手が力を発揮できないことは時々あるのだが,不調だった選手が甦ることはほぼない。フィギュアスケートは現在の採点方式が導入されたことで,ネームバリューで戦える世界ではなくなった。ザギトワ や メドベージェワ の経験や舞台度胸は脅威だが,それでシーズンの不調をカバーできるほど甘くはない。仮に 紀平 選手が崩れた場合は,坂本,宮原 のどちらかが世界女王初戴冠となるだろう。

  • 私の順位予想 … 1位: 紀平,2位: 坂本,3位: 宮原
  • 全員完成度が高い場合 … 1位: 紀平,2位: ザギトワ,3位: 宮原

ジャンプ戦略考察:女子シングル日本選手編

 フィギュアスケートの世界選手権の開催が近づいてきました。今年は日本開催なので,日本勢の活躍に期待がかかります。そこで,出場選手がどんなジャンプを選んでいるのかを見ていこうと思います。

 私は,あくまでも「フィギュアスケートはスコアを競う競技である」という視点に立ち,スコア分析をこのブログの1つの柱にしています。そこで,各選手がFS(Free Skating,フリースケーティング)でどんなジャンプを飛ぶのかがわかる表を作成しました。まずは,宮原知子 選手のジャンプ構成表を見てください。

figureSkateScoreMiyahara

 表の見方を説明します。11.1 と書いてあるのが,どのジャンプを飛ぶのかを示しています。1.1 は数字のとおりスコアが 1.1 倍になるボーナスタイム(演技時間後半のラスト3回)のジャンプです。宮原 選手の場合,単独ジャンプは 3Lz, 3Lo, 3S, 2A (記号の説明は割愛します)を飛び,2A にボーナスが付きます。連続ジャンプ(表では「コンビネーションJump」と記載)は 3Lz+3T, 2A+3T, 3F+2T+2Lo を飛びます。

 表の右側の「回数」は,第1ジャンプ(単独ジャンプ,および連続ジャンプの最初のジャンプ)としてどのジャンプを何本飛ぶかを示し,整数部はトータルの本数,小数部はボーナスタイムの本数を示します。3Lz の回数 2.0 は「2本飛びボーナスタイムは無し」を表し,2A の回数 2.2 は「2本飛び,その2本ともボーナスタイムに飛ぶ」を表します。回数欄を縦に眺めると,宮原 選手の第1ジャンプは,3Lz と 2A が2本ずつ,3F, 3Lo, 3S が1本ずつで,そのうちボーナスタイムに飛ぶのは 3F (1本)と 2A (2本)であることがわかります。

 「基礎点内訳」は,ジャンプの基礎点を第1ジャンプごとに合計したものです。宮原 選手は 3Lz で 16.00 点,3F で 9.13 点を獲得することがわかります。「基礎点増分」は,基礎点内訳の点数から各ジャンプ1回分の基礎点を差し引いた値で,この値が大きいほどそのジャンプが得点源になっていることを示しています。宮原 選手の 3Lz を例にとると,3Lz が第1ジャンプになるのは 3Lz 単独 と 3Lz+3T の2回で,これらの基礎点合計は 3Lz の「基礎点内訳」に記載されている 16.00 点です。3Lz 1本の基礎点が 5.9 点なので,16.00 - 5.9 = 10.10 点が 3Lz の「基礎点増分」になります。宮原 選手の 3Lz は,単独ジャンプ1本の点数と比べて 10.10 点のプラスを得ているという計算になります。

 「ボーナス加点分」は,ボーナスによって通常のスコアから上乗せされた分を示します。これは,ボーナスが付くジャンプの基礎点の 10% です。表の下側の集計欄を見ると,宮原 選手はボーナス無しなら 44.3 点のところ,ボーナスによって 1.91 点が上乗せされ,合計で 46.21 点になることがわかります。

 では,宮原知子 選手のジャンプ構成を具体的に見てみましょう。3回転ジャンプで同じ種類を2本飛べるのは2種類までなので,3T を連続ジャンプ(第2ジャンプ)で2本使い,もう1種類を 3Lz にしています。第2ジャンプの 3T は 3Lz と 2A に付け,3連続ジャンプは 3F を使っています。

 宮原 選手の構成は,とても練られていると感じます。3Lz が得意な 宮原 選手ですが,2回の 3Lz のうち連続ジャンプは1回だけで,しかも2回ともボーナスタイムではありません。3連続ジャンプは 3F に付け,しかもボーナスタイムに持ってきています。3Lz に頼り過ぎず 3F とのバランスを示す構成になっています。

 2本飛ぶ3回転ジャンプ3Lz3T を使っていますが,この選択は実は,3A や +3Lo を入れないオーソドックスな構成において,スコアが最も高くなるのです。また,連続ジャンプの 3T を 3Lz と 2A に付けているのも素晴らしいです。2A は2本とも単独ジャンプにしても問題ないのですが,単独の 2A が2本入るとどうしても退屈な印象になりがちです。2A+3T を入れると華やかな印象になるほか,GOE 加点を最大 ±2.1 にすることができる(2A 単独や 2A+2T だと ±1.65)ので,わずかですがスコアが上がるのです。

 宮原 選手は 2A も得意なので,2A2本ともボーナスタイムに入れています。また,ボーナスタイムに連続ジャンプ2回入れることでスコアを上げています。オーソドックスなジャンプを選択しながらも,Lz と F のバランス,スコア戦略,得意なジャンプの配置などの策をうまく盛り込んでいる 宮原 選手のジャンプ構成は,理想的だと言っていいと思います。

 続いて,全日本女王の 坂本花織 選手のジャンプ構成表を見てみます。

figureSkateScoreSakamoto

 「基礎点増分」欄から,3F2A の依存度が高い構成であることが分かります。坂本 選手は Lz が苦手で F が得意なので,3Lz は単独ジャンプ1本のみで,3F は2本とも連続ジャンプにして,3F でスコアを稼ぐ作戦を採っています。女子選手は,Lz と F の一方が得意で他方は苦手という選手がけっこう多いので,Lz と F の一方に大きく依存するジャンプ構成は珍しくありません。

 ボーナスタイムに 2A+3T+2T という大技を持ってきているのも 坂本 選手の大きな特徴です。3連続ジャンプは,間に1回転を挟む +1Eu+3S タイプと,2回転を連続させる +2T+2Lo タイプの2種類が主流で,+3T+2T を入れている選手は珍しいです。しかもそれをボーナスタイムに入れているのは,2A が得意な 坂本 選手ならではのジャンプと言えます。

 ただし,スコア戦略の面ではこの大技はちょっともったいない感じになっています。坂本 選手の連続ジャンプが +3T+2T, +3T, +2T なのに対し,前述した 宮原 選手は +3T, +3T, +2T+2Lo なので,宮原 選手の方が 2Lo を使っている分だけスコアが高い(2Lo と 2T の基礎点差は 0.4)のです。この分を少しでもカバーするため,坂本 選手は,ボーナスタイム連続ジャンプ2回と(単独ジャンプでは苦手な 3Lz の次に基礎点が高い) 3Lo を持ってくることで,基礎点を2点以上上乗せしています。

 最後は,シニアデビューシーズンでの初出場初優勝を狙う 紀平梨花 選手です。

figureSkateScoreKihira

 なんといっても2本3A,そのうち1本の連続ジャンプが 3A+3T という大技,というのが圧巻です。そして,3A が2本あるにもかかわらず 3Lz2本あり,しかも両方とも連続ジャンプという,女子としてはとんでもないジャンプ構成です。3A と 3Lz でジャンプのスコアの7割以上を占めていますが,これは単純に基礎点が高いジャンプを多く入れた結果だと思います。

 つい 3A に注目しがちですが,実は 3Lz の安定感が大きな武器です。3A はどうしても失敗のリスクが高いですから,3Lz できっちりスコアを稼げる点が 紀平 選手の高得点を支えていると言えるでしょう。ちなみに,紀平 選手は F が苦手なわけではありません。Lz が非常に安定しているのでこのような構成にしているだけで,SP(Short Program,ショートプログラム)では 3Lz は単独ジャンプにして,3F+3T の連続ジャンプを入れています。

 ちょっと面白い特徴として,紀平 選手のジャンプには 2A がありません。7本ある第1ジャンプ全て3回転というのは,他の女子選手には見られない大きな特徴です。ほとんどの一流選手は 2A を2本入れますが,その2本をそのまま 3A に置き換えた構成です。紀平 選手のFSが壮大な雰囲気を感じるのは,2A が無いことも要因の1つかもしれません。

 ボーナス加点率が低いと感じられた方は,なかなか鋭いです。宮原,坂本 両選手の4%台に対し,紀平 選手は3%台で,これは有力選手の中では最も低いです。つまり,紀平 選手はボーナスタイムをあまり活用できていないということなのですが,基礎点が高い 3A がありますので,相対的にボーナス加点率が低くなるのはやむを得ない面があります。また,これは私の推測なんですが,昨シーズンまでのルールであれば 3Lz+2T にもボーナスが付くはずでしたが,今シーズンのルール改定によってボーナスがなくなってもプログラムを変えなかった,ということかもしれません。これでも,ザギトワ 選手(ロシア)に5点近い差をつけ,全シニア女子選手中トップの基礎点を持っていますので,これで十分という判断だったと思います。

 日本の3選手は,バランスとスコア戦略を両立する 宮原 選手,得意なジャンプを前面に出す 坂本 選手,世界一の基礎点を持つ 紀平 選手と,同じ7回11本のジャンプでもその内訳には各選手の個性がよく表れています。大技や得意なジャンプに注目がいきがちですが,単独ジャンプには苦手なジャンプが入っているので,これをどう乗り切るのかを見るのも注目点だと思います。宮原 選手は 3S,坂本 選手は 3Lz が各々苦手なので,ここも見どころです。紀平 選手はやはり 3A の出来が勝負を左右するでしょう。

 次のブログでは,優勝争いの相手となるロシア勢のジャンプ構成を見てみようと思います。

NHK杯の見どころ:女子シングルはハイレベル

 今季は,五輪のあった昨季とは打って変わって,のんびりと観戦している私ですが,明日から始まるNHK杯は,リアルタイムにクリアな映像で観戦できるので例年楽しみに観ています。今季,特に観てほしい選手がいるので,紹介がてら展望してみたいと思います。

 NHK杯は,グランプリシリーズ(以下GP)というシーズン前半の主要大会6連戦の1つ(今季は4番目)です。グランプリシリーズでは,開催国のランク1位の選手は原則として出場することになっています。ですから,女子シングルは 宮原知子 選手が出場します。宮原 選手はGP初戦のアメリカ大会で優勝し,中2週という理想的な間隔で母国大会に出場します。

 例年,シーズン序盤はジャンプの回転不足が目立っていましたが,今季から回転不足の判定がさらに厳格化されることから,オフにジャンプの抜本的な矯正を行ったようです。その成果が早くも表れており,アメリカ大会のフリースケーティング(FS:Free Skating)では全てのジャンプを回転不足なしで決めました。こうなれば,元来美しいスケートをする 宮原 選手の出来ばえ点は高くなりますので,今季のルール改定が 宮原 選手に有利に働くことは間違いありません。3位以内に入れば,グランプリファイナルへの出場権を手にしますが,本人は当然母国での優勝を狙っているでしょう。

 しかし,宮原 選手が優勝候補筆頭,と簡単には言えないほど,手強いライバルが出場してきます。しかも,トリプルアクセル(3A)ジャンプを飛べる選手が2人もいるのです。その一人が,紀平梨花 選手です。おそらく,NHK杯の結果により,一気に脚光を浴びることになると思います。フィギュアスケートファンの間では既に知られた存在ですが,紀平 選手は昨季までジュニアの大会に出場しており,NHK杯がシニアデビューとなります。

 なんといっても 紀平 選手の武器は 3A。しかもただ飛べるというレベルではありません。トリプルアクセル→トリプルトウループ(3A+3T)の連続ジャンプを綺麗に着氷する技術を持っています。あの 浅田真央 さんでも,連続ジャンプは2本目がダブルトウループ(3A+2T)であり,3A+3T は大会でトライしたことすらありません。国際大会で 3A+3T を初めてそして現在唯一成功させているのが 紀平 選手なのです。このジャンプができることで,3A 単独ジャンプと併せ,FSで 3A を2本入れることができるのですが,もちろんこれも彼女だけです。

 非常に完成度が高い 3A なのでそこばかりに注目が集まってしまうのですが,女子では苦手な人が多いルッツ(Lz)ジャンプも得意で,3Lz もFSで2本入れています。そのため,シニアデビューにもかかわらずシニア女子の中で基礎点が群を抜いて高いのです。FSで3回転ジャンプを8本入れる,いわゆる「8トリプル」に成功するかどうかも注目点です。また,表現力も既にジュニア離れしたものを持っているので,ジャンプだけの選手ではなく,トータルバランスに優れた素晴らしい資質を持っています。

 シニアデビュー,母国開催,他のシニアデビュー選手の活躍(山下真瑚 選手がカナダ大会で2位)など,気合いが入る材料は揃っています。昨季の全日本選手権で3位に入り,既に実力は証明済みなのですが,全日本選手権は他の選手の五輪代表選考が注目され,年齢的に出場資格がなかった 紀平 選手のことはあまり取り上げられなかったところがありました。ぜひ,このNHK杯で 紀平梨花 の名を知らしめてほしいと願っています。

 もう一人の 3A を飛ぶ選手が トゥクタミシェワ 選手(ロシア)です。2週間前のカナダ大会では,ショートプログラム(SP:Short Program)で 3A を成功させ優勝しました。なぜか五輪の翌シーズンに調子が良く,ソチ五輪直後の2014/15シーズン(グランプリファイナル,ヨーロッパ選手権,世界選手権の3冠)を思い出す好調ぶりです。彼女はシニアデビューシーズンにいきなりGP2連勝という鮮烈なデビューを飾ったのですが,そんな彼女ももう8シーズン目で,もはやベテランの風格が漂います。3A を見事に操るシニアデビューの 紀平 選手に,華々しかった自分のデビューを重ねているかもしれませんが,トゥクタミシェワ 選手の 3A もほとんど 2A と変わらない態勢から飛ぶ素晴らしいジャンプであり,2選手の 3A が同じ大会でしかも日本で観られるのは,本当に貴重なことだと思います。

 この3人が表彰台を占める可能性が高いのですが,三原舞依 選手も今季GP初戦で張り切っていると思います。三原 選手は2シーズン前シニアデビューでブレイクしましたが,昨季は波に乗り切れず五輪出場を逃してしまいました。ですから,今季は今後の4年間に向けたスタートとして期するものがあると思います。紀平 選手や トゥクタミシェワ 選手は好不調の差があるタイプなので,彼らが不調だと 三原 選手が表彰台に食い込む可能性は大いにあると思います。

 女子シングルはとても楽しみなメンバーが揃いましたが,男子シングルにも少しだけ触れておきたいと思います。宇野昌磨 選手は普通にやれば優勝なので何の心配もありません。他の選手の中で注目は 山本草太 選手です。彼は昨季大ケガから復活し,今季は万全の状態でシーズンを迎えています。ケガを経て,スケートに力強さと表現力が備わってきていますので,今季どこまで素晴らしいスケートを魅せてくれるのか,とても楽しみです。

 SPは金曜の夕方~夜なので,リアルタイムの観戦は難しい方が多いと思いますが,FSは土曜の夕方~夜なので,ぜひリアルタイムで観ていただきたいです。特に女子シングルは,すごいスコアやハイレベルな戦いが観られるかもしれません。私もがっつりリアルタイムで観戦したいと思います。


樋口新葉,友野一希 大躍進! 【世界選手権2018感想】

 五輪直後のフィギュアスケート世界選手権は,わりと退屈な大会になるのがお約束でしたが,今年の世界選手権は違いました。スコアは低調でしたが,番狂わせやドラマがあって,良い大会だったなぁと思います。

HiguchiWakaba2018WC 女子シングルでは 樋口新葉 選手がSP(Short Program,ショートプログラム)でミスしたのを見て,またしても大舞台で力を発揮できない悪癖が出るのかととても心配でしたが,今回は乗り越えました。FS(Free Skating,フリースケーティング)の 樋口 選手は,躍動感が素晴らしかったです。FSの 145 点に驚きはありませんが,PCS(Program Component Score,演技構成点)が 70 点に乗ったのは,今後に向けて大きな収穫だったと思います。他の選手が振るわなかったことで2位となり,五輪直後のチャンスをうまく生かして世界選手権銀メダリストの称号を手に入れました。

 例年の五輪直後は休養などを取る選手が多く,世界選手権の出場選手のレベルが下がりがちですが,今年はそんなことはありませんでした。ケガを抱える メドベージェワ 選手と,元々五輪だけで世界選手権の代表になっていない 坂本花織 選手以外,五輪に出場した主要選手が揃いました。樋口 選手は五輪に出場していませんので,彼らと条件が同じではありませんが,樋口 選手は五輪代表落選から立ち直るという厳しい道を歩んできましたから,今回の成績は胸を張れますね。とはいえ,やっぱり五輪直後の世界選手権ですし,スコアは平凡。世界選手権銀メダリストの称号を自信に変えて,来季以降長くトップレベルに君臨してほしいと願っています。

 宮原知子 選手も見事に3位に入りました。回転不足があったり転倒があったりしましたが,最高の演技を魅せた平昌五輪の後ということを考えれば,大崩れしなかったのがすごいです。ケガ明けでシーズンに出遅れながらも,きっちり責任を果たした 宮原 選手に,スケートの神様が,平昌五輪で獲れなかったメダルをここで授けてくれたような,そんな気がしました。

TomonoKazuki 男子シングルは何といっても 友野一希 選手。代役の代役(羽生結弦 選手欠場,補欠の 無良崇人 選手引退)でベストスコアが 230 点台だった選手が,一気に 256 点まで伸ばしてなんと5位入賞! 来年の世界選手権(日本開催)の日本出場枠3枠確保に貢献しました。友野 選手は11月のNHK杯で良い演技をして,それ以来私も注目していました。彼は「やってやろう」という雰囲気があって,大舞台に強い感じがしますね。

 FSは,冒頭の 4S(4回転サルコウジャンプ)で着氷が乱れましたが,それでも +2T(ダブルトウループジャンプ)を付けて連続ジャンプにしたので,次の 4S が単独ジャンプで良くなり,これを決めたことで波に乗りました。もし冒頭の 4S に +2T を付けなかったら,次の 4S を連続ジャンプにしないといけないので失敗する可能性はかなり高かったと思います。なので冒頭に連続ジャンプを入れたのは良い判断だったと思います。さらに,友野 選手は 3A(トリプルアクセルジャンプ)が安定しているのが素晴らしかったです。3A は2本とも連続ジャンプで,しかも +3T と +2T+2Lo という難しい2つを両方 3A に付けるというのは,それだけ 3A に自信がある証です。今シーズンはシニアデビューの年で,ビギナーズラック的な面もあったと思いますが,上述のように技術面もしっかりしており,かつメンタルも強そうなので,来シーズン本格的にどこまで戦えるのか,とても楽しみです。

 宇野昌磨 選手は靴の調整に失敗して,さらに足を痛めた中で,それでも2位を獲るあたりは強いなぁと感じさせてくれる結果でした。4回転ジャンプで3回転倒して普通なら心が折れるところですが,最後の3つの連続ジャンプを全て成功させるあたりに,宇野 選手の真骨頂を観ました。男子シングルで平昌五輪と世界選手権で両方表彰台に乗ったのは 宇野 選手だけなので,この安定感は高く評価されていいと思います。しかし,思い返すと,グランプリファイナル,四大陸選手権,平昌五輪,世界選手権の4大会連続銀メダルなんですよね。五輪までの3大会は優勝のチャンスが十分にありましたし,今回の靴の調整失敗やケガも選手としては反省すべき点です。性格が弟キャラなのはよしとしても,成績まで弟キャラではもったいないです。来年の日本開催の世界選手権に優勝を取っておいた,そう信じたいと思います。

 ネイサン・チェン 選手(米)は,見事に平昌五輪の雪辱を果たしました。平昌五輪は本当に地獄だったと思いますし,五輪のFSで超絶演技をしても「あれはSP失敗で開き直ったからこそできた」という評価になってしまうので,SPとFSを両方揃えたい気持ちは人一倍強かったと思います。他の選手が転倒祭り状態の中,強いメンタリティーと技術で,FSで平昌五輪を超えるスコア 219 点を記録したことは,世界チャンピオンに値するものでした。ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国),ヴィンセント・ジョウ 選手(米),また女子シングルでは アリーナ・ザギトワ 選手(ロシア)らが大崩れし,五輪からコンディションを維持する難しさをまざまざと思い知らされた一方で,チェン 選手や 樋口新葉 選手のように悔しさがバネになり,結果を残した選手の強さには本当に感動しました。

 悔しさからの復活に涙,ケガに耐える演技に涙,大崩れに涙。五輪直後の,過酷でドラマティックな世界選手権でした。

平昌五輪 女子シングル 感想

 フィギュアスケートの全競技が終わりました。今回も始まってみればあっという間でしたね。女子シングルは,6位までは実力どおりの順位に落ち着いたという結果でしたが,感動しつつもなんだかモヤモヤするなぁという方もいらっしゃるようです。私のブログでは,試合の結果に対して感想を述べるときには,順位に対する言及は極力しないよう努めているのですが,今回は世間でも議論を呼んでいる話題なので,やや踏み込んで書いてみようと思います。

 まずは,宮原知子 vs オズモンド (カナダ)の銅メダル争い。宮原 選手はSP(Short Program,ショートプログラム)とFS(Free Skating,フリースケーティング)共に,ノーミスどころか着氷のぐらつきも全くない完全完璧な演技で,SP約 76 点,FS 146 点台,トータル 222 点台と,全てのスコアが自己ベストでした。五輪という大舞台で,しかもケガ明け復帰からわずか3ヶ月しか経っていないことを思えば,内容,スコア共にパーフェクトでした。応援していた多くの方々が感涙されたと思いますし,特に現役や OB/OG のスケーターから大絶賛されていますね。無駄な動きが一切ない,研ぎ澄まされた様式美が 宮原 選手の持ち味ですが,それに加え今シーズンは,今までよりもスケートの伸びやかさが増し,感情の発露も増えました。ケガが癒え,スケートができる喜びにあふれ,体重も増やし(これを言われるのはご本人は照れくさいでしょうね),宮原 選手のバージョンアップが五輪で結実しました。

 一方の オズモンド 選手は,今シーズンFSがなかなかまとまらず,私は失礼なことにミスが出ると予想しましたが,実際には見事にまとめました。3Lz のエッジ違反疑い(エッジ違反までは取られなかった)とステップアウトで少し綻びが出ましたが,それ以外は崩れることなく全てのジャンプを決めました。終わった瞬間,詳しい方なら「宮原 選手のメダルはなくなったな」と分かったと思いますが,それでも 152 点台という点数が出たときは,150 点を超えるような内容だったかな?と首をひねった方もいたと思いますし,私もその1人です。

 宮原 選手がメダルに届かなかった要因,すなわち オズモンド 選手との差について,何人かの専門家が言及していますが,結果論で言っているような印象で,腑に落ちる論評を見つけることがまだできていません。GOE(Grade Of Execution,出来ばえ点)と PCS(Program Component Score,演技構成点)の両方で差がついたのですが,GOE に関しては,オズモンド 選手について「ジャンプの幅や着氷後の流れが良かった」という意見が多くありました。着氷後の流れについては私も同意しますが,ジャンプの幅の評価についてはやや疑問を感じます。幅で飛ぶ選手もいれば,高さや回転の速さで飛ぶ選手もいるわけで,高さや速さだって良い評価を受けるべきです。宮原 選手は回転の速さが素晴らしいので,その点はもっと評価されていいと思います。ただ 宮原 選手は,回転がギリギリで着氷後の流れがあまり出ないのは確かで,それが GOE の評価が高まらない理由だとすれば,そこについては同意せざるを得ないところです。

 もっと解せないのは PCS です。宮原 71.24 vs オズモンド 75.65。1項目平均では,宮原 8.90 vs オズモンド 9.45 (小数点第3位以下切り捨て)。こんなに差があるとは到底思えないというのが私の感想です。宮原 選手を贔屓目に見てしまう点を差し引いても,宮原 選手の方が上か,もっと僅差であるべきだと思います。オズモンド 選手のダイナミックさは確かに素晴らしく,9点台に値するとは思いますが,1項目平均 9.1 前後が妥当な水準ではないかと個人的には考えます。一方,宮原 選手の余計なものが削ぎ落とされた洗練された美は,PCS の5項目のうち「パフォーマンス」(Performance)や「音楽解釈」(Interpretation of the Music)の項目においてもっと評価されてよく,1項目平均 9.2 程度出るべきだと思います。宮原 選手のような洗練された美というのは,欧米勢が大半を占める審判の方々にはきっと本質的に理解できないのではないかという気がしてきますし,何かと動作が多いロシア勢と比べ「もっといろいろできるのにサボっている」みたいに思われているのでは?とさえ思ってしまいます。

 宮原 選手に五輪メダルを獲ってほしかった気持ちは強いですが,既に世界選手権とグランプリファイナルのメダルは手にしていますし,何より世界中のファンやスケーターから寄せられた称賛は,メダルよりもはるかに価値が高いです。宮原 選手はSPとFSが両方ノーミス(転倒・回転不足・回転抜け・レベル取りこぼし・出来ばえ点マイナス 全てなし)でしたが,これは ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手と計3人だけが達成しました。また,五輪でのSP・FS両方ノーミスは,現行の採点方式になった2006年トリノ五輪以降,日本男女シングル選手では初めて(現時点では唯一)の偉業です。こういったことで私たちは自分を納得させつつ,オズモンド 選手の銅メダルに拍手を贈りたいと思います。

 続いて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手の金メダル争いを見ていきます。ザギトワの勝因として,演技時間後半に全てのジャンプを入れたことを挙げる記事が多いですが,これは本質を突いているとは言えません。確かに最もわかりやすい ザギトワ 選手の特徴ではあるのですが,メドベージェワ 選手もSPでは全てのジャンプを後半に配置し,FSでも他の選手より多い後半5本という策を採っています。後半全ジャンプより重要なポイントは「ザギトワ 選手が 3A を入れないジャンプ構成としては最高の構成を組んでいる」ことと「メドベージェワ 選手のジャンプ構成はかなり難度が低い」ことです。

 両選手のFSのジャンプ構成を比べてみます。★印は2本入れることを表します。

  • ザギトワ: 3Lz★, 3F★, 3S, 2A★; +3T, +3Lo, +2T+2Lo
  • メドベージェワ: 3Lz, 3F★, 3Lo, 3S, 2A★; +3T★, +2T+2T

 ザギトワ 選手は 3Lz と 3F を2本ずつ入れていますが,まずこれが高難度です。Lz と F は一方が苦手な選手が多く,どちらかは1本にせざるを得ない選手が多い中,どちらも苦にせず2本ずつ入れられる ザギトワ 選手のジャンプ技術が素晴らしいのです。そしてもう1つの武器は +3Lo の連続ジャンプです。もちろん,これを飛べること自体がすごいのですが,+3Lo を入れるもっと重要な意義は,3A を入れない場合の最高得点となる構成を組むことができる点です(なぜ最高得点の構成になるかの説明は割愛します)。ザギトワ 選手の技術点が高いのは「演技時間後半に全てのジャンプを入れている」や「3Lz+3Lo が飛べる」ことよりも「技術点が高くなるようにジャンプ構成を組んでいる」ことが根本的な要因なのです。

 一方,メドベージェワ 選手は 3Lz が苦手なので1本しか入れず,また3連続ジャンプでは,一般的な +2T+2Lo より難度が低い +2T+2T を採用しています。これは,ザギトワ 選手だけでなく他のトップレベルの選手と比べても基礎点がやや低い構成です。基礎点では無理をせず,ジャンプの完成度を極限まで上げて高い GOE を得ることでカバーするのが メドベージェワ 選手の戦略です。

 技術点の点差は,今までなら PCS で メドベージェワ 選手が跳ね返すことができていたのです。ところが,五輪直前のヨーロッパ選手権で ザギトワ 選手の PCS が跳ね上がり,6~7点あった差が2~3点に詰まったのです。メドベージェワ 選手は PCS で跳ね返すことができなくなり,ザギトワ 選手のミスを待つか,究極の演技で PCS をFSで 79 点台(1項目平均 9.875 点以上)にするしかなくなりました。メドベージェワ 選手の PCS は77点台に留まり,FSも ザギトワ 選手と同点にするのが精一杯でした。とはいえ,PCS 77 点台は1項目平均 9.68 点であり,もう満点に近い点数です。ですから,ザギトワ 選手の金メダルに疑問を抱くことは「ザギトワ 選手の PCS 75 点台は高過ぎるのでは?」と思うことと等しいのですが,私の意見は「ザギトワ 選手の PCS は妥当」です。絶対値としては高過ぎると思うのですが,それは メドベージェワ 選手にも当てはまると思っているので,両選手の差はこの程度だと考えます。

 ザギトワ 選手は,SPの完成度が素晴らしかったです。動作がキビキビとしていて,メリハリが今までと段違いでした。SPの PCS を,ヨーロッパ選手権の 36.28 点から平昌五輪で 37.62 点まで引き上げましたが,この 1.34 点の上積みは,奇しくも メドベージェワ 選手との 1.31 点差とほぼ同じであり,ヨーロッパ選手権から1ヶ月弱の成長分が ザギトワ 選手に金メダルをもたらしたことになります。

 FSで7本のジャンプを全て演技時間後半に入れている点について,アシュリー・ワグナー 選手(米)が異を唱えて話題になりましたが,彼女らしくない言い掛かりに近い指摘だと感じました。もし後半のジャンプがプログラム全体に調和していないなら,審判がもっと PCS を低くするはずですが,実際には メドベージェワ 選手に迫る PCS が出ていますし,私もそれを妥当だと感じています。ザギトワ 選手のFSプログラム「ドン・キホーテ」は,構成が実によくできています。このプログラムの良さを,私は昨年のフランス大会の感想のブログ記事で下記のように記しました。

冒頭→ステップ→連続ジャンプ3回→単発ジャンプ4回と進んでいく場面ごとに曲調が変化し,スピンやジャンプの各要素と音楽の同調性も非常に高いので,技が決まるととても映えるのです。前大会では,3回の連続ジャンプが「演技後半の時間帯に入ったからどんどん飛ぶぞ」的なせわしなさが感じられたのですが,今回はその部分にも流れがあって悪くなかったです。

 フランス大会では,演技時間後半にジャンプが矢継ぎ早に入る箇所に,以前感じていた違和感がなくなり,しっくりくるようになってきたと私は感じました。その後,グランプリファイナル → ロシア選手権 → ヨーロッパ選手権 と大舞台で実戦経験を積む中で,後半のジャンプがプログラムによく溶け込むようになっていったと思います。平昌五輪では,最初の 3Lz に +3Lo を付けられず,2回めの 3Lz に付けてカバーしましたが,それにより「連続ジャンプ3回の重厚さ」から「単発ジャンプ4回の小気味よさ」へと続く流れが崩れました。それで PCS が 75 点台になりましたが,ジャンプが全て予定どおりで完璧だったら,PCS がさらに上がり,メドベージェワ 選手の歴代最高のトータルスコア(241 点台)が塗り替えられていたと予想します。

 結局のところ,ザギトワ 選手の勝因は「高い技術点を実行し演技構成点の不足を補おうとしたが,実戦経験を経て演技構成点が急伸し,技術力,芸術性,完成度がバランスよく揃った」ことなのです。神プログラムである「ドン・キホーテ」を手に入れ,完璧に遂行した ザギトワ 選手が金メダルを手にしたことを,私は心から称賛したいと思います。

 一方の メドベージェワ 選手は,直近3シーズン,頂点を維持し続けたにもかかわらず,ケガと若手の突き上げによってまさかの銀メダルに終わったことで,同情を集めているところもあるのかなと思います。私も,ソチ五輪後の4年間という視野で見れば,メドベージェワ 選手が金メダルに最も相応しいとは思いますが,肝心の五輪シーズンにケガをしてしまっては,金メダルを逃すのもやむを得ません。彼女自身,シニアデビューシーズンでいきなり世界女王に輝きましたから,ザギトワ 選手の飛躍に納得していると思います。

 私は,彼女の今シーズンのFSプログラム「アンナ・カレーニナ」が,ずっとしっくりきませんでした。シーズンが始まってからプログラムを変更したようですが,そうしたことが準備の面で響いたことは否めないでしょう。ヨーロッパ選手権や平昌五輪では,ある種の気迫のようなものが感じられ,私はその気迫を好意的に捉えていましたが,プログラム全体の完成度を上げ切る前に平昌五輪を迎えてしまったのかもしれません。個人的には,昨シーズンやその前に演じていた,抒情性の高いプログラムで主人公の内面をしっとりと表現する方が,メドベージェワ 選手らしさが出たのではないかと,結果論ですが思ってしまいました。

 とはいえ,この2人の息詰まる同門生対決は,後世に語り継がれる名勝負でした。ヨーロッパ選手権で,後輩の ザギトワ 選手から優勝という形で挑戦状を叩きつけられた メドベージェワ 選手は,ケガからの復帰で一息つくことも許されず,モチベーションも緊張感も極限の日々を過ごしたことと思います。そして,それは五輪直前に思わぬアドバンテージを手にした ザギトワ 選手も同じだったと思います。そんな極限の状態でも,ミスとは無縁の,GOE や PCS でスコアの小数点以下を争う,本当に異次元の戦いでした。2人が記録した 238~239 点台は,当然,五輪史上最高スコアであり,それに相応しい極めて完成度の高い感動的な演技でした

 最後に,坂本花織 選手に触れておきます。FSはジャンプをふわっと着氷していて余裕がありましたし,パントマイムもとても自然にできていて,これは神演技になる…と思った6つ目のジャンプ 3Lo でステップアウト。それでも,209 点台という200点超えのスコアで6位に入賞したのは見事でしたし,SPで自己ベストを出しFSを最終グループで演技することができたのは,貴重な経験になったと思います。全日本選手権の直前から急成長して代表の座をつかみ,四大陸選手権で優勝して良い流れで平昌五輪を迎えましたが,団体戦FSでは不本意な出来で,これで個人戦が不甲斐ない成績だと「なぜ 坂本 選手を代表にしたのか」という声が出かねないところでした。日本女子2枠という難しい状況の中で,本当に素晴らしい成績を残したと思います。

 1年前,坂本 選手が世界ジュニア選手権で表彰台に一緒に上った ザギトワ 選手が,今や世界一。その演技を観て,いろいろ思うところがあったのではないかと思います。現役の日本女子選手で2人しかいない五輪出場者の1人として,今後もっともっと成長して,世界一を争える選手になっていくのではないか,そんな大きな期待をしながら,坂本 選手を今後も応援していこうと思います。

LadiesMedalistPyeongchang2018

日本勢メダル濃厚:平昌五輪女子シングルSP終えて

 平昌五輪フィギュアスケート女子シングル。21(水)に行われたSP(Short Program,ショートプログラム)は,上位5選手がパーフェクトで自己ベストという,かつてないハイレベルな戦いになりました。その中に日本の2選手,宮原知子坂本花織 がいることは,とても嬉しいですね。

 ザギトワ,メドベージェワ の両ロシア選手は完全に実力が飛び抜けていますので,日本選手の現実的な目標は銅メダルとなります。ライバルは,SP3位の オズモンド 選手(カナダ)と,6位の コストナー 選手(イタリア)に絞られたと考えていいと思います。2選手が絶好調なら銅メダルは彼らの争いになりますが,今シーズン,彼らのFS(Free Skating,フリースケーティング)はジャンプが揃ったことがなく,スコアが130点台にとどまることも珍しくありません。五輪に照準を合わせてきているとは思いますが,逆に五輪だからこそごまかしがきかずに苦手な技でミスが出るのが平昌五輪の傾向であり,おそらくミスが出てしまうでしょう。特に,オズモンド 選手は,滑走順が ザギトワ 選手の直後なのでとてもやりづらいと思いますし,日本選手が良い演技だった場合,オズモンド 選手にはかなりの重圧がかかるので,ノーミスはなかなか難しいと思います。

 ですから,宮原,坂本 両選手がノーミスなら彼らより上位に行く可能性が高いです。両選手は最も重圧のかかる全日本選手権でノーミスの演技を魅せ,日本の2枠という世界一狭き門をくぐり抜けてきましたので,ノーミスの可能性は極めて高いです。よって,両選手が銅メダルを争うという,嬉しいやら辛いやらという展開になると思います。

 両選手の基礎点はほぼ同じなので,SPの点数差と演技構成点の差で,宮原 選手が優位に立っています。ノーミスの演技ができれば銅メダルを手にできる可能性はかなり高いと思います。宮原 選手は,ソチ五輪後の4年間ずっと世界トップレベルを維持した数少ない選手の1人ですので,五輪メダリストになってほしいと多くの関係者が願っていると思います。

 ただし,宮原 選手に1つでもミスが出れば,坂本 選手が上位に来る可能性も十分にあります。坂本 選手は,単なるノーミスでは 宮原 選手を超えるのは難しいですが,全てが完璧であれば,出来ばえ点が多く加算され,演技構成点も今までより高くなることが見込まれるので,逆転できると思います。団体戦FSでは今一つだったので,個人戦では完璧にしたい気持ちが強いと思うので,完成度の高い演技を魅せてくれることでしょう。

 以前のブログでも指摘したのですが,現行の採点方式で,五輪でSPとFS両方ともノーミスを達成した日本選手は,今まで1人もいません。トリノ五輪金メダルの 荒川静香 選手も,FSで3回転の予定が2回転になるジャンプが1つだけあったのです。宮原,坂本 両選手にはぜひ日本選手初のノーミスを達成して,メダルを手にしてほしいと願っています。

 さて,ザギトワ vs メドベージェワ 両選手による金メダル争いは,SPで既に ザギトワ 選手がリードするというまさかの展開。ザギトワ 選手のSPは,気持ちが前面に出ていて,メリハリも今までより格段に良くなっていたので,82 点台という歴代最高スコアを記録するのは当然という演技でした。FSも同じ程度の出来なら ザギトワ 選手の方がスコアが高いので,このまま ザギトワ 選手が金メダルを獲る可能性が高く,メドベージェワ 選手はかなり追い込まれました。

 ただ,メドベージェワ 選手が全てを完璧に入れ,感情が前面に出る演技ができれば,出来ばえ点と演技構成点が伸び,ザギトワ 選手を上回る可能性もあります。ヨーロッパ選手権では,今までにないような,感情が表に出る演技が観られたので,それが再現できれば勝負の行方はもつれそうです。ザギトワ,メドベージェワ 両選手とも,少しの傷も許されない,究極の演技合戦になることは間違いなく,トータルスコアが 245 点に届く可能性さえあるかなと思います。

 平昌五輪のフィギュアスケートの1位と2位は,奇しくも「後輩が先輩を立てる」法則が成り立っています。男子シングルは日本勢の先輩である 羽生結弦 が,アイスダンスは同門生の先輩である ヴァーチュー & モイヤー 組(カナダ)が金メダルを獲りました。この法則に則れば,メドベージェワ 選手が優勝なんですが,女子シングルはその法則が崩れ,ザギトワ 選手が金メダルを手にする可能性が高い状況です。果たしてどうなるでしょうか?

女子シングル2枠代表選考を振り返る 【スポーツ雑誌風】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 フィギュアスケートの女子シングル平昌五輪代表は,宮原知子,坂本花織 の2選手に決定した。宮原 選手は日本女王の貫録でつかみ取り,坂本 選手は,競馬に例えるなら4コーナーから一気の末脚で馬群から抜け出した。4年間を支えてきた大エースと,シニアデビュー組の2人という,2枠としてはなかなか良い陣容となった。五輪の代表選考は,今シーズンの内容が大きく関わってくるが,4年間の集大成という位置付けでもあるので,この4年間を追いながら代表決定までのドラマを振り返りたい。

◆ソチ五輪後

 ソチ五輪の女子シングル代表だった3選手は,鈴木明子 が引退,浅田真央 が休養,村上佳菜子 が現役続行も成績停滞と,一気に世代交代の機運が高まった。そこに名乗りを上げたのは,宮原知子本郷理華 だった。宮原 は,ソチ五輪の翌シーズン(2014年)から全日本選手権を4連覇。本郷もソチ五輪の翌シーズン(2015年)から世界選手権に3年連続で出場。4年間の実績で代表を選ぶなら,この2人が選ばれていただろう。そのくらい2人は,この4年間の日本フィギュアスケート界を支えた。

 浅田 が1年間の休養を経て2015/16シーズンに復帰を果たし,復帰シーズンにもかかわらずGP(グランプリ)ファイナルにも世界選手権にも出場した,見事な復帰だった。さすが 浅田,これなら平昌五輪でも勝負できるのでは,そう思ったのも束の間,翌2016/17シーズンはケガもあって精彩を欠き,五輪シーズンを前に潔く身を引いた。

 その2016/17シーズン(昨シーズン)に台頭したのが,シニアデビューの 三原舞依樋口新葉 だ。2人は全日本選手権の表彰台に乗り,宮原 と共に四大陸選手権と世界選手権の代表になった。しかし,シーズン後半,2人の明暗は分かれた。三原 は,平昌五輪のリンクで開催された四大陸選手権で優勝,世界選手権はSP(Short Program,ショートプログラム)で出遅れながらFS(Free Skating,フリースケーティング)で巻き返し5位に入賞した。一方,樋口 は四大陸選手権,世界選手権ともに8位入賞さえも逃し,平昌五輪の代表枠をまさかの2枠に落としてしまった。これは,宮原 のケガの快復が間に合わず世界選手権を欠場したことが響いたが,樋口 はあと1つミスが少なければ3枠を確保できる順位に上がれただけに,日本にとってはあまりに厳しい世界選手権の結果だった

◆樋口新葉

 樋口 にとっては,自分の演技によって五輪代表枠を2枠に落としたことが,代表決定の局面で自分の首を絞めてしまった。しかし逆の見方をすれば,その責任を感じながらも,代表選考の最後の選択肢までよく残ったと見ることもでき,この健闘は大いに称えられるべきである。世界選手権の失意の後,国別対抗戦にも駆り出されたのを見て,国別対抗戦の結果によっては 樋口 が潰れてしまうのではないかと,私はかなり本気で心配したが,国別対抗戦で 樋口 は日本史上最高スコアのFSを披露し,それまでのもやもやを吹き飛ばしてシーズンを終えた。悔しさと成長を手にした 樋口 の五輪シーズンには期待と不安が入り混じっていた

 今シーズンに入ると,樋口 は前哨戦のロンバルディア杯でスコア217点の好スタートを切った。GPシリーズに入っても210点台を連発し,ロシア大会3位,中国大会2位と2戦続けて表彰台に乗った。シリーズ2戦とも表彰台に乗った日本女子選手は 樋口 だけだ。しかし,これだけの好成績にもかかわらず,GPファイナル進出を(中国大会の4週間後の)シリーズ最終戦(アメリカ大会)まで待たされたことが,ファイナルや全日本選手権までの調整を難しくしたのかもしれない。ロシア大会でミスを1つ減らして2位になるか,中国大会で GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)や PCS(Program Component Score,演技構成点)を1点強プラスして優勝するか,どちらかができていれば中国大会の時点でファイナル進出が確定していた。こういう1ミス・1点の重みを,今シーズンの 樋口 は痛感したに違いない。

 また,ファイナル進出が決定したのは,アメリカ大会で 宮原 が優勝,坂本 が2位に入り,他のファイナル進出候補選手の順位を下げてくれたおかげだった。もし彼らが上位に入らなければ,樋口 はファイナルに進出できなかっただろう。日本選手にサポートしてもらう形でファイナルに進出した 樋口 は,ここで表彰台に乗るか,乗れなくても良いスコアが出せれば,代表選考の際の印象はかなり違っていたはずだが,もらったチャンスを生かすことができなかった。昨シーズンの四大陸選手権,世界選手権に続き国際一線級大会3連続不発となり,この時点で,大舞台に弱い 樋口 を五輪代表にするのは酷だと私は感じた。結局,樋口 が平昌五輪代表を逃し,樋口 のファイナル進出をアシストした 宮原 と 坂本 が代表になったところに,勝負のあやを感じずにはいられない。

 樋口 はシニアデビューの昨シーズン,しきりに「大人の演技をしたい」「表現力を強化したい」と言い続け,ジャンプ等の技術向上と表現力強化の両立を図ろうとしていたが,私はシーズン開始時からその戦略に不安を抱いていた。四大陸選手権と世界選手権で崩れたときには,嫌な予感が当たってしまったと思ったのだが,今シーズンの PCS が伸びたのは昨シーズンの表現力の強化が実を結んだとも言えるので,その戦略の善し悪しは安易には評価できない。しかし,五輪代表落選の現実は,戦略を見直す良い機会になる。樋口 はもっと技術点重視で臨むべきであると私は今でも考えており,ぜひ今シーズンには間に合わなかった 3A(トリプルアクセルジャンプ)をすぐにでも習熟させて,プログラムに華やかさを加えてほしいと願っている。3A 導入の効果は,飛べることのすごさだけではなく,他のジャンプが楽に飛べるようになったり,プログラムに組み込むジャンプの選択肢が広がることにある。このことは,浅田真央 や 紀平梨花 が証明している。3A は必ず 樋口 を強くすると私は信じている。

◆三原舞依

 昨シーズンの四大陸選手権は平昌五輪のリンクの予行,世界選手権は平昌五輪の枠取りという点で,例年より重要度が高かった。そんな2大会で好成績を上げ,さらに国別対抗戦で218点という日本史上最高レベルのスコアを出したこともあり,三原 は平昌五輪代表に相応しいと私は強く感じていた。なので,三原 が代表を逃したことは残念でならない。だが,今シーズン当初から嫌な予感はあった。GPシリーズの対戦カードが厳しかったのだ。三原 は中国大会とフランス大会に出場したが,この2大会は出場者のレベルが他の大会より高かった。とはいえ,両大会とも ザギトワ(ロシア)が出場したので優勝は難しいとしても,両大会で2位ならファイナルに進出でき,これは 三原 の実力ならさほど難しくないミッションのように思われた。

 だが現実は,2大会とも200点を超えながら4位に終わった。2大会とも200点以上を記録した選手で表彰台に立てなかったのは 三原 だけであり,対戦カードの不運に見舞われた。安定した成績を残しながら,代表選考の選択肢にも上がらなかったのは意外としか言いようがないが,今シーズンで1戦でも,SPとFSが両方ノーミスで210点を超えるスコアを出していれば,違った展開になったかもしれない。そこまで突き抜けられなかった原因は,SPでずっとミスが出続けたことだった。SPはタンゴという 三原 には不向きなジャンルにチャレンジし,FSと全く違う世界を魅せることで表現の幅をアピールする作戦だったのかもしれないが,結果論で言えば五輪シーズンに採る戦略としてはリスクが大きかった。三原 はプログラムを体にしみこませ,完全に自分のものになると完成度が上がっていく。昨シーズンの後半はそれがハマったが,今シーズンはタンゴがなかなか体に入り込まなかったのではないか。三原 がタンゴを消化しきれていない,という意見は観る側のブロガーなどからも上がっていたし,ひょっとすると全日本選手権でSPを昨シーズンのプログラムに戻すかもしれないと私は思っていたが,そこまでの荒療治は行われなかった。

 練習ではノーミスで通せていたそうだが,それが大会で発揮できない。そのもどかしさが,全日本選手権ではまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒という形で出てしまった。練習でできることが本番でなぜかできないという状況は,原因がどこにあるのかわからず,昨シーズンの成功体験とのギャップもあり,モヤモヤしたままシーズンが進んでいったと思う。これがシニアデビュー2年目のジンクスだったのだろう。樋口 も 三原 も,直近2シーズン,日本女子をリードしたにもかかわらず,五輪代表落選という形で課題が突き付けられるのは酷だが,若くしてこのような大きな経験ができたことは必ず今後に生きてくるだろう。2シーズンの活躍が評価され,三原 は四大陸選手権,樋口 は世界選手権の代表に選出された。彼らなら気持ちを切り替えて再スタートを切ってくれることだろう。

◆宮原知子

 宮原 が無事に平昌五輪の代表になり,関係者はホッと胸をなでおろしたことだろう。ソチ五輪後の4年間,全日本選手権を勝ち続け,世界ランキング1位に君臨したこともある 宮原 が,五輪に出場できなければあまりに気の毒だからだ。宮原 は,

  • 2015年 世界選手権:2位
  • 2015年 GPファイナル:2位
  • 2016年 世界選手権:5位
  • 2016年 GPファイナル:2位

と,非常に安定した成績を残していたが,2017年1月に股関節骨折が発覚し,昨シーズン後半は休養を余儀なくされた。昨シーズンは五輪プレシーズンというだけで重圧がかかる上に日程も過密で,四大陸選手権が平昌五輪のリンクでの開催なので出場必須な上に,その翌週に札幌でアジア大会に出場するという,厳しすぎる日程だった。これらを乗り切るために練習過多になったとしても不思議ではない。結局 宮原 は「五輪会場の経験」「アジア大会の盛り上げ」「世界選手権の2年ぶりのメダル獲得」「五輪3枠の維持」これらを何一つ果たすことができず,宮原 陣営は責任を感じていたと思う。ただ,もしアジア大会後に骨折していたら,平昌五輪の出場は絶望的だっただろう。今思えばギリギリのタイミングでのケガだったと言える。

 ケガからの復帰が11月のNHK杯までずれこんだとき,不安はかなり大きかったことだろう。宮原 は豊富な練習量で演技の完成度を上げていく選手なので,ケガが長引き追い込んだ練習ができないことを不安視する声はあった。しかし,復帰後の演技は今までの 宮原 選手とは一味違っていた。今までは,求められる振付を100%実施するという感じだったが,復帰後は,身体の使い方に躍動感が増し,表現が力強くなった印象を受けた。スケートができる喜びにあふれ,休養中にスケート以外で吸収したことが表現に生かされているように感じた。復帰2戦目のアメリカ大会は,ノーミスというレベルではなく完璧な出来で,その演技は神々しさに満ちていた。ここで完璧な演技ができたことで,練習量や試合勘の不安は完全に払拭され,自信を得たに違いない。これで五輪代表入りは間違いないと私は確信した。GPファイナルは,メドベージェワ(ロシア)欠場による繰り上げ出場だったため本気を出さず,全日本選手権にきっちりとピークを持っていった。

 怪我の功名という言葉は,正に 宮原 に当てはまる。練習をハードに追い込まなくても良い演技ができるという経験が得られ,休養を経て表現力が上がったこれらの武器を手に入れた 宮原 は今まで以上に強い。ケガの不安がある メドベージェワ,まだ若く経験値が少ない ザギトワ らが脅威を感じる存在になるだろう。

◆坂本花織

 シンデレラガール,ダークホース,ライジングスター,様々な表現で驚きをもって迎えられた 坂本 の五輪代表選出。だが,GPシリーズをじっくり観戦していた方は,坂本 がポッと出ではないことをご存知だろう。GPシリーズのベストスコアランキング7位,今シーズンの世界ランキング7位と,十分に世界で戦える力を身に付けてきた。全日本選手権の4週間前のアメリカ大会で一気に覚醒したのは,それまでの豊富な実戦経験が花開いたものだった。GPシリーズ前の前哨戦に(多くの選手が1戦のところ)2戦出場。全日本選手権のシード権を持っていなかったため,出場権を得るために国内大会にも出場した。ノーシードでの2位とはお見事であり,マラソンの 川内優輝 ばりに大会に出続けて実戦経験を積んだことが奏功した。

 アメリカ大会の前まで 坂本 のスコアは200点未満が続いていたが,アメリカ大会で一気に世界の一線級である210点に到達した。物事の成長は直線的ではなく階段状である,とよく言われるが,坂本 のスコアの成長はその好例である。なかなか200点の壁を越えられずもがいたと思うが,めげずに実戦をこなしたことで,ちょうどアメリカ大会でジャンプアップできたのだろう。この時の演技は完璧で,特にFSの「アメリ」が素晴らしかった。この演技が全日本選手権でもできれば優勝も夢ではない,本当にそう思うほどだった。それにしても,アメリカ大会でのジャンプアップは,絶妙なタイミングだった。もっと早くスコアが出ていれば,慢心や重圧が生じたかもしれないし,アメリカ大会でスコアが伸びなければ,全日本選手権の好成績がまぐれだと受け取られたかもしれない。全日本選手権でスコア213点を出したことで,2大会連続で210点超えとなりアメリカ大会を上回ったことは,安定と成長を印象付け,五輪代表入りの大きな決め手となったに違いない。

 たまたま直近2大会でスコアが出ただけという見方もできるのだが,樋口 とどちらが代表に相応しいか個人的に検討したブログ記事を書いたとき,様々な観点を書けば書くほど 坂本 が相応しいという気持ちに私は傾いていった。重要な大会(昨季の四大陸選手権・世界選手権,今季のGPファイナル・全日本選手権)の成績が(ノーミス演技を勝ちと考えたとき)樋口:0勝4敗,坂本:1勝0敗であり,この観点では比較しづらいのだが,これだけ大舞台に弱く,2枠に落とした主たる要因だった 樋口 を五輪代表には推しづらかった。一方で,坂本 の経験値が 樋口 より少ないのは事実であり,全日本選手権において,SPトップ&FS最終滑走という状況がなければ,あるいは,もう少しジャンプがふらつくなどしてスコアが210点に届かなければ,坂本 の代表入りはなかったかもしれない。さらには,2人の直接対決は今シーズン1勝1敗(ロシア大会,全日本選手権)。正に「総合的な判断」によって 坂本 が選ばれたのだろう。

◆五輪代表選考のドラマ

 2シーズンに渡って活躍していた 樋口 ではなく,シニアデビューの 坂本 が選出されたことで,それなら始めから全日本選手権一発勝負でよかったのでは?という意見も見られる。わかりやすさという点では一理ある意見だとは思うが,優勝者以外は総合的判断という現在の方式を私は基本的に支持する。まぐれで上位に来た選手の代表入りを防げるのが一番大きな理由だが,他に,国際大会と国内大会の違い,好不調の出やすさ,といったことへの考慮が必要という理由もある。これらの詳細な説明はここでは割愛するが,現在の方式だったからこそ 樋口 が最後まで代表選考の選択肢に残ったのであり,これは妥当な選考過程だったと思う。

 ただ,1つ課題に思うことは,全日本選手権の前に全く代表内定が出ない点だ。現行の方式では,たとえGPファイナルで優勝しても代表が確約されないので,全日本選手権に全力を注がざるを得ない。これはピーキングを非常に難しくするし,GPシリーズからずっと頑張ってきた選手が代表入りすると,それまでの疲労により五輪にベストな状態で臨めないリスクがあると思う。私はGPファイナルのメダリスト(1~3位)は五輪代表内定にすべきだと考えている。もしそのような選考基準であれば,樋口 はGPファイナルの集中度がもっと高くなり,違った結果になったかもしれないと思うのだ。全日本選手権の権威を高めたい気持ちはわからなくもないが,国際大会の経験や成績は五輪で上位に入るために不可欠であり,GPファイナルに出場するにはGPシリーズで良い成績を継続する必要があることから,GPファイナルで内定を出すことは理にかなっていると思う。

 樋口 はGPファイナル6位ではあったが「GPファイナル出場者上位2名」という今回の選考基準を満たした。この基準はソチ五輪の時にはなかったもので,ソチ五輪では「GPファイナルメダリストのうち上位1名」という今回より厳しい基準があった。なぜ今回の基準になったのかについては,ソチ五輪の時の反省があると私は推察する。ソチ五輪の代表選考において,男子シングルの 織田信成 は,GPファイナルで3位に入ったにもかかわらず,羽生結弦 が優勝したため「GPファイナルメダリストのうち上位1名」という選考基準を満たさなかった。そして,織田 は全日本選手権で4位となり「全日本選手権2位・3位」という選考基準も満たさず,結局,代表選考の選択肢に残らなかったのだ。このシーズン,織田 は総じて好調だったので,「GPファイナル出場者上位2名」という選考基準があったら,当時ケガを抱えていた 高橋大輔 ではなく 織田 が選ばれた可能性が高く,結果論で言えば 織田 は五輪の銅メダルを獲れた可能性が十分にあった。今回,樋口 がこの選考基準を満たしたことが選考を悩ませる一因だったわけだが,そこにはこのような過去の反省が生かされていたのである。

 今回の五輪代表選考のドラマは,頑張り続けた 樋口 と急浮上した 坂本 という対照的な2人によって生み出された。樋口 は昨シーズンの世界選手権で2枠陥落の主因となったものの,その悔しさをバネに今シーズンはGPファイナルに出場し,終始,五輪代表争いをリードした。坂本 は国内大会などの地道な実戦がラスト2大会で結実し,全日本選手権で初めて大きな注目を浴びながら見事な演技を魅せた。恵まれているとはいい難い体格ながら高い実力を持ち,しかし肝心な大会でそれを出し切れない 樋口 に,私はもどかしく思いつつ自分を見ているような親近感を覚えた。高い素質がありながら今まで本格的な注目を浴びてこなかった 坂本 が平昌五輪の代表争いに急浮上する姿は,陰ながら応援してきた私としても望外の喜びだった。どちらが選出されても五輪代表に相応しい資質を備えている2人だからこそ,今までで最も難航したとされる五輪代表選考のドラマが生まれたのだと思う。

 五輪代表は 坂本 になったが,世界選手権代表は 坂本 ではなく 樋口 に割り当てられた。フィギュアスケートは,五輪のシーズンにも世界選手権を開催する珍しい形態が採られているが,五輪代表と世界選手権代表でメンバーが変わる例が今まであっただろうか。それだけ 樋口 の功績や実力が高く評価されたことの表れである。昨シーズン2枠に落とした借りを今シーズン返してこい,というメッセージにも読み取れ,見方によっては粋な計らいとも残酷とも解釈できるが,今の 樋口 ならやってくれる気がしている。樋口 本人が発した「倍返し」の物語の始まりに注目したい。

 年が明ければすぐに平昌五輪を迎える宮原メダル争いが目標だが,坂本 にそこまで求めることは無理があり,トップ5に入れば大健闘だ。順位よりも,2人にはミスなく GOE で大きな加点がつくような演技を期待したい。実は,過去のデータを調べてみると,新採点方式になった2006年以降,五輪でSPとFSの両方をノーミスで演技したシングルの日本選手は,男女共に1人もいないのだ。2006年トリノ五輪金メダルの 荒川静香 でさえ,FSで1つジャンプの抜けがあった。2010年バンクーバー五輪5位の 安藤美姫 も良い内容だったが,SPでジャンプの回転不足があった。間違いなく史上最高レベルの大会になるであろう平昌五輪で,宮原 と 坂本 には,ぜひ日本シングル史上初のノーミスを達成し,キスアンドクライで最高の笑顔を見せてほしい

涙の全日本選手権

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 五輪シーズンのフィギュアスケート全日本選手権。4年に一度の五輪が絡むので,どうしても張り詰めた空気に覆われてしまいますが,今年は特にいろいろな涙に彩られた大会だった気がします。

◆女子シングル

 FS(Free Skating,フリースケーティング)を終えた後の 宮原知子 選手の涙。この4年間の日本フィギュアスケート界を支え続けたプライド,ケガ明けの不安や恐怖,それに打ち勝った安堵感,それらが凝縮された瞬間でした。無事に平昌五輪代表になった今となっては,正に怪我の功名だったと思います。様々なエピソードが報じられていますが,スケートだけでなく,リハビリでも空いた時間の活動でも,黙々としかし着実に実行していたという話を聞くと,それらの努力が全て今大会のスケートに結実したのだなと思います。

 以前から定評のあった,動作に一切の無駄がなく研ぎ澄まされた表現は,今季のスケートアメリカで神々しさをまとい始め,もう今季はこのまま平昌五輪まで突き進む,そう私は確信しました。その確信どおり,今大会ではスコアを220点に乗せ,高らかに平昌五輪のメダル争いに名乗りを上げました。このスコアでもまだ,SP(Short Program,ショートプログラム)とFSの両方でジャンプの回転不足が1ヶ所ずつあり,他のジャンプでも GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)を伸ばせる余地がありますので,技術点の上乗せだけで225点,演技全体が完璧なら PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに伸びるので,トータル230点も見えてきました。このスコアを出せば確実にメダルに手が届きます。一度は諦めかけた平昌五輪を手繰り寄せた 宮原 選手には,きっと4年間の努力に対するご褒美がある,そう信じたくなる今大会の演技,そして涙でした。

 SPで 宮原 選手をわずかに上回りトップに立った 坂本花織 選手。プログラム「月光」は今までで一番の出来でした。思いのほか高い点数が出て,キスアンドクライで「わ~」と驚きながら存分に喜ぶ姿には,観ているこちらも嬉しくなりました。しかし,急に降って湧いたSPトップで,しかもFSは最終滑走。こうなる可能性を大会前にどれほど想定していたかわかりませんが,五輪シーズンでとてつもないプレッシャーがかかったと思います。

 FSは,冒頭の連続ジャンプで,セカンドジャンプが回転不足になり詰まってしまうあたり緊張が出ていましたが,その次のジャンプが膝を柔らかく使いながらふわっと着氷したのを観て,最後までミスなくできそうな予感がしました。実際にジャンプはミスなく入れることができましたが,「アメリ」というプログラムは最初から最後までパントマイムなどの細かいつなぎが満載で,前の大会に比べつなぎの表現に余裕がないように見えました。それでも 坂本 選手はそれなりに手応えを感じ,宮原 選手に勝てないまでもある程度迫る点数を期待していたようで,キスアンドクライでスコアが出たとき,坂本 選手は「あれっ」という表情を見せていました。スコアが140点にわずかに届かなかったのは,PCS の伸び悩み,冒頭ジャンプの回転不足,3Lz(トリプルルッツジャンプ)のエッジの問題で GOE 加点なし,の3つが原因でした。それでも,伸びしろを残しながらトータル213点を出したということは,GOE で加点された要素も多くあったということであり,ものすごい重圧を思えば見事な演技だったと思います。

 今大会の演技を観た関係者は,坂本 選手の舞台度胸と五輪までの伸びしろを高く評価したのでしょう。坂本 選手に平昌五輪代表の座がめぐってきました。代表争いに関する感想は別途記事を書きたいと思いますが,今大会の演技は 坂本 選手を選びたくなるような内容だったと言えるでしょう。

 年齢制限で平昌五輪の代表争いに巻き込まれなかった 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)旋風を巻き起こしなんと表彰台に乗りました。FSだけなら 宮原 選手に次ぐ2位という堂々たる成績で,SPの 3Lz が抜けなければトータルでも2位に入っていた計算です。ジュニアグランプリファイナルに続き 3A は絶好調で,3A+3T(連続ジャンプ:トリプルアクセル→トリプルトウループ)という大技を含め,SPとFS合わせて3本の 3A に成功。しかも単なる成功ではなく3本とも極めて質の高い美しい 3A でした。

 ですが,紀平 選手は 3A だけの選手ではありません。以前のブログ記事でも書きましたが,他のジャンプ,スピン,ステップ,PCS 全てがジュニア離れしています。今回のFSでは3回転ジャンプを8本入れる「8トリプル」に挑み,ジャンプの回転は全て認定されました(1つだけ着氷が乱れたジャンプがあり,その GOE が減点評価だったので「8トリプル成功」ではありません)。代表争いをしていた有力7選手が全員FSで1ヶ所以上回転不足があったことを考えると,回転不足がなかったというのは実はすごいことです。紀平 選手の8トリプルは 3A と 3Lz(トリプルルッツジャンプ)が2本ずつ入り,今大会のFSの技術点は 79.53 点。ちなみに技術点2位は 73.90 点(三原舞依 選手,5.63 点差),グランプリファイナルのFSの技術点トップでも 76.61 点(ザギトワ 選手(ロシア),2.92 点差)なので,この技術点がいかにすごいかがわかります。また PCS も,FSではジュニアの他の選手より3点以上高い 61.76 点を獲得し,スケーティング技術や芸術性でも評価が高いです。まだ15歳で既にこの完成度なので,今後の成長で PCS がもっと上がれば,世界チャンピオンを狙える逸材です。平昌五輪後は,紀平 選手の成長を楽しみたいと思います。

 紀平 選手のFS大躍進によって,4年連続の表彰台を逃してしまったのが 樋口新葉 選手でした。昨年まで3年連続で全日本選手権の表彰台に上り,今年もうまく乗り切るかと思ったのですが,五輪代表がかかる今年は,大舞台の弱さが今大会でも出てしまいました。SPとFSでジャンプが抜けるミスが1本ずつありましたが,これら以外のジャンプはきちんと入れましたし,表現などは気持ちが入っていて PCS は割と高い点数が出ていました。ミスを引きずることなく演技全体をまとめたという点では今シーズンの成長が表れていましたし,今までならこのくらいのスコアでも表彰台に上れたと思いますが,現在の日本のレベルでは2つミスをすればこういう結果になるということでしょう。代表発表時,舞台裏では悔し涙にくれたことと思いますが,これをバネにして今後,より強くなっていくことを期待しています。

 坂本 選手の代表入りを,悔しさと喜びと入り交じりながら受け止めているのが 三原舞依 選手でしょう。私は 三原 選手の逆転代表入りを願っていましたが,SPでまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒があり,SPの段階で同門後輩の 坂本 選手とかなりの差がついたことで代表入りはほぼ絶望的になってしまいました。それでもFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の穏やかで柔らかいスケーティングが素晴らしく,140点に乗せて意地を見せてくれました。演技終了直後の涙には,FSがうまくいったからこそのSPの悔しさ,壁を越えられなかったもどかしさも含まれているように感じました。今季は安定して200点台のスコアを出しながら210点を一度も超えられず,FSも10月のジャパンオープンで出した PCS 70 点,計 142 点に届きませんでした。やはりSPの出遅れのせいか,やや慎重な部分があったようにも感じました。

 SPのプログラム「リベルタンゴ」は今大会でもミスが出て,完成に至りませんでした。三原 選手にとってはチャレンジといえるジャンルで,大丈夫か?という声はシーズン当初からありましたが,結果から判断すればこの賭けは裏目に出たと言えるでしょう。SPの演技が体に入り込む前に今大会を迎え,失敗できないという重圧から,最後のジャンプである 2A のところで綻びになってしまったという感じでしょう。三原 選手はプログラムが体に入り込んでからどんどん完成度が上がっていくタイプで,だからこそ昨季はシーズン後半に好成績を残すことができました。タンゴは 三原 選手の体に入り込むのに時間がかかってしまったのではないでしょうか。今大会はトータルスコア210点超えが2人だけと,スコアの点ではけしてハイレベルではありませんでしたから,三原 選手にも十分チャンスがあっただけに,平昌五輪代表入りを逃したのは残念でなりません。

 本郷理華 選手のSP「カルミナ・ブラーナ」は本当に素晴らしかったですね。今季やや上向いてきたとはいえ,グランプリシリーズもパッとせず,今大会に賭けてきた気持ちが伝わってきました。今までの 本郷 選手の演技は,スケールの大きな演技ができる体格や技術を持ち合わせながら,表現面ではやや凡庸な印象が拭えないところがあったのですが,今大会のSPでは表現しようという意志が観ているこちらにも強く伝わってきました。そこには,4年間日本女子を支えてきたプライド,平昌五輪への強い想い,長久保 コーチの退任など周囲の状況の変化に打ち勝つ気持ち,そういった様々なものが体現されていましたし,観ている私たちもそれを共有したからこそ,強い感動があったのだと思います。FSはベストな演技にはなりませんでしたが,転倒しても全く気持ちを切らすことなく最後まで演じ切った姿には,本郷 選手の強さの一端を観た思いがしました。今大会のような表現の強さがあれば,本郷 選手は再び全盛期を迎えることができると思います。

 本田真凛,白岩優奈 両選手は,シニアデビューの洗礼を受けてしまった,いや,自らそこにハマってしまった印象を受けました。同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表にまで上り詰めた姿を見て,彼らが抱える思いを考えると複雑な気分になります。スケートアメリカで花開いた 坂本 選手を観て「よし自分たちも続くぞ」と彼らは思ったはずですが,今大会の2人からはそういう気持ちの強さが感じられず,ただただ緊張感に包まれていたように見えました。結果として,グランプリシリーズを上回る内容を示すことができませんでした。

 特に 本田 選手の心と体のコントロールが大丈夫なのか,ちょっと心配です。本田 選手のFSの演技を観ていて,逆転のためには開き直るしかない状況なのに,表現が前に出てこない感じがして,ちょっとおかしいと私は感じました。スポーツナビのコラムで 安藤美姫 さんは 本田 選手の演技について「心が離れているように感じた」と表現されていて,私の抱いた感覚はそういうことだったのかと腑に落ちました。逆転といってもほぼ不可能な状況でしたから,気持ちは全力を尽くそうと思っていても,身体が悟ってしまっていたのかもしれません。しかも,同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表の座をつかんだことで「自分にもできたはずなのに」という失意が大きくなっているかもしれません。本田 選手がメンタルダメージを負わないように,心のケアと今後に向けた動機付けに周囲が万全を期してほしいです。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,羽生結弦 選手不在でなかなかモチベーションを保つのが難しかったかもしれません。今大会でも 2A+4T(連続ジャンプ:ダブルアクセル→4回転トウループ)を試みるなど,自分に刺激を与えようとしていた気がします。ただ,五輪直前なのに,この場に及んでも何かを試している,というのはやや不安を感じます。この時期は,プログラムを固めてそれを成熟される段階だと思うからです。今大会も300点に届かず,平昌五輪が大丈夫なのか不安に感じている方もいると思いますが,ここは 宇野 選手を信じてみましょう。昨季の世界選手権の見事なピーキングを,平昌五輪でも実行してくれるはずです。

 田中刑事 選手は,実力どおりの代表入りとなりました。驚いたのは,PCS が88点も取れたことで,これは大きな自信になるでしょう。そして,田中 選手の代表入りは,羽生 選手の五輪連覇にとってかなりプラス材料になると思います。羽生 選手にとって,同期であり気心が知れた 田中 選手が近くにいてくれることで,ケガ明けの不安や連覇への重圧がかなり緩和されると思います。

 男子で最も涙を誘ったのは,山本草太 選手ですね。大けがからの復帰で,まだ難しいジャンプを入れられない状況の中,今できるベストの構成をほぼきちんとやり切りました。そして,表現面では以前よりもはるかに力強さが増していました。山本 選手は 本郷 選手と同門生ですから,彼も 長久保 コーチの退任に驚いたのではないかと思います。そういった環境変化,そしてケガ,それらを乗り越えて復帰した自分に今できる最高の演技を観ている皆さんに届けたい,そんな気持ちが強く強く表れる演技でした。多くの観客やテレビ観戦された皆さんが感涙されたと思いますが,それは単に復帰を祝しただけではなく,その強い気持ちがスケートの演技に乗って観る者の心に響いたのです。困難を乗り越え,強い気持ちと表現力を手に入れた 山本 選手の今後から目が離せません。


 全日本選手権の激闘が幕を閉じ,平昌五輪代表が決まり,年が明けるといよいよ五輪モードに突入します。選手の皆さんは,いったん緊張を解き,休息を取り,それぞれの次なる目標に備えてほしいです。今シーズンここまで,実に多くの感動がありました。選手の皆さんの素晴らしいパフォーマンスに,心から拍手を送ります。

【SP終えて】どうなる?女子シングル五輪代表2枠

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 フィギュアスケート全日本選手権の女子シングルは,SP(Short Program,ショートプログラム)が終わり,坂本花織,本郷理華 の両選手がベストパフォーマンスを魅せた一方で,他の選手にはミスが出る展開になりました。土曜日に行われるFS(Free Skating,フリースケーティング)で順位の逆転は起きるのか起きるとすればその可能性はどのくらいか,少し詳しく見ていきたいと思います。

 今季の今までの結果を基に,各選手がどのくらいのスコアを獲れそうか予想しました。演技の基礎点は過去の実績からわかります。PCS(Program Component Score,演技構成点)は「良い演技」でのスコアと「完璧な演技」でのスコアを予想しました。完璧な演技なら3~4点上乗せできると想定しました。GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)は,「良い演技」では各演技要素にジャッジ1人あたり平均1点の GOE が付くと仮定,「完璧な演技」ではそれが平均1.5点になると仮定しました(完璧なら平均2点も可能でしょうが,1.5点が現実的と考えました)。スコア上の GOE による加点は,典型的な演技要素の組み合わせにおいて「良い演技」では7.6点,「完璧な演技」では11.4点になる計算です。

 ミスを加味するのは気が引けますが,順位が下位の選手は上位選手のミスがなければ逆転できないという現実がありますのでこれを考えます。ジャンプの抜け(3回転が2回転以下になってしまう)や回転不足による減点は,ジャンプの種類によって若干異なりますが,基礎点の減点と GOE のマイナスで平均約4点下がると仮定します。ジャンプの転倒は,多くの場合回転不足を伴うので基礎点の減点があり,さらに GOE のマイナス,転倒自体の減点,間接的に PCS にも影響するのでその目減り分を加味して,平均約7点下がると仮定します。

 SP上位7選手の最終的なスコアがどのくらいになるかを予想した表が下表です。左からSP順位順に選手を並べました。

《凡例》 スコア:SP+FS合計点,★:完璧な演技,*:可能性のある範囲(★印以下),○:良い演技,▼:ミス(ジャンプ抜け,回転不足),×:ジャンプ転倒

スコア坂本宮原本郷樋口紀平本田三原
220





219





218





217




216




215




214




213



212


211


210

209

208
207
206×
205▼2
204
203×
202▼2×▼
201▼3
200
スコア坂本宮原本郷樋口紀平本田三原

 完璧な演技(上表★印)は良い演技(上表○印)に比べ7~8点プラスされる形になっていますが,これは上述したように GOE が約4点,PCS が3~4点プラスされると仮定したためです。紀平 選手だけ完璧な演技なら PCS が6点プラス(良い:58点⇒完璧:64点)されると予想しました。あくまでも個人的な予想ですので,スコアがこのとおりにならない可能性は大いにあります。参考として見ていただければと思います。

 全員がFSで完璧な演技をすれば,1位:宮原知子,2位:坂本花織,3位:樋口新葉 になると思われます。こうなると,五輪代表2人目は 坂本 選手と 樋口 選手のどちらかから選出されることになるでしょう。通常ならトータルの実績で 樋口 選手が選出されるはずですが,坂本 選手の勢いを買う意見が出ても不思議ではありません。FSで,坂本 選手が完璧な演技をするか,あるいは 樋口 選手が1つでもミスをすると,伸び盛りの 坂本 選手が代表の重責を担うというシンデレラストーリーが現実になると思います。

 表を見ていただくと,SP2位の 宮原 選手の方が優位に立っていることが分かります。SPの1位との点数差はわずか0.36点なので実質的にFS勝負になり,FSの基礎点はどの選手もほぼ変わらないので,PCS が他の選手を上回っている分だけ 宮原 選手に分があります。宮原 選手自身は当然優勝しか考えていないと思いますが,代表入りという観点に限ってみれば,宮原 選手の実力・実績を考えると表彰台に上れば代表選出は間違いないでしょうから,そう考えればかなり楽な気持ちでFSに臨めると思います。

 坂本 選手は,まさかの全日本選手権優勝や五輪代表入りのチャンスが巡ってきました。ですが,元々それを狙っていたわけではないと思われるので,その無欲をどれだけ貫けるかが勝負を分けるでしょう。しかもFSは最終滑走。自分の演技で全てが決まるという大舞台をチャンスと捉えるか,緊張感に覆われてしまうか,いずれにせよ 坂本 選手にはとても得難い経験となるでしょう。最終滑走は GOE や PCS が出やすいと言われている(審判も人間なので,後になるほど点数を出しやすいのは,あらゆる採点の常ですね)ので,完璧な演技ならかなり高い点数が出て,宮原 選手を上回ることも十分あり得ます。スケートアメリカ(2位)で得た自信をそのまま全日本選手権に持ってきている感じで,調子もとても良さそうなので,奇跡の優勝となる確率はかなりあると思います。

 逆に,一転して追い込まれているのは 樋口 選手でしょう。完璧な演技をすれば,坂本 選手がほどほどでも逆転の2位はあると思いますが,樋口 選手がほどほどの出来にとどまれば,坂本 選手が1ミスでも逆転できない恐れがあるという,なかなか微妙なSPの点差です。また,代表選考の観点で考えると,宮原 選手が優勝なら,樋口 選手が3位でも今までの実績で代表に選出される可能性がありますが,坂本 選手が優勝すると,樋口 選手が2位でも 宮原 選手が代表選出される可能性が高いです。つまり,2位でも代表確実とは言えないわけで,なかなか計算が立たない状況が生じています。

 坂本 選手が絶好調で無欲なのに対し,代表入りを強く意識しながらミスが出てしまった 樋口 選手は,心理的にかなり追い込まれていると思います。ミスは許されない,という自分への呪縛ではなく,ここまで来たら持っているものを出すだけ,という開き直りができるかどうかにかかっています。完璧な演技ができれば,宮原,坂本 両選手がそこそこ良い演技だったとしても勝てるだけの力はあります。昨季から続く大舞台の弱さを,この大一番でこそ払拭してほしいと願ってやみません。

 本郷 選手のSPは素晴らしかったですね。会心の演技によって,大逆転の代表入りにわずかながら可能性ができました。FSは,そこそこの出来では表彰台は無理なので,完璧な演技をした上で上位選手の出来如何ということになるでしょう。

 本田真凛,三原舞依 の両選手は,上表の私の試算では完璧な演技をしてもトータル210点に届くことはほぼ不可能であり,完璧を超える超絶演技で GOE や PCS が高騰しない限り,代表入りも表彰台もほぼ絶望的な状況です。逆に言えば,もう順位やスコアのことは考えずに無心で演じ切るのみでしょう。

 ところで,五輪の年齢制限と,既に世界ジュニア出場が内定していることから,代表争いと無縁の 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)を成功させSP5位に飛び込んできました。演技順の最終グループに入ったのは,自分は無関係ながら代表争いの緊張感を肌で感じられるという点で,とても貴重な経験になります。その緊迫感の中で 3A 2本を含む全ての要素を成功させ,高い完成度の演技ができ PCS が64点(満点の80%)に乗れば,ジュニアでありながらトータル210点に届き表彰台に上る可能性もあります。スコアを調べていて驚きましたが,PCS は 宮原 選手より10点程度低いのですが,技術点は 3A 2本の威力で他の選手より約6点も高いので,PCS がもう少し伸ばせれば他の選手と互角に戦える力があるのです。3A 2本も楽しみですが,いわゆる8トリプル(3回転ジャンプを8本成功させること)が達成できるかどうかにも注目したいと思います。

 代表選考に話を戻しましょう。宮原,樋口 両選手をすんなり選出できるような流れになれば問題ないでしょうが,このようにスコア分析をしたり,各選手の置かれている状況を考えていくと,坂本 選手が2位に入り,2枠をめぐるドラマが生まれる可能性はかなり高いと思えてきます。樋口 選手には本当に頑張ってほしいのですが,坂本 選手の勢いは本物だとSPを観てひしひしと感じました。もし 宮原 選手のジャンプに回転不足が生じれば,坂本 選手の優勝,代表2人目が 宮原 選手という決着も十分に可能性があるシナリオだと思います。

 近年の全日本選手権の女子シングルは,全日本でありながらミスがほとんどない印象でしたが,今年は五輪代表枠が2枠という狭き門のせいか,SPではミスが出る展開になりました。特に,樋口,三原 両選手は 2A(ダブルアクセルジャンプ)でミスが出ているところに,尋常でない緊張感があることがうかがえます。FSは,SP上位選手と言えどもミスすれば表彰台や代表から脱落という厳しい大会になりそうです。ミスではなく演技の完成度で勝負が決まるような,素晴らしいFSになるよう,そして各選手がケガなく清々しく大会を終えられるよう,強く強く祈っています

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