マイクを持てば酔っぱらい

~カラオケをこよなく愛するITシステムエンジニアのブログ~

本郷理華

涙の全日本選手権

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です。


 五輪シーズンのフィギュアスケート全日本選手権。4年に一度の五輪が絡むので,どうしても張り詰めた空気に覆われてしまいますが,今年は特にいろいろな涙に彩られた大会だった気がします。

◆女子シングル

 FS(Free Skating,フリースケーティング)を終えた後の 宮原知子 選手の涙。この4年間の日本フィギュアスケート界を支え続けたプライド,ケガ明けの不安や恐怖,それに打ち勝った安堵感,それらが凝縮された瞬間でした。無事に平昌五輪代表になった今となっては,正に怪我の功名だったと思います。様々なエピソードが報じられていますが,スケートだけでなく,リハビリでも空いた時間の活動でも,黙々としかし着実に実行していたという話を聞くと,それらの努力が全て今大会のスケートに結実したのだなと思います。

 以前から定評のあった,動作に一切の無駄がなく研ぎ澄まされた表現は,今季のスケートアメリカで神々しさをまとい始め,もう今季はこのまま平昌五輪まで突き進む,そう私は確信しました。その確信どおり,今大会ではスコアを220点に乗せ,高らかに平昌五輪のメダル争いに名乗りを上げました。このスコアでもまだ,SP(Short Program,ショートプログラム)とFSの両方でジャンプの回転不足が1ヶ所ずつあり,他のジャンプでも GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)を伸ばせる余地がありますので,技術点の上乗せだけで225点,演技全体が完璧なら PCS(Program Component Score,演技構成点)もさらに伸びるので,トータル230点も見えてきました。このスコアを出せば確実にメダルに手が届きます。一度は諦めかけた平昌五輪を手繰り寄せた 宮原 選手には,きっと4年間の努力に対するご褒美がある,そう信じたくなる今大会の演技,そして涙でした。

 SPで 宮原 選手をわずかに上回りトップに立った 坂本花織 選手。プログラム「月光」は今までで一番の出来でした。思いのほか高い点数が出て,キスアンドクライで「わ~」と驚きながら存分に喜ぶ姿には,観ているこちらも嬉しくなりました。しかし,急に降って湧いたSPトップで,しかもFSは最終滑走。こうなる可能性を大会前にどれほど想定していたかわかりませんが,五輪シーズンでとてつもないプレッシャーがかかったと思います。

 FSは,冒頭の連続ジャンプで,セカンドジャンプが回転不足になり詰まってしまうあたり緊張が出ていましたが,その次のジャンプが膝を柔らかく使いながらふわっと着氷したのを観て,最後までミスなくできそうな予感がしました。実際にジャンプはミスなく入れることができましたが,「アメリ」というプログラムは最初から最後までパントマイムなどの細かいつなぎが満載で,前の大会に比べつなぎの表現に余裕がないように見えました。それでも 坂本 選手はそれなりに手応えを感じ,宮原 選手に勝てないまでもある程度迫る点数を期待していたようで,キスアンドクライでスコアが出たとき,坂本 選手は「あれっ」という表情を見せていました。スコアが140点にわずかに届かなかったのは,PCS の伸び悩み,冒頭ジャンプの回転不足,3Lz(トリプルルッツジャンプ)のエッジの問題で GOE 加点なし,の3つが原因でした。それでも,伸びしろを残しながらトータル213点を出したということは,GOE で加点された要素も多くあったということであり,ものすごい重圧を思えば見事な演技だったと思います。

 今大会の演技を観た関係者は,坂本 選手の舞台度胸と五輪までの伸びしろを高く評価したのでしょう。坂本 選手に平昌五輪代表の座がめぐってきました。代表争いに関する感想は別途記事を書きたいと思いますが,今大会の演技は 坂本 選手を選びたくなるような内容だったと言えるでしょう。

 年齢制限で平昌五輪の代表争いに巻き込まれなかった 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)旋風を巻き起こしなんと表彰台に乗りました。FSだけなら 宮原 選手に次ぐ2位という堂々たる成績で,SPの 3Lz が抜けなければトータルでも2位に入っていた計算です。ジュニアグランプリファイナルに続き 3A は絶好調で,3A+3T(連続ジャンプ:トリプルアクセル→トリプルトウループ)という大技を含め,SPとFS合わせて3本の 3A に成功。しかも単なる成功ではなく3本とも極めて質の高い美しい 3A でした。

 ですが,紀平 選手は 3A だけの選手ではありません。以前のブログ記事でも書きましたが,他のジャンプ,スピン,ステップ,PCS 全てがジュニア離れしています。今回のFSでは3回転ジャンプを8本入れる「8トリプル」に挑み,ジャンプの回転は全て認定されました(1つだけ着氷が乱れたジャンプがあり,その GOE が減点評価だったので「8トリプル成功」ではありません)。代表争いをしていた有力7選手が全員FSで1ヶ所以上回転不足があったことを考えると,回転不足がなかったというのは実はすごいことです。紀平 選手の8トリプルは 3A と 3Lz(トリプルルッツジャンプ)が2本ずつ入り,今大会のFSの技術点は 79.53 点。ちなみに技術点2位は 73.90 点(三原舞依 選手,5.63 点差),グランプリファイナルのFSの技術点トップでも 76.61 点(ザギトワ 選手(ロシア),2.92 点差)なので,この技術点がいかにすごいかがわかります。また PCS も,FSではジュニアの他の選手より3点以上高い 61.76 点を獲得し,スケーティング技術や芸術性でも評価が高いです。まだ15歳で既にこの完成度なので,今後の成長で PCS がもっと上がれば,世界チャンピオンを狙える逸材です。平昌五輪後は,紀平 選手の成長を楽しみたいと思います。

 紀平 選手のFS大躍進によって,4年連続の表彰台を逃してしまったのが 樋口新葉 選手でした。昨年まで3年連続で全日本選手権の表彰台に上り,今年もうまく乗り切るかと思ったのですが,五輪代表がかかる今年は,大舞台の弱さが今大会でも出てしまいました。SPとFSでジャンプが抜けるミスが1本ずつありましたが,これら以外のジャンプはきちんと入れましたし,表現などは気持ちが入っていて PCS は割と高い点数が出ていました。ミスを引きずることなく演技全体をまとめたという点では今シーズンの成長が表れていましたし,今までならこのくらいのスコアでも表彰台に上れたと思いますが,現在の日本のレベルでは2つミスをすればこういう結果になるということでしょう。代表発表時,舞台裏では悔し涙にくれたことと思いますが,これをバネにして今後,より強くなっていくことを期待しています。

 坂本 選手の代表入りを,悔しさと喜びと入り交じりながら受け止めているのが 三原舞依 選手でしょう。私は 三原 選手の逆転代表入りを願っていましたが,SPでまさかの 2A(ダブルアクセルジャンプ)転倒があり,SPの段階で同門後輩の 坂本 選手とかなりの差がついたことで代表入りはほぼ絶望的になってしまいました。それでもFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の穏やかで柔らかいスケーティングが素晴らしく,140点に乗せて意地を見せてくれました。演技終了直後の涙には,FSがうまくいったからこそのSPの悔しさ,壁を越えられなかったもどかしさも含まれているように感じました。今季は安定して200点台のスコアを出しながら210点を一度も超えられず,FSも10月のジャパンオープンで出した PCS 70 点,計 142 点に届きませんでした。やはりSPの出遅れのせいか,やや慎重な部分があったようにも感じました。

 SPのプログラム「リベルタンゴ」は今大会でもミスが出て,完成に至りませんでした。三原 選手にとってはチャレンジといえるジャンルで,大丈夫か?という声はシーズン当初からありましたが,結果から判断すればこの賭けは裏目に出たと言えるでしょう。SPの演技が体に入り込む前に今大会を迎え,失敗できないという重圧から,最後のジャンプである 2A のところで綻びになってしまったという感じでしょう。三原 選手はプログラムが体に入り込んでからどんどん完成度が上がっていくタイプで,だからこそ昨季はシーズン後半に好成績を残すことができました。タンゴは 三原 選手の体に入り込むのに時間がかかってしまったのではないでしょうか。今大会はトータルスコア210点超えが2人だけと,スコアの点ではけしてハイレベルではありませんでしたから,三原 選手にも十分チャンスがあっただけに,平昌五輪代表入りを逃したのは残念でなりません。

 本郷理華 選手のSP「カルミナ・ブラーナ」は本当に素晴らしかったですね。今季やや上向いてきたとはいえ,グランプリシリーズもパッとせず,今大会に賭けてきた気持ちが伝わってきました。今までの 本郷 選手の演技は,スケールの大きな演技ができる体格や技術を持ち合わせながら,表現面ではやや凡庸な印象が拭えないところがあったのですが,今大会のSPでは表現しようという意志が観ているこちらにも強く伝わってきました。そこには,4年間日本女子を支えてきたプライド,平昌五輪への強い想い,長久保 コーチの退任など周囲の状況の変化に打ち勝つ気持ち,そういった様々なものが体現されていましたし,観ている私たちもそれを共有したからこそ,強い感動があったのだと思います。FSはベストな演技にはなりませんでしたが,転倒しても全く気持ちを切らすことなく最後まで演じ切った姿には,本郷 選手の強さの一端を観た思いがしました。今大会のような表現の強さがあれば,本郷 選手は再び全盛期を迎えることができると思います。

 本田真凛,白岩優奈 両選手は,シニアデビューの洗礼を受けてしまった,いや,自らそこにハマってしまった印象を受けました。同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表にまで上り詰めた姿を見て,彼らが抱える思いを考えると複雑な気分になります。スケートアメリカで花開いた 坂本 選手を観て「よし自分たちも続くぞ」と彼らは思ったはずですが,今大会の2人からはそういう気持ちの強さが感じられず,ただただ緊張感に包まれていたように見えました。結果として,グランプリシリーズを上回る内容を示すことができませんでした。

 特に 本田 選手の心と体のコントロールが大丈夫なのか,ちょっと心配です。本田 選手のFSの演技を観ていて,逆転のためには開き直るしかない状況なのに,表現が前に出てこない感じがして,ちょっとおかしいと私は感じました。スポーツナビのコラムで 安藤美姫 さんは 本田 選手の演技について「心が離れているように感じた」と表現されていて,私の抱いた感覚はそういうことだったのかと腑に落ちました。逆転といってもほぼ不可能な状況でしたから,気持ちは全力を尽くそうと思っていても,身体が悟ってしまっていたのかもしれません。しかも,同じシニアデビュー組の 坂本 選手が代表の座をつかんだことで「自分にもできたはずなのに」という失意が大きくなっているかもしれません。本田 選手がメンタルダメージを負わないように,心のケアと今後に向けた動機付けに周囲が万全を期してほしいです。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手は,羽生結弦 選手不在でなかなかモチベーションを保つのが難しかったかもしれません。今大会でも 2A+4T(連続ジャンプ:ダブルアクセル→4回転トウループ)を試みるなど,自分に刺激を与えようとしていた気がします。ただ,五輪直前なのに,この場に及んでも何かを試している,というのはやや不安を感じます。この時期は,プログラムを固めてそれを成熟される段階だと思うからです。今大会も300点に届かず,平昌五輪が大丈夫なのか不安に感じている方もいると思いますが,ここは 宇野 選手を信じてみましょう。昨季の世界選手権の見事なピーキングを,平昌五輪でも実行してくれるはずです。

 田中刑事 選手は,実力どおりの代表入りとなりました。驚いたのは,PCS が88点も取れたことで,これは大きな自信になるでしょう。そして,田中 選手の代表入りは,羽生 選手の五輪連覇にとってかなりプラス材料になると思います。羽生 選手にとって,同期であり気心が知れた 田中 選手が近くにいてくれることで,ケガ明けの不安や連覇への重圧がかなり緩和されると思います。

 男子で最も涙を誘ったのは,山本草太 選手ですね。大けがからの復帰で,まだ難しいジャンプを入れられない状況の中,今できるベストの構成をほぼきちんとやり切りました。そして,表現面では以前よりもはるかに力強さが増していました。山本 選手は 本郷 選手と同門生ですから,彼も 長久保 コーチの退任に驚いたのではないかと思います。そういった環境変化,そしてケガ,それらを乗り越えて復帰した自分に今できる最高の演技を観ている皆さんに届けたい,そんな気持ちが強く強く表れる演技でした。多くの観客やテレビ観戦された皆さんが感涙されたと思いますが,それは単に復帰を祝しただけではなく,その強い気持ちがスケートの演技に乗って観る者の心に響いたのです。困難を乗り越え,強い気持ちと表現力を手に入れた 山本 選手の今後から目が離せません。


 全日本選手権の激闘が幕を閉じ,平昌五輪代表が決まり,年が明けるといよいよ五輪モードに突入します。選手の皆さんは,いったん緊張を解き,休息を取り,それぞれの次なる目標に備えてほしいです。今シーズンここまで,実に多くの感動がありました。選手の皆さんの素晴らしいパフォーマンスに,心から拍手を送ります。

【SP終えて】どうなる?女子シングル五輪代表2枠

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 フィギュアスケート全日本選手権の女子シングルは,SP(Short Program,ショートプログラム)が終わり,坂本花織,本郷理華 の両選手がベストパフォーマンスを魅せた一方で,他の選手にはミスが出る展開になりました。土曜日に行われるFS(Free Skating,フリースケーティング)で順位の逆転は起きるのか起きるとすればその可能性はどのくらいか,少し詳しく見ていきたいと思います。

 今季の今までの結果を基に,各選手がどのくらいのスコアを獲れそうか予想しました。演技の基礎点は過去の実績からわかります。PCS(Program Component Score,演技構成点)は「良い演技」でのスコアと「完璧な演技」でのスコアを予想しました。完璧な演技なら3~4点上乗せできると想定しました。GOE(Grade Of Execution,出来栄え点)は,「良い演技」では各演技要素にジャッジ1人あたり平均1点の GOE が付くと仮定,「完璧な演技」ではそれが平均1.5点になると仮定しました(完璧なら平均2点も可能でしょうが,1.5点が現実的と考えました)。スコア上の GOE による加点は,典型的な演技要素の組み合わせにおいて「良い演技」では7.6点,「完璧な演技」では11.4点になる計算です。

 ミスを加味するのは気が引けますが,順位が下位の選手は上位選手のミスがなければ逆転できないという現実がありますのでこれを考えます。ジャンプの抜け(3回転が2回転以下になってしまう)や回転不足による減点は,ジャンプの種類によって若干異なりますが,基礎点の減点と GOE のマイナスで平均約4点下がると仮定します。ジャンプの転倒は,多くの場合回転不足を伴うので基礎点の減点があり,さらに GOE のマイナス,転倒自体の減点,間接的に PCS にも影響するのでその目減り分を加味して,平均約7点下がると仮定します。

 SP上位7選手の最終的なスコアがどのくらいになるかを予想した表が下表です。左からSP順位順に選手を並べました。

《凡例》 スコア:SP+FS合計点,★:完璧な演技,*:可能性のある範囲(★印以下),○:良い演技,▼:ミス(ジャンプ抜け,回転不足),×:ジャンプ転倒

スコア坂本宮原本郷樋口紀平本田三原
220





219





218





217




216




215




214




213



212


211


210

209

208
207
206×
205▼2
204
203×
202▼2×▼
201▼3
200
スコア坂本宮原本郷樋口紀平本田三原

 完璧な演技(上表★印)は良い演技(上表○印)に比べ7~8点プラスされる形になっていますが,これは上述したように GOE が約4点,PCS が3~4点プラスされると仮定したためです。紀平 選手だけ完璧な演技なら PCS が6点プラス(良い:58点⇒完璧:64点)されると予想しました。あくまでも個人的な予想ですので,スコアがこのとおりにならない可能性は大いにあります。参考として見ていただければと思います。

 全員がFSで完璧な演技をすれば,1位:宮原知子,2位:坂本花織,3位:樋口新葉 になると思われます。こうなると,五輪代表2人目は 坂本 選手と 樋口 選手のどちらかから選出されることになるでしょう。通常ならトータルの実績で 樋口 選手が選出されるはずですが,坂本 選手の勢いを買う意見が出ても不思議ではありません。FSで,坂本 選手が完璧な演技をするか,あるいは 樋口 選手が1つでもミスをすると,伸び盛りの 坂本 選手が代表の重責を担うというシンデレラストーリーが現実になると思います。

 表を見ていただくと,SP2位の 宮原 選手の方が優位に立っていることが分かります。SPの1位との点数差はわずか0.36点なので実質的にFS勝負になり,FSの基礎点はどの選手もほぼ変わらないので,PCS が他の選手を上回っている分だけ 宮原 選手に分があります。宮原 選手自身は当然優勝しか考えていないと思いますが,代表入りという観点に限ってみれば,宮原 選手の実力・実績を考えると表彰台に上れば代表選出は間違いないでしょうから,そう考えればかなり楽な気持ちでFSに臨めると思います。

 坂本 選手は,まさかの全日本選手権優勝や五輪代表入りのチャンスが巡ってきました。ですが,元々それを狙っていたわけではないと思われるので,その無欲をどれだけ貫けるかが勝負を分けるでしょう。しかもFSは最終滑走。自分の演技で全てが決まるという大舞台をチャンスと捉えるか,緊張感に覆われてしまうか,いずれにせよ 坂本 選手にはとても得難い経験となるでしょう。最終滑走は GOE や PCS が出やすいと言われている(審判も人間なので,後になるほど点数を出しやすいのは,あらゆる採点の常ですね)ので,完璧な演技ならかなり高い点数が出て,宮原 選手を上回ることも十分あり得ます。スケートアメリカ(2位)で得た自信をそのまま全日本選手権に持ってきている感じで,調子もとても良さそうなので,奇跡の優勝となる確率はかなりあると思います。

 逆に,一転して追い込まれているのは 樋口 選手でしょう。完璧な演技をすれば,坂本 選手がほどほどでも逆転の2位はあると思いますが,樋口 選手がほどほどの出来にとどまれば,坂本 選手が1ミスでも逆転できない恐れがあるという,なかなか微妙なSPの点差です。また,代表選考の観点で考えると,宮原 選手が優勝なら,樋口 選手が3位でも今までの実績で代表に選出される可能性がありますが,坂本 選手が優勝すると,樋口 選手が2位でも 宮原 選手が代表選出される可能性が高いです。つまり,2位でも代表確実とは言えないわけで,なかなか計算が立たない状況が生じています。

 坂本 選手が絶好調で無欲なのに対し,代表入りを強く意識しながらミスが出てしまった 樋口 選手は,心理的にかなり追い込まれていると思います。ミスは許されない,という自分への呪縛ではなく,ここまで来たら持っているものを出すだけ,という開き直りができるかどうかにかかっています。完璧な演技ができれば,宮原,坂本 両選手がそこそこ良い演技だったとしても勝てるだけの力はあります。昨季から続く大舞台の弱さを,この大一番でこそ払拭してほしいと願ってやみません。

 本郷 選手のSPは素晴らしかったですね。会心の演技によって,大逆転の代表入りにわずかながら可能性ができました。FSは,そこそこの出来では表彰台は無理なので,完璧な演技をした上で上位選手の出来如何ということになるでしょう。

 本田真凛,三原舞依 の両選手は,上表の私の試算では完璧な演技をしてもトータル210点に届くことはほぼ不可能であり,完璧を超える超絶演技で GOE や PCS が高騰しない限り,代表入りも表彰台もほぼ絶望的な状況です。逆に言えば,もう順位やスコアのことは考えずに無心で演じ切るのみでしょう。

 ところで,五輪の年齢制限と,既に世界ジュニア出場が内定していることから,代表争いと無縁の 紀平梨花 選手が,3A(トリプルアクセルジャンプ)を成功させSP5位に飛び込んできました。演技順の最終グループに入ったのは,自分は無関係ながら代表争いの緊張感を肌で感じられるという点で,とても貴重な経験になります。その緊迫感の中で 3A 2本を含む全ての要素を成功させ,高い完成度の演技ができ PCS が64点(満点の80%)に乗れば,ジュニアでありながらトータル210点に届き表彰台に上る可能性もあります。スコアを調べていて驚きましたが,PCS は 宮原 選手より10点程度低いのですが,技術点は 3A 2本の威力で他の選手より約6点も高いので,PCS がもう少し伸ばせれば他の選手と互角に戦える力があるのです。3A 2本も楽しみですが,いわゆる8トリプル(3回転ジャンプを8本成功させること)が達成できるかどうかにも注目したいと思います。

 代表選考に話を戻しましょう。宮原,樋口 両選手をすんなり選出できるような流れになれば問題ないでしょうが,このようにスコア分析をしたり,各選手の置かれている状況を考えていくと,坂本 選手が2位に入り,2枠をめぐるドラマが生まれる可能性はかなり高いと思えてきます。樋口 選手には本当に頑張ってほしいのですが,坂本 選手の勢いは本物だとSPを観てひしひしと感じました。もし 宮原 選手のジャンプに回転不足が生じれば,坂本 選手の優勝,代表2人目が 宮原 選手という決着も十分に可能性があるシナリオだと思います。

 近年の全日本選手権の女子シングルは,全日本でありながらミスがほとんどない印象でしたが,今年は五輪代表枠が2枠という狭き門のせいか,SPではミスが出る展開になりました。特に,樋口,三原 両選手は 2A(ダブルアクセルジャンプ)でミスが出ているところに,尋常でない緊張感があることがうかがえます。FSは,SP上位選手と言えどもミスすれば表彰台や代表から脱落という厳しい大会になりそうです。ミスではなく演技の完成度で勝負が決まるような,素晴らしいFSになるよう,そして各選手がケガなく清々しく大会を終えられるよう,強く強く祈っています

どうなる?女子シングル五輪代表2枠

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 もうすぐ開催される全日本選手権の結果によって,平昌五輪の代表が決まります。注目はなんといっても,2枠しかない女子シングルがどうなるかでしょう。ありとあらゆるメディアで報じられていることではありますが,改めて選考基準を確認しましょう。

女子シングル選考基準
 下記①の1名。②~⑥から1名。計2名。
  ① 全日本選手権の優勝者
  ② 全日本選手権2位・3位
  ③ グランプリファイナル出場者上位2名
  ④ ワールドスタンディング上位3名
  ⑤ シーズンワールドランキング上位3名
  ⑥ シーズンベストスコア上位3名

 現時点で選考基準を満たす選手は③~⑥の該当者であり,坂本花織,樋口新葉,本郷理華,宮原知子 の各選手(五十音順)です。ここに,全日本選手権の2位と3位の選手を加えて2人目を選考することになります。

 2人目がどう選考されるかを考えてみますと,実際には,全日本選手権の2位か3位のどちらかが代表入りすることになると思います。4位以下が代表に入る可能性を考えると,以下のいずれかしかないと私は考えます。

  • [A] 上述の4選手に,白岩優奈,本田真凛,三原舞依 の各選手を加えた計7名の有力選手が誰も2位・3位に入らなかった場合
  • [B] 宮原 選手が2位と僅差で4位に入った場合
 宮原 選手は,全日本選手権を3連覇するなど過去3シーズン安定した成績を残し,今シーズンもケガ明けながら完全復調したので,2位に見劣りしない内容であれば代表入りすると思います。宮原 選手は実力も経験も,他の選手より明らかに上ですので,そのような選考をされても他の選手もみな納得するでしょう。逆に言えば,宮原 以外の選手(坂本,樋口,本郷)が4位以下になった場合,2位か3位ではなくその選手を代表入りさせるのは,選考理由が示せないと思います。樋口 選手は4位なら可能性がないとは言えませんが,大舞台に弱い上に全日本選手権でも表彰台を逃すとなれば,代表入りの理由が示しづらいでしょう。ゆえに,宮原 選手以外は,全日本選手権の表彰台が最低限の条件になると思います。

 上記[A]が現実に起こるとは思えません。そこで,全日本選手権の2位と3位から代表が決まると考えた場合に,有力7選手の組み合わせによってどのような選考が行われるかを予想してみます。2位が下表の縦軸の選手,3位が下表の横軸の選手になった場合,どちらが代表に選出されるかを私が予想した表を示します。

2位 \3位宮原樋口三原坂本本郷白岩本田
宮原知子--宮原宮原宮原宮原宮原宮原
樋口新葉宮原--樋口樋口樋口樋口樋口
三原舞依宮原??--三原三原三原三原
坂本花織宮原????--坂本坂本坂本
本郷理華宮原樋口三原??--本郷本郷
白岩優奈宮原樋口三原坂本??--白岩
本田真凛宮原樋口三原坂本??本田--

 表内の??は,どちらが選ばれるか予想がつかないことを意味します。一番悩ましいことになりそうなのは,下記の2ケースだと思います。

【2位:三原,3位:樋口

 2人ともシニアに上がって2年目。昨季の成績は 三原 が上,今季の成績は 樋口 が上ですが,以下の理由により,全日本選手権で上位になれば 三原 選手を推す意見が出そうです。

  • グランプリファイナルで 樋口 選手が(昨季の四大陸選手権と世界選手権に続き,三たび)大舞台の弱さを見せてしまった
  • 平昌五輪のリンクで開催された昨季の四大陸選手権で優勝した 三原 選手は,五輪のリンクと相性が良いと考えられる
  • 代表枠が2枠になってしまった昨季の世界選手権の成績は 三原 選手の方が上位である
  • 三原 選手の昨シーズン後半の安定感(シーズン前半よりスコアを伸ばした)

 世界選手権の成績に関しては多分に心情的な問題ですが,五輪の枠を減らす原因になった選手が五輪代表になり,3枠の可能性を残す好成績を上げた選手が代表になれないのは,なんだか腑に落ちないという声が出ても不思議ではありません。2人目は選考基準を満たした選手の中から「総合的に」判断することになっているので,上述の理由も加味されてよいことになります。一方で,樋口 選手の側に立つと,今季のハイレベルな成績は見事で,これを評価する声も当然あるでしょう。この状況では,選考する側はとても難しい判断を迫られます。

【2位:坂本,3位:三原

 同じコーチに指導を受ける同門生である2人が1つの椅子を争う状況は,胸が締め付けられる思いがいたします。しかしこれは,坂本 選手の成長によるものなので,喜ばしいことでもあります。今季の成績だけ見れば,グランプリシリーズ2戦平均スコア以外,全ての面で 坂本 選手が上回っていますので,坂本 選手が選ばれても全く異論はないところです。

 しかし 三原 選手は,昨季の五輪プレシーズンという非常に濃密な経験をしながら好成績を修めました。五輪という大きな重圧がかかる大会は,今季シニアデビューの 坂本 選手では心許なく,昨季の経験と実績がある 三原 選手の方が代表に相応しいという声が上がることと思います。先輩である 三原 選手が出場するのなら,坂本 選手としては譲りがいがあるというものでしょう。このケースも,選考する側にとってはなかなか悩ましいのではないかと思います。


 以下,代表選考に関する個人的な考えですが,シニアデビューの選手に五輪を託すのは,2枠という状況においてはあまりにも荷が重いと考えます。全日本選手権の優勝もしくは圧倒的な成績がない限り,代表に選ぶべきではないでしょう。この考えだと,樋口,本郷,三原,宮原 の各選手(五十音順)が代表候補になります。

 そして例年,代表選考においてはっきりしていないと感じるのは,代表は「好成績の選手」を選ぶのか「メダルを狙える選手」を選ぶのかという問題です。前者であれば,上述の4選手は誰でも相応しいと思いますが,後者であれば,宮原 選手以外はやや心許ない部分があると思います。その中でも,樋口 選手と 三原 選手のどちらを選ぶかとなれば,上述の理由により,個人的には 三原 選手を選ぶべきだと考えます。さて,はたして実際の選考はどうなるのでしょうか。私たちは見守るしかありません。

 ここからは,女子シングル有力選手の見どころをご紹介いたします。上表に記載した7名の有力選手を,表の記載順に紹介していきます。

宮原知子 選手】

 ケガ明けの心配はもうないと考えていいと思います。休養期間中にいろいろなものを吸収したことが奏功して,表現力に磨きがかかってきました。以前は振付の型どおりといった印象もありましたが,今季は表現したくて表現しているという雰囲気に満ち溢れています。グランプリファイナルでは,ジャンプの回転不足でスコアが伸びず5位に終わりましたが,メドベージェワ 選手(ロシア)欠場による繰り上げ出場でしたし,全日本選手権も控えていたことから,全力で臨まなかったと思われます。それでもスコアが213点でしたから,全てが完璧なら220~223点くらいは期待できると思います。

 SP(Short Program,ショートプログラム)の「SAYURI」,FS(Free Skating,フリースケーティング)の「蝶々夫人」,共に日本の凛とした女性を演じるという 宮原 選手にしか出せない世界観が素晴らしいプログラムです。ケガという辛い時期を乗り越えた 宮原 選手自身の道のりがプログラムの物語に重なって見えるのもグッとくるポイントです。初めから終わりまで,指先,目線,足先に至る全ての動きを堪能してほしいです。

 今季は,ケガ明け初戦から,NHK杯(日本大会)→アメリカ大会→ファイナル→全日本選手権 の4大会が全て中1週(2週間おき)のスケジュールなので,疲労の蓄積が全日本選手権の大事なときに出ないことを祈るばかりです。今まで3連覇していますので,五輪シーズンにこそ優勝して4連覇しなければ…という自身の内なる重圧とも戦うことになるでしょう。

 現実問題として,平昌五輪でメダル争いに自力で加われる日本選手は 宮原 選手だけです。その意味でも,全日本選手権をとにかく乗り切ってほしい,そう願う関係者は多いのではないでしょうか。

樋口新葉 選手】

 昨季の悔しさをバネにして,今季は目標だったファイナル出場を果たし,成長を見せてくれています。スケーティングに一段と力強さが増し,芸術性も増してきたことで,PCS(Program Component Score,演技構成点)の点数も上がってきました。プログラムのSP「ジプシーダンス」,FS「007・スカイフォール」共に,樋口 選手のスピード感や力強さが存分に生かされたプログラムで,十分に世界で勝負できるものになっていると思います。

 ただ,大舞台での弱さがまだ克服できていません。今季の調子ならファイナルでも表彰台が射程圏内でしたが,ミスが出てしまいました。今まで全日本選手権にはめっぽう強く,3年連続で表彰台に乗っていますが,五輪代表がかかる今年,今までと同じように良い演技ができるかどうかが問われます。

 現在の日本のフィギュアスケート界は,関西や名古屋のチームが強いですが,樋口 選手には東京代表として風穴を開けてほしい気持ちが個人的にあります。小さい身体で頑張る姿に,私はブログで時折厳しい言葉をかけてきましたが,それも心底応援していることの表れなのです。代表に選ばれた暁には,平昌五輪でこそ大舞台での弱さを克服して輝く姿を観たいと願っています。

三原舞依 選手】

 今季はグランプリシリーズ2戦とも200点を超え,シリーズ平均スコアのランキングは全選手中6位。常に完成度が高く安定感があるのが 三原 選手の最大の特徴です。特にFSのプログラム「ガブリエルのオーボエ」は,三原 選手の柔らかいスケーティングを生かした見事なプログラムで,三原 選手に本当によくフィットしていますので,完璧に演技できればトップスコアも期待できます。

 これだけ安定したスコアを出しながら,シリーズでは対戦カードに恵まれず2大会とも4位に終わり,ファイナルにも進出できず,世界ランキング等のポイントも伸びませんでした。そのため,冒頭の選考基準の③~⑥を満たすことができず,全日本選手権の表彰台が代表入りの絶対条件となります。本人は優勝しないと五輪に出場できない,くらいの気持ちで挑んでくると思いますが,その重圧に打ち勝つには,シリーズで完璧な演技ができなかったSP「リベルタンゴ」を完璧にできるかどうかが鍵になります。タンゴは 三原 選手の持ち味に合うとは言えないジャンルですが,最後に出場した大会から1ヶ月以上空きましたので,どこまで完成度を上げられたかに注目したいです。

 上述した 三原 選手の昨季の実績から考えると,三原 選手が平昌五輪の代表になるべきだと私は思っています。特に,昨季の四大陸選手権を優勝したことは,平昌五輪本番の会場と相性が良いという点で大きな意味があると思います。そのためにも,全日本選手権で優勝して,五輪代表の座をつかみとってほしいと切望しています。

坂本花織 選手】

 シニアデビュー組の中ではいち早くスコアを210点に乗せました。特にFS「アメリ」が秀逸なプログラムで,(アメリカ大会の感想を書いた自分のブログから引用しますが)ジャンプの質,ステップの最中にまで表現される細かいパントマイム,音楽とスケーティングの融合,全てがうまくハマったこの「アメリ」が持つ雰囲気は最高です。ジャンプの高さと幅が圧巻で,それでいて細かい表現力も持ち合わせる総合力の高さが持ち味です。また,リンク内外で明るく振る舞えることも魅力です。坂本 選手ならシニア1年目でも五輪の重圧に耐えられるかも…と思わせる雰囲気を持っている選手です。

 ただ,アメリカ大会は,前の大会から中4週空いていましたので,十分な調整ができる良いタイミングだったと言えます。他のシニアデビュー組の 本田真凛,白岩優奈 はどちらもグランプリシリーズが連闘(2週連続出場)という不利なスケジュールだったので,2戦目もスコアが伸びませんでしたが,坂本 選手と同様のスケジュールなら,彼らももっとスコアが伸びていた可能性はあります。アメリカ大会の好成績により,全日本選手権でこれを超えなければと自分自身で重圧をかけてしまう恐れもあります。

 頑張れば頑張るほど,同門生である 三原 選手と争うことになる難しさはありますが,切磋琢磨して素晴らしい演技ができれば,2人で平昌五輪出場という可能性もゼロではありません。シニア1年目での五輪出場が難しいことは選手本人が一番よくわかっていると思いますので,五輪を意識せずに無欲で臨めれば,サプライズが起きるかもしれません。

本郷理華 選手】

 初めて全日本選手権で観たとき,それまでの日本選手にはあまりいなかった,スケールの大きな演技に私は魅了され,それからずっと応援してきました。五輪プレシーズンの昨季に調子を崩し,今季少し持ち直してはいますが,調子の波が五輪にうまく合わないのは不運ですね。それでも,一昨季の活躍もあり,世界ランキング(ワールドスタンディング)は現在も9位に位置しています。特にSP「カルミナ・ブラーナ」は,日本選手では 本郷 選手にしかできないスケールの大きなプログラムで,とても見応えがあります。

 昨季,同門の先輩である 鈴木明子 さん振付のプログラムに挑戦しましたが,消化不良に陥ってしまいました。表現力やスケーティングの面でもう一段高いレベルに上る過程で壁に当たっている印象があります。また,長年指導を受けていた 長久保 コーチが突如退任する事態となり,周囲が落ち着かない状態になっているかと思います。そういった困難を乗り越え,開き直った演技ができるかが注目点です。

 本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の1人ですので,平昌五輪に出るべき存在だと思います。自身の成長より周囲のレベルアップが激しく,簡単な状況ではありませんが,4年間の集大成を魅せてほしいと願っています。

白岩優奈 選手】

 シニアデビュー組の中で個人的には一推しの選手です。演技全体に安定感があり,ふんわりした雰囲気が癒しを与えてくれるような存在で,これぞ女子スケーターという感じがします。レベル面では,他のシニアデビュー組とも対等に戦えるだけの実力を備えていますので,完璧な演技ができれば,他の選手次第で全日本選手権の表彰台も十分に可能性があります。

 ただ,坂本 選手はスケール感と明るい性格,本田 選手は芸術性とスター性という個性がはっきりしているのに対し,白岩 選手の個性はまだ前面に出てきていないかなと感じます。技術がしっかりしているので,経験を重ねれば自ずと個性がにじみ出てくるのではないかと思いますし,ちょうど北京五輪の頃に全盛期を迎えるような気がしています。

本田真凛 選手】

 グランプリシリーズは序盤の第2・3戦に割り当てられたこともあり,スコアがさほど伸びませんでしたが,ポテンシャルの高さは誰もが知るところです。また,ジュニア時代には大舞台の強さもありましたので,全日本選手権にきっちり照準を合わせてくるのではないかと思います。前の大会から1ヶ月半も空きますので,調整も十分できるでしょう。優勝だけを狙って,抜群の集中力と大舞台の強さを発揮できれば,手ごわい存在であることは確かです。

 逆に言えば,優勝以外はどの順位でも同じという考えで臨むと,1つミスが出た段階で集中力が切れ,ミスの連鎖になる可能性もあります。五輪代表争いを意識し過ぎず,とにかく最善を尽くすという無心で臨めるかどうかが鍵になるでしょう。


 ソチ五輪後を支えた 宮原,本郷。昨季シニアデビューの 樋口,三原。今季シニアデビューの 坂本,白岩,本田。これだけの逸材の中から2名しか平昌五輪に出場できないのは本当にもったいないですが,とにかく全日本選手権でベストな演技が披露され,その中から代表が選ばれてほしいと願っています。どんなドラマが生まれるか,しっかり見届けたいと思います。

カナダ大会(スケートカナダ,グランプリシリーズ第2戦)プレビュー【スポーツ雑誌風】

spnvLogo 本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です


 例年だと,カナダを練習拠点にしている 羽生結弦 選手の初戦として盛り上がるが,今年 羽生 選手は本大会不参加。では平穏な大会なのか…といえばさにあらず。日本の主力選手参戦や,参加選手の豪華さで,盛り上がること間違いなしの大会になりそうだ。

◆男子シングル

 宇野昌磨 選手が初戦を迎える。前哨戦で自己ベスト更新というロケットスタートを見せており,今大会は結果よりも内容重視で臨むだろう。前哨戦では 4S(4回転サルコウジャンプ)を新たに加え,4回転は F,Lo,S,T(フリップ,ループ,サルコウ,トウループ)の4種類となった。この構成を固めるのか,それとも練習中という 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を試すのか,今大会はトライする余裕がある状況なので,どうするのか気になるところだ。

 FS(Free Skating,フリースケーティング)は得意のフリップジャンプを前面に押し出した構成になっている。4F(4回転フリップジャンプ)を演技後半に飛ぶのは 宇野 選手の自信の表れだ。また,3連続ジャンプでよく使われるのは +1Lo+3S という,第3ジャンプがサルコウジャンプになるものだが,宇野 選手は第3ジャンプにフリップジャンプを持ってきて +1Lo+3F という構成にしている。これも有力選手では 宇野 選手しか入れていない稀有な連続ジャンプで,しかも演技後半に入れているのだ。さらに 4T(4回転トウループジャンプ)2本も後半に入るので,後半4回転3本に3連続ジャンプもあるハイレベルな構成だ。本大会では,ジャンプが全部入るか,演技全体の完成度がどこまで高まるかに注目したい。

 無良崇人 選手は,普通に実力を出せれば間違いなく日本男子代表の3枠目に入れるはずだが,ここぞという場面での勝負弱さと,田中刑事 選手の成長によって,全く安泰とは言えない状況にある。アイスダンスのソチ五輪金メダリスト ホワイト 選手(米)の指導を受け,スケーティングや表現力が格段に上がった今,ジャンプの精度が上がれば代表入りはもちろん,五輪での入賞(8位以内)も可能な力がある。五輪シーズンのグランプリシリーズ2戦は,全日本選手権前の試合勘を作るという意味で重要であり,今大会でぜひ完成度の高い演技を魅せてほしい。高さのあるダイナミックな 3A(トリプルアクセルジャンプ)は必見だ。

 宇野 選手と優勝を争うのは,自国参加の パトリック・チャン 選手(カナダ)。例年このカナダ大会は強いので,今回も強さと美しさを兼ね備えた見事なスケーティングを魅せてくれるだろう。ただし チャン 選手のミスが多かった場合,ジェイソン・ブラウン 選手(米)が割って入ってくる可能性がある。ブラウン 選手は4回転ジャンプの習得が遅れたが,完成度の高さで十分に勝負できるので,シーズン序盤にどこまで仕上がっているか楽しみにしたい。

◆女子シングル

 本田真凛 選手がいよいよシニアのグランプリシリーズデビューを迎える。マスコミが盛り上げてくれるので私は静かに見守りたいが,実力的には表彰台に上れたら上出来といったところであり,結果が伴わなくてもガッカリしてはいけない。本田 選手は連闘(2週連続出場)だが,次の中国大会は大激戦必至なので,グランプリファイナル出場を狙うには,今大会で優勝か2位を獲っておきたい。本田 選手が自己ベストで210点超えの演技ができれば,不可能なミッションではない。本当に優勝するようなことになれば,一気に国内は盛り上がるだろう。

 注目点は,急遽変更したSP(Short Program,ショートプログラム)だろう。先日のジャパンオープンのエキシビションで披露されたが,競技会では初めての演技となるからだ。本人が音楽を絶賛し,曲目をしばらく明かさないなど,話題作りにはなったが,プログラムを観た個人的な感想は,ハードルを上げられた分だけ期待値相応という印象になってしまった。しかし,選手本人が惚れ込んでいるのは演技には確実にプラスになるので,高い完成度ならばSPでトップに立てるスコアが出ることも期待できる。

 日本からもう一人,本郷理華 選手が出場する。本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の一人で,五輪に出場してほしいと思うのだが,昨季の不調と周囲の成長で一転して厳しい立場に置かれている。だが,本来はジャンプが安定していて好不調の波が小さい選手なので,今季再び覚醒すれば十分にチャンスが出てくる。日本選手には少ない,スケール感のある演技ができる選手なので,今大会でベストな演技を魅せてくれることを期待したい。

 他国の優勝候補筆頭は,ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)。昨季,華麗なる復活を遂げ,世界選手権で銀メダルを獲り,いい流れで今季を迎える。品の良さとスピード感を併せ持つ演技が持ち味で,自国大会は負けられないと意気込んでくるだろう。ロシア勢の マリア・ソツコワアンナ・ポゴリラヤ の両選手も優勝争いに加わる可能性が高い。ソツコワ 選手は可憐なのにダイナミック,ポゴリラヤ 選手はモデルばりのスタイルと雰囲気をたたえドラマティックな演技が特徴。2人とも自分に合ったプログラムを手に入れたかが鍵。米国2強の カレン・チェンアシュリー・ワグナー の両選手も参戦する。チェン 選手は昨季覚醒したが,今季は米国トップを守る立場でどうなるか。ワグナー 選手は例年グランプリシリーズに強く,有力選手が隙を見せると上位を奪うだろう。

 以上で挙げた7選手は皆,表彰台に上がれる実力があるが,今後の中国大会やフランス大会ほどハイレベルな大会とは言えない。なぜなら,この7選手は好不調の波が大きかったり,シーズンにより好不調の差があったりするからだ。だからこそ,今大会は誰もが優勝を狙える大会であり,その点で考えればシリーズ一番の激戦になる予感がする。

女子の五輪枠取りは本当に絶望的?

 フィギュアスケート世界選手権シングル女子は,戦前の予想どおり,日本にとって重要かつ難しい試合になってきました。


【女子】

 宮原知子,世界選手権欠場 - 日本にとって痛恨のニュースだった。宮原 は,四大陸選手権とアジア大会に2週連続で出場させられるという日本スケート連盟の無謀な日程を全うしようとしたがために,練習過多になりケガにつながったと考えるべきだろう。ケガによって四大陸選手権とアジア大会を回避したことで,世界選手権に間に合うのではないかという周囲の期待は落胆に変わった。五輪の枠取りに非常に大きな影響が出ることは疑いようがなく,結果がどうなろうと,日本スケート連盟には猛省を求めたい

 ニュースなどでよく言われている「五輪の枠取り」について説明しておきたい。世界選手権の各国選手の成績によって,翌年の五輪に各国から何名が出場できるかが決まる,これが五輪の枠取りである。上位2名の順位の合計が13以下なら,その国からは3名が五輪に出場できる。例年は,世界選手権の成績が翌年の世界選手権の枠取りになるのだが,五輪前年だけは,世界選手権が五輪の枠取りも兼ねるのだ。だから,今年の世界選手権は重要度が違うのだ。

 五輪というスポーツ選手の晴れ舞台は,一人でも多くの選手が経験すべきである。正に「参加することに意義がある」のであり,五輪に何名が出場できるかという問題は,五輪での成績よりもはるかに重要な問題だ。もし3名ではなく2名しか出場できなくなるとしたら,日本フィギュアスケート界にとって非常に大きな損失ではないか,と私は強く思う。

 感覚的に言うと,宮原 が出場していれば3名枠取り確率60%だったものが,世界選手権開始前は30%程度という印象だった。SP(Short Program)が終わった今,その確率は15%ほどに私には感じられるし,もっと低いと考える人もいるだろう。でも,本当にそうだろうか? 勝手に悲観的な観測をしていても始まらない。冷静に分析してみよう。

<SP の順位とスコア(あえて整数で四捨五入)>

  1. メドベージェワ (RUS) 79
  2. オズモンド (CAN) 76
  3. デールマン (CAN) 72
  4. ポゴリラヤ (RUS) 72
  5. チェン (USA) 70
  6. ソツコワ (RUS) 70
  7. ワグナー (USA) 69
  8. コストナー (ITA) 66
  9. 樋口新葉 66

 12. 本郷理華 63
 15. 三原舞依 60

 スコアを整数で書くと,それほど点数の差がないことがわかるだろう。樋口 は表彰台はさすがに厳しいが,5位くらいならまだまだ手が届くし,本郷 や 三原 も8位入賞圏内なら可能性はかなりあるのだ。

 樋口 は FS(Free Skating)でベストの演技をすれば,SP との合計で200点に届く。三原 は転倒にもかかわらずほぼ60点なのが不幸中の幸いで,FS がベストなら合計195点までありうる。メドベージェワ と ポゴリラヤ の安定感は別格でこの2人を抜くのは不可能と思うので,それ以外の6人(オズモンド,デールマン,チェン,ソツコワ,ワグナー,コストナー)が事実上のライバルと考えてよい。この6名の今季の出来から考えて,このうち3人が200点を超え,3人が195点を下回る,というのは十分にありうるシナリオだ。つまり,樋口 と 三原 が6位と7位に入る可能性は案外高いということが言える。もし6人のうち200点超えが1人だけならば,樋口 が4位に食い込み,この場合 三原 は9位でよくなる。これは6人のうち1人だけを抜けばよい計算なので,十分に現実味がある。

 このように,女子の SP はさほど点数の差がつかないので,順位だけを見て絶望的と考えるのは早すぎる。もちろん,樋口 と 三原 の2人がベストパフォーマンスで,他の選手の一部がベストでないという条件が必要だが,マスコミが喜びそうな「奇跡の3枠確保」という結果になる可能性はまあまああるとみてよい。上で確率15%と書いたが,これを書いた後では30%キープでいい気がしている。厳しいことに変わりはないが,全く悲観する状況ではなく,人事を尽くして天命を待ちたい。

 本郷 については上で触れなかった。今季の出来から考えればベストでも合計190点程度であり,SP の上位9人から190点を割る人が出るとは思えないので,枠取りへの貢献は難しいだろう。ただ,開き直ってものすごい演技になり,合計195点まで届くようなことがあれば,樋口 と 三原 のどちらかに不運があった場合にカバーできるかもしれない。本郷 は波がある分,時折素晴らしい演技を見せてくれることがあるので,とにかく良い演技をしてほしいと願わずにはいられない。

 実は枠取りがかかっているのは日本だけではない。ロシアは3枠間違いないだろうが,アメリカ,カナダは日本と同じような状況にある。SP が良かったカナダは,FS で大崩れがなければ3枠を獲れるだろう。アメリカは日本よりは良い状況にあるが油断はできない。日本が3枠を獲るようなことがあれば,そのあおりでアメリカが2枠に沈むことも考えられる。日米で3枠目を争うのはなかなか辛い構図だが,これが現実だ。このプレッシャーがどの国にもかかっている以上,何が起こるかは最後までわからない。

本郷理華 選手に注目!グランプリファイナル2014

HongoRika2 12/12(金)からシングル女子がスタートするグランプリファイナル。今最も強い6人が集まる大会で、私は世界選手権よりこっちの方が好きなくらい、見ごたえのある世界大会です。五輪明けの年だと、有力選手が参戦しないなど少しゆったり感が漂うのですが、今年はそんなことはなく、羽生選手の激突事故というドラマ、優勝を狙う町田選手の気合、フェルナンデス選手の母国開催、などの要素からかなり盛り上がっていると感じます。

 その中でも、私の注目は女子の 本郷理華 選手です。ゴールド選手(USA)の負傷により、補欠からの繰り上がり出場となりました。本郷って誰?繰り上がりでしょ?と思っている皆さん! そういう先入観を捨てて 本郷 選手の演技にぜひ注目してほしいです。

 2012年の全日本選手権で初めて観たとき、本郷選手の魅力に私はハマりました。女子といえば今は 村上 選手や 宮原 選手が有名かもしれませんが、この2人よりも恵まれた体格があり、舞台度胸があり、ロシア杯優勝やグランプリファイナル繰り上がり出場といった強運を持ち、そして正に名前が示すように華があるのです。

 まだシニアに上がって最初のシーズンなので、洗練された演技とまではいきませんが、若さ・勢いと、スケール・情感の両面を持ち合わせたところが他の日本女子選手にない魅力です。フリースケーティングでは有名な「カルメン」を演じますので、音楽も耳なじみがあって観やすいと思います。ロシア勢にひけをとらない、本郷選手ならではの演技を堪能しましょう。

 あと、これは演技とは関係ないのですが、本郷選手のインタビューが妙に歯切れがいいと感じると思います。なぜかというと、答えるときに多くの人が使ってしまう「そうですねぇ」をめったに言わないのです。インタビュアが「どうでしたか?」と問いかけると、すぐに「今日は・・・」というふうに答えてくれます。これ、なんだかとても心地いいのです。ぜひインタビューにも注目してください。
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