本記事は,私がスポナビブログ(2018年1月末閉鎖)に出稿した記事と同じ内容です
例年だと,カナダを練習拠点にしている 羽生結弦 選手の初戦として盛り上がるが,今年 羽生 選手は本大会不参加。では平穏な大会なのか…といえばさにあらず。日本の主力選手参戦や,参加選手の豪華さで,盛り上がること間違いなしの大会になりそうだ。
◆男子シングル
宇野昌磨 選手が初戦を迎える。前哨戦で自己ベスト更新というロケットスタートを見せており,今大会は結果よりも内容重視で臨むだろう。前哨戦では 4S(4回転サルコウジャンプ)を新たに加え,4回転は F,Lo,S,T(フリップ,ループ,サルコウ,トウループ)の4種類となった。この構成を固めるのか,それとも練習中という 4Lz(4回転ルッツジャンプ)を試すのか,今大会はトライする余裕がある状況なので,どうするのか気になるところだ。
FS(Free Skating,フリースケーティング)は得意のフリップジャンプを前面に押し出した構成になっている。4F(4回転フリップジャンプ)を演技後半に飛ぶのは 宇野 選手の自信の表れだ。また,3連続ジャンプでよく使われるのは +1Lo+3S という,第3ジャンプがサルコウジャンプになるものだが,宇野 選手は第3ジャンプにフリップジャンプを持ってきて +1Lo+3F という構成にしている。これも有力選手では 宇野 選手しか入れていない稀有な連続ジャンプで,しかも演技後半に入れているのだ。さらに 4T(4回転トウループジャンプ)2本も後半に入るので,後半は4回転3本に3連続ジャンプもあるハイレベルな構成だ。本大会では,ジャンプが全部入るか,演技全体の完成度がどこまで高まるかに注目したい。
無良崇人 選手は,普通に実力を出せれば間違いなく日本男子代表の3枠目に入れるはずだが,ここぞという場面での勝負弱さと,田中刑事 選手の成長によって,全く安泰とは言えない状況にある。アイスダンスのソチ五輪金メダリスト ホワイト 選手(米)の指導を受け,スケーティングや表現力が格段に上がった今,ジャンプの精度が上がれば代表入りはもちろん,五輪での入賞(8位以内)も可能な力がある。五輪シーズンのグランプリシリーズ2戦は,全日本選手権前の試合勘を作るという意味で重要であり,今大会でぜひ完成度の高い演技を魅せてほしい。高さのあるダイナミックな 3A(トリプルアクセルジャンプ)は必見だ。
宇野 選手と優勝を争うのは,自国参加の パトリック・チャン 選手(カナダ)。例年このカナダ大会は強いので,今回も強さと美しさを兼ね備えた見事なスケーティングを魅せてくれるだろう。ただし チャン 選手のミスが多かった場合,ジェイソン・ブラウン 選手(米)が割って入ってくる可能性がある。ブラウン 選手は4回転ジャンプの習得が遅れたが,完成度の高さで十分に勝負できるので,シーズン序盤にどこまで仕上がっているか楽しみにしたい。
◆女子シングル
本田真凛 選手がいよいよシニアのグランプリシリーズデビューを迎える。マスコミが盛り上げてくれるので私は静かに見守りたいが,実力的には表彰台に上れたら上出来といったところであり,結果が伴わなくてもガッカリしてはいけない。本田 選手は連闘(2週連続出場)だが,次の中国大会は大激戦必至なので,グランプリファイナル出場を狙うには,今大会で優勝か2位を獲っておきたい。本田 選手が自己ベストで210点超えの演技ができれば,不可能なミッションではない。本当に優勝するようなことになれば,一気に国内は盛り上がるだろう。
注目点は,急遽変更したSP(Short Program,ショートプログラム)だろう。先日のジャパンオープンのエキシビションで披露されたが,競技会では初めての演技となるからだ。本人が音楽を絶賛し,曲目をしばらく明かさないなど,話題作りにはなったが,プログラムを観た個人的な感想は,ハードルを上げられた分だけ期待値相応という印象になってしまった。しかし,選手本人が惚れ込んでいるのは演技には確実にプラスになるので,高い完成度ならばSPでトップに立てるスコアが出ることも期待できる。
日本からもう一人,本郷理華 選手が出場する。本郷 選手はソチ五輪後の4年間を支えた選手の一人で,五輪に出場してほしいと思うのだが,昨季の不調と周囲の成長で一転して厳しい立場に置かれている。だが,本来はジャンプが安定していて好不調の波が小さい選手なので,今季再び覚醒すれば十分にチャンスが出てくる。日本選手には少ない,スケール感のある演技ができる選手なので,今大会でベストな演技を魅せてくれることを期待したい。
他国の優勝候補筆頭は,ケイトリン・オズモンド 選手(カナダ)。昨季,華麗なる復活を遂げ,世界選手権で銀メダルを獲り,いい流れで今季を迎える。品の良さとスピード感を併せ持つ演技が持ち味で,自国大会は負けられないと意気込んでくるだろう。ロシア勢の マリア・ソツコワ と アンナ・ポゴリラヤ の両選手も優勝争いに加わる可能性が高い。ソツコワ 選手は可憐なのにダイナミック,ポゴリラヤ 選手はモデルばりのスタイルと雰囲気をたたえドラマティックな演技が特徴。2人とも自分に合ったプログラムを手に入れたかが鍵。米国2強の カレン・チェン と アシュリー・ワグナー の両選手も参戦する。チェン 選手は昨季覚醒したが,今季は米国トップを守る立場でどうなるか。ワグナー 選手は例年グランプリシリーズに強く,有力選手が隙を見せると上位を奪うだろう。
以上で挙げた7選手は皆,表彰台に上がれる実力があるが,今後の中国大会やフランス大会ほどハイレベルな大会とは言えない。なぜなら,この7選手は好不調の波が大きかったり,シーズンにより好不調の差があったりするからだ。だからこそ,今大会は誰もが優勝を狙える大会であり,その点で考えればシリーズ一番の激戦になる予感がする。