マイクを持てば酔っぱらい

~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

本田真凛

涙の全日本選手権

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 五輪シーズンのフィギュアスケート全日本選手権。4年に一度の五輪が絡むので,どうしても張り詰めた空気に覆われてしまいますが,今年は特にいろいろな涙に彩られた大会だった気がします。

◆女子シングル

 FS(Free Skating,フリースケーティング)を終えた後の 宮原知子 選手の涙。この4年間の日本フィギュアスケート界を支え続けたプライド,ケガ明けの不安や恐怖,それに打ち勝った安堵感,それらが凝縮された瞬間でした。無事に平昌五輪代表になった今となっては,正に怪我の功名だったと思います。様々なエピソードが報じられていますが,スケートだけでなく,リハビリでも空いた時間の活動でも,黙々としかし着実に実行していたという話を聞くと,それらの努力が全て今大会のスケートに結実したのだなと思います。

 以前から定評のあった,動作に一切の無駄がなく研ぎ澄まされた表現は,今季のスケートアメリカで神々しさをまとい始め,もう今季はこのまま平昌五輪まで突き進む,そう私は確信しました。その確信どおり,今大会ではスコアを220点に乗せ,高らかに平昌五輪のメダル争いに名乗りを上げました。このスコアでもまだ,SP(Short Program,ショートプログラム)とFSの両方でジャンプの回転不足が1ヶ所ずつあり,他のジャンプでも GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)を伸ばせる余地がありますので,技術点の上乗せだけで225点,演技全体が完璧なら PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに伸びるので,トータル230点も見えてきました。このスコアを出せば確実にメダルに手が届きます。一度は諦めかけた平昌五輪を手繰り寄せた 宮原 選手には,きっと4年間の努力に対するご褒美がある,そう信じたくなる今大会の演技,そして涙でした。

 SPで 宮原 選手をわずかに上回りトップに立った 坂本花織 選手。プログラム「月光」は今までで一番の出来でした。思いのほか高い点数が出て,キスアンドクライで「わ~」と驚きながら存分に喜ぶ姿には,観ているこちらも嬉しくなりました。しかし,急に降って湧いたSPトップで,しかもFSは最終滑走。こうなる可能性を大会前にどれほど想定していたかわかりませんが,五輪シーズンでとてつもないプレッシャーがかかったと思います。

 FSは,冒頭の連続ジャンプで,セカンドジャンプが回転不足になり詰まってしまうあたり緊張が出ていましたが,その次のジャンプが膝を柔らかく使いながらふわっと着氷したのを観て,最後までミスなくできそうな予感がしました。実際にジャンプはミスなく入れることができましたが,「アメリ」というプログラムは最初から最後までパントマイムなどの細かいつなぎが満載で,前の大会に比べつなぎの表現に余裕がないように見えました。それでも 坂本 選手はそれなりに手応えを感じ,宮原 選手に勝てないまでもある程度迫る点数を期待していたようで,キスアンドクライでスコアが出たとき,坂本 選手は「あれっ」という表情を見せていました。スコアが140点にわずかに届かなかったのは,PCS の伸び悩み,冒頭ジャンプの回転不足,3Lz(トリプルルッツジャンプ)のエッジの問題で GOE 加点なし,の3つが原因でした。それでも,伸びしろを残しながらトータル213点を出したということは,GOE で加点された要素も多くあったということであり,ものすごい重圧を思えば見事な演技だったと思います。

 今大会の演技を観た関係者は,坂本 選手の舞台度胸と五輪までの伸びしろを高く評価したのでしょう。坂本 選手に平昌五輪代表の座がめぐってきました。代表争いに関する感想は別途記事を書きたいと思いますが,今大会の演技は 坂本 選手を選びたくなるような内容だったと言えるでしょう。

 年齢制限で平昌五輪の代表争いに巻き込まれなかった 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)旋風を巻き起こしなんと表彰台に乗りました。FSだけなら 宮原 選手に次ぐ2位という堂々たる成績で,SPの 3Lz が抜けなければトータルでも2位に入っていた計算です。ジュニアグランプリファイナルに続き 3A は絶好調で,3A+3T(連続ジャンプ:トリプルアクセル→トリプルトウループ)という大技を含め,SPとFS合わせて3本の 3A に成功。しかも単なる成功ではなく3本とも極めて質の高い美しい 3A でした。

 ですが,紀平 選手は 3A だけの選手ではありません。以前のブログ記事でも書きましたが,他のジャンプ,スピン,ステップ,PCS 全てがジュニア離れしています。今回のFSでは3回転ジャンプを8本入れる「8トリプル」に挑み,ジャンプの回転は全て認定されました(1つだけ着氷が乱れたジャンプがあり,その GOE が減点評価だったので「8トリプル成功」ではありません)。代表争いをしていた有力7選手が全員FSで1ヶ所以上回転不足があったことを考えると,回転不足がなかったというのは実はすごいことです。紀平 選手の8トリプルは 3A と 3Lz(トリプルルッツジャンプ)が2本ずつ入り,今大会のFSの技術点は 79.53 点。ちなみに技術点2位は 73.90 点(三原舞依 選手,5.63 点差),グランプリファイナルのFSの技術点トップでも 76.61 点(ザギトワ 選手(ロシア),2.92 点差)なので,この技術点がいかにすごいかがわかります。また PCS も,FSではジュニアの他の選手より3点以上高い 61.76 点を獲得し,スケーティング技術や芸術性でも評価が高いです。まだ15歳で既にこの完成度なので,今後の成長で PCS がもっと上がれば,世界チャンピオンを狙える逸材です。平昌五輪後は,紀平 選手の成長を楽しみたいと思います。

 紀平 選手のFS大躍進によって,4年連続の表彰台を逃してしまったのが 樋口新葉 選手でした。昨年まで3年連続で全日本選手権の表彰台に上り,今年もうまく乗り切るかと思ったのですが,五輪代表がかかる今年は,大舞台の弱さが今大会でも出てしまいました。SPとFSでジャンプが抜けるミスが1本ずつありましたが,これら以外のジャンプはきちんと入れましたし,表現などは気持ちが入っていて PCS は割と高い点数が出ていました。ミスを引きずることなく演技全体をまとめたという点では今シーズンの成長が表れていましたし,今までならこのくらいのスコアでも表彰台に上れたと思いますが,現在の日本のレベルでは2つミスをすればこういう結果になるということでしょう。代表発表時,舞台裏では悔し涙にくれたことと思いますが,これをバネにして今後,より強くなっていくことを期待しています。

 坂本 選手の代表入りを,悔しさと喜びと入り交じりながら受け止めているのが 三原舞依 選手でしょう。私は 三原 選手の逆転代表入りを願っていましたが,SPでまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒があり,SPの段階で同門後輩の 坂本 選手とかなりの差がついたことで代表入りはほぼ絶望的になってしまいました。それでもFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の穏やかで柔らかいスケーティングが素晴らしく,140点に乗せて意地を見せてくれました。演技終了直後の涙には,FSがうまくいったからこそのSPの悔しさ,壁を越えられなかったもどかしさも含まれているように感じました。今季は安定して200点台のスコアを出しながら210点を一度も超えられず,FSも10月のジャパンオープンで出した PCS 70 点,計 142 点に届きませんでした。やはりSPの出遅れのせいか,やや慎重な部分があったようにも感じました。

 SPのプログラム「リベルタンゴ」は今大会でもミスが出て,完成に至りませんでした。三原 選手にとってはチャレンジといえるジャンルで,大丈夫か?という声はシーズン当初からありましたが,結果から判断すればこの賭けは裏目に出たと言えるでしょう。SPの演技が体に入り込む前に今大会を迎え,失敗できないという重圧から,最後のジャンプである 2A のところで綻びになってしまったという感じでしょう。三原 選手はプログラムが体に入り込んでからどんどん完成度が上がっていくタイプで,だからこそ昨季はシーズン後半に好成績を残すことができました。タンゴは 三原 選手の体に入り込むのに時間がかかってしまったのではないでしょうか。今大会はトータルスコア210点超えが2人だけと,スコアの点ではけしてハイレベルではありませんでしたから,三原 選手にも十分チャンスがあっただけに,平昌五輪代表入りを逃したのは残念でなりません。

 本郷理華 選手のSP「カルミナ・ブラーナ」は本当に素晴らしかったですね。今季やや上向いてきたとはいえ,グランプリシリーズもパッとせず,今大会に賭けてきた気持ちが伝わってきました。今までの 本郷 選手の演技は,スケールの大きな演技ができる体格や技術を持ち合わせながら,表現面ではやや凡庸な印象が拭えないところがあったのですが,今大会のSPでは表現しようという意志が観ているこちらにも強く伝わってきました。そこには,4年間日本女子を支えてきたプライド,平昌五輪への強い想い,長久保 コーチの退任など周囲の状況の変化に打ち勝つ気持ち,そういった様々なものが体現されていましたし,観ている私たちもそれを共有したからこそ,強い感動があったのだと思います。FSはベストな演技にはなりませんでしたが,転倒しても全く気持ちを切らすことなく最後まで演じ切った姿には,本郷 選手の強さの一端を観た思いがしました。今大会のような表現の強さがあれば,本郷 選手は再び全盛期を迎えることができると思います。

 本田真凛,白岩優奈 両選手は,シニアデビューの洗礼を受けてしまった,いや,自らそこにハマってしまった印象を受けました。同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表にまで上り詰めた姿を見て,彼らが抱える思いを考えると複雑な気分になります。スケートアメリカで花開いた 坂本 選手を観て「よし自分たちも続くぞ」と彼らは思ったはずですが,今大会の2人からはそういう気持ちの強さが感じられず,ただただ緊張感に包まれていたように見えました。結果として,グランプリシリーズを上回る内容を示すことができませんでした。

 特に 本田 選手の心と体のコントロールが大丈夫なのか,ちょっと心配です。本田 選手のFSの演技を観ていて,逆転のためには開き直るしかない状況なのに,表現が前に出てこない感じがして,ちょっとおかしいと私は感じました。スポーツナビのコラムで 安藤美姫 さんは 本田 選手の演技について「心が離れているように感じた」と表現されていて,私の抱いた感覚はそういうことだったのかと腑に落ちました。逆転といってもほぼ不可能な状況でしたから,気持ちは全力を尽くそうと思っていても,身体が悟ってしまっていたのかもしれません。しかも,同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表の座をつかんだことで「自分にもできたはずなのに」という失意が大きくなっているかもしれません。本田 選手がメンタルダメージを負わないように,心のケアと今後に向けた動機付けに周囲が万全を期してほしいです。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,羽生結弦 選手不在でなかなかモチベーションを保つのが難しかったかもしれません。今大会でも 2A+4T(連続ジャンプ:ダブルアクセル→4回転トウループ)を試みるなど,自分に刺激を与えようとしていた気がします。ただ,五輪直前なのに,この場に及んでも何かを試している,というのはやや不安を感じます。この時期は,プログラムを固めてそれを成熟される段階だと思うからです。今大会も300点に届かず,平昌五輪が大丈夫なのか不安に感じている方もいると思いますが,ここは 宇野 選手を信じてみましょう。昨季の世界選手権の見事なピーキングを,平昌五輪でも実行してくれるはずです。

 田中刑事 選手は,実力どおりの代表入りとなりました。驚いたのは,PCS が88点も取れたことで,これは大きな自信になるでしょう。そして,田中 選手の代表入りは,羽生 選手の五輪連覇にとってかなりプラス材料になると思います。羽生 選手にとって,同期であり気心が知れた 田中 選手が近くにいてくれることで,ケガ明けの不安や連覇への重圧がかなり緩和されると思います。

 男子で最も涙を誘ったのは,山本草太 選手ですね。大けがからの復帰で,まだ難しいジャンプを入れられない状況の中,今できるベストの構成をほぼきちんとやり切りました。そして,表現面では以前よりもはるかに力強さが増していました。山本 選手は 本郷 選手と同門生ですから,彼も 長久保 コーチの退任に驚いたのではないかと思います。そういった環境変化,そしてケガ,それらを乗り越えて復帰した自分に今できる最高の演技を観ている皆さんに届けたい,そんな気持ちが強く強く表れる演技でした。多くの観客やテレビ観戦された皆さんが感涙されたと思いますが,それは単に復帰を祝しただけではなく,その強い気持ちがスケートの演技に乗って観る者の心に響いたのです。困難を乗り越え,強い気持ちと表現力を手に入れた 山本 選手の今後から目が離せません。


 全日本選手権の激闘が幕を閉じ,平昌五輪代表が決まり,年が明けるといよいよ五輪モードに突入します。選手の皆さんは,いったん緊張を解き,休息を取り,それぞれの次なる目標に備えてほしいです。今シーズンここまで,実に多くの感動がありました。選手の皆さんの素晴らしいパフォーマンスに,心から拍手を送ります。

どうなる?女子シングル五輪代表2枠

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 もうすぐ開催される全日本選手権の結果によって,平昌五輪の代表が決まります。注目はなんといっても,2枠しかない女子シングルがどうなるかでしょう。ありとあらゆるメディアで報じられていることではありますが,改めて選考基準を確認しましょう。

女子シングル選考基準
 下記①の1名。②~⑥から1名。計2名。
  ① 全日本選手権の優勝者
  ② 全日本選手権2位・3位
  ③ グランプリファイナル出場者上位2名
  ④ ワールドスタンディング上位3名
  ⑤ シーズンワールドランキング上位3名
  ⑥ シーズンベストスコア上位3名

 現時点で選考基準を満たす選手は③~⑥の該当者であり,坂本花織,樋口新葉,本郷理華,宮原知子 の各選手(五十音順)です。ここに,全日本選手権の2位と3位の選手を加えて2人目を選考することになります。

 2人目がどう選考されるかを考えてみますと,実際には,全日本選手権の2位か3位のどちらかが代表入りすることになると思います。4位以下が代表に入る可能性を考えると,以下のいずれかしかないと私は考えます。

  • [A] 上述の4選手に,白岩優奈,本田真凛,三原舞依 の各選手を加えた計7名の有力選手が誰も2位・3位に入らなかった場合
  • [B] 宮原 選手が2位と僅差で4位に入った場合
 宮原 選手は,全日本選手権を3連覇するなど過去3シーズン安定した成績を残し,今シーズンもケガ明けながら完全復調したので,2位に見劣りしない内容であれば代表入りすると思います。宮原 選手は実力も経験も,他の選手より明らかに上ですので,そのような選考をされても他の選手もみな納得するでしょう。逆に言えば,宮原 以外の選手(坂本,樋口,本郷)が4位以下になった場合,2位か3位ではなくその選手を代表入りさせるのは,選考理由が示せないと思います。樋口 選手は4位なら可能性がないとは言えませんが,大舞台に弱い上に全日本選手権でも表彰台を逃すとなれば,代表入りの理由が示しづらいでしょう。ゆえに,宮原 選手以外は,全日本選手権の表彰台が最低限の条件になると思います。

 上記[A]が現実に起こるとは思えません。そこで,全日本選手権の2位と3位から代表が決まると考えた場合に,有力7選手の組み合わせによってどのような選考が行われるかを予想してみます。2位が下表の縦軸の選手,3位が下表の横軸の選手になった場合,どちらが代表に選出されるかを私が予想した表を示します。

2位 \3位宮原樋口三原坂本本郷白岩本田
宮原知子--宮原宮原宮原宮原宮原宮原
樋口新葉宮原--樋口樋口樋口樋口樋口
三原舞依宮原??--三原三原三原三原
坂本花織宮原????--坂本坂本坂本
本郷理華宮原樋口三原??--本郷本郷
白岩優奈宮原樋口三原坂本??--白岩
本田真凛宮原樋口三原坂本??本田--

 表内の??は,どちらが選ばれるか予想がつかないことを意味します。一番悩ましいことになりそうなのは,下記の2ケースだと思います。

【2位:三原,3位:樋口

 2人ともシニアに上がって2年目。昨季の成績は 三原 が上,今季の成績は 樋口 が上ですが,以下の理由により,全日本選手権で上位になれば 三原 選手を推す意見が出そうです。

  • グランプリファイナルで 樋口 選手が(昨季の四大陸選手権と世界選手権に続き,三たび)大舞台の弱さを見せてしまった
  • 平昌五輪のリンクで開催された昨季の四大陸選手権で優勝した 三原 選手は,五輪のリンクと相性が良いと考えられる
  • 代表枠が2枠になってしまった昨季の世界選手権の成績は 三原 選手の方が上位である
  • 三原 選手の昨シーズン後半の安定感(シーズン前半よりスコアを伸ばした)

 世界選手権の成績に関しては多分に心情的な問題ですが,五輪の枠を減らす原因になった選手が五輪代表になり,3枠の可能性を残す好成績を上げた選手が代表になれないのは,なんだか腑に落ちないという声が出ても不思議ではありません。2人目は選考基準を満たした選手の中から「総合的に」判断することになっているので,上述の理由も加味されてよいことになります。一方で,樋口 選手の側に立つと,今季のハイレベルな成績は見事で,これを評価する声も当然あるでしょう。この状況では,選考する側はとても難しい判断を迫られます。

【2位:坂本,3位:三原

 同じコーチに指導を受ける同門生である2人が1つの椅子を争う状況は,胸が締め付けられる思いがいたします。しかしこれは,坂本 選手の成長によるものなので,喜ばしいことでもあります。今季の成績だけ見れば,グランプリシリーズ2戦平均スコア以外,全ての面で 坂本 選手が上回っていますので,坂本 選手が選ばれても全く異論はないところです。

 しかし 三原 選手は,昨季の五輪プレシーズンという非常に濃密な経験をしながら好成績を修めました。五輪という大きな重圧がかかる大会は,今季シニアデビューの 坂本 選手では心許なく,昨季の経験と実績がある 三原 選手の方が代表に相応しいという声が上がることと思います。先輩である 三原 選手が出場するのなら,坂本 選手としては譲りがいがあるというものでしょう。このケースも,選考する側にとってはなかなか悩ましいのではないかと思います。


 以下,代表選考に関する個人的な考えですが,シニアデビューの選手に五輪を託すのは,2枠という状況においてはあまりにも荷が重いと考えます。全日本選手権の優勝もしくは圧倒的な成績がない限り,代表に選ぶべきではないでしょう。この考えだと,樋口,本郷,三原,宮原 の各選手(五十音順)が代表候補になります。

 そして例年,代表選考においてはっきりしていないと感じるのは,代表は「好成績の選手」を選ぶのか「メダルを狙える選手」を選ぶのかという問題です。前者であれば,上述の4選手は誰でも相応しいと思いますが,後者であれば,宮原 選手以外はやや心許ない部分があると思います。その中でも,樋口 選手と 三原 選手のどちらを選ぶかとなれば,上述の理由により,個人的には 三原 選手を選ぶべきだと考えます。さて,はたして実際の選考はどうなるのでしょうか。私たちは見守るしかありません。

 ここからは,女子シングル有力選手の見どころをご紹介いたします。上表に記載した7名の有力選手を,表の記載順に紹介していきます。

宮原知子 選手】

 ケガ明けの心配はもうないと考えていいと思います。休養期間中にいろいろなものを吸収したことが奏功して,表現力に磨きがかかってきました。以前は振付の型どおりといった印象もありましたが,今季は表現したくて表現しているという雰囲気に満ち溢れています。グランプリファイナルでは,ジャンプの回転不足でスコアが伸びず5位に終わりましたが,メドベージェワ 選手(ロシア)欠場による繰り上げ出場でしたし,全日本選手権も控えていたことから,全力で臨まなかったと思われます。それでもスコアが213点でしたから,全てが完璧なら220~223点くらいは期待できると思います。

 SP(Short Program,ショートプログラム)の「SAYURI」,FS(Free Skating,フリースケーティング)の「蝶々夫人」,共に日本の凛とした女性を演じるという 宮原 選手にしか出せない世界観が素晴らしいプログラムです。ケガという辛い時期を乗り越えた 宮原 選手自身の道のりがプログラムの物語に重なって見えるのもグッとくるポイントです。初めから終わりまで,指先,目線,足先に至る全ての動きを堪能してほしいです。

 今季は,ケガ明け初戦から,NHK杯(日本大会)→アメリカ大会→ファイナル→全日本選手権 の4大会が全て中1週(2週間おき)のスケジュールなので,疲労の蓄積が全日本選手権の大事なときに出ないことを祈るばかりです。今まで3連覇していますので,五輪シーズンにこそ優勝して4連覇しなければ…という自身の内なる重圧とも戦うことになるでしょう。

 現実問題として,平昌五輪でメダル争いに自力で加われる日本選手は 宮原 選手だけです。その意味でも,全日本選手権をとにかく乗り切ってほしい,そう願う関係者は多いのではないでしょうか。

樋口新葉 選手】

 昨季の悔しさをバネにして,今季は目標だったファイナル出場を果たし,成長を見せてくれています。スケーティングに一段と力強さが増し,芸術性も増してきたことで,PCS(Program Component Score,演技構成点)の点数も上がってきました。プログラムのSP「ジプシーダンス」,FS「007・スカイフォール」共に,樋口 選手のスピード感や力強さが存分に生かされたプログラムで,十分に世界で勝負できるものになっていると思います。

 ただ,大舞台での弱さがまだ克服できていません。今季の調子ならファイナルでも表彰台が射程圏内でしたが,ミスが出てしまいました。今まで全日本選手権にはめっぽう強く,3年連続で表彰台に乗っていますが,五輪代表がかかる今年,今までと同じように良い演技ができるかどうかが問われます。

 現在の日本のフィギュアスケート界は,関西や名古屋のチームが強いですが,樋口 選手には東京代表として風穴を開けてほしい気持ちが個人的にあります。小さい身体で頑張る姿に,私はブログで時折厳しい言葉をかけてきましたが,それも心底応援していることの表れなのです。代表に選ばれた暁には,平昌五輪でこそ大舞台での弱さを克服して輝く姿を観たいと願っています。

三原舞依 選手】

 今季はグランプリシリーズ2戦とも200点を超え,シリーズ平均スコアのランキングは全選手中6位。常に完成度が高く安定感があるのが 三原 選手の最大の特徴です。特にFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の柔らかいスケーティングを生かした見事なプログラムで,三原 選手に本当によくフィットしていますので,完璧に演技できればトップスコアも期待できます。

 これだけ安定したスコアを出しながら,シリーズでは対戦カードに恵まれず2大会とも4位に終わり,ファイナルにも進出できず,世界ランキング等のポイントも伸びませんでした。そのため,冒頭の選考基準の③~⑥を満たすことができず,全日本選手権の表彰台が代表入りの絶対条件となります。本人は優勝しないと五輪に出場できない,くらいの気持ちで挑んでくると思いますが,その重圧に打ち勝つには,シリーズで完璧な演技ができなかったSP「リベルタンゴ」を完璧にできるかどうかが鍵になります。タンゴは 三原 選手の持ち味に合うとは言えないジャンルですが,最後に出場した大会から1ヶ月以上空きましたので,どこまで完成度を上げられたかに注目したいです。

 上述した 三原 選手の昨季の実績から考えると,三原 選手が平昌五輪の代表になるべきだと私は思っています。特に,昨季の四大陸選手権を優勝したことは,平昌五輪本番の会場と相性が良いという点で大きな意味があると思います。そのためにも,全日本選手権で優勝して,五輪代表の座をつかみとってほしいと切望しています。

坂本花織 選手】

 シニアデビュー組の中ではいち早くスコアを210点に乗せました。特にFS「アメリ」が秀逸なプログラムで,(アメリカ大会の感想を書いた自分のブログから引用しますが)ジャンプの質,ステップの最中にまで表現される細かいパントマイム,音楽とスケーティングの融合,全てがうまくハマったこの「アメリ」が持つ雰囲気は最高です。ジャンプの高さと幅が圧巻で,それでいて細かい表現力も持ち合わせる総合力の高さが持ち味です。また,リンク内外で明るく振る舞えることも魅力です。坂本 選手ならシニア1年目でも五輪の重圧に耐えられるかも…と思わせる雰囲気を持っている選手です。

 ただ,アメリカ大会は,前の大会から中4週空いていましたので,十分な調整ができる良いタイミングだったと言えます。他のシニアデビュー組の 本田真凛,白岩優奈 はどちらもグランプリシリーズが連闘(2週連続出場)という不利なスケジュールだったので,2戦目もスコアが伸びませんでしたが,坂本 選手と同様のスケジュールなら,彼らももっとスコアが伸びていた可能性はあります。アメリカ大会の好成績により,全日本選手権でこれを超えなければと自分自身で重圧をかけてしまう恐れもあります。

 頑張れば頑張るほど,同門生である 三原 選手と争うことになる難しさはありますが,切磋琢磨して素晴らしい演技ができれば,2人で平昌五輪出場という可能性もゼロではありません。シニア1年目での五輪出場が難しいことは選手本人が一番よくわかっていると思いますので,五輪を意識せずに無欲で臨めれば,サプライズが起きるかもしれません。

本郷理華 選手】

 初めて全日本選手権で観たとき,それまでの日本選手にはあまりいなかった,スケールの大きな演技に私は魅了され,それからずっと応援してきました。五輪プレシーズンの昨季に調子を崩し,今季少し持ち直してはいますが,調子の波が五輪にうまく合わないのは不運ですね。それでも,一昨季の活躍もあり,世界ランキング(ワールドスタンディング)は現在も9位に位置しています。特にSP「カルミナ・ブラーナ」は,日本選手では 本郷 選手にしかできないスケールの大きなプログラムで,とても見応えがあります。

 昨季,同門の先輩である 鈴木明子 さん振付のプログラムに挑戦しましたが,消化不良に陥ってしまいました。表現力やスケーティングの面でもう一段高いレベルに上る過程で壁に当たっている印象があります。また,長年指導を受けていた 長久保 コーチが突如退任する事態となり,周囲が落ち着かない状態になっているかと思います。そういった困難を乗り越え,開き直った演技ができるかが注目点です。

 本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の1人ですので,平昌五輪に出るべき存在だと思います。自身の成長より周囲のレベルアップが激しく,簡単な状況ではありませんが,4年間の集大成を魅せてほしいと願っています。

白岩優奈 選手】

 シニアデビュー組の中で個人的には一推しの選手です。演技全体に安定感があり,ふんわりした雰囲気が癒しを与えてくれるような存在で,これぞ女子スケーターという感じがします。レベル面では,他のシニアデビュー組とも対等に戦えるだけの実力を備えていますので,完璧な演技ができれば,他の選手次第で全日本選手権の表彰台も十分に可能性があります。

 ただ,坂本 選手はスケール感と明るい性格,本田 選手は芸術性とスター性という個性がはっきりしているのに対し,白岩 選手の個性はまだ前面に出てきていないかなと感じます。技術がしっかりしているので,経験を重ねれば自ずと個性がにじみ出てくるのではないかと思いますし,ちょうど北京五輪の頃に全盛期を迎えるような気がしています。

本田真凛 選手】

 グランプリシリーズは序盤の第2・3戦に割り当てられたこともあり,スコアがさほど伸びませんでしたが,ポテンシャルの高さは誰もが知るところです。また,ジュニア時代には大舞台の強さもありましたので,全日本選手権にきっちり照準を合わせてくるのではないかと思います。前の大会から1ヶ月半も空きますので,調整も十分できるでしょう。優勝だけを狙って,抜群の集中力と大舞台の強さを発揮できれば,手ごわい存在であることは確かです。

 逆に言えば,優勝以外はどの順位でも同じという考えで臨むと,1つミスが出た段階で集中力が切れ,ミスの連鎖になる可能性もあります。五輪代表争いを意識し過ぎず,とにかく最善を尽くすという無心で臨めるかどうかが鍵になるでしょう。


 ソチ五輪後を支えた 宮原,本郷。昨季シニアデビューの 樋口,三原。今季シニアデビューの 坂本,白岩,本田。これだけの逸材の中から2名しか平昌五輪に出場できないのは本当にもったいないですが,とにかく全日本選手権でベストな演技が披露され,その中から代表が選ばれてほしいと願っています。どんなドラマが生まれるか,しっかり見届けたいと思います。

樋口・三原 明暗,フェルナンデス 不調【中国大会感想】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 男子シングルは,6強の2人,ハビエル・フェルナンデス 選手(スペイン)と ボーヤン・ジン 選手(金博洋,中国)を追い越して,ミハイル・コリヤダ 選手(ロシア)が優勝をさらいました。SP(Short Program,ショートプログラム)にも入れた 4Lz(4回転ルッツジャンプ)が完璧に決まったのに加え他の要素も珠玉の出来で,スコアが100点を超えました。この貯金のおかげで,FS(Free Skating,フリースケーティング)でミスがあってもトータルでリードを守りました。

 コリヤダ 選手の 4Lz も,ジン 選手と同じように助走が少ないのに大きなジャンプで,とても見ごたえがあります。また,ジャンプのみならずスピンもステップも綺麗でありながら,振り付けに独特なものがあり,不思議な魅力がある選手です。名古屋のグランプリファイナルで生で観られる皆さんが羨ましいです。

 ジン 選手は,持ち味の4回転ジャンプが安定していませんね。2位だったのはラッキーでしたが,3A(トリプルアクセルジャンプ)が安定していたのが救いでした。男子でも意外と 3A に苦労する選手は多いので,3A が安定しているのは大崩れしにくいという点で大切です。FSで「スターウォーズ」を使うということで楽しみに観たのですが,正直なところやや期待外れという感想を持ちました。スターウォーズだとはっきりわかる音楽が最後のステップのところでやっと流れ,それまではスターウォーズらしさがあまり感じられない音楽でした。また,振り付けも音楽との一体感がさほど感じられず,このプログラムで PCS(Program Component Score,演技構成点)が伸ばせるのか,少し心配な気がします。ですが,ジャンプが全てきっちり入るとまた印象が変わるかもしれませんので,ジャンプの完成度が上がるのを待ちたいと思います。

 フェルナンデス 選手はかなり心配な状況ですね。ここ数年のグランプリシリーズでは,本調子ではなくても大ミスは少なく,表彰台どころか優勝を逃すこともまれだったので,明らかに例年より調整が遅れているようです。五輪本番はまだ先だから心配ない,と楽観することができないような状態であり,平昌五輪のメダル獲得にも黄信号が灯ったと考えざるを得ません。ファイナルで観られなくなりそうなのは残念な限りですが,その間に調子を戻すことを願っています。

 田中刑事 選手は,ケガ明けの影響はなさそうでした。SPのブルースナンバーはとてもいいですね。憂いを帯びた曲の方が,田中 選手の雰囲気に合っていると思います。FSもけっこうジャンプの抜けや転倒があった割には160点近い点数が出ているので,ベストな演技なら180点も狙えますね。代表3枠目の一番近い位置にいると言っていいと思います。

 シニアデビューで注目した ヴィンセント・ジョウ 選手(米)は,表彰台には乗れませんでしたが,攻めたジャンプ構成で魅せてくれました。FSでは 4Lz 2本(そのうち1本は後半)を含む3種類5本の4回転ジャンプを組み込み,さらに3連続ジャンプでは 宇野昌磨 選手と同じ,第3ジャンプに 3F(トリプルフリップジャンプ)を使うという,非常に意欲的なジャンプ構成です。4Lz は ジン 選手や コリヤダ 選手に負けない美しいジャンプで,特に着氷が綺麗ですね。ジャンプが全部揃うとかなり良いスコアが出るので,今後急成長する可能性が大いにあると思います。

 シリーズ最高の激戦となった女子シングルを制したのは アリーナ・ザギトワ 選手(ロシア)でした。SPで転倒しても優勝できるのですから,実力は本物でしょう。ジャンプを全て演技後半に入れ,3Lz+3Lo(3回転ルッツ→3回転ループの連続ジャンプ)といった超高難度ジャンプも組み込んでおり,基礎点は現役最強と思われます。私は技術力のあるスケーターが好きなんですが,ザギトワ 選手にはなぜかさほど魅かれません。FSで後半にジャンプが立て込んでいる感じに違和感を感じてしまいますね。とはいえ,シニアデビュー戦で優勝したのは見事ですし,今後の強敵になっていきそうです。

 ザギトワ 選手が転倒したことを思えば,樋口新葉 選手は今大会で彼女を破っておくべきでした。そうすればファイナル進出が確定しましたからね。でも,ほぼ完璧な演技での2位,しかもロシア大会から中1週しかなかったことを思えば,ミッションはクリアできたのではないでしょうか。今大会の演技は,すごく気持ちが乗っていたように見えました。シリーズ2試合目でプログラムが体になじんできたのでしょうね。とにかくプログラムはSP・FS共に 樋口 選手にとてもマッチしていますので,ファイナル(おそらく出場できるでしょう)や全日本選手権がすごく楽しみです。

 三原舞依 選手は不運でした。3位の ラジオノワ 選手とは1点未満の点差でしたからね。初戦の固さ(緊張よりも慎重さですね)があって,それがSPの連続ジャンプでの回転不足に出てしまった気がします。回転不足がなければ3位だったので,そこが悔やまれます。しかし,SP7位,総合4位という順位だけで 三原 選手を過小評価するようなことがあってはいけません。トータル200点超えて表彰台に乗れなかったのは 三原 選手が初めてですからね。本当なら 三原 選手が激戦を生み出すはずが,逆に激戦の犠牲者になってしまいました。SPのタンゴはまだまだ伸びしろがありますし,FSは本当に 三原 選手に合ったプログラムだということが今大会でもわかったので,次戦はかなりハイレベルなスコアになると思います。

 本田真凛 選手は,実力から考えれば2大会5位というのは上々の成績だと思います。今大会も,ファイナル進出はほぼ不可能という現実を見据えて,無理をせず演技全体を体に染み込ませていくことを意識していたように見えました。ピークを全日本選手権に持ってくればいいわけですからね。グランプリシリーズで爪痕を残したかったと思いますが,そんなに甘い世界ではないことを痛感したでしょう。こういう成績だとメディアがどう自分を扱うのかも見えてきます。チャレンジと継続性のバランス,周囲と自分のバランス,そういったものをこれからたくさん学んでいくと,本当の意味で強い選手になっていくと思います。

 中国大会は,戦前の予想どおり大激戦となりましたが,男子までこのような激戦・波乱になるとは思いませんでした。例年,ちょっとホッと一息つく大会だったのが一変,今季はグランプリシリーズの中でも大きな意味を持つ大会になるような気がします。

宇野昌磨 余裕,本田真凛 取りこぼし【カナダ大会感想】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 宇野昌磨 選手の余裕がとても印象に残りました。6分間練習でなんでもないところでバタッと転倒したのを笑って受け流し,ジャンプの難度を落としたFS(Free Skating,フリースケーティング)の 3Lo(トリプルループジャンプ)でもたついても笑顔。4回転4本がきっちりとは入りませんでしたが,肝心の 4Lo(4回転ループジャンプ)や 3A+1Lo+3F(トリプルアクセル→シングルループ→トリプルサルコウの3連続ジャンプ)を綺麗に決め,PCS(Program Component Score,演技構成点)も90点超え。終わってみればトータル300点に届き余裕の優勝でした。本大会は,難度を落として全体の完成度を高めることに主眼を置き,確実に優勝するという作戦を無事に遂行しました。これで,次のフランス大会はもう少し,宇野 選手がよく言う「攻める」演技にトライできるでしょう。とにかく五輪シーズンとは思えないほど余裕を感じますし,順調な調整ができていると思います。

 パトリック・チャン 選手(カナダ)は珍しく大崩れしました。いつもカナダ大会はシーズン序盤相応に仕上げてきていたので,少し心配な状況です。FSの曲「ハレルヤ」は,チャン 選手でなくても他の選手でも良い曲という印象。もっと チャン 選手ならでは,というプログラムを観たいと感じましたね。

 代わりに ジェイソン・ブラウン 選手(米)が2位に入りました。6強の一角を崩し,グランプリファイナル出場にグッと近づきました。FS冒頭の 4T(4回転トウループジャンプ)を見る限り,もう4回転は捨てて全体の完成度を徹底的に高める戦略でいくべきなんじゃないかと思います。4回転なしのFSで190点を狙えるのは ブラウン 選手だけですからね。

 本田真凛 選手は,結果から見ればもったいなかったです。SP(Short Program,ショートプログラム)の失敗がなければ2位に入れましたからね。でも,最初から順調で肝心なときに落とし穴に遭うよりは良かったと考えるべきでしょう。SP失敗から切り替えてFSをまとめるという経験はできましたが,なぜSPは失敗してFSは乗り切れたのか,きちんと検証できるのか少し心配です。それはSP直後に発した言葉から感じました。

「今回はすごく練習したつもりだったけど、まだまだ甘かったのかなと思う」

 結果が出てから「甘かった」と言っています。これは,甘さの残る練習をやっていたことの表れですし,もし今回が良い結果だったらその甘い練習のまま今後を過ごすことになったでしょう。結果を練習の質に結びつけてしまう考え方は危険で,練習の臨み方や結果の検証の仕方をきちんと身に付けておかないと,結果オーライの考え方がしみついてしまいます。本田 選手がこの罠にハマらないようにコーチ陣が導かなければなりませんが,注目度の高い選手なのでコーチ陣も大変でしょうね。

 本郷理華 選手は,全盛期には及ばないものの,かなり調子が戻ってきたのが嬉しいですね。プログラムはとても良いものに巡り合えたと思うので,あとは回転不足を解消して,全体の完成度を上げていき,全日本選手権で勝負をかけてほしいです。

 ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)がきっちり自国大会の優勝を果たしました。昨季の世界選手権銀メダルで得た自信は本物ではないかと思います。PCS もほぼ9割(SP 36点,FS 72点)を取り安定しています。FSの曲「ブラックスワン」は,オズモンド 選手ならではとまでは言えずもっと合う曲があるとは思いますが,華やかなブラックスワンというのは独特な感じで,どう仕上がっていくか興味深いです。

 ロシア勢は明暗が分かれました。マリア・ソツコワ 選手は,昨季のジュニア上がりっぽい表現の拙さがなくなり,表現力が格段に上がりましたね。それは PCS がFSで8割(64点)を超えてきたことに現れています。ソツコワ 選手はジャンプ技術も高く,3Lz(3回転ルッツジャンプ)と 3F(3回転フリップジャンプ)をFSで2本ずつ入れているのは彼女くらいだと思います。今大会のFSは回転不足でスコアが伸びませんでしたが,とにかくプログラムが ソツコワ 選手にとてもよくマッチしたものになっていますので,ジャンプがきちんと入れば,トータル210点超えができると思います。

 一方,アンナ・ポゴリラヤ 選手は,年に1~2回あるFSの大崩れがまた出てしまいました。「ブラックスワン」の演目が オズモンド 選手と丸かぶりで,オズモンド 選手よりは合っていると思うものの,ポゴリラヤ 選手にはもっと壮大なスケールの演目が似合うと思います。それにしても,スコアに安定感がないと,大激戦のロシア代表入りはなかなか難しいでしょうね。稀有な雰囲気を持つスケーターなので,今後巻き返してほしいです。

 実力者が力を出し切れない状況の中,ベストとは言えないまでもきっちりまとめてきた アシュリー・ワグナー 選手(米)が3位に入りました。SP,FS共に過去に演じた代表作の再演で,SPはダンサブル,FSはきらびやかで,本当に素晴らしい演目です。ワグナー 選手もスコア度外視でよい選手の一人ですが,他の選手にミスが出ると表彰台にきっちり上がるのはさすがです。

 今大会の女子は,好不調で言えば不調の方にやや倒れた形になり,スコアのレベルは オズモンド 選手以外は平凡でした。ロシア大会で5位だった 坂本花織 選手のスコアはカナダ大会では2位ですからね。グランプリファイナルは各大会の順位によって決定されるので,こういう対戦のアヤに左右されます。五輪シーズンなので,シーズン序盤でももう少しレベルの高い戦いを観たかったところではありますが,五輪シーズンの緊張感や調整の難しさを改めて感じさせてくれたカナダ大会でした。

カナダ大会(スケートカナダ,グランプリシリーズ第2戦)プレビュー【スポーツ雑誌風】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 例年だと,カナダを練習拠点にしている 羽生結弦 選手の初戦として盛り上がるが,今年 羽生 選手は本大会不参加。では平穏な大会なのか…といえばさにあらず。日本の主力選手参戦や,参加選手の豪華さで,盛り上がること間違いなしの大会になりそうだ。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手が初戦を迎える。前哨戦で自己ベスト更新というロケットスタートを見せており,今大会は結果よりも内容重視で臨むだろう。前哨戦では 4S(4回転サルコウジャンプ)を新たに加え,4回転は F,Lo,S,T(フリップ,ループ,サルコウ,トウループ)の4種類となった。この構成を固めるのか,それとも練習中という 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を試すのか,今大会はトライする余裕がある状況なので,どうするのか気になるところだ。

 FS(Free Skating,フリースケーティング)は得意のフリップジャンプを前面に押し出した構成になっている。4F(4回転フリップジャンプ)を演技後半に飛ぶのは 宇野 選手の自信の表れだ。また,3連続ジャンプでよく使われるのは +1Lo+3S という,第3ジャンプがサルコウジャンプになるものだが,宇野 選手は第3ジャンプにフリップジャンプを持ってきて +1Lo+3F という構成にしている。これも有力選手では 宇野 選手しか入れていない稀有な連続ジャンプで,しかも演技後半に入れているのだ。さらに 4T(4回転トウループジャンプ)2本も後半に入るので,後半4回転3本に3連続ジャンプもあるハイレベルな構成だ。本大会では,ジャンプが全部入るか,演技全体の完成度がどこまで高まるかに注目したい。

 無良崇人 選手は,普通に実力を出せれば間違いなく日本男子代表の3枠目に入れるはずだが,ここぞという場面での勝負弱さと,田中刑事 選手の成長によって,全く安泰とは言えない状況にある。アイスダンスのソチ五輪金メダリスト ホワイト 選手(米)の指導を受け,スケーティングや表現力が格段に上がった今,ジャンプの精度が上がれば代表入りはもちろん,五輪での入賞(8位以内)も可能な力がある。五輪シーズンのグランプリシリーズ2戦は,全日本選手権前の試合勘を作るという意味で重要であり,今大会でぜひ完成度の高い演技を魅せてほしい。高さのあるダイナミックな 3A(トリプルアクセルジャンプ)は必見だ。

 宇野 選手と優勝を争うのは,自国参加の パトリック・チャン 選手(カナダ)。例年このカナダ大会は強いので,今回も強さと美しさを兼ね備えた見事なスケーティングを魅せてくれるだろう。ただし チャン 選手のミスが多かった場合,ジェイソン・ブラウン 選手(米)が割って入ってくる可能性がある。ブラウン 選手は4回転ジャンプの習得が遅れたが,完成度の高さで十分に勝負できるので,シーズン序盤にどこまで仕上がっているか楽しみにしたい。

◆女子シングル

 本田真凛 選手がいよいよシニアのグランプリシリーズデビューを迎える。マスコミが盛り上げてくれるので私は静かに見守りたいが,実力的には表彰台に上れたら上出来といったところであり,結果が伴わなくてもガッカリしてはいけない。本田 選手は連闘(2週連続出場)だが,次の中国大会は大激戦必至なので,グランプリファイナル出場を狙うには,今大会で優勝か2位を獲っておきたい。本田 選手が自己ベストで210点超えの演技ができれば,不可能なミッションではない。本当に優勝するようなことになれば,一気に国内は盛り上がるだろう。

 注目点は,急遽変更したSP(Short Program,ショートプログラム)だろう。先日のジャパンオープンのエキシビションで披露されたが,競技会では初めての演技となるからだ。本人が音楽を絶賛し,曲目をしばらく明かさないなど,話題作りにはなったが,プログラムを観た個人的な感想は,ハードルを上げられた分だけ期待値相応という印象になってしまった。しかし,選手本人が惚れ込んでいるのは演技には確実にプラスになるので,高い完成度ならばSPでトップに立てるスコアが出ることも期待できる。

 日本からもう一人,本郷理華 選手が出場する。本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の一人で,五輪に出場してほしいと思うのだが,昨季の不調と周囲の成長で一転して厳しい立場に置かれている。だが,本来はジャンプが安定していて好不調の波が小さい選手なので,今季再び覚醒すれば十分にチャンスが出てくる。日本選手には少ない,スケール感のある演技ができる選手なので,今大会でベストな演技を魅せてくれることを期待したい。

 他国の優勝候補筆頭は,ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)。昨季,華麗なる復活を遂げ,世界選手権で銀メダルを獲り,いい流れで今季を迎える。品の良さとスピード感を併せ持つ演技が持ち味で,自国大会は負けられないと意気込んでくるだろう。ロシア勢の マリア・ソツコワアンナ・ポゴリラヤ の両選手も優勝争いに加わる可能性が高い。ソツコワ 選手は可憐なのにダイナミック,ポゴリラヤ 選手はモデルばりのスタイルと雰囲気をたたえドラマティックな演技が特徴。2人とも自分に合ったプログラムを手に入れたかが鍵。米国2強の カレン・チェンアシュリー・ワグナー の両選手も参戦する。チェン 選手は昨季覚醒したが,今季は米国トップを守る立場でどうなるか。ワグナー 選手は例年グランプリシリーズに強く,有力選手が隙を見せると上位を奪うだろう。

 以上で挙げた7選手は皆,表彰台に上がれる実力があるが,今後の中国大会やフランス大会ほどハイレベルな大会とは言えない。なぜなら,この7選手は好不調の波が大きかったり,シーズンにより好不調の差があったりするからだ。だからこそ,今大会は誰もが優勝を狙える大会であり,その点で考えればシリーズ一番の激戦になる予感がする。

今季のジュニアは逸材揃い。本田真凛 より注目すべき選手は?

 今週末に開催されるフィギュアスケートのグランプリファイナル大会は,羽生結弦 選手をはじめ,ある年齢以上の選手が出場するシニア大会と,本田真凜 選手など若手が出場するジュニア大会が併催されるのが大きな特徴です。私は2013年の福岡大会を生観戦しましたが,ジュニアも全試合を観戦し,ジュニア選手の演技の素晴らしさに感嘆しました。そのときジュニアで出場していた,メドベージェワ(RUS),ソツコワ(RUS),ネイサン・チェン(USA),タラソワ & モロゾフ ペア(RUS)といった選手たちは,今年のシニアのファイナルに出場しますが,彼らはジュニアの頃からキラッと光る存在感を放っていました。今回のジュニアは逸材揃いと言われているので,地上波(シングル女子のみ)やBS・CSでチェックしてほしいと思います。

<ジュニアグランプリファイナル シングル女子 出場選手>

  • 日本勢: 紀平梨花坂本花織本田真凜
  • ロシア勢: グバノワ,ザギトワ,ヌグマノワ

 昨今のジュニアシングル女子は,シニアと比べても何ら遜色ない演技を魅せてくれるので,観ていて満足感が高いです。今年も日本vsロシアの一騎打ちの構図ですが,日本勢はタイプの違う3人が出場する強力な布陣です。

 トリプルアクセルに注目が集まりがちな 紀平梨花 選手ですが,ジャンプ全般がとても得意で,ジュニアにして8トリプル(フリースケーティングで3回転ジャンプを8回入れること)にチャレンジしています。8トリプルはトリプルアクセルを飛べるだけでなく,他の5種類のトリプルジャンプをきちんと飛べなければなりません。浅田真央 選手がソチ五輪のフリースケーティングで8トリプルにトライしましたが,全て着氷はしたものの,いくつかのジャンプでは回転不足がありました。そのくらい難しい8トリプルに成功すれば,金メダルの可能性もあります。

 坂本花織 選手はファイナル優勝候補筆頭といってもいいほど今季絶好調。先日の全日本ジュニアも優勝しました。ジャンプと表現が両方ともできる万能型の選手で,リンク外での明るい振る舞いも話題になっています。若い 紀平 選手や緊張しいの 本田 選手にとっても心強い存在だと思います。

 本田真凛 選手は,子役女優 本田望結 の姉でもあり注目されていましたが,世界ジュニア選手権を優勝したことでさらに注目度が上がりました。ですが,世界ジュニア選手権は強力なライバル2人が棄権するという幸運がありましたので,今回優勝して実力を示したいと思っていることでしょう。大舞台の度胸は一級品ですが,今季は成績が不安定で,表彰台なら御の字だと思います。とはいえ,手先,体の使い方,表情などの表現力は素晴らしいものを持っていますので,それをファイナルで存分に魅せてほしいです。

 ロシア勢は,実力が抜きん出ている ツルスカヤ 選手が,世界選手権に続き棄権となってしまいとても残念です。ところが,繰り上がりで出場する ヌグマノワ 選手がすごいんです。紀平 選手よりも1ヶ月若い14歳ですが,表現力は 本田真凛 選手よりも上と感じる方もいると思います。日本のアイスショーに出たときの放送を観たのですが,顔はあどけないのに,体の使い方は完全にシニアの上級者ばりで,表現や雰囲気が完成されているのです。観た方は,若いのにこんな演技ができるのか!?ときっと驚くと思います。競技会の ヌグマノワ 選手を私はまだ観たことがないので,とても楽しみです。

 注目点が多い女子に比べると,日本勢がいないのでどうしても注目度が下がってしまう男子ですが,韓国の チャ・ジュンファン 選手が大注目です。平昌五輪の開催国 韓国 についにメダルを狙える選手が現れたと話題なのです。技術面も芸術面も優れる万能型だそうで,ファイナルで優勝するようなことがあれば,一気にブレイクする可能性を秘めています。この選手も私は観たことがないので,楽しみにしています。

タグ絞り込み検索
記事検索
プロフィール

まっく・けぃ(Mak....

  • ライブドアブログ